流星の軌跡   作:Fiery

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雨続きで気温的に過ごしやすいのは良いけど、気分は下がる。


大乱戦の最中で

 

 闇に包まれていた赤い空が、不吉な色に染まっていく。人界とは違う朝焼けの色はストレアにとって珍しい物ではあったが、彼女の意識は今一キロル先のダークテリトリー軍へと向けられている。

 結局一睡もしないまま、彼女は相手の動向を伺い続けていたが、今の今まで()()()()()()()()()()だけで他に動きを見せなかったダークテリトリー軍……正確には暗黒神ベクタに対して強い違和感を抱いていた。

 

(犠牲を顧みなかったのがここで野営。時間はあっちの味方じゃないのに加速倍率を等倍にしてまで、何を待ってる……?)

 

 朝焼けに空が染まり始めた頃から立ち上がり、自身の愛剣を荒野に突き立て、その《記憶解放術》を待機状態にしたまま、ストレアは思考する。

 

 何か自分は見逃していないか。

 何か忘れている事はないか。

 何か想定していない事はないか。

 

 そんな思考の最中に目を虹色に輝かせ、ダークテリトリー軍が動き出す事をその立ち昇った色で察知した。

 

「シェータ、イーディス」

「はい」

「ストレアの想定通り、か」

 

 三十分ほど前には起きていた二人の整合騎士が、ストレアの左右に並び立つ。三人が張りつめた表情で見ている中、隊列を整えたダークテリトリー軍が行軍を開始した。

 それを見たストレアのハンドサインで、イーディスは即座に自身の飛竜に乗って人界軍の野営地へと飛んでいく。彼女らが見張りに立っていたのは二つの軍のちょうど中間地帯であり、それぞれ軍まで一キロル。

 

「リリース・リコレクション」

 

 敵拳闘士団であれば、高速で詰める事が可能な距離だ。約五千の拳闘士団が砂埃を巻き上げて駆けてくるのを確認したストレアが、何の躊躇いも無く式句を結んだ。途端に突き立てた大剣が大地へと、まるで水面に沈み込むように沈んでいく。その剣を中心にして、大地に巨大な長方形の魔法陣が描かれる。

 それは拳闘士団の道を塞ぐように左右へと広がり、魔法陣の内側には無数の円形の陣が横並びに展開された。

 

 

――ウオォォォォォォォン

 

 

 魔法陣から、無数の遠吠えが響いてくる。聞く者によっては恐怖を感じるであろうモノと共に、魔法陣より現れるのは人の二倍から三倍はあろう体躯の狼たち。くすんだ銀の毛に覆われ、鋭い眼差しはまさに強者であり狩猟者としての格を備え、鋭い牙と爪は剣呑に剥き出しにされている。そして、そんな狼たちの更に倍はある巨大な狼が、ストレアの背後に現れた。

 

 かつてこのダークテリトリーの地に存在した狼たちと、その群れを束ねた《狼王》。剣の全てを解放し、それを顕現させるのが《群狼剣》の《記憶解放術》。ストレアはその瞳を虹色に輝かせ、右手を掲げた。

 

 

 だからこそ、空にあるその光景が目に映った。血の色に染まり始めた不吉な空に描かれる、いくつもの紅く輝く線。一つではない。数十でもない。数百、数千……数万の、それ。

 それを見ただけで何が起こるのか正確に理解できるのは、アンダーワールドの中ではストレアだけだろう。かつてALOのカーディナル・システム内に居た時にずっと見ていた光景なのだから。

 

「――…ふざけんな」

 

 確かに出来る。この世界が形作られた根幹のシステムは、今や世界中に広がった《ザ・シード》だ。理論上、《STL》を使ってしかダイブできないわけじゃない。アミュスフィアがあり、クライアントプログラムがあり、そして、現実とこの世界の時間速が等倍であれば。

 でもそこまでするかと、ストレアは歯を食いしばる。アンダーワールドに、そこに生きる命に、何故そこまでできるのだと。

 

