転生ボンボン珍道中 作:りんりつ
やることが大変に多い……というのは語弊があるか。正確に言うと、やり始めれば案外あっさり終わるのだが、やり始めるまでが非常に辛い。
家を開けることが多い父母に代わり処理する家に舞い込む書類の整理や、当然学生の本分である勉学に始まり、母に続けさせられている手習いのピアノ、再来月のパーティまでに終わらせてなければいけないフランス語のレッスン、父からの課題である預けられた株式の売買、使用人の雇用の見直し等他にも様々な……あっそう言えば学校課題の範囲増えてた……やんなきゃ……後出しとかズルイでしょそんなん……学校関連のにボーダーの書類混じってるし……あーはいはい、隊員目録追加したよってあれね、うんうん、隊長の太刀川先輩に、僕に………あぁ、それとオペレーターさん?ほーん、たしかにオペレーターさんも隊員ですもんね、目録入るんだ、盲点盲点……。わ す れ て た…………(絶望)
「挨拶……行かなきゃ……」
戦闘じゃ完全にお荷物な僕なので、せめて礼儀くらいは尽くしとかないと色々アレだろう。手ぶらで行くのもなんだし、何か手土産を持っていくか。確か土産物の高級水羊羹があった筈……あれどこやったっけ、仕方ない、爺に探して貰おう。ついでに終わらせてた書類と……一応訓練にも出るか、知らなかったとはいえ一年はすっぽかしまくってた訳だし。
幸い下校してすぐで制服から部屋着に着替えていなかったので、このまま家を出て良いだろう。財布や携帯が入ったままの学生鞄に、既に終わらせた書類やトリガーを突っ込みドアを開ける。
「如何なさいましたか、尊様」
「爺、本部に行ってくる!夕食までには多分帰るが、迎えはいらない!」
「畏まりました、何かご入用で?」
「母上が買ってきた水羊羹、空いていないやつをありったけ持ってきてくれ!」
「承りました」
そう言うと一礼と共にスゥっと消える爺。登場の描写がない?何を言っているんだ、爺はいつでもそこにいるだろう。だって爺は概念である(錯乱)。
玄関口で再びぬっと現れた爺に羊羹の入った紙袋を持たされた僕は、数日ぶりに本部へと向かったのだった。
設備案内を受けてから一年、近寄ることさえしなかったオペレータールームは、いつの間にか女の園と化していた。大半が未成年であるものの僕からすれば皆一様に『おねえさん』だし、成熟した精神をお持ちの『僕』的にも非常に居た堪れない。
絶えず感じられる場違い感に苛まれながら、僕は目的の人物を探す……あれ……名簿表に書かれたデスクがそもそも無いんだが……
「え、えー、ここで僕にどうしろと?」
他人に聞くという選択肢は取れない。何故なら、まず持って言っておくが僕はコミュ障だからである。
嘘つけ、ペラッペラ話せんだろ、と思ったかもしれないが聞いてほしい。お貴族様系お坊ちゃんとして生まれ、お坊ちゃんとして育ち、お坊ちゃんとして暮らしてきた僕には発言が尊大になるというフィルターがかかっているのだ。『先輩』や『上司』など立場的に上な人ならともかく、道ゆく人に自発的に話しかけよう物なら『この僕が話しかけてやったぞありがたく思え』的な姿勢になること間違いなしである。
コミュニティ障害とは対人関係を必要とされる場面で、他人と十分なコミュニケーションをとることができなくなるという障害のこと(Wiki調べ)。つまりどうしても高飛車になり相手を不快にさせてしまう僕はコミュ障なのであ……
「君さっきからここいるよねー。どした?迷子?」
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
「おー、胡瓜を置かれた猫ってやつ?」
唐突に背後からかけられた声に思考が遮られ、僕は体感的に1m近い跳躍を果たした。変なの、とケラケラ笑う彼女に、僕は妙な方向に捻った足を摩りながらバクバクとなる心臓を抑える。ツェ◯リジャンプとはいかないが、なかなかいい線行ったんじゃなかろうか。少なくとも自己ベストは更新である。おめでとう……って、そうじゃなくて。
「あー、えっと、僕はその、人を探していてだな、」
「うん」
「それで座席表の位置を探したんだが、席が無くて、その……」
思わずポロポロ溢れた言葉に何やってんだ僕ー!?となりかけた束の間思わず顔を上げると、オペレーターの一人であろう少女は気にした様子もなく首を傾げる。なーんか見覚えがあるような……取り敢えず言えることは、多分この人いい人だ(確信)。
歳の頃合いは多分僕と同じくらいだろうショートカットの可愛らしい少女はそこまで聞くと、僕の尊大な態度を気にした様子もなくにんまり笑った。
「困ってたの?」
「こ、困っては、いない、です……唯我たるもの、ま、まさか迷子如きで、困る、など……」
「ふ〜ん。ちなみにここ最近配置換えしたから、その表だと見つからないと思うよ〜」
「な、なぬ!?」
マジか。ということは、一人一人デスクに座る顔を見て探せと?不審がられて摘み出されるのがオチでは?そんな屈辱を許容できるか?否、無理である。ついでに言えば絶対唐澤さんにも揶揄われる。あの人本当どこから『噂』聞きつけてるんだろう……。
「こ、ここは一時撤退を……これは敗北では……ぐぬぬ……」
最悪隊室として充てがわれた部屋で出待ちする手がある。挨拶は遅れるし逃げに徹した手だしで敗北感は半端ではないが、まあ仕方がないか。と、肩を落とすと。
「探してるの誰?知ってる人だったら連れてったげるよ」
「え、」
天使だったか?こんな関わり合い面倒そうな奴拾ってくれるとか女神様か?
「女神様……」
「君さっきから面白いね。それでー?」
「あ、えっと、」
告げた名前に彼女は目をパチクリさせると、うん、知ってるよ〜、とのんびりした口調で頷いた。
……あぁ、思い出した。多分女性向け雑誌か何かに載っていたモデルの人だ。名簿で見たときも珍しい兼業をする物だと思った記憶がある。名前は、確か……
「小佐野、瑠衣、サン?」
「あれ、知ってたんだ」
肯定の言葉に僕は軽く息を吐き、それから頭を抱えた。
先輩じゃねぇか!
主人公
基本的に無意識で人を見下す姿勢がある。が、それアカンなって自覚もしてるので何某かの理由をつけて自分の中で相手を『上』に上げるという作業を行なっている。大変難儀。(例:先輩・上司・年上・自分より強い・親切・挨拶してくれる・etc……)結構ガバガバ。