流星の軌跡   作:Fiery

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そろそろシリアスにも疲れた……


おわりへとはじまり、まくはあがる

 シェータの拳闘士団の足止めに、ベルクーリやキリトらの暗黒騎士撃破及び撤退。部隊の進行については足止めもあったが、概ね予定通りと言える現状。アタシは状況を纏めながら思考を回す。

 

 今現在の部隊の配置は、先頭に飛竜に乗ったベルクーリ。最後方には馬に乗ったキリトとアスナが居る。本隊部分にはイーディスやシェータ、ランとシノンが交代で空を飛びながらの周囲警戒。ユナとユウキはアリスとユージオと共に馬車の荷台に居て、アタシ自身は先頭から少し後ろの辺りで馬に乗っている。

 暗黒騎士の襲撃によってこっちの人数は千人を切った。暗黒騎士の妨害よりその後の部隊再編に手間を取られたが、アグルや学院の寮監をしていたアズリカ先生、ソルティリーナ先輩なども手伝ってくれて何とか形になった。

 

 月が昇り、普段ならば早い者だと眠るような時間帯。低木地帯を抜け、双眼鏡で先を確認すれば遠くに奇妙な形をした石像が並ぶ遺跡のようなものが見える。頭の中で以前に収集しておいたアンダーワールド()()の地図を思い浮かべれば、あれは《果ての祭壇(ワールドエンド・オールター)》へと続く道を示すものだ。

 ただ、あそこにたどり着く前に何処かで一度は休憩……出来れば夜明け前まで休みを取っておきたいのが本音だ。アタシ達とダークテリトリー軍も同じように移動しているが、追われているという心理状態は意外にバカにならない。ざっと見渡しても、体力の少なめな修道士は勿論だが体力のある衛士の中にも疲労を隠せてない人がチラホラ居た。

 

(最悪、アスナの地形操作でダークテリトリー軍との間に障害物を作ってもらうしかないかな……)

 

 休息をとる為の時間稼ぎをする方法はいくつかあるが、一番いいのはアスナの《無制限地形操作》で物理的に分断してしまう事だ。本音を言えば、《フラクトライト》に負荷をかけるアスナの権限をあまり乱発はしたくないけど、それしか無くなればお願いするしかない。

 後はシノンを頼っての敵軍への強襲。それで動きを止めて時間を稼ぐか、アタシが《群狼剣》の《記憶解放術》を使って引っ掻き回すくらいしか思いつかない。ただ、向こうも休息を取らなければならないのは当たり前で、こちらが止まれば向こうも止まる可能性はある。相手の総指揮官がダークテリトリー軍を磨り潰してもなんとも思わない相手でなければ、選択肢として存在した。

 

 しかし、今の相手はダメだ。味方の損耗など気にもせず、死んで来いと言えてしまう相手に何の担保もなく進軍を止める事は出来ない。ならばさっきの三つのどれかを実行して時間を稼ぐしかない。

 なら誰が出るかと言えばまぁ、アタシが出るのが筋だろう。巻き込んだ立場のアタシがまず命を懸けないと、何を言っても説得力なんてない。問題は一人で出ると言えば確実にうるさいの(アリス)が喚き出す所で……まぁこれは護衛を連れて行くと言うより、今は最後尾にキリトとアスナが居るから二人に頼めばいいか。

 

「また、何考えてんだ?」

 

 そう結論を出していれば頭上から声が掛けられた。ベルクーリが星咬をアタシの所に寄せているのだ。

 

「アタシに総指揮官を譲るとか言い出したオッサンを殴る方法」

「この状況でそんな事考えられるとは余裕だな。勝つ算段でも付いたか?」

「さらっと皮肉を流されるとムカつくなぁ……!」

 

 口では多分、一生かかっても勝てる気がしない。彼の飄々とした部分はこの分野においては無敵だ。ファナティオに『私が居ないと洗濯物も畳めないくせに!』とか言われてたけど、そんな所もスルーしてたから本当に無敵である。兄貴とかキリトなら土下座してるよ。

 

「んで?」

「……そろそろ小休止じゃなくて本当に休憩が必要だと思うけど、その時間を稼ぐ方法」

「お前さんが稼ぐ……とでも言うつもりかい?」

「他に適任が居るなら教えてくれない? あぁ、例の斬撃結界は設置するまでが難点だから無しね」

「普通に交代での休息じゃダメなのか?」

「ベルクーリは敵指揮官をどう見る? 素直に兵に休息を取らせるような存在かな? アタシの考えじゃ少なくとも、こっちが止まればそのまま突撃させるようにしか見えない」

 

