転生ボンボン珍道中   作:りんりつ

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ねむい


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 僕はボーダーに入隊していたらしい。しかも一応戦闘員として。いや、知らんがな。

 ボーダー本部の資料室で隊員名簿をなんとなくさらっていたら、一番後ろの方にこそっと『唯我尊』の名が入っていて僕も『僕』もビビリ散らした。具体的には叫んだ。たまたま資料室に来ていたらしい忍田本部長が日本刀型トリガー『孤月』を片手に「何があった!」と飛び出してきて更に絶叫した。お騒がせしてすみません。

 ボーダーに出入りするようになってから僕個人の口座に毎月一定のお金が入るようになったのはこれか!てっきり働いた気分を味合わせてやろうと父が小遣いをくれているのかと思っていたが、どうも違ったらしい。

 とりあえず納得しかけた所で、頭の片隅から『いや、おかしいだろ!』とツッコミが入る。僕、戦闘してねぇじゃねぇか、と。その通りだ。

 僕がせっせと本部に来てしていることと言えば、専ら父の代理としての事務方である。せいぜいが唐沢営業部長や鬼怒田開発室長と予算案を詰めたり、汎用型と呼べるほどの大量生産が可能になったトリガー類についてレポートを纏めたりと、書類との睨めっこをするだけの日常だ。『我々には後がない』とか説明されたから末期の戦争みたいな状況なのかと内心怯えていたのだが、びっくりするほど平和。最近は経営が安定したからか僕が招かれる小会議の頻度も大分落ち着いてきているし、加えて父からも色々『ご褒美』を頂けた。もしかしたら父は元々ボーダーに目をつけていたのかもしれないが、それでも精力的に各所に働きかけてくれてありがたい。本当に身内には寛大な人だ。流石テンプレ上流階級パパ。

 あとすることは……開発室でトリガー開発の実験に付き合って、銃型トリガーのシミュレーションのお手伝いをする位か。とはいえ実戦でもないし、十分お手伝いの範疇だろう。隊員の数=サンプル数が少なく、平均より少し多いトリオン量があったからと協力を申し出たのは僕の方だ。シミュレーションの内容も銃型トリガーをいくつか使ってみて、使い心地を話すだけの簡単なお仕事だし。

 一応普段からいくつかトリガーは持たせられているが、僕は防衛任務どころか換装もしたことがないパンピーである。緊急時に『隊員でしょ^_^』とか言われて外に放り出されたら余裕で死ぬ。緊急脱出があるとかそういうこっちゃないのだ。

 との旨で恥も外聞もなく忍田本部長に泣きついたのだが、

 

「なら普段から防衛任務に参加してみればいいんじゃないのか?」

 

 とキョトンとされてしまった。違う、そうじゃない。僕が求めるのは僕の戦闘能力の向上ではなく人事の移動だ。

 そもそも僕が隊員ではなくスポンサーの御曹司様としてここに居る(つもりでいた)理由は戦闘員をやるのが嫌だったからである。別に入隊するだけでも情報は得られたと思うが、ボンボンの僕も一般人の『僕』もトリオン兵とかいう機械の異形にちゃんと怯える普通の感性をお持ちのお子様だ。1つ年上の某M先輩みたいにすごい形相で『ネイバーぶっころ』とかできない。……でもちょっとは戦闘員カッコいいなと憧れる気持ちも……僕もボーダー隊員だぜって自慢してみたい……ぐっ、静まれ虚栄心!

 邪気眼を封じるが如く頭を押さえてぐぬぬと唸る僕に、何を思ったか本部長が口を開いた。

「あぁそうだ、まだ正式な決定ではないんだが……ボーダーも隊員が増えてきたし、固定部隊を作りその部隊ごとにランク付をするという案が出てきていてな。今は試しに仮部隊を組んでみているところなんだ。私の弟子も隊を組もうとしているらしいんだが、難航しているらしく…それで相談なんだが、君は確か銃手だったよな?」

 

 銃手(が使うトリガーの実験にお付き合いしているだけ)です。

 

「アイツは自分と同じ攻撃手と組めるタイプじゃないから、組むなら射手か銃手が望ましいんだが……如何せん中距離型トリガーを扱う隊員はアタッカーに比べると母数が少ないし、最近だと東が考案した狙撃手に転向した者も多いからな。実践が出来る隊員はもう大半が隊を組んでしまっていて、正直手詰まりらしい」

 

 いや、それなら絶対今訓練中の方々の方が強いですって!

 

「なに、アイツは強いから大体一人でもなんとかなる。ちょっとアレな所もあるが……うん、まあそう気負わなくていい。ただ、取り敢えず隊として箔をつける為には隊員がいなければ話にならんからな…」

 そんなにお強い方の隊に入るとかお荷物確定じゃないですかヤダー。

 

「名前を貸してくれれば…、あわよくば時間があるときに任務に参加して欲しいが、それだけでいいんだ。すまない、勧誘だとか、こういったことは不慣れでな。君が色々と忙しいのはわかっているんだが、頼めないか」

 ぐ、腰が低い男前の(さっき知ったばかりだが)上司の頼み……い、いやいや見誤るな、僕は非戦闘員として……いのちだいじに……

 

「どうか慶の隊に入ってくれないか」

 

「そっ、そこまで言うなら仕方がないですね!この唯我尊を見出すとは本部長もお目が高い!」

 ……チョロいとかいうな、ボンボンは案外褒められ慣れてないんだぞ!

