流星の軌跡   作:Fiery

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三が日だからいいよね(暴走の連投


重い話は進みが遅い

 《ヴァルゼライドの双子竜》

 一等爵家である《ヴァルゼライド家》に生まれた双子、《オーリ・ヴァルゼライド》と《ストレア・ヴァルゼライド》を指した言葉である。

 

 双子の兄であるオーリは生まれた当初から体が弱かったが、喋り始めた齢から聡明であり公明正大。身分に厳格なこの世界にありながら、自身より身分の低い者であっても教えを請い、良く吸収し独自の高みへと至る。多岐に渡るその才を持ち、己が道を切り拓く姿勢に人々は太陽(ソルス)を幻視したが故に、《太陽竜》と呼ばれる。

 

 対して双子の妹であるストレアは兄と違って体に恵まれ、天真爛漫なその振る舞いで兄とは違う形で人を惹きつける才を持っている。彼女もまた良く教えを吸収し、取り分け《神聖術》の行使にその才能を発揮した。兄の様に一際輝くような光ではなく、しかし闇夜にあってもしっかりと足元を照らし続ける柔らかな光を感じさせる彼女は《月光竜》と呼ばれた。

 

 この二人が特に秀でているのは、戦う事であった。妹は身の丈ほどもある巨大な両手剣を振るい、兄はありとあらゆる武器を使う。二人共、並の戦う為の《天職》を持つ者を凌駕するほどの実力を持ち、身近ではお互いしか互角に戦える相手が居ない程。

 

「……脆いな」

 

 そう称えられる存在の片割れは、その手の中で砕け散った武器を見た。腕のいい鍛冶師の天職を持つ領民に作らせた剣だったものは、彼が振るった後に砕けて光へと還ってゆく。作った鍛冶師が謝ろうとするのを手で制し、砕いた剣の代金を置いてから自分達の家で働く衛兵らに使わせる物を発注して彼……オーリは店を出た。

 今回の目的は公的な物であるので二人の護衛を率いており、彼自身もその佇まいは一等爵家の()()に恥じぬ風格を備えたものになっている。幼い頃弱かった身体も、今現在は普通の成人男性並みの体力と強度があるが、その白髪と白い肌は終ぞ治る事は無かった。

 

「お疲れ様、兄上」

「ストレアか」

 

 屋敷へと戻る道を行けば、薄紫色の修練服を着て両手剣を背負ったストレアが声をかけてくる。彼女は付いていた護衛二人にも労いの言葉をかけて、視線を兄であるオーリへと戻す。

 

「またか?」

「話が早いね。二カ月ほど空けますので」

「まったく……今度は何処だ? 前は北帝国内とは言え、結構遠出だったろうに」

「今回は真っ直ぐ真北を予定してますので、整備済みの街道を通ります」

「――…なら、気を付けて行くように。可能なら手紙でも送れ」

 

 オーリの言葉にストレアは一礼して、何かを思い出したように『あ』と声を上げる。

 

「どうした?」

「メディナが来てたので、応接間に通しておきました」

「それを早く言え……」

 

 溜息を一つ吐いて、オーリが歩き出す。『ごめんなさーい』とストレアが元気よく駆けていくのを感じつつ、屋敷の門をくぐった。護衛とはそこで別れて、急ぎ足で応接間へと赴く。

 彼が応接間の扉を開ければ、そこには慌てて立ち上がろうとする赤い髪の少女が居て、彼はそれを手で制した。

 

「待たせてしまったかな? メディナ」

 

 オーリが声を掛ければメディナと呼ばれた少女は、少しだけ頬を自身の髪色と同じように染めて視線を少し逸らす。

 

「あ、いや……さっきまでストレアと話してたから、大丈夫」

「そうか」

 

 少しぶっきらぼうに見える彼女のリアクションはいつもの事なので、オーリは気にする事無くテーブルを見た。そこには確かに二人分のカップがあり、メディナの対面にある物は空になっていた。

