流星の軌跡   作:Fiery

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アンダーワールド編の主人公はストレアではないのかと書いてる本人が思い始めたので初投稿です。


残酷な世界より、覚悟を君に

 

 

『なぁにあれぇ……』

 

 兜の隙間から見えた光の柱に対して、ロッドの口からそんな感想が出た。同じく兜を被って隣に立っているディオも、同じような事を考えているのだろう。その光を放った存在の方を見ている。

 光が放たれた後、ダークテリトリー軍の暗黒術師たちが放った術が文字通り光に呑まれ、そのまま術師たちも呑まれた。後に残ったのは円形に抉れた大地のみ……術師たちが居た大地が綺麗に抉れただけだ。

 

『撃ってこない所を見ると、連射が利かないようだな』

『あんなのバカスカ撃てたらそれだけで終わっちまうしなぁ……まぁこれは決まりか』

『今更だろう。あちらのスタッフがここにダイブして、俺達の妨害を行うなどと言う事は』

『曲がりなりにも現役相手に渡り合える奴が、あのクノイチ以外に居るとは考えたくないんですけどねぇ』

『そこはアバターの性能次第だろう。だとするならあれは、人界側のスーパーアカウントと言った所か』

 

 一秒ほど呆けていたがすぐさま思考を取り戻し、分析を始める二人は流石と言えるだろう。彼らにとって戦争の勝敗には最初から意味が無い。勝てれば目的達成が楽になるが、負けたとしても目的を達成できれば問題無いのだ。ダークテリトリーの《フラクトライト》達には悪いと思う感情が無いとは言えないが、その罪悪感は仕事が終われば忘れる程度のものしかない。

 ただ、光に呑まれて消えたディー・アイ・エルという存在が持っていたであろう知識は少し惜しかったかもしれないが。

 

『狙えるか?』

『狙えるけど撃ちあう気はさらさらねーよ。最低でもスティンガー持ってこい』

『お前の弓がスティンガー並みという事は?』

『イイとこRPGだよ』

『ボスでも一撃じゃないか』

『そのシリーズのゲームじゃねーからな? しかもあれ、当たんねーと意味ねーからな?』

 

 会話の内容がアホになっているが、軽口を叩くのはいつもの事。空に浮かんだままダークテリトリー軍を眺め続けている人界のスーパーアカウントから視線は外さないまま、二人の会話は続く。

 

『しかし、雰囲気あるよな』

『VR限定ならば我々相手でも渡り合える可能性があるプレイヤーが、あの場に居たと考えた方が良さそうか?』

『良さそうだけどよ、なら既にアリスはあっちに確保されてるって事だろ? 任務失敗じゃないですかねぇ?』

『いや、仮想世界側にあるほとんどのコンソールでは、操作してもこっちが占拠しているメインルームにしかライトキューブは排出されないし、そもそも確保が終わっているのならスーパーアカウントが現れる必要もない』

 

 ディオの言葉にロッドは感心したように納得を示した。そんな所に、一体の飛竜がスーパーアカウントの隣に現れる。少し目を凝らせばその姿は二人にもはっきりと見えた。

 真っ直ぐに流れる金髪に、抜けるような白い肌。そして澄み切った蒼い瞳。このような場所に居るのが間違いだと思う様な少女は、その身に凛とした雰囲気と黄金の鎧を纏っていた。彼女はいったいなんだという疑問は、他ならぬ本人により答えが得られた。

 

 

『我が名はアリス。整合騎士、アリスである!!』

 

 

 朗々と響き渡る声にダークテリトリー軍の全てが色めき立つ。兵は元より、それを纏める指揮官。そして話をしていた二人もだか、誰より劇的に反応を示したのは皇帝ベクタ……いや、()()()()()()()()()()()()だ。

 玉座から立ち上がったガブリエルは、アリスと名乗った少女騎士の姿を凝視したまま微動だにしない。時折、口から『おぉ……』と低い声が零れるだけで、呆然としていると言って良い状態だ。そんな総指揮官の姿を……その表情を見た時に、二人の背筋に怖気が走った。

 

(――…おいおい、隊長って実はとんでもなくヤベーんじゃねぇか?)

(どちらの意味だ?)

