流星の軌跡   作:Fiery

70 / 112
本編ではこんな叫びはありません(ネタバレ
新年度から金曜更新にします(事後


後、今回で70話らしいです。


ち、ち、ち……痴女だぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

 光の先にある部屋は相変わらず広かったが、驚くほどに装飾品の類は存在しなかった。直径三十メルほどの円形の部屋は廊下より遥かにマシだが薄暗く、壁にぐるりと取り付けられたランプのみが光源であるが、それも殆ど点灯していない。

 更には、自分達が昇ってきた物以外に階段の類が存在しない為、ここが最上階かと部屋を見渡せば、アリスが呟いた。

 

「この部屋……」

「アリス?」

「……私、この部屋を知っています。ここは六年前、整合騎士見習いとなった私が目覚めた場所……」

「それは、確かなのか?」

 

 キリトの問いかけにアリスが頷いた。

 

「ここで私は……それまでの記憶全てを無くした私は、最高司祭様に偽りの記憶と騎士としての使命を与えられて小父様……騎士長ベルクーリに預けられました。それから、床の一部が中層の昇降盤のように沈み込んで、私と小父様を九十五層まで運んだのです」

「そういう仕掛けか……」

 

 なるほど、と呟いてオーリが天井を見上げる。しかし、そこに継ぎ目や切れ目などは一切確認できない。壁などにも仕掛けを動かすようなものが確認できないために、起動させるための鍵は絞られてくる。

 

「《素因(エレメント)》で動かす仕掛けなら良いんだがな」

「最高司祭の意志一つで動く……だと詰みだね」

 

 兄と妹が視線を交わして頷き、天井に向かって計十五の指を向ける。

 

「「《システム・コール》《ジェネレート・ルミナス・エレメント》」」

 

 オーリは右手の五指、ストレアは両手の十指に《光素》を生み出して、無加工のまま放射状に放つ。光素を選んだ理由は、他の素因と比べての汎用性が高いから。凍素では凍らせる。熱素は温めるか燃やす。風素は風であるし、水素は水で濡らす。闇素、鋼素、晶素は特性上、仕掛けを動かす事に向いている素因とは言えない。だから二人はとりあえずで光素を放射してみたのだが……

 

「ここで詰まずには済みそう、か」

 

 オーリの視線の先では、天井の一部に光の円が浮かび上がっていた。位置は中央ではなく壁にかなり寄っている。円の大きさは直径で一メルほどであり、やがてその円の輪郭通りの形に白大理石の天井が突出した。滑らかな動きでゆっくりと降りてくるそれは厚さが五十センほどもある為、相当な重さであると予想できるが、そんな風には全く見えない。

 幼賢者カーディナルが大図書室でオーリに見せた、奇跡としか言えない術と同じ物であるという事が何となくわかるだけで、これを為すであろう最高司祭の脅威度がオーリには理解できた。

 

「――…上に行く前に確認だ」

 

 天井が降りてくる間に、オーリが四人に声を掛けた。彼はカーディナルより渡された二本の短剣を取り出し、一本をキリトへと投げ渡す。

 

「予備をキリトに渡しておく。僕が二本持っておくよりは良いだろう」

「まぁ、それは正論だな。それで?」

「昇った後、最高司祭の姿を確認次第、僕とキリトとユージオで一直線に向かう。ストレアと騎士アリスはその援護。可能ならそのまま僕が持っている短剣を突き刺して、戦闘開始。無理でも隙を見て刺す」

「俺とユージオが最高司祭に斬りかかって、牽制している間にって事か」

 

 キリトの言葉に頷いて、他の仲間の表情を見る。

 

「その短剣は?」

「協力者から貰った切り札……と言う所だな。ちなみに協力者は信用できるから、今は詮索しないでもらえると有り難い」

「わかりました」

「最高司祭が他に戦力を隠していた場合は?」

「その戦力による……としか言いようがない。最悪、キリトに最高司祭を抑えてもらって四人で掛かる必要もある」

「あぁ、俺に無茶をさせるってそう言う……」

 

