デイブレイク被害者が仮面ライダーになる話   作:平々凡々侍

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今回は「登場人物てんこ盛り」回です。
それでは、どうぞ!




ある男の決戦先刻

 

「まぁ今日で君は退院なんだが…はぁー、デイブレイクの時にも思いはしたけどね? 君はホントにしぶといよねぇ……」

「……え、それもしかして褒めてるつもりなんですか?」

 

 診察室に呼ばれイスに腰掛け、ドクターの心底からの第一声に俺は思わず口を開いた。

 いやいや、医者が患者に「しぶとい」って普通にダメじゃ……あーでも、ちゃんと普通に仕事してくれてるからいいのか?

 うん…わからんからやめようかこの話(話題放棄)

 

「7割は褒めてるよ」

「…残りの3割は?」

「ん? 気持ち悪っ…って」

「気持ち悪っ…!?」

 

 医者と患者の間では信頼関係の構築が大事……なんて話をテレビが見た気がするが、そう考えるときっとドクターはいい医者なんだと思う。

 

 ……思ったことをまんま口にするのはマジで矯正した方がいいんじゃ? とは思うがまぁ今更か。

 

「自覚が足りないみたいだけど、君の回復速度…平均的な人に比べたら異常だから。具体的に言うと平均の三倍近いからね」

「三倍? ……えーっと、それってどうなんですか…?」

「あーまぁ言われてもピンと来ないか」

 

 ドクターは僅かに破顔し、手元のカルテを見て続ける。

 

「デイブレイクの時もそれなりの重傷だったのに一ヶ月とちょっとで退院。そして今回。今回はデイブレイクよりも酷い状態だった……医者として患者の常日頃にあまり口出しはしたくないんだがね…」

「…………」

「普段は家族から上手く隠していたのかな? 服の下の大量の生傷、裂傷、打撲。更に右腕の骨折。更に更に首の骨に入ったヒビ」

「…実際に聞いてみると、中々にエグいっすね」

 

 まぁ滅の必殺技を首に受けたわけだし当然っちゃ当然だが…というか逆に、変身状態だったとはいえ首にアレ受けてよく折れなかったな俺の骨……ぽつりと漏れた一言にドクターは頷く。

 

「はぁー…全くだよ。どれだけヤンチャしてたらこーなるのか……私も医者になってそれなりだけど、ここまでの怪我人の治療をしたのは初めてだったよ」

「…えっと、その、世話かけてすんません!」

 

 本当に毎度お世話になってます!

 本当にありがとうございます!

 あと純粋に申し訳ないなぁ……そう思いイスに座ったまま俺は頭を下げた。するとそれを見たドクターは、

 

「……ぷぷっ、やっぱり君は変わってるなぁ?」

「?」

 

 ーー暫しぽかんとした顔をした後にクスクス笑った。何が面白かったのか分からず俺は首を傾げる。

 

「君は患者で私は仮にも医者。感謝は不要だよ。

 別にボランティアでやってるんじゃない。仕事だからね」

「……ドクター。ありがとうございます」

「…君、結局感謝してるじゃないか……ふっ」

 

 やっぱあんたいい医者()だな。

 直接口には出すことなく、思わず再び感謝すればまたドクターは可笑しそうに笑った後。

 

「ーーさて、診察は以上だ。さぁさぁ帰った帰った」

「うす、失礼します」

 

 しっしっ、と手振りして俺に言う。

 イスから立ち上がり、俺は診察室の出入口に手を掛ける。

 

 その時、ドクターが独り言のように呟く。

 俺は診察室の出入口前で足を止めた。

 

「……ーー医者っていうのはさぁ。仕事の関係上、多くの患者()と接する機会がある…だから顔を見ればその人が何を思ってるか完璧には分からないけれど、何となくは分かるんだ」

「…………」

「君の今の顔を見るに……君は何かを覚悟したんだろう。それも生半可なものじゃない」

「ーー」

「君が何と戦ってるかは知らないが……怖くはないかい?」

 

 デイブレイクの被害に遭って入院する以前から、ドクターには色々お世話になっていた。高校での部活の大会で怪我した時とか……あー、一度だけ人生相談に付き合ってもらった時もあったっけ? 確かあの時は結局俺の悩みは解決されず「まぁ私から言えることは一つだね。焦らず慎重に。何度も何度も悩んでけ……以上!」ってドクターは言ったっけ? あの時はホント「相談相手のチョイスミスったか?」って思わずにはいられなかったなぁ…。

 

 

 ーードクターはよく知っている。

 俺が基本小心者だってことは勿論、俺が赤の他人を助けたいと思えるほどヒーロー気質じゃないことも。

 

