流星の軌跡   作:Fiery

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トーナメントも長かった……


そのよんじゅう:決着

 

 

 

 親友との激闘を終え、大会仕様の死に戻りで央都の控室に帰ってきたキリトは、集合場所になっているオーリの拠点へと足を運ぶ。

 

 ドアを開けた彼が見たのは、試合の様子が映ったウィンドウの前で何やら項垂れているアスナ(恋人)の姿であり、それを宥めているリズとシリカ。そして正反対にウィンドウに向かって『そこだー!』などと叫んでいるシノンと《スリーピング・ナイツ》の面々……メリダとシウネーで、初戦で負けていたジュンは部屋の隅で壁を相手に一人反省会をしている。

 

「何このカオス」

「あ、キリトさん! 早く! アスナさんを元に戻してください!」

「一体何がどうしたのか説明は欲しいんだけど」

 

 説明を求めながらも、一目散にアスナに駆け寄ってその肩を抱くのは流石としか言いようがない。親友が見ていたら揶揄う事確定ではあるが、親友は彼との激闘のせいで完全に火が付いた状態……要は、メンタル的に本気と言うか、普段も技能的に何でもありなオーリが手段的にも何でもありになった状態だ。その手段は、まだ正攻法の中に納まるのが救いであろうが、彼にとって使い勝手のいい(ギミックが多い)武器を持っているという事は、そのまま彼の脅威度に直結する事をキリトは良く知っていた。

 

 話が逸れたが、状況を引っ掻き回す役不在の混沌の中で、キリトはリズベット(苦労人枠)を見た。

 

「あー、ランとユウキが喧嘩の真っ最中」

「は?」

「あたしもよくわかってないから詳しくは聞かないで。見たまま話すと、西ブロックの準決勝でランとユウキが当たったのよ。で、試合開始の後、お互いグーで殴り合い開始」

「なんで?」

 

 思わず顔の造形が崩れるレベルで聞き返すキリト君。仲間の妹二人が突然大会で殴り合いを開始した、と言われたらそうなるのをリズは理解できる。実際彼女がそうなったのだからよくわかる。

 戦術的な視点で、物理アタッカータイプのユウキが殴り合いを選択する意味は分からなくもない。ただ、それにランが付き合う意味が分からないので、リズが言った通り『喧嘩をしている』と言うのが一番想像できる理由だ。だとすれば、喧嘩をする理由がわからなくなるが。

 

「……いや、マイナスな理由で喧嘩してるなら、シノンが応援してるのはおかしいよな」

「まぁね。マイナスな理由で喧嘩するならそもそも、試合開始の時に話す事も無いだろうし」

「あー……となると、あの二人も悪い見本に染まったなこれは……」

 

 自分の事は盛大に棚に上げて(悪い見本の自覚はある)キリトは、何となくだがその原因に思い至った。頭を抱えて天井を仰ぐように見上げれば、魔法の力で動いているという設定のシーリングファンが目が入った。

 

「き、きりとくんどういうこと……」

「アスナ、喋りが幼くなってるってマズい兆候だろこれ!?」

 

 SAOでもあまり見られなかった状態の恋人を宥めつつ、どう説明するかとキリトは思案する。オーリに罪を被せるのは彼の中で確定しているが、その割合が問題なのだ。全部被せればシノンが反撃してくる可能性が高く、キリトに矛先が向いてしまう事になる。かと言って自分の割合を増やし過ぎても同じ結末になるから、その塩梅で悩むのだ。

 

「……まぁとりあえず、オーリは良くデュエルやってるだろ?」

「うん、いろんなひととやってる」

「真面目な時もあるけど、体育会系みたいなノリでやる時もあるだろ?」

「あぁ……殴ってから考えるとかいう脳筋的な奴よね」

「でまぁあいつの場合、それで人脈広げる事もあるんだが……割と相手と仲良くなる」

「……あの二人、もっと仲良くなる必要あります?」

「仲が良くても、心に溜まるものはあるでしょ」

 

 シノンの呟きに『えっ?』と副音声が付きそうな視線を仲間達が送る。一番溜め込まない感じのする人物の発言が聞き間違いで無い事を確認してから、また仲間達はシノンを見た。

 