 何も知らない外のプレイヤー達に、アンダーワールドに生きている命を殺させるのだと。

 

「ストレア?」

 

 彼女の様子と、行軍を止めたダークテリトリー軍と、その空の様子に気付いて、シェータが困惑と共に問いかける。

 

「そこまでするかベクタァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 応えた咆哮は、今までの彼女からは考えられないモノに溢れていた。この時初めてストレアは、魂の底から誰かに()()を抱くに至った。

 

 

 

 

 

 

 数万の赤い線が大地に突き立ち、それが人の形になるまでの間、人界軍もダークテリトリー軍も、誰も身動きが取れなかった。

 

「あれは……」

 

 赤い線の正体が数字やアルファベットの意味不明な文字列だと、《外》から来たキリト達だけが理解出来ていた。しかし、キリト達はそれが何を意味しているかまではわからない為に、警戒しつつも疑問を呟くしかない。

 ランやユウキの目に、何か不吉なものは見えない。まるで、いつもプレイしているVRMMOのプレイヤーを見ているように。

 ベルクーリとアリスの目には、その人の形になったそれらの鎧の意匠が暗黒騎士のものに似ていると映った。しかし、あれらは暗黒騎士ではありえない――…暗黒将軍率いる暗黒騎士は規律正しく、統制が取れている。あの騎士達のように、戦場の中で大きな身振りで隣の相手と話したりはしないし、勝手に武器を抜く事もない。

 

 そんな印象や違和感以上に、数が問題であった。

 

「三万……だと……!?」

 

 人界軍など遥かに超え、ダークテリトリー軍の現兵力も超える数。それだけの軍勢が突然戦場に現れた。整合騎士やキリト達でも戦慄するその状況に、一般の衛士達の動揺はそれ以上だ。

 その直後に、その三万もの大軍が何かを叫びながら、人界軍とダークテリトリー軍に向かって走り始めた。

 

「これって……」

 

 声に反応して、ユナが耳を澄ませた。聞こえてくるのは、この世界に来てからほとんど聞く事の無かった言葉。

 

Charge ahead(突っ込め)!』

Give’em hell(ぶっとばせ)!!』

 

「英語!?」

「英語って、それじゃあの軍勢は外のプレイヤー!?」

「発音からして、アメリカ人が主体の集団のようですけど」

 

 ユナの解説に、キリト達は『何故』と言う疑問で埋め尽くされる。アンダーワールドは衛星回線こそサーバーのあるオーシャン・タートルに備えられているが、アドレスは秘匿されているクローズドワールドである。

 

「……いや、そうか。《ザ・シード》か!?」

 

 ストレアと同じ答えにたどり着いたのはキリトだった。普通ならば考えもつかないような事を実行したのは、おそらくベクタの方の陣営だろう。加藤達にこの世界を不特定多数に公開するメリットは一切ない。

 やるとしたらベクタ側しかなく、その目的を考えるのだとしたら。

 

「やつら、ダークテリトリー軍の方にも!?」

「やっぱりか!」

 

 戦場に混沌を齎すという物しかない。三万ものプレイヤー達が無秩序に、人界軍とダークテリトリー軍へと襲い掛かってくる。人界軍にとっては元より敵の可能性が高かったため、戦闘態勢は整えていた。

 しかし、ダークテリトリー軍の動きは鈍かった。何せ敵の姿は暗黒騎士に似ているのだから、味方であると誤認……もしくは『ベクタが召喚した増援である』と誤解しても仕方ないのだ。そして、そんな彼らを守る様に、巨大な狼たちがその軍勢へと文字通り食らいついていた。

 

「あれが、ストレアの解放術」

「あいつが自分を候補に挙げるわけだ」

 

 何故ダークテリトリー軍を守っているかと言う疑問は、無かった。よく見れば、ダークテリトリー軍の暗黒騎士も、拳闘士も、亜人部隊でさえ狼たちと共闘しているのだ。少なくともプレイヤー軍団を倒すまでの間程度は共闘を結んだという事だと理解して。