 

 ーードクターは知らない。

 俺が「仮面ライダー」だと、馬鹿みたいに毎日毎日体を張ってなんやかんや今日まで戦ってきたことを。

 

「ーー怖いですよ。めっちゃくちゃ」

 

 ーーだがそれでいい。

 ドクターに振り向き俺は最後に告げ、診察室を後にした。

 怖いけど、やるしかない。

 

 

「そうか……なら、精一杯気張りなよ」

 

 背後から聞こえたそんな優しい声に俺は改めて思う。

 ドクター。本当にありがとうございました、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……行くか」

 

 病院を出た俺が暫く歩くと妹の美月が駆け寄ってきた。どうやら態々待っていたらしい。

 ほんといい子…(感動)

 

「バカ(にい)、退院おめでとっ」

「おーサンキュー。あー…退院日はちょっと用事があるから先に帰ってていいぞって…俺、美月に言ってなかったか?」

「うん、言ったよ。私が好きで待ってただけ!」

「……そっか……」

 

 元気良く退院を祝ってくる美月に俺は若干違和感を抱き、動揺しながらも聞く。それに美月はすぐに答えた。本当に家族思いのいい子に育って……これはさぞかし両親と兄の育て方が良かったに違いないなぁ(確信)

 

(ーーなぁんてな……)

 

 まぁ冗談だけども。

 前者(家族)の育て方が良かったのは事実だろうが、後者()が美月に何か教えた事があるか…何か兄らしいことをしてやれたことがあるかと問われれば即答できない。そんぐらい美月に何かしてあげた覚えは俺にはない……今思えば中々酷い兄だな俺?(自嘲)

 

 俺は、美月には何度も助けられてきた。

 俺にはない美月のその明るさに、純粋さに何度も……多分、美月自身には自覚ないだろうけどさ。

 

 ……ありがとな、美月。

 

「…じゃあ俺は用事があるからさっさと行くわ。美月も気を付けて帰れよ」

「……それ、退院初日の(にい)が言う〜?」

「あぁ、それもそうだな」

 

 

 病院を出た俺は昨夜天津さんからスマホに送られてきたメールを確認して、俺は美月にそう言い歩き出す。病院の敷地から出るまでは二人とも同じ道だから、自然と俺たちは二人並んで歩いた。

 

「………(にい)、あの…さ」

「ん、どした?」

 

 ふと隣を歩く美月の足が止まり、不思議に思い俺も足を止めれば美月は俯きながらどこか不安げに俺の手をぎゅっと握っていた。それは普段の美月からは考えられない行動で……

 

「ーーちゃんと、帰ってくるよね……?」

 

 俺の顔を見上げて少し声を震わせながら美月は言う。……本当に参ったね。マジでエスパーかよお前?

 

「……はっ、何だそれ? ったく、また何を言い出すかと思ったら。直感か? 次は一体何をどう誤解したんだよ」

「…………」

「ほんと……やめろやめろ! しおらしい顔すんな。お前がしおらしいとか普通に俺の調子が狂うから」

 

 落ち着きとかお淑やかさが足りないとは思ってるけど、別にしおらしさは求めてねぇから! 普段の元気な美月にはよ戻れ…いや戻ってください!

 

 慌てて俺が頼めば美月は小さくだが「うん」と返事をする。だけど、美月のテンションは変わらないし顔は俯いたままだ。なぁにが「うん」だお前! 「うん」って言っといて全然元気戻ってねぇじゃん!

 

(にい)……」

「…はぁー、妹よ。お前が何を心配してるかは知らんけど、それ杞憂だからな? 分かったらそのテンションやめてくれ」

「…………」

 

 二度目の頼みに……美月は暫く黙った後、

 

「……うん。うん…わかった。変なこと言ってごめんねバカ(にい)!」

「分かればよろしい」

 

 ーーいつもの笑顔を浮かべてくれた。

 美月……お前は本当に優しい、いい子だな。

 

 思わず俺はそんな美月の頭にポンと手を置き、撫でていた。それに美月は少し戸惑った反応を示す。

 

「……にい……?」

「美月も知ってんだろ? 俺は小心者だ。だから怖かったらすぐ逃げ出す。自分の命が一番大事だからな。誰かを助ける為に命を懸けたりなんてしたくねぇ。基本するつもりもねぇ」

 

 俺が言いたかったことは美月に半分も伝わってないかもしれない…急に語り出したし、意味不明だろうし。でも家族だからか……きっと伝わってくれてるような気がして俺は最後に告げた。

 

「『ちゃんと帰ってくるよね?』そりゃお前、別に死ぬわけじゃないんだから……帰ってくるに決まってんだろ?」

 