(異常性愛の意味じゃねぇ事を祈るよ……アレ完全に執着してる顔だぜ。邪魔する奴には容赦しねぇ最悪の類だ)

 

 ロッドがよく見てきたのは『生に執着する顔』だったが、それでも戦場では違う顔を見る事がある。ある救出任務を受けた時には、その救出対象に執着して自分達に襲い掛かった人間もいたり、あるいは物に執着してそれを守ろうとしていた存在も知っている。大体が似たように表情を歪める上に、そう言う輩は社会的な損得を一切考慮しない、文字通り何でもやる怪物になるのだ。

 

 そんな思考をしている間に、名乗りを終えたアリスとスーパーアカウントの少女が南の夜空へと消えていく。『どうする?』と視線で互いに問いかけ、二人は同時にガブリエルを見た。既に先程の異常者の表情は見えないが、それでも口元には隠し切れぬ歪みが残っている。ガブリエルは何度か、誰にも聞こえないような声で何かを呟き――…伝令用の通信機である水晶で出来た髑髏を掴んだ。

 

「全軍、移動準備。拳闘士団を先頭に、暗黒騎士団、亜人隊、補給隊の順に隊列を組み、南へ向かえ。あの騎士を……神の巫女を無傷で捕らえるのだ。捕らえた部隊の指揮官には、人界全土の支配権を与える」

 

 

 

 

 

 

 ガブリエル・ミラーは誰も居なくなった竜戦車の中で、確信と共にその口元を歪めた。

 

「アリス――…アリシア……」

 

 先ほどアリスと名乗った、飛竜の背に立っていた少女騎士の姿を思い出す。彼の脳裏ではその姿が、幼き日に自身の手で殺害した少女・アリシアが美しく成長した姿に完全に重なっている。幼き日に捕獲できなかった彼女の魂がアンダーワールドで生まれ変わったのだと、ガブリエルには確信できた。

 

 今度こそ――…今度こそ、この手で捕らえねば。

 

 あの娘のフラクトライトが入ったライトキューブを手に入れる。そして、そこにある魂を心ゆくまで味わい尽さねば。

 既にガブリエルの中でダークテリトリー軍の価値は、アリスを捕らえる為の囮以外の何物でもない。人界を支配する意味も消失し、捕らえて連れ帰ればそれでいい。現実に帰還した後は、隠して持ち込んだ神経ガスを使用してチーム全員を処分して自分だけ小型潜水艇で脱出。その後はオーストラリアへと脱出する算段を立てている。

 オーストラリアに出るのは、そこに自身以外知らない別荘がある為だ。そこにまず、ライトキューブとSTL技術を隠した後に飛行機で、自身が最高作戦責任者を務めるサンディエゴにある民間軍事会社の《グロージェン・ディフェンス・システムズ》のオフィスへ戻り、クライアントであるNSAには作戦失敗を報告する。ほとぼりが冷めた頃にオーストラリアへ渡って、別荘の広大な地下室にSTLマシンを設置して好みの仮想世界を構築する。

 

 住人は最初、自分とアリスの二人だけになるだろう。しかしそれではあまりにも寂しく……だからこそ、その世界の住人には以前から考えていた通り、日本において二年間だけ発生した《リアル・バーチャル・ワールド》の《生還者(サバイバー)》が相応しい。

 最初はただ増やす目的で、シドニーやケアンズで若く活力にあふれた魂の持ち主を調達すればいい。そこからいずれは海を越えて、母国アメリカや日本へ赴いて……目的の魂を手に入れる。

 

「……これは、愉しみという感情かな?」

 

 光の柱が突き立ち、三千ものオークユニットを使用した大規模攻撃ごと、二千の術師ユニットを叩き潰されても、微かな動揺すらガブリエルは感じなかった。しかしアリスをこの目で見た時に、冷え切った魂が震えるのを確かに感じた。

 あの時……GGOで風を感じた時以上に、その魂は震えている。幼き頃に感じたモノよりも大きく、確かに震えている。それに身を委ねるかのようにガブリエルは目を閉じる。

 

 僅かな微睡みの中で想起するのは、原初の記憶だった。

 

 

 

 

 

 

「どうやら、全軍で追いかけてくるみたいです」

 

