流星の軌跡   作:Fiery

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当初の目的って、ただ朝田詩乃とオリ主をイチャイチャさせたかっただけなのに、どうしてここまで来てしまったんだ……


太陽の逆鱗

 

 

 

『人界軍を二手に分ける』

 

 ベルクーリの決定に、人界軍に動揺が走った。

 アリスの決意を受け入れたベルクーリが決定した事……敵の狙いがアリスである可能性が高まった事により、彼女を囮となって敵軍を引き付ける。その為に人界軍を半分に分ける事にしたのだ。

 アリスは最初、自身とキリト・アスナ・シノン・ラン・ユウキ・リーファの計七人でストレアが情報を齎したアンダーワールドの南の果て、《果ての祭壇(ワールドエンド・オールター)》へと向かおうとしていた。

 

 それにまず待ったをかけたのはユージオである。

 アリスが行くなら自分も行くのは決まりきっていると言わんばかりの言葉に、その場は一瞬だけ生暖かい空気になったのだがそれを引き締めたのがベルクーリの先の言葉だった。

 そもそもの話として、アリスを含めた七人がいかに強くとも万の軍の追撃を受ければ壊滅する事は想像に難くない。全部を引き付けられなくても、それでも数千が向かえば危険だろう。

 アリスをベクタに奪われるわけにはいかないというのが前提にある為に、人界軍を分けるのは既定路線でもあった。囮部隊に割り振るのは衛士千人、修道士二百、補給隊六十。補給隊の中にはロニエやティーゼと言った修剣学院からの志願兵の姿もある。

 そして整合騎士団からは、ベルクーリを筆頭にイーディス・シンセシス・テンとシェータ・シンセシス・トゥエルブ、そしてリネル・シンセシス・トゥエニエイトとフィゼル・シンセシス・トゥエニナインも同行する事が決まった。

 

 リネルとフィゼルについては、オーリの護衛である。眠ったままの彼を連れていく事を主張したのは、カセドラルからの移送については渋っていたランであった。彼女にとっては認めたくない事実ではあったが、戦場に来て戦争が始まった事により彼女が兄に対して感じていた《死の気配》は薄れていた。

 自分一人だけがそれを感じていたのなら、ランは兄を後方に置いたままにしていただろう。しかしこの場には自分と同じ感覚を持っている双子の妹(ユウキ)もいる。そして、彼女も同様に感じていたのであれば、ランもユウキもストレアの言葉が正しかったのだと認めざるを得ない。

 そんな説明を受けたベルクーリは最初渋い顔をしていたが、家族である存在を引き離す事で気を散らすのもまずいと考えたために、結局はそれを許可した。

 

 イーディスとシェータについては、イーディスは彼女自身が同行を強烈に主張したのと武装完全支配術が敵主力の片割れである暗黒騎士団への対抗策として機能するため。シェータはその特異性においてもう一つの片割れである拳闘士団への対抗策になり得るとベルクーリが踏んだためだ。

 残りの整合騎士は防衛部隊に残るが、猛反発したのはファナティオとエルドリエ。デュソルバートもそれに加わっていたが、彼はそもそも先の一戦目で矢が尽きている為にそれを指摘されて沈んでいた。ファナティオについては単純に妊娠中である事が理由であり、説得は難しくなかったが問題はエルドリエだ。

 彼には整合騎士としてアリスに師事していた記憶もあれば、ノーランガルス北帝国一等爵士としての記憶もある。そのどちらも高潔な精神を持っていたが故に、彼は自分に過酷な定めを課そうとしている……囮部隊への志願は、それほどまでの並々ならぬ決意があった。

 何故彼がそこまで()()()()()()()のか、それを初めに理解できたのは意外にもメディナだ。

 

『同じ爵士の貴族が世界を変える為に戦っているのを間近で見て、何も感じないほど腐っていなかったって所でしょう?』

 

 そう指摘されて、初めてエルドリエは黙った。

 同じ北帝国の、同じ位階の貴族であるヴァルゼライド家の二人。兄の方だけであれば、エルドリエもここまでの反応を示す事はなかっただろう。彼を称えつつ、自身の誇りを胸に役割にまい進したはずだ。

