原作主人公はキリトで、アンダーワールド編主人公はストレア?
せやな……(震え声
現実世界へと帰還したロッドがまず最初に行ったのは、現在時刻の確認であった。突入前に合わせた腕時計は、作戦開始から十五時間を経過した事を指し示しており、それにひとまず安堵の息を吐く。
今回の作戦は突入から二十四時間がリミットだ。クライアントと日本のJSDF上層部との間に密約があったらしく、この《オーシャン・タートル》を護衛している艦から制圧部隊が突入してくるのがその時間。故にそれまでに《アリス》を確保し、関連施設を破壊して脱出する……と言うのが作戦内容だった。
そんな事を考えて起き上がった彼が使用していたSTLは、隊長であるガブリエルから間に二人を挟んだ位置であり、間のSTLにはもう人影はない。寝台から降りてちらり、とまだダイブ中のガブリエルをちらりと見た後にロッドは第一STL室を出て、メインコントロール室へと足を踏み入れた。
『あん? お前も脱落かぁ。ロッド』
『言い訳のしようもねぇがうるせぇ』
何やら作業中のクリッターが茶化してくるが、それを冷たくあしらう。『おーこわ』とわざとらしく肩を震わせる彼の横に立ち、ロッドは画面を覗き込んだ。
『何してんだ?』
『あぁ、隊長に言われてUSプレイヤーを送り込んでる。ただ、第二陣の人数が集まらねぇ』
『集まらない? てか、あの現れた奴等は隊長の差し金かよ。あいつら俺にも襲い掛かってきやがったんですがねぇ』
『それはなんつーか悪い事をしたな……一応言い訳するが、新しいゲームのクローズドテストとしか言ってねぇからなぁ……』
『まぁそいつはいい。集まらないってのは何か妨害か?』
『ダイブさせるためのクライアントをばら撒いてたんだが、ある程度したら全部削除されるようになってな。今じゃあそのせいでSNSの反応もよろしくねぇ。『こいつぁダメだ』なんて意見も多い』
『ゲームとしちゃ、クソゲーも良い所だからな……数は勝ってるんだが、人界軍の奴らのシステムへの習熟度がヤバい。後、広範囲殲滅攻撃が連発されてる時点で数もほとんど意味ねぇし』
『マジかよ……今集まってる、目標の半分の一万でいいかと思ってたんだが、二万要るか?』
『集まんねぇならもうぶっこめよ。隊長はアリス、確保してんだろ?』
『まぁな』
クリッターがキーを叩き、マップの一部を拡大。人界と暗黒界を隔てる東の大門より南へ十キロメートルほど下った所に赤のドットの塊、それより少し南に同じ程度の規模の黒と少数の白が混じった塊がある。そして、赤と黒白を隔てるように東西五十キロほどに広がった峡谷が存在している。
それよりも南には、皇帝ベクタの表示がある。
『この赤いのが送り込んだUSプレイヤーで、こっちの黒がダークテリトリー軍。で白いのが人界軍なんだが……』
『黒と白は、戦ってるって感じじゃねぇな。一緒になって南に行ってるぞ』
『ダークテリトリーの奴らは隊長の命令に絶対服従のはずなんだが、そうなってんだよ。まぁそれでも、戦力比としてはプレイヤーの方が一万二千程度で、ダークテリトリーが一万。人界軍が五百くらいとまだ勝ってるんだが』
『追われると面倒だから、そいつらの座標に待機中のプレイヤーをぶち込みたいと』
それこそ好きにしろや、とロッドが言えばクリッターがキーボードを操作し、少しした後で強くキーを叩いた。集まりが悪くとも一万である。その数の暴力は決して無視できない代物だ。
『ロッド』
それを見届けた彼に声を掛けられる。振り向けばそこに居るのは副長のレオであり、その手にはリュックが一つ握られていた。
『なんすか? 副長』
『確か部隊で一番毒物に詳しいのは、お前だったな?』
『部隊で一番かは置いといて、詳しいとは思いますが……』
穏やかじゃないという視線を向ければ、副長は手に持ったリュックを差し出してきた。
『何すかこれ?』
『ここに乗りこんだ艦内で見つけた物だ』
開けて見ろ、と渡され、嫌な予感を感じながらもリュックを開く。その中には完全密閉型のガスマスクと小型酸素ボンベ。そして密閉された小さい袋に入っている何かの薬剤と、それに接続された電気式の発火装置。
ロッドの顔から笑みが消え、副長に視線でメインルームから出る事を提案する。