 アタシの考えと同意見だったのか、ベルクーリは唸って黙り込んだ。ただ、そっち(ベルクーリ)の懸念もアタシは理解はしているんだ。カーディナルから直々に次期最高司祭をしてくれなんて言われてるし、ベルクーリもそう考えている。アンダーワールドの未来にとってアタシが一番必要だと考えてくれているのは有り難いけど、この戦争で負けてしまえばその未来すら無くなる。

 

「アスナ達じゃダメなのか?」

「ダメとは言わない。身も蓋も無い言い方をすれば、これはアタシの我儘だ。この戦争にアスナ達を巻き込んだのだって、兄貴をここに連れてきたのだって、全部アタシの我儘だ。色んな理由を付けて押し通したアタシの勝手な言い分(ワガママ)だから、せめてアタシが命を懸けなきゃ、誠意も何もあったもんじゃない」

 

 理解はしているのだ。アスナの権能に頼る事が現時点で打てる最善手である事は。もっと言えば、アタシが管理者権限を得ればそれで問題なくアスナの権能も行使できる。それをしないのは、この戦争になるべくそういうものを持ち込みたくないアタシの我儘でしかない。

 自分の我儘で囮部隊に名乗り出てくれた衛士達を殺したのかと言われればその通りとしか、アタシには言えない。少なくとも敵の狙いがアリスだと判明した時点で、アタシには管理者権限取得の選択肢が存在した。権限を取得し、アリスをログアウトさせて加藤達が居る第二制御室へとライトキューブを排出すれば、ベクタ達もそのまま帰った事は想像に難くない。

 

 でもそれをしなかったのは、それじゃ兄貴が目覚めないからだ。管理者権限は仮想世界において文字通り神の力であり、()()()使えばダークテリトリー軍が万全であろうと何もさせずに全てを殺す事だって出来る。そんなものは極限状況とは到底呼べないし、取れる選択肢を全て取っていないという意味では『手を抜いている』と言われても仕方ない。

 そんな誹りを受けるのは覚悟の上で、アタシは兄貴を目覚めさせる為に管理者権限の事は黙っている。どれだけ追い詰められようと、兄貴が目覚めない限りアタシが取得コードを使う事はない。

 

「あいつらが、今更お前さんの誠意なんてのを気にするか? 特にシノンやラン、ユウキはお前の家族だって話じゃねぇか」

「その家族である兄貴があぁなるのを、アタシは見過ごした。それを雪がなきゃ、胸張って家族だなんて言えないよ」

「……護衛は腕っこきを連れて行け。アリスには俺から言っといてやるが、こっちからは仕掛けるな。ギリギリまで見極めろよ」

 

 本当に渋々と言ったベルクーリの言葉に、アタシは頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「……ストレアは?」

 

 ベルクーリより休息のため野営する事が部隊に告げられ、開けた草原地帯に天幕が張られ、食事の準備が行われている。その中で指揮を執っているはずの友人の姿が見えず、アリスは疑問を浮かべた。

 

「そう言えば見ないね」

 

 見回りかな、とユージオは考えるもそれはそれでおかしい。当番は決まっているし、別に破る必要もない。担当に何かあってもストレアに頼むかと言われれば頼まないだろう。だから、彼女がこの場に居ないのは何かしらの理由があると考えられる。

 

「探して――」

「貴女は一人で動くなって、ストレアに口酸っぱく言われてたでしょう?」

 

 探しに行こうとしたアリスの前にシノンが現れ、厳しい視線を向ける。

 

「しかし」

「しかしもかかしも無いの。あの子がどれだけ貴女の身辺に気を使ってるか、わからないわけじゃないでしょう? ユージオが付いている以外に必ず、私達の内の誰かが付いていてってお願いされているんだから」

「そうなんですか?」

「『ユージオを信用してないわけじゃないけど、アリスに頼まれたら断り切れないだろうから』って言われたわ」

 

 その言葉にユージオは視線を逸らした。確かに、探しに行くと言われれば自分も一緒に行き、そのまま別行動をしていた……なんて結果になる可能性も無くはない。ストレアもその辺りの事が分かっていて、シノン達にお願いしたのだろう。

