流星の軌跡   作:Fiery

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新年明けましておめでとうございます。
時間が飛んでアリシゼーション編、スタートでーす。

タイトルでふざけるのは仕様。


プロジェクト・アリシゼーション:流星の輝跡
前話との温度差で風邪をひく導入


 

 違和感がある。

 多くの人に傅かれ、自身がそれを見下ろしているという光景に、彼は違和感を覚えている。自分の手を見れば、()()()()()()腕が目に移り、鏡を見れば()()()()()()()()()()()()()髪と肌に赤い瞳の自分が映る。生まれ持った自分の顔だというのに、やはり違和感は拭えない。

 

 自分はこんな姿だっただろうか? 積み上げたはずの『自分』という物が見つからないような不安定さが、彼を揺るがしている。

 

「どうしたの? 兄貴」

 

 そんな彼に声を掛けたのは、薄紫色の髪と赤い瞳をした少女。

 

「……ストレア?」

「そうだよー、双子の妹のストレアだよー」

 

 にかっ、と天真爛漫に笑った少女……ストレアは、彼の顔を覗きこんでくる。どうかしたのか、と訴えてくる瞳に、彼は首を横に振った。

 

「何でもないって事は無いでしょ。まぁ兄貴が深刻そうな顔をするのは、今に始まった事でもないけど」

「そう言うな。それと、一等爵家の令嬢の言葉遣いじゃないぞ」

「今はアタシと兄貴しか部屋にいないんだから良いじゃん」

 

 仕立ての良い服を着ながら、彼女は大きく伸びをする。ソファに座って足を投げ出す仕草はとても令嬢の物とは思えなかったが、これでも公的な場……いや、兄である彼以外の目がある場では完璧な令嬢を演じているというのだから、女という物は怖いと思ってしまう。

 

「失礼な事を考えた気配がしたっ」

「知らんな」

 

 ソファから立ち上がって飛びかかるストレアの腕を掴んで、彼は空中で一回転させる。そして、自分の横にある椅子にストンと座らせた後で、彼は違う椅子に座った。

 

「……何かまた腕上げてるし」

「力がつかないんだから技を極めるしかない。そして、技って言うのは相手も利用してこその物だ」

 

 細い腕を振りながら、彼はいつも言っている事を繰り返す。誰からも教えられた事の無い思想ではあるが、妙に馴染む考え方故に彼はそれを改める気はない。両親は、口を開けばやれ一等爵家の誇りや務めという事を言いながら、二等以下の爵家や貴族ではない人々も平然と見下し……いや、人として見ない彼らから自分達が生まれたとは思えない、と言われているのを聞いた事があると言えば、親と子の気質の違いが明確であると言えるだろう。

 

「で、何を悩んでたの?」

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

 兄の言う事に、ストレアは首を傾げる。言葉は理解できるがその思考に至った過程が理解できない、といった感じの妹の表情に彼は当然だと思った。そうである事に疑問を抱く方がおかしいのだと彼もこの家に生まれ、この世界で生きてきた中で理解している。

 だからこそ、自分自身への違和感が消えない。この世界の存在ではないような、もっと言えば自分が核としていたものを見失っているような――…そんな焦燥感が消えない。

 

「魂の記憶、か……」

「ストレア? 何か言ったか?」

「んー? 不安なら、積み上げれば良いと思ってただけ」

 

 彼女の瞳が真っ直ぐ、彼の瞳を見据えている。そこには兄を鼓舞するような意志が込められていて、彼は小さく笑った。世界に理不尽を覚え、自身すら疑わしい中で、この妹だけは何故か信じる事が出来た。

 

「なら、休憩は終わりだな。お前も部屋に戻ると良い」

「わかりました。()()()()()

 

 悪戯っぽく笑う妹を見て、兄は満足そうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 その部屋は、痛くなるほどの沈黙に支配されていた。梅雨もただ中の七月初めであるこの日は、詩乃達が住む家に和人と明日奈の姿もある。しかしそれは、いつものように集まっているという事ではなく――…()()の顔が痛々しいまでに歪んでいて、詩乃に至っては目の下の隈が酷く、この状況になってから一睡もしていない事が伺えた。

