流星の軌跡   作:Fiery

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GGOがながーい


そのさんじゅうさん:総力戦

 

 

 

「これはひどい」

 

 思わず、と言った感じで引き攣った笑みで呟いたのはアスナだった。先行したリョウゲツとウタの二人が参加チームの一つと交戦に入るという事で急いで向かってみれば、もう終わっていたのだからその呟きは当然の事であるし、敵チームの全員がヘッドショット一発ずつで倒されているのを見れば、頬が引き攣るのも当然であった。

 

「知ってた」

「だと思いました」

「義妹達が驚いてくれないから張り合いが無いわね」

 

 義妹二人は呆れと納得を乗せた声音で話し、ウタは苦笑する。

 

「えぇー……六人倒すのに五発しか撃って無いんだけど……」

「一発目が二人抜きだよ。生で見た俺もちょっと信じられない光景だったわ」

 

 ウタが行ったのは千五百m級の狙撃であり、『MMTM』のメンバーが動揺している内に恐るべき早業で全て終わらせてしまった。真っ向からであればこの結果にはならなかったであろうが、相手チームがインディの方に向かっていた事。その為に先行していた二人が背後を付ける状況になった事。そして最初の弾丸の犠牲者にリーダーが含まれていた事が重なって、ここまで恐ろしい結果となってしまった。

 

「スナイパーって怖い」

「お義姉ちゃんがとびっきりなだけだよ」

「スナイパーの人は他にも居ますけど、正直義姉さんを見た後だと怖くないんですよね……こう、何となくわかるようになったというか」

「ウタたん?」

「私そこまで怖いと思われる事してないわよ? ねぇリョウゲツ」

「ウタが他のスナイパーと一味も二味も違うって事には全面的に同意するわ」

「ちょっとー?」

 

 ウタにジト目で見られてリョウゲツは視線を逸らした。二人は普段、バカップルとも称されるほど仲睦まじいが、稀に意見を違える場合もある。その時にデュエルを意見統一の手段とする事があるが、その戦績はリョウゲツが全敗と言うある種の予定調和。しかし、そのデュエルの全て、彼は全力であり本気だった。確かに互いがそれぞれ得意なフィールドからスタートしているという事もあるが、それでもリョウゲツがウタに勝ったためしがない。ALOでの戦績は五分であるが、GGOでは十分な距離が取られた場合勝てないのだ。

 

「でもお兄ちゃん、その距離でのデュエルしかしないよね」

「その条件変えて勝ったとしても、それは勝ちなのだろうか?」

「キリト君と日刊デュエルしてた時と同じ事言ってる……」

「まぁとりあえず今はそれ置いといて、次はアタシ達がやる番だよね?」

 

 早く撃ちたくてうずうずしているのか、ストレアの目が据わってきた。彼女も美少女と言える容姿だが、GGOに染まってきたせいか綺麗や可愛いよりも『おっかない』という印象を真っ先に与えてしまう。リョウゲツがそんな彼女を見て『染まってしまったな……』と感慨深く思っていたら、アスナが(見せられないよ!)な表情をして彼を見たので、真面目にゲームをする事にする。

 

「説教」

「後でな!? ホントにちゃんと後で聞くから今は止めて!」

「あー、教育方針の話し合いの前にちょっといいかしら?」

「義姉さんも見ました?」

「……インディも見たのね」

 

 二人がライフルの望遠スコープを覗きながら会話をする。その声音にリョウゲツとアスナはコントを止めて、コットンとストレアも一緒に耳を傾けた。

 

「敵影が一つ。物凄い速度でこっちに向かってます」

()()()()リョウゲツ」

「マジで? あいつ単騎で来たのか!?」

 

 リョウゲツが驚愕するのも無理はない。《スクワッド・ジャム》がチーム戦である以上、チーム単位……少なくとも二人だけのペアではなく三人以上で組んでいるのだから、そうして纏まってくるものだと思っていた。集団戦最強のジョーカーであるベヒモスと言うプレイヤーが居た事で、彼らもチームとして動くのだと思っていた。

 

「インディ! ストレア以外を纏めて、周囲警戒! ストレア!」

マスターが落ちた場合は『アレ』ぶっ放して良いんだね!?