『どうしたーロッド』
『何でもねぇよ。ちょっと頼まれ事だ』
クリッターにそう返事をして、二人はメインルームを出た後に近くの誰もいない倉庫へと入った。
『どうだ』
『確証はないっすけど、おそらく揮発させるタイプの毒ガスですね。しかも量で言やぁこの《オーシャン・タートル》で使っても意味がない……俺らが乗ってきた
『誰が用意したと考える?』
『俺だと疑っているわけじゃあ、無さそうですね』
問いかけにレオは神妙な面持ちで頷いた。
『ロッド、私よりお前の方があちらでの隊長を見てきただろう。率直な感想を聞かせてくれ』
『言っていいんすね?』
それが答えだと言わんばかりの、回答にもなっていない疑問による聞き返しに、レオは大きく息を吐いた。
「ディオも言っていたが、やはり危険か」
他の隊員に聞かれても分からないように、日本語に切り替える。
「こうして物が出てきちまった以上、任務が成功すりゃ俺たち全員がお陀仏なのは確定でしょう。あの隊長の事だから、これが使えないとなれば普通に俺らを殺しにかかるかもしれねぇ」
「成功して死ぬよりは、失敗でも言い訳が利くように生き残るか」
「言っちゃあアレですが、隊長がこれを用意したってのも一切証拠がない。突き付けてもしらばっくれるでしょうから、問題は如何に隊長を抑えるかでしょ」
隊長であるガブリエル・ミラーが恐ろしいのは、短時間で一癖も二癖もある隊員からある程度の信を得ている事だ。言うなれば、ガブリエルに不信を抱いているレオとロッドが異端であるとも言える。
だから毒物が出たからと言って、これをガブリエルが持ち込んだ確証がない限り、他の隊員は納得しないだろう。ならばどうすると言っても、妙案は浮かんでこない。
「……いっその事、アンダーワールドで撃破されて死ぬとかあればいいんすけどね」
「それだと私達が死んでないのはおかしいからな……望みは薄そうだ」
◇
人界軍とダークテリトリー軍の混成部隊の中で最初にそれに気が付いたのは、馬を駆って先頭を行くアスナだった。
遠くに見える遺跡へと向かう為に真っ直ぐ南へ。その道中に、奇妙な震動音が聞こえたために何事かと上を見上げた。
「……まさか、そんな」
彼女の視界に映ったのは、三万ものプレイヤーが送り込まれた時と同じような光景。大地へと、無数の赤い線が……明滅する文字列が作り出す流星が降り注ぐ光景。敵の援軍が送り込まれてきたのだと理解して、手綱を握る手に力がこもる。
止まる事は出来ない。後ろから一万を超えるプレイヤー軍が迫っているという報告は、ランから齎されている。ここで立ち止まれば、自分達の倍はある数に挟み撃ちにあって全滅すらあり得るのだから。
アスナの視線に気づいたのか、次々と上を見上げ――…その意味を理解した者達が足を止めていく。
「シノンを呼んできて!」
「は、はいっ!」
この中で数に対抗できるのはシノンの
目指す遺跡の地形は、南へとまっすぐ延びる道を挟んで二棟の神殿が横たわっているという構造だ。高さは約二十メートル、幅は三百メートルほどだという神殿は、プレイヤー軍の包囲を防ぐ壁としては十二分だった。
そこまで行けばとりあえず、防衛の為の陣形さえ組めば何とかなる。アメリカ人プレイヤーを送り込んでいる側も無尽蔵にプレイヤーを送り込めるわけでは無いはずで、時間が経てば経つほどに違和感を感じた誰かが『何かおかしい』と警告を発する事だろう。それまでの我慢比べになると、アスナは理解していた。
流星が大地へと、次々に降りていく。
「アスナ!」
「行くしかありません。ここで時間を掛ければ……」
「追ってくる奴らと挟み撃ちね……」
イーディスの言葉に頷き、アスナは腰に佩いていた細剣を抜いた。プレイヤー達もアスナ達に気付いたようで、意気揚々と英語で雄叫びを上げながら突撃してくる。
「止まるな! 全軍進め!!」
「お前らぁっ! ビビんなよっ!!」
人界部隊を率いる事になったイーディスと、ダークテリトリー軍を指揮するイスカーンの号令に『おおぉっ!』と声が上がる。部隊中央から白い光の尾を引いて上空へと飛ぶシノンを確認した後、アスナを乗せた馬が疾走を開始する。
