流星の軌跡   作:Fiery

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書きたい事だけ書いても何話で終わるかわからなくなってきた。
やっぱユージオ×アリスって鉄板なんだなぁ……


※誤字報告有難うございます。大変助かります。


理想が目の前にあるのにコレジャナイ感が凄い

 

 

「彼の《フラクトライト》の活性率が上がりましたね」

 

 手元のタブレットに送られてくるデータを確認して、加藤が《第二制御室》の椅子に座って呟いた。それにいち早く反応したのは対面に座っていた詩乃であり、どういう状況か知りたいと視線で訴えかけてくる。

 キリトが《アンダーワールド》へダイブして、現実世界では四十五分ほど経過した。仮想世界内では一カ月ほどだろう時間が経過した事になるが、どうやらキリトとオーリは接触を果たしたと、アスナは予想がついた。

 SAOに囚われた二年、そして解放されてからの一年。彼らは親友と言う絆を育んできた。最も長く接して来た両親や、最も愛する者である詩乃を除けば、『桜川涼』の十七年と言う人生の中で長く濃い時間を過ごした『親友』や『仲間』と言った絆は、彼の魂の深い所にあるのだと信じていたからこそ、その事実に驚きはない。

 

「なら、オーリ君はもうログアウトしても」

「いいえ。八十八パーセントまで活性化したようですが、それ以降はピタリと止まったようです」

 

 首を横に振った加藤の言葉にアスナは驚く。

 キリトでも完全に覚醒させる事が出来なかったとすれば、後の可能性があるとすれば最愛の人である詩乃か、家族である両親。もしくは仲間とは違う絆を育んだ藍子と木綿季。そして、彼を愛する事を諦めていない悠那くらいだ。

 しかし、詩乃は互いの情愛が強すぎる為に最後のピースであると、今現在オーリの状況に一番詳しいであろうストレアから止められている。両親は今連絡を取るのは難しいだろう。父親は各所に飛び回り、母親は藍子と木綿季の面倒を見つつ、こちらも各所へと連絡をして回っている。

 藍子と木綿季は連絡も取れるだろうが、まだ中学生だ。信頼できる誰かを付けて《STL》のある六本木のラースまで行ってもらうにしても、時間がかかるだろう。悠那は連絡自体はアスナならつける事は可能だが、仕事があればアウトだ。

 

「加藤さん。《STL》って何台あるんですか?」

「少し前に小型簡略化に成功したようで、この施設内に八台。六本木に試作型含め四台があると聞いています。この施設の台数は正しいので、六本木の方もあるでしょうね」

 

 アスナの問いに、打てば響くと言った加藤の回答。《STL》の台数と言う問題はクリアできているならば、とアスナは思考を回す。

 

「ただ、アスナさん。私は追加で誰かをダイブさせる、というのはあまり推奨したくないわ」

 

 その思考に介入したのは凛子の言葉だった。深くまで没入しかけた思考を表層に戻し、アスナは凛子へと視線を送る。

 

「《フラクトライト》がどういうものか、私も完全に理解できているわけじゃないけど……そう頻繁に刺激を与えて、耐えられるものなのかしら? ストレアさん、だっけ? 彼女が言っていた『繋がりが強すぎるから会わせられない』と言うのは、『刺激如何によっては彼の《フラクトライト》が崩壊する』という意味合いもあるような気がするの」

「《フラクトライト》の崩壊……」

 

 語られた最悪の想定に、アスナが息を呑む。隣に座る詩乃は唇を噛み、改めて『近くに居るのに何もしてはいけない』という事実に耐えていた。

 

「でもそれじゃ、わたし達は何の為にここに来たのか、わからないですよ……」

「そんな事は決してありません」

 

 俯いてしまった明日奈と詩乃へと告げたのは加藤だ。表情は相変わらずの鉄面皮だが、その声音は表情よりも雄弁に、二人を心配していると語っていた。

 

「急な刺激が危険ならば、緩やかなものであれば危険が少ないのは道理かと思います。どうでしょうか? 神代博士」

「え? まぁ、おそらくは……でも緩やかな刺激って?」

「肉体的刺激……例えば朝田さんが彼の手を握るだけでも、彼にとっては良いのではないかと思うのです」

「《フラクトライト》への直接刺激ではなく、か……それが脳の中にあるなら、確かに」

 