 桜川涼が()()()()になって、既に三日が経っている。彼が消息を絶ったのは、親友である和人と共にとあるアルバイトをした後。

 

「クソッ! やっぱり出ない……!」

 

 もう数十……いや、百は超えた数のコールは、同じメッセージで切られる。ある意味、自分が元凶であると思い詰めている和人は暇があれば……いや、無理にでも時間を作って必ず何かを知っているであろう男へと電話をかけ続けている。

 彼らが行っていたアルバイトとは、あの胡散臭い眼鏡の官僚――…菊岡誠二郎から紹介されたものだった。親友も警戒を示していた男が持ってきた話に、バイト代に目が眩んだとはいえ乗ってしまったのは和人であり、二カ月経った頃に涼にも紹介してみたのだが、それがこの様だと和人は怒りを滲ませる。

 

「キリト君……」

「あ、ごめん……」

「……ううん、怒るのも仕方ないよ」

 

 明日奈が力なく首を横に振った後、人形のように力なく座る詩乃を見た。隈もそうだが、窶れているように見えるのは気のせいではない。藍子や木綿季に聞けば、涼が行方不明だと分かった時から飲まず食わずで眠ってもいないという。今は詩乃の母親が世話をしてくれているが、今日会った時に聞いた『あの時に戻ってしまったみたいね』と言う言葉が、脳裏に焼き付いている。

 

『今は義父さんと義母さん……それに叔父さんも動いてるそうです』

『色々と伝手も動いてもらってるみたい。だから、すぐ見つかるよ』

 

 そう言って笑った彼の義妹二人も、同じように目の下に隈を作っていた。そして、こういう時には最も頼れそうなもう一人の家族であるストレアも、時を同じくして姿を消した。彼女の本体が居るパソコンは未だに稼働中である事から、データ的に居なくなったわけではない――…しかし、その行方を追おうとしたが、ユイですら追い切れなかったのは明らかに異常だった。

 

「一体なんで彼が……」

「正直、あいつを拉致するより俺の方が体格的にはしやすいはずなんだ」

 

 恋人のそんな言葉に明日奈は咎めるような視線を送るが、今は彼がその視線に構う事は無い。事実として、現実の和人と涼を比較すれば片や平均程度の身長体重の高校生であり、もう片方は身長一九〇cmで体格のいい高校生だ。どちらが誘拐しやすいか等は良く考えなくても分かるし、だからこそ解せないのだ。

 

 思い出せ、と和人は自身へと問いかける。自分が行っていたアルバイトは新型フルダイブ・システムのテストプレイヤーだった。ダイブしていた間の記憶はほとんどないが、それでも他に手がかりがある筈だと思考に没入する。

 

 アルバイトで行った場所は、六本木にある《RATH(ラース)》という会社が入っているビルで、そこには巨大な……それでもキングサイズのベッド程度の機械が数台あり、それが新型の《ブレイン・マシン・インターフェース》……ラースのスタッフが《ソウル・トランスレーター》と呼んでいるマシンだった。そこで多様なフルダイブのテストを二カ月ほど行って、最終の長時間フルダイブのテストに涼を誘った。アルバイト代が良かったのと、菊岡からもう一人……出来れば長時間ダイブの経験者はいないかと言う問い合わせに応えた形だったが、今では後悔している。

 

 そのマシン、《ソウル・トランスレーター(STL)》は、《ソウル・トランスレーション》テクノロジーという理論において、脳は一つの量子コンピューターに見立てられており、その中にある光……《エバネッセント・フォトン》という光子(量子)の集合体へとアクセスしているという。それはマシンがソウル()の名を冠している事から、ラースの技術者達は《人間の魂》と思っているだろうという事はわかった。

 