その通りだけどめっちゃ嬉しそうに笑うなぁお前!?

 

 喜色満面、と言う言葉が相応しい笑顔を見せるストレアにツッコミを入れた後、《M4カービン》を携えて走り出す。

 

「――…見つけたぞリョウゲツ」

「望み通り、白黒つけようか闇風ェッ!」

 

 挨拶代わりに互いに向けあった銃口が火を噴く。高速で進路を変え、二人は横に動きながらも引鉄を引く。相手を狙うのは勿論、外した銃撃も布石にしながら目の前のプレイヤーを倒す為に思考を回す。

 闇風の方が単純な速力は高く、リョウゲツの方が動作の敏捷性は高い。出来る事の引き出しの数で言えばリョウゲツが圧倒的だが、特化型故にその形にハマれば闇風に軍配が上がるだろう。

 

(やる事は変わらん。俺は《ランガンの鬼》だからな)

(近づけさせない――…って言うのは違うよなぁ)

 

 お互いに、中々戦う機会は巡ってこなかった。第一回《BoB》ではリョウゲツが闇風に共闘を申し出て、第三回は闇風がリョウゲツに頼み事をした。普段のプレイでも中々戦おうという空気にならず、第四回《BoB》の告知は特に無く……そんな時にこの大会だ。

 

 闇風はこれだと思った。面子については、本戦出場者の繋がりで呼びかけてみれば意外と集まった。第一回《BoB》からの縁のイクスは笑って了承してくれ、なまじ《BoB》で名前が売れたせいもあって出辛かった……といったのはダインだ。ペイルライダーも似たような感じであり、ベヒモスはミニガンのせいで逆にハブられていたらしい。強すぎるというのも考え物かと、彼らは笑った。

 

 全員GGOと言うゲームを愛し、同じようなプレイヤーと集まって馬鹿をやりたいというプレイヤーである。実力差がありすぎてゲームにならないかもしれないという考えは、闇風が戦いたかった男がいるスコードロンがエントリーした事によって払拭された。ハーレムスコードロンとしては有名ではあるが、揃いも揃って実力者ばかりのスコードロンでもある。そして、彼らはゲームを楽しむ事に躊躇いが無い。

 

「真っ向勝負だ!」

 

 リョウゲツが素早く《M4カービン》をストレージに仕舞い、《カゲミツ》を右手、《カスタムイーグル》を左手に持つ。その姿を見て、闇風は口の端を吊り上げる。

 

「そう来なくてはな!」

 

 彼の相棒の《M900A》がフルオートで火を噴き、弾丸がばら撒かれる。リョウゲツは前傾姿勢を取り、闇風から見た自身の体面積を減らしつつ、互いが距離を詰めた。フルオート相手でも何とか間に合う程度に鋭さを増した剣閃が弾丸を斬り払い、間隙を縫っての早撃ちを繰り出す。ただ、体勢が十分ではないため、いつもよりは速いがリョウゲツの知るそれより遅い銃撃。

 動作の起こりが見えていた闇風としてもそれに当たる理由は無く、その速力で移動。相手の横に回りながら更に撃つ。リョウゲツは最小限の動きで回避を行いながら、闇風の進行方向であろう方角を見ないまま、グレネードを振り向きざまに蹴り飛ばし、銃撃で牽制。自身に害の及ばないであろうギリギリの間合いで撃ち抜いて爆発させた。

 

「……やるな」

「爆風から走って逃げた奴を俺、初めて見たんだが……」

「いや、せっかくのコートが焼けてしまった。俺もまだまだ遅い」

「それ以上速くなるとか絶対人間辞めてるからな?」

 

 軽い会話の小休止の中で、遠くから銃撃戦の音が聞こえた。リョウゲツがそちらに少しだけ意識を傾けると、闇風が口を開く。

 

