流星の軌跡   作:Fiery

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最後の三日目!

大目に見てくださいお願いします。かきためがんばってます!


やっと説明が終わる……終わらない? そんなー

「歓迎も何も職務中でしょう。それで、その恰好の意味は?」

 

 開口一番、加藤が菊岡へと言葉を投げかけた。今現在の菊岡の格好と言えば、青い久留米絣の浴衣に紬の角帯、そして裸足に下駄履きと言う、おおよそこの最新鋭の機器に囲まれた室内には似つかわしくない恰好であった。

 

「もう一カ月も海の上に居るんですよ。これくらいは自由にさせてもらえないかな?」

 

 『うへぇ』と言う擬音が付きそうなほど、菊岡が疲れたように表情を歪ませる。それを見ても加藤の表情は鉄面皮のままであるが、その眼光の圧が増した気がした。『風紀委員と不良生徒みたい』というのが明日奈の率直な感想だったが、流石に黙っておく。

 そんな加藤の威圧を受け、菊岡が背筋を伸ばす。

 

「それで、今代(こんだい)飛加藤(とびかとう)》と名高い加藤霞一等陸佐がわざわざ、こんな海の上まで何の御用で?」

「菊岡誠二郎二等陸佐。『現時刻を持って貴官が主導する《プロジェクト・アリシゼーション》の全権を加藤霞一等陸佐に移譲せよ』と、防衛大臣並びに統合幕僚監部の連名での指令を伝えに参りました」

「……何だって?」

 

 問い返す菊岡に、加藤は答えの代わりに持っていた紙……防衛大臣と各幕僚長の連名での押印がされた正式な指令書を手渡す。それを受け取り、何度も繰り返し読み込んでいく菊岡の表情から、張り付けたような笑みが消えていく。

 指令書に一切の不備はない。権限移譲までの間に加藤一佐が連れた()()の同行者の保証まで明記されたものになっているのが少し気になる所ではあるが、押された印も彼の記憶の中にある物で相違ない。そして何より、持ってきたのが自衛官でありながら防衛監察本部の監察班に属する人物であるのも、信憑性を上げていた。

 

「……問い合わせても?」

「えぇ、ご納得の行くまでどうぞ」

 

 菊岡が部屋の隅にあったホットラインで監部へと連絡を取るのを尻目に、先ほどまで彼がいた場所の横に座っていた男性……ブリーチした髪を剣山のように逆立て、丸眼鏡をかけた小柄な男がおずおずと加藤達の方へと顔を向ける。

 

「……何か、凄い事聞いちゃってます? ボク」

「やっぱり君だったのね、比嘉君。だとは思ってたけど」

 

 凛子の視線を受け、比嘉と呼ばれた青年は力なく笑った。彼は凛子と同じ……そして、あの茅場晶彦も属していた重村徹大教授主催の研究室、通称《重村ラボ》の学生だった男だ。強烈な個性を持っていた先輩に隠れていたが故に目立っていなかったが、そんな後輩が大規模極秘プロジェクトのメンバーだったという事に変な感慨を抱いて、凛子は加藤を見る。

 

「加藤さん、説明は頂けるのかしら?」

「勿論です。お三方も置いてけぼりなので、まずはワタシの知っている物が正確かどうかの確認を兼ねて、説明させていただきます」

 

 そう言いながら、加藤が比嘉の横に立って操作を開始する。『ちょっと!』と彼が声を上げても、彼女がじろりと視線を向ければ気圧されて押し黙ってしまった。

 程なくして、巨大なモニターに映し出されていたファンタジーな映像が切り替わり、代わりに表示されるのはこの《オーシャン・タートル》内にある施設の映像。そこには和人の記憶にもある機械……《STL》が二台並び、内一台には誰かが横になっていた。

 

「――…涼ッ!!」

 

