流星の軌跡   作:Fiery

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まぁゲームならあれだけど、アンダーワールド系の世界は難しそう。


仮想世界に現実の法律は当てはめられない

 

 現状の公理教会はカーディナルを最高司祭代理としてトップに置いているが、実態としては彼女と整合騎士団長のベルクーリ、そして相談役として抜擢されたストレアの三人による合議制に近いものを敷いている。時にはそこにキリトや、騎士団の副長としてのファナティオも参加して意見を求められる事もあるが、基本的には三人によって意思決定がなされる事が多い。

 

「ごめんカーディナル。もう一度言って?」

 

 この場ではすっかり、カーディナルやベルクーリに遠慮という行為をしなくなったストレアが、心底疲れたようなため息とともに問い返す。

 

「わしの……いや、()()()()()()()()の名代として、ダークテリトリー側の穏健派と接触して来いと言った」

「聞き間違いか気の迷いであってほしかった……」

 

 大図書室の天井を仰ぎ見て、ストレアは両手で顔を覆った。

 

 事の発端は、以前集まった席でのストレアの発言である。『侵略に抗うのは確定として、戦況を優位に進められた場合の落し所をどうするのか。敗色濃厚の場合、()()()()()()()()()()()か』という、先を見据えた発言にカーディナルとベルクーリは少しの間沈黙した。

 

『そりゃ、どういう事だ?』

『互いが互いに全滅するまで戦うわけ(皆殺し上等)じゃないでしょ? 少なくとも、こっち(人界側)は相手を全滅させるほどの体力……兵力は無いし、ダークテリトリー側は奴隷云々の話があるから、戦う力のない人間は必要以上に殺さないはず』

『……ふむ。そう言われればそうかもしれんな』

『今だって勝つために最善は尽くしているし、準備はしている。それでも戦力差は十倍近いって調べは入ってるから、尽せる手は尽くした方がいい』

『それが落し所と、降り方の考えか。確かに、オレ達はあくまで防衛目的で戦うわけだからな……どっちも万全の状態じゃ当然和平なんて事にゃならねぇが、こっちが有利に進めれればその限りじゃねぇ』

『負けるにしても、ダークテリトリーの十候だっけ? その内の誰に降ればまだマシかくらいは考えておかないと、最悪どっちにも何も残らない』

『なるほどな……』

 

 ふむ、とベルクーリは顎に手を当てた。カーディナルも目を閉じて思索に耽る。正直に言えば、二人の思考は戦争開始の時点までで止まっていた。アンダーワールド始まって以来の、人界とダークテリトリーとの全面戦争だ。どうなるかなど全くわからない上に、戦力比はストレアが言ったように人界が一とすればダークテリトリーは十である。それを覆す可能性がある手札はあるが、それでも勝つなどと言えないギリギリの物だ。

 その戦争に向けての注力の為に先を想定できていなかった事は、責められるものではない。この世界に居る誰もが経験した事のない事態なのだから。

 

『その話の結論はまだいいか?』

『まぁいきなりだし、アタシもふと思いついただけだから考えを纏めたいのもある』

『オレの方はどいつが一番マシそうか、出来る限り纏めておこう』

『あぁ、頼む。それで本題じゃが――』

 

 その時はそれで終わり、話し合いを重ねた結果として穏健派であろう暗黒騎士団の将軍シャスターに白羽の矢が立った。どう渡りをつけるかではカーディナルが捕獲した『耳虫』と呼ばれるダークテリトリーの術士が使役する偵察用の虫を辿り、将軍配下の暗黒騎士に話を付けたという。そしてそこから、名代の話に移った。

 

「何でアタシ?」

「総合的な話よ。剣と術の実力もそうじゃが、(まつりごと)や様々な事柄に通じておるお主なら、悪い判断を下すという事はあるまい。わしがダークテリトリー側に行くとなれば大事になるから除外じゃな」