「イクスたちが始めたようだな」

「あの方向はウタ達が居た所……お前ら、そう言う目的か」

「俺達だって祭りを楽しむくらいはする。ただ、祭りで遊ぶ相手は選ぶがな」

「うちの面子の内の二人、こっち来て一週間なのに手加減知らなすぎんだろ」

「それは悪い事をした」

 

 互いが銃のマガジンを交換する。闇風が空になったマガジンを天高く放り投げ……大地に乾いた音を立てて落ちた瞬間、第二ラウンドが開始された。

 

 

 

 

 

 

 それは、飛来した一発のグレネード弾から始まった。

 

「――…結構なご挨拶じゃない? イクス!」

 

 そのグレネード弾を《デザートイーグル》で迎撃。爆風にそのマフラーをはためかせながら、ウタは放たれた方角を見た。下手人はわかりきっている。闇風と言う男は律儀な男であり、チーム戦であるなら早々に単独行動を取るような男ではない。では何故単騎駆けで来たのか……チームメンバーが全員移動できる算段がついたからに決まっている。

 

「やっぱり貴女には簡単な挨拶だったかしら? ウタ!」

 

 ウタ達の視線の先には、荷台の付いた大型のトラック。荷台は囲われてはおらず、イクスが居るのは運転席部分の屋根の上。運転しているのはダインで、助手席にはペイルライダー。そして、荷台の上にはミニガンを既に構えているベヒモスが居た。

 

「退避ッ!」

「いくぜぇっ!!」

 

 インディの叫びと、ベヒモスの咆哮は同時。無数の《バレットライン》が彼女達五人の方へと殺到する瞬間、それぞれが近くの岩陰に飛び込んでその初撃を回避する。

 

「全員常時通話に変更! 義姉さん、コットン、ストレアさん、アスナさんの順で報告!」

『私はダメージ無し。今の位置はトラック正面の岩陰』

『ボクもダメージ無し。荷台が良く見える所に居るよー』

『飛び込んだ時頭打っちゃった……アスナと一緒に多分インディから見える位置の岩陰だよ』

『わたしはダメージ無し。位置はストレアさんが説明した通り』

 

 インディが岩に背を預けたまま視線を前に向ければ、確かにアスナとストレアが見えた。そして岩陰から相手のトラックがある方を見て、ウタの位置を確認。コットンは彼女の位置から見えないのだろう。

 トラックのドアが開く音が聞こえ、降りた足音が一つ。

 

「ストレアさん、盾の準備を。それを遮蔽にして、トラックに向かって……正確にはベヒモスさんに向かって撃ちまくってください」

『グレネードが怖いけど……』

『ならそれは私が担当ね。イクスのグレネードは正確だから狙いやすいわ』

「アスナさんはストレアさんのカバーを。コットンは決めた通りにペイルライダーさんを」

『まっかせて!』

『わかった。となるとインディちゃんは……』

「指示を出しながら、ダインさんの相手ですね――…じゃ、グレネード撃ちますから、爆発したら行動開始で」

 

 インディのインカムにそれぞれからの『へっ?』という声が聞こえるがそれは無視して、岩陰に隠れながらも既にトラックの位置と距離が頭に入っている彼女は、自分の頭の中に入った地図と照合し『お祈り』をした後、その方に向かってグレネード弾を発射した。

 

「ベヒモス!」

「ちぃっ!」

 

 イクスの叫び声に反応して、ベヒモスは飛来するグレネード弾を視認。ミニガンを構えて迎撃を開始する。飛来するグレネード弾を狙い撃つという芸当は、かなり困難な物である。散弾銃ならばクレー射撃の様に当てられるかもしれないが、物によっては散弾銃の射程距離で爆発したら巻き込まれる物もある。故に数を撃てる重機関砲での迎撃は選択として当然の帰結になる。そして、ミニガンの弾がグレネード弾頭を撃ち抜いて空に爆炎が咲いた。

 

「来るぞ!」

 

 叫ぶダインの視線の先、岩陰から飛び出した薄紫色の髪の少女がバックパックから折りたたみ式の金属板を取り出して広げている。見覚えのある光沢は、レア素材の宇宙船の装甲板――…GGOで最も硬い金属と言われる物だ。ウタの持つ《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》が最強の矛ならば、その金属板はさながら最強の盾。そして、金属板にある細いスリットから銃口が覗けば、次の瞬間にはけたたましいほどの銃声が鳴り響く。

 

ヒャッハーッ!!

