明日奈と詩乃を《アンダーワールド》へ送り出し、加藤は一つ息を吐いた。それは安堵から来たものでも、呆れという感情から来たものでも無い。自身の中で一つの区切りをつける為のものである。
第一制御室での作業は、二人を送り出す最低限の事柄のみ三十分以内に終了出来た。しかしあくまで最低限である為に、万全を期す作業は今も続いている。護衛の伊織は第二制御室に詰めてもらい、安岐二等陸曹はダイブしている四人のバイタルチェックに追われている。
「二佐」
「何でしょうか、加藤一佐」
「最悪の場合、この国の国防と言う物が乗っ取られる可能性すらあったことに対して、申し開きは? 後、無事に事が済んでも顔が倍の大きさになる程度に殴られる事は、覚悟しておいてください」
「後半は聞かなかった事にしたいね……」
菊岡は苦笑した後、表情に苦いものだけを残して笑みを消した。
「申し開きは何もない。スタッフの選別をしたのも僕である以上、見抜けなかったのは僕の不手際だ」
「不手際という次元ではありませんが、まぁそれはいいでしょう」
「あの、加藤さん? どういうことなの?」
凛子の問いに対して、数秒の思考の後に加藤は口を開く。この計画が犯してしまった、ミスというにはあまりにも大きい破綻を。
「プロジェクトスタッフ内に内通者が居ました。そして、その先に繋がっていた相手が問題です」
「繋がっていた相手……?」
「NSA、
「は?」
数年アメリカで暮らしていた凛子には耳馴染みのある単語ではあるが、関わる事などほぼ無かった組織の名前が出てきて、思わず呆けた声が出る。大国の中核組織の名前が出るなどとは夢にも思わず、比嘉に至っては顔色が真っ青になっている。
「このプロジェクトの中核技術である《ソウル・トランスレーション・テクノロジー》と、目指す成果物である《人工高適応型知的自律存在》……《
「じょ、ジョーダンっスよね……?」
比嘉はそう言うしかなかった。超一級の天才を自認する彼であっても、認めたくない現実と言う物は存在する。正規の外交ルートで来るならばそれは良い。そんな事は国の仕事であり、目の前の加藤や菊岡が対処するべき案件だからだ。
「相手の反応は二系統。破壊か奪取となりますが、破壊の場合の最悪は間髪入れずにここにミサイルを叩き込まれて、全員仲良くお陀仏と言う物ですね」
「一発だけなら誤射……と言い張れるからね。力関係的にも押し通せるだろうけど、日本国民の感情としては対アメリカのそれは最悪になるし、そもそも一発だけでは余程当たり所が悪くないと沈まない設計だ。そう考えれば確実性に欠けるから無いとは思う」
「となると、どちらの場合も現実的なのは直接ここに乗りこんでの破壊か制圧ですか」
自衛官二人が深刻な雰囲気でしている会話は、《プロジェクト・アリシゼーション》のほとんど全てがバレている、という事を想定して進められている。これは内通者であった柳井がプロジェクトにおいてもそこそこの地位に居たからであり、彼の権限に置いて知れる情報と菊岡誠二郎という人間と比嘉健という人間が『内部の人間にどこまでの事なら話すか』という、加藤の分析に基づいた結果としてあり得るものをまとめた場合、根幹的な物はほぼ向こうに流れているだろうと判断しているからだ。
その話を聞かされている状態の比嘉と凛子は溜まったものではないが、比嘉にとっては自分の仕出かしも遠因となっている為に流すという事も出来ない。
「問題は――」
続けようとした言葉を不意に切り、加藤はその目に冷徹な光を宿らせる。その様子を菊岡が怪訝そうな表情で見た瞬間、《オーシャン・タートル》そのものが大きく揺れた。何事かと焦る一般人二人を余所に、自衛官二名は視線を合わせた瞬間お互いに頷いた。
「二時間稼ぎます。その間に非戦闘員の退避及び、メインコントロールのロックを。その後に貴官らも第二制御室へ」
「了解した。ご武運を」
「止めてください。貴官に祈られると勝てるものも勝てません」
鉄面皮が大きく歪み、心の底から菊岡の祈りが要らないという顔をした加藤が第一制御室を飛び出す。扉が閉まる直前には、彼女の大きく張り上げられた声で出される指示が廊下中に響いていた。
「き、菊さん」
「比嘉君、神代博士、僕も手伝うから作業を開始してくれ。どうやら、敵が来たようだ」
◇
変わり果てたオーリと対面した姉妹は泣き崩れた。彼の身体に縋りつき、人目があろうと関係なく、痛々しいほどに泣き叫んだ。今兄は本当に危ないのだと、彼女達はその魂で感じ取ってしまったから。自分達がかつて感じていた気配を、横たわる兄の魂から感じ取ってしまったから。