 杖に乗って空からダークテリトリー軍を監視していたランが、そこで待機していたベルクーリらに告げた。

 

「ベクタはそれだけ嬢ちゃんにご執心……ってのは、笑えねぇな」

「そうだな。俺もここまでとは思わなかった」

 

 キリトが鋭い視線を、動き始めたダークテリトリー軍が起こす土埃が巻き上がっている方向へと向ける。まだ三万ほど残っている敵軍相手に、僅か千二百六十で囮をこなしつつの撤退戦はハッキリ言えばほとんどが死ぬだろう。相手の後ろから守備軍本隊が食らいつくにしても時間がかかる。軍の隊列が伸び切るタイミングで襲撃しなければ本隊の方が危険に晒される上に、そのまま人界へと逆撃されかねない。

 命の数を天秤にかけた時、より守られるべきは人界である――…囮部隊に参加した者達の殆どはそれに納得し、命を懸けた。そして移動前にシノンが暗黒術師たちの反撃であった大規模術式を潰した事が、衛士達の士気を上げていた。やった事を思い返して、称えられる事に羞恥心や諸々が耐えられなくなった本人が馬車の中で引き籠っているという被害に目を瞑れば、囮部隊の状態は最高と言って良い。

 

 そんな囮部隊は今、峡谷の出口から南に真っ直ぐ数キロル程移動した小さな丘陵の上で小休止を取っている。ベルクーリとキリトはその北端に立って、偵察に出たランを待っていたのだ。

 

「今後の方針は?」

「とりあえず引っ張れるだけ引っ張る事になるな。オレ、イーディス、シェータの三人が倒れるまで可能な限り。その間にベクタやその直属が来たらキリト達に任せ、ある程度まで行けばアリスには独力か、もしくは誰かについてもらって果ての祭壇に行ってもらう」

「独力は流石に。アリスさんにシステムコンソール……外に行くための操作盤を一人で扱えるとは思えませんし」

「あー……そうか。あれ、ほとんどが英語……じゃなくて、神聖語だったな。だとすると俺達にストレア含めて、八人の中で誰かを付けないといけないのか」

「誰を付けるか、というならユナさんでしょう。あの人の支配術や能力は大人数がいてこそで、囮部隊では正直使い切れません。それにご本人の精神的な消耗も無視できないかと」

 

 冷静な分析を基にしたランの所感に、キリトとベルクーリは腕を組んで唸る。戦闘能力という意味では確かに、ランの言う事は尤もだ。ユナでは敵スーパーアカウントとの戦闘に耐えられる確率は低いし、そもそも彼女自身戦闘向きではない。SAOでの二年間で最低限の戦闘の心得はあるが、キリト達のように前線で戦うタイプではなく後衛でバフを掛けるタイプだったからだ。

 

「もう少し言うなら……というか、少し個人的なんですけど、アリスさん、ストレアさん、ユージオさん、ユナさんで果ての祭壇に向かっていただくのが一番かなと」

「その心は?」

「右目の封印を破った《フラクトライト》……純アンダーワールド人であるアリスさんとユージオさん。イレギュラー……非正規の手段でこの世界に入り込んで、《フラクトライト》を得たストレアさんはそもそも自分でそれを解除したらしいのであれですが……この三人は、わたし達が把握している、この世界のルールを破った《逸脱者》です。一つの小隊にまとめておけば、アリスさんを逃がす名目で四人纏めて守る事も適うかと」

「なるほどな……そっちはそれで行くか。それでオレ達にとってはこっちも問題なんだが」

「休戦に至るまでの道筋ですね?」

 

 ランの言葉にベルクーリは頷く。

 

「ダークテリトリー軍が全軍で追いかけてきた事によって、この状況が続く限り人界防衛については考えなくて済む。なら利用しない手はない」

「そうですね……ただ、わたしがこの状況で考える条件はおそらく、ベルクーリさんが考えている事とほとんど変わらないと思いますが」

「それでも構わねぇさ。識者の意見はいくらあっても困らねぇ」

「わたしまだ、十五の小娘なんですけど」

 

 頭痛を堪えるようにこめかみに手を当て、溜息を吐く。ランが識者として認識されている理由としては、以前にカーディナルら三人の意思決定会に呼ばれた時にその知識を披露したからである。彼女の持っていた広く深い知識はカーディナルすら驚かせたために、ベルクーリも彼女に意見を聞く事があった。