「そっちも重機関砲だとぉっ!?」

 

 無数に伸びた《バレットライン》を見て、ダインは慌てて運転席から脱出し、イクスも屋根から飛び降りる。ベヒモスが荷台の横側の縁に乗り、トラックを横転させて即席のバリケードを作り上げた後、ミニガンと《ブローニングM1919》という重機関砲同士の激しい撃ち合いが始まった。

 最大の脅威であるミニガンを釘付けにした事を確認すれば、残った全員が動き始める。イクスが遮蔽である金属板を超えようとグレネード弾を撃てば、ウタのイーグルが迎撃する。ペイルライダーが接近しようとすれば、コットンが片手で《H&K MP7》の弾丸をばらまきながら、もう片手で《カゲミツ》を持って近接。インディは《M4カービン》の射撃でダインを牽制しつつ、全体を見渡せる位置に移動する。

 

「こりゃホント、アンタらの言った通りじゃねぇか」

「祭りは派手に。踊るパートナーとして不足はないでしょ?」

「こっちの役者が不足してる可能性が出てきたぜ?」

 

 トラックに隠れてテンガロンハットを被り直したダインに、イクスが笑いかけた。重機関砲同士の撃ち合いに、飛ぶグレネード弾を容易く撃ち落とすスナイパー。ダイン自身が敗れたペイルライダーの三次元機動に対応できるアタッカーに、自分を牽制しつつも的確な指示を出しているであろうコマンダー。彼女らの事はリョウゲツ経由で知っていたが、ここまでの腕だという事を彼は知らなかった。

 

 強い、と純粋に称賛する。並程度ならイクスとベヒモスで半壊くらいには追い込まれているし、事実移動中に襲い掛かってきたチームの大半はミニガンの餌食になっており、イクスの大型ライフルを使った狙撃で撃ち漏らしを片付けて終わりだった。それが全員生き残って、こうして反撃までしてのけるのだ。自分達が即席チームで、相手が長い事組んでいたスコードロンである事を差し引いても、その強さに疑いはない。

 

「楽しくなってきやがった」

「ならさっさと踊ってきなさい。女性はエスコートするものよ?」

「おっかねぇエスコートもあったもんだ」

 

 ダインが肩を竦めて、銃撃の間隙を伺う。その口元には、確かに笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

「すっげぇ……」

 

 ALOにある《森の家》で、キリトは思わず呟いた。視線の先には現在GGOで開催中の《スクワッド・ジャム》の中継映像が映し出されている。彼の肩にはユイが座り、隣のソファにはリーファとシリカとリズベット、キリトの対面の椅子にクラインが座って、その中継を見守っていた。

 

「ALOの魔法戦も派手だけど、こっちの銃撃戦も凄いわね」

「特にあのおっきい銃……銃って言うより兵器ですけど、あれってアリなんですか?」

「あれは《M134》、通称ミニガンと言われる重機関砲ですね。毎分二千発から四千発くらい弾丸を発射するものですね。一応銃と言う括りなのでOKみたいです」

「すっごいねぇ……あの弾幕の中撃ち返してる方も凄いというか」

「キリの字、あれ斬り払えるか?」

「一発斬り払う間にミンチになるわ!」

「だろうな」

 

 どうしても目を引くのは、派手な撃ち合いを行っている所だ。中継ではプレイヤーネームが表示され、《ベヒモス》というミニガンを撃っているプレイヤーと相対しているのは、六人が良く知っている名前。

 

「ス、ストレアぁっ!?」

「え、という事はオーリ君達の所と戦ってるの!?」

「にしては、オーリの奴が映って……ってあいつだけタイマンやってやがる!」

 