 

「私が残るわ。皆はさっさと目的地へ向かいなさい」

「義姉さん!?」

 

 能力を考えれば、大軍を相手に立ち回れるのは自分しかいない。シノンの考えを義妹であるランは即座に理解して、声を上げた。それが最適に近い手だとしても、危険は大きい。そんな風に心配してくれる彼女に、シノンは義姉として優しく微笑みかけた。

 

「涼をお願い。ランとユウキに、私の分も託すから」

「お義姉ちゃん……」

 

 義姉の言葉の重さを、二人は正しく理解できる。自分の命と言っても過言ではないほどに大切な相手を、誰かに任せる。そこにあるのは家族として……いや、人としての最上級の信頼。シノン(朝田詩乃)が、ラン(紺野藍子)ユウキ(紺野木綿季)へと向けた、絶対の物。

 

「……兄さんは、必ず守ります」

「ボクらに任せて!」

「ん、任せた」

 

 二人を両腕で抱き寄せて数秒だけ抱擁を交わし、シノンはキリト達へと向き直った。人界軍を見つけたプレイヤー達が、もう五百メルもない所まで近づいている。

 

「そういう事だから、アリス絡みの話はキリト達に任せるわ」

「――…あぁ、任された」

 

 キリトやアスナ、リーファにユナ、そしてベルクーリ達が頷くのを見届けて、シノンは空へと躍り出た。対空攻撃の手段がないのか、飛んだシノンは無視して一万程のプレイヤー達が、千に満たない人界軍に食らいつこうとしている。

 

「馬鹿みたいに背負い込む義妹に手を貸さなきゃいけないから、時間はかけてあげないわよ」

 

 弦を引く。ランにその権能である《リソース集束》を付与させた弓は、何度か引いた時よりも素早く、強烈な光を放つ矢を生み出して、シノンは躊躇う事なく眼下のプレイヤー達へと最上級の暴力を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 ストレアは襲い掛かってくるプレイヤー達へ襲い掛からせた狼たちに、二つだけルールを設けていた。

 

『赤い鎧兵は即死させるな。腕を爪で斬り飛ばそうが、足を牙で食いちぎろうが、即死だけはさせるな。それ以外は襲うな。()()()()()()()

 

 そう命令を下して、千を超える狼たちの制御を放棄する。数百年ぶりに自分達の足で駆けまわるのに満足すれば戻ってくるだろうと、何の根拠もない信頼だけ抱いて自分にも《武装完全支配術》を施す。

 

「貴女も突っ込むつもりですか」

「止める?」

「いえ、ですが護衛なので私も突っ込む事になりますし、それに」

 

 横にいたシェータが視線を向けた先、誰が居るかは目を向けなくても今のストレアにはわかった。シェータの視線の先から駆けてくるのは二人で、一人はロクに防具も纏っていない拳闘士と、もう一人は対照的に全身鎧の暗黒騎士。暗黒騎士の方はストレアの知っている気配であり、拳闘士の方はどうやらシェータが知っている様子だ。

 

「知り合い?」

「拳闘士の方は……つい昨晩に」

「あぁ、昨日帰ってきた時に言ってた……」

 

 なら仕方ない、とストレアは支配術を解かず、その瞳を虹色に輝かせたまま、自分達へと駆けてくる二人のダークテリトリー軍の人間を待つ。幸いと言っていいかわからないが、記憶解放術で召喚した狼たちはストレア(飼い主)の言いつけを守っており、それによってプレイヤー軍……一万ほどが人界軍を追っていって残りの二万は、大半がそちらに意識を向けている。それに乗じてダークテリトリー軍がプレイヤー軍に対して攻勢を仕掛けており、何とか拮抗と言う形にはなっていた。そんな戦場を、腕を組んで眺めながら。

 

