流星の軌跡   作:Fiery

52 / 112
ランとユウキ
『初めての喧嘩』

キリトとオリ主
『何度目が忘れた限界突破の全力バトル』

同じ大会なのにこの温度差よ。


そのさんじゅうきゅう:こいつらだけ別のゲームしてない?

 

 

 央都にあるオーリとシノンの拠点では、出場しなかったシノン、リズベット、シリカと、《スリーピング・ナイツ》のメンバーであるメリダとシウネーが、映し出されているトーナメントの光景を見ていた。

 

「今見てるのはゲームよね? バトルアニメとかじゃなくて」

「リズさん、現実を見てください。映ってるのはキリトさんとオーリさんです」

 

 映し出された光景で見える範囲のフィールドは抉れ、裂け、吹き飛んでいる。あまりにも現実……いや、VRMMORPG離れした激闘に、耐性の低いメリダやシウネーは当然の事ながら、二人揃った時の『やらかし』を散々間近で見てきたリズとシリカもドン引きしていた。

 

「ミックスアップって言っても限度があるわよね」

 

 流石のシノンも苦言を呈する程、今の二人の戦いは頭がおかしい。何をどうしたら武器がぶつかり合った衝撃でクレーターが出来るというのだ。ソードスキルを使っていると言っても、普通はそんな事は起こり得ない。剣のソードスキルなら、直撃させれば大木を切り倒す事は出来るだろう。重量級の武器を使った物であれば、大地を抉る事も可能かもしれない。でもこれは流石に無理だろう、という光景が目の前のウィンドウに映し出されている。

 

「あたし、SAOにダイブしなくてよかったって今、心の底から思ってる」

「お二方のようなプレイヤーが群雄割拠していた魔境、ですからね」

「いやいやいやいや、あの二人がオカシイだけよ!? あたしやシリカはあんな事絶対無理だから!」

「そうですよ! SAOにも普通のプレイヤーはいっぱいいましたから!」

 

 必死で弁明するSAO組に疑いの眼差しを向ける二人。《スリーピング・ナイツ》の面々も、ランとユウキ経由でオーリらがSAO帰還者である事は知っている。その中でもオーリ、キリト、アスナがSAOクリアの英雄である事も知っている。だからこそ、その内の二人が繰り広げる光景を見て、『これくらいじゃないとSAOはクリアできなかったんだ』と言う勘違いが発動しているのだ。それを茅場が知れば真顔で『訴訟も辞さない』と言ったかもしれない。

 

「でも、リズもシリカも実力で言うならALOでも上位じゃない。説得力ないわよ?」

「ランキングに加えてはいけないプレイヤーと比べるのはNGでしょ……」

 

 シノンの言葉に力なくリズは否定を返す。確かに、リズもシリカもALO内で新生アインクラッド攻略に混ざっても問題ない程度の実力はある。PvPでもリズはカウンター戦法、シリカは圧倒的な回避力とピナとのコンビネーションでその実力は証明されており、シノンの言葉は決して間違いではない。しかし彼女達はゲームプレイヤーとして強くても、ドラ〇ン〇ールの世界の住人と比べられるのは心外なのだ。

 

「それを言ってしまうと、その二人を相手に有利を取ってるシノンさんは」

「あ、ユウキがアスナ相手に勝ったみたい」

「露骨に逃げたわね……」

 

 ウィンドウをキリトとオーリの戦闘風景から切り替え、表示するのは彼ら以外の仲間達の試合風景だ。先程シノンが見たのは、ちょうどユウキが《マザーズ・ロザリオ》を繰り出してアスナを撃破した瞬間だった。

 

「さっすがユウキ!」

「こっちではジュンが映ってますね。相手は……」

「ユージーン将軍じゃない。同族同武器種って対戦カードも燃える展開よね」

「でも、将軍は《魔剣グラム》持ってますよ? かなり本気じゃないですか?」

「どうかしら? 何となく胸を貸してるようにも見えるけれど」

 

 次にピックアップしたのは、《スリーピング・ナイツ》のメンバーのジュンの試合だ。相手は火妖精族(サラマンダー)の重鎮であるプレイヤー、ユージーン。ALO屈指の実力者である彼に対して、ジュンは果敢に攻めている。

 

「ユージーン将軍と言えば、八連撃のオリジナルソードスキル(OSS)の《ヴォルカニック・ブレイザー》があるけど、ジュンってOSS作ったりしたのかしら?」

 