それを追うように飛び出したのはリーファが乗る馬と、ユウキを乗せた馬だ。三人は放たれた矢のように、最短で南に行くために最も兵力が集中している中央へと駆けていく。直後、プレイヤー達へとレーザー光線が降り注いだ。
人数が多い中央へ重点的に、しかし両翼へも降り注ぐ光条は容赦なくプレイヤー達を焼き払い、混乱へと導いていく。そして、その隙を見逃すはずもないアスナが、動揺が一際大きく最短で南へと抜けられる箇所を見つけ、馬を更に加速させる。
「一気に抜けます! 道はわたし達が!!」
「わかった!」
「了解だぁっ!!」
三人の後にイーディスとイスカーンが、それぞれの輜重部隊を守る様に密集陣形を取るアンダーワールド軍が続いていく。動揺しているプレイヤー達は、向かってくる彼らに対してロクな抵抗も出来ずさらに混乱を極めていく。
「アスナさん! リーファさん! ボク、
「え、ちょ、ユウキちゃん!?」
「あああああ! 何でオーリ君みたいな事言い出してるのぉぉぉぉっ!!?」
その中へ更に火種を投下するように、ユウキが飛び込んでいった。リーファが驚きで目を見開き、アスナは
元より混乱させるならとことんまで混乱させて、正気に戻るまでの時間を稼ぐのを誰がやるかと言う話だ。こちらの数が多い為に、全員が突破するには時間がかかる。だからこそ長く混乱してもらわなければならない。
そして、その混乱させる役目を請け負えばそれは決死の覚悟になる。
(それでも、貴女達を飛び込ませたくなんて無かった……!)
ただのゲームであれば、アスナだって戦術の一つとしてそれをやってと言えただろう。でもこの世界はもう、もう一つの現実……異世界とも言える世界で、斬られれば痛く、苦痛も続く。皆覚悟してここに来たとしても、そんな思いを出来れば味合わせたくはなくて。
「
頭上から怒声が降ってきた。アスナの身体を震わせるほどの声は、ランのものだ。彼女はアスナの心に生じた迷いを読み取って、だからこそ叫んだ。
「ラン、ちゃん」
「わたし達はもう、守られるだけの人間じゃない! 貴女にも! キリトさんにも! 義姉さんにも兄さんにだって!! 守られるだけの子供じゃない!!!」
叫びながら、ランはその十指に凍素を生成して不意を打たんと動き始めたプレイヤーへと解放していく。
自分達を気に掛けて、守るべきものを間違えるな。貴女が望んでいる結末はその道にない事など分かっているだろうと、ランは吼えていた。
「迷うな! 貴女の戸惑いで誰が死ぬのか……分かってるはずだ!!」
『お前は最善を選べ。後ろはキリトや俺や……皆がどうにかするから』
アスナの脳裏で、
もうこんなにも、ランとユウキは兄と慕うオーリに似たのかと思った。力や知識、技術ではない心の強さ。初めて会った時から一年以上経って、アスナは初めて気が付いた。だからもう、アスナはユウキやランの方を見なかった。
「リーファちゃん! 突破するよ!」
「はい!」
前だけを見据えて、疾走する。道を拓き、後に続く者を導くために。
◇
全てを凍てつかせる冷気を纏った氷が、通る軌跡を凍てつかせながら皇帝へと襲い掛かる。
「若く、瑞々しさを感じさせる甘さの中に微かな酸味やほろ苦さ……まだ青く、飲み頃とは言えないものの、後味の爽やかさは悪くない」
当たれば皇帝を凍てつかせるはずの氷は無残に砕け、その欠片が残らず吸い込まれていく。余韻に浸るように目を閉じている背後から、ありったけの心意と膂力を乗せて烈火のような赤い燐光を纏った一太刀がその首を狙った。
「お前のはオールドヴィンテージに近い……濃密で重く、喉を熱く焼くような後味か」
青紫色の燐光を纏った剣がそれを容易く受け止める。その事実に太刀を振るったシャスターは驚愕を禁じ得なかったが、新たに襲い掛かる現象には驚愕する暇が無かった。
ベクタの剣の燐光がシャスターの朧霞に生き物のようにまとわりつき、赤い燐光が萎びるように消えていく。
(なん、だ……この、寒気……? 俺は、一体……)
意識が遠のく、という生易しいものではなく真っ白になって……いや、真っ黒に塗りつぶされ、闇の中へと落ちてしまいそうな、そんな感覚。今この時、シャスターは
「何呆けてやがるシャスターッ!?」