「何よ?」

「いや……シノノンも不満とかあるの?」

「今日したキスはいつもよりコンマ一秒短かったとか」

「はいこの話止めー。独り身にとって致死量の惚気来るからこの話おしまいー」

 

 リズが両手を振って話題を強制終了し、シノンが不満そうにウィンドウに視線を戻す。そのタイミングで、またドアを開けて来訪者が現れる。

 

「うへぇ……負けたぁ」

「お? リーファ。お疲れさん」

 

 肩を落として入って来たのはリーファで、ポニーテールもどことなく気落ちしたようにへたっていた。

 

「負けたって相手は……オーリの奴ね」

「あれオーリ君だよね? 普段のデュエルより何倍も強く感じたんだけど」

「あー……それは何と言うか、俺が原因になるのか……」

 

 頬を掻きながら、気まずそうにキリトが視線を逸らした。途中急いていたとは言え、今回の戦いは今までの中でも三指に入るほどに没頭出来たものだ。それほどの戦いの熱は、負けたキリト自身にもまだ燻ぶっている。ならば勝ったオーリがどうなっているかなど、彼にとって想像するのは簡単だった。

 

「お兄ちゃん?」

「ま、まてリーファ。俺と戦ったせいであいつのテンションがMAXなだけだから」

「それ充分戦犯だよお兄ちゃん。というか今まではあたし、本気で相手されてなかったって事?」

「それは無い。ただ、あいつが何の制約も無く戦うとそれぐらいだって事」

 

 キリトの真剣な眼差しに、リーファはふむ、と考え込んだ。確かに今までのデュエルはあれこれ条件を付けていた。主に武器縛りだったが、剣道ルールでの戦いなど、いろいろ注文を付けていた。

 

「……よし、次からあたしも無制限でやってもらおう」

「止めとけマジで」

「リーファちゃん。それはわたしも止めといた方が良いと思う」

 

 キリトはともかくとして、アスナまでもが真顔で止めてきた事にリーファは驚いた。それは、彼女がオーリに対してよく説教をしているイメージから来るものだが、その説教は彼が()()()()()()のものしかない。それは何だかんだでやり過ぎないし、上手く状況を着陸させる事が出来る能力を持っていると信頼しているからだ。その過程と結果で彼女を心配させたりするから説教になるだけで、別にオーリ自身を信頼していないという事は微塵もない。

 故に、今回のリーファに対する言葉はそれだけ制限の掛かっていないオーリが危険……と言うには語弊があるが、リーファにはまだ早いという事である。

 

「それって一体……」

「いや、リーファが負けたオーリがその状態に近いぞってだけの話。それが何倍も強いって感じたんなら、あいつの手札の数に対応出来てないって事だからな?」

「う゛っ……じゃあお兄ちゃんなら?」

「言い辛い事聞くなよ……俺、そのオーリとやって今回負けてるんだから」

 

 溜息を吐くキリトだが、誰にも見えないように拳が握りこまれた事は、隣に居たアスナだけが気付いた。今回の負けには納得しているみたいだが、腹の底では悔しさが渦巻いているのだろう。本当なら今すぐにでも自分を負かした男の対戦を見て、次に戦う時の為に勝つ算段をつけたいはずだ。

 

「次は勝つ。もう尻尾を使っての不意打ちも覚えたからな」

「……尻尾を使っての不意打ち?」

「あいつ、短剣の柄に尻尾巻き付けて俺にトドメ刺したんだよ」

「何で尻尾を使うという発想に至ったのよあの馬鹿は……」

「オーリさんですからね……」

 

 本人がこの場に居たら『これで覚えた』と、自分が獣になって戦うVRゲームを教えていただろう。そういう意味ではこの場に居るケットシー……シノンには絶対勧めないので自動的にシリカだけではあるが、彼女の人間としての尊厳は守られたのかもしれない。

 そうこう言っている内に姉妹喧嘩が終盤に入ったようで、ユウキが自身の大技を繰り出すモーションに入っていた。

 

「「「「「喧嘩で使う技じゃなーい!?」」」」」

(ランの奴カウンター待ちか……それを凌げるかどうかだな)

(どちらにせよ、ここから一気に終わるわね。涼は……あー、凄い勢いで勝ち進んでる)

 