 ふと、シノンが疑問を口に出してメリダとシウネーを見るが、二人は首を横に振った。OSSはそう簡単に作れるものではないという事は、シノンも知っている。特に連撃技……ユウキの《マザーズ・ロザリオ》のような十一連撃は当然の事ながら、ユージーンの八連撃も作成はかなりの難易度になる。逆に連撃回数の多いOSSを作れるという事は、それだけの実力者であると証明できる事にもなるのだが。

 

「どうやら、オーリさんが作ったのを頂いたようで……」

「……いやあの馬鹿、何しれっとOSS作ってんのよ。複数登録は出来るらしいけど、え、何なのあいつ」

「私の旦那様よ。まぁ確かに、色んな武器が使えるから、それぞれにOSS作ろうと思えばできない事はない……のかしら?」

「オーリさん、叩けばなんかもっと色々出しそうですよね」

「オリえもんOSS出してって? 出そうで怖いわね」

 

 メリダは戦慄した。戦えばドラ〇ン〇ールで普段はド〇え〇んなのだろうか、と変な事も考えたが、『それだけの事をしでかしても仕方ない』と思われている事に戦慄した。

 

「あ、ジュンが仕掛けました」

 

 シウネーの声に全員がウィンドウを注視する。そこには、意を決した踏み込みと共に、その両手に握った剣に光を湛えて切り込むジュンの姿。そして、それに合わせて自身もソードスキルを起動して踏み込んだユージーンだ。彼が繰り出すのは、自身の代名詞でもある八連撃ソードスキルの《ヴォルカニック・ブレイザー》。既存の両手剣ソードスキルでそれを超える数の攻撃は存在しない。

 しかし、八度煌めいた火花が、ユージーンの想定を裏切った。彼は自身の《ヴォルカニック・ブレイザー》を伝承……他者に使えるように教えてはいない為、ジュンが使った物がそれではない事は理解している。

 

「将軍のとは違う八連撃!?」

「これは、行けますか……?」

「いや、ダメね」

 

 にわかに立ち昇る期待の雰囲気を、シノンが両断する。その言葉の理由はすぐに光景に現れた。どちらも予想外だったソードスキルの相殺から立て直しが早かったのは、歴戦の猛者であるユージーン。大上段から振り下ろされる《魔剣グラム》の一撃に対して、ジュンは咄嗟に受け……防御にも使える両手剣使いとしては通常の反応を示してしまった事で、決着がつく。

 《世界級武器(レジェンダリー)》にはエクストラ効果と言う物があり、彼の《魔剣グラム》のそれは《エセリアルシフト》と言う《防御透過》ともいうべき能力だ。近接戦においては凶悪と言える能力に、質実剛健なユージーン自身の能力が合わさる事で彼は火妖精族(サラマンダー)の頂点に立っていると言って良い。

 

「あっちゃぁ……」

「うーん……頑張ったけどねぇ」

「運が悪かった、と言ってしまえばそれまでだけど……あの決着、将軍は不本意そうね」

「と、言いますと?」

「最後、ジュン君が回避を選んでいたら、結果は逆だったかもしれないって事ですか?」

「それもあるけど、そう言う言い訳の余地をなくすような完全勝利が、初戦では求められてたんじゃないかしら。キリトや旦那、他に実力者として知られてるプレイヤーならまだしも、ジュンは無名と言って良いから」

「そういう予定を狂わせるくらいには、ジュンも強くなってたかぁ」

 

 うんうん、とメリダが頷く。それが意味する所は、ジュンが火妖精族(サラマンダー)の上層部に目を付けられるという事なのだが、その辺りはランやユウキも含めたギルドメンバーで考えてもらう話である。

 

「他はまぁ、クラインとリーファがキリト達と一緒の東……あ、サクヤさんも東で出てる」

「領主様が一体何してるんでしょうね……」

 

 公開されたトーナメント表を眺めながらリズとシリカが話していれば拠点のドアが開けられて、そこから肩を落としたアスナが入って来た。

 

「おつかれー、アスナ。残念だったわね」

「いやー、強くなりすぎだよー。わたしじゃもう、十回に一回も勝てないかもしれないね」

 

 戦った本人の高評価に、シノン達が驚きの声を上げた。

 