ユナとリーファも、その変わり果てた姿に愕然としていて、気持ちを整理するためにその日は割り当てられた部屋で休む事になった。姉妹は当然ながら兄から離れようとせず、護衛のリネル・フィゼルと険悪な雰囲気となったために少々騒ぎになったが、カーディナルに諭されて折れたのはリネルとフィゼルだった。
姉妹の慟哭と悲嘆の感情を見て、何も感じなかったわけでは無い。自分達よりももっと深く悲しんでいるのだとわかっているが、だからと言って姉妹の事を……もっと言えば彼の妻を名乗るシノンや、他の《外》からの人間を信用する事は出来ない。
ただ、彼女達の嘆きは本物だったから、それは信じられると思ったのだ。
『ご迷惑をおかけしました』
『ごめんなさい』
その翌日、ランとユウキは頭を下げた。散々泣き腫らした顔には涙の痕が残っていたが、納得も理解もしきれていないまでも整理はついたと言って。
謝罪は受け入れられ、二人には早速双子騎士が絡んでいって『
シノンはオーリの世話をメインで行っているが、ランとユウキに代わった時はデュソルバートを筆頭とした弓を使う騎士とその見習いたちに請われて指導をしている。『シノン様』と彼の騎士に呼ばれた時は、自分以外にシノンが居るのかと探したらしい。自分の事だと気付いた後は『様付けは止めて』と必死になって説得したが、あの絶技が出来る方に様付けするのは当然と言う彼らに押し切られてそのままだ。『義姉さんが押し切られた……!?』とランが戦慄していたのは内緒の話である。
瞬く間に時間は過ぎていき、一月も経った頃には新たに来た六人もアンダーワールドに馴染んできた。
そんな日の夜。キリトは沈んだ顔のまま、一人でカセドラルの庭園に座っていた。侵略に抗う為に一秒たりとも無駄に出来ない激務続きであったが、それは彼にとっても好都合だった。
親友が望んだ未来に続いている道を走っていると実感でき、そんな親友に全てを賭けさせた辛さを和らげる事ができた。逃避でしかないそれに待ったをかけたのはカーディナルだ。寝る間を惜しんで仕事をこなそうとするキリトを咎めるように『休め』と言われてしまえば、キリトも従うしかない。
誰も、キリトを責めなかった。
アスナもリーファも、ユナもシノンも、あれだけ泣き腫らしたランもユウキも、誰一人キリトを責めなかった。責める権利を持っているはずの存在は、誰も彼を
「それでも、俺はあいつを……」
「キリト」
俯く彼の身体に影が差した。聞き慣れた声は間違えようもない……この二年以上を共に駆け抜け、八年前に別れてしまった幼馴染のものだ。
「ユージオ……」
顔を上げたキリトが見たのは、いつものように優しげに微笑む彼の顔だった。その手には水が入った瓶が二本握られていて、ユージオはその片方をキリトへ差し出す。
「寝ないのかい?」
「そう言うお前こそ、明日もストレアに付いて外回りだろ?」
「アリスが『ユージオは最近働き過ぎ』って言って、強引に代わっちゃったんだ」
「そうなのか……」
ユージオはキリトの隣に座り、空を見上げる。久しぶりにちゃんと見たような気がすると、満天の星空と満月を眺めながら一口水を煽った。
「こうして二人で星を見るのって、何時ぶりだろう」
「……どうだったかな。央都に行く時の野宿以来か?」
「あー、そうだったそうだった」
他愛もない話。比較的最近の話から徐々に昔の話へと遡っていく。ユージオと、アリスと、キリトの三人で居た輝かしい日々へと、思いは回帰する。子供の頃の他愛もない失敗談や、何の変哲もない日常の中で見つけた喜びの記憶。
《蒼》に包まれた時にキリトが見たのは、この世界で過ごした十年ほどの記憶だった。ラースによって記憶を封じられて落とされた世界で得た、掛け替えの無い日々。アスナやオーリと過ごした時間とはまた違う、大切な時間。
ユージオも同じ物を見た。直後は最高司祭と戦いがあって、その後にはオーリが倒れ、侵略に抗う為に目まぐるしい日々を送ったために、今までこうして話す機会は無かったが。
「そう、だったのか……」
「うん。アリスはその時に記憶を取り戻したって言ってた」
ちなみにストレアとカーディナルについて、ユージオはそれとなく聞いてみたが回答拒否であった。ただ、何かを見たという事だけは教えてもらったので、あの場に居た全員……アドミニストレータも含めて、失っていたか手が届かなかったものを手にしたのであろうという事は予想できる。
「……あいつには、貰ってばっかだな」