 彼女の名は《メディナ・オルティナノス》という、二等爵家の令嬢……いや、当主だ。彼女との関係は少々複雑……と言うほどでもないが、知り合った経緯は複雑である。元々彼女の家はオーリらと同じ一等爵家だったのだが、一族の祖先達が代々与えられた密命を失敗し続け、彼女の代で降格を受けた。それだけならまだ仕方ないと割り切れたであろうが、その後の貴族達の対応が問題であり、オーリとしても怒りを覚えたものだ。

 

 平たく言えば、彼女は虐められていたのだ。それも限りなく悪辣で陰湿に、この世界を統率する《世界中央公理教会》が定める最上位の法である《禁忌目録》にも、オーリ達が居る国である《ノーランガルス北帝国》が定めた《帝国法》にも触れないように。

 オーリが助け出す前の彼女の状況は悲惨の一言であり、それを知った彼は当然のように怒りを示し、よりキレたのがストレアだった。しかし、二人がしたのは何てことはない、虐めていた連中が突いていた《禁忌目録》や《帝国法》の穴を丁寧に塞ぎ、逆撃しただけ。自分達が法を犯したと知って慌てふためく相手の様子を見て留飲は下がったが、それによって貴族の大半がキレイキレイになったのは流石に予想外だったと、オーリは回想する。

 

「……オーリは学院に行くの、だろう?」

 

 その後で、彼女にその暗躍がバレて色々あった事も思い出していれば、新しくカップに紅茶が淹れ直されたタイミングでメディナが口を開いた。彼女の言う学院とは、《北帝国》にある物で言えば《ノーランガルス帝立修剣学院》の事だ。ちなみに他にも東、西、南と帝国はあり、それぞれに学院は存在する。

 オーリもストレアも、そこに行く事は決定している。実際の入学はまだ先だが貴族の務め……ではないが、民を守る為の力を得る場所としては最良に近い場所である為に、オーリはそこに行く決断をした。ストレアは『何か楽しそうだし』と言う理由なのでそこはかとなく不安ではあるが、彼女はやる事はきっちりしているのでオーリは深く考えないようにしている。

 

「あぁ。でもそれは君もだろう? 何かあったのか?」

「いや、何かあったというわけじゃなくて……」

 

 言い淀むメディナを、オーリは怪訝そうに見る。今日は急ぎの用も仕事もない為、別に彼女に付き合うのも問題はないが、言い淀む理由が分からないのでそこは少し居心地が悪かった。

 

「……私は、やっていけるだろうか」

「あぁ……なるほどな」

 

 彼女が懸念する所が、ようやくオーリにも理解できた。虐められていた彼女は、人付き合いが酷く苦手なのだ。同性のストレアは彼女の性格も相まって、打ち解けるのが早かったように思うが、オーリは違った。何が目的だと胸倉を掴み上げられ、落ち着けと宥めて色々と説明をすれば土下座に至り、それも止めてくれと言えば何やら従者になると言い出す始末で今のようになるのにかなり時間がかかった。

 それに、彼女の場合はその背景も問題であり、下手をすればまた虐めの対象に……と言う可能性も無いわけではない。北帝国の貴族が例の騒ぎでキレイキレイになったとは言え、彼女の背景が消えたわけでも、それを侮る空気が無くなったわけでもない。

 

「安心しろ、と言うのも難しい。僕もストレアも、四六時中君と居られる筈もない。でもメディナ、君の友として言えば『心配のし過ぎ』だ」

「えっ?」

「確かに事実として、君の家を侮る空気はあるだろう。しかし僕やストレアと一緒に、君もまた魔獣などの退治で武功は挙げている。中には単独で強敵も倒しているんだ。そんな君自身を侮れる相手が、一体どれだけいるだろうか?」

 

 穏やかに笑いかけるオーリが、力強い言葉と共にそう問いかける。メディナは自分の心の中でその言葉をかみ砕きながら、自分の中にある自信を積み上げていく。彼女の中に渦巻いていた不安は、既にかなり小さいものになっていた。

 

