転生ボンボン珍道中 作:りんりつ
「人権団体……弁護士………」
動き回るトリオン兵のホログラムにハンドガンを向けて引き金を引くと、やや下降気味の直線が見事その目を射抜く。ふむ、まあ、結構いい線いってるだろう。
「ランク戦……形式……いや、穴なんか作んないよう考えたんだよな……となると、日程……?駄目だ、それは露骨すぎる……」
やっぱり防衛任務に出るようになってから、多少はトリガーの扱いに慣れてきた気がする。射程や精度という意味では訓練も結構生かせているし、まあそこそこ戦えるようになってきたのではないだろうか。
「やっぱり辞退……ぐー、しかし、それも………」
「なーにシケたツラしてんだ?」
「いえ、大したことじゃ………ヒェッ!?」
声をかけられたので、独り言が漏れていたかと反省しながら僕は隣で訓練していた彼に顔を向けた。が、目に入った紛うこと無き金髪ヤンキーにとりあえず反射的に財布が入っているポケットに手を突っ込み、それからトリオン体であることを思い出して絶望した。
「ゴメンナサイ今手持チナイデスユルシテ」
「ハァ?……って、ちげーわ!!!カツアゲじゃねぇよ!!!」
「えっ……
なんだ、諏訪先輩でしたか」
「『なんだ』ってなんだよオイ!!!」
唾を飛ばす勢いで叫んだ彼を尻目にほっと一息つくと、大ぶりな動作で頭を叩かれた。が、全然痛くない。優しい……。
とりあえず僕のシミュレーションルームの持ち時間一杯諏訪先輩に謝り倒した後、外の自販機前で財布を取り出すと、もう一回しばかれて逆にココアを買ってもらってしまった。
というか、唐沢さん(いつもの)然り、忍田さん(書類と一緒に時々持ってきてくれる)然り、城戸さん(一度会議にお呼ばれした後玄関前で行き合った)然り、なんか皆ココア奢ってくれる気がする。なんだろう、好物と思われているのだろうか。僕、どっちかって言うとブラックコーヒーの方が好きなのだが。
とはいえ買ってもらったものに文句を言うほど常識知らずでもないので、僕はプルタブを開けて一口ココアを飲んだ。嫌味なくらいに甘ったるい味だ。
「…まあ、嫌いじゃあないですけど」
「お前失礼だな!?」
「うげっ!?えっ、あっ、声出てましたか!?い、いや、別に砂糖に頼り切ったチープな味とか思ってませ、あべしっ!!!」
「さらに失礼だわ阿呆!ったく、これだから舌の肥えた奴は…」
ぶつくさ言いながらわしゃわしゃ頭を撫ぜられて、一応軽くワックスで整えた髪がぐしゃぐしゃになる。やめて下さいよ、と抗議するも聞き届けられる見込みはなさそうだ。
諏訪先輩は確か、今年で18才だったか。まあ当然力で叶うはずもないので大人しくされるがままになっていると、不意に諏訪さんの手が止まった。
「諏訪さん?」
「あー、唯我、お前、正式に戦闘員になったらしいじゃねえか」
「驚異的すぎる速度で情報が拡散されてるんですけども、それどこ情報ですか?」
「迅に聞いた。演習の前に出くわしてな」
「人間スピーカーかあの人は……!」
あの実力派エリートめ……!