 

「まぁ……まず絶対条件は一つだけです。敵総指揮官である暗黒神ベクタと、それに付いている従者の撃破。ストレアさんの話では彼らの目的こそがアリスさんです。それを挫くと同時にダークテリトリー軍を力で統べる彼らを撃破できれば、ダークテリトリーの法を逆手にとって休戦交渉に入りやすいと思います」

「それは道理だな。しかし、総大将が早々前線に出てきてくれるわけでもねぇだろう?」

「ですので、それを満たす為の必要条件があります。まずは正攻法として、敵の数を減らす事。特に主力の暗黒騎士団と拳闘士団を減らさなければ、ベクタが出てくる事は無いでしょう」

「確かに……主力が健在なら自身は温存すればいいもんな」

「次に搦め手としては、敵の補給部隊を襲撃して物資を壊滅させるか、少なくとも減らす事」

「……それはまた、えげつねぇな」

「やるにしてももう少し人界から相手を離してからでしょう。即座に補給が出来ない場所で行わなければ、相手の士気は挫けないでしょう。そして挫けば、その士気を持ち直すためにわかりやすい何かを示さなければならなくなる」

「それが、ベクタの出陣か」

 

 ベルクーリの答えにランは頷いた。総指揮官が前線に立つというのは、士気を上げる方法として確かに存在する。命を張っているのが自分だけではないと思わせるのに、非常に効果的だからだ。戦車やヘリ、ミサイルが飛び交う現実の戦争ではありえないが、今回のアンダーワールドのような世界の戦争であれば十分に効果が見込める。

 

「ただ、懸念事項があります」

「懸念事項?」

「ベクタの目的はアリスさんの奪取だと言うのは理解していると思います。それはすなわち、今回の戦争に勝つ必要はなく、ダークテリトリー軍として敗北したとしてもアリスさんを手に入れられれば彼らにとっては勝ちという事です」

「……ベクタは、そこまでやると思うのか?」

 

 ベルクーリの視線を受けて、ランはまた頷いた。

 

「自軍戦力を生贄にして術式を行使したんですから、やらないなどと考える事は出来ません。いざとなれば暗黒神ベクタは、ダークテリトリー軍全てを()()()()()()()()()()使()()()()でしょう」

「ベクタが居る限り、和平も何もあったもんじゃねぇ、か……」

 

 やはりそこに結論は集約される。ベクタという存在がこの戦いにおける最大の障害であり、避けては通れない存在である。ならばその存在をどうやって前線に引きずり出すか、という難題を解決しなければ自分で切りかかる事すら困難だろうとベルクーリは考える。

 ベクタを引きずり出す為にランの策は有効と言えるだろうし、彼女が訴えた懸念事項も、オークを犠牲にした瞬間を見ているベルクーリには理解できた。それにベクタのものと思われる心意……背筋を凍らせるような冷たさと空虚さを伴ったそれは、ベクタの本質と言って良いだろう。そんな()()()()()()()()()()()存在が自由にしていい自軍をどう扱うか等、火を見るより明らかだった。

 

「基本は南……果ての祭壇へ向かいながら、敵の数を削ぐ。ある程度まで引っ張ったら補給部隊への襲撃も考慮するが、それは誰がやる?」

「義姉さんなら確実に。飛行による高高度からの狙撃能力と攻撃範囲については随一ですから。わたしでも可能ではありますが、確実性は落ちると思ってください」

「人界軍の人材では?」

「筆頭がアリスさんなのでお勧めしません。他は基本人界に残った騎士の方ですし」

「……ままならんなぁ」

 

 がりがりとベルクーリが頭を掻きながら、太い溜息を吐く。自分の想定の甘さを悔いているのであろうが、それはあくまで結果論でしかない。そもそも全軍で追ってくるなどと言う事自体が、全員の想定外なのだ。それだけベクタがアリスに執心するなど、誰にも予想できるはずがないのだから。

 

 