 ただ、彼の視界に入ったのは妹の方だった。兵の教練などは整合騎士団長ベルクーリが統括していたが、物資手配などの戦争の為の準備を総括していたのは彼女であり、それ以外にも四帝国との折衝や自身の私領地からの徴発……彼らが敬愛する一等爵士が頭を下げるというのは、平民にとって脅しだろうから間違ってない……も行い、更には《外》から来たという六人の少女達へと細やかな手配を整えたりと、休む暇なく働いていた事を知っている。

 その中でも自己鍛錬を欠かさず、その実力は整合騎士を含めたとしても人界で指折りであろう。そんな少女の姿が、エルドリエ・ウールスブルークの心を刺激し続けていた。

 

 そして今、敬愛していたアリスの肩にも人界の未来が圧し掛かっている。二人の少女の、その細い両肩に、どれほどの重圧が圧し掛かっているのだというのか。

 エルドリエはその重圧を少しでも軽くしたいと思っている。それが、自身が望んでいた騎士の在り方だと思っているから。母が誇りに思う、エルドリエ・ウールスブルークという息子の生き方だから。

 

『なら、後顧の憂いを無くすのも立派な務めじゃない。それとも整合騎士様は、()()()()()()()()()()()()()()と思っているの?』

 

 メディナにそう言われたエルドリエは怒りに染まりかけたが、言った彼女自身からそれ以上の怒りを感じて思わず黙り込んだ。メディナ・オルティナノスも貴族であり、現在は二等爵士であるが元々は彼やストレアと同格の一等であった存在だ。

 そんな彼女はストレア達と同年代である為に、エルドリエ以上に自身の不甲斐なさを痛感していた。かつて救われた事は今も感謝しているし、オーリを慕う気持ちに嘘偽りは有り得ない。しかし、親しき友人だと思っていた二人に置いていかれている事実に我慢できるかと言えば、できはしないのだ。

 修剣学院ではまだ近かった実力が、カセドラルからストレア達が戻ってきた時には大いに広がっていた。整合騎士の強さを支える《武装完全支配術》を会得し、人界の民……貴族や皇帝すら絶対的存在だと思っていた最高司祭アドミニストレータを討伐した。そして今、人界とダークテリトリーの戦争においてストレアは中心人物となったと言って良い。置いていかれたと感じるのも無理はないほどの差が、確かにあった。

 

 ただ、メディナも私領地を持つ貴族の当主であり、徒にその命を散らす事が出来ない立場にある。故に彼女は囮部隊ではなく、人界防衛部隊の補給隊の警護に残った。友人と対等であると言うのならば囮部隊に行きたかったが、その友人が自身と共に救ってくれた領地を見捨てる事が彼女にはどうしてもできなかったから、彼女はそう決断した。

 だからこそメディナ・オルティナノスの矜持は、エルドリエ・ウールスブルークの考えに怒りを持った。己の決断が及ぼす影響をちゃんと考えろと。

 

「随分大人しいわね」

 

 囮部隊の出撃準備を整えている時。戦争開始前ですら饒舌だったエルドリエが酷く大人しい事に気付いたメディナがその隣に立った。そんな彼女をちらりと一瞥し、彼は再び自身が受け持った作業へと戻っていく。

 

「寡黙にさせた女性が言う事ではないな」

「あんな程度で態度が変わるほど、軟な精神をしているとは思わないけど」

「考えさせられる言葉であった、と言ったつもりなのだがね」

「あぁ、それなら納得」

 

 エルドリエの隣に陣取り、メディナも作業をこなしていく。互いにほとんど面識が無かった相手ではあるが相性自体は悪くない様子であり、隣に居たとしてもそこまで違和感を感じていない様子だった。

 

「メディナ嬢は……」

 

 ぽつり、とエルドリエは隣に居る彼女に聞こえるか聞こえない彼の声量で呟いた。

 

「何故、人界守備軍に?」

「貴族としての務め……なんて模範的回答が聞きたい?」

「いいえ、出来れば個人的な理由を聞きたい」

「個人的……ね」

 

 作業の手は止めないまま、十秒ほど沈黙が流れる。準備で皆が慌ただしく動いているのに、その音がどこか遠く聞こえた。

 

