転生ボンボン珍道中   作:りんりつ

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黒いコートを靡かせ照れもなく歩む本部長のメンタルに関心しながら進むこと数分。唐突に彼の持つレーダーがピコンと音を立て、次いで遠くから硬い物同士がぶつかり合う金属音が聞こえてきた。

 

「急ごう」

「へ?」

 

 戦闘の予感にブルリと身震いしたのも束の間、目の前の黒コートの姿がかき消える。いや、距離が引き離される。うん、これトリガーとかそういうのじゃなく、純粋な運動能力で置いて行かれたな。え、これ、どうすれば?あっというまにコートの裾さえ掴ませなくなった本部長に、僕は途方に暮れた。……まあ成人男性が最短距離を全力疾走した速さに僕が敵う訳もない。なんとなく金属音が聞こえる方向へ進むべく、入り組んだ住宅街の方へと持久力が持つ限りの駆け足で進む。

 …ふむ、『僕』が僕になってからはこういう住宅街に入ったことがなかったから、随分新鮮だ。人っ子一人いない警戒区域の中とはいえ、なんだか落ち着く。これがノスタルジーという奴か。実家は都市郊外にある700坪の敷地に立つ3階建の豪邸だけど。高級住宅街ですらないけど。

 そんなことを考えながらなんとなく暗い路地から外を覗いた瞬間、それが目に入った。こちらに背を向ける、二階建ての家くらいの機械仕掛けの化け物。確かバムスターとか言った、一番雑魚なやつ。

 あれ、これ、いけるんじゃないか?

 

「アサルトライフル」

 

 呼び声に従い、右手に『銃』と聞けば想像するイメージ通りの銃が生成される。少し距離が遠いが、接近すれば………って、

 

「こっち向いたっ!?ひえっ、あばばばばばば」

 

 接近とかなにそれ無理ゲー。とりあえず連射!!そして後退しつつ逃げる!!!

 家屋に当たらないようにだけ注意しながら、僕は障害物の無い道路を後ろ向きに走り出した。シミュレーションと見た目は同じ筈なのに、迫られる緊迫感は比では無い。何故だ。

 というか攻撃手用トリガーのシミュレーションは絶対にしなかった過去の自分を褒め称えたい。現実じゃあアレに斬りかかるどころか接近も出来ないお粗末な僕である。討伐なんて夢のまた夢……って、固いなコイツ!目玉か?目玉を狙えばいいのか?標準定める暇なんてありませんけど?それどころか距離を詰められているんだが。

 

「ぜぇ、ぜぇ、叫ぶの疲れた……」

 

 不意に横目にこの先がT字であることを示す交通誘導の看板が映る。利用できれば仕留められる、、、かもしれない。…まあ失敗しても緊急脱出するだけだし、うん……怖くない怖くない(自己暗示)。 アサルトライフルにセットだけ行ってからって、あれ、メイン使えな、えっもう角じゃん。やばい。どれくらいやばいっていうのかというとやばやばのやば。

 

「ああああアs、アステ、rrrロイ、ドぉおおお」

 

 9、8、7、とカウントをしながらインコースで転がり込むようにして角に入り込む。高さは丁度二階に見える物干し竿位だった筈だ。

「5、」

すぐ様その高さに標準を向け、思わず息を詰める。それから間をおかず現れた白いボディに向けて、引き金を引き、きき、あれ上手くいかな、あっ出た、連射ああああああ

 

 

 

 

 

「し、死ぬかと思った…」

 

 ゆっくりと倒れた巨体を慌てて回避しながら、僕は飲み込んでいた空気を一気に吐き出す。致命傷…と機械に形容するのも何だが、それに当たるラストアタックは見事モールモッドの目玉を撃ち抜いていた。よくよく見聞すれば逃亡中のヤケクソの連射にも少なからず効果はあったようで、モールモッドの体にはいくつもの穴が空いている。

 ガシャン……ガシャン………

 

「ふ、はははは、や、やってやったぞ!」

 なんとなく達成感を覚えながら、僕は今更ながらに興奮し出していた。いや、だって、ボンボンだって男の子である。銃や戦いにテンションが上がるのは当然だ。

 ガシャン…ガシャン…

 

「ま、まあこの僕だし?勝利は当然って言うか?」

 膝が笑っても気にしない。

 ガシャン、ガシャン、

 

 未だにバクバク鳴り続ける心臓を落ち着かせるべく虚勢を張りつつ、僕は当たりを見回した。特に変わった点はない。ただ、異音がするだけで。ん?……異音?