 叫ぶ女性陣を尻目に、キリトは冷静に二人の流れを推察して、シノンは結果はわからないにしても結末が近い事を察した。対戦表を見てみれば、オーリが勝ち進んでいる事を示す赤い線が東ブロックの準決勝にまで伸びている。準決勝の相手はクラインだが……普段ならば良い勝負の試合になっただろうが、今回は巡り合わせが悪かったと諦めてもらうしかない。

 

「さて、盛大に喧嘩して負けた方は、一足早めにお説教が待ってるわね」

 

 二人の妹の結果を見届けて、義姉は誰にも聞こえないよう『私がするわけじゃないけど』と溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「オーリがヤバい」

「兄貴がオカシイ」

「彼は人なのか?」

「領主が混じってると言えど叩き出すわよ?」

 

 シノンの眼光を受けて、クラインはわかりやすく恐れ戦き、ストレアは先程まで説教を受けて燃え尽きているランの後ろに隠れ、何故か居るシルフ領主のサクヤは冷や汗をかきながらお茶を飲んだ。そんな三者三様のリアクションを見て一つ息を吐く。

 三人の共通点は東ブロックにて、リーファの後にオーリと当たったという事なのだが、リーファも含めて全員三分持たなかったのだ。

 

「しかしシノン君。君の夫を貶める意図はないが、あれは些か異常とも思える」

「ぐふっ」

「キリト君に流れ弾が!?」

 

 サクヤの言葉にキリトがダメージを受けた。異常と言われたオーリ相手に互角の戦いを繰り広げ、何なら自身も同様に十連続の《剣技連携》という頭のオカシイ事をしでかした自覚が彼にはあるので、今はオーリの異常さを攻められるイコール、キリトもダメージを受けるという構図が成り立っている。

 

「ちゃうんや」

「キリトさんが関西弁を……」

「というか、キリト君が彼の初戦の相手か……いや、ならば納得した。完全に仕上がってしまったのが今の彼と言うべきなのだな」

 

 自身も太刀を使い、大会でも上位の成績を残しているサクヤ。何度か領主業務のストレス発散と自身の能力向上のためにオーリと手合わせした事もあるが、今回の対戦ではその経験すら何の意味も無いものに思えるほどに圧倒的だった。

 

「……シルフ領マズくないか?」

 

 拠点に居る全員を見渡して、思わずサクヤが呟く。ここにいるプレイヤー達と大会決勝に残った二人は、ALOにおける九種族の勢力争いに興味を示していない。しかし、皆が皆全体で見ても上位の実力者ばかりだ。その中にサクヤと同じ種族の風妖精族(シルフ)はリーファしかいない。水妖精族(ウンディーネ)三人、猫妖精族(ケットシー)三人、火妖精族(サラマンダー)二人、影妖精族(スプリガン)二人、工匠妖精族(レプラコーン)一人、土妖精族(ノーム)一人、闇妖精族(インプ)一人、音楽妖精族(プーカ)はいないが、彼らの仲間には現実でも大人気の《ユナ》が居る為、彼女が呼びかけたらあっと言う間に多種族連合軍が出来上がってしまう。

 領主として考えた場合、彼らはALO勢力図など歯牙にもかけない爆弾なのだ。取り扱いを間違えれば、領主としての自分などあっさりと吹き飛ぶ程度の威力がある。個人で見れば頼もしい事この上ないプレイヤー達で、何かしら冒険に行けば何故かスリリングな物になる可能性が高いが、それも楽しいものだった。

 

「リーファ、シルフの未来は君にかかっているぞ」

「え、ちょ、いきなり何なんですか!?」

「って、そろそろインターバルが終わって、トーナメント決勝の時間じゃない?」

 

 アスナの呼びかけに皆が画面を見れば、観客達の歓声と共に決勝のフィールド……央都に作られた特設の闘技場に上がる二人のプレイヤーの姿があった。歓声に応えるように手を振るのはユウキで、もう一人の方であるオーリは手を振りはしないが、右拳を上に掲げていた。

 

「ユウキは緊張してないわねー」

「緊張する性格じゃないにしても、楽しそうですよね」

「二人共初出場なのだろう?」

「別のゲームの大会には出ましたし、どっちも緊張には縁遠いですし」

 