「……そうね。置いていかれるのが怖かった」

「置いていかれるのが……?」

「孤独しか知らなかった人間が他者と触れ合う温かさを知ったら、もう孤独には戻れない。そして、私に他者の温もりを教えてくれたのは、オーリとストレアだった」

「恩人……という所ですか?」

「そうね……恩人でもあり、友人。そこから輪が広がって、私の世界は広がった。学院でも傍付きから上級修剣士になって、自分にも傍付きが付いて……これからと言う時にこの戦争。その中で恩人はどっちも重要人物扱い。同じ上級修剣士の中で交流のあったキリトとユージオも何やら中心にいて、私一人だけ蚊帳の外」

 

 何でかしらね、と自虐的にメディナは笑い、エルドリエはその問いに答える事が出来ない。実力が足りなかった……そう言うのは簡単であるが、メディナもそれくらいの事はわかる頭を持っている。いや、それ以上の事ももう彼女はわかっている。見ている場所、世界が違う事など、嫌というほどに。

 

 自分がやっと周りに目を向けていた頃に、オーリやストレアは人界の事を見ていた。色々な事に目を回していた頃に、キリトやユージオは自分が進むべき先を見ていた。自分が一歩踏み出す間に、彼らは既に先に居た。

 

「ただ、追いつきたかった。出来れば隣で、胸を張れるようになりたかった」

「それは……」

「でもそれは思い上がりだったと気が付いたのよ。()()()()()()()()()()()()()っていう、ね」

 

 先ほど浮かべた自虐的な笑み。しかし、先ほどと違ってどこか吹っ切れたようなものを感じさせている。

 

「どういう事です?」

「隣に立ちたいって事は、同じ視点に立ちたいって事。隣に立つ事だけが、同じ視点に立つ事じゃないって気が付いた」

「……例えば?」

「この戦争、最前線に居た衛士も、最後方で補給部隊を守っていた衛士も、皆等しく命を懸けている。命を落とす可能性は違っても、戦場で絶対はない。最前線で戦うだけが、戦いじゃない……これは、今まであった私達の日常にも言える事でしょう?」

 

 メディナが言いたい事が、エルドリエの胸の裡にストンと落ちてきた。エルドリエも同じで、同じ視点に立って認められたいからこそ、囮部隊に志願した。そうでなければ彼女達に認めてもらえないのだと、無意識に思っていた。

 

 ――…そんな事は無いのだ。

 

 命を懸けて成すべきことを成す。アリスもストレアも、キリトもユージオも、ベルクーリも誰も彼もが、この戦場ではそうしている。そうしようと望んでいる。対価を何も求めずに、その胸に自身の大切なものを秘めて。

 

「……そう、だな。戦いはこれだけではない」

 

 自身の成すべき事もこれだけではないはずだ。エルドリエは、頭の中にあった靄が晴れたような心持ちで笑顔を浮かべた。

 

 その隣でメディナは、いきなり笑顔になった相手に向かって怪訝そうな表情を浮かべていたが。

 

 

 

 

 

 

 囮部隊出立前。

 人界側の貴重な航空戦力の一人であるランは、単独で空の上から警戒の意味を込めて敵陣を眺めていた。兄の看護は妹に任せ、義姉であるシノンも隣で腕を組んで敵陣を見ている。

 

「こうして見ると、言ってた通りね」

 

 義姉の言葉にランは無言で頷きを返した。今布陣している敵主力……情報では暗黒騎士団と拳闘士団が居る場所の更に向こう……敵の本陣があるだろう場所から感じる、思わず肌が粟立つような寒気。あえて例えるなら、底の見えない深淵を覗き込んだ時のような恐怖を感じさせるその寒気は、おそらくそこに居るであろうベクタのものなのか。それともその()()のものなのか、二人には判断が付かない。

 それでもわかる事があると言えば、スーパーアカウント・ベクタとそれに紐づけられたハイアカウントはどれもとんでもないであろうという事だろう。事実、第一陣の中に居た暗黒騎士は敵のハイアカウントであり、支配術無しではストレア・アリス・ユージオの三人がかりでも勝つ事が困難……その上敵は支配術など無しで、即死級の威力の攻撃を連発という理不尽だったという。

 

「軍人が相手って話だけどラン、自信は?」

「軍人の方がどれだけ強いのかわからないので何とも……普通のVRゲームなら勝てないとは言いませんし、勝つ為の筋道も付けられるとは思います。ただ、ほぼ現実と変わらないここでだと……すみません、正直自信はないです」