 その姿を間近で見て、駆けてきた暗黒騎士……リピア・ザンケールは、『本当にあの時の少女か?』と疑問を持たざるを得なかった。纏う赤紫の闘気と虹色の瞳だけでも全く違うと言えるが、その感じられる心意の力があの時と桁が違う。

 彼女が敬愛する暗黒将軍の見る目は確かだったと言う思いと共に、この眼前の少女に対して強い畏敬の念が込み上げてしまう。まるで、玉座の間で暗黒神を見た時のように。

 

「……そいつは、人界の親玉か? シェータ」

 

 もう一人駆けてきた拳闘士……イスカーンは、彼女の隣に立つシェータへと思わず問いかけてしまうほど、ストレアの放つ力を感じ取ってしまった。ベクタのような底の無い深淵のような寒々としたものではない、激しく燃え盛る炎のようでありながら、どこか温かさも感じる力。

 

 天上にて輝く恒星(ほむら)のような、荘厳な力。

 

 奇しくも、彼女の兄が愛した女性がこの地に降り立つために得た力と同じ系統の力であり、同じく神の如き力を宿した存在。

 

「今はまだ」

「シェータ。そう言うの良いから……で、何の用?」

「共闘の申し出に参りました」

「良いよー。了解」

 

 あっさりと了承の意を示したストレアに対して、二人は目を見開いた。疑わないのか、とその視線が雄弁に語っているが、当の本人は一切気にも留めない。

 

「ベクタ直轄の暗黒騎士ほどじゃないにしても、あいつらの装備は上等な部類の物。数に至ってはそっちとこっちをまとめたって届かない。なら共闘の申し出自体は驚く事じゃない。ただ、そう来たという事はベクタからあの軍勢の存在を知らされていない……で合ってる?」

「あぁ……それに最初は皇帝が呼んだ援軍かと思ったが」

「自分達が襲われたから、少なくとも味方で無いと判断した、か。()()()()()()()()()()()言った暗黒将軍は?」

 

 再び、二人は驚愕を示した。しかしストレアにとって、その答えに辿り着くのは難しい事ではない。一度会って話した際に、ビクスル・ウル・シャスターという人間の為人を多少は知っている。逆にシャスターもストレア・ヴァルゼライドと言う存在の一端を知っている為に、彼が居るのであれば何かの切欠で停戦などの申し出がある事はわかっていた。

 今回の第三軍の乱入は予想外であったが、ストレアが居る事を確認できたのであればシャスターが停戦とまでは行かなくても、一時的な共闘を申し出る可能性は決して低くない。『人界軍を殲滅せよ』と言う命令が下されていれば怪しかったが、その人界軍にベクタ達の目的であるアリスが居る事が伝わった時点でその心配はあまりしていなかった。

 

 ただ、ストレアが知るシャスターはこういう申し出は自ら赴くタイプだと考えていたが実際に来たのは副官であろう女騎士と、おそらくは彼が言っていた十候の一人である拳闘士。それが意味する所は色々と考えられるが、あまり良い意味は持たない。

 

「閣下は、飛竜で飛び立った皇帝陛下を追って行きました。その際に全軍の暫定指揮をイスカーン殿に預け、私をその副官とされたのです」

「他の十候は?」

「商工ギルドは戦えねぇし、オーク族は何か消沈しちまってる。他は死んでオレしかいなかった……って所だな」

「なるほどね……」

 

 嘘は言っていない、とストレアは判断する。彼女の眼が彼らから害意も敵意も捉えてはいないし、リピアはシャスターの影響によって、イスカーンは強さへの純粋さによって腹芸とはあまり縁がない。

 それに、シャスターから任せられたという事は今はイスカーンがダークテリトリー軍でトップであり、皇帝ベクタを撃破できればここに居ないシャスターか彼がそのままその地位に滑り込む。恩を売っておけば後に来るであろう休戦に関しても話がしやすく、ストレアにとっては願ったり叶ったりである。

 