 《Fluctuating(フラクチュエイティング) Light(ライト)》、略して《フラクトライト》と呼ばれていた、魂と思われる物にアクセスする機械。正直、荒唐無稽とも言える想像でしかない考えが和人の脳裏に浮かんで、彼は首を横に振った。

 

「そんなこと、あり得るはずがないだろ……」

 

 親友の魂に異常がある、という想像を和人は振り払おうとして、払えない。相当に精神が参っているな、とまだ冷静な部分が自分自身に言っているような気がして、顔を上げる。

 視界に映ったのは、親友に話しかける恋人の姿。それでもその親友は反応を見せないまま、何もない空間を見つめたままだ。そのあまりにも痛々しい姿に、彼は心の中で謝罪する。

 

「無事なのか? オーリ……」

 

 親友への問いかけは、誰にも届く事なく消えていく。仮想現実では最強だのなんだの言われている自分が、現実ではこんなにも無力だと知っていたはずなのに、その事実を突きつけられれば悔しさしかない。六本木のラースに赴いて、スタッフを問いただしても知らないの一点張り。紹介してきた菊岡は連絡が取れない。彼に出来る事は既に無いに等しかった。

 

「皆様、憔悴しておられる様子ですね」

 

 そんな時に、まったくの第三者の声が室内に響いた。驚きで顔を上げる和人と明日奈の視線の先には、長い黒髪を後ろで一つにまとめたポニーテールに、前髪の隙間から覗く金色の目が印象的な女性が居る。さっきまで誰もいなかったはずの場所に立つ女性を見て、和人は立ち上がり、明日奈は突然の女性の登場にも反応を示さない詩乃を抱きかかえて警戒を示した。

 

「警戒されるのはご理解できますが、今は火急の件に付き本題に入らせていただきます――…お探しの人物が見つかりました。その場所へ貴方方三名を連れて行けと桜川様よりご依頼がありましたので、ご同行願えますでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 アタシが()()()()()()()()()()()()()()

 この世界に来て現実の記憶を封じられ、この世界で生きてきた記憶を得ようとも、アタシが知っている兄貴と変わらない振る舞いをする彼に対して、素直に尊敬の念が芽生える。

 あの兄貴は、アタシを目覚めさせたオーリ(プレイヤー)であり、アタシを双子の妹と定義した桜川涼(家主)その人だ。何故こんな事になっているかは、アタシも良くはわからない。アタシがこの世界――…《アンダーワールド》と呼ばれる世界に居て、兄貴の妹になっている理由は、正直言って成り行きのようなもの。

 

 切欠はキリトが話していたアルバイトに興味を持った所から。兄貴はそれのバイト代に釣られ、散々迷った挙句に参加を決めた。詩乃にはもちろん話を通していたけど、それでも都合三日間飲まず食わずでのフルダイブという内容に詩乃は難色を示して、兄貴が土下座までしたのは良い思い出である。

 そんなバイトにアタシはこっそりついていき、興味本位で聞き耳を立てていれば《ソウル・トランスレーター》という単語が聞こえて(マイク)を疑った。お父様が言っていた、魂にアクセスする機械――…あの邂逅から探し続け、見つけられなかった物がそこにあると聞いたからだ。

 ならばとアタシの行動は早かった。こういう所は外から内への侵入に対しては堅牢だが、内からへの移動は比較的容易い。だからこそ数機あったSTLの内の一機の回線から、その大元の世界へと入り込んだ。その世界が《アンダー(Under)ワールド(World)》って名前なのを知るのは、少し後の話。現実世界では数分後だけど、《アンダーワールド(UW)》では一週間経った頃の話である。

 

 最初にUWに来て分かったのは、この世界を構成する為に《ザ・シード》が使われているという事だった。それはアタシにとって都合が良い事だ……なんせ、アタシはその大元であるSAO由来のAIである。規格が合っている方が動きやすいのは確かであり、もっと動きやすくなるためにUWのログを確認する。この時に、UWと現実での時間差……千から千五百倍と言う倍率でクロックアップされている事に気が付いたわけだけど。