 クラインが指さしたウィンドウを拡大すれば、そこには見知った蒼い髪が赤いモヒカンにゴーグルをつけた《闇風》というプレイヤーと戦っている光景。互いに高速で動きながら銃撃を行い、オーリことリョウゲツが弾丸を斬り払えば、闇風はその速さだけで躱しきる。止まらずに常に動き続け、マズルフラッシュが至る所で咲き誇る。

 

「闇風って……第三回《BoB》の優勝者だったか」

「そんな相手とやり合ってんの? あの馬鹿は……」

「しかもこの闇風って人、オーリ君より速いんだけど」

「そりゃ、GGOにはステータスがあるんだから流石のオーリでもステータスで下なら負けるぞ……」

「と、と言うかストレアが凄い笑顔になってますよパパ!?」

 

 ユイの恐れ慄いた声にキリトがそちらのウィンドウを見れば、目を見開きながらも口の端が吊り上がっているストレアの映像が映っていた。それを見た全員が、銃撃の音で声は拾えていないが、多分『ヒャッハー』と言っているんだろうな、と思いを一致させる。

 

「い、妹が……ストレアがグレちゃいました……」

「お、落ち着けユイ。オーリとちゃんと話し合うから、気を落とすな」

 

 あまりの光景に落ち込むユイを慰めようとするキリトだが、その言葉はあまり慰めにはなっていない。

 

「……ALOで両手剣を振り回してる時も、意外とヒャッハー系だったよね」

「あそこまでイイ笑顔じゃなかっただろ……」

「まぁでも、片鱗は見えてたわよね」

「イキイキしてるんですよねぇ……」

 

 重機関砲同士の撃ち合いから映像が切り替われば、今度は紺色のショートヘアの女性プレイヤー……インディことランが地面に伏せて何かを叫びながら、手に持ったライフルでテンガロンハットの男性プレイヤーと撃ち合っている光景が映る。互いに相手を牽制しては身を隠して移動し、少しでも有利なポジショニングを探っている。その合間にインディは戦況を把握して指示を出したりと忙しない。

 

「……地味、ですよね」

「アスナさんなら戦術的な物に気付いたんだろうけど、あたし達わかんないしね」

「しかし、ランが意味の無い事をするとは思えないし、すげぇ読み合いが……あ、岩陰に背を預けたままグレネード撃った」

「……相手のテンガロンハットがいる所にドンピシャで着弾して爆殺したんだが」

「あたし、ランちゃんと戦略ゲーム的なの絶対やりたくないです……」

「勝てるビジョンが浮かばないわねそれ」

 

 普段の頼もしすぎる後衛魔法使いの違う一面を見て、敵に回すのは絶対にやめようと誓う。爆殺までの流れが彼女の思い通りだとしたら、あまりにも恐ろしすぎる。

 

「あ、今度はシノンさんですよ」

「ん? オーリの話だとスナイパーって言ってたんだが……」

「ライフル持ってないね。代わりにハンドガンだよ」

 

 次に映ったのは、駆けながら《デザートイーグル》を撃つウタことシノンの姿だった。彼女が撃つ度に空中に爆炎が咲く。理由は彼女が相手をしているプレイヤーである《銃士Χ》の放つグレネード弾。放物線を描く弾道で、遮蔽物を超えてストレアを撃破しようという目論見が、ウタの正確無比な射撃によって砕かれている。

 

「知ってた」

 

 その機械並みに正確な射撃にトラウマを呼び起こされたキリトが震えだす。それはリーファも同様で、二人の共通点としてはALOでシノンに挑んで返り討ちにあった事だ。見事な弓矢系ソードスキルによるヘッドショットで仕留められている二人は一時期、逃げても逃げても追ってくる矢の夢を見たという。その事をオーリに話せば『俺が一番撃たれてると思うがそんな夢見た事ないわ』と返されてぐうの音も出なかった。

 

「……あれって簡単なの?」

「クレー射撃でも当てられない人って当てられないって聞きますけど」

「詳しい奴は皆大会中だしなぁ……」

「バレットサークルと言うシステムアシストを使えば不可能ではない、との事ですけど、映像を見る限りシノンさんはそのアシスト使ってないんですよね……」

「ガチの力量の方が怖いわ!? どこの伝説のスナイパーだよ!」

 