「……そう、だな。頑張ってみるとするよ」

「それが良い――…それに、君もそうだがストレアも、僕にとっては主席争いの相手だ」

「いいのか? ライバルに手を貸して」

「命を賭けた戦場でもないのに陥れた相手に勝利して、何が得られるというのかな?」

 

 強い意志が込められた赤い眼が、メディナを射抜く。その視線を正面から受けて、彼女は自分らしく笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 和人と明日奈、そして詩乃の三人は突如彼女の家に現れた女性……加藤(かとう)と名乗った人物が運転する車で東京・新木場のヘリポートへと向かった。出発前に三人は涼の父である巌より、加藤の身分保証は受けていて、元々彼の父親に一定の信頼を置いていた和人と明日奈は元より、義父の言葉に詩乃もようやく反応を示していた。

 

『彼女の案内で、涼の元に行ける。私はこれから色々と雑事をこな(OHANASHI)してくるから、君達が息子の事を確認してくれ』

 

 そうして彼は、忙しなくまた家を出た。涼の母親の方は藍子と木綿季を見る為に家に残ったが、ロクに何も食べていない三人にゼリー飲料を差し入れ、移動中だけでも眠る様に厳命していた。

 そして、新木場のヘリポートからヘリに乗り換え、洋上へと出る。用意されていたヘリの中には先客が居て、和人は驚きを示す。

 

「……キリト君?」

神代(こうじろ)さん……? 何で貴女が」

「ワタシがアメリカからお連れしました。今回の件には決して無関係では無いので」

「――…それはどういう意味?」

 

 少しだけ掠れている声で問いかけたのは詩乃だ。未だに隈の取れていない目元が鋭く歪められ、凛子を一瞥する。その視線に宿る物に、凛子は恐怖した。答えの如何によっては、彼女は何の躊躇いも持たずに自身に何か害を及ぼす……そう感じ取れてしまったからだ。

 その意を感じ取ったのは他の人間もそうで、明日奈はその肩に手を置き、加藤に至っては動き出しを押さえられる位置に移動した。

 

「今回の行方不明の件ではありません。これから向かう先で使用されている機器について、この方が生み出した技術の流れが汲まれていますので、技術オブザーバーとしてですね」

「そう。なら()()()()良いわ」

 

 詩乃が纏った剣呑な雰囲気が一瞬で霧散し、彼女は行き先を聞く事も無くヘリの座席で寝入り始めた。あまりの態度の落差に凛子が少し惚け、和人と明日奈は苦笑する。

 

「色々聞きたい事はあるんですが……」

「私も、色々聞きたい事が出来てきたけど……」

「大部分については、到着すればご理解いただけると思います。正確に言うならば、到着した先に居る責任者の話を聞けば、ですが」

「責任者?」

「……先にある程度、お話しておきましょうか」

 

 加藤が胸ポケットからワッペンを取り出し、それを和人らに見せる。和人と明日奈は疑問符を浮かべたが、凛子はそのワッペンに描かれているものに対して目を見開いた。

 

「これは……!」

「改めて自己紹介を。ワタシは加藤(かすみ)一等陸佐――…()()()です」

「自衛官……まさか、これから行く所って」

「そうですね、自衛隊の施設になります」

 

 明日奈の言葉に頷いて『何重にもカバーはしているようですが』と加藤一佐は冷徹な表情のまま続ける。

 

「その施設の名は《オーシャン・タートル》。責任者の名は菊岡誠二郎。階級は二等陸佐」

「――…あの人が、自衛官?」

「あの男の本当の姿って事か……なら、何で総務省に」

「二佐の真意は測りかねますが、おそらくはVR技術の軍事転用の為でしょう。二佐が総務省へと出向した時期は、茅場晶彦氏が当該技術を発表した時期と合致していますので」

 

 加藤が凛子へと視線を送れば、少し青褪めた表情の彼女は目を伏せた。和人も明日奈も、知っている名前の知らなかった事実に驚きを隠せない。

 

()()()()()()()()?」

 

 そんな各人の心境をあえて無視して、詩乃がただ一言で切って捨てる。

 

