「……………」
縁側へフラフラと歩いて来た弥生はそこに座り、空を眺めている
宴会の騒ぎの中、吹き抜ける風に心地良さを覚えた
トタトタトタトタ
「………?」
縁側の端から弥生の耳に慌ただしく歩く音が聞こえる
「料理が………歩いてる」
弥生の目の先には上手い具合に何段にも重ねられた料理の入ってる食器が歩いて来ていた
………いや、料理が歩いて来た用に見えたのは弥生が酔ってるからだろう。実際は見えなくなる位積み上げられた料理を運んでいるのだ
「………ああ、違った。誰かが運んでるんだな」
どうやら気付いたようだ
料理を運んでいるのは白髪で黒色の大きいリボンを着けた少女だった。近くに魂みたいなのが浮いている
「手伝った方がいいか……」
そう思い立ち上がる。そして上から料理を数段取った
「あ………。ありがとうございま………す」
「……大丈夫。俺が全部持つよ」
弥生は少女に持ってる料理を全部渡すように言った
「……………どした?」
「え?……………あ、はいっ!お願いします」
少女は弥生の顔をボーッと見ていたが、話しかけると我に返る
「…………ん」
料理を全部受け取る弥生。少しよろけたが直ぐに持ち直す
「大丈夫ですか?」
「大丈夫………。これは何処に?」
「あそこまでお願いします」
少女は端の方を指差す。そこには全体的に紫色の服を着て、頭に三角巾のようなものが付いた帽子を被っている少女がニコニコと弥生達の方を見て微笑みながら座っていた
その少女しかいないのに回りの料理が全て空になっている
「妖夢〜、弥生君も早く早く〜」
「少しお待ち下さい幽々子様!……お願いできますか?」
「……ん」
そして料理を運び、並べる。すると幽々子と呼ばれた少女が物凄い勢いで食べだした
これはもはや食べるではなく飲むと言えるだろう。その光景に弥生の酔いが少し冷める
「すげえ………」
「弥生さん」
弥生が感嘆していると横から声をかけられた。妖夢だ
「ありがとうございました。挨拶が遅れて申し訳ありません、私は魂魄 妖夢《こんぱく ようむ》と言います。そしてあちらが「ふぁいふぉうひふふふぉふぉ」………幽々子様、飲み込んでから喋ってください…………。あちらが西行寺 幽々子《さいぎょうじ ゆゆこ》様です」
「ごく…………よろしくね〜」
「よろしく」
軽く挨拶を交わす
「ねぇねぇ弥生君。私弥生君とお話ししてみたいと思ってたのよ〜、紫のお気に入りみたいだし」
「そうなのか?…………じゃあお話ししようか」
弥生はその場に腰を下ろした
「……………」
「……………」
「……………あのぉ、お話……しないんですか?」
目と目を合わせ黙ったままの二人に妖夢は堪らず声をかけた
「え?会話してるわよ?」
「……え?」
「そうだぞ、ちゃんと会話してる」
「え?え?」
妖夢は見るからに混乱し始めた。確かに会話は行われていない筈なのに当人達は会話をしていると言い張るのだ
「………………くっ、ははっ」
「ふふふ」
そんな妖夢の姿を見て笑い出す二人
「ちょ、なんで笑うんですか!?」
「くくっ………いや、妖夢はからかうと面白そうだ。現に面白い」
「どういうことですかそれ!?」
「そうでしょそうでしょ?妖夢の慌てる時の顔とか可愛いわよね〜」
「ああ、そうだな。可愛い」
「へ!?な、何を言ってるんですか!ていうか初対面なのになんでそんなに息が合ってるんですか!?」
「「それが世界の不思議なところ」」
「訳がわかりませんよ!」
顔を真っ赤にしながらも二人のボケにツッコむ
「ははは…………さて、そろそろ俺は縁側に戻ろうかな。酒にでも慣れるとするか」
弥生は一本の酒瓶とコップを持って立ち上がった
「あ………弥生さん。良かったら今度白玉楼に遊びに来てください。何時でも待ってますから」
「ん、わかった。魔理沙にでも案内してもらうよ」
「その時はお土産よろしくね〜」
「了解」
そしてまた縁側へと戻る弥生
幽々子と妖夢はその後ろ姿を眺めていた
「妖夢〜、見てたよ?料理持ってもらう時、ずっと弥生君の顔見てたわよね…………一目惚れ?」
「な、何を言ってるんですか幽々子様!?そんなのじゃありませんよ!」
「ねえ〜、どうなの妖夢?」
「し、知りません!幽々子様、明日からおやつ抜きにしますよ!!」
「ふふ、冗談よ。だからおやつ抜きはやめてね?」
「はぁ………もう……」
「酒の肴には、何が合うんだろう……」
幽々子と妖夢と別れ縁側に戻った後、弥生は酒をチビチビと飲みながら考えていた。どれくらい考えていたいたのかは本人でもわからない
「なに黄昏ながらくだらないこと考えてんのよ」
「………霊夢」
隣に霊夢が座る
「でもそうね。酒の肴ならあんたは裂きイカくらいが丁度いいんじゃない?」
「何故裂きイカ」
「なんとなくよ」
「………そっか。他の皆は?」
「もう全員酔い潰れて寝てるわ。帰った奴もいるけど」
弥生がチビチビと飲んでる間に宴会は終了を告げていたようだ。端の方を見ると幽々子と妖夢の姿は無く、既に帰ったのだとわかる
後ろには魔理沙達が寝ていた
「それじゃあ、片付けに入るのか?」
「この量を片付けるの、怠いのよねぇ……」
そう言って苦い顔で後ろを見る霊夢
「だから、今から二人で二次会といきましょう」
「二次会?」
「そ、二次会。あんた今回の主役なのに全然宴会に参加してなかったじゃない。だからよ」
「一応参加してるつもりだったんだけどな……」