「ランー、燃え尽きてる場合じゃないよー。決勝だよー」

「ストレアさん揺らさないで首がっくんがっくんしてますからぁ」

 

「ジュンはどっち応援する?」

「えっ? いや、それはその……」

「ユウキが勝っても負けても、ジュンには複雑ですよね」

 

「どう見る? キリの字」

「オーリの奴がユウキにどこまで付き合うか、じゃないか?」

「わたしとしては、ユウキちゃんに頑張って欲しいかなぁ」

「私は旦那の応援一択ね」

「「「知ってた」」」

 

 大所帯で騒がしくなった拠点。皆の視線の先で今、優勝を決める戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ボクは今、冷静さを欠こうとしている。

 姉ちゃんと戦った時のように喧嘩だから、と言うわけじゃなくて、興奮している事が自分でもわかるからだ。決勝の舞台で目の前に居るのが、ずっと恋焦がれてきたお兄ちゃんだから。

 

「本当に勝ち上がってきたなユウキ」

「お兄ちゃんこそ。キリトさん相手に勝ったんだ」

「ギリギリも良い所だったけどな……途中で絶対息切れすると思ったのに、土壇場で十連携決めるとかやっぱイカれてるわあいつ……」

 

 一瞬だけ遠い眼をして、またその眼がボクを見る。()()()()()()()()()。観客の歓声も、ここが大会の決勝である事ももう気にならない。そんな事を気にしたら、この時間がすぐに終わるという確信があったから。

 ボクがストレージから取り出したのは《マクアフィテル》と《カリバーン》。それを構えると、お兄ちゃんは小さく笑った。

 

「初戦と決勝で、同じくらいヤバい二刀剣士と戦うとか、俺は二刀流に縁があるのか?」

「あー、よくよく考えれば、キリトさんも黒い剣と黄金の剣だね」

「だな」

 

 お兄ちゃんが真紅の両手剣を構えて、纏う雰囲気を一変させた。

 

「様子見は一切しない。全力で行くぞユウキ」

「~~~っ。嬉しい事言ってくれるなぁ、お兄ちゃん!」

 

 喜びが背筋を駆け抜けて、ボクは叫ぶ。

 やっとだ。やっとお兄ちゃんがその全力を持ってボクを見てくれる。病室で出会って、初めてALOで手合わせをしてからようやく、ボクはここまで来た。

 

「――…行くよ」

 

 試合開始の合図とともに、ボクは踏み込んだ。それはお兄ちゃんも同じで、離れていたボク達の距離は一瞬で互いの射程圏内に入る。直後には、ボクが見た事のない軌跡を描く八連撃。

 それを()()()()()()()()()()()()で相殺すれば、お兄ちゃんの目が僅かに見開かれた。可能性は考慮してたけど、ここまでとは思ってなかったって感じかな。さぁここからだと気合を入れて、ボクは更にスキルを重ねていく。

 

「《マザーズ・ロザリオ》!」

 

 序盤も序盤。お兄ちゃんが未だに知らないはずのとっておき(ライジングスター)を除けば、ボクの最強のソードスキルをここで切る。試合前の会話から、お兄ちゃんを相手にしたキリトさんがまた一つ、限界を超えた事は察してる。なら、お兄ちゃんが超えていないはずは無いという確信がある。何だかんだとお互いをライバル視している二人は、ちょくちょくそう言うミックスアップをしでかしているから油断ならないんだホント。

 ロザリオの一撃目に合わせられたのは、ハルバードの斬撃だった。光が灯っている事から、それがソードスキルの軌跡であることは一目瞭然で、その技をボクは見た事が無い。

 

「ユウキ」

 

 攻撃をぶつけあう最中に、お兄ちゃんが優し気に声をかけてきた。

 

「兄としては失格かもしれないけどな、俺はずっとお前のそれを超えたいと思っていた」

「嬉しい事言ってくれるじゃん」

「あぁ、だからそっちも遠慮するな」

 

 ――…ありったけを、見せてみろ。

 

 ボクの剣とお兄ちゃんのハルバードの突きが火花を散らし続ける。最初の一撃目でボクの身体は宙に浮いていて、お兄ちゃんも追撃を掛けるように跳躍しているから、今は空中戦。そして丁度十撃目が交わされた後で、お兄ちゃんの身体がボクを追い抜いた。最適化されたフォームから繰り出されるのは、砲弾もかくやというほどの威力を伴った投擲だ。それをロザリオの十一撃目……最も重い突きで迎撃する。