 医学的にも事例はある。医者の客観的な診断を覆し、家族や友人の愛や患者本人の情熱などの刺激がトリガーとなって奇跡的な回復を見せる事。特に脳に関する臨床でたびたび報告されているれっきとした事実。《フラクトライト》が脳の中にある量子場ならば、詩乃が彼の手を握るだけでも効果はある可能性が高い。

 

「じゃあ、今すぐ」

「その体調では認められませんよ。朝田さん」

「大丈夫だから!」

 

 ふらり、と立ち上がった詩乃を制止しようと立ち上がる加藤に対して、彼女は掠れた声で叫ぶ。愛しい人の力になれる行動がやっと見つかったのだ。何故それを邪魔しようとするのかと、目の端に涙を溜めながら詩乃は加藤を睨み付ける。

 

「……だから、傍に居させて」

「いいえ、認められません」

 

 その切実な願いを、加藤は一先ず一蹴する。

 

「貴女が最後のピースであるならば尚更です。まず貴女は自身の体調を万全にする義務がある。何かあった時に、貴女だけしか動けない時に動けるようにしておく……それが貴女の今やるべきことです」

「でも!」

「別に離れろと言っているわけではありません。彼の横に簡易ベッドを置く程度のスペースはありますから。そうですよね? 聞き耳を立てている、安岐ナツキ二等陸曹」

 

 加藤の底冷えするような声に、ガラスの向こう側に居る純白の制服にナース帽を頭の上に乗せた、三つ編みの女性看護師の背中がびくりと震えた。その直後に、シュバッ! と言う効果音が付きそうなほど素早く加藤らの方に振り向き、リムレスの眼鏡をかけた看護師……安岐ナツキ二等陸曹が敬礼の姿勢を取った。

 

『はっ、問題ありません!』

「安岐さんが、二等陸曹……? あ、自衛隊病院附属の看護学校……」

「そうです。二佐の指示でSAO事件の被害者を担当し、その縁で桐ケ谷君や結城さんにコンタクトを取れたわけですね。桜川君はその時点では東北だったので、流石に接触は不可能だったようですが」

「……大丈夫なの?」

「護衛についてはこちらで手配しています。それに、ここの人員の中で看護師の課程を修了している人数は少ない。限られた人員は有効に使わざる得ないのですが、人格的には善良なので安心してもよろしいかと」

『一佐が酷い……』

 

 敬礼しながら、がっくりと肩を落とすという、器用な事をしているナースを見て思わず凛子が苦笑する。『裏も取れていますしね』と囁くように言った加藤の言葉もあり、彼女は大丈夫なんだろうと信用する事にした。

 

「というか、加藤さん。人員全て裏取りしたの?」

「? このプロジェクトが動き出した辺りから、内偵は進めていました。その中で看過できないものが見つかったので、こう動いたわけですが」

「看過できないものって……」

「二つありますが、一つはこの桜川君の件。もう一つは、博士達が知らなくていい事ですよ」

 

 鉄面皮を崩して、にっこりと加藤が笑う。それは誰もが怖気づくほどの、狩猟者の笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに、彼を感じながら眠った気がする。

 スッキリとした頭の中でそんな事を考えた私は、横になっていた簡易ベッドから身を起こした。横には《STL》で眠ったままの旦那の姿……白い病衣の下に、いくつものモニタリング電極を貼り付けられ、左腕には輸液用のマイクロインジェクターが装着されている。肩から上は《STL》にすっぽりと覆われているので顔は見えないが、何度も見た寝顔がそこにはあるのだろうという直感がある。

 

「あ、シノノン起きた?」

「えぇ……どれくらい寝てたの? 私」

「ぐっすり……半日くらいかな」

 

 はい、とペットボトルに入ったスポーツドリンクが渡されて、それを受け取りながら驚愕する。確かに気を張っていたのは認める所だけど、そんなに疲れているとは思わない……いや、この場合は私が旦那の状態にひとまず安心したからか。

 

「ホント、オーリ君の横だと安心するんだね」

 

 揶揄い交じりのアスナの言葉に、私は顔を赤くする。自覚があるだけに、指摘されると少し恥ずかしい。それを誤魔化すように蓋を開けてドリンクを体の中に流し込めば、あっと言う間に500mlの半分を飲み込んで一息付けた。

 

「……半日って言うと、あの中では一年と半年くらい?」

「かな。でも、修復率は八十八パーセントからほぼ横這いみたい」

 