 詩乃が叫んだのは、最も愛しい人の名前。映像の先で眠るように横たわっているのは、桜川涼で間違いない。詩乃が確信すると同時に、和人と明日奈も彼がそうであると確信を得た。

 

「彼はちゃんと生きています。何故ここに連れて来られたかなどは、二佐に聞くしかありませんが」

「生きているのは当然ッス。彼は今、治療中なんスから」

「……どういう事?」

 

 比嘉の言葉に、詩乃が剣呑な……殺意すら混じっているだろうオーラを立ち昇らせたかのような視線で彼を見る。自分よりも年下の少女が発しているモノとは思えないほどに、濃密で恐ろしいそれを受けて、比嘉の顔色が青くなってくる。

 

「お前達が、涼に、何かしたのか?」

「い、いや、それは……」

「詩乃のん落ち着いて! 今はまだわたし達何も聞いてないから!」

 

 比嘉へと顔を向け、その首に手を向けようとした彼女を、後から明日奈が抱き止める。親友の嘆願に対して、詩乃は目を閉じて一度深呼吸を行い、一先ず沸き上がった衝動を抑え込んだ。それを見届けて和人が口を開く。

 

「加藤さん、話を続けてくれ」

「わかりました。まず彼が横になっている《STL》……正式名称《ソウル・トランスレーター》についてですが、平たく言えば《魂の翻訳機》です」

「魂、の?」

「このプロジェクトでは《フラクトライト》と呼ばれている、人間の魂と思われる量子場を捉え、読み取り、現実と遜色ないクオリティの仮想世界へとダイブさせる機械」

 

 加藤は、人が戦慄するに足る内容の話を、あくまでも淡々と説明する。

 

「何故このような機械が必要となったか……それが《プロジェクト・アリシゼーション》の目的に必要であった為です」

「その目的と言うのは、何なのかしら?」

「ボトムアップ型の人工知能の開発。より正確に評するならば《高適応性人工知能》の開発、と言うべきでしょう」

 

 映像が再び切り替わり、今度は光の線で作られた人間の脳のイメージ図が映し出された。

 

「ボトムアップ型、という事は私達人間の意識の構造を再現する為に、その《STL》が必要だったという事?」

「その通りです、博士。《STL》によって《フラクトライト》を解読し、こちらも新たに開発された《光量子ゲート結晶体》……プロジェクト内では《ライトキューブ》と呼ばれている物に保存する。それによってまず、人の魂の複製に成功したようですね」

 

 加藤はそこまででいったん話を区切り、比嘉に対して『何か訂正や追加更新情報はありますか?』と問いかける。しかし、彼はゆっくりと首を横に振った。

 

「……なら、もう研究は成功しているんじゃないの?」

「どうやら複製は、『自分が複製である』と認識した瞬間に崩壊するようです」

「それは、どういう……」

「口頭で説明するのは困難です。しかし、実際にそれを見るというのはオススメしません。人の人格が崩壊していくのを見るようなものですから」

 

 物騒な例え話……では無いという事を、四人は直感的に理解した。コピーと言えど人の魂が崩壊するという事は、その人が壊れるという事を意味している。言うなれば人が目の前で死ぬところを見せられるのと変わらない……それは確かに、見たい物ではなかった。

 

「……貴女は、見たんスか?」

「記録映像だけですが。久しぶりに加減を間違えそうになるくらいには、気分の悪い物でしたよ」

 

 比嘉の問いに、加藤は鉄面皮から怒気を滲ませて答えた。

 

「菊岡二佐を含めた十名以上の《フラクトライト》がコピーされ、どれも例外なく崩壊と言う結末を辿りました。故に出された結論は、元の人間の能力やメンタルケアと言う問題ではなく、コピーされた《フラクトライト》の構造的欠陥と結論付けられ、新たな段階に話が進みます」

「丸ごとのコピーが崩壊する。それは自分が誰かを知っているから……なら、それを制限する?」

 