 

「シノンは、ストレアがどこに行ったか知ってるの?」

「知っているけど説明はしないわ。『説明は騎士長がやってくれる』そうだから」

 

 シノンの言葉で察せられるのは、少なくともストレアの独断で居なくなったわけでは無いという事。小父と慕うベルクーリが関わっているとなれば、それ以上追及は出来ないし説明があるなら大人しくすることが正解かと、アリスは椅子に座った。

 それを見届けたシノンは配られている固焼きのパンとスープの入った器を持って、アリスらと同じテーブルに付く。どうやら今のアリスの監視係は彼女らしい。

 

「ヴァルゼライド卿の様子は、どうですか?」

「相変わらず反応は無いし、眠ったままよ。義妹達の話では、嫌な感じは確かに薄まっているって事だけど」

 

 シノンに、ラン達が言う《死の気配》を感じ取る事は出来ない。こればかりは素養や境遇の問題であり、その事について不満はあれど無い物強請りをシノンがする事はない。ただ、それを敏感に感じ取れる義妹達の方が万が一の事にも気づきやすいだろうと、この戦争の間はオーリの世話のメインを任せている。

 そんな義妹達は兄の眠る天幕の中で食事中だ。リネルとフィゼルも一緒に、騒がしくしている事だろう。普通なら昏睡している人間の横で騒ぐのは言語道断であるが、今回はケースが特殊なのでフラクトライトの活性の為に色々やっている。それこそカセドラルに居た時から、可能な限りオーリの眠る部屋でシノンとラン、ユウキは過ごしていた。

 

「ただ、この世界が無くなってしまえば旦那がどうなるかはわからない。私から言っておくのは、貴女の行動に旦那の命も懸かっているのを忘れないでと言う事。もしそうなった時……私は自分がどういう行動に出るかわからないから」

 

 呟かれた瞬間、ピシリと空気が凍てついた気がした。改めて、シノンがどれほどまでに彼を大切にしているかを二人は認識する。そして、アリスの命はもう彼女だけの問題ではなくなった事を再度、痛感せざる得ない。

 元より死ぬつもりは無いし、囮として自分が逃げる事がこの世界に生きる人々を守る事になるからこそ、彼女はこの行動を選択した。後悔はしていないが、こうして事実を突きつけられれば軽率だったと反省する。

 

「それとユージオ」

「え、はい」

「アリスの意思を尊重するのは良いけど、それだけだと『ユージオなら許してくれる』っていう甘えに繋がるわ。変えていかないと大切なものを取りこぼすわよ」

 

 シノンの熱の無い眼差しに、ユージオは息を呑んだ。シノン達は一応程度だが、ユージオらの事情を聞き及んでいる。そして、その事情もあってかユージオとアリスの力関係というか、ヒエラルキーはアリスの方が高い。

 平時なら別にシノンも何も言わないが、今は非常時でありアリスはこの戦争……もっと言えばこの騒動の鍵となる存在だ。誰も予測できないような動きをされては困るし、シノン達の内の誰かをずっと付けておくわけにもいかない。ユージオも戦力として運用出来るが、アリスとの関係性からこの逃亡戦の間は専属の護衛のようなものとして扱っている。つまりは時に、アリスの意思に反してでも彼女を生かす行動を取ってもらわないと困るのだ。

 

「……はい」

「あんまりうちのをイジメねぇでくれねぇか?」

「言う権利はあるでしょう?」

「まぁそれは否定しねぇよ」

 

 はっは、と笑いながらベルクーリがシノンらのテーブルにやって来た。その手には夕食として配られているシノン達と同じメニュー。

 

「小父様、ストレアが居ない理由と言うのは……」

「簡単に言えば見張りだ。相手も今日の所は休息してくれればいいが、相手の指揮官……ベクタがどう出るか全くわからん。だからこそ、数が来たとしてもある程度対応できるストレアが見張りに立ち、護衛と伝令にシェータとイーディスを付けた。水と食料も持たせたからまぁ、休息も取れるだろう」

「それは殿(しんがり)と言うのでは……」

「見張りさ。ストレアが交戦に入ればすぐにイーディスが知らせに来て、シノンとアスナに出てもらう」

「私の広域殲滅とアスナの地形操作でダークテリトリー軍を止めて、その間に離脱。部隊はある程度の回復を待って、再度移動を開始する。そこからは最悪、強行軍?」

「だな。まともに休めるのはここが最後と考えた方がいい。状況によっては、ある程度進んだ後でアリスとユージオ、それとストレアにユナの四人で《果ての祭壇(ワールドエンド・オールター)》へ行ってもらう」