 オーリが親指を立て、キリトは遠い目をした。元より仲間内では剣技に置いてトップであるキリトに、最終決戦で重要な位置を担わせるのは決定事項だ。剣技であればアリスも候補に挙がるだろうが、彼女はキリトと違って術の実力も高い。《武装完全支配術》の能力も実際に戦ったストレアが言う限りでは、攻防に対する汎用性も高いために回すなら遊撃になるだろう。

 ユージオはその支配術の特性上、一対一がやりにくい傾向にあり、ストレアは超短期決戦型なので時間稼ぎに向かない。五体満足ならオーリでも良かったが、隻腕で戦闘力を落としているとなっては、適任はキリトしかいない。

 

「最高司祭の剣の実力は未知数だが、弱いという事は無いだろう。それと術を併用された場合、かなりキツイ戦いになるが……」

「何、これでも色んな奴と戦ってきたし、色んな事をしでかす奴ともやってるんだ。魔法と剣の併用くらいじゃ驚かないって」

「なら良い。最高司祭の相手は主軸がキリトで、僕とユージオは援護。ストレアと騎士アリスは控えでいく。隠し玉があった場合はまず控えの二人で当たる。支配術の使い所については各自に任せるが……天命については大丈夫だな?」

 

 四人に視線を巡らせれば、全員から頷きが返って来た。それと同時に降りてきた天井が、床にぶつかる直前で停止した。言葉を発する事なく、五人は自分以外の顔を見合い、頷いて石の円盤へと背中合わせに乗り込んだ。

 全員が円盤の上に乗ると、再び天井の一部に戻る為に上昇を始める。速くもなく、かといって遅くもないはずの上昇速度だが、次が最後の戦いである事を考えれば酷くゆっくりであると感じてしまう。全員が焦れて逸る心を鎮めながら、やがて視線の先にセントラル・カセドラルの最上階……最高司祭の居室の全貌が見えると同時に、歌う様な、囁くような甘い響きが耳を打つ。

 

 部屋をぐるりと取り囲むのは硝子窓であり、その向こうの景色はすっかり日が落ちた夜空であり、月が顔を出していた。硝子窓と同じように立ち並ぶ白大理石の柱にはそれぞれ巨大な剣の飾りが取り付けられており、月と星の光が降り注いで反射している。

 ふとその剣に、何故か()()()()()()が見えてオーリの表情が歪んだが、それはすぐに棚上げした。広大な……大回廊のように、この最上階全ての床面積を使った部屋の真ん中にある、円形のベッド。周囲を純白の薄布の垂れ幕が覆っている為に中の様子を窺い知ることはできないが、その向こうにオーリは、満たされる事のない『黒い穴』を見た。

 

「――…エンハンス・アーマメント」

 

 石の円盤が最上階の床と一体化して静止した瞬間、自身への支配術を唱えてオーリが疾走を開始する。彼の後に、そうするだろうと思っていたキリトが続き、一歩分遅れてユージオが駆けだす。声を上げる事はないが、全力で駆けるために足音は消せない。しかし、薄布越しに見える影が起き上がる速度は緩慢であり、初速より疾風の如く駆け抜けるオーリが短剣を突き刺す方が速いと予測できる。

 その予測は違わず、垂れ幕を突破したオーリはこちらにゆっくりと顔を向けた少女……長い銀色の髪に、こちらを映し出すような鏡の瞳を持つ絶世の美少女を視界に入れた。彼女が最高司祭か――…と言う感想を抱くが、その彼女がこちらをはっきりと認識する前に、その胸元へと突き立てるべく、短剣を振り下ろした。

 

 直後に、雷鳴にも似た衝撃音が轟いた。同時に、オーリの目が驚愕に見開かれる。

 

 短剣の切っ先を拒むように、紫色の光の膜が短剣を中心とした同心円状に現れたのだ。それを形作るのは極微細な神聖文字の連なりであり、《武装完全支配術》により自身の膂力を上げたオーリの一撃すらも防いでいる。

 

「こ、れは……ッ!?」

「――…なるほど。図書室のちびっこの差し金ね」

 

 激突の最中にあっても変わらない甘さを伴った声が、不快気な色を宿していた。至近距離で、オーリと最高司祭の視線が交わり、最高司祭は初めてオーリ・ヴァルゼライドと言う存在を認識した。

 

「……()()()()()()()()虹色の眼……お前には何が見えているのかしら」

「少なくとも今は――…討つべき相手しか見えてないさ!」

 

