転生ボンボン珍道中   作:りんりつ

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2年物を発掘。
ハーメルンは初




転生したらボンボンになっていた。結構テンプレな、こう、お高く止まったお貴族様っぽい奴。父母がそんなんで、僕も態度はそういうタイプのお坊ちゃんだった。

 転生したという自覚は薄い。というか薄らとはいえ自覚したのがつい最近だ。元々の『僕』は気がついたら僕だった。何というか、ぬるっとした感じの転生。僕と『僕』は全く同じに混ざり合った部分もあるが、まだくっきりとお互いの色が残っている。

 なんとなく、自分は妙な頭のつくりをしているなとは思っていた。無意識ながら知らないはずの知識を知っていたり、存在しない音楽を口遊んだりしたこともかなりの数があったので、自覚に関しては納得の部分が大きい。それなら普通気付くだろって?いや、ちょっと待ってほしい。父の選んだ『学友』の世辞を当然のものとして受け入れ鼻を高くしながら、見え据えたその世辞の稚拙さを失笑する、ということが何の矛盾もなく同時にできていたから、僕的にはそっちの方に意識を取られて、ヤベー、もしや僕って二重人格?『精神疾患』とか言われて偏見受けそうだしボンボン的にやべーな、とか考えてたんだよ。……ボンボンはそんなこと考えねーよ?あー、、、短慮ですみません。

 

 まあつらつら精神分析しても仕方なし、短慮で鈍感、その癖態度がでけーので他人の意見とか聞けないクソ野郎の僕の覚醒の理由を話そうか。簡単に言えば、退屈していたときに災害に遭ったからだ。いや、字面酷いな、災害に退屈しのぎを見出だしたサイコバスみたいなセリフになった。言い訳を聞いて欲しい。

 僕には無意識ながらいい歳した大人になるまで育った記憶があったので、成績は十二分に優秀だった。とはいえそこまで学業に励んでいた訳でもなく精々が校内トップ、全国模試だと二桁代という所。上には上がいて、声高に誇示できるほどのものではない。

 坊々のスペックに運動神経はそこまで必要なかったので、個人競技は中の上くらい。精神年齢の高さゆえにチームプレイでは結構役に立ったから、総合的には動ける方だったんじゃなかろうか。まあ、各分野の才ある人には敵わない。

 顔も人並み、可もないが不可もない……だろう、うん。醜男ではないと思いたい。正直性格ブスの何処ぞのご令嬢型を美しい綺麗だ可愛らしいと褒めそやさねばならない立場だったから、美醜があまり解らないのだ。まあ顔面偏差値50度真ん中な平凡な顔立ちでもボンボンなのでそこそこモテる。世の中結局金だ、仲良くするようにとでも親に言われていたんだろう。

 親は結構あれなので、欲しいものはすぐ手に入った。そもそも僕は物欲があるタチではないのもあるが、『最新』と銘打って発売されるものには何故か既視感が浮かんで新鮮さを感じられなかったし。まあ今はその理由も分かったが。

 要するに、世の中が退屈だった。僕にはトップを目指す程の才能も、何かに入れ込む気力も、邁進する意思もない。可もなく不可もなく、のんびり恵まれた人生を歩んでいるだけのつまらない日常だ。僕自身も自分がどれだけ我儘なことを言っているかの自覚はあるが、思ってしまったのは事実である。

 

 そこで起きたのが…後に『第一次近界民侵攻』と言われる大災害。その日所用で『三門市』へ赴いていた僕は、確かに見たのだ。崩壊する建物、逃げ惑う人々、機械仕掛けの大きな異形……そしてそれらと戦う、『ボーダー』と名乗った集団の姿を。

 絶望的に無力の中で、人々はヒロイックに希望を見出す。なんとも見事な悲劇で、滑稽な喜劇だった。出来すぎた、あまりに素晴らしい英雄譚だった。

 生まれてから12年、退屈にさえ飽いていた僕の胸は、その『未知の物語』を前に震えたのだ。

 

 三門から帰還した僕はすぐさま父に、個人としてでもいいから支援をしたいと直談判した。そもそも三門の『悲劇』に懐柔的であった父は僕の主張に僅かながらも態度を変え、『突如現れたヒーロー達』について語れば悪い笑みで頷いた。

 父は典型的な『嫌な貴族』だが、経営者としての才覚は本物だ。いや、寧ろだからこそ、だろうか。パフォーマンスという概念を熟知している父だからこそ、『ボーダー』には金脈に通ずるところがあると考えたのだろう。

 

 直様『最大の支援者』として名乗りを上げた父により、僕の元にはいくつもの情報が届けられた。この世界への侵略者、『近界民』のこと、彼らへの唯一の攻撃打である『トリオン』を用いた武器、それの起動に必要な『トリオン器官』について。そしてこの大災害は正しく『侵略戦争』であり、僕たちの世界はは近界に対しあまりに無力だということ。『僕』の記憶でも聞いたことのない数々の事実に、僕は『僕』の存在に気がついたのだ。

 

 そして、『第一次近界民侵攻』から1年………僕がボーダーに入隊してからも一年が経っていたそうだ。え、なんて?

 


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