「えぇっ!? そこまでですか!?」

「そこまで、というか相性問題かな。ユウキちゃんとわたしは同じスピードアタッカーだから、技量の差が如実に出ちゃうんだよね。戦うならわたしよりリズの方がいい勝負できるかも」

「あー、なるほどね。でも、それならアスナも盾を持つとかやってみる? スモールシールドくらいなら動きも阻害しないでしょ」

「長杖との持ち替え問題もあるから、悩ましいんだよね……」

 

 うーん、と悩むアスナを横目に、試合は一つの組み合わせを除いて進んでいく。

 

「あれ? ランちゃん?」

 

 そんな時に、西ブロックの準決勝進出者の名前を見て、シリカが声を上げた。彼女はランが出るとは聞いていなかったので、多分に驚愕している。

 

「あぁ、ランも結構やるのね」

「え、シノンさん出る事知ってたんですか?」

「知ってたし、GGOやらで訓練してた事も知ってるわ」

「何でまた……」

「それは本人から説明があるでしょ。別に思い詰めてたわけでもないから、私は気にしてないわ」

 

 さて、と気を取り直して、シノン達がユウキとランの試合を注視する。開始の合図がされて少しだけ話し合う光景に、未だ戦っているキリトとオーリを思い出して苦笑し。

 

「「「「「「……えっ」」」」」」

 

 拳を振りかぶって、見事にクロスカウンターを決めた姉妹を見て、拠点の空気が凍り付いたのだった。

 

「うーん……」

「アスナが気絶した!?」

「な、何の躊躇いも無く殴りましたよ二人とも!? シノンさん!?」

「いやちょっとまって、私も予想外過ぎるんだけど」

「え、あの二人が喧嘩? 大会で喧嘩してるの!?」

「こ、これも青春……なんでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

「ん?」

「どうした?」

「いや、今背中に悪寒が……」

「……流石に長くやってるからなぁ」

 

 黄金の剣と、真紅のハルバードがもう何度目かわからない激突を行って互いを弾く。距離を取ったオーリが怪訝そうに背後を振り向き、キリトは自分達が長く戦っている事に今気が付いた。

 

「お前とは決勝が良かった気がするな」

「それについては同感……ここまで決着つかないとなると、俺ら今度から出禁になるんじゃねぇの?」

「それは嫌だな……」

 

 互いがトーナメント表を見れば、自分たち以外は既に二回戦以上に行っている。西ブロックは最も進んでてブロックの準決勝……何とオーリの妹二人が激突していた。それを見てしまったら、兄としていつまでも初戦を突破できていないというのは問題だな、とオーリは考えた。

 

「……キリト」

「何だオーリ」

()()()()()()()()()

 

 キリトの返答を待たず、オーリは既に弓へと変形させた《レーヴァテイン》の矢を放っていた。眼前に迫る真紅の閃光を紙一重で避けるが、放たれた閃光は一条だけではない。

 

「《ミリオンダラー》」

 

 広範囲に矢をばらまく弓のソードスキル。一射が十に分かたれ、キリトへと面で迫ってくる。しかしGGOの銃撃よりは遅い速度である為に、キリトは瞬時に当たる物を取捨選択。それだけを、《遅延時間(ディレイ)》の少ない単発のソードスキルで薙ぎ払って突破した。

 

「《ヤマタノオロチ》」

 

 声が聞こえて、キリトは驚愕に目を見開く。次は鉄の鞭に姿を変えた《レーヴァテイン》には、既にソードスキルの光が灯っていた。

 

「変形させる事で《遅延時間(ディレイ)》を無効化できるのかよ……!?」

「言うほど楽でもないぞ」

 

 厳密に言えば無効化ではなく先送りであるが、オーリにそれを説明する余裕はない。慣熟訓練の中で見つけたこれは、原理としては《剣技連携》の応用と言うべきものである。例えば両手剣状態でソードスキルを放ち、《遅延時間(ディレイ)》に入るまでのコンマ何秒の隙間で変形を完了させれば、そのソードスキルの《遅延時間(ディレイ)》は次の武器には持ち越されない。ただし、再び元の武器に変形させればそのまま《遅延時間(ディレイ)》を受ける。

 遅ければ当然《遅延時間(ディレイ)》によってオーリのアバターも硬直する上に、変形もキャンセルされてしまう。ならばソードスキルが完全に終了する前に変形できればいいのではないか、と言えばそれは『No』だ。その場合は武器の変形は完了するが《遅延時間(ディレイ)》が次の武器にも持ち越されてしまう。