 当たり前の話だ。

 俺の帰ってこれる場所は一つしかねぇんだから。

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 天津さんから送られてきたメールの内容は【聞くまでもないでしょうが、君の決断は聞かせてもらいたい。本日、ZAIAエンタープライズジャパン本社 社長室にてお待ちしています】というものだった。

 

 そういや、天津さんにも結構な期間お世話になったなぁ〜……まさか最初はここまで続くとは思わなかったけどさ。社長室を三回ノックすれば中からすぐに「どうぞ」と返事があり俺は「失礼します」と言い社長室の扉を開ける。

 

「無事退院できたようで安心しましたよ、太陽君。体の方は大丈夫ですか?」

 

 天津さんは俺が入室してきてすぐに椅子から立ち上がる。

 えっ? 天津さん、今まで話す時とかでも椅子に座って偉そうにゲンドウポーズしてたよな……? 天津さんが椅子から立って話しかけてきた事にちょっとの衝撃を受けつつ俺は答えた。

 

「いや、大丈夫じゃなかったら退院してませんって」

「ふふ、えぇ…それもそうですね」

 

 俺の返答に天津さんはうっすらと笑い、再び椅子にゆっくりと腰掛ける。それを見て俺は天津さんのデスクまで歩いて行き、デスク前で足を止めてーー天津さんが切り出した。

 

「……太陽君、君の決断は……」

「……俺は……」

 

 一度だけ俺は俯いた。

 この決断により俺がこの後、至るであろう未来を思い浮かべて……不安はあった。恐怖はあった。……だけど…それでも、

 

「ーー俺は、あいつと……滅と戦います」

 

 入院一週間頃のあの日。

 天津さんから伝えられた「滅の動向」。

 それは簡単に言えば、滅が俺の行方を捜索しているというものだった。

 

(あいつに捜されてるって……それ、実質的な死刑宣告だよなぁ…)

 

 滅の圧倒的な強さを思い出して俺は憂鬱になりそうになる。滅に敗れたあの時。滅は俺を殺さなかった理由の一つとして『「アーク」は貴様に利用価値を見出した』と述べていたが…。どうやら「アーク」は考えを改めたらしい。

 

 滅が俺の行方を捜索している理由。

 ーー天津さんの推測はこうだ。

 実にシンプルな話、衛星アークが俺という「人類滅亡」の一番の邪魔者である存在の完全な排除を決めたから。

 

 どうやら俺の今までの行動により、滅の計画は予定より随分と「先送り」になっているらしい……やっぱりゼツメライズキーの回収数が減るのはあっちにとって随分な痛手だったようだ。滅曰く、アークは俺にあの時は利用価値を見出してたみたいだが……いや意思変わんのはやくねアークさん!? 頼むからもうちょい俺に利用価値見出してくれよぉ……。

 

 アークにとってはどうやら俺の存在は計画への「利用価値」より計画への「損害」の方が上回ってしまったようだ。

 

(人類滅亡って計画を先送りできた事は素直に喜びたいが、邪魔しまくった結果がこれ……マジで最っ悪だ)

 

 更に滅はここ最近…正しくは言えば俺が病院送りにされたあの日から今日までずっと、ヒューマギアのマギア化を一度も行っていないという。またまた天津さんの推測によれば、理由は二つ。一つはアークの命令により「ヒューマギアのマギア化」よりも「天本太陽(バルデル)の排除」を優先しているから。

 

 また、天津さんからの話だとここ最近……正しくは俺が病院送りにされたあの日からマギアの姿は一切見つかっていないらしい。本当にさぁ…どんだけ俺の排除に力入れちゃってんだよアーク……。

 

 ーー今は天津さんの協力のおかげで、滅に見つかってはいないが……時間の問題なのは明白だった。

 

「勝算はあるのですか?」

 

 はっきり言えば勝算などーー皆無に等しい。

 認めたくないが滅と俺……戦えば結果はきっとデータをラーニングし、短時間で急激に強化できる滅の勝利。その可能性が高い。

 

 動きを読み、あらゆる攻撃に冷静に対処する隙の無い滅の姿を思い出すが……あぁ、悔しいけど勝てるイメージが全く浮かばない。でも、

 

「でも…やるしかないでしょ」

 

 たとえ、俺がどれだけ逃げ隠れしてもいつかは必ず見つかる。それに俺がもし見つからなかったら…滅は必ずまたヒューマギアのマギア化を再開する。そんで俺がそれを阻止しようと現れれば……その時こそ間違いなく滅は俺を排除しようと向かってくるだろう。

 

(……俺も……随分馬鹿になっちまったな?)

