四輪駆動のエンプレス   作:-ODN-

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【挿絵表示】

白を基調にしたカラフルなレール、レール上を彩る曲がりくねった溝、そしてその中を駆け巡る小さなレーシングカー。

ミニ四駆をご存知だろうか?
手の平サイズの「レーシングカー」である。
売上げ総台数1億台以上、世界一売れている車模型でもある。

80年台に第1次ブーム、90年台に第2次ブーム。
そして、そのころ子供だった世代が大人になり、子供を持ち。
そんな世代を中心に現在、親子で楽しめるホビーということで第3次ミニ四駆ブームが巻き起こっている。

長い間、人を惹きつけてきた魅力はなんと言ってもチューニングの奥深さ。
モーターを変え、タイヤを変え、ギアを変える。
電池を育て、駆動効率を考え、補強と軽量化を両立させる。
自分の立てた戦術、勝ち筋にふさわしいマシンを自らの手で作り上げることができるのだ。
ミニ四駆は「子供のホビー」の枠を超え、「世界最小のモータースポーツ」と言われるほど、本格的なセッティングが可能となっている。
値段も手頃で、大人から子供まで楽しめる、そんな小さな車に多くのファンが魅了されているのだ。


第1章:兄を探してミニ四駆
第1話:封印は、解かれた


TVスクリーンに映し出されていたのはミニ四駆のコース。

ミニ四駆の日本一を決める春の大一番「ミニ四駆スプリングカップ」の特番が放送されていた。

 

「あの後ろ姿……間違いない、お兄さんだ!!お母さん、お兄さんを見つけたよ!!」

 

ベッドに伏せる母親に駆け寄り、興奮気味に話し出す。

ぴょこぴょこ揺れるポニーテールに幼さの残る顔立ち。

少し背は低いが、元気で活発そうな女の子。

田宮高校1年生 「皇(すめらぎ) みかど」。

母は娘の一報に驚きを隠せない。

 

「どこで見つけたんだい?」

「うん、さっきテレビでミニ四駆の大会が放送されてて、その会場にいたんだよ!後ろ姿だったんだけど……まーちがいなーい♪」

 

テレビに映る兄のTシャツには大きく「百式」と書かれていた。

みかどは、彼のすらりとした立ち姿を見て兄ではないかと思い、Tシャツの文字を確認することでそれは確信に至った。

兄は昔から変なTシャツをよく着ていたからだ。

みかどには「百式」が何かはわからなかったが、兄のTシャツを借りているうちになんとなく兄のセンスを理解できるようになっていた。

みかどの直感を信じるとすれば、あの『百式』Tシャツは間違いなく兄のセンスによるものなのである。

 

「黄色いTシャツにね、『百』って書いてあったんだよ!間違いなくお兄さんでしょ?」

「ゼータガンダムとはまた渋いわね…まさに『戦士は、生きている限り戦わなければならないのだ』ってところだねぇ……クワトロは嫌いじゃないよ……」

 

母は時にみかどが理解できないことを呟く。

 

「それにしても、まだあの子はミニ四駆なんておもちゃで遊んでいたのね……それでも生きていてくれて……よかった……」

「お母さん……」

 

病気がちな母はそっと涙を拭った。

かつて皇家は小さな町工場を営んでいたが、リーマンショックの煽りで経営が立ち行かなくなり倒産、さらに父親の死と立て続けに不幸が続いた。

また、みかどの兄「すばる」も父の葬儀後に置き手紙を残し失踪、行方不明になっていた。母は無理がたたって伏せりがちになり、皇家は困窮を極めていた。

だが昨年、みかどが中学の卒業を控えていたころ、預金通帳が手紙と共に届いた。

 

  「母さん、みかど。

   心配かけてすまない。

   当座をこの金で過ごしてくれ。

   僕は大丈夫だから。

             すばる」

 

通帳には5000万円の預金が残されていた。

 

「あんなお金だけもらっても……あの子がいないんじゃ……」

「お母さん……大丈夫!あたしがお兄さんを探し出すから!心配しないで!!」

「探すって……興信所に頼んでも見つからなかったのに、どうやって」

「お兄さんはミニ四駆の大会に出てたの。つまりミニ四駆をやっていれば会える可能性が高いと思うの!」

 

母は数々の苦労の末に病に倒れ、心身ともに疲れきっていた。

どうしてもネガティブになってしまうのは誰にも責められないことだ。

しかし娘のみかどは違った。

同じ苦しい環境にありながらも、「大丈夫、大丈夫」と前向きに苦境を乗り切ってきたのだ。

だから今回も、「ミニ四駆っていう手がかりが見つかったでしょ?だから大丈夫!」なのだ。

 

「でもあれは男の子のおもちゃ……」

「大丈夫♪たしかにミニ四駆のことはあまり知らないけど、あたし手先は器用だし、工場の道具やお兄さんが残していったミニ四駆もあるし」

「……お前は学校もあるんだし、無理せず楽しく暮らしていればいいのよ」

「うん、ありがとうお母さん」

 

(お兄さんに会えるかもしれないのに、「無理せず楽しく暮らして」なんてできない!)

 

みかどは大好きな兄の手がかりを見つけて興奮していた。

 

(きっと見つかる!見つけられる気がする!!)

 

母の部屋を出て、階段を駆け上がった。今や主人なき兄の部屋に向かう。

兄が失踪してから彼の私物には手を付けていなかったが、掃除は定期的に行なっている。部屋は兄が出て行った時のままとなっている。

みかどはごそごそと部屋の押入れから無骨なキャリーボックスを探し出す。

 

「あった……これだと思うんだけど……」

 

灰色の蓋が付いた2段重ねのキャリーボックス。

下段には工具らしきもの、そして上段には。

 

「これが、ミニ四駆……意外と大きい……?」

 

兄の愛車を引っ張り出す。

ミニカーを思い浮かべていたので、少し大きさに戸惑う。

白く輝くボディに赤いライン。

丸みを帯びたそのボディには「DASH」の文字が。

兄が失踪時に残していったものだから、5年以上前のマシンということになるが、古さは少しも感じなかった。

 

「意外とかわいい……なんかまるっこい♪」

 

マシンを眺め回して、みかどはにんまり笑う。

 

「たしか近所のリサイクルショップみたいなところで大きなコースがあったはず。明日行ってみて走らせてこよう。上手くできるようになれば……そのうちお兄さんに会えるはず……!」

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