 この技を成功させようと思えば、ソードスキルの終了と同時に《レーヴァテイン》を変形させて、《遅延時間(ディレイ)》に入る前に変形を完了させるという、恐ろしくシビアなタイミングと変形の速度が求められるのだ。

 

 鉄の鞭が撓り、ほぼ同時に八方向から津波の様にキリトへと殺到する。キリトの見立てではこの《レーヴァテイン》専用の《剣技連携》とも言える技能は、変形と言うプロセスを踏んでいるため弱点が明確だ。変形させなければ、《遅延時間(ディレイ)》の無効化が出来なくなるためにオーリは一気に隙だらけになる。ただ、《レーヴァテイン》が変形する武器の中で、弓とこの鉄鞭の二つが剣で対応できない間合いでソードスキルを繰り出せるために、それを続けられれば付け入る為の隙に届かない可能性が高い。

 

(まぁ……そう便利な物じゃないよな流石に)

 

 そんな事が出来ればぶっ壊れ(チート)所ではないとキリトは思う。世界級武器(レジェンダリー)のエクストラ効果ですら付け入る隙があるのだから、その可能性に賭けてキリトは《剣技連携》による迎撃に踏み切った。

 高速の突進技によって鞭の波濤を貫き、次に見たのはオーリが腰を落とした姿勢で、居合い抜きの様に大太刀を振う瞬間だ。

 

「《燕返し》!」

「《シャープネイル》!」

 

 上と左右から襲い掛かる三連撃の刀系ソードスキルを、同じ三連撃で迎撃する。キリトの読みの通りに、オーリは大太刀を更に変形させて、次に繰り出すのは重量級の両手斧。

 

「《ラウンドトリプル・スラッシュ》!」

「《サベージ・フルクラム》!」

 

 踏み込みからの三連続の横薙ぎ。当然食らえば一溜りもない攻撃だが、キリトはそれを三連の重撃で相殺。彼我の距離が再び詰まる。

 

「《ライオット・バスター》!」

「《バーチカル・スクエア》ァッ!」

 

 両手斧が次に変わるのは戦槌。力任せに振われる上下四連撃は同じ四連撃で迎撃。

 この時点で、キリトが過去に放った四連続での《剣技連携》を超え、五連続。しかしそれでも互いは止まらない。この一戦で持っている手の内を全部曝け出すと言わんばかりに、また一つ限界を踏み越える。

 

「《スパイラル・スティンガー》ッ!」

「《ヴォーパル・ストライク》ッ!」

 

 ハルバードに変形させてからの、渾身の突進技。地獄を踏み越えた時には合わせた技を、今度は互いにぶつけ合う。弾かれて、少し距離が開く。これで六連続だとキリトは数えるが、そんな事を考える暇など無いと切り捨てた。

 

「《八相発破》!」

「ッ、《ハウリング・オクターブ》!」

 

 両手剣に変形させて繰り出されたのは、キリトが見た事のないソードスキルだ。故に今の姿勢から繋げられる物の中の最強で迎撃する。その選択が功を奏し、ぶつかり合う八連撃は全て相殺と言う結果に終わる。

 オーリがジュンに伝授したのはこのソードスキルであり、彼の両手剣でのOSSであるためにキリトが見た事も無いのは当然と言えるが、初見で《剣技連携》中と言う極限状況化にあって迎撃できたという事に対し、キリトもオーリも驚いている。

 

「「《デッドリー・シンズ》!!」」

 

 八連続目の選択は、双剣。ちなみに双剣と言う武器種はなく、あくまでも片手剣が二本と言う扱いではあるために、使われるソードスキルも片手剣の物になる。選択されたのは互いに同じ七連撃ソードスキル。そこから繰り出すのはもう一本の剣を使った、既存の片手剣最大級の大技。

 

「「《ノヴァ・アセンション》ッ」」

 

 まるで鏡合わせの様に、十連撃のソードスキルがぶつかり合う。これで互いに繋げたソードスキルは九つ。次で終わらせる、と、互いが無声の気合を上げ、オーリは籠手(ガントレット)に変形させ、キリトはオーリが見た事のない構えを取る。

 

「《アヴァランチ》ッ!」

「《デッドリー・ブロウ》!」

 