「まぁ共闘の件は良いよ。一人と千匹でアレを相手にしなくていいから」

「私も居るから二人」

「……あの数に勝てると?」

「足止めだよ。アリスがベクタの手に落ちないようにって言うね」

「……そのアリスって言うのは、皇帝が言ってた《神の巫女》だろう? 手に入れて、皇帝は何をするつもりなんだ?」

「何をするつもりか……については説明が難しいけど、結果としてどうなるかははっきりしてるかな」

「結果として?」

「――…人界もダークテリトリーも関係なく、アンダーワールド全てが跡形もなく消滅する。当然、ベクタの手で連れ去られたアリス以外の存在も、だ」

 

 ストレアの口から告げられた言葉は、『そんな馬鹿な』と一笑出来ない現実感を伴って、二人の魂へと圧し掛かった。

 

 

 

 

 

 

 その人数が千を切った人界軍は、南へと全力の逃走に入っていた。向かって来た一万の半数はシノンによって撃滅されたが、それでも回り込ん出来た二千と横から来る三千を相手にしなければいけない、絶望の逃走戦と言って良い物だ。

 

「《システム・コール》! 《クリエイト・フィールド・オブジェクト》!」

「《システム・コール》! 《コンパイル・オブジェクト》!」

 

 アスナの剣に七色のオーロラのような光が宿り、横から来るプレイヤー達の進路を塞ぐように地面が隆起。灰色の大岩が頭を(もた)げ、瞬く間に三十メートルを超える岩山へと変貌する。

 地形に干渉し、操作する《創世神ステイシア》の管理者権限(権能)は強力無比ではあるが、代償として彼女のフラクトライトに多大な負荷をかける。その負荷は実験的に行った小規模のものでさえ、彼女を気絶する直前にまで追い込んだのだ。

 ディオの時のような小技であれば負荷は少ないが、ここまでの物であれば余人には想像を絶するであろう負荷が、アスナのフラクトライトに圧し掛かっていた。

 

 その横でリーファは、手に持った投擲用の武器を変換し、外からのプレイヤー達に向かって投げつける。投げつけた端から爆発を起こすそれは、《創世の騎士》の管理者権限(権能)によって性質を爆発物に変更された物だ。形状まで変えると変換に手間がかかるが、性質の変更であればそれよりはるかに短くて済むため、武器の形のまま投げれば爆発するようになっている。破片が飛んで大惨事……と言う事にはならない。要は武器の形をした爆弾でしかない。

 それでも効果としては充分だ。数人がまとめて吹き飛ぶ威力であるのは、加減が出来る状況でないという事と()()()()()()()()()()()()()()()である事が関係している。プレイヤー達は《フラクトライト》ではなく、リーファ達と同じくアバターを使用してこの世界に来ている為に、痛みを感じたとしても死ぬ事はない。

 ならば自分を、家族を、仲間を守る為に最大限を尽くすのは決して間違いではないと、リーファは自身の選択を肯定した。

 

「《システム・コール》《ジェネレート・クライオゼニック・エレメント》《フォーム・エレメント・アロー・シェイプ》《ディスチャージ》!!」

 

 兄を運ぶ馬車から、ランは杖の先に十の凍素を生成、矢へと変じて敵へと放ち続ける。凍素を選んだ理由はこれで凍らせた相手がプレイヤー軍の侵攻を遮る障害物として利用できるためだ。一体では効果はほとんどないが、それを十や二十に増やしていけば、ある程度は防げる壁になる。

 何より敵を馬車に近づけさせない事を重点に置き、ランは行動していた。自身は撃破ではなく妨害に徹する事が正答であると考えたからであり、攻撃については他に出来る者が居るからだ。

 

「姉ちゃんこれ減ってるかな!?」

「目に見えては減らないよ」

 

 隣で剣を振り、斬撃を飛ばすユウキの愚痴に律儀に返す。ユウキはその剣技でプレイヤー達を……特に、姉が作った即席の障害物で足を鈍らせた敵を斬っている。プレイヤー達を攻撃する事に対しての心理的重圧は、彼女達にもない。それでも、その視線の先で飛び散る血の赤さと、噎せ返るほどの鉄臭さはどうしようもなく命を奪っていると感じさせる。