 

「――ッ! し、びれたぁぁ……ッ!」

 

 羽を展開して飛行状態になって落下の勢いを殺して、フィールドを滑りながら衝撃を殺す。お兄ちゃんは衝撃で飛んだ《レーヴァテイン》を違う鞭で器用に回収して、何の苦も無くフィールドに降り立っていた。

 手に残る痺れが、お兄ちゃんの本気と全力の度合いを物語っていた。あの技は見た事が無い……確実にお兄ちゃんのオリジナルだ。結果としてロザリオとは相打ちだったけど、最後の一撃は確実に力負けしていた。

 その事実にボクの鼓動が高鳴った。さっきの言葉を信じるなら、ボクと戦う為にお兄ちゃんはあのソードスキルを作った。嬉しすぎて涙が出そうなくらい、自分の顔に笑みが浮かぶのが分かる。

 

「お兄ちゃん、まだあるの?」

 

 ボクの問いかけに、お兄ちゃんは武器を組み替えて応えた。大太刀――…分類は刀になるそれをただ持つだけの構えが、ボクにとってはとても恐ろしい。ちょっと前から、お兄ちゃんは自分にしっくりこない構えを全て止めた。それからは基本は無構えで、構える時はそれぞれの構えに応じて何かを重視している時だ。開幕で見せたのは踏み込みを重視した物だと想像がつくけど……今は無構え。自分の狙いを一切悟らせずに、お兄ちゃんが一番思い通りに動けるカタチ。

 でも、恐ろしいからと言って飛び込まないなんて選択肢は、今この時に存在しない。このシチュエーションで、今お兄ちゃんはボクだけに向かって全力で居るこの時を逃す理由が存在し得ないから、ボクは両手に握る二刀に自分の意思を乗せて駆ける。

 

 剣閃が煌めく。ソードスキルじゃないただの斬撃は、それでも重くて鋭い。二刀と言う手数を活かして攻めるボクに対して、お兄ちゃんは体術によるものと斬撃による攻性回避で凌いでいる。斬撃の質は重くて鋭いままで、こっちの攻撃の隙間を縫うようにして繰り出されるから、攻撃が続かずに手数と言う利点が潰されてる。

 

「キリトさんの時と、戦い方が違う……!?」

「俺が今戦ってるのはお前だぞ、ユウキッ!」

 

 気合と共に、大太刀に光が灯る。

 あぁ、そうだ。よくよく考えなくても当たり前の事だ。お兄ちゃんだけじゃない……相手によって戦い方を変えるなんて事は、誰もが大なり小なりやってる事。お兄ちゃんはそれが相手によって別人レベルで変わるだけ。そして今のこの戦い方は、いつもボクに教えてくれる時やキリトさんとデュエルする時とは違う。本気でボクと戦ってくれて、倒しに来てるものだ。

 

 その事がとても嬉しいよ、お兄ちゃん!

 

「《九尾(きゅうび)閃華刃(せんかじん)》!」

 

 華のように広がり、扇状に広がって襲い掛かる九つの斬撃。それぞれが意志を持つように、途中の軌跡が変化するのはお兄ちゃんの技巧の賜物。少なくとも今のボクには出来ない――…練習してもすぐには無理そうだ。

 絶望的? 全身全霊のお兄ちゃんに勝つのはまだ早かった? そんな考えが脳裏を過って、無駄だと斬り捨てる。諦めたらそれで終わる。お兄ちゃんがボクだけを見てくれているこの瞬間が、何も変えられないまま終わってしまう。『せめて』とか、『それだけは』なんてのは考えない。

 

「あぁぁぁぁぁッ!!」

 

 咆哮と共に、ボクは剣に光を灯す。

 

 負けられない。

 

 負けたくない。

 

 ボクも限界を超えないと、お兄ちゃんには並べない。もう置いてかれるのは絶対嫌だ! 《死銃》事件の時、姉ちゃんは知ってもらおうって言ってた。ボク達がどう思ってるのか、ちゃんとお兄ちゃんに伝えようって。