「ベルクーリは?」

「止めてくれ嬢ちゃん。オレぁ前線指揮官までは出来るかもしれねぇが、根っこは剣士だ。そう言う経験にも乏しいし、腹芸もそこまでじゃねぇよ」

「ベルクーリはお主の護衛じゃ。向こうの将軍とは長年戦っておるから、顔見知り以上ではあろうしな」

 

 カーディナルの言葉にベルクーリは頷き、ストレアは深く溜息を吐いた。言うまでもなく、この三人の中で一番の若造はストレアだ。経験値に乏しいと言ってもいいが、文字通り生きてきた年月の桁が違う。そんな自分に重要な役を任せるなと、声を大にして言いたかった。

 

「ちなみに聞くがな、ストレア。お主なら誰に任せる?」

「……キリトならまぁ、及第点かも。そもそも純粋にアンダーワールドで生まれ育った人間には困難だよね。能力云々じゃなくて、刷り込まれた認識が邪魔をする」

「そう。わしはもう、人界もダークテリトリーもほとんど変わらんと認識しておる。ベルクーリはその目で見ておるから、ダークテリトリーに居る人間を正しく識別し、認識しておる。それ故にお主の話も冷静に考える事が出来たが、他はそうはいかん。後は外から来たキリト達じゃが……」

「言っちゃなんだが、キリト以外はこっちに来て数カ月。ここでの暮らしには慣れたみたいだが、人界全部を見て来たってわけじゃねぇ。そんでキリトだが、あいつは優しい男だ。今話してるみたいに犠牲が出る前提での交渉は出来ねぇだろう?」

 

 ベルクーリの言葉はストレアとしても納得せざる得ない。《人工フラクトライト》達を人間と認識してしまっているキリトは、ダークテリトリーの相手と言えど殺す事を躊躇うだろう。戦争になったらその辺りに折り合いは付けてくるだろうが、それでも苦しむに違いない。

 今回考えているものでも、双方にとって少なくない被害は必ず出る。最小限に抑えようと思っていても、必ず誰かが死ななければならない。それをキリトが許容できるかと言えば、ストレアの答えはNoだ。

 

「……まぁ話は分かった。予定は?」

「向こうが乗ってくるかどうかじゃが……『七日後にベルクーリと斬り合った地で待つ』と言付けておいた」

「何処?」

「南の山脈を超えた先。もう塞いだが、山を貫く洞窟の入口があった場所だ」

 

 

 

 

 

 

「――…本当に来たのか、ベルクーリの親父」

「おいおい、随分な言い草じゃねぇか。シャスターの小僧」

 

 七日後、会談というには殺風景な場所で、ストレアとベルクーリは件の暗黒将軍とその随伴の暗黒騎士と邂逅していた。ペルクーリは戦いに出る時の格好……オーリと戦った時のように青い胸当てに手甲と具足を身に着け、腰に時穿剣を佩いている。ストレアにしても戦闘用の衣服であり、その上に軽装だが鎧を纏い、群狼剣を背負っていた。

 対する暗黒将軍であるシャスターは兜こそ脱いでいるものの、無数の傷が刻まれた漆黒の重厚な全身鎧に身を包み、腰に長剣を佩いている。後ろに控える暗黒騎士は兜を被り、全身鎧を纏って一部の肌も晒していない。

 

「そっちは?」

 

 二言三言、ベルクーリと話したシャスターが視線をストレアに向けた。その瞬間にストレアに威圧感がのしかかるが、彼女はそれを気にする事なく口を開く。

 

「公理教会最高司祭の名代として来ました。ストレア・ヴァルゼライドと言います」

「最高司祭の名代、とな?」

「あぁ……お前さんには言っとくか。最高司祭アドミニストレータは討たれた」

「なんだと……!?」

 

 将軍の目が限界まで見開かれ、ベルクーリを見る。

 

「言って良いの?」

「問題ねぇよ。だからこそ、和平の交渉が出来るんだからな」

「……あの不死者を討てる者がいたとは、俄かに信じがたいがな」

「その時の一人がこの嬢ちゃんだっつったら、どうするよ」

 