離れてしまう運命だった三人の幼馴染。キリトはそもそも住む世界すら違っていたのに、再び二人に会う切欠になったのは、もう一人の親友だ。
「なぁ、ユージオ。俺は……あいつの仲間で、友達で居ていいのか?」
「……どういう事だい?」
弱々しく、今にも泣き出しそうな顔をした親友に、ユージオは笑みを消して真剣に聞き返した。キリトの口から零れ出るのは、彼の印象からはかけ離れた弱音。立場の違いなどはあっても、キリトはオーリと対等であると思っていた。しかし彼が倒れてから考えてみれば、彼から気を使われたり与えられたりした記憶を多く思い出せても、彼に対して何が出来たかという記憶は少ない。
「それを言ったら、僕は貰いっぱなしで何かを返せた試しは無いよ?」
「え?」
「え、って……考えてもみなよ。二年前にルーリッドを出る前、まず僕とセルカはストレアに助けられてる。央都に来る事の後押しをしてくれたのもそうだし、央都に来てからはオーリにもお世話になってるよね。この時点で、僕は何も返せてない」
わかる? と聞いてくるユージオにキリトは頷きを返すが、果たしてそうだろうかとも考える。央都に来てからの一年は、ヴァルゼライド家で仕事をこなしながら様々な事を学んだ。その間もユージオは意欲的に仕事もしているし、使用人や同僚の覚えもめでたかった記憶はある。
「それはあくまで仕事だよ。給金はちゃんともらってるし、何なら学院への推薦状まで書いてくれた。恩に関してはオーリにもストレアにも、僕は何も返せてない」
そう言って視線を落とすユージオに、キリトは何も言えない。彼が自身と同じような悩みを抱えている事など知る由もなかった。自分から見てユージオとオーリらの関係は友達や仲間で間違いは無くて、上手くいっているのだと思っていた。
「でもさ、キリト。友達や仲間っていう関係は、何かした何かされたって関係じゃないって思うよ」
「どういう事だ?」
「僕と君とアリスの三人で居た頃、そんな事を考えなくても仲間だったし、親友だった。その気持ちは今だって変わってない……だろ?」
「あぁ、勿論だ」
「だったら、オーリも同じ……って言うのはあれだけど、近い事は思ってると思うんだ。キリトがそんなに気にしても、『じゃあ今日の蜂蜜パイはキリトの奢り』で済ませそうって言うか」
そう言われて想像してみれば確かに言いそうだと、キリトの口から思わず笑いが零れた。自分が悪いと思っている気持ちは変わりがないが、そうして責め続ける事も親友だと思っている男に対しての侮辱なのかもしれないと考えられると、何となくキリトは胸の裡にあった淀みが引いていく事を感じる。
「……ここぞとばかりに他の人の分も買わせそうだよな」
「あはは、今だとアスナさんとか皆の分も増えるかな」
「うへぇ……地味に痛い出費になるなぁ」
ははは、と二人は久しぶりに明るく笑っていた。
「……ほんと、こういう時の男の子ってズルいですよね」
「そうだね……わたし達が一月掛かってもダメだったのに」
庭園の物陰では妹と恋人がブーたれていたが、被害を受けるのはキリトだけなので問題なかった。
◇
アドミニストレータ討伐から二カ月。対外的な交渉関係は粗方終了し、集まった戦力……《人界守備軍》と名付けられた軍の訓練に入る時期。
「ストレア、どういうこと!?」
アリスがカセドラル内にある、ストレアに割り当てられた部屋へと駆けこんできた。机の上に積まれた書類の山をかき分けて、部屋の主がアリスへと疑問の視線を向ける。
「何の話?」
「私とユージオがルーリッドへ行く件!」
「あぁ……どういう事も何も、
ジト目を向けたストレアの視線には『知らないと思ってんのか』という言葉がありありと見て取れ、アリスはすっと視線を逸らした。
二人……アリスとユージオが先月から交際しているという話は、ストレアの耳に入ってきている。というより、二人の雰囲気の変化に真っ先に気付いたのはファナティオで、その彼女から確認をお願いされたのはストレアだ。『アタシに頼むな』と内心思った彼女だが、個人的に区切りをつけるいい機会であると受け止め、調べた結果として二人は黒……交際中であった。
「何故バレたの……」
「兄貴仕込みの気配遮断。で、その話はちゃんとカーディナルにも騎士長にも通ってるから」
「これから集めた兵達の教練があるのに、私達だけ何故……それこそ騎士長と副長も」
「あの二人にはもう、待ってくれてた家族は居ないんだよ。居るとするなら顔も知らない血族……孫や曾孫以上に離れたのくらいしかないじゃん」