 その頃、小休止している部隊の中心辺りにある幌馬車の荷台の中では、非常に珍しい光景……いや、軽い修羅場が展開されていた。そこに居るのは予想通りと言えばその通りである、アリスとストレアの二人。ただ、アリスは正座させられ、ストレアはその顔を光の無い瞳(ハイライトオフ)で至近距離で見ているという、なんとも名状しがたいものであったが。

 

「あ~り~す~さ~ん、目~を~見~て~は~な~そ~?」

 

 抑揚のないストレアの声に、アリスは泣きそうであった。小休止に入った直後に睡眠術式(物理)の効果が切れた(気絶状態から復帰した)ストレアに捕まったのだが、その顔は既に無表情であり、光の無い瞳(ハイライトオフ)だった。

 それだけで恐怖を覚えたのだが、鎧の肩当部分を軋ませるほどの力で握られては逃げられる筈もない。瞬く間に正座の姿勢を取らされ、せめてもの抵抗として目を逸らしているのだがその程度で逃がしてくれる相手ではない事を、アリスは十分すぎるほど知っていた。

 後、目を合わせたらマジで怖い。奈落の底を覗いてしまったかのような恐怖を感じるのでアリスは今のストレアと意地でも目を合わせたくない。

 

「何か言う事あるだろぉ? ねぇ、整合騎士様ぁ~?」

「わ、私は最善を尽くしました。反省はしていますが……」

「ちげぇよダァホ」

 

 戦争準備の頃から取り繕う事(令嬢モード)を止めてきていたストレアだが、今回は格別に口が悪い。それだけ怒り心頭という事でもあるし、アリスの重要度を知っているのだから、ある種その対応も仕方ないと言える。

 光の無い瞳(ハイライトオフ)から復帰して、ストレアは正座のままのアリスの前にしゃがみこんだ。俗に言う『ヤンキー座り』だが、彼女の下衣は短パンタイプなので問題ない。

 

「アタシの腹に一撃食らわした事は後日、利子付けて返すから今は良いとして、お前自分の立場分かってる?」

「ですからこうして囮を」

「それが分かってねぇって言ってんだよダァホ」

 

 ゴンッ、とストレアが手を出しても居ないのにアリスの頭に衝撃が走る。理解不能な現象だが、アリスには心当たりがあった。整合騎士の中でも秘術とされる《心意の(かいな)》……神聖術でも支配術でもなく、意思の力のみで物に干渉する術。

 

「こ、こんな事に秘術を……」

「うるせーバカ。で、アンタの立場の話だけど、これ内密の話。外から来てるキリト達以外には、アンタにしか言わない」

「いや、ここ馬車の中って言っても部隊のど真ん中……」

「心意で物に干渉するんだから、()()()()()()()()()()()

 

 さらっと無茶苦茶を言うストレアに対して、非常識を見るような視線をアリスは向けた。その視線に対して、ストレアはもう一発心意で拳骨を落とす。

 

「今ちょっと天命減ったけど!? 立場云々って言っといて扱い酷くない!?」

「自然回復する程度の誤差でピーピー言うな。で、話を続けるけど簡単に言えばアンタは外の存在にとって、ある価値を求めて作られたものの集大成になる」

「ある価値……?」

「兵器に宿す為の魂」

「へい、き……?」

 

 その言葉を聞いて、アリスの脳裏に浮かんだものは半年前の対アドミニストレータ戦で戦った《ソードゴーレム》だった。

 

 それに、私を宿す?

 

「どういう、事?」

「動揺するなよ。知らなかったとはいえ、アンタはそうされる可能性がある道を選んだから最後まで聞け。外には、ソードゴーレムじゃないけど様々な兵器がある。中には、人が乗せられるような物も、ね。ただ、人がそれに乗って戦って、乗ってる兵器が破壊された場合、大体は助からない」

「……それに乗せたら、私も死ぬでしょう? なのに何故」

「アンタは……いや、整合騎士達はその死を回避する技術の一端に触れている。正確には死の回避じゃないけど」

「整合騎士が……え、それって……」

「《シンセサイズの秘儀》。魂に干渉して記憶を操作する技術だけど、アドミニストレータはこれを発展させて、自身の複製を作ろうとした事もある」

 

 それが紆余曲折あってカーディナルになったんだけど、と付け足し、驚くアリスを無視して話を続ける。

 