 

 今までなら「なら逃げよう」と簡単に決断していただろうに…今となっちゃ「戦うしかない」って……「見捨てる」って選択を完全に失くしちまってる。

 

 まず間違いなく「仮面ライダー」になった影響だなコレ。……あーでも、不思議と後悔の感情はこれっぽっちも湧いてこない。

 

「これは私個人の意見ですが……君が滅に勝てる可能性は、極めて低いでしょう」

「……ま、そうでしょうね」

「…それが分かっていながら君は戦うと?」

 

 その天津さんの言葉に俺は確かに頷く。

 

「あっちから来られるより、こっちから行った方がまだ気が楽ですからね……まぁ本音を言うとかなり怖いですけど」

「……やはり君の考えは、まだまだ私には理解できませんね」

 

『理解できない』。

 初めて天津さんと病室で出会った時。

 デイブレイクに遭った俺に「ヒューマギアを憎んでいるか」という質問をしてきた天津さんは俺の「ヒューマギアを憎んでいない」発言を聞いた際にも同じ台詞を零してたっけ?

 

「それはお互い様でしょ。俺だって天津さんの考えとか目的とか、まだまだ理解できてませんよ……。企業秘密って言って、あんたいつも教えてくれませんから」

 

 まぁ理解できないって言うなら、それは俺もだ。

 俺も天津さん…あんたが何を考えてるかまだまだ理解できない。

 

「……いつか、必ず教えて貰いますからね。天津さんの企業秘密」

「……えぇ、いつの日か……君に必ず教えましょう」

 

 天津さんはそっと微笑んで、俺はちょっと驚いた。いつもは笑っても大体…何か企んでそうな怪しい意味深な笑みなのに。

 

 今、天津さんが浮かべた微笑みはそれはそれは驚く程に穏やかなものだった。いや、失礼だけど普段のイメージと違い過ぎて逆に怖いわ!

 

「天津さん…その笑い方、全っ然似合いませんね……!」

「……む、似合わないとは心外ですね太陽君。私のこの爽やかさ1000%の笑みの何が似合ってないと?」

「いやぁ…鏡見てどうぞとしか

 

 思わず本音を漏らせば、天津さんは僅かに眉をひそめる。もしかして天津さん……自分が「爽やか」とは真反対の雰囲気を醸し出してる自覚がない?

 

 

 その後、こんな風に他愛のない会話を暫く交わした俺は……

 

「んじゃ、俺はそろそろ行くとします。時間も時間ですし」

「そうですね。太陽君、君に会えてよかったですよ」

「何すか急に……死亡フラグ立てんのやめてくださいよ。マジで…俺は死ぬ気とかねぇですから、むしろ滅のやつをぶっ倒す気満々ですからね? ……まぁ、何だ、俺も天津さんに会えてよかったです。……本当にありがとうございました」

 

 死亡フラグやめろォ!と天津さんには言ったものの俺もぽろっと死亡フラグ染みた台詞吐いちゃってんなぁ。天津さんに感謝を告げて俺は頭を下げる。俺が「仮面ライダー」として戦えるのは元はショットライザーとプログライズキーを「お詫び」なんて言って渡してくれた天津さんのおかげだ。……まぁ文句を言うと、そのせいでマギア相手に何度もボロボロになったし、ピンチになってヒヤヒヤしたけどなぁ?

 

「ーーそれじゃ失礼します」

 

 頭を上げた俺は天津さんに背を向け歩き出す。

 そして、扉に手を掛けたーーその時、

 

「待ってください太陽君」

「? はい?」

「本来君にコレを渡すつもりはありませんでしたが……気が変わりました。もし君があのヒューマギアを…滅を倒すなら……」

 

 意味深な台詞を口にしながら椅子から立ち上がった天津さん。その手にはショットライザーとプログライズキーが入っていたものによく似たアタッシュケース。扉の前にいる俺に歩み寄り、

 

「ーー君がコレを使うことなく終わってくれれば、それは私の想定通り……。太陽君、私は私の想定通りにいかないイレギュラーが嫌いだ」

「ーー」

「ですが、君が私の想定を超えるその『イレギュラー』なら……」

 

 ーーその手に持っていたアタッシュケースを開け俺に差し出す。

 天津さんの意味深な言葉の数々……その意味は俺には分からない。ただやっぱ何か企んでんだなこの人とは思った。同時に天津さんは俺を随分と評価してくれている、そう何となくだが確信した。

 

それはそれで悪くないかもしれませんね

 

 もしかしたらただの俺の自信過剰かもしれないが。

 