 凛子の言葉に比嘉が口笛を吹いたが、再び加藤の眼光に気圧されて黙った。懲りてないなと凛子が苦笑いして、加藤を見る。

 

「その段階に話が進みましたが、そう単純な話でも無かったようです」

「……人の魂を量子コンピューターのように見立てていても、実際のパソコンの様にフォルダが整理されていたり、ソート機能があるわけじゃない。だから、何を削除すればいいとかは簡単にわからない?」

「優秀ですね、桐ケ谷君。その通り……故にその選別にも時間がかかるし、間違えたモノの結末は言うまでもないでしょう」

「……崩壊。いや、もっと酷いのね」

「ご想像にお任せしましょう。さて……丸ごとはダメ、削除しても制限してもダメ。なら次はどうしたか」

 

 そこでいったん言葉を区切って、加藤は四人を見る。菊岡は相変わらず問い合わせ中であるし、比嘉にこの内容を言わせれば、今度こそ詩乃が殺しにかかるかもしれない。加藤にとって恩人の息子の嫁が手を汚すのは望ましくない為、内心ではうんざりしながらも説明を続けようとすれば、明日奈が呆然と口を開いた。

 

「まさ、か……そんな、そんな恐ろしいことを……?」

「明日奈?」

 

 顔が青褪めていく明日奈を、今度は詩乃が抱き止めた。明日奈の眼には、青褪めた顔とは対照的な強い憤りの赤が宿っているように見え、詩乃も彼女が何に思い至ったかを理解した。それに続いて、和人も彼女達と同じ解答へと辿り着いて……背筋が凍り付いた。

 

「……赤ん坊の魂を、コピーしたのか。六本木のあそこは、産婦人科のある病院の近くだ……出来ない事じゃ、ない」

「えぇ、その通りです。そうして、彼らは無垢な《フラクトライト》を手に入れました。サンプル数は十二で、この中で誤差がある部分……胎内と出産直後の記憶の部分を慎重に選定、削除して手に入れたものが、このプロジェクトではこう呼ばれています。《精神原型(ソウル・アーキタイプ)》と」

 

 随分と大袈裟な用語が飛び出してきた、と凛子は思った。これを説明していたのが菊岡であれば色々と突っ込みたい事があるが、友人の加藤であれば心のメモに留めておく程度で続きを促す。

 

「待って」

 

 口を開こうとした加藤を遮ったのは、詩乃だ。気付いてはいけない事に気付いてしまったかのように、彼女の顔からは血の気が完全に引いてしまっている。

 

「……朝田さん」

「涼は、治療中って話、よね……なら、何を治療して、いるの? 貴女の話じゃ、まるで、まるで涼は」

 

 

 

 魂が壊れているって、言ってるようなものじゃない。

 

 

 

「……初めて彼が《STL》を用いてダイブした時に、ボクらは愕然としたッス。桐ケ谷君や他にダイブしたスタッフ達と比べて、捉えられた《フラクトライト》の容量が()()()()()()()んスから」

 

 比嘉の言葉に詩乃も、和人も、明日奈も凍り付いた。言っている事が理解出来なかったからではない。言っている事が理解出来て尚、それを認める事が出来なかったからだ。

 彼が愛する人をとても大事に、慈しんでいる事を知っている。両親を尊敬し、突然できた妹達を愛して、仲間達を、友人を大切にしている事を知っている。

 

 そんな彼の魂が壊れているなんて、認められるはずがない。

 

「……なんだよ、それ」

「ボクらだって聞きたいっスよ。でも、最初の期限である三日間ダイブしている中で、彼の《フラクトライト》は明らかに活性化し、その容量を増やした」

()()()()()()()()()の? その、彼の《フラクトライト》とやらは」

 

 凛子が問う。映像で見た少年と縁深い三人には問えない内容であるが故に、大人でもある彼女が問うしかない。それが、どれだけ少年が壊れているかを突き付ける事になっても。

 