 アスナが簡易ベッドに腰かけ、手には自分のウーロン茶のボトルを握りながら、眠っている旦那とキリトを眺めている。私は旦那の右手へと左手を伸ばして握った。じんわりと温かい、彼の体温を感じてやっと、私は彼が生きているという確信を得る事が出来た。

 だからようやく、私は色々と他の事を考える余裕が出来て、様々な疑問が自分の頭の中に浮かんでくる事を実感する。

 

「ねぇ、アスナ」

「何?」

「あの、神代さんって、知り合いなの?」

 

 浮かんだ疑問の中で、すぐに解消できそうなものを選択する。キリトは彼女の事を知っている様子だったし、加藤さんは『技術オブザーバーとして呼んだ』と言っていた。彼が知っていて、フルダイブ技術の派生としてある《STL》に対し、技術オブザーバーとして呼べるほどの技術者……とするなら、私の推論は当たっているかもしれない。

 

「知り合いと言えば、そうなのかな。あの人は団長……茅場晶彦の、元恋人なんだって。で、SAO事件の時に団長によって胸に爆弾を埋め込まれて、現実での彼の世話をさせられていた人」

 

 紡がれた言葉は、私の推論を大きく上回っていた。私のは精々、フルダイブ技術の関係者で、茅場に近い立場だった人程度だったが、まさか元恋人……でも、爆弾を埋め込まれて、それで脅されて世話をしていたのなら、普通はこんなものに関わる気はないはずだけど……

 

「そんな人が、何でここに?」

「来た理由は加藤さんからの招聘だけど、決めたのは凛子さんが過去と向き合う機会だと思ったからだって」

「過去と向き合う、か……」

 

 それを聞いて何となくだが、私は神代さんがまだ茅場晶彦の事を愛しているのだろうな、と考える。向き合うのは、まだそこに何かしらの思いを持っているからだ。本当に脅されて嫌になったのであれば、誰だってそんな過去に蓋をして向き合う事なく生きていける。

 

 そうしないのは多分、今でも好きで……今でも苦しんでいるから。

 

 個人的な事を言わせてもらえれば、早々に警察に突き出すなりしていれば何か変わっていたはずなのに、と結果論で言えない事も無い。ただ、それは私の勝手な感情であり、当事者達が何も言わないのであれば、私が口に出すのはお門違いだ。

 旦那は茅場に対して複雑な感情を持っているみたいだけど、それだけで完結している。神代さんに対しての事は聞いてみないと分からないが、『いや、そんな事を言われてもその、困る』とひっじょーに困った顔をする姿が目に浮かぶようだった。

 

「その神代さんは?」

「わたしと入れ替わりで、今は寝てるよ。わたし達にも一応ユニットバス付の船室を割り当ててくれてるから、そこで」

「へぇ……」

 

 そういえば、シャワーを浴びてない。今の今まですっかり忘れていた事実に、頭を抱えそうになった。こんなだらしない姿を万が一旦那に見られたら、恥ずかしさで数日死ねる自信がある。

 

「わ、私の部屋にもあるの?」

「あるって聞いてるよ? バスタオルもあるから、シノノンも浴びてきたら?」

 

 これカードキー、とアスナが渡してきたそれを受け取り、部屋の場所も聞いて私はベッドから降りた。

 

「良かった」

「え?」

「シノノン、やっと調子が戻ったみたいだから」

 

 穏やかに笑う彼女の顔を、私は直視できない。散々心配かけていた自覚があって、声をかけ続けてくれたのは彼女だったから。私が調子を取り戻した事が嬉しいと、本当に思ってるのが分かってしまった。

 

「……有難う、アスナ」

「まぁ足りなくなってたオーリ君成分補給したからかなこれは!」

「貴女達夫婦って、茶化さないと死ぬの?」

「ごめんごめん。でもこれオーリ君の影響だと思うよ?」

 

 思わぬ言葉にぐぅ、と私は唸った。

 

 

 

 

 

 

「さて、子供には見せられない大人の時間です」

 

 《オーシャン・タートル》の普段使用されない閉鎖区画の中で、菊岡を連れた加藤がいつもの鉄面皮で足元を見つめている。その視線の先には一切声が出せないように猿轡を噛まされた、ワイシャツにスラックスを纏った男性が一人。ただし、その両手足は通常ではありえない方向に曲がっていて、その顔は見るに堪えない程の苦痛で歪んでいる。