 黄金の剣から繰り出される突進突きと、真紅の籠手に覆われた正拳突きがぶつかり合う。そこから飛び散る火花の数は十。合計十一連撃が激突し、キリトが繰り出したOSSという初見殺しをオーリも同じ条件で真っ向から迎撃して見せた。

 肉薄するほどまでに近づいた互いの距離だが、キリトにもオーリにもそこから繰り出せるソードスキル(手札)は無い。キリトは《アヴァランチ(OSS)》から繋げられるソードスキルが無く、オーリもそれは同様。《レーヴァテイン》の形態は全て使い切ってしまったため、変形での《遅延時間(ディレイ)》先送りはもう不可能だ。

 

 

 ただ、それでも彼は笑う。

 

 

 ドッ、とキリトの身体(アバター)が何かの衝撃で振動する。何とか視線を動かして、振動の中心である胸元……心臓の部分へと視線を向ければ、胸には見覚えのある短剣が突き立っていた。

 

「なん……だと……?」

 

 その短剣は、オーリが最初にキリトへと殴り飛ばした短剣の一本だ。あの時薙ぎ払ったそれがなぜ自分の胸に突き立っているのか、少し視線を動かしてそのタネに気づく。

 オーリの髪色である蒼が混ざった、金の毛並みに覆われた尻尾。猫妖精族(ケットシー)だけが持つ特徴であるそれが短剣の柄に巻き付いて、自分の胸に短剣を突き立てたのだと。

 

「言ったろ? ()()()()()だってよ」

「ちっ……八百戦目は、お前の勝ちだよ。オーリ」

 

 親友の勝利を称えた後に『次は勝つ』と言い残して、その体を預けるようにキリトはオーリへと倒れ込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 衝撃で、視界が明滅する。

 頭がもげるかと思うほどの衝撃でクラクラする。頭部への衝撃ダメージによる一時的なバッドステータスだと分かってはいても、殴られればこんな感じなのかなぁと想像する。現実では殴られた事なんて無いから、想像するしかない。

 

「いきなり顔は酷くないかなお姉ちゃん!?」

「ユウだって同じじゃない!? がっちり拳も握ってたし!」

 

 全力で振り抜いた拳が、まったく同じタイミングで互いの顔を殴り抜いたみたい。ボクとお姉ちゃんの初めての喧嘩の始まりは、何とも過激な立ち上がりでスタートした。まだ武器は振らない。代わりにもう一回、何も考えずに拳を握って振り抜いた。

 

 ゴッ、と言う音と共に、また頭が後ろへと吹っ飛ぶくらいの衝撃が来る。ボクの手から伝わる手応えもそれくらいの感じで、鼻血が出てないか少し心配になるけど、お互い様だ。

 

「イッタイなぁもう!」

「わたしもだよッ!」

 

 叫んでもう一発。今度は踏ん張れなくて後ろに倒れ込んだ。普段なら跳び起きれるんだけど、頭がクラクラして割とそれどころじゃない。頭部へのダメージなんて普段は最優先で防ぐものだし、三発も受けた事なんてないから、自分が今どんな状況かよくわからない。

 でもそれはお姉ちゃんも同じようで、グラグラと揺れる視界で見たのは同じように立ち上がろうとして失敗する姿。何とかボクが先に立ち上がったけど、今度は膝が言う事を聞かなくて、剣を杖代わりにしないと真っ直ぐ立てない。

 

「《ホーミング・スプラッシュ》」

「このタイミングで魔法!?」

 

 聞き取れた魔法名は、誘導性能の高い初級の水魔法。普段ならどうにでもなる程度に弱い魔法だけど、今はだいぶまずい。というか自分の状態をきっちり把握して、相手の状態も予測してこの魔法使ったなお姉ちゃん!?

 

「《ダーク・スフィア》!」

 

 ボクに飛んでくる水の飛沫を、闇の塊で迎撃。属性の相克も何もない力押しで、闇が水を食らいつくす。その間にお姉ちゃんが立ち上がって、こっちに手を翳した。

 

「《ホーリー・ランス》」

「ガチだッ!?」

 

 飛来する光の槍を揺れる視界の中で見据えて、ボクが選択するのは回避。追尾性能の低いこの魔法なら避けられるけど、問題は次からだ。

 

「《アイス・ピラー》」

 

 ()()()()()()! 姉ちゃんの対ボス用の魔法連鎖(マジック・コンボ)