「それは……」
「アンタら二人はまだ家族が居るし故郷もある。せめて少しの間だけでもそこで過ごせって言う心遣いだよ。それに、ルーリッドは北の果てに一番近い。防衛的な意味でも二人を置いておけば、こっちは他に力を入れられる」
ストレアから告げられた感情と実利に、アリスは何も言えなくなった。集められた戦力は約六千五百。四帝国の内、北のみが他の三帝国の倍の兵力を提供してこの数字だ。その中にはヴァルゼライド家の筆頭衛士であったアグルの姿もあり、他にも見知った顔があった。オーリの影響であるというのは早計かもしれないが、それでも他の三帝国に無く北にだけあった要素で、数に影響するものはそれくらいしかない。
そんな彼らを鍛えるのは少しでも戦いを知る整合騎士達であり、当然自分も参加するとアリスは思っていた。蓋を開ければこんな事になったが。
「それに、最高司祭代理直々に『禊は終わった』って言ってもらったんでしょ? もう誰に憚る事も無くアンタも帰る事が出来るってのに、何を渋るの?」
「……貴女が心配、だと言ったら?」
「アタシが?」
思いもよらなかった、と言った表情で、ストレアが書類を見ていた顔を上げた。別にストレアも、本気でアリスを嫌ってはいない。決定的な所以外の気は合うと言っても良いし、武装完全支配術込みで同等の実力を持つ二人は好敵手同士である。
ただ、そんな相手から心配されるというのは何とも想定外であった。ストレアはアリスの心配をした事は無いし、心配されるだけの事をした覚えも無いからだ。
「貴女、ここ最近ちゃんと寝たの?」
「疲労が溜まらない程度には寝てるし、仕事は待ってくれない。カセドラル内の事や守備軍の事は他の人に投げられるけど、流石に家の事は誰にも任せられないじゃん」
「貴族の仕事って言ってもそんなに多いはずは」
「ヴァルゼライドの私領地は馬の育成や繁殖をしてるの。物を運んだりする馬車用の馬も、農耕用の馬も、軍馬に至るまで。それを今、守備軍で使う為に遣り繰りしたり、売るなら売るでその値段を出したり。非常時だからという事で、領地の皆にも説明して納得はしてもらったけど、あんまり無茶は出来ないし」
他にもあるけど? と言った所でアリスが白旗を上げた。ちらりと見えた書類には確かにその様な事が書かれていたのもそうであるし、ストレアの説明が全く淀みの無いものだったために口から出任せとも違うと思ったのだ。ルーリッド村で一番の優等生や神童とも言われたアリスであっても、その素直さ故にそう言う
「……わかりました。そこまで言うのなら何も言いません」
「あぁ、他の騎士達には挨拶していってね。アタシや騎士長が説明しに回るの面倒だから」
「準備もあるし、出発には数日は掛かるから、その間に済ませるわ」
「それが良いよ。何か騎士長もユージオに話があるって言ってたし」
「小父様が?」
降って湧いた帰郷の話を問い合わせたのはアリスだけではない。ユージオも事情を知ってそうな人物に会う為にカセドラルの中を歩いていた。
「ベルクーリさん!」
「ん? ユージオか。どうした?」
「どうした、じゃないですよ! この時期に北に行けって……」
「あー、その話か。丁度いい。そこで話すか」
ベルクーリが指したのは食堂だ。今は昼食の時間を少し回っている為、人の姿もまばらになっている。言うが早いかそこに向かう騎士長を追ってユージオも歩き出し、端にある席で二人は向かい合う。
「んで、北……ルーリッド行きの話だな」
「はい。何故この時期に僕とアリスがルーリッドに?」
「別に大した事じゃねぇ。お前さんと嬢ちゃんの故郷だし、あそこは北の果てに一番近い。長い時間北を監視する拠点にするにゃ、二人ならお誂え向きだろ?」
「それは……」
「飛竜ならあそこを拠点にすれば北を見張るのは難しくねぇし、万が一ダークテリトリーの侵略軍が来たとしてもお前さんの支配術は多数の敵を拘束できる。その上、北はそろそろ寒くなる時期……相性的にも一番いいのはわかるな?」
普通に正論を言われ、ユージオは納得した。確かにこれから中央は集めた守備軍の調練などで忙しいが、それでも各所の監視を怠るわけにはいかない。特に果ての山脈を貫く洞窟近くにある村などに、監視の意味で騎士やそれに準ずる戦力を置くのは理に適っている。崩落させたとは言え、どこかしらから抜けてこないとも限らないのだから。
人選についても納得できる話ではあるのだが、そちらは何か裏があるような気がしているので素直に頷くのは憚られた。
「……いや、何で僕らなんです?