 

 

 

 

 と、頷いたはいいものの。

「あーっと、2+4は7、7+44で……53?」

「51ですけど??っていうか一番初めに倒したモールモッドは5体だったのにどっから2出てきたんです???」

「えっ、そうだったか?じゃあ、えーと、こっちが4だから……」

「一桁+一桁に指を使うな!!アンタ本当に高校生ですか!?」

 

 出来た上司は致命的なおバカだった。いや、戦闘は滅茶苦茶強いのだ。建物に挟み込んでの殲滅とか、使用されなくなった電線を用いての奇襲だとか、そう言ったことにはびっくりする程頭が回るのだが……如何せん、本業と言うべき学業において、そして人間として正しく営むべき日常生活において、彼は頓珍漢も良いところの残念な青年だった。

 太刀川慶。それが僕に降って湧いた上司の名前だ。

 某日。

 年始に纏める予算案を纏め終わった後、何故か最近色々と奢ってくれる唐沢さんに甘えて自動販売機のココアを飲んでいると、突然誰かに小脇に抱えられて拐われた。あまりに唐突なことに僕は呆然と買ってもらった缶から中身が溢れないよう守ることしかできなかった。唐沢さんの口が「ドナドナ」と動いていたことを僕は決して忘れないだろう。いや、助けろよ。

 

「やや小柄とは言え中学生の僕を軽々小脇に抱える筋力、断りなく持ち上げ連れされるほどの地位、唐沢さんが僕を容易く見捨てる間柄……犯人はあなただ、忍田本部長!!!僕を連れ去っても身代金は10億ぐらいしか取れませんよ!!!父上〜助けて〜!!!」

「人聞きの悪いことを言わないでくれるか!?というか10億……じゅっ!?」

「あ、本部長さん、さっきの唐沢さんのあの冷静さ見てました?滅茶苦茶面白がってる顔してましたよ。あの人間違いなく誘拐とか見慣れてますよね。元悪の組織の幹部って噂絶対本当ですよ」

「それは私も同意する。なんかいつの間にかいた感じだし」

「ひえっ、実は記憶処理とかされてるんじゃ?ボーダーのじゃなく、こう、昔のお友達にお願いして、みたいな」

「ありそうで怖いな……」

「ところで僕の状況知ってますか?胃の上をベルトで閉められて、後ろ向きに高速で進みながら小刻みに上下するアトラクションに乗ってるんですけど………オエっ、」

「吐くなよ!?ちょ、待て、今生身だから!!!っと、トイレ!」

 

 暫くお待ち下さい。

 

 うぇっぷ、酷い目にあった。吐きこそしなかったものの迫り上がってきた胃液で喉の奥がヒリヒリしている。

 今度はきちんと自分の足で歩きながら本部長に従って本部を出た所で、僕は小型の機械を手渡された。これはなんですか?トリガー?はぁ、そうですか。

 行き先は?……ほうほう、警戒区域。

 何しに行くんですか?トリオン兵狩り?なるほど、まあ警戒区域でトリガー持ったらやることは一つですよねー………。

 

「いや、防衛任務じゃないですかそれ!!!!」

「そうだが?」

「そうだが???」

 何を言っているんだこの人。親には許可を取った?いや、僕聞いてないんですが。

 頭に目一杯クエスチョンマークを浮かべながら僕が首を傾げていると、本部長はなんて事のないように言った。

 

「あれ、この間話しただろう?弟子の隊に入って欲しいと。今日はその顔合わせをだな」

「戦場で?ちょっと何言ってるか分かんないです」

「防衛任務後でもないと捕まらなくてな……。定期考査の点が酷かったらしい。最近逃げ回られてるから、お灸を据えるついでに済ませてしまおうかと」

「命が惜しいので帰らせて頂きます」

「大丈夫だ。死んでもベッドの上で目が覚めるからな」

 

神は死んだ。僕も死ぬ。本部長は爽やかな顔して鬼畜だということを僕は心に刻み付け、渡されたトリガーチップをマジマジと眺めた。

 

「あの、これの構成は…」

「あぁ、メイン・サブ両方にアステロイドのハンドガンとアサルトライフルにシールド、メインに追加でメテオラのグレネードガンが入ってる」

「せめてショットガンが欲しかった………」

「すまんな、帰ったらエンジニアに頼んで調整してくれ。次からそのトリガーチップは好きにカスタムして使っていい」

「次???」

 

 偶に防衛任務に出てくれたらいいって言ったじゃないですか!本部長の嘘つき!トリガーオン!!!…あれ、この黒いC級制服かっこいいな。

 

 

 

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