「詩乃のん……」

「どんな目的であれ、組織に属してるかなんて私には関係ないわ。どんな理由があったにせよ、そいつが涼を拉致した主犯である事に変わりはない。なら相応に報いを受けてもらう――…多分、お義父様はそのつもりなんでしょう? 加藤さん」

 

 詩乃の確信めいた視線を受けて、加藤の鉄面皮が初めて苦笑と言う形で崩れる。内心では『こんな所まであの二人の影響を受けなくていいのに……』と嘆いていたが、それは顔に出さない。

 

「流石、と言っておきましょう朝田さん。ただ、これ以上は当人に話を全て聞いてからでお願いします。今現在、ワタシにそこまでの権限はありませんので」

「そうですか。じゃあ私は着くまで寝るから……」

 

 そうして、改めて眠ろうとする詩乃だったが、自分を見て笑っている和人と明日奈に怪訝そうな表情を向けた。

 

「何よ」

「いやー……詩乃のんの調子が戻って来たなって」

「流石、あいつの奥さんだな、と感心した」

「あなた達、後で覚えてなさいよ」

 

 

 

 

 

 

 ヘリが飛び立ち、濃い海霧の塊を抜ければ、窓の向こうには一面に藍色の光景――…大海原が広がっている。砕ける波濤すら見て取れそうな高度を飛ぶヘリの中で、神代凛子は何故ここにいるかを考える。

 

 切欠は、今同じヘリに同乗している加藤と名乗った女性が、アメリカに居た自身の元に現れた事だ。現れた理由として加藤が告げたのは、凛子がアメリカに行く前に厚労省へと技術提供した医療用フルダイブマシン《メディキュボイド》の発展形の可能性について問いたいとの事だった。詳細を尋ねてみれば、自衛隊においてのメンタルケア……もっと言うならトラウマ、PTSDを受けてしまった自衛官の治療のために、フルダイブ技術が流用可能かどうかについて。また可能な場合、どのようなアプローチが存在するか等、一介の自衛官が考える事なのか、と凛子が思ってしまうほどに様々な問いに対して意見を求められた。

 

 ただ、彼女にとっては久しぶりに議論に没頭出来た事もあり、中々に良い時間だったと今でも思っている。稚拙さなど気にせず加藤が投げかけた疑問の中には、自分では考え付かなかった物もあり、本当に久しぶりに重い因縁や過去の傷を一瞬でも忘れさせてくれた。『時間があればまた話がしたい』と思って連絡先を聞けば、『またお話を伺う事もあるでしょうから』と快く鉄面皮のまま教えてもらい、そのまま週一で色々な話をしていたのだ。凛子の勤めるアメリカの大学で、助手をしてくれているマユミ・レイノルズがその頻度に『まさかそっち系?』と言う程度に、凛子は加藤と話すのが楽しかった。

 

 そんな折、加藤から連絡があった。『《ソウル・トランスレーター》という物に聞き覚えはあるか』と。その頃にはもう加藤の詳細な身分等も知っていた凛子は『隠す意味も無いだろう』と、自身へ菊岡誠二郎から再三に渡り、次世代型ブレイン・マシン・インターフェースの開発プロジェクトへの参加要請が届いている事を話した。

 加藤は凛子の話を聞き終えると、『来日や滞在の費用は負担するので、少し日本で自分に協力して欲しい』と申し出た。話を聞けば、要はその菊岡誠二郎がしている事自体は上の許可も得ているが、その内容で不透明な部分が存在する事。全容は掴めていないが、凛子が言った分野で何かをしているのは間違いが無い為、技術的な助言が欲しいとの事だった。ネット回線でのやり取りは、日本とアメリカの時差もある上に嗅ぎ付けられる恐れがある――…という事を、珍しく鉄面皮を崩して真剣な顔で述べた加藤に、凛子は思わず了承の返事をしてしまった。

 