 突き立てられる短剣の先端がほんの僅か、神聖文字による光の膜を突破しようとした時、その神聖文字が真っ白に輝いて爆発した。炸裂した光と衝撃は二人を後ろへと吹き飛ばし、垂れ下がっていた天幕やベッドすらも吹き飛ばす。

 

「オーリッ!?」

 

 吹き飛んできた親友の身体をキリトとユージオが二人掛かりで受け止めて、それでも三人纏めて床に転がった。閃光と衝撃が止んだ後、控えていたストレアとアリスが見たのは同じように吹き飛んだはずの最高司祭が、一糸纏わぬ姿で()()()()()、悠然と五人を見下ろしている姿だ。オーリと同じように吹き飛ばされたはずなのに、その身体に傷一つついていない。

 

「あれが、最高司祭アドミニストレータ……」

「えぇ。六年前と、何一つ変わっていない……」

「ふぅん……」

 

 絶対者が、五人を睥睨する。その視線に込められた、人を人とも思わぬ……まるで実験動物を見つめるようなものに反応して、ストレアとアリスがそれぞれ剣を抜き、構えた。

 アドミニストレータの一挙手一投足に神経を集中させながらオーリ達を確認すれば、オーリは既に立ち上がり、彼に乗られていたキリトとユージオが剣を構えながら立ち上がる所。

 

「この部屋にこれだけ来客があるのは初めてだけど、騎士達や元老長は何をしていたのやら」

 

 ねぇ? と最高司祭の視線が微笑みと共にアリスへと向けられ、ほとんど無意識的に彼女が一歩後退った。ストレアが彼女に視線を向ければ、アリスの横顔は部屋に差し込む月明かりよりも青白く、薄く引き結ばれた口元。《敬神モジュール》が《フラクトライト》に差し込まれたままのアリスにとって、最高司祭との対峙はどれだけの恐怖を彼女に与えているのか。

 

「カセドラルに詰めてた整合騎士と元老長は、粗方兄貴がどうにかしちゃったんだよねぇ」

 

 だから、と言うわけでは無い。ストレアはアリスと最高司祭の間に立ち、視線に力を込めて最大の敵の銀色の目を見返した。

 

「す、とれあ……」

「へぇ、兄?」

「貴女サマに短剣刺そうとした男だよ。最高司祭サマ」

 

 慇懃無礼に、支配者の圧に屈する事なく胸を張り、ストレアが吼える。彼女の後ろでアリスが歯を食いしばり、右目に付けた眼帯代わりの布に触れ、一歩踏み出す。その横顔にはもう、恐怖の色はない。昂然と……隣に居るストレアと同じように胸を張り、力のある視線をアドミニストレータへと向けた。

 

「……何か言いたい事があるみたいね。アリスちゃん」

「――…恐れながら申し上げます。最高司祭サマ」

 

 凛とした声で、隣に立つ友のように慇懃無礼に、アリスもまた吼えた。

 

「栄えある我らが整合騎士団は、本日を以て壊滅いたしました。私の隣に立ち……そして貴女サマの前に立ちはだかる反逆者達の手によって。そして、最高司祭アドミニストレータ……貴女がこの塔と共に築き上げた果てしなき執着と欺瞞故に!!」

 

 

 

 

 

 

 凛とした騎士の言葉を、最高司祭は思案の表情で聞いていた。

 

「アリスちゃんはまだ六年くらいしか使ってないわよね。論理回路にエラーが起きているわけでもなく、モジュールも機能しているのに……やっぱり、そこのイレギュラーユニット達の影響かしら?」

 

 最高司祭の視線がアリスの横に居るストレアと、その前に居るキリトと、オーリを順番に見る。その視線は人に対するものでは断じて無く、家畜や道具を見るような視線。そんな視線を受けながら、オーリは短剣を握り直し、キリト達は各自の愛剣を握り直した。

 

「あら? さっきも見たと思うけど……私に金属武器は効かないわよ? ちびっこがその短剣に何をしたかは知らないけど、メタリック属性を与えたのは失点ね」

「金属……」

 

 ストレアが呟いて思考を回す。確かにこっそりと短剣を解析した時に、そんな属性が付いていた事は確認している。それに対して無効化を宿しているというなら、アドミニストレータの余裕にも納得が行く。

 しかし、神器級の武器の中にはその括りに入らない物が存在しているのを、最高司祭は知っているはずだ。整合騎士に配布されている神器の中にも存在する、動植物を元に神器へと作り変えた物が。アリスの《金木犀の剣》などがその最たるものだが、それにもメタリック属性……金属としての特性を付与しているのだろうか?