 シャスターがまた驚愕の表情を浮かべて、今度はストレアを見た。従者である暗黒騎士の視線も感じながら、彼女は頬を掻く。確かに彼女はアドミニストレータ討伐時のメンバーではあったが、活躍したかと言われれば首を傾げざるを得ないと思っている。トドメはカーディナルだし、そこまで繋いだのはオーリとキリトとユージオだ。アリスは《右目の封印》を破ったとは言え、モジュールの影響下にいたために動きが鈍かったのは仕方がない。

 その中でストレアはただ、(いたずら)に死にかけただけだった。その行為がアリスを救ったのだとしても、ストレアにとっての救いにはならない。何故なら、一番救わないといけなかった人を救う事が出来なかったから。

 

「アタシは居ただけみたいなものです。何にも、出来てない」

「討つ場には居合わせたのだな?」

「……それは否定しません。確かに、最高司祭アドミニストレータは討たれた」

「なるほど……そして討った者達は、今回の戦争を望んでいないという事か」

「はい。現在、公理教会はアドミニストレータ討伐者の一人、カーディナルを最高司祭代理として頂点に置いています」

「そんで、そこにオレと嬢ちゃんを加えた三人の合議制で今はやってる。その中で和平への可能性は潰すべきではないと意見が出てな。こうしてお前さん達と話をしに来たってわけだ」

 

 ベルクーリの言葉にシャスターは頷いた。この暗黒将軍は、ダークテリトリーの中でもかなり特異な考え方をしている。力が唯一の法であるダークテリトリーにおいて、人界との和平を考えるという、他の者に知られれば気狂いと罵られかねないような考えを持った男なのだ。

 そんなシャスターの考えの断片をベルクーリは知っていた。だからこそ、彼に白羽の矢を立てたのだから。

 

「しかし今、俺以外の十候全員が戦争へと気炎を上げている。一人だけの力ではもう止める事は出来んぞ」

「ですので、戦争は起こします。双方の痛みを持って、和平への礎とする為に」

 

 ストレアの言葉とその表情に、シャスターは息を呑んだ。後の平和の為に犠牲を許容する覚悟というのは、簡単なようで難しい。失われる命に対しての責任という意味でもそうだが、生き延びた者達からも非難の目で見られる可能性があるのだ。小規模な戦いであっても、生き延びた者が仲間や友を失えば、その怒りと嘆きは残る。そして、それが他の者にも伝播して更なる戦いへと駆り立てる事すらある。

 シャスターの前に立つ彼女は、その背にその二つを背負う覚悟を決めているのだ。暗黒将軍の半分の年月も生きていない者が、そんな覚悟を決めているのだ。

 

「……何故、そこまでの覚悟を持つ。ストレア・ヴァルゼライドよ」

「アタシの兄が、この世界の為に繋いだ未来だから。アタシがその可能性を途絶えさせるわけにはいかない」

「その兄は?」

「……討伐戦の後から、目覚めない。ずっと、眠ったまま。でも絶対に目覚めるから、その時に全部無くなってたなんて事には、したくない」

 

 ぎしり、と握りしめられたストレアの拳を、シャスターと暗黒騎士は見なかった事にした。吐露された言葉はごく個人的な物だ。しかし、だからこそ名代の彼女が本気なのだと理解できた。そして彼女に名代を任せたカーディナルも、この場にいるベルクーリも本気なのだ。戦争を戦い、互いの兵の命を供物にして、和平を掴み取る気なのだ。

 

「……休戦の際、こちら側で邪魔になるであろう十候は最低四人いると、俺は考えている」

「閣下!」

「良いのだリピア。ここまでの覚悟を見せられては、俺も応えねばなるまいよ」

 

 リピアと呼ばれた暗黒騎士を制止して、シャスターは口を開いた。

 

「その四人とは?」

「山ゴブリン族長ハガシと平地ゴブリン族長クビリは、肥沃な土地を奪い、今まで自分達を虐げていた者達を見返そうとするだろう。故に話など聞くまい」

「――…彼らは十候が集いし城に居ても尚、その欲望を隠す事はありませんからね」

 