 だから、こうしてお兄ちゃんが全力で来てくれる機会をボクは待っていた。この大会を逃したら、次にいつ全力のお兄ちゃんと戦えるかわからない。普段のデュエルじゃ全力なんて望むべくもない。キリトさんとの普段のデュエルだって、二人は本当の意味じゃ全力を出してない。じゃれ合いみたいなものなのだ。

 

 全力のお兄ちゃんに、ボクの成長を。そして、ボク達二人の想いを知ってもらう。男女としての想いじゃなくて、家族として。守られるだけの妹じゃもう、居たくない。

 

「《ノヴァ・アセンション》!」

 

 片手直剣最高位の既存ソードスキルを解放する。この十連撃の内の九つで、お兄ちゃんの攻撃を迎撃する。最後の一撃は当然お兄ちゃんを狙うが、それはいつの間にか変形した籠手で受け流された。

 

「《極星裂破(きょくせいれっぱ)》!」

「《セレーション・ウェーブ》ッ!」

 

 無防備な所に連撃を決められそうになって、咄嗟に地面にソードスキルを叩き付ける。これは範囲攻撃になるスキルで、剣を叩きつけた位置から鋸刃のようなエフェクトが放射状に広がる。ダメージは少ないけど、目的は足止めだから問題ない。

 

「《スリング・ストーン》」

「おごっ!?」

 

 と思ったら、土の初級魔法で出てきた岩がボクのお腹にぶつけられて吹っ飛んだ。魔法まで使うとか、お兄ちゃん本気すぎる……でもディレイで動けない間にボクは立ち上がって、一旦距離を取った。

 

「やっぱり俺の魔法はまだまだだな……」

「女の子のお腹に岩ぶつけといてそれはないよ!?」

「言葉の選び方に悪意があるよな? 社会的に俺が死にかねんぞ?」

「事実だからね!」

 

 そう言うとお兄ちゃんが溜息を吐いた。《レーヴァテイン》を変形させながら、ボクの様子を伺って、やがて弓を構える。

 その間、ボクは動けなかった。お腹へのダメージが抜けてなかったのもあるけど、お兄ちゃんが最後の準備をしている事を察したからだ。

 

「始める前に、あの馬鹿が十連携決めたって言ったよな」

「何か遠い眼をしてたけど、裏を返せばそれって、お兄ちゃんが勝ってる事を考えれば、お兄ちゃんがそれと似たような事をしたか上回る事をしたって事だからね?」

「やめておれのこころがしんじゃう。まぁ、そん時は既存のスキルも混ぜながらだったんだけど……全部OSSでやった事は無いんだよ」

 

 弓の弦を引き、お兄ちゃんが告げる。

 

「全部振り絞って見せてやる。突破出来たら、お前の勝ちだ」

 

 その言葉を受けて、ボクは二刀を構えて駆けだす。

 

「《武器連携(テンコマンドメンツ)》始動。《スターブラスト》」

 

 弓から放たれるのは、連続で射られた十の閃光。正確無比なそれにはGGOのような《弾道予測線(バレットライン)》なんて物はない。でも全部を撃ち落とす必要はなくて、アンチマテリアルライフルの弾丸よりは遅い矢ならまだ捌きやすい。

 

「《ホリゾンタル・スクエア》!」

 

 四連撃のソードスキルで、避けた先でボクに当たる物だけを斬り落とし、後はやり過ごす。駆ける足は止めないままお兄ちゃんを見れば、次は鞭を撓らせていた。

 

「《カラミティ・テイル》」

「《ヴォーパル・ストライク》!」

 

 変幻自在の鉄鞭が、縦横無尽にボクへと殺到する。数が見切れないから、選ぶのは中央突破。攻撃のど真ん中を貫いて、また一歩お兄ちゃんへと近づいた。

 

「《神楽(かぐら)活殺撃(かっさつげき)》」

「《ファントム・レイブ》!」

 

 と思えば、お兄ちゃんも戦槌を握って踏み込んでくる。舞の様に振るわれる槌の一撃一撃は重いけど、ボクも重撃で対抗する。ただ、六連撃じゃ足りなくて、追加で六連撃《カーネージ・アライアンス》を放ったのは失敗と言えば失敗かもしれない。

 