「えっと、まあ、そうですね。正確にいえば、入隊はとっくの昔にしてたんですけど、発覚したのがこの間で」
「で、太刀川に捕まった訳か。お前、運悪いなァ」
「最近凄く実感してるところですよホント……でもまあ、5割は確実に謀略によるものですし……」
いや、6割、8割……下手すると完全にあの暗躍系な先輩の掌の上で踊っている可能性も無きにしもあらず。ボソボソ呟いていると、諏訪さんが妙に凪いだ声で言った。
「別に俺は、投げてもいいと思うぜ」
心の底から僕を案じた言葉だった。
「雷蔵……あー、寺島って分かるか?元アタッカーの」
「あぁ、はい。開発室に移った人ですよね」
しかも彼はランカーとしてトップを争うほどの孤月の名手だった。当然というべきか、突然のエンジニア転身には圧力を掛けるべきなんて話もあったらしい。まあ僕は人事に関してはノータッチなので、詳しいことは知らないが。
……あぁ、そういえば、そうか。彼も18才だったか。
「そう、そいつ。で、それなんだが……アイツさ、強かったんだよ」
「はい、そうだったみたいですね」
「でもまあ、アタッカー辞めたんだよな。新しいトリガー作りたいとかも言ってたが……」
それだけじゃねぇんじゃねぇかと思ってる。
諏訪先輩はそう言って、微糖のコーヒーを傾ける。なんというか、煙草が似合いそうな人だ。男子高校生だけど。
「俺は正直、あんまり強い方じゃねぇ」
「そんなことは……」
「いや、弱くはないことも分かってるぜ?でもまあ寺島もそうだし、風間とか、木崎とか……お前の隊長とかに比べちまうと、なあ?」
「……戦闘力という面においてなら、まあ、そうでしょうね。トリガー量だけじゃなく、彼らには才能がある。データで起こせるような、純然たる実力がありますから」
「……お前のそういう所好きだぜ」
「ありがとうございます」
まあ諏訪先輩は、気休めにもならない慰めを求める人じゃないと知っているので。
まあでも、諏訪先輩の真骨頂はそこじゃないと思うのだが……まあ、今はそういうことを話している訳じゃないことは分かるので、大人しく口を閉じる。
「あー、要するにだな。強くないからこそわかることもあると思ってる。で、その見解から言うと」
「はい」
「お前、向いてねぇよ」
「でしょうね」
「おう……って、はァ!?」
流石、とってもいい反応で。でも正直、とてつもなく悪い柄と正反対に面倒見がいいこの先輩が、こう言うことを言ってくれるのは分かっていた。
「だって僕、戦うのめちゃくちゃ怖いですもん。初めて防衛任務した時とか、ずっと叫んでましたし。これで自分が向いてるって思い込める程、僕は近界民を憎んでるわけでもないですし」
「……そうだな、そういやお前そういうこと普通に言う奴だったわ。チックショー、無駄に要らん気回しちまったじゃねぇか」
「僕も諏訪先輩がそう言うこと気にしてくれるだろうな〜っていうの分かってたので、なんとなく会話シミュレーションしたんですよ。多分、高ランクアタッカーでも止めるような戦闘員なんて才能ない僕じゃ適正ねえよ、やめとけよ…みたいな話ですよね?あとは、僕は事務方って言う才能活かせる場所があるんだから、戦闘職なんてつかなくても皆僕を認めてくれてる、とか?」
「うっわ俺が言おうとしてたことまんまじゃねぇか。え、クッソ恥ずかしいんだが」
「諏訪先輩は優しいので、思考の先読みがしやすいんですよね」
「お?なんだ喧嘩売ってんのか?言外に単細胞っつってるよなそれ」
いやいやまさか、そんなことは。喧嘩なんて取り扱ってさえいませんよ、やだなあ。
とはいえ、なんと説明するか。ああ、でも、そのまま話せばいいか。この先輩は、僕の意思を尊重してくれる人だ。
「戦闘員になったのは、趣味です」
「趣味?」
「僕がボーダーに入りたい〜って父上に駄々捏ねたのは、何を隠そうトリオン兵と戦ってる『ヒーロー』たちを見たくて、あわよくば支援したかったからなんですよ。ほら、休日の朝9時からやってる戦隊モノあるでしょう?あんな感じ」
「……そう考えりゃ、戦闘員は特等席だろうな」
「そうなんです!」
あ、でもこれ、内緒にしててください。本気の本気で戦ってる人からすれば、僕の動機なんて巫山戯たものでしかない。
そう付け加えれば、諏訪先輩は呆れたようにため息を吐いた後、缶コーヒーを煽って飲み干す。あぁ、やっぱり。許してくれた。
「まあ、無理はすんなよ」
「先輩こそ、あまり気負いすぎない方が良いと思いますよ。って、先輩に甘えてる僕が言えたことじゃないんですけど」
「分かっててやってんのがタチ悪ィんだよな、お前。そう言う所だぞ」
諏訪先輩がもう一度、僕の頭を撫で回す。乱暴ながら今度は優しさを感じさせる手つきに、僕も内心で『そういうところだ』と言い返した。
「てかお前、未だに俺見ると取り敢えず怯えんのなんなんだ?」
「金髪=ヤンキーの等式が僕の中だと成り立ってるんですよ。だから諏訪先輩は一度ヤンキーにカテゴライズされた後、諏訪先輩orそれ以外に割り振られるわけですね」
「てめーの頭はコンピューターか。待て、取り敢えず俺をヤンキー扱いすんな!顔見ろ!」
主人公
諏訪さん好き。常識人だし、面倒見いいし、『ヒーロー』なので
試験的にですが、コメントログインしてない人からも受け取れるようにしました。できるだけ全部に返信したいので、コメント数で対応できるかどうか見ようと思ってます。