 リピアの言葉にシャスターは頷いた。

 

「次に、オーク族長リルピリン。奴の原動力は、人族への恨みだ。同族には寛容で優しい者だが……」

「戦場でそれを解く事は難しい、と」

「……最後は、最も厄介な暗黒術師ギルド総長、ディー・アイ・エル。あの女はアドミニストレータの不死の秘密を手に入れ、いずれ皇帝位に上る野望を抱いているからな」

「ほう……そいつらが、障害になりそうな四人か」

 

 ベルクーリの眼に一瞬だけ宿った物を無視して、シャスターが頷いた。

 

「後の十候……拳闘士ギルドの第十代チャンピオン、イスカーンは強さに対して純粋な男だ。お前達が力を示すなら、組む事は難しくないだろう」

「殴られはするのに、剣で斬られる事は断固拒否する奴等なんだよな……」

「暗殺者ギルド頭首フ・ザと、商工ギルド頭領のレンギル・ギラ・スコボは利があれば乗ってくる可能性は高い。フ・ザは無駄な戦いはしないし、レンギルはそもそも戦いに向かんからな」

「上としてはわかりやすい方ですね。それで七人として、将軍を除けば後二人」

「オーガ族とジャイアント族……奴らは読めん。人族に対して見下した感情は持っているようだが、それ以上に自身に対して高い矜持を持っている」

「――…なるほど」

 

 齎される情報をストレアは咀嚼し、消化していく。種族は違えど、この世界に生きる者達の大元は人間の魂たる《フラクトライト》だ。しかし、現実においては魂は人間で姿形が似通っていても、積み上げた文化によって不倶戴天の敵になり得る。その点で言えば人界とダークテリトリー……暗黒界の衝突は必然の物だとも言えた。

 お互いの痛み……犠牲はなるべく少ない方がいい。しかし、休戦を結ぶ為にはそれを邪魔する要素を廃さなければならない。ストレアとベルクーリの中でも、最優先で廃す対象は暗黒術師である。戦場に与える影響もそうだが、そのトップがアドミニストレータと同じ物を目指すというなら何としても阻止しなければならない。

 

「そちらも、色々ありますね」

「そうだな……別たれていた世界でも、する苦労は同じという事か」

 

 ストレアとシャスターが同時に苦笑した。それからいくつかの情報交換と確認をし、会談は滞りなく終了した。

 

「一先ずはこんな所か」

「有難うございます、将軍」

 

 礼を言って頭を下げたストレアに、暗黒将軍は苦笑した。人界側の人間にダークテリトリー側の己が礼を言われるとは思わなかったからだ。

 

「早々に頭を下げるものではない。次に会う時は敵だろうと、今この場では俺と貴殿は対等だからな」

「……わかりました」

「ならばいい。親父、良い若者が育っているな」

「オレが育てたってんなら胸を張る所なんだがな……」

「どういう事です?」

「アタシは元々人界の貴族で、兄を見て育ったと言いますか」

「貴殿の理由に出た兄、か……」

「人界を変える切欠になった男だ。だからこうして、和平について話す事が出来る」

「――…和平が成った後で互いの命があれば、是非会いたいものだな。人界を変えた男に」

 

 

 

 

 

 

 唐突だが、アスナ達六人がアンダーワールドに降臨して数カ月。それなりに人間関係と言う物は存在している。例えばアスナは、整合騎士団副長のファナティオと手合わせをしている事が多い。突き技が主体の戦闘スタイルである二人は、互いに刺激を受けているようだ。そしてその縁で《四旋剣》の面々を見る事もあり、彼らの実力も伸びている様子だ。

 

 シノンはデュソルバートを始めとした弓使い達に最早、神様扱いである。その勢いは《太陽神ソルス》の権能に『弓使いに対する加護』という話が追加され、太陽に向かって定期的に祈りを捧げる始末だ。『こうして宗教って出来るのね……』とシノンが疲れ切ったように呟いたのが印象的だったと、義妹達は後に語った。