 

 疑問は尽きないが、しかしそれを突破する術が少なくとも三つある事を、ストレアはわかっている。一つはギガスシダーの枝を削り出しただけで作ったキリトの剣。その鋭さは並の刀剣を凌ぎ、強度に至っては並の神器を超える程だが、元は金属ですらない木の枝だ。これならば最高司祭の防御を無視する事が可能であると考えられる。

 もう一つはストレアの剣である《群狼剣》。これは長年持っていた物であるので解析も全て完了している。その中でメタリック属性が付いていない事は確認済みだ。故にこれでも最高司祭への攻撃は通るだろう。

 最後の一つは最も単純で、とりあえず自分達の肉体で殴れば良いんじゃないかと言う話だ。ストレアの支配術ならばオーリ同様に人智を超えた膂力を発揮できるので、ダメージソースとしても効果的だろう。ただ、これを言ってしまうと片腕なのに本気を出す人間が一人いるために、ストレアは言うのを止めようと誓う。

 

 絶対気付いてるだろうな、とは思っているが。

 

「にしても……アリスちゃんはまぁ、イレギュラーの影響を受けたと理解できるけど、貴方達は何のためにここまで来たのかしら? 特に《向こう側》から来た()()は」

 

 向こう側? とアリスが疑問符を浮かべ、二人? とユージオが疑問符を浮かべる。《外》から来たのはオーリとキリトとストレアのはずなのに……と考えるが、頭を振って考えを払った。

 

「元々は僕がここに来ただけですよ。最高司祭殿」

「お前が? 何のために?」

「貴女に問わねばならないと思った事がありましたので」

「問い、ねぇ……聞くだけ聞いてみましょうか」

 

 純銀の髪を弄びながら、何に興が乗ったのか悠然と最高司祭が微笑んだ。一糸まとわぬ裸体を惜しげもなく晒し、中空に居ながらまるで透明な柔らかい椅子に座っているかのようにゆったりと足を組む。

 

「では恐れながら……まずはダークテリトリーの侵略について。人界において彼の侵略に対抗できる戦力が現状、整合騎士団のみだと思われますが、彼我の戦力差はどうお考えでありますか?」

「なるほどね……確かに、整合騎士団とダークテリトリーの戦力差で言えば圧倒的に整合騎士団の方が少ないわね。それで?」

「整合騎士団以外に、何か秘策でもあるのでしょうか? 例えば――」

 

 その眼を虹色に輝かせて、オーリが周囲の柱を睨み付ける。

 

「人界の人間を、兵器に変えると言う術式などは?」

 

 その言葉に最高司祭は笑みの質を変えた。『我が意を得たり』と言わんばかりに喜色を滲ませ、鈴の音のような笑い声を狂ったように部屋中に響かせる。

 

「ふふふふふふふふ……ちなみに聞くけど、何故そう思ったのかしら?」

「兵数と、兵の質。《武装完全支配術》の先……《記憶解放術》の存在。そして、僕自身がやった事を総合して、ですかね」

「あぁ、貴方は自分の身体で《武装完全支配術》を使っているのね。ディヴァイン・オブジェクトに並ぶほどに鍛え上げるだけじゃなくて、そこに至るまでの思考……ふふふ……随分と()()()()()のね」

「それでも、貴女ほどじゃないでしょう」

「あら? 私が狂っていると?」

「人から見れば、人でなくなった存在は皆狂ってるように見えると思いますが」

 

 それもそうね、と最高司祭が楽しそうに……張り付けたような笑みでなく、心底楽しそうに笑う。彼の言動の何が琴線に触れたのかはわからないが、そこに嘲りなどの感情が見られない事は確かだ。

 

「こわいこわい……狂っている事をあっさりと受け入れているのに、その上で真っ当に振る舞っている事がとてもこわい。何より……その眼で見て、分かった上で聞いているのでしょう? 私が何をしたか」