ベルクーリの喝破が、シャスターの意識の中の闇を弾き飛ばす。そのまま反射で後ろへと飛び退くが、動きが止まっていた数秒で暗黒将軍は右腕の肘から先を斬り飛ばされていた。追撃を加えようとする皇帝へと、ベルクーリが一閃。それを最小限の動きで躱す所を更に、ユージオが連続剣を駆使して追い立てる。
「ベル、クーリ……気をつけろ。奴は剣越しにでも、こちらの心意を食うぞ……!」
「なんだと……!?」
ハッとしてユージオを見れば、皇帝と剣を合わせた瞬間にまるで意識が抜け落ちたかのようにユージオの動きが止まった。そんな相手に対して慌てず、ゆらりと皇帝は剣を振り上げて。
「《時穿剣・二倍速》!」
咄嗟に、肉体への負担が大きい時間加速を用いて、ベルクーリはユージオの身体を横から掻っ攫う。ついでに時穿剣で斬りかかったが、浅く鎧を掠めただけで皇帝の肉体に傷を負わせることは出来なかった。
「おい、ユージオ! 起きろ!」
「……ぇ、ベルクーリ、さん?」
光の無い瞳に、呆けたような顔。呼びかければ元に戻ったが、この皇帝の能力の危険度をベルクーリは否が応にも認識せざるを得ない。
「剣を撃ち合う事も許さねぇ、か……面倒な戦いになるな」
純粋な剣技では、ベルクーリは皇帝に負けているとは思わない。皇帝が振るう、最小限の動きによる、最大限に効率のいい剣……否、戦闘技術は厄介ではあるが、似た物をつい半年前に体験したばかりだ。彼が無手の状態で行っていたそれを、剣に置き換えれば済む話である。
しかしそれを行うにも、剣を撃ち合えないのは痛手である。ベルクーリは連続剣を使えずその手数を支配術で補っていたが、心意を用いている技は全て皇帝に吸い取られてしまう。
皇帝のその能力の根幹は『認識』だと、ベルクーリは当たりを付けた。問答無用で吸い取るのなら、そもそも空斬は皇帝の装飾品を斬る事も無かっただろう。ならば認識すら無意味な一撃を食らわせれば……
「ふむ……そういえば、試した事は無かったな」
思考していた意識に入り込んだ声と、皇帝の行動にベルクーリは怖気を覚える。右手に持った長剣の切っ先を無造作にベルクーリへ向かって突き出してくる動作。距離は離れており、踏み込んだとしても刃が届く事はない。
(まさ、か……)
抱えていたユージオを、突き飛ばすように自分から離して剣を構えた。空中で止まった剣の切っ先から、青黒い粘液のような光が一直線にベルクーリに伸びていき――…その胸に触れた。
ふっ、とベルクーリの意識が遠ざかる。歩み寄ってくる皇帝の姿も確認できているのに、彼は動かない。動こうという意思すら発生しないまま、呆然と振り上げられた剣を光の無い瞳で見つめている。
「ベルクーリさん!!!」
ユージオの叫びは、少し遅かった。目に光が戻り、退避しようと足に力を込めた瞬間に、ベルクーリの左腕は根元から斬り飛ばされる。
(なんてこった……剣を向けられるだけでもか!?)
ざ、と距離を取って時穿剣を握りながらも指二本を出して傷口へと当てる。自身に駆け寄ろうとしたユージオを意を込めた視線で制し、ベルクーリはシャスターを見る。
止血を終えた彼が立ち上がり、頷くのが見えた。その目に宿るのは覚悟であり、ベルクーリの目にも同じ物が宿っているだろう。
目の前の暗黒神ベクタは、その単騎の能力であっても
(ここで、こいつは殺さなきゃならねぇ)
(生かしておけば、それだけで世界への脅威になる)
例え刺し違えたとしてもこの神を殺さなければならないという覚悟を、二人は改めて強くした。怒りも殺意もあるが、それ以上にこの存在を生かしておけば大切な者達が危険に晒されるという防衛本能が二人に覚悟を決めさせた。
(後はユージオにどうやってアリスを連れて行かせるかだな……)
皇帝の能力が無ければ羽交い絞めにでもして止めればよかったが、能力が判明した以上それは自殺と何ら変わりない。最低でも皇帝を自発的に動けない状態にまで追い込むか、倒すしか道はない。
出来るか――…ベルクーリはそう自問する。自問して、解答を出す事を止めた。
「やるしかねぇんだ……」
武装完全支配術は通じない。ベルクーリの物も、ユージオの物も一度使って吸い取られている。三人の手札の中で皇帝を撃破し得る札は、たった一つしかないだろう。