 

「……これは流石に、僕でも引きますよ。一佐」

「へぇ、貴方に引くという情緒があったのですね」

 

 『お優しい』と皮肉気に言う彼女の言葉に、菊岡は何も返せない。転がっている男性……柳井と言う、《プロジェクト・アリシゼーション》のスタッフの一人。優秀であり、様々な事への貢献もある。

 そんな男が『外』と繋がっていたという事実を、十八時間ほど前に菊岡は知らされた。計画を進める為に集中していたという事は、言い訳にしかならない。何故なら、彼が繋がっていたのは国の外……菊岡が出し抜こうとしていた米国であった為だ。通話や連絡の記録は入念に消されていたが、そもそも内偵を進めていた時点で彼は加藤の中にあるブラックリストに載っていた。その理由が、明日奈が囚われ、和人が救出に向かい、涼も最後に関わった旧ALO事件……通称《三百人の虜》事件。その事件の主犯である須郷伸之の部下と言うのが、彼の前歴。

 この男は同僚をスケープゴートにして自分はまんまと逃げおおせ、しかもその須郷のコネクションを使って自身を米国へと売り込むために、《プロジェクト・アリシゼーション》へと潜入した……という説明を菊岡は加藤から受けた。

 

「ただ、それだと分からない事があるのでこうしているわけですが」

「分からない事?」

 

 それも知らないのか、という視線を受けて菊岡は気まずそうに肩を竦めた。彼自身も全てを把握しているわけではない。責任者と言う立場であった物の、開発は基本的に比嘉をトップにして任せていたのだから。

 そんな事は百も承知で加藤も皮肉で言っているだけで、さっさと続きを話し始める。

 

「分からないというか、違和感があるのですよ」

「違和感?」

「何故《人工フラクトライト》達が規則を遵守するのか」

「それはライトキューブの構造的要因に拠るものだと結論付けた……と言う報告があったはずだが」

「えぇ。桐ケ谷君がダイブした時に接触していた個体がそのルールを破ったという事も聞いています。だからこそおかしいと、気付きませんか?」

「それは、どういう……」

()()()()()()()()()()()()なんてことは、人間では日常茶飯事では? そのふとした拍子すら、《人工フラクトライト》達には存在しないとお考えで?」

「それは……」

 

 言いかけて、菊岡は今までの事を思い出す。議論には上がっていた事だが、完全に判明したわけでもなく、原因の究明に意味が無いと後回しにしていた事象だから、その事については結論を出せていない。

 

「その違和感が気になり、神代博士に少し探っていただきました。特に、意識に作用する部分へと何か仕込まれていないかと」

「……まさか、何か見つけたと?」

「えぇ、見つけましたよ。自己顕示欲が強いのか、この男と同じ名前のコードです。そのコードは《コード:871》……871(やない)でしたね」

 

 柳井を見下ろす加藤の眼は、菊岡でも心の底から震えがくるほどに凍てついている。その話が本当であれば、確かに彼の行動は矛盾していると言えた。

 自身を米国に売り込むための成果物として《高適応性人工知能》を求めたのならば、その成長を妨げるようなコードを仕込む意味が分からない。米国の指示で遅延させている可能性もあるが、それだと研究の期間が延びて事が露呈するリスクが高くなる。《人工フラクトライト》を成長させない事が利益に繋がる……そんな人間がいるだろうか。

 

「それを問う為にまだ生かしているのです。プロジェクトの妨害行為に、外患の誘致――…この事実が掴まれた時点で既に彼の死は決定しているようなもの。ですが、どうせ死ぬなら何をやらかしたのか全て吐いてもらった方が、ワタシも動きやすい」

 

 慈悲の一欠けらも見せぬ彼女を、菊岡は心底恐れた。『やるならば徹底的にやる』と言外に語り、それは内偵から証拠の収集を経てこの尋問にも表れている。規律や倫理に厳しくありながらも、国に害を及ぼすであろう相手に対しては平然とそんなものを無視してしまう。

 まさに、菊岡が《人工フラクトライト》に求めた在り方を体現していると言える存在。その事に気付いて、総毛立つ体を何とか彼は抑え込む。

 

「安心してください二佐。貴方は見過ごしていただけのようですから、こんな事はしませんよ」

 