「《タイタンズ・ディザスター》!」

「《サベージ・フルクラム》にぃっ! 《メテオブレイク》!」

 

 余った三連撃を避けられ、重そうな両手斧でのソードスキルが続く。案の定重くて、さっきから重撃に類するスキルしか使えてない。次重そうなのと言えば、両手剣。

 

「《八相発破》」

「《ハウリング・オクターブ》!」

 

 予測した両手剣が来て、それは開始直後に繰り出されたものだったから冷静に対処できる。八連撃は八連撃で相殺……相殺に留める理由としては、迂闊に一撃二撃の端数が出るとさっくりカウンターされかねないから。今のお兄ちゃんにカウンターを出来る余力があるかどうかは置いといて、それでも警戒するに越したことはない。でもやっぱり初見のOSSの連撃数なんてわかんないから、さっきの戦槌と両手斧は少ししくじっている。

 

「《九尾・閃華刃》」

「それも見たァッ!」

 

 次は大太刀。でもそれはさっき見た九連撃だから、三連撃《シャープネイル》と再びの六連撃《カーネージ・アライアンス》で凌ぐ。そろそろボクもキリトさんがやった十に近いんだけど、お兄ちゃんはまだ六だ。残りの形態は籠手にハルバードに双剣の三つ。そして双剣は片手剣二本って計算だから……ん? お兄ちゃん、後四つもOSS作ったの? 馬鹿じゃないかな!? 主要な武器種の一つのOSS……しかもお兄ちゃんがやった奴なら、どれか一個でもそれで流派が作れるレベルだよ!

 

「妹に馬鹿にされている気がする。《極星裂破》!」

「馬鹿は馬鹿でも違う種類だよ! 《ノヴァ・アセンション》!」

 

 次は籠手。というよりナックル系のソードスキルになるけど、これは既存の物が最大十一連撃と多い。ボクが撃ったのは十連撃だから、追加で使いやすいのをぶつける。ていうかそろそろ頭が痛い。

 キリトさんも言ってたけど、この《剣技連携》はどんなソードスキルでも繋がるわけじゃない。技の撃ち終わりに取れるモーションが、次の技の初動モーションとほぼ一致している必要がある。お兄ちゃんが使ってる《レーヴァテイン》専用の《剣技連携》……さっき《武器連携(テンコマンドメンツ)》って言ってた技はその辺りが緩いけど、繋げようと思えば繋げ続けられる《剣技連携》に対して上限が明確に存在する。後お兄ちゃんは、《剣技連携》だったら多分三連携が限度だと思う。

 

 そんな事は置いとくとして、ボクが言いたいのは思考の割り振りと言うか、《剣技連携》の為に行う脳の使い方と言うのが、とんでもなく負担がかかるという事だ。テンションが上がってアドレナリンが出てる今の状態ですら、ちょっと頭が痛い気がしている。それだけの負担がかかっているけど、止められないし止めたくない。極限の集中を持って、時間が引き延ばされる。ゆっくりとお兄ちゃんが武器を組み替えて持ち出したのは、双剣。

 

「《九煌月閃(くこうげっせん)》!」

「《デッドリー・シンズ》!」

 

 左剣が振るわれる。斬撃で始動したそれは、突きが一切無い九連斬撃。七連撃で凌いでから、二連撃の《スネークバイト》できっちり相殺。後二連携、と意気込んだ所で、お兄ちゃんが()()()()

 その事に本能が警鐘を鳴らす。その警鐘に従って、ボクはお兄ちゃんの技の発動を待たずにソードスキルを解放する。

 

「《マザーズ・ロザリオ》!」

「《天薙時雨(あまなぎしぐれ)》!」

 

 右剣から放たれたのは突き技だった。ボクとお兄ちゃんの間に十一の閃光が煌めいて、消えていく。最低連撃数が両手剣と両手斧の八連撃とか、やっぱお兄ちゃん馬鹿じゃないかなぁ!? キリトさんとかアスナさんが、挑発合戦で言ってる事が何となくわかるんだけど!