 そして来日したのが一週間前であり、その時はまさか恋人だった茅場晶彦をSAOにて打ち破った三人の内、二人と直接会うとは思っていなかった。しかも、話を聞けば三人の内の最後の一人がその菊岡に連れ去られた可能性があり、自分を一瞥した少女がその婚約者であるという事実まで判明して、凛子の明晰な頭脳でもショート寸前である。今頃サンディエゴで肌を焼いているであろう助手に対して、八つ当たり気味に恨むのも仕方ないと言えた。

 

『後十分ほどで《オーシャン・タートル》ですが、まぁもう見えていますね』

 

 ヘリを操縦する加藤のアナウンスが入り、凛子は何処までも広がる海面の一角に、小さく黒い矩形を見た。

 

「あれが……?」

 

 彼女の呟きと共に、アナウンスで起き出してきた和人と明日奈も窓の向こうへと視線をやって、徐々に大きくなっていくその構造物を見ていた。近づくに連れて露わになってくるその威容は、船と言う言葉では到底表現できない。

 

『世界最大の空母の一・五倍の全長に、高さは二十五階建てのビル相当……よくもまぁ、これだけの物を作る事を許可した物です』

 

 加藤の声音がほんの少しだけ忌々しそうなものになったのを、凛子は聞き逃さなかった。確かに、これだけの物を作る予算があるのなら、他に回せばどれだけの事が出来るのか。この《オーシャン・タートル》の建造自体が無駄である、とは言わない。しかし、この中に茅場晶彦が《ナーヴギア》として世に送り出し、凛子が《メディキュボイド》として発展させた技術から生まれた物があるという――…そして更には、彼女達の恩師や凛子も一度だけ会った事のある天才少女《七色・アルシャービン》の協力までも得て、進化した物が。それを生み出すための入れ物としては余りにも異様なのは確かだった。

 

「さながら、海を逃げ回る魔王の城、かしら」

「辛辣ゥッ!?」

 

 いつの間にか起きた詩乃の、あまりの物言いに和人が思わず叫んだ。自走式メガフロートと呼べる物なので、あれは確かに動くのは動くが、逃げ回るという表現は無いだろうと明日奈は苦笑する。

 

「詩乃のん、抑えて抑えて」

「涼が見つかったら考えておくわ」

「あいつの無事を色んな意味で願わずにはいられないぞ……」

「中々に毒舌なのね……」

 

 毒舌と言うレベルではないのだが、と加藤が内心でツッコんだ。加藤は詩乃らを迎えに行く前から……何なら涼が行方不明になる以前から、この構造物の表の仕様も裏の目的も調べてきたが、詩乃の逃げ回るという物言いが()()()()()()()()()()()()()に戦慄していた。

 

『そろそろ着艦します。ワタシが合図をした後に降りてください。神代博士はワタシと一緒に』

 

 加藤の声に四人は頷き、それを確認した彼女は機体をほぼ揺らす事無く艦橋構造物屋上に設けられたヘリポートへと着陸させる。それと同時に加藤は素早くヘリを停止させ、颯爽と降りていく。彼女は手慣れた様子で後ろのドアを開けて凛子を降ろした後、ヘリポートで待っていたダークスーツの男に対して何やら紙を見せていた。それを見た男は驚愕の視線で加藤を見るが、加藤は淡々と物事を進めていき、残っていた和人らにも降りるように促した。

 

「……あの人、青褪めてないか?」

「うん……加藤さんと話してる間に急激に」

「組織内で行ってる事は、組織の権力で殴られると弱いのです。覚えておいた方がいいですよ……という戯言は置いておいて、行きましょうか」

「……友人が想像以上に恐ろしいと実感したわ」

「ご愁傷様」

 

 青褪めている男性を捨て置いて加藤が先導し、内部へと四人は入っていく。巨大な構造物だけあり、内部は相当に広く、途中で会ったのは紺色の制服を着こんだ男性のみ。その男性も加藤と二言三言話しをして、またあの紙を見せれば沈痛な面持ちで『どうぞ』と通してくれた。

 