皇帝の乗る飛竜を撃墜した時穿剣の記憶解放術《裏斬》ならば、通用する可能性は高い。ただ、命中させるには困難な課題を幾つも達成せねばならないが――
「シャスター!」
好敵手である暗黒将軍の名を叫ぶ。
「応ッ!」
「てめぇの命――…オレに賭けるか!?」
ベルクーリの鬼気迫る問いに、シャスターは間髪入れずに吼えた。
「それしかないのであれば――…くれてやるぞ俺の命ッッ!!」
人界の騎士長と暗黒界の将軍が手を組む光景に、皇帝はほんの少しだけ目を見開いた。
「ふむ……ならばこう命じてみるとしよう。『暗黒将軍、皇帝に危害を加える事及び、それに協力する事を禁ずる』」
立ち上がろうとしたシャスターの身体が、固まる。全身が凍り付いてしまったかのように動かず、しかし裡に滾る心意は消え去っていない。皇帝ベクタの能力ではなく、《人工フラクトライト》の性質――…上位命令に逆らえないという性質が、彼の全ての動きを阻害する。
確かに、皇帝は彼の上位者だ。それはビクスル・ウル・シャスターであっても覆しようが無い真実である。しかし……そう、
シャスターの右眼が赤く輝き、頭蓋の中に無数の針が刺し込まれたかのような鋭い痛みが襲い掛かる。右目が燃えているのかと錯覚するほどの熱さを感じ、そこを抑えて蹲ったシャスターを見て、皇帝は怪訝そうな表情を浮かべた。
それに対して、ベルクーリとユージオは彼に何が起こっているのかを正確に把握していた。ベルクーリが超えられなかった壁……ユージオが友の為、大切な人の為に超えた壁が今、暗黒将軍シャスターの前に立ちふさがっている。
こんな時に、と思わなくもなかったが、しかしこの瞬間が最初で最後の好機でもある。ビクスル・ウル・シャスターが真に皇帝へと刃を向けるには、必ず《右目の封印》の壁を乗り越えなければならないのだから。
「シャスターさん!!」
だから、ユージオが叫んだ。それを乗り越える為に必要な何かを、彼が自身の裡から見つけるのに、必要であろう言葉を。
「貴方の大事な物を……人を! 何を差し置いてでも守りたい唯一を思い浮かべて!!」
「俺、の……大切な……?」
その言葉に、自問する。
人界との和平……いや、それは目的だ。大切であるが、ただの終着点に過ぎない。
暗黒界の未来……確かにそれも大切だが、違う。俺は何のためにそれを求める?
『閣下』
脳裏に浮かんだのは、愛する女性の顔だった。ただ一人、必死になって口説き落として……この戦いの後でちゃんと結ばれようとした、女性の顔。
「何も難しくない――…僕達が剣を手に取って! 理不尽な何かに抗う理由は!!」
「……こんなにも、簡単で、尊い物なのだな……!!」
口から零れ出た言葉と共に、シャスターの足に力がこもった。動かなかったはずの身体がゆっくりと、しかし確実に立ち上がろうとしている。
シャスターの、赤く染まり過ぎた右目の視界に銀色の光が迸った。
光が迸った後、パシャッと音を立てて鮮血が舞う。右目が潰れ、血が噴き出した音ではあるが、シャスターがそれに頓着する事は無かった。
「皇帝陛下……いや、
シャスターが残った左手で愛刀・朧霞を持ち、切っ先を仕えていたはずの皇帝へと向ける。その行動は明確な敵対行為であり――…ベクタの支配下から、暗黒将軍が抜け出して見せたという証左。
何が起こったと、ガブリエルが微かに驚愕すると同時、暗黒将軍は天へと宣誓するように吼えた。
「人界と暗黒界……いや、この世界に生きる全ての者の未来……そして、その中で生きるであろう、俺の大事な者の為に! 今ここで貴様を討ち果たそう!!」
すとれあ「こういう覚醒イベントって、基本主人公の専売特許だよね?」
きりと「まぁ普通そうだな。でも今はメイン格がーって感じじゃないか?」
すとれあ「まぁそうなんだけどさぁ……我らがおり主(笑)はどうすんのかなって」
きりと「今爆睡し腐ってるのが覚醒イベントなんだろ(適当)。そう言うストレアは、振り返ると覚醒イベントだらけだったな」
すとれあ「覚醒なのかな……設定後悔(誤字に非ず)祭りとも言うかもしれないけど」
きりと「ぇぇぇ……」
ありす「ユージオ! 暗黒将軍のヒロインですかユージオ!?」
ゆーじお「まって。それは聞き捨てならない待ってアリス!?」