 

 ユナもシノンと似たような事になっており、こちらは彼女の歌と旋律に魅了された守備軍に参加した者達が中心である。元々収穫祭などの祭りで楽器を演奏したりする文化はあったとは言え、それ以上に洗練されたものを聞かされれば当然の結果とも言える。守備軍の中に音楽隊が出来たりしたのは完全に想定外だと、カーディナルが笑っていた。ついでに『《地神テラリア》に歌と演奏を捧げる事で次の豊穣を願う』や、『音楽を司る』などという設定が生え、凄い顔をしていた。

 

 リーファはキリトに付いている事が多く、その関係でロニエと親交が出来た。そこから学院関係者との交流が広がり、何と守備軍に参加していた初等練士寮の寮監のアズリカとも知り合った。元北帝国第一代表剣士である彼女は、学院の修剣士や練士の中にも守備軍への志願者が居ると聞き、彼らを守る為に参加したという。

 

 ランとユウキは立ち位置が近い(キャラが被っている)リネルとフィゼルからの繋がりで、整合騎士団や若い修道士と仲が良い。ユウキの剣、ランの神聖術は凄まじいの一言であり、特にランについては神聖術をカーディナルから学んだとは言え、二カ月でコマンドは全て暗記して上位術と呼ばれる物も全て使用可能という才覚を見せつけた。ユウキの剣才は言わずもがなであり、ベルクーリ、ファナティオ、アリスという整合騎士の三強が『支配術有りでも勝ちきれないかもしれない』と評したほどだ。

 

 何故そんな事を説明したかと言えば、彼女らが現れた事で()()なることは必然だったのかもしれない、という事だ。

 

「色々と……そう、色々と聞きたい事があるわ」

 

 手に中身が先程空になったグラスを持ち、赤い髪をした女性であるメディナ・オルティナノスが据わった目を対面に座るシノンへと向けた。シノンは興味深そうにグラスに注がれた、メディナのグラスにも注がれていた赤い液体を眺め、一口含んだ後で少し口内で味わいながら嚥下する。

 

「旦那の事?」

「……その、旦那と呼んでいる事もそう」

 

 シノンの視線がメディナのそれとぶつかり合い、火花が散ったように周りの女性陣は幻視した。ストレアの目は死んでいた。

 

 発端はユウキの一言だった。『この世界ってお酒OKなの?』という一言にストレアが『問題無いよ。アタシも十超えた辺りから飲んでるし』と答えてしまったために、『じゃあ飲んでみよう!』と言う話になったのだ。その事自体はシノンとしても特に問題視する事ではない。彼女も人並み程度に好奇心はあり、限りなく現実に近いとはいえアンダーワールドは仮想世界である為に、別に未成年である彼女らの飲酒が咎められる事もない。人界の法でも飲酒年齢を制限する条項は無く、飲もうと思えば飲めるという状況に一番初めに食いついたのがユウキであるという話だった。

 ちなみにアンダーワールドで飲まれる酒の種類は、現実とほとんど変わらない。清酒も果実酒も、ブランデーやウイスキーもある。ストレアは下戸なので自発的に飲む機会は少ないのであまり詳しくないらしいが、それでも一通りはおつまみと共に揃えてくれ、家族だけの味見会をカセドラル内のストレアの自室で開始。

 

『ALOよりもちゃんと味がするのは知ってたけど、これがお酒の味かぁ……』

『あ、甘い……』

『仕事で飲む場合ってどんなの飲むの?』

『アタシは酒精が一番低い林檎酒で、兄貴は色々だったね。味について聞いた事あるんだけど、よくわからんって言ってたよ。お酒自体あんまり好みじゃないみたい』

 

 ユウキとランがそれぞれ舐めるようにお酒を飲み、シノンは別のグラスに水を用意しながら自身もビールに似た物をちびちびと飲んでいる。この中で唯一飲み慣れていると言って良いストレアは自分の弱さを自覚しているので、通常酒精が強い酒をそのまま飲むのに使うショットグラスに一番酒精の弱い林檎酒を注いでちびちびと飲んでいた。