「まぁ、それが普通よね。私も自信があるなんて言えないもの」

 

 肩を竦める義姉を見て、ランは苦笑を浮かべた。

 

「GGOでの狙撃の腕を見てると、とてもじゃないけど信じられませんよ」

「狙撃の腕()()なら何処であろうと自信はあるけど、それだけじゃ勝てないわ。特に、それだけじゃ死なないような輩相手じゃね」

「……スーパーアカウントは、その最たる物のようですからね」

「だからこそ、スーパーアカウントにはスーパーアカウントを。ストレアはそう考えたし、多分それは間違いじゃない。ストレアが言っていたけど、前線に出てきた暗黒騎士相手に通常ではありえない《武装完全支配術》の同時使用という鬼札を使って、それでやっと隙が出来たらしいし。その後でも、トドメを刺したのはアリスとユージオの同時使用って事だから、最低でもそのレベルじゃないと相手にもならない」

「彼らが上位整合騎士と呼んでいる人達レベルが最低条件ってことですよね……」

「それ以外なら数の暴力で押すくらいしかないけど、こっち側にそんな数の余裕はないようだし、ね」

 

 シノンが後ろを振り向いて、睨み付けるような目つきに変わる。視線の方向には央都セントリアがあり、更に言えば兵を出し渋ったり従軍を拒否した四帝国の皇帝や教会の上位司祭などへ呪詛でも送っているのだろう。ランも時間があればそうしていたのだから、義姉の気持ちは大変よくわかる。

 後数千……人界軍が一万という数であれば、もっと違う対応が取れたとカーディナルは言っていた。ベクタを始めとした敵外部勢力の打倒は必須だとしても、それ以外では例えば和平への条件は多少なりとも緩くなる。ラン達も高みの見物……とまでは行かないが、ベクタ達を待つのではなく仕掛ける事が出来た可能性もある。

 

「――…?」

 

 そんな事を考えていたランの耳に、何かが届いた。風に乗って微かに聞こえてくるのは、何か低くうねるような――…揃い切らない、人の声。

 

「ラン」

「義姉さんも、ですか」

 

 ランと同じように、それが聞こえたシノンも怪訝そうな顔を浮かべている。最初に届いたのは意味の判別できない音だった。それが少しで声と認識できた。そして、声であるという事は――

 

「詠唱? でもこの辺りのリソースは全部無くなったはずじゃ……」

「……ねえ、さん」

 

 声が発する意味を理解したランが、表情から色を無くした。込み上げる吐き気を堪えるように口元に手を押し当てて、全身を震わせている。

 

 彼女とユウキは、その境遇から人一倍……いや、最早一種の異能のように《死》と言う概念に敏感である。日常やゲームの中であれば、それは自身への危機感知という形で発揮される事が多く、VRゲームにおいては高い適性と相まって最上位に入るだろう実力も持っている。

 それは時に、強すぎる《死》の気配を感じ取ってしまうという事であるが、姉妹がそれを感じ取ったのは《死銃》事件だけだ。ただ、《STL》を使ってのアンダーワールドへダイブしてから、姉妹はその感覚が更に鋭敏になっている事に気付いていた。

 

 一目見ただけで兄の状態を理解した。見た目でもわかりやすいほどに変わり果てていたのだから、周りはそれで納得しただろう。しかし実際はまるで死神が彼の身体を抱きしめているかのように、《死の気配》が全身を包んでいると感じ取ってしまったから、姉妹は泣き崩れたのだ。見た目が変わっただけなら、彼女達もまだ気丈に振る舞えたのだから。

 

「どうしたの、ラン!?」

「なん、で……あの人達は、こんな事が出来るん、ですか……?」

「あの人達……?」

 

 震える義妹を抱きしめながら、シノンは彼女が睨み付けるように見ている先を見た。遠目では詳細まで判別できないものの、敵陣の中に大量にいる部隊の一つが次々に消えていくのが分かってしまった。

 

「なに、あれ……」

「全部、生きたまま、リソースに、変えてます。まるで、イケニエの儀式、みたいに」

 