「あれじゃ参加してるとは言えないわね。ほら、酒瓶貸して」
「……ん」
弥生から酒瓶を受け取る霊夢。受け取るとコップについで一口煽る
「あんたも飲みなさい」
霊夢は弥生のコップにもついだ
「ありがと」
弥生も一口煽る
そして空を見て、呟いた
「………なんか、不思議だな」
「何が?」
「いや、ここに居る俺が不思議だな、って」
「なんでよ」
「………俺さ、毎日つまらない日々を過ごしてたんだ。……いや、俺はつまらないと感じては無かった。他人から見てつまらない日々、ってことかな」
「…………」
「学校で部活にも入ってない、生徒会をしてるわけでもない、家に帰って何か特別な事をしてるわけでもない。ただ毎日を無駄に過ごしてるだけ、つまらないだろ?」
「……部活や生徒会ってのはよくわらないけど、確かにつまらなさそうね」
霊夢のその言葉に弥生は苦笑いを浮かべる
「そんな日々ってのはさ、色を失くすんだよ」
「色?」
「そう、色。人の色を失くしてしまう」
弥生は手に持つコップに視線を落とした。その中には透明な酒が入っている
「いくら楽しく過ごしているようでも、本当は心の底では満足してないんだ。楽しく過ごしていると勘違いしてるだけ…………」
「…………」
「人は逃げて、夢に縋る。ああなりたいと思う。…………でもその夢が大きければ大きい程、人の色を奪っていく。だってなれないと思ってしまうから。憧れの自分に」
コップの中の酒はユラユラと揺れる。弥生は何かに耐えるように震えていた
「…………俺は昔から、ずっと
霊夢は黙って弥生を見つめる
「でも、俺の住んでいる世界では無理なんだよ。……………だから自分から隠した。英雄に憧れていることを」
弥生は辛そうに語った
「なれないものになろうとする自分が嫌だったんだ。恥ずかしささえ覚えた。…………すると、だんだん俺の世界から色が消えていった。俺の親友と一緒に」
「親友と……一緒に?」
「………ああ、小さい頃からずっと一緒だった。でも、ある日事件が起きて………俺を庇ってそいつは死んだ」
「…………え?」
「あいつといる日々はすげえ楽しかったよ。その時はまだ俺の世界は色を保っていた。……でも、あいつが死んだと自覚すると同時に、俺の世界に色は失くなったんだ」
「今は………どうなの?」
心にある疑問を霊夢は聞いてみた。弥生は少し微笑んで答える
「今は、ちゃんと色があるよ。だって霊夢達に会えたんだから」
「…………?どういうことよ」
「魔理沙から聞いた。霊夢達は今までに色んな異変を解決してきた英雄なんだ、って。それに最初会って、ここの説明をしてくれた時に俺寝ちゃったよな?その時にお仕置きとして撃った………夢想封印だっけ、あれを見た。俺と同じ不思議な力がこの世界ではある、そう感じたからだ」
さっきの辛そうな顔から一変して真剣な顔になる
「力のある奴は悪い事を企む奴が中にはいるもんだ。だったらここでそいつらを倒せばいい、霊夢達と同じように。それで英雄に憧れていることを隠すのはやめた」
「色は戻ったのね?」
「ああ、だから不思議なんだ。俺はもう、色が戻ることは無いと思ってた。そのまま人生を終えてしまうと思ってた」
「…………」
「でも今は違う。確かに世界に色を宿した俺が、ここにいる。それが不思議で、嬉しくて………」
気付くと、頬には涙が流れていた。弥生はそれを拭おうとはしなかった
「………ありがとう。皆には、ホント感謝してる」
そう言って額に右手を置き、嗚咽を漏らす
弥生の世界に戻るはずの無かった色が宿った。それが弥生の中で溜まっていた何かを外へと押し出す
なりたい自分になれないという現実を受け止めるのはとても辛く、とても悲しいことだ。それを弥生は今までずっと我慢してきた
「ありがとう、霊夢。ホントに………」
何度も感謝の言葉を口にする弥生
霊夢は弥生の側に寄り、頭を撫でてやる
「………感謝してるなら、これからこの神社の為に働きなさいよね」
「…………ああ」
「………あと、お賽銭もちゃんと入れること」
「…………ああ」
「あと…………、楽しい日々を過ごしなさい、勘違いじゃなくて、あんたが心から満足できる日々を」
「…………ああ」
暫くすると弥生は泣き止む。そして弥生の態勢が崩れた
「………すぅ………」
どうやら眠ってしまったらしい。霊夢は弥生を横にして、頭を膝の上に乗せて撫で続ける
「……………魔理沙、聞いてたんでしょ?」
霊夢が眠ってるはずの魔理沙に声をかけた。すると魔理沙とアリスが起き上がる
「………バレてたか」
「一応私も起きてるんだけどね」
二人は霊夢と弥生の所まで寄ると腰を下ろす
「あら、アリスも起きてたのね」
「まあね…………それにしても、意外だったわ」
「何がよ?」
「霊夢が弥生に言った言葉がだぜ。お前はもっと淡泊に返すと思ったんだが」
「あんなこと聞いて淡泊に返すって、私はどれだけ薄情なのよ。喧嘩売ってるなら買うわよ?魔理沙」
青筋を立てながら懐から札を出す
「弥生が起きるからやめとくぜ」
魔理沙は苦笑いしながら答えた
「あらいいじゃない、私が代わりに膝枕しておくから二人は弾幕ごっこしてくれば?」
「何言ってんのよ。はぁ…………」
溜息を吐く霊夢。その後一悶着あったようだが、夜は次第に更けて行った
少しシリアスになったかな?
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