 菊岡の方を見る事も無く、安心させるような声音で加藤が告げる。的確に苦痛のみを柳井に齎す光景には異質に過ぎる、その優しげな声を掛けられた菊岡の背は、冷たい汗に濡れていた。

 

 

 

 

 

 

 何だかんだで、俺が《アンダーワールド》に来てから二年ほどが経過した。ここで二年過ごしても、現実では十八時間ほどしか経っていないが、それは別に問題は無い。互いのパートナーは何の事情も知らないというわけじゃないし、心強い味方がここにも現実にも居ると知っているだけで、気分的にはだいぶ楽なものだ。

 

 オーリらの家に厄介になってからの一年は、与えられた仕事と修行の日々。俺とユージオに剣を教えてくれた衛士のアグルさんは、流石の実力者だった。オーリが推薦するだけあって、最初は俺もユージオも負ける程……二刀流ならば、と思わない事も無かったが、それは言い訳にしかならない。オーリは俺達と同じ条件でアグルさんに勝てるのだから、最低でも彼を超えなければユージオの目標に届きはしない。

 ただ、『オーリ様に匹敵……いや、それ以上かもしれんな』という、忌憚なき彼の意見の通りに、俺は半年ほどで彼から一本取れるようになり、ユージオも遅れて学院入学前に一本取れた……まったくの素人が一年ほどでアグルさんから一本取るというのは、尋常でない事はわかる。俺の場合は元々SAOで二年、解放されてからの一年の計三年、仮想世界で剣を振るった経験がある。そう言う下駄を履いた俺が半年かかった事を一年で熟したという事は、ユージオの才能を証明しているだろう。純粋な剣の才能で言えばユウキ並、と言うのが俺の見解だ。

 

 次に神聖術については、ストレアが暇を見て教えてくれた。お抱えの神聖術士よりもストレアの方が腕が立つ上に知識量も相当……いや、これはストレアの特性の問題か。トップダウン型AIの特性として収集し続けた知識量と、ボトムアップ型AIの特性である人の意識……いや、魂を得た、誰も発生を想像し得なかった第三の存在となった彼女は、おそらく世界で唯一の電脳生命体となった。……ん? 今オーリの家の人外度がすこぶる上がった気がしたが、気にしないでおこう。俺は関係無いし。

 神聖術を習うと言っても、基本的にはコマンドを覚えて暗唱するだけ。発音についてはシステムが認識できるなら大丈夫と聞くと、ほとんどALOの魔法だとストレアが言っていた意味を理解した。ただ、ALOとは違って自分の発想次第で色々と出来るのがこの神聖術なのだろう。何も考えなくても一定の効果があり、それ以上の事も発想次第……自由度が高いのも考え物か。

 

 仕事の方は護衛が主だった。俺はオーリの、ユージオはストレアの護衛がメインだが、たまに交代してそれぞれの動きを把握する。と言っても、オーリの奴は央都からあまり出ないので仕事的にはこっちが楽かと思いきや、社交界的な物に出る事が多く礼儀だの言葉遣いだのを学ぶ機会となった。アスナが以前に『したくもない作り笑いって疲れるんだよ』と愚痴っていたのを思い出し、上流階級も彼らなりに苦労しているのを知った。

 それはユージオも同じだったようで、オーリとストレアがたまに一緒にパーティに出るとなれば、複雑な苦笑いを浮かべるのである。『まだ楽な方だよ。食べる暇があるから』とストレアに言われた時は、二人して戦慄したのを覚えている。オーリに聞けば『僕だけだと令嬢の攻勢がね』と心底うんざりしたような顔で話し、ストレアの方は『アタシは男性のだねぇ』と苦笑いで答えていた。

 

 そんなヴァルゼライド家で過ごす一年の中で新たに親しくなった相手と言えば、メディナと言う少女がいる。フルネームを《メディナ・オルティナノス》というその少女は何でも、以前にオーリらに助けられたという少女らしい。後、二等爵家の貴族だという事で驚いたのもつかの間、『護衛として相応しいか見てやる』と模擬戦を仕掛けられた。オーリの変幻自在の物とも、ストレアの剛柔一体の物とも違う、真っ直ぐ正道を走る剣は何となく妹のリーファを思い出させてくれたが、強さとしてはまだ剣を習いたてのユージオよりは強かった。俺は勝てたけどユージオは負けてしまい、メディナもユージオも心底悔しそうな顔をしていたのは鮮明に記憶に残っている。