 吐き気を堪えたまま話すランには、詳細がはっきりとわかっていた。次の逃亡戦に備えて、今ランは彼女のハイアカウントに付属している権限である《リソース収集》を行使している。これは少しでもリソースを自身に集中させる事によって相手に術式を使わせないようにするのと、少しでも多く内に貯めこんで自身が術を行使するためのものにするのが目的だった。そんな所に、声と共に届いたソレが内に入って来た。

 

 それは慟哭だった。それは怨嗟だった。それは憤怒だった。それは諦観だった。

 

 視線の先で消えていく命の最期の一部が、ランの中に取り込まれてしまったのだ。そして皮肉にも、その命達の最期がランに、敵が何をしようとしているのか教えてくれた。

 

「術が、来ます。命を貪り尽す為だけに行使される、大規模術式」

「何ですって……!?」

「嬢ちゃん達!」

 

 そんな二人の元に、自身の飛竜に乗ったベルクーリが現れた。二人の様子がおかしい事に気付いて疑問符を浮かべ、そしてその視線の先で起こっている事に気付いて、吐き捨てるように叫ぶ。

 

「奴ら……何て真似をしやがる!!」

「ベルクーリ、義妹をお願い」

 

 激昂した彼に、絶対零度の声が響く。そのあまりの冷たさにベルクーリの怒りはすぐに消沈して、彼はその声を発した少女を見た。

 

「ねぇ、さん……」

「アリスやストレアは、例の術式を行使してる時に『死んだ人達の最期の感情が入ってくる』って言っていた。空間に漂う力を集める権能を発揮しているランは、それにアテられたんでしょう?」

「あ、あぁ……おそらくな」

 

 腕に抱いたランをベルクーリへと渡しながら、シノンの目に宿る物が急速に凍てついていく。これは戦争であり、命を奪い奪われるものであると理解はしている。ストレアとアリスが使った大規模術式でダークテリトリー軍の命を奪っているし、敵が報復として大規模術式を行使するのも理解できる。しかしその為に味方の命を使うのはシノンにとって理解の外だ。結果として犠牲が出るのは仕方のない事だとしても、何故自ら犠牲を増やすのかわからない。

 

 ただ、シノンはそれを捨て置いた。そうした理由を考える事は無駄だろうと考えた。考えた所で理解できるはずもないと思ったからだ。

 

 それよりも重要なのは、敵のその行動の結果として身内が苦しんでいるという事と、それが齎す結果によっては最愛の人に害が及ぶという事。ならばシノンがそれの排除に動く事は、彼女にとって至極当然の帰結だった。

 

 轟音を響かせて、シノンが敵陣へと飛ぶ。彼女の視界に映る敵軍の姿がみるみる大きくなり、やがてその真ん中に居る黒いローブの集団が自身に両腕を向けるのを見た。

 その両腕には黒い何かがあって、それは生きているように蠢いてもいる。それはすぐさまシノンに向かって飛んできた。シノンはすぐさま弓を構え、朧に光る弦を引き絞った。スーパーアカウント《太陽神ソルス》が所有する武器は、広範囲に及ぶ殲滅攻撃が可能であるが欠点として連射がまず不可能である。殲滅攻撃ではなく威力を引き絞った通常の攻撃であれば話は別だが、それでも弓という武器は連射性に乏しい。しかし今この時は、そんな事は一切関係なかった。

 

 シノンの眼前に現れたのは、数万はくだらない数の漆黒の長虫だ。無数の足を持ち、醜悪な姿をした虫が我先にとシノンへ向かってくる。虫嫌いの義妹(ラン)が見れば卒倒間違いなしの光景に、シノンは引き絞る力を強めて――…その弓と弦の間に、まさに太陽のように輝く光の矢が生み出される。

 

「《太陽》だって言うならこんな虫程度、全部焼き尽くしてみなさい」

 

 そんな呟きと共に、光の矢が漆黒の波濤に向かって放たれる。直後に光の矢は、漆黒の波濤すら飲み込むほどの光の柱へと転じ、波濤ごと術者がいた大地を飲み込んだ。

 

 

 

 




ありす「大規模術式よりヤバいものを見た気がするのですが」(震え声
きりと「シノンは怒らせると怖いからなぁ……いや、大体の人は怒らせると怖いけどさ」
あすな「シノノンの場合は、鬱憤も色々溜まってそうだからねぇ……」
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