「それは……」

「これは決定事項だ。アリス、ユージオ、覚悟を決めろ」

 

 ベルクーリの、整合騎士団長としての言葉に二人は黙り込んだ。厳しさを伴っているその声からは、状況の楽観視を一切していない事がありありと感じられ、今の状況は決して良くはないのだと突き付けてくる。

 もちろん、二人も楽観視していたつもりはない。それでも、初戦では敵軍の半数を壊滅させ、ベクタ直轄の暗黒騎士を一人撃破した。この逃亡戦では死者が出てしまったが、それでも暗黒騎士を一人撃破し、一人は撤退させたのだ。流れは自分達にある……そんな風に思ってしまっても無理はない。

 

「じゃあ、私は先に休むわ。アスナにも声は掛けておくから」

「すまねぇ、頼んだ」

 

 話している間にさっさと器を空にしたシノンが、義妹達のいる天幕へと戻っていく。彼女が去った後のテーブルは、深い沈黙で支配された。

 

「……この戦争、あいつらがいなけりゃ人界守備軍が何人死んでいたかわからん」

「それは……確かに。最初の衝突でこちらの衛士がほとんど死ななかったのは、ユナ様がその身を挺して守りの加護を授けてくれたからですし、敵暗黒術師の起死回生の大規模術式を一掃したのはシノンでした。峡谷戦で暗黒騎士を抑えたのはストレアで、足止めに来た暗黒騎士を撃破、撤退させたのはキリト達の力が大きい」

 

 どれもまともに立ち向かえば、どれだけの損害を被ったか計りきれない程だ。逆を考えれば、そんな彼女達が居ても免れなかった損害がある。失くしてしまった命が存在する。もしもを考えた時、アリスは自身の背筋が凍り付いたと錯覚するほどの冷たさを感じた。

 

「オレ達はあいつらに助けられている。まぁ、あいつらと同じ外の人間が攻めてきて、アリスを狙ってるのもあるが……中心はやっぱりあいつだろう」

「オーリ、ですか」

「あぁ。あいつらがこの時に集ったのは、あいつの為だ。オレ達が自分の意志でこの戦争を戦うと考えたのも、あいつが人界の不変を……最高司祭が齎そうとした停滞を破壊したからだ」

 

 未来があるのなら、破壊者とでも言われるのだろうかとベルクーリは益体も無い事を考えて首を横に振った。

 

「だからまぁ、何だ。アリス、ユージオ」

「はい」

「はい」

「お前達は、気にするな。やりたいようにやればいい……お前達のやりたいように、あいつらに報いてくれれば、後はオレ達が何とかしてやるよ」

 

 最古の騎士は、自身と血の繋がりの無い――…しかし、心で繋がっていると信じる子達の頭に手を置いて、いつものように太く、大らかに笑った。

 

 

 

 

 

『休ませる?』

『えぇ、そうです』

 

 その頃、ガブリエルの居る竜戦車にロッドは帰還していた。ディオの戦線離脱の報告と共に、兵の休息を進言するためである。

 

『こちらに時間が無いという事は、わかっているのか?』

『わかっちゃいますが、このまま進んでぶつかってもこっちは数頼みの突撃しかせんでしょう?』

『アリスが手に入ればそれでいいからな』

『突撃させるにしても、行軍で疲労困憊したのよりは休んで回復したのをさせる方がいいでしょ。確率を上げるなら多少のタイムロスも仕方ない』

 

 ロッドの提案にも一理あると考え、『ふむ』と唸る。どの道、現実でクリッターに指示した策が発動するまでの時間も必要である為、休息を取らせてもそこまで手痛いという事ではない。それに策が成らなかった場合はアンダーワールドの内部時間を千倍に加速させるため、現実での作戦時間が残り数時間となっても、ここでは数カ月の猶予になる。

 

『人界軍との距離は?』

『目測で良いんなら、約二キロってところですな』

『様子は?』

『天幕が設営されているのが見えますし、休む気でしょ』

 

 追われているのに休むという選択肢が取れる。それは時間を稼ぐ算段が出来ているという事だとガブリエルは考える。通常なら、追っている相手がわざわざ止まったのだから追いかければいい。