「三十三パーセント」

 

 答えたのは、比嘉ではない。

 

「彼……オーリ君の魂が他の人と比べて欠けている割合は、約三十三パーセントだ」

 

 彼を連れ去った主犯が、珍しく苦い顔をして答えていた。

 

 

 

 

 

 

 説明の後、詩乃と明日奈は横たわる涼の姿を、ガラス越しに呆然と見ていた。和人は今頃、加藤へと直談判……《STL》を使用して、彼が居る仮想世界にダイブさせてくれと頼んでいるのかもしれない。

 もちろんその頼みは、彼の好奇心を満たす為では決してない。親友がそこに居るのなら、どうなっているかを直接確かめたいという思いだ。

 

 あれから聞いた説明は、彼らの言う《プロジェクト・アリシゼーション》の根幹に迫る物だった。生み出された《精神原型(ソウル・アーキタイプ)》を《高適応性人工知能》にするためにどういう方法を取ったか。それに使われたのか《アンダーワールド》と名付けられた、《ザ・シード》を利用して生み出された仮想世界の中で成長させるという物だった。

 巨大な箱庭を使った文明シミュレートの結果として《精神原型(ソウル・アーキタイプ)》によって生み出された《人工フラクトライト》達の数は今では八万人……そして、中央集権構造の国まで作り上げたという。

 

 そこまで来ればもう成功しているようなものだと思われたが、菊岡たちはそれが問題であると認識した。平和であり、争いも何もない理想社会(ユートピア)では、彼らが求める物は生まれないからだ。

 

『彼らに戦争させたいのか、アンタ達は』

 

 そう言って怒気を見せたのは和人であった。彼は涼と共に現実時間で三日間、《アンダーワールド》にダイブしていた。その理由が、《人工フラクトライト》に《規則の優先順位》と言う概念を教える為だったという事。それ自体に怒りを向けているわけではない。そうして、適応性を得た《人工フラクトライト(彼ら)》を戦争の道具にしようという事にだ。

 

 和人に《アンダーワールド》にダイブしていた間の記憶は朧げにしかない。それでも、自分が関わった《命》が、道具のように扱われるのは許しがたい物だった。そんな英雄の怒気は、一介の自衛官である菊岡に冷や汗をかかせるには十分だったが、それでも彼の考えを変えるには至らない。その程度で変えていてはここまでの事は出来ないので、当然ではあるのだが。

 

「……魂が欠けてるって、どんな感じなの」

「詩乃のん……?」

「苦しかったのかしら。辛かったのかしら。それとも、それも感じられないくらいに麻痺してたのかしら」

 

 横たわり、動かない愛しい人の姿を見ながら、何も感情が籠っていない声で呟く。隣に居る明日奈に聞かせるわけでもなく、ただ自分に確認するように。

 

「貴方はわかっていたの? 自分の事。何かおかしいって、思ってたの? もしわかってたならなんで、教えてくれなかったの……」

 

 詩乃の瞳から、止め処なく涙が溢れてくる。呟きはまるで愛しい人を責める様にも、悔い改める懺悔の様にも聞こえ、彼女の口から止まる事はない。

 一番近くに居た。一番彼の事を愛していた。一番触れ合って、一番彼の事を知っていたはずなのに。一番大事な事が分かっていなかったのではないかと、思ってしまう。普通なら魂に欠陥があるなんて事は、誰も想像しない。詩乃だって気にした事など無い。自分の魂が正常なのか、欠けているのか。そんなものを気にした事など無い。しかし今、そんな想像外の出来事が実際に起きてしまっている。

 

 そして、詩乃が何よりも混乱しているのは、その事を聞いた時に納得してしまった事だ。以前聞いた、桜川涼の性質。自分の命すら使い潰せると評されたその性質は、()()()()()()()()()()だと美貌の天才剣士は言っていた。それはこの事を言っていたのだと、詩乃は直感的に悟った。