 それでも二人が動きを止める事はない。自分達がこの世界で死ぬだけなら全然構う事はない。ただ現実で目覚めるだけなのだから。しかし、兄はどうなる。ここで兄にあの武器達が届いて、天命が全損してしまったら、二度と戻ってこないのではないのか。

 試す気は無いし試したくもないその結末を迎えるくらいなら、何が立ちふさがろうと止まる筈はない。だからこそ、二人はシノンから兄の事を任されたのだから。

 

 

 そして、部隊の先頭ではキリトとベルクーリ、イーディスにユージオ、ユナにアリスまで動員して、立ち塞がるプレイヤー軍を相手に突破の為の穴をこじ開けようとしていた。

 

「数が多すぎる!?」

「そんな事言っても敵は減らないぞユージオ!」

「ギターで殴る事になるとは思いませんでした!」

「女神様が楽器で敵を殴りつける光景を見る時が来るなんて、ね!」

「手が足りねぇから出る事は認めたが、前に出過ぎるなよアリス!」

「わかっています! ストレアへの言い訳はお願いしますね小父様!」

 

 一部会話が酷いが、六人はまさに鬼神の如く武器を振い、敵を排除はしているが数が多すぎる。ユージオとアリスの支配術を使えば少しは楽になるだろうが、二人の剣の天命は十全ではなく、支配術を使用するための式句を唱えるには余裕が無さ過ぎた。

 この六人だけで正面から来る二千を相手にしているに等しい状況は、誰もが未経験である。SAO生還者であってもここまで大量の敵に囲まれた経験は無く、整合騎士やユージオも当然そんな経験は無い。どれだけ進んでいるか、どれだけ倒したか、意識が、思考が鈍るのも当然であり。

 

「あれ、は」

 

 敵の先に今まで見えなかった《先》が見えた時、そこに意識と思考が固定されてしまうのは必然なのだろう。それに気づいたのはアリスであり、彼女はその目に入った穴をこじ開けるべく、十の熱素を生成してそれらを束ね、炎の槍を顕現させる。

 

「《ディスチャージ》!」

 

 デュソルバートの熾焔弓ほどではないが、灼熱の火線が真っ直ぐに穴へと吸い込まれて炸裂し、その場所に居た十人ほどが吹き飛ぶ。広がったそこから見えたのは、黒い大地と盛り上がった丘。あそこに行けば、溜まりに溜まった空間神聖力を使って、あの術式が行使できる。

 ストレアが使用した大規模術式のやり方は既に、アリスも承知している。ストレアがアリスの、中が空洞の球体を作り出す術式を知ったように。

 

(今度は、私が!)

「アリス!?」

 

 駆け出す彼女に最初に気付いたのはユージオだった。その叫びに反応して、ベルクーリがアリスの方を見るが、引き留める為に伸ばす腕は既に届かない距離。

 

 

 影が差す。

 

 何だ、とアリス以外の五人の視線が一瞬だけ上を向いた。そこに見えたのは、ダークテリトリーの黒い飛竜。次の瞬間には、彼らの全身を凍えるような冷気が包み込んだ。

 

「こ、れは……!?」

「まさか、この心意は……!」

 

 戦争が始まってからずっと感じていたものがそこに居て、ベルクーリは自身の選択を後悔した。自分が近くに居れば何とかなるという過信が招いた事態に、叫び出したい思いだった。

 

「アリスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 

 ユージオの慟哭の先には、飛竜の足に両肩を掴まれて連れ去られていく、愛しい人の姿があった。

 

 

 

 




すとれあ「うちの女性陣の覚悟が極まっている件について」

女性陣「アンタが言うな」

すとれあ「解せぬ」
きりと「いや、解せよ。一番極まってる奴」
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