 何回も、何十回と見た、自前のプレイヤースキルの《高速詠唱》と、徹底した魔法の《遅延時間(ディレイ)》管理によって一気呵成に攻め立てる大技。

 回る視界と逆方向に体を回転させながら、ボクは大地を蹴って横に跳ぶ。直後に、さっきまでボクが居た大地から氷の柱が突き出てきた。一瞬でも遅れていたらそのまま撃ち上げられて、あっさり上級魔法で仕留められる所だ。

 

「《トルネード・キャノン》」

 

 ならばと放たれたのは風の……いや、旋風の塊。吹き飛ばして自由を奪おうとする一撃を、マシになった視界が正確に捉える。だからこそ、ボクはこの喧嘩で初めて剣を振る。黒曜石の刃に光を宿らせて、脳裏にイメージするのは黒い二刀の剣士が()()()()()絶技。

 

「らぁぁぁっ!!」

 

 気合と共に下から上へと斬り上げて、旋風の塊を断つ。《魔法破壊(スペルブラスト)》とキリトさんが名付けたそれを初めて見た時、お兄ちゃんやアスナさんを始めとしたSAO組すら『何やらかしてんのこいつ?』という表情を隠さなかった。それを見て大慌てで原理を説明して、『GGOで弾斬り出来れば行ける』って弁明した後に『ホントでござるかぁ?』と言ったお兄ちゃんにやらせてみれば、数回の被弾の後に成功させてた。

 その後でどんぐりの背比べ的な言い合いの後にまたデュエルしてたけど、その陰でこっそりボクも練習してたのは姉ちゃんにはバレてないはずだ。

 

()()()()()()()()、ユウ」

 

 詠唱を止めて、羽を展開して姉ちゃんが突っ込んでくる。

 ですよねー! キリトさんがやって見せた時に姉ちゃんも居たから、ボクが出来るっていう可能性くらいは考えてたよね!

 杖を槍の様に持つ構えから、高速での刺突が連続で放たれる。非力な魔法使いの威力じゃないそれは多分、攻撃特化状態の杖の物理攻撃力が高い事の証明だ。ソードスキル撃ち終わりの《遅延時間(ディレイ)》を狙われたけど、紙一重で回避が間に合った。お兄ちゃんより速くなくて助かったけど、移動速度を飛行で補って、攻撃力は武器で補う。技についてはちゃんと練習したんだと思うくらいに綺麗な物だった。

 

「いつ練習したのさ!」

「ユウが出かけてる間にちょくちょく義父さんに教わったよっ!」

「卑怯者ー!?」

兄さん(ブースター)に教わってて、どの口が言うのかな!?」

 

 お義父さん(チート)はダメでしょ!? 百歩譲ってお兄ちゃんまでなら良い! あ、いや良くない。お兄ちゃんに手取足取り教えられてる姉ちゃんを想像すると、なんかイラっとした。でもそう考えるとボク、普段お兄ちゃんに教わってるからアウト? じゃあお兄ちゃんセーフで。

 

「ユウばっかり兄さんに教わっててズルいし!」

「姉ちゃんはお兄ちゃんに魔法教えてたりしてるじゃん! ボク教えた事ないし!」

「手取足取り教えてもらってるのに!?」

「手取足取り教えてるのに!?」

「「なんだとーッ!?」」

 

 姉ちゃんの方が絶対にずっこい! ボクだってお兄ちゃんに何か教えて『すげぇな』とか言われたいんだけど! 姉ちゃんに色々教わる度に、お兄ちゃんの目がちょっとキラキラしてるの知らないでしょ!?

 

「何か本格的にムカついてきた!」

「奇遇だね! わたしもだよ!」

 

 技も何もなく、ボク達は手に持った武器を力任せに相手に向かって振り回す。普段から考えられないほど雑に振って、最後はやっぱりグーで顔を殴った。

 

「「また顔殴った!?」」

 

 頭を引き戻す勢いで、姉ちゃんに頭突き。それは姉ちゃんも同じで、凄い勢いで額同士がぶつかってまた視界が揺れる。姉ちゃんは怒ると怖いけど、今この時はボクだって怒ってる。溜まってるものだってあるんだから!