 

 こんな場でも無ければ見惚れる程の笑みを見せながら、オーリに問いかける。キリト達の視線も彼に集まり、オーリは深く鋭く息を吐いた。

 

「何人使った?」

「三十人と三百人、と言った所かしら」

「必要と考えている数は?」

「半分あれば十分じゃないかしら」

「おい、オーリ。お前は一体何を聞いてるんだ?」

「……意味を聞けば、お前達は戦えなくなるぞ。キリト」

 

 振り向いた親友の顔を見て、キリトは息を呑む。その顔に一切の表情は無く、まるで能面のように無機質な、激情が一回りしてしまった表情。親友である男が彼に見せるのは初めての顔で、()()()()()()()()だ。

 

「ふふ、彼が言いたくないのなら、私が坊や達に答えを教えてあげる。私が何を持って、何を作り上げたのか、ね」

 

 ゆったりとした動作で最高司祭が上空に手を翳すと、どこからともなく紫色に淡く輝く三角柱の形のクリスタルが現れ、するりとその手の中に納まる。何だ、と五人が疑問に思った瞬間、アドミニストレータがその美貌に狂笑を浮かべた。

 

 

リリース・リコレクション!!

 

 

 高らかに謳い上げたのは、武装完全支配術の神髄。最大最強の、神聖術を超える力を引き出すための秘術。その言葉を聞いた瞬間に、未だに支配術を起動状態にしていたオーリがその出力を最大にして駆ける。疾風を超え、迅雷に肉薄するような速度を持って、ほぼ瞬間移動のように銀髪の少女の眼前へと跳躍した。

 そのまま繰り出されるのは、迅雷の勢いを余す事無く乗せた蹴撃。並の武具ならば砕いて装備者に致命を与える事も出来る一撃は、二人の間に割り込んだ黄金の剣によって防がれた。舌打ちと共にその剣を足場にしてそこを離脱すれば、オーリが居た空間を次々と、大小様々な黄金の剣が通過していく。

 

「あれは、柱にあった剣……!?」

「おいおい……最高司祭ってのは、術の原則を無視できる程なのか!?」

 

 黄金剣の本数は、全部で三十。それが全て最高司祭による《記憶解放術》で動き出した。カーディナルに《武装完全支配術》を教わったキリト達と、よりこの術について深く理解しているアリスの顔に浮かぶのは驚愕の表情。

 この術の大原則は、自分の一部となるほどに使い込んだ武器でなければ使う事は出来ないという事。そして、それほどにまで使いこんだ武器と言うのは通常一つだけのはずだ。そんな原則を嘲笑うかのように、最高司祭は三十もの黄金剣の記憶を解放して見せた。

 

「あり得ない……!」

 

 吐き捨てられたアリスの言葉に、ストレアは同意する。最高司祭はカーディナル・システムを取り込んだが故に、そのシステムを……この世界の理から逸脱する事は出来ない。抜け道を通っているのだろうと予想は出来るが、どんな抜け道を通っているかが分からない。

 

「「《ディス・チャージ》ッ!!」」

 

 黄金剣が齎す斬撃の嵐を回避しながら、オーリとキリトが同時に叫んだ。オーリは風素を、キリトは熱素を、誘導性の高い《バード・シェイプ》を用いて最高司祭へと……正確には、彼女が持つ紫色の三角柱へと放つ。示し合わせたわけでもなく、互いの素因の数は三。合計六の鳥の形をした素因が飛翔する。

 しかしそれは、突然向きを変えた二本の黄金剣によって薙ぎ払われ、いともあっさりと弾けて消えた。二本の剣は素因を薙ぎ放っても尚、刀身に曇り一つないため、その強度……いや、優先度(プライオリティ)は相当に高い事を伺わせた。

 そんな大小様々な三十の剣が、金属音を放ちながらぶつかり、接触し、組み合わさっていく。ある剣は足のように、ある剣は背骨のように、ある剣は腕のように、ある剣は肋骨のように、ある剣は顔のように……五人の眼前に現れたのは、二本の剣の腕と、四本の剣の足を持つ、全てが剣で構成されたヒトガタ。身の丈が五メルはあろうかと言う異形の巨体を持つ、剣の巨人。