 クラインの言葉にリズとシリカが頷いた。彼女の射撃の腕が凄いのは知っていたが、素の腕だけでそこまでだとは思っていなかったのだ。そんな映像の中ではイクスがグレネードを諦めて大型ライフルを取り出している所に切り替わる。

 

「まぁあんなヤバい腕のプレイヤーが居るなら排除に動くでしょうけど……」

 

 その次の瞬間、彼女の背後からアスナが全速力で迫り、その手に持った光剣による突き技……中段突きを三度繰り出した後に足元への左右の斬り払い、斜め上へと切り上げながら上空へと跳んでからの二連突き。知っている人間が見ればそれが細剣系ソードスキルの《スター・スプラッシュ》である事が分かったであろう攻撃によって、イクスはそのHPを全損させた。

 

「シノンが釘付けにしといて、アスナが後ろからかぁ……」

「ママがやりましたよ! パパ!」

「GGOにソードスキル無いのにすっげぇ再現度だなぁ」

「えーっと、オーリ君、シノンちゃん、ランちゃんにユウキちゃん、ストレアちゃんが一人ずつ抑えてたから……あぁ、アスナさんは自分がどう動くべきか見てたんだ」

「あんな隠密スキルをいつの間に鍛えてたのかしら」

「やっぱりオーリさんですかね?」

「何でもかんでもあいつのせいにするのは癪だけど、理由としては一番可能性が高いのよね」

 

 本人が居れば『解せぬ』と言ったであろう、リズとシリカの推測は大体合っている。と言ってもGGOで教えた物ではなく、SAO時代からの指導なり実戦の賜物ではあり、そのプレイヤースキルにまで昇華した隠密でアスナは見事に歴戦のGGOプレイヤーの背後を取って見せたのだ。

 そして、アスナはそのままの勢いでベヒモスへと強襲を掛けるが、彼が自分へとそのミニガンを構えたのを見て、岩陰へと飛び退く。元より荒野で岩陰が多いフィールド――…撃ち続ければ大体の遮蔽物を粉砕できるだろうミニガンと言えど、全てを粉砕していたら幾ら弾があっても足りない。どうする、と焦れるベヒモスの頭へと、一本の赤いラインが伸びる。

 

 狙えるはずがない。とベヒモスは驚愕と共にラインが伸びてきた方向を見る。そこには自分と相手との銃撃戦で見るも無残な姿になったトラックがある。穴だらけではあるが原形を保ち、そしてその穴の大きさも精々丁度ライフル弾が一発通るかどうかの穴しか開いていない。グレネード弾を空中で簡単に迎撃できるほどの腕を持ったプレイヤーでも、こんなピンホールショットを土壇場で成功させるなど――

 

「あ」

 

 それは、誰かが上げた声だった。中継だからこそ見えたそれがどういう結果を齎すか、わかってしまった。ベヒモスがそれに気づいたのは、光を感じた瞬間――…自身をプラズマの光が焼く瞬間だった。

 

「満面の笑みでストレアがガッツポーズしてる」

「まぁ、ストレアは弾道計算とかお手の物でしょうしね……」

 

 ベヒモスを焼いたのは、ストレアが放った『LS』の虎の子の一つであるグレネード用の『プラズマ弾頭』だ。威力は見ての通り、重量級の相手だろうとほぼ一撃で仕留められるものだが取り扱いが難しく、また持っているのを悟られればそこを狙い撃たれ、誘爆で自滅の可能性もある代物。それを使ってストレアは見事に巨獣を狩って見せた。

 

 その前に伸びていたラインはウタの《ヘカートⅡ》からの物であり、そのプラズマ弾頭が外れた時の次善の策だ。流石にミニガンを扱う為にSTRやVITを上げているベヒモスであろうと、対物ライフルで頭を撃たれれば致命傷レベルだ。運よく耐えたとしても、ウタのマガジンには後一発残っているのでもう一度撃たれれば詰みになる可能性が非常に高い。

 