 

「寒いのにこたつでアイス食べて寝落ちて、溶かしたの誰だったかなぁっ!?」

「その前に姉ちゃんボクより多くアイス食べてたの知ってるんだよ!」

「前の日のおかず多く食べたのそっちが先でしょ!?」

「バレンタインの試食だって実は結構食べてたの姉ちゃんじゃないかぁー!!」

 

 本当に細かい点で、ボクと姉ちゃんは罵り合いながら武器をぶつけあう。

 

「来なよ姉ちゃん! 魔法なんか捨ててソードスキルでかかって来なよ!」

「魔法使いに何言ってるのかなこの妹は!? でもいいよ乗ってあげるよお姉ちゃんだし! そっちこそ後で悔しがっても知らないんだから!!」

「にゃにおーっ!?」

 

 あ、噛んだ。と思っても、もうボクも姉ちゃんも止まらない。喧嘩で使うような物じゃないと思ってたけど、ここまで言われちゃ引き下がる事なんて出来ない。全力で姉ちゃんぶっとばす!

 

「《マザーズ・ロザリオ》!」

 

 躊躇いは微塵も無く、ボクは必殺の技を姉ちゃんに繰り出す。それに対して姉ちゃんは杖を縦に構えて、ボクの最初の突きを受けた。その杖には、ソードスキルの光。

 

 しまった。()()()()()()()()()()()()()()()だこれ!?

 

「《スパイラル・ゲート》!」

 

 一回お兄ちゃんが使った所を見た事がある、槍のカウンター型ソードスキル。相手の攻撃に合わせて発動して、槍を旋回させて相手の攻撃をいなした後、がら空きの所に一撃を叩き込む。直撃したら負けると判断したボクは、咄嗟にストレージを開いてボクの身体と杖の先端の間の中空に《カリバーン》を呼び出す。後は剣を持ってる手の甲を《カリバーン》の腹に持っていき、持って無い方で柄を握れば即席の受ける構え。

 

「――《我が英雄へ捧ぐ》」

 

 剣へと来る衝撃を認識しながら、ボクの肌がこれ以上なく泡立った。この詠唱から始まる魔法はヤバいでは済まない。発動すればどう足掻こうがボクなら詰みだ。

 

「《天に掲げるは我が想い 地に手向けるは我が涙》」

「さぁせぇるぅかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 吹き飛ばされて距離を離された。姉ちゃんにとってはこれで安牌だと思った距離なのか、ボクがギリギリで堪えられたのかわからない。地に足がついた瞬間から全力で駆けなければ到底間に合わない事はわかりきってるから、わからない事は考えない。最初はお兄ちゃんに見せようと思ってたけど、姉ちゃんがその魔法を使うならボクだって新しいとっておきをぶつけるまでだ!

 

「《汝が受ける寂寥に 我が愛で寄り添い この祈りを捧げ続ける》」

 

 姉ちゃんの周りの空間が帯電し始める。新生アインクラッド第二十一層のボスのHPバーを一本丸々全て削りきって、トドメを刺した大魔法。最上級を超えた、戦乙女にのみ許された()()()()

 

「《この詩よ天に届け この音よ地へ染み入れ 九の世界を超えた先 汝が安らぎを得る世界まで》」

 

 ボクは《カリバーン》に光を灯す。お兄ちゃんに出会ってから得た全部を込めて作ったとっておき(OSS)

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「《満天を穿ち、黄泉を薙げ――…審判の雷》」

 

 

 

《ジャッジメント・ボルテックス》!!!

 

 

 

 目の前を満たす光。それに向かって、ボクは《カリバーン》を振る。真っ白になった視界の中、システムアシストで動く剣が何かを斬り裂いた感触が伝わってきた。響く落雷の音で他の音は聞こえもしてないけど、それでもボクが動いているという感覚だけはわかる。

 

「――――ッ!!」

 

 自分が何て叫んだかなんてわからないけど、このタイミングは相手を斬り上げて上に飛ばすタイミングの八撃目。ボクの身体が跳び上がり、真っ白な視界が徐々に他の風景を映し出す。途中でなんか《マクアフィテル》を持つ手にダメージがあったのか動かなくなった。でも発動しているのは《カリバーン》を持ってる手だから問題ない。

 跳び上がった空中と思われる場所で、ボクはまた八連撃の斬撃を振るう。それでやっとぼんやりと輪郭と色が見えてきた。目の前にあるのは、水色のショートヘアに白いローブ。銀と青が先端にある杖を持っているから、多分姉ちゃんにボクのとっておきは当たってたみたいだ。

 

 そして、最後の十七撃目。

 

 

 

《ライジングスター》ッ!!