 

『……よくテレビで飲んでる所を見るけど、あまりおいしく感じないわね』

『暑い時の仕事終わりに持っていくと喜ばれるのはそれなんだけどね』

『にぎゃい』

『うえぇぇぇ……こっちはしゅごいでしゅ……』

『何でよりによって一番度数の高いのに手を付けたの……?』

 

 ウィスキー(みたいなもの)に手を付けたランのグラスに、ストレアが氷と炭酸水を入れる。『これで少しは飲みやすいはず』と渡されたグラスに最初はおっかなびっくりで口を付けて、慣れてきたのかこくこくと飲み始めた。ユウキはビール(みたいなもの)に口を付けた後に、一番飲みやすかった林檎酒で口直しをしている。

 

 そんな席の話をどこから聞きつけたのか、最初はアスナとリーファ、ユナが顔を出した。

 

『そっちだけでズルいよー』

『ズルいって……』

『あたしだって興味あったんだもん。混ぜてくれてもいいでしょー』

『色々とありますねー』

 

 手土産に手製のおつまみも持ってきたのだから、追い返すわけにもいかないので三人を加えて酒盛りを再開。ストレアは『飲み切れなかったら配るために多めに買ったから何とかなるでしょ』と考えていた。

 

『あら、もう盛り上がってたの』

『め、メディナ様っ、いいんですかっ?』

『あれ、メディナ。何でここに?』

『下戸のストレアがお酒買い込んでるってなったら、こう言う事かなと思っただけよ』

 

 次に現れたのはメディナと、彼女の傍付き練士であるフレーニカ・シェスキ。持ってきたのは追加のワインだ。同じような瓶をフレーニカも数本抱えている。来てしまったものは仕方ない、と諦めたようにストレアは二人を招き入れ、椅子を引っ張り出す。

 

『お酒買ってきただけなのに何でぇ……』

『それだけ貴女が愛されてるって事じゃない?』

『ストレアも、他人からの視線には鈍感な所あるわよね』

 

 なんでぇ、と言うストレアにシノンとメディナが笑った。

 その言葉を証明するように、部屋には次々と来客があった。ファナティオとイーディスが顔を出したり、リネルとフィゼルが現れてランとユウキと同じようにお酒に興味を持ったり、ロニエとティーゼが気を利かせて色々と持って来てくれたり、何とカーディナルまで現れてのちょっとした宴会みたいになってしまった。

 

『妊娠してるのじゃから、飲酒は控えるようにな』

『だから、お酒じゃない飲み物を持参したのよ?』

『……え、ファナティオ妊娠したの? 聞いてないんですけどぉっ!?』

『お祝いに一曲弾きましょうか?』

 

『ぽかぽかしてきた』

『ほわほわしてきた』

『……あ、一番キツイ奴』

『ちょ、ユウ!? その瓶は手を付けないように除けてたのに!?』

 

『へぇ、キリト君の傍付き……傍付き?』

『あ、傍付きって言うのは身の回りのお世話を……』

『……ロニエちゃんって結構肝が据わってるというか、勇気あるよね』

『あはは……』

『ロニエだから、ねぇ……』

 

 やがてグループに分かれて話をするようになり、ストレア、シノン、メディナの三人が元々のテーブルに残る。ストレアの横にシノンが座っていて、対面にメディナが居るという形となり、メディナが冒頭の話をした時から雰囲気は一変したのだ。

 

「結婚してないのでしょ?」

「それを貴女に言う必要があるの?」

「あるわ」

 

 メディナの断言にシノンが目を細めた。ストレア以外の女性陣は部屋が広いのをいい事に距離を取り始めている。『たっけてー』と視線を送ってみたら、そこそこ素面の人間には目を逸らされ、酔っている面子はそもそも目が合わない。