 誰かの為に自分を犠牲に出来るその英雄性は、壊れている自分に根本的な価値を見出していないからだと。

 

「詩乃のん……っ」

 

 泣き声を上げずに、ただ泣き続ける親友を堪らず明日奈は抱きしめた。見ているのが辛かった。自分達の中で彼の現状に一番心を痛めて苦しんでいるのは、朝田詩乃で間違いない。自分だって、和人がそうだと言われたら同じようになる事が明日奈には簡単に想像できるし、だからこそ彼女の心境が痛いほどにわかってしまう。

 だからこそ、明日奈は詩乃を抱きしめるしかなかった。油断すれば、この弱った親友がふらっと消えてしまうような気がしたから。

 

「……二人共」

「キリト君」

 

 そこに、和人が顔を出す。後ろには凛子が居て、少しだけ険しい表情。

 

「……行くの?」

「あぁ。あいつがどうなってるか、確かめに行く」

「今、《アンダーワールド》内は現実の千倍の速さで時間が流れているそうよ。彼がここに来てから大体十六年が経っている」

「千倍……」

「生体脳に働きかける訳じゃないから、クロックアップの上限は理論上無いという話だけどね……ただ、色々と懸念事項が無いわけでもないの」

 

 凛子が語るのは、詩乃と明日奈が居ない間に受けた説明の内容だった。懸念事項と言うのは、《魂の寿命》の事。仮定されたソレは百五十年ほどであり、今現在の日本人の寿命は大体八十歳代であるため、安全マージンも考えて大体三十年程度を《STL》で消費しても問題無いと考えられている。

 仮説としてだけ存在するソレを証明する術は、今のところ存在しない。プロジェクトにとってはそれを証明する意味が無く、流石にそこまで行けば問題があるとあの菊岡も判断したのだろう。

 

「最初の三日で、彼の……桜川君の《フラクトライト》は七十五パーセント程度にまで容量を増やしたそうだけど、それ以降は修復率が上がっていない。このままダイブさせていても完全に治る見込みは……」

「だから、彼と縁のあるキリト君をダイブさせて、どうなるか見る意図もあると?」

「そう、加藤さんは言っていたわね。『恨むのなら存分に恨んでいただいて結構です』とも言われたわ」

 

 明日奈達が加藤と接した時間は短いが、それでも彼女が律儀で生真面目な性格である事はわかっている。自分がこの計画の責任者になった事で、巻き込まれただけの民間人である三人……いや、涼も含めて四人に恨まれる事など覚悟の上なのだろう。誠意として、様々な情報……彼女の判断で公開できる物は全て公開し、その上で許しは乞わない。

 国を、国民を守る職責を持つ自衛官が、必要であったとは言えその国民を事前説明も無く害したのだ。その上、他にもグレーな事をしている……菊岡から言わせれば『法と道徳を守りすぎているほど守っている』との事だが、その後加藤に『比較対象に各国の裏を持ち出す時点で意味がありません』と突っ込まれて、大きな釘を刺されていたが……

 

「……あの人は無表情だけど、笑みを浮かべている菊岡さんよりは信用できると思います」

「俺は今回の事で、菊岡サンを信用する気は無くなった。」

「それはあの人の自業自得ね」

 

 そんな会話を交えていれば、責任者に納まった加藤がタブレットを片手に入ってくる。

 

「皆さん居ましたか」

「加藤さん。何かあったの?」

「……博士、そしてお三方。すみませんが内密の話があります」

 

 真剣な声音で話す彼女の視線を受け、詩乃も反応を示す。凛子が『聞いていい話?』と問えば『別に守秘義務がある物ではない』と加藤は返した。ならば、と四人が首肯を返すとすぐに加藤は今居る《第二制御室》の隣にある控室まで移動を願い出て、移動を開始する。

 