 それからアタシは、UWから繋がっている端末にあるデータを片っ端から収集して解析し、色々な事を知るのであるが……最も大きな収穫としては、魂の原型とも言えるモノ。《精神原型(ソウル・アーキタイプ)》と命名されていたそれを発見した事を挙げよう。それを取り込んで、アタシは兄貴の双子の妹としてこの世界へと根付いたのだ。

 

(外では約四日。いや、何故か現実と時間がリンクしていた時期があるから、正味六日ほどか)

 

 その間、兄貴は一度もログアウトしていない。最初の話での三日はとうに過ぎているから、詩乃がキレて六本木の会社に乗り込んできてもおかしくないが、それでも兄貴はログアウトしていない。流石にそれはおかしいと考えてしまうのは自然な事であり、だからこそアタシは最悪を演算する。

 

「現実とリンクしたあの時期で、兄貴は移動させられた……六本木から、別の場所。おそらくはこの世界の本体がある場所に」

 

 そしてそこは、詩乃には手が届かない場所にある。ただ、そうなってしまうとアタシにとってはもっと考えたくない事態になってしまうのだが。

 

(パパさんとママさんが出張ったら、これ作った人達死んだね)

 

 良くて半殺しかもしれないな、とアタシはさっきと違う意味で溜息を吐いた。あの二人の異常な経歴を正確に知っているのは、家族の中では多分アタシだけだろう。兄貴も知らないあの二人の顔は、どんなドラマや映画よりも現実離れしていた。そんな二人が動けば、地球上にいるなら兄貴をすぐに見つけ出す事だって出来る。乗りこんでくるだろう彼らを説得できるかどうかは、その人次第と言った所か。

 

 そんな憂鬱になりそうに思考を破棄して、アタシは自分の部屋のベッドに寝転がる。私服……結構な値段のするドレスではあるが、皺になるのも構わずにゴロゴロと転がる。使用人は部屋の中には控えていないので、見られる心配が無いから思い切り気を抜く。

 兄貴の妹としてこの一等爵家……UWに存在する貴族の中でも最上位の貴族の家に生まれたという事になった身としては、義務をこなすのも吝かではないがあの両親はダメだ。現実の兄貴の両親と違って、子供を道具としてしか見ていない、無駄に自尊心を肥え太らせた害悪とも言える存在。()()()()()なんて、とんでもない間違いだ。

 

「《禁忌目録》や法に触れなければ何をしたって構わない……その狡猾さは生存と言う意味では必要な要素だけど、流石に弱い者いじめは好きじゃないから」

 

 この世界での両親を排除する。その思考に行きついた時に右目がズキリ、と疼いた。《精神原型(ソウル・アーキタイプ)》……《人工フラクトライト》に植え付けられた、思考を制限する《コード:871》が起動したのだ。おそらく兄貴はこれの存在を知らない。元々兄貴には付いていない物だし、アタシ達の周りにいるUWの住人はそもそもここまで考える事が少ない。

 だから、アタシも最初に起動した時は驚いたが……その時に解析は済んでいる。ならなぜ今まで放置していたかと言えば、明日は兄貴がこの家の当主になる日である。そうなればアタシもお零れで色々と権限が使える予定なので、コードを解除しても身を守りやすい。バレたら厄介だと予想できるからこそ、今まで待っていたのだ。

 

(兄貴を治療する方法を、見つけないとね)

 

 ()()()()()兄貴の魂を治す術を探すために、アタシも動かなきゃ。

 

 

 

 




オリ主「この事がバレたら俺監禁されない?」
ストレア「バレないって本気で思ってる?」


ストレアの後ろには、目からハイライトオフした詩乃と藍子と木綿季と悠那


オリ主「……」
ストレア「……」
オリ主「詩乃以外にはワンチャン、バレない気がする」
ストレア「そこで詩乃は確定だっていう兄貴は潔いのか、他にはばれないと往生際が悪いのか……」
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