ガシャン、

 

「ッ、シールド!!!」

 

 ガコンっ、という硬質な音と同時に、視界の端に写ったのは薄い刃のような……ブレード。シールドに一気にヒビが入り、やば、割れっ………

 

「あああああああああ」

 

 考えるより先に迷いなく体が逃走を選び、僕は先程来た道を一気に逆走する。半ば発狂しながらも、理性は冷静にあのトリオン兵の特徴を挙げた。自動車程のサイズ、そこそこのトリオン能力を持つ僕のシールドが割れかける程の強度のブレード…間違いない、モールモッドだ。 

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……ああああ、何で僕がこんな目に……くそぅ、シールド解除、グレネードガン!!」

 

 とりあえずこのまま嬲り殺しにされたら絶対にトラウマが生まれること間違い無しである。せめて一矢報いてやろうと、取り敢えずシールドを解除しグレネードガンを生成する。取り敢えず持てるものを全部ばらまくイメージで、僕はメテオラを撒き散らした。

 

「や、やったか?これなら…って、アッ」

 

 あっ、家屋……やべぇ。多分中に深刻なダメージはないが、見た目だけでいうと2、3棟に渡って半壊している。ここの扱いどうなんだっけ…最悪父に泣きついてどうにかしてもらうか…。

 なんて呑気なことを考えていたのが悪かっただろうか。沈黙したかに思われたモールモッドが、生き残っていた2対の腕を動かしブレードを振りかぶる。案外射程範囲長いんだな、あはは………。

 うん、これは、死んだ。

 

 

 

「陽動、ご苦労」

 

 不意にそんな言葉が聞こえ、僕は目を見開いた。

 僕が半壊させた家屋をスライスチーズのように切り裂いた刃が、次いでモールモッドを十字に刻む。昏い瞳が一瞬格子のように爛々と輝き、貪欲に次の獲物を探す。直然まで死の気配に怯えていたことも忘れ、僕はただただその青年に魅入ることしか出来なかった。

 ……プロフィールのやる気のなさそうな表情ばかり目に焼き付けていたので、一瞬誰かはわからなかったが、なるほど。僕の(推定)隊長殿は、僕が心躍らせたヒーロー達と同じ種類の人間だったらしい。

 初回ガチャからSSRを引いてしまった己の豪運に慄くこと3秒。次いで凛々しかった隊長の表情が崩れるまで2秒。本部長の怒声が響くまで…1秒。

 

「慶!!!今日という今日は逃さんぞ!!!」

「げっ、忍田さん!?」

 

 驚きの速さで隊長殿が身を翻したと思ったら、白い光となって本部の方に消えていった。な…何言ってるかわk(以下略。

 ……冗談は置いておいて。動体視力は凡人以下でも、洞察力をEXまで鍛えた僕には事後の状況を見れば大体何が起きたか察することのできるという類まれなる才能がある。ここで抑えるべき判断材料は一点、即ち孤月を振りかぶった体勢の本部長だ。

 

「さて、逃げられる前に……緊急脱出」

 

 追加:非常に不穏なセリフ。 

 ドンっ!という音とともにその姿が白い光へ変わり、先に消えていった弟子を追うように本部の方に消えていく。……控え目にいってこわい。ボーダーは確かに一種の軍隊だが、その中で育まれる師弟関係とはこうも殺伐としたものなのか。殺伐っていうか実際にやっちゃってるし。

 

「……帰るか」

 

 今緊急脱出すると面倒に巻き込まれるって僕の危険察知スキルが言ってる。とはいえこのまま勝手に早退する度胸はない。幸いさっきの鬼ごっこ(ガチ)で本部まではそこそこ距離が離れたし、歩いて行けば30分くらいはかかるだろう。




主人公が強キャラになるビジョンは見えないです
もし三雲君がA級に上がったら最弱王を争います
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