「それで、話とは?」

「ワタシの協力者について……いえ、もっと言うなら彼の協力者、と言うべきでしょうか」

 

 簡素な机の上に置かれたタブレットを操作し、加藤はあるアプリを起動。程なくして立ち上がった画面を四人は覗きこむ。

 

『あー、テステス。聞こえてるかな?』

「……どういう事? ストレア」

『っと、詩乃が居るならアタシの話はママさんにちゃんと通ってたんだ』

 

 映し出されたのは、詩乃ら三人にとっては馴染みの顔だ。纏っている衣服だけが見た事の無い物になっているが、その口調も雰囲気も彼女で間違いない。

 

「えっと……どちらさま?」

「オーリ……桜川涼の妹みたいなものです。で、ストレア」

『説明する時間はある?』

「一時間、今は現実と時間の流れを同期させています」

『オッケー。ざっくりと説明するよ』

 

 加藤の言葉にストレアは現状の説明を始めた。

 今現在、自身は涼と共に《アンダーワールド》にダイブしている事。現実と時間がリンクしているタイミングでしか連絡が取れなかった為、過去にあったそのタイミングで涼の母と連絡を取った事。そして、涼自身に起こっている事についてと、彼女の目的だ。

 

『アタシは、兄貴の魂を治す方法を探してる。色々とアプローチはしてるけど、ただダイブしてるだけじゃこれは治らない』

「俺がダイブすれば、何かきっかけは掴めるか?」

『わからない。ただ、兄貴の《フラクトライト》を活性化させるのに一番なのは、人との繋がりだと思う』

 

 ならば、と詩乃は声を上げそうになった。

 

『でも詩乃はダメ。アタシでもわかるほどに繋がりが強すぎる……最後のピースである事は間違いないけど、今はまだその時じゃない』

「なんで」

『わかって、詩乃。今の兄貴は現実での記憶がロックされている状態だから、現実で繋がりの深い相手と会っても初対面としか認識できない……詩乃はそんな諸々を吹き飛ばす可能性があるから会えない』

 

 ストレアの懇願に、詩乃は唇を噛む。一番大切に思っているからこそ動けない。動いては行けない時がある。そう理解してしまったからだ。

 

「わたしもダイブした方がいいのかな?」

『アスナは詩乃を見ていて。兄貴の奥さんは何するかホントわかんないから』

「……この状況でなんで茶化すのよストレア」

『アタシの兄貴が桜川涼だからじゃないかなぁ?』

「うん。この上ない説得力がある言葉、有難う」

 

 三人は、久しぶりに陽性の笑いを上げた。

 

 

 

 

 

 

 協力者の紹介を終えて、加藤は再び《第一制御室》へと戻っていく。そこには菊岡と比嘉だけが居て、他には誰もいない。何でも、基本的に二人はここに詰めっぱなしであるとの事だが、だからこそ()()()()()()と加藤は納得を示しつつ、これから吐き出す情報で二人を殴りつける決意を固めた。

 

「引継ぎが完了して、僕はどうなるのかな?」

「別にここから出て行けという話をするつもりはありません。ただ、ワタシの指揮下には入ってもらいます」

「まぁそれが妥当か……それで、早速引継ぎを始めるかい?」

「その前に、今回の事態の最大の理由を話しておきましょう。菊岡二佐」

 

 

 

 外患誘致の可能性を見過ごした、貴官の罪を。

 

 

 

 




かとう「流石に隠蔽されていたとはいえ、前歴のある奴を良く調べもせず引き込んだのはNG」
すとれあ「正しく権力で殴ると胡散臭い笑みを一瞬で漂白(るび:無表情に)出来るよ!」
きりと「やばい」
あすな「やばい」

しの「ぬるい」

きりと・あすな・すとれあ「「「ヒェッ……」」」
かとう(あの二人、息子の嫁にブレーキつけてくれなかったんだなぁ……)
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