 

『だが、疲弊したこちらではそこに突っ込んでも例の大規模術や、整合騎士の武装完全支配術の餌食になるという事か』

『そうっすね。どうせ使い捨てるにしても、役に立ってもらわんとならんでしょうし』

『良かろう』

 

 そう言い、ガブリエルは傍らに置いていた水晶の髑髏を手に取り、そこに語り掛ける。

 

「全軍停止。今日はここで野営とし、夜明け前に行動を開始する」

 

 命令と同時に竜戦車の速度が落ちていき、少しして停止した。

 

『さて、休ませている間にお前には人界軍を見張っていてもらおうか、ロッド』

『そりゃ構いませんし、逃げてきた俺への罰の意味もあるんでしょう?』

『撤退の判断は見事で、戦力を無くさずに済んだのであればとやかくは言わんさ。敵の整合騎士と、それ以外の特記戦力の情報も手に入ったわけだしな』

『手に入ったっつーか、俺の見た所感と大体の人数ってだけですがねぇ』

『お前を相手にした四人と、ディオを撃破した三人。そして先走った拳闘士団を足止めした一人……レオを倒した相手は居ると思うか?』

『半々だと思いますがねぇ。居るってしといた方がいいと思いますよ? アリスに護衛を付けないって事は有り得ないでしょうし』

『とするなら整合騎士と特記戦力、そしてあのスーパーアカウントを含めて最低十人は明確な障害が居る、と言う事か』

 

 普通に考えれば厄介な局面と言える状況。ダークテリトリー側の将軍ユニットは残り三名。シャスターとイスカーンは戦力としてカウントできても、残りの一人である商工ギルド頭領のレンギル・ギラ・スコボは戦闘力のあまりないユニットだ。そして武器を失ったがロッドとガブリエル自身くらいしか、それらに対抗できる存在は居ない。

 ただ、ガブリエルにとってこのくらいの厄介さはむしろ、自身が楽しむ為のスパイスに過ぎない。

 

『じゃあ、俺は見張りに行ってきます。あの飛竜はそのまま使うんで、聞かれたら言っといてください』

『予備の弓と矢も持っていけ。無いよりはマシだろう』

 

 

***

 

 

 ダークテリトリー軍が野営地に定めた場所より一キロルほど南下した位置に、人影が三つある。

 

「……あっちも野営するみたい」

「なら、あたし達の役目は殿から見張りになったって事かー」

 

 それは、部隊から離れたストレアとイーディス、そしてシェータの三人だ。双眼鏡でダークテリトリー軍を確認するストレアと、その横で自身の飛竜に餌をやっているイーディスと、夜では目立たない黒い布で出来た簡易の天幕を張っているシェータ。

 相手の動向次第では、ストレアが《記憶解放術》による敵軍の足止めを行い、シェータが護衛。イーディスが飛竜で部隊への伝令をこなす手筈になっていた。それが野営を始めた事によって、動き出すのを監視する見張りの役目に変わった。

 

「とりあえず食料は固焼きパンと干し肉と干し果物、それと水は持ってきたけど」

「……あっちから見えないように天幕の裏で火を起こして、干し肉を煮ましょうか」

「ならアタシがやるよ。シェータは監視をお願い」

「わかりました」

 

 双眼鏡を渡されたシェータがストレアと場所を代わり、そのままストレアは鍋と水、干し肉を引っ張り出していく。

 

「え、ストレア料理するの?」

「カセドラルじゃやる暇なかったけど、料理するよ。野営でもなるべく美味しい物食べたいし」

「あぁ……それは何となくわかる」

 

 長持ちする食料だけでは味気ないのは、イーディスも知っている。遠征ではその辺りも悩みどころであり、任務だと思って我慢していたものだ。

 イーディスの視線を受けながらストレアは鍋に水を入れ、熱素を一つを生成した後に空中で制止させて、更に鋼素を二つ生み出す。

 

「《フォーム・エレメント・ホロウスフィア・シェイプ》」

 

 二つの鋼素が一つに融合しながら、一つの球体へと変化する。素因状態から物質化した事により重さを得た球体はそのまま鍋に張られた水の中へと落ちて、程なくして水の中の球体が赤い光を放って周りから小さな泡が立ち、水面から湯気を立たせ始める。

 