「東を除いた三方向に配置してるのは基本的に二人ずつだ。今までは数日置きの入れ替わりでやってたんだが、それは長い期間張り付く事のできる拠点が無かっただけだからな。男女っつーのは、ファナティオとストレアの嬢ちゃんが『問題ない』って言ってたからなんだが……まぁその、何だ。そう言う事なんだろ?」
バレてるー!? とユージオは内心絶叫した。表情にも出ていたのか、ベルクーリの表情は優しい。
「……そんなにわかりやすいですか?」
「最初に気付いたのはファナティオだ。で、探ったのはストレアの嬢ちゃん。オレぁそれを聞いただけだよ」
やれやれ、と肩を竦めたベルクーリに対して、ユージオは両手で顔を抑えて俯いてしまった。寄りにも寄って恩人に探られていたとは思わなかったし、バッチリそうであると確信を得るようなところを見られていたとあっては、顔を合わせなくても済むようになるルーリッドへの帰郷は渡りに船とも言えた。
「それでだ、お前さんに一つ提案があるんだがな」
「提案……ですか?」
あぁ、と真剣な表情になったベルクーリを見て、その背筋を正す。どんな事を言われるのだろうかと考えるが、想像もつかない。
「何、そう気負う事でもねぇよ。ただ、オレの家名を名乗らねぇかって話だ」
ユージオがその言葉を理解するのに、たっぷり十数秒かかった。
目の前の整合騎士団長がルーリッドを開拓した英雄である事は、既にユージオも承知している。その縁から、ベルクーリも多少ユージオに目を掛けているのだが、だからと言ってその提案はユージオの思考を超えていた。
「ど……どういう意味です……?」
故に、それだけの言葉を捻りだすのが精いっぱいだった。
「いや何、オレとお前さんは奇妙な縁で結ばれてると思ってな」
「奇妙な、縁?」
「オレが拓いた村で生まれ育ち、オレが語り合い、手に掛けちまった白竜の剣を持ってオレの前に現れた男。しかもその腕も並じゃあねぇ。何も感じるなってのが無理な話で、そんな男に無くなった生家の名を再興して欲しい……って思っちまったのさ」
少しだけ恥ずかしそうな表情を見せて頭を掻く彼は、今この時だけは騎士長ではないただのベルクーリとして、目の前の自分に向かい合っているのだとユージオには感じられた。ユージオは、家名を持たない開拓民の子供である。そんな彼が家名を得るという事は、本来なら不可能に近い。機会があるとすればあのまま学院に通い、剣武大会を勝ち抜き、統一大会にて好成績を修めて一代爵士として叙任される事。または家名を持つ家に養子に入る事や、その家の娘との婚姻を持って婿養子になる等がある。
最後の方法については、アリスが攫われなければチャンスはあったかもしれないが、村の状況を考えれば村長がアリスとユージオの婚姻を認めるかどうかは怪しいだろう。しかし今現在、アリスは辺境の村長よりも権限のある整合騎士であり、身分的な物にも縛られていない為にその辺りの自由度は高い。
ただこれではアリスがツーベルク家を継ぐという選択肢が取れない為、二人とも家名無しという事態に陥る。それ故のベルクーリの提案だ。
「いや、その……ベルクーリさんはファナティオさんと結婚しましたよね?」
「そうだな」
「子供が出来れば、その子に再興してもらえばいいのでは……?」
「その場合は別の姓にするさ。ファナティオの姓でも良いし、まったく新しいのを考えても良い。整合騎士なら、権限的に新しい家を興すのも難しくないしな」
あいつも納得済みだ、と告げられて反論の余地が無くなったとユージオは悟った。そして、その意味も悟る。
「……これって、僕がベルクーリさんの……?」
「まぁそうなるな。嬢ちゃんの事を頼んだぜ、
祝え! ユージオ・ハーレンツの誕生を!(ウォズ感
ぶっちゃけやりたかったから捻じ込んだ感が凄いけど仕方ないよね。
ゆーじお「何か家族関係が凄いややこしくなりそう」
ありす「お父さんが居て、でも小父様もお義父さんになって……?」
すとれあ「まぁ貴族なんてそんなもんだよ。よくあるよくある」
べるくーり「そう言うのが嫌でオレぁ開拓に出たんだがな!」
きりと「自分が嫌な事を積極的に擦り付けるの止めたげてよぉっ!?」