 その際に『統合幕僚監部の連名』だとか、『防衛大臣の許可』だとか、そんな物騒な話が聞こえたが四人は全力で無視した。覚えていれば二度と日常に帰ってこれなさそうな話だった。

 

「……厳重そうなのに、全部スルーしてる……」

「いえ、金属及び爆発物の探知ゲートは三回ほど潜ってますよ。それにこの紙は、貴方達がここに居ても問題ない事を保証するものですし、ワタシの仕事の内容も書いてありますので」

「見たらヤバい物しか書いてないなこれは……」

「そうですね。各幕僚長と防衛大臣の連名で且つ、それぞれの印が押された書類は他にない気がします」

 

 加藤のその言葉を、今度も四人は無視した。加藤としてもそれ以上聞かせるつもりはなかったのか、傍にあったドア脇のスリットに胸ポケットから取り出したプレートを差し込み、右手の親指をセンサーパネルへと押し当てる。それから一秒ほど後に、軽いモーター音と共にドアが開く――…GGOで見た、厳重封鎖区画への隔壁扉みたいと詩乃は場違いな事を考えた。

 

 そんな考えと共に、確かな予感がある。恋人となってから外した事のない勘が、彼がここに居ると囁いている。ただそれだけで、詩乃は自身の身体に熱が戻ってくるのを感じていた。まだこの目で確認はしていないために安心も油断も出来ないが、それだけで彼女は()()()()()

 

「この先に責任者が居ます。ですが最初から掴みかかるといった事は無いように」

「相手の出方次第じゃない?」

「その時はワタシが物理的に二佐を指導しますので」

(((意外と武闘派だ……)))

 

 【第一制御室】と簡素なプレートがつけられたドアの前で、加藤が横のパネルを操作する。重々しく開いたドアの先は深い闇が広がっていて、それが何かの暗示の様に四人は感じ取れた。そんな四人を加藤が見た後、『行きましょう』と声をかけて進みだす。彼女の後を追い、四人が部屋へと足を踏み入れれば、後ではドアが静かに閉じていく。

 床にはオレンジのマーカーが灯され、奥には微かに青白い光が見える。そんな明かりのを頼りに周りを見れば、巨大な機器が所狭しと並んでいるのが何となく分かった。マーカーを辿り、機器の狭間を抜ける為に少しだけ歩いた後、四人は驚愕に目を見開いた。

 

 

 視線の先では、ここではない何処かの光景が広がっていた。街――…いや、都市と思わしき物ではあるが、建物は全て白亜の石造りの物。少なくとも日本の都市ではないのが明白だった。更にはそれらの建物……全てが二階建て以上の巨大な物であるはずのそれが、なお小さく見える程に巨大な樹木が根と枝葉を広げている。

 建物と同じく白い石畳の道路が、無数の階段やアーチを為して木々の間をくぐり、そこには人……現代人とは思えない、ゆったりとしたシルエットのワンピースや革製のベスト、要はファンタジー中世風の衣装を身に纏い、髪の色も金や茶色、黒とカラフルだ。

 極めつけは、そんな光景の先にある一際白く輝く巨大な塔。四つの副塔を従えた主塔は、その上部が青空の彼方まで伸びていて――

 

 そこで初めて、四人はそれが巨大なモニターに映し出されたものだと気が付いた。

 

「《オーシャン・タートル》へようこそ。あまり、歓迎は出来ないがね」

 

 そんな声と共に、天井の照明が控えめな明かりを灯し、室内から暗闇を追い払う。声のした方向……和人らから見て右の方向に視線を向ければ、和人や明日奈、凛子にとっては知っている顔が居る。

 

 彼らが今、最も問いただしたかった男である菊岡誠二郎が、彼らの知っている人懐こくありながら何も見透かせない、涼が『胡散臭い』と評した笑みを浮かべていた。

 

 

 

 




ゲームでちょっと心折れそうになったヒロインを性懲りも無く出す作者はここに居ます(何


アリス「私は!?」
作者「幼い頃にオリ主と絡んでないからだいぶ後じゃないですかね……」
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