 来る頻度は月に一度くらいだったが、彼女も学院に入るという事で来た時には俺に挑みかかってくるのが定番となり、ユージオがそれを見つけてメディナと手合わせをして、その戦績が五分になる頃にはユージオとメディナの対戦が主になっていた。

 

 

 そんなこんなで、学院への入学試験をパスした俺達五人。百二十人の入学者の内、一位は何とオーリの奴である。二位がストレアだったので忖度を少し疑ったが、剣と神聖術のバランスで言えば二人がトップになるのは正直納得が出来た。

 俺は剣だけで言えばオーリにもストレアにも勝つことはできるだろう。神聖術に関しての事で足を引っ張ってしまったので四位。ユージオが五位で、何とメディナが三位と言う結果になり色々な噂が立ったらしいが、正直内容はほとんど知らない。

 

 話は変わるが学院は二年制であり、一年目は《初等練士》、二年目は《修剣士》と呼ばれる。その中で入学時の成績上位十二名が《傍付き練士》となり、《修剣士》の上位十二名である《上級修剣士》に一人ひとり割り振られて、《傍付き練士》が《上級修剣士》の身の回りの世話をして、《上級修剣士》が《傍付き練士》への個別指導を行うのだ。

 この《傍付き練士》としての一年は、大体俺が付いた《上級修剣士》のソルティリーナ・セルルト先輩との手合わせで終わってしまい、飯の時間にオーリやユージオと話す時くらいしか噂話を聞かないのである。ユージオも、噂話とは無縁なゴルゴロッソ・バルトー先輩の傍付きであったので、三人の中で最も噂話に精通していたのはオーリと言うありさまだった。そのオーリも触り程度しか教えてくれず、『まぁ大体僻みだよ』と笑って受け流していたので、俺も深く聞く事は無かった。

 ぶっちゃけて言えば、悪徳貴族をリアルキレイキレイしてしまったらしいオーリに対してそう言う噂を立てられる奴らに、いっそ感心した物だったりする。

 

 学院生活の中での特筆すべき点は、時間は掛かったが俺用の剣が出来たという事だろうか。例の《ギガスシダー》の枝から削り出して作られた黒い剣……銘は未だに付けていないその剣は、俺の手にとても馴染んだ。それを作ってくれたサードレと言う強面の店主には、貴重な砥石を六つも全損したと言われてしまったが。

 剣を握った時は、今までの仮想世界で手に入れた剣……SAOで手に取った物や、ALOで《聖剣エクスキャリバー》を握った時と同等か、それ以上の震えがこの身を貫いたのを覚えている。良い剣であるのは間違いないが、それ以上に恐ろしいと、俺は感じた。それはあの巨樹のイメージが俺に思わせているのかは、わからない。

 

「……辛いです」

「……辛いね」

「いきなり目の前で言われる僕の心境は無視か?」

 

 いきなりだが、今俺達は学院で二年目の生活に入っている。進級の時の成績は一年次最後の総合試験で決める為、入学時からは序列が変わる場合があるが……

 

「三位と四位が、主席の部屋で何で愚痴る」

「オーリの言葉に棘があるのも辛い」

「四位は話にならないとして……どうした、ユージオ」

「……僕ら、上級修剣士でしょ? で、去年の先輩達のように傍付きが居るわけで」

 

 微妙な顔をしたユージオを見て、オーリの奴は長い溜息を吐いた。これは確実に呆れられていると分かるが、俺達二人にとっては割と切実な問題なのだ。

 率直に言ってしまえば、誰かにお世話をされる事に慣れないのである。恋人であるアスナや妹であるスグではなく、学院の後輩にだ。しかも俺とユージオの傍付きは女子である。これがまだ同性だったなら体育会系のノリと言うか、そんな感じで乗り切れたような気もする。しかし現実は女子である。オーリやストレア、メディナは同性を選んでいるというのに。

 

「指名の時に希望無しと言ったお前らが悪い」

「返す言葉もない……」

「というか、キリトは教練課程を終えるとすぐにどこかに消えるじゃないか……その度にオーリが簀巻きにして転がしてくれるけど」

「最初は驚いてたのに、今はもう慣れた感じになってるからな……新しい転がし方を考えるか」

「オーリが捕まえてくれるのは有り難いけど、彼女達の夢を壊さないであげて?」

 