 そんなボクの思いは多分通じてないけど、ここから切れる札はお兄ちゃんはハルバードの分だけ。そしてボクは、最後の最後にとっておき(ライジングスター)を切るだけ。

 

「《絶空煌天破(ぜっくうこうてんは)》ッ!」

 

 連撃数は、お兄ちゃんのが十一でボクのが十七。ボクの方が勝っているけど、それで仕留められるかは最後まで分からない。特に最後の投擲の威力が強くて、弾き飛ばされたらボクのスキルは失敗する。でも逃げないし、それに真っ正面から打ち勝ってこそボク達をお兄ちゃんに認めさせることが出来る。

 

 お兄ちゃんとボクの攻撃がぶつかり合う。一度受けた時より威力が上がってる!? そうとしか感じられない衝撃の違いに、それでもと吼える。

 

 

 

「勝つのは、ボクだぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

「ふへへへ」

「ユウ、笑い方が気持ち悪いよ?」

「酷くない!?」

 

 辛辣な姉の言葉に妹は吼えるが、また『にへら』と表情が緩んで『ふへへへ』と笑いだす。さっきからこの調子だ、と姉が呆れたように溜息を吐いて、妹がそうなっている原因に目を向けた。

 

 その視線の先にあるのは、一枚の写真。

 

 妹が満面の笑みで黄金に輝くトロフィーを掲げ、最愛の兄に抱き上げられており、周りには家族や仲間達の姿が映っている。

 

 先日行われたトーナメントの結果は、見事に兄を打ち破った妹が優勝を飾った。そのお祝いとして現実でも集まろうという話になったのだ。場所はいつもの《ダイシー・カフェ》で、何と《スリーピング・ナイツ》のメンバーも呼んだという。

 

 OSS同士の最終激突は、結果だけ見ればユウキが勝利した。ただしそれで決着と言うわけにはいかず、最後はソードスキルに寄らないオーリの武器術と、ユウキの二刀剣術の激突となった。ソードスキル同士のぶつかり合い程派手ではなくても、互いの気合と技量の限りが尽くされた激突は、会場のギャラリーは当然ながら彼らの仲間や家族ですら固唾を飲んで見守るほどに熱いものだったと、ランは思う。

 

「ほーら、そのにやけた顔直さないと、おめかし出来ないよ?」

「まって、ホントに顔にやけちゃう。直んないよー」

「兄さん達との約束の時間、もうすぐなのにもー」

「姉ちゃん痛い痛い!? ごめん頑張るからこめかみぐりぐりは止めてー!?」

 

 両拳でこめかみの辺りを挟まれ、あうあうと木綿季が悲鳴を上げる。そのおかげか、にやけた顔が引き締まったので藍子は義母から教わったばかりの化粧……軽い物ではあるが、それを妹に施していく。今日は彼女の優勝を祝うのだから着飾らないとね! というのは義母の弁だ。ドレスなどはやり過ぎだとしても、少々良い目の服も出してもらって後はナチュラルだがメイクだけと言う状況だった。

 

「そう言えば、ユウ」

「んー?」

「兄さんに何かお願いするの?」

「んぐぇ。な、なんでっ?」

「わかりやすすぎる……カマかけただけのに」

 

 わかりやすく狼狽え始めた妹に、図星かとまた溜息が出る。まぁ妹がしそうな事だとカマをかければこれだ。藍子としては別にそれに乗っかる気はないが、お正月に宣言した事を忘れたわけではないだろうと釘だけ刺しておく。

 

「それくらいはボクも分かってるって。お願いしたい事はねー、ボクと姉ちゃんを蚊帳の外にはしないでねって事なんだ」

「……それって、《死銃》の一件?」

「うん。流石に命がかかったっていうのや、現実でどうこうなんて言うのは難しいけど、ボクらにだって出来る事はあるからさ」

 

 何てことは無い。あの時悔しかったから、次は仲間外れにしてほしくないと言っているのだ。次は無い事に越した事は無いけれど、あった時にまた蚊帳の外だったら自分達は後悔するだろう。

 

「なら、義父さんと義母さんに、もっと色々教わらないとね」

「スパルタ……手順……理屈……う、頭が」

「おっと逃がさないよ? そこまで決意してくれるんだったら一蓮托生だよ?」

 

 にゃぁぁぁ! と木綿季の叫び声が家中に響き渡る。それに混じって、藍子の笑い声も微かに響いていた。

 

 

 

 




2020年の更新はこれで最後です。
皆様良いお年を。
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