 

 

 

 お兄ちゃんのSAOでの二つ名に肖った、流星のような突き下ろしが姉ちゃんの身体に吸い込まれる。渾身の一撃の勢いのまま、姉ちゃんは地面へと落ちていったけど……ボクも上手く体が動かない。作った時はここから羽を出して地面に降りたし、実戦で使った時は色々使って難なく降りれた。でも今は無理かもしんない。

 

「《ウォーター・ロック》」

 

 そんな事を考えた直後に、ボクの周りが水で包まれた。これ、本来は拘束用の水魔法なんだけど、一旦は落下の速度がゼロになった。でもすぐに水が弾けて、ボクは目の前にまで迫っていた地面とキスする羽目になる。

 

「いたた……もうちょっと優しく降ろしてよ」

「もうボロボロの相手に言う事かなそれ」

 

 地面に倒れている姉ちゃんが苦笑する。大会での特別な設定で、死亡してもリメインライトにはならないからこうして話が出来るけど魔法が使えるのは初耳だ。まぁでもそれは気にしない事にした。

 

「ボクの勝ちだったわけだけど、どうだった?」

「正直言うと、ちょっと楽しかったかも」

「そりゃあんだけやって楽しくなかったら怖いよ……」

「ユウは?」

「今度から顔は止めよう」

「そう言えばわたしの鼻とか歪んでないよね? 大丈夫だよね?」

「ボクの方も心配してくれないかなぁ!?」

 

 次は西ブロックの決勝なんだよボク! それで鼻とか歪んでたら格好悪いじゃん!?

 

「ユウの顔は痣も何もないからね……」

「姉ちゃんの顔にもないよ。鼻血も出てないし」

「ホントぉ?」

「もっかい殴るよ姉ちゃん?」

「死体に鞭打つのはんたーい」

 

 あはは、とボク達は笑う。ここまで砕けた姉ちゃんを見るのも初めてかもしれない。

 

「ここまで来たら、優勝するんでしょ?」

「出来ればいいなぁとも思ってるし、する気だよ」

「ん。じゃあ応援してるからね」

「もしお兄ちゃんと当たったら?」

「そりゃ兄さんを応援するよね。メリダ達はユウを応援するだろうし」

「だよね! そうだと思ったよ!」

 

 あーもー締まらないなぁ!? こんな風に茶化す姉ちゃんも見た事ないからなんか嬉しいのか複雑だよホント……

 そう思っていたら、ボクと姉ちゃんのアバターが光に包まれ始めた。ボクのは次の会場への転移エフェクトで、姉ちゃんのは控室へと戻る死亡エフェクト。

 

「ユウ」

「何? 姉ちゃん」

「次があったら、わたしが勝つから」

「ボクももっと腕を上げて返り討ちにするもんねー」

 

 数秒見つめ合って、姉ちゃんが左手を掲げたからボクは自分の左手を振ってハイタッチ。

 

「頑張れ」

「頑張る」

 

 最後に拳を合わせて、ボク達の姿は準決勝のフィールドから消えていった。

 

 

 

 




なお、音声は撮られてなかったので尊厳的にはセーフだった模様。



オリ主「最近オチが俺への説教ばかりだから怖くて仕方ないんだけど」
アスナ「説教される心当たりあるんだー。ふーん」
オリ主「後ろを向いて全力で前進DAッ!!」
アスナ「まぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇ!!」


キリト「前々から思うんだけどな」
シノン「何?」
キリト「あの二人って実は姉弟だったりしないか?」
シノン「……優等生の姉とヤンチャな弟?」
キリト「大体そんな感じ」
シリカ「あ、それだとランちゃんとユウキちゃんがアスナさんの妹にされてしまうのでNGで」
リズベット「だからシリカ。妹はされてしまうものじゃないし、アスナが何か世間一般の姉じゃなくて、相手を洗脳するようなヤバい奴になってるから」
クライン「ついでに言うとキリの字。それだとオーリはお前の義理の弟になる」
キリト「義弟に振り回される義兄とか嫌すぎるな!」
エギル「逆にキリトとオーリが兄弟と言う説もあるな」
仲間達「……あぁ!」
キリト「納得いかねぇー!?」
リーファ「すみません、そうなると桐ケ谷家の家庭の事情がもっと複雑になるから勘弁してください」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。