 『これが上級修剣士の実態だって思われたら……』とユージオは嘆くが、お前も染まってるぞとは言わないでおく。オーリを自然と呼び捨てている事もそうだが、俺達男共三人はこの二年の間にかなりの勢いで打ち解けた。まぁ俺の場合はどっちとも最初からこんな感じではあったので、驚くのはオーリとユージオの関係だろう。仕事の時は『様』付けだったが、入学して一カ月後には既に呼び捨てだった。ストレアの時のように苦労して矯正したという感じではなく、何とも自然にだ。

 オーリがどういう人間かわかったというのもあるだろうが、やはり同性であるのは大きい。訓練や試合、あるいは調整と言った事で何度も剣を交えていれば、後はとんとん拍子に打ち解けられる。性格が根本的に合わない奴ならその限りではないが、少なくとも二人はそう言う相性でもない。

 

「しかし、そう悪い相性でもないだろう? ロニエ・アラベルとティーゼ・シュトリーネンの二人は」

「そりゃ、まぁな……」

 

 思い浮かべるのは、俺とユージオの傍付きとなった少女の姿だ。俺の傍付きである少女はロニエ・アラベルで、ユージオの方がティーゼ・シュトリーネン。どちらも六等爵家の貴族であり、本来なら俺やユージオのような辺境出と会うような事も無いはずだった。それが何の因果か、こうして交流を持つのだから仲良くはしたいとは思うし、そう性格が合わないという事は無い。ただ単純に、お世話されるのが慣れないだけ。

 

「オーリは慣れてるもんな……」

「基本的に年上しかいなかったぞ。年下の使用人はここ二年くらいでやっと一人二人入って来たが……まぁ会えば声をかける程度だったな」

「年上にお世話される方がきつそうだよね……そう考えればまだ気は楽……にはならないな」

 

 はぁ、と二人で溜息を吐く。それをオーリが苦笑して見ているという光景は、上級修剣士になってからの二週間、毎日見られるものであった。時にはストレアやメディナもこの中に混ざり、俺やユージオの様子に苦笑いを浮かべる事もある。くそう、貴族達は慣れてるからって順応が早過ぎる。

 

「ただ、それについては本当に慣れろとしか言えん。もっと言うなら、さっさと割り切れ」

「割り切る?」

「世話になった分、ちゃんと二人を教えて鍛えてやるってな」

「あぁ……うん。そう言う事なら出来る気がしてくるね」

「という事でさっさと部屋に帰れ。ついでに言えば、掃除が終わるまでまだ時間はあるから、労いの意味も込めて何か買ってきてやれば喜ぶだろ」

「なるほど……なら、跳ね鹿亭の蜂蜜パイにするか」

「それを買うなら僕らの分もよろしく頼むぞ。キリト」

 

 オーリが笑って代金を渡してきた。体よく使い走りにさせられた俺は、急いで目当ての物を買う為にオーリの奴の部屋の窓を開けて、そこからダイナミックに外出を開始した。

 

 

 

 




キレイキレイされているのでなんか平和に終わりそうな学院生活。
理不尽な事をされる子なんていなかったんや……!

かわりに現実はクッソ不穏になってるけれども。


詩乃「……自衛隊のご飯って、あんまり美味しそうなイメージ無かったんだけど」
明日奈「わかる。それにここの食堂、メニューも充実してるよね」
凛子「野菜の栽培プラントも併設されてるらしいわ。畜産までは難しいみたいだけど」
詩乃「代わりに、周りが海なだけに魚は獲れる、と」
明日奈「色んな実験を兼ねる事で予算をもぎ取ったんだろうなぁ……」
凛子「まぁ、こうしてちゃんと食べられるのは有り難いわ。軍用レーションしかなかったらどうしようかと思ったけど」
明日奈「あはは……太りそう」
凛子「研究職だとホント、太る時はすぐに……」
詩乃「……旦那が一回、一週間三食レーションだった事があるんだけど」
明日奈「何でそんな事したのか問い詰めてみたいんだけど……それで?」
詩乃「痩せてた」
明日奈・凛子「なんで?」

そんな女子会の光景

ユージオのヒロインは誰にしようか……

  • アリス(本命)
  • ティーゼ(対抗)
  • セルカ(穴)
  • ストレア(大穴)
  • 黙れハーレムにしろや(連単)
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