「アンタの複製を生み出して、兵器に載せる。外の技術ではそれが可能だ。わかる? アリス。アンタがもし、ベクタ側に連れ去られたらアンタは永遠にその尊厳を凌辱され、踏みにじられ、利用され続けて()()()()()()()()()地獄が待ってる」

「そ、そん、な……」

「それだけじゃない。アンタの複製を乗せた兵器が兄貴やキリト、アスナやシノン達の本体が居る外で暴れて、()()()()事にだってなる」

 

 ストレアが語るのは、アリスが敵の手に落ちた場合の最悪の可能性。しかし、その可能性は決して低くない。少なくとも、語った可能性の中でアリスの尊厳が踏みにじられる事は確定しているとも言って良い。それを行うのがベクタなのか大国の研究者なのかの違いだけだ。

 

「勿論、アタシ達はそんな未来を迎えさせる気なんてない。でもアリス、その為にはアンタが逃げ切る事が絶対条件なんだ」

 

 わかる? という問いかけに、アリスは弱々しく頷いた。ストレアの言う事が彼女の心に現実感を伴って入り込み、震える体を抑え込もうと自分を抱きしめるが、それでも止まらない。

 感じているのは恐怖だ。死んだほうがマシという仕打ちを受け、それでも生かされ続ける事への。自分の知らない所で自分が、恩義のある相手を、仲間だと思っている人を、殺してしまう事への恐怖が、アリスの中で渦巻いている。

 

「……例えば、今ここで私が死ねば、それは回避されるの?」

「されない。確かに《外》が知ってる集大成はアンタだけど、アンタと同じ位階にいる存在に心当たりはあるでしょ?」

「……まさか、ユージオ……?」

 

 震える声で紡がれた回答を、ストレアは肯定した。外の勢力が求めている《人工高適応型知的自律存在》……規則を遵守し、しかし自身の判断でそれを破る事も厭わない真の人工知性。禁忌目録という、人界における最高の上位規則を友の為、愛する人の為に破ったユージオもアリスと同じ位階に立つ存在である。

 それはまだ、《外》の誰にも知られてはいない。それは彼らの目がアリスに向いているからであり、今現在『他に《人工高適応型知的自律存在》が居るかどうか』を調べる余裕が無い為だ。ユージオが覚醒し、カセドラル防衛戦を経て、オーリの状態が急変するまで、現実世界では数秒しか経っていない。それからも様々な事があった為に、外の勢力はどちらもまだ彼という覚醒者を知らずにいた。

 

「アンタが死んだ後で探られて、バレれば次はユージオだ。アンタもそれは望まないだろ?」

「……私がした事って、余計、だった?」

「結果論で言えば、アンタだから全軍釣れたとも考えられる。それが余計な事なのかもそれこそ、この戦争の結果が出てからの話だ。ただ、この状況にしてしまった以上、アンタとユージオに絶対《外》の……キリト達に協力してる勢力に保護されてもらわなきゃならない。そっちなら二人を兵器に載せるなんてしないし、要望もある程度融通してくれるだろうしね」

 

 多少の気休めを交えたストレアの説明に、アリスは何とか平静を取り戻していた。それと同時に自分の選択の重さを知り、責任を知る。自分の背中には人界だけではない。ダークテリトリーも、そして未だ見た事のない《外》の行方すらも乗っている事を知ったアリスの身体の震えは、もう止まっていた。

 

「……教えてくれてありがとう、ストレア」

「え、相当重い話にお礼って気持ち悪いんだけど」

 

 心底『気持ち悪い』と言う顔をした友人に思わずアリスは苦笑する。

 

「お礼くらい素直に受け取ってよ。私と貴女の仲じゃない」

「どんな仲だよ。寝言言ってんじゃねーぞ殴るぞ」

「待って。何で本気で怒ってるの!?」

 

 

 

 




ストレアの口が悪くなるのは皆さん予想してると思いますが、大体オリ主のせいです。
ただ、彼女が口が悪くなるのはそれだけ気安かったり、特別枠という事でもある。


ありす「二人は仲良し!」
すとれあ「〇ね」
ありす「遠慮が無い!?」
すとれあ「お前にする遠慮なんぞ持ち合わせてないわ」


みてたなかまたち(お前らやっぱ仲良いだろ。特にストレア)
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