 その巨人の中心部……生物であったなら心臓があるだろう位置に、アドミニストレータの手から離れた三角柱の結晶が収まると、剣全てが一際強く輝いた。輝きが収まると共に、鞘から剣を抜いたようなキィン、という音と共に鋭利な刃を覗かせる。

 

「クソが……!」

 

 吐き捨てられた言葉は、巨人が床に着地する轟音にかき消された。それと同時にオーリ達が巨人と相対するように一か所に集結する。

 

「おいオーリ! あれはいったい何なんだ!」

「これこそ、私が求めた力――…永遠に戦い続け、永遠に殺戮を続ける純粋な攻撃力を持つ兵器……名付けるとしたら《ソードゴーレム》かしら」

 

 叫んだキリトの問いに答えるように、アドミニストレータが謳う。名の意味する所は《剣の自動人形》――…それを睨み付けて再びキリトは親友を見る。

 親友の顔は悲痛に歪んでいた。激情が一回りして無表情だったものが、悲痛に歪んでいた。

 

「……おい、まさか……」

 

 それで悟った。悟ってしまった。ゴーレムが現れる前の問答の意味が、キリトの脳裏で今この状況に繋がっていく。

 

「人間だ。あの剣全部、人間を()()にして作りやがった」

「……え?」

 

 はっきりと告げられた事実をユージオは理解したくなかった。

 

「こ、こんな時に冗談……」

「なら、僕の気もだいぶ楽だな。後で四人に殴られるだけで済む」

 

 ユージオの方を見ないまま答えるオーリの言葉は軽口らしきものではあったが、その中に余裕は一切ない。

 

「ひ、人を……剣に作り変えた、という事ですか?」

「あぁ」

 

 アリスの問いに短く答える彼の視界に映るソードゴーレムの色は、様々な(感情)に塗りつぶされた黒。アドミニストレータを見た時の、底の無い欲望だけの黒ではない。()()()()()剣に変えられた三百人の負の感情が綯交ぜになった、全色の黒。

 

 そう……生きている。剣の材料にされた人間は全員、今も生きている。

 

「どこ、まで……」

 

 ギリィッ! とアリスの食いしばり過ぎた歯が鳴った。

 

「どこまで人を! 魂を弄べば気が済むのです!! アドミニストレータァァァァァァッ!!!

 

 広い部屋の全てを震わせるほどの怒りの咆哮と共に、アリスの剣の刀身が無数の花弁へと変わった。所有者の怒りに反応してか、花弁の一枚一枚が鮮烈な光を放ち、アリスは全身を限界まで反らせて振りかぶる。

 軌跡を描きながら無数の花弁が向かう相手は最高司祭。しかし、ゴーレムの右腕がその行く手を阻むように掲げられ、振り下ろされた。黄金同士がぶつかり合い、アリスが発した怒りの咆哮を超える程の轟音が響き渡り、衝撃が部屋全体を駆け抜ける。

 

「みんなっ!」

 

 ストレアの号令がオーリ、キリト、ユージオの耳を打ち、三人がそれぞれの方向へと駆け出して、その直後……黄金同士の激突から数秒後、アリスの《金木犀の剣》がゴーレムの右腕に呆気なくはじき返された。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

 ストレアが支配術を発動したのは、攻撃をはじき返されたアリスが踏ん張ったのと、ゴーレムがその左腕を振りかぶったのと同時だった。だからこそ、その行動は咄嗟の事で、ストレアは思考を介さない反射のままにその行動を取った。

 

「え――」

 

 アリスの身体が横から突き飛ばされる。遠慮も何もない、ともすれば攻撃と思われても仕方のないほどに強く。下手人はわかっていると、アリスは睨み付けるように突き飛ばしたであろう相手がいる方を見て、状況に似つかわしくない呆然とした声を上げたまま、宙を漂う。

 

 

「ストレアぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

 悲鳴のようなユージオの声が、どこか遠くに聞こえた。

 アリスの眼に映し出されたのは、ゴーレムの左腕……凶悪なまでに巨大な黄金剣の切っ先が、見た目は華奢とも言って良いストレアの背中から生え――…真紅の雫が撒き散らされた光景だった。

 

 

 

 




いがみ合っていた相手が命を投げ出して相手を助ける展開すこすこ侍(マテ
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