 メディナが兄に懸想している事は知っていたが、今ここでシノンとやり合う事になるとはストレアは思っていなかった。修羅場の発生自体は諦めていた事もあって、自分の手の届く範囲で発生した事をプラスと考えよう、と健気な妹は思い直す。起きてたら押し付けるのに、と恨み言も忘れない。

 

「理由は?」

「私は()()()()()()()()()()()

 

 その発言にシノンの視線の温度が氷点下を下回り、ストレアは唐突に腹部に痛みを感じた。

 

「ストレア?」

「じ、事実は事実だよ……兄貴は人界でも指折りの貴族様だから、その話は元からあった。でも早々に当主になって色々あって、候補から確定の話は一切なかったはずなんだけど」

「話も消えてないから、保留のまま。そんな相手の事を気にするのは、理由にならない?」

 

 メディナの問いかけにシノンは頭痛を堪えるように額を押さえ、深く深く息を吐いた。菊岡と比嘉を脳内の《処刑リスト》の《生き地獄》に追加しながら、どう説明したものかと考える。二人の関係は当然現実世界で発生したものであり、アンダーワールドでも互いの認識があれば成立するものだ。しかし今は片方の……この場合はオーリの方の意思が確認できないために、成立させる方法が無い。ストレアが口添えをしたとしても、メディナが信じるかどうかは微妙な所だ。

 

「その辺は私達の事情もあるけれど……」

「少し前にストレアから聞き及んではいる。信じ難い話だったけど」

「なら話が早いわ。その世界でそうだから、私は彼をそう呼ぶだけの話よ」

「それは誰が認めたというの?」

「彼の両親と私の親。それとお互いが認めただけよ。(おおやけ)に認めらていないと言う意味では確かに、結婚はしてないわね」

「ストレア」

「理由は年齢だよ……現実世界じゃ二人はまだ法的に結婚可能な年齢に達してないからね」

 

 胃の痛みを水を飲み、つまみを食べて誤魔化しながら、求められるがままに説明を続ける。二人とも淡々としているが、どちらの性格も知っているストレアにとっては綱渡りにもほどがある。『おうちかえりたい』と思っても、今日寝る部屋はここである。神に祈りたくなったがこの世界の神の一人は横に居るので、ストレアは祈る事を止めた。

 

「条件が整えばもう出来ると?」

「えぇ。既に一緒の家に住んでるし、同じベッドで寝てるから」

 

 『マジですか!?』とユナが反応して、横に居たイーディスがそれに驚いていた。同棲は知っていても同じベッドで寝てるなど初耳だった。

 

「ランちゃん!? ユウキちゃん!?」

「いや、結婚前提の同棲で一緒に寝てないと考える方がどうなんです?」

「そこはこう、婚前交渉の話があるじゃないですか!?」

「その辺の話はお義父さんもお義母さんも、お義姉ちゃんのお母さんも認めてた。『年頃の男女二人が一つ屋根の下に居て、何もないはずないし』って」

「男女二人が一つ屋根の下……ユージオ先輩は確か……あれ?」

「てぃ、ティーゼ? いきなり目から光が消えたよどうしたの!?」

 

 フレーニカの悲鳴のような声で、話が変な所に飛び火したとストレアの胃痛が増した。それに伴って、にわかに室内が騒がしくなってきた。色恋の話はどの世界の女子も好きなんだなぁと、ストレアは学びたくなかった胃痛の痛みと共に知る事になる。

 

「こんな事知りとうなかった」

 

 翌日、そもそも飲まなかったストレアとファナティオ以外……カーディナルすらも二日酔いだったという。『これが二日酔いか……二度と飲まんぞ』と彼女が言っていたのは、ストレアだけが知る秘密だ。

 

 

 

 




※別に未成年の飲酒を推奨する意図とかはないです。

おり主「起きてなくてよかった」
すとれあ「起きたら憶えてろ馬鹿兄貴」

ありす「むっ、何かストレアがやらかした気配がします」
ゆーじお「それどんな気配なの……?」
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