「崩れる時はあっと言う間か……銃撃戦こえーなぁおい」

「同じ人数だとまた変わってたかな?」

「もう一人《BoB》本戦出場者クラスが居ると違ったかもしれませんね」

「アスナに対応できる近接の心得もあるGGOプレイヤーか……」

「GGOに近接の心得云々を求めるのは間違ってないか……?」

「パパがそれを言いますか?」

 

 娘の指摘にキリトが崩れ落ちる。銃の世界に近接一本で乗り込んだやべー奴に発言権はなかった。

 

「残りはオーリさんとユウキちゃんですね!」

「ユウキちゃんは、と……あ、二刀流だ」

「マジか」

 

 ペイルライダー戦は佳境に入っていたようで、サブマシンガンを投げ捨てたコットンことユウキが《カゲミツ》の二刀流で、ペイルライダーの三次元機動に食らいついている。そもそも三次元機動と言うのは彼女の兄も得意としている物であり、ALOでは飛行システムもある為に、ユウキの場合は慣れがあった。そしてペイルライダーの使う銃は《アーマライトAR17》というショットガンで、射程距離が短く近距離で威力を発揮するものだ。しかしその距離よりも内側に入り込まれた場合、どうなるか。

 

「まぁ銃の間合いを外して、剣の間合いに入り込んだ時点で、ユウキの勝ちだろうな」

 

 合計十六の剣閃がペイルライダーへと襲い掛かり、跳び退こうとした彼の足元を銃撃が襲って動きが止まる。それはランの《M24》による予測狙撃がドンピシャだったという事。ペイルライダーは避けられない事を悟ってグレネードを取り出すために手を伸ばすが、ユウキがそれを見逃すはずがない。最初の二閃で両腕を斬り飛ばし、残り十四の剣閃が流れるように叩き込まれてHPの全てを奪い去った。

 

「鮮やか」

「しかも今使ったの、去年教えた《スターバースト・ストリーム》じゃないか」

「GGOで見るとは思わなかったぜ。キリの字も危ねぇかもな」

「ユウキの剣のポテンシャルは俺やオーリ以上だからな……いつかは普通に負けるかもなぁ」

 

 呑気に言うキリトに、女性陣は苦笑する。キリトは別に最強を目指しているわけでも、強さを求めているわけでもない。SAOでは生き残る事に必死で磨いていたが、生還してからはそこまで頓着しているわけでもなく、ただ『こいつだけには負けたくない』と思える相手が居るだけだ。その相手が最近何かに開眼したせいで負けが込んでいるが、このGGOの映像を()()()()()()()()()()()()()ので、次は勝つと静かに闘志を燃やしている。

 

「シノン達は一旦下がるのか……」

「そりゃー派手にやってたから、仕切り直しの意味も込めて休むでしょ」

「HPもそうだけど、GGOなら弾数がMPみたいなものだからそれの確認もあるよね」

「ですね。皆さん派手に撃ったりしてましたし。アスナさんは温存してたみたいですけど」

「銃で援護するよりも確実だと思ったんじゃねぇか? 教えてもらったとは言え、流石のアスナでもGGOのトッププレイヤー相手に銃の腕で張り合うのは無理だろ」

「ママは剣士だから、あれでいいんです!」

 

 相手のチーム四人を誰一人欠ける事なく撃破した彼女達を最後に、その映像は違うチームの銃撃戦へと切り替わる。そして、戦闘を始めてから十分ほど経過していたリョウゲツ対闇風の戦いは、佳境へと差し掛かろうとしていた。

 

 

 

 




ウタ(シノン):素の技量で飛んでるグレネードを撃墜をするJK
インディ(ラン):《BoB》本戦出場者相手でも詰将棋みたいに追い込んで爆殺するJC
コットン(ユウキ):《BoB》本戦出場者相手でもクロスレンジで斬殺するJC
ストレア:お主こそ真のトリガーハッピーよ! な活動期間一年程度のAI
アスナ:銃の世界なのに最初のプレイヤーキルが旦那と同じ光剣な人妻(予定)JK

オリ主「改めて書き出すと要素が濃いな!?」
キリト「お前は絶対人の事言えないからな?」
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