「これって……」

「中が空洞の鋼の球を作って、中に熱素を閉じ込めただけだよ。これならわざわざ、風素で竜巻を保持して球を熱したりしなくていいし」

「この術式はストレアが?」

「不本意ながらアリスなんだよねぇ……」

 

 困ったように笑うのは、発想力で負けたと思っているから。《外》で神聖語(英語)を知っている自分が思いつかなかった事をアリスが思いついた事に、ストレアは敗北感を感じている。

 ある程度水が沸けば、そこに干し肉を入れていく。元々塩味が付いている物で、肉自体の旨味も煮だせば簡単ではあるがスープになる。干し肉自体も柔らかくなるので、そのまま干し肉を齧るよりは遥かにマシだ。調味料は持って来ていないので味の調節は出来ないにしても、普段の野営を知っていればこれだけでも上等だ。

 ある程度煮た後に三人分のカップに注げば、これが夕食である。

 

「パンにちょっと余裕はあるから、足りないならそっち食べてね」

「充分でしょ。割とお肉も入ってるし」

「ご馳走様でした」

「「はっや!?」」

 

 十数秒でスープを飲み干したシェータに二人が驚きの声を上げる。

 

「問題ありません」

「確かに問題無いけどさぁ……まぁいいか、シェータが最初に寝てよ。拳闘士団相手の疲労が残ってるだろうし」

「良いのですか?」

「良いも悪いも、アタシ達まだ食べてるんだけど」

 

 中身の入ったカップを掲げながら言えば、シェータは『そうですね』と簡易天幕に入っていく。さっぱりとしているその行動に二人は苦笑しつつも、ダークテリトリー軍側へと視線を向けた。

 

「動くとすれば?」

「一番可能性が高いのは、日が昇る前。意表を突く気なら……日付が変わるくらいかな。部隊の方も最低限見張りは立ててるだろうけど、大半が寝静まるのはその辺りだろうからね」

 

 それは当然向こうも理解しているだろうと思っているが、そうやって裏を考え始めると演算能力がいくらあっても足りない。故にこうして、近くまで来て監視しつつ、飛竜に乗れる整合騎士まで使って即応態勢を整えた。

 

「長い夜になりそうね」

「見張るだけなら楽だよ。イーディスも仮眠はとってね? アタシはどっかの誰かに睡眠術式(物理)食らった(気絶させられた)から、まだマシだろうし」

「……まったく。アリスの言った通りね」

「何て言ったかは聞かないよ?」

「いや、そこは聞いて反省する所でしょ?」

 

 暗闇の……僅かに瞬く星の光だけを頼りにした荒野に、ささやかなひと時が流れていく。離れた人界軍の囮部隊の野営地では三女神とその従者が話し込んでいたり、幼馴染が眠る前の一時を談笑に費やしていた。

 やがて彼らが眠りに付いた頃、遠く離れた人界の央都セントリアで、午前零時を告げる鐘の音が穏やかに響き渡った。

 それと同時にごくささやかな《時間的振動》とでもいうべき感覚が、アンダーワールドに居る全存在に訪れる。それは加速倍率が一倍にまで低下したことに起因するものであったが――

 

「……どういう事?」

 

 人界軍の中で、虹色に瞳を輝かせた彼女だけが、それに気づいていた。

 

 

 アンダーワールド人界歴、三八〇年十一の月八日、午前零時。

 現実世界の日本標準時、二〇二六年()()()()、午前零時。

 

 

 この瞬間、二つの世界の時間は、完全に同期した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い場所で、一つ拾い上げる。

 

 違うと、また一つ拾い上げる。

 

 砕けたそれを癒す欠片を。

 

 目覚める為に、探し続ける。

 

 

 

 

 

 

 一片の光も差し込まぬ、奈落の底で。

 

 

 

 

 

 

 見えぬ太陽(ほし)へと、天翔ける為に。

 

 

 

 




※約二名には決して聞かせられない話

らん「兄さんの為に【検閲削除】で添い寝などは」
しのん「(添い寝だけなら良いけど【検閲削除】は)ダメです」
ゆうき「姉ちゃんもう寝よう!? 疲れてるんだよ!」

りーふぁ「ランちゃんって確か、だいぶ成績良いって聞いたんだけど……」
あすな「良いって言うか……全国模試一桁?」
ゆな「オーリ君が絡むとポンコツになるとかそう言う……」
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