(……悪くない、ね)

「天津さん。あんたの『返し』は分かりきってるけど…聞いても?」

「構いませんよ」

 

 俺はアタッシュケースの中に入ったそれを手に取り問うた。天津さんは普段通りの爽やかさ皆無、余裕綽々な笑みを浮かべる。……はっ、あんたにはやっぱりそっちのスマイルの方が1000%似合ってるよ。

 

「ーー何であんたがコレ(・・)を持ってんだ?」

 

【天津 垓】はいつもの台詞と微笑みでこう誤魔化した。

 

 

「…ふふっーー企業秘密ですよ、太陽君」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夕暮れ時。

 俺は目的地に向かうために人気のない川沿いの道を歩いていた。……はぁー、今日に限ってこんな平凡な景色が綺麗に感じるなんて…全く不思議なこともあるもんだなぁ?

 

「天本様、どちらへ?」

 

 少しだけ景色を眺めていた俺はまた歩き出そうとして、あいつの声が耳に聞こえて。気付けば俺の前…道の先にはワズの姿があった。

 

「…こんなところで会うなんて、奇遇だなワズ」

「奇遇ではありません。私は貴方を探していましたから」

「……理由は?」

 

 ワズを少しだけ前に歩み出ると簡潔に口にした。

 

「天本様、貴方は死ぬ気なのですか?」

「……ンな訳ねぇだろバーカ」

「嘘です。今、バイタルサインを確認しましたが貴方には焦りと不安…そして覚悟が感じられます」

「だったら気のせいだな。俺が『死ぬ気』になるとか天地がひっくり返ってもありえねぇよ」

 

「死ぬ気」はない。これは本当だ。

 死にそうだなぁ、負けそうだなぁとは思うが「死にたい」何て思ってない。「生きたい」…そう今でも思ってる。別に生きることを諦めたとか、そういう訳じゃ断じてないんだよ。

 

 俺は歩き出しワズの横を通り過ぎる直前に、ポケットから取り出したあるものをワズに手渡す。

 

「あーそれとこれ。お前から飛電さんに返しといてくれ」

「! これは……何故っ?」

「…まぁ最悪の事態を考えた結果、ってところだ」

 

 ワズに手渡したもの。

 それは飛電さんが俺に渡そうとし、ワズが俺に持ってきてくれたあのライジングホッパープログライズキーだ。

 

 最悪の事態……俺が滅に敗れた場合、まず間違いなく俺が所持しているプログライズキーは滅に奪われるだろう。プログライズキーってのは何度も言うようだがハイテクノロジーの塊、結晶みたいなもんだ。今の段階じゃ飛電インテリジェンスでもそう簡単に作成できる代物じゃない。だから……もしもの為に、

 

「そのプログライズキーは結構使ったからなぁ。戦闘データはそれなりに蓄積されてる筈だ。まぁ柄じゃないけど、俺から飛電さんへのお礼ってやつだ。その戦闘データ…上手く使ってくれよ?」

 

 飛電さん達の計画にプログライズキーはまず必須。天津さん、もといZAIAにショットライザーとアメイジングヘラクレスプログライズキーの戦闘データを提供していたから『戦闘データ』の貴重さは俺もそれなりに理解しているつもりだ。

 

「…ーー初めて貴方と会ったあの時、私は問いました。どうして戦うのか、と。……改めて聞かせてください。ーー貴方はどうして戦うのですか」

 

 何故戦うか。

 それを考えた時、俺は真っ先にあの日……シュゴというヒューマギアの事を思い出していた。

 

『それが私の使命だからです!』

 

「あー、もしかしたら『使命』ってやつなのかもな」

 

 俺は自分でもあまり悩む事なくそう口を開いた。

 

「使命、ですか…?」

「あーそうだ。自分の使命……そんなこと、今まで考えたこともなかったけど……」

 

 今マギアと戦えるのはただ一人、俺だ。

 ホント悲しいことにな…マジ恨むぜ神様?

 

「自分にしかできないこと…だからかな。だから、俺は戦う」

「………命を懸けてまで果たす『使命』。私には理解不能です」

「別に理解できなくてもいいんだよ。他人の『使命』何て誰にも理解できねぇだろうし、俺も理解できねぇ。……自分の『使命』なんてもんは多分、見つかったその時に何ないとわかんないもんだろ」

「……私に使命は、見つかるでしょうか?」

「さぁな。それはわからん。もしかしたら、もう既に気付かぬ内に見つけてるのかもしんないし…これから先見つかるのかもしれない」

 

『使命』…それについて考えるワズに俺は俺なりの意見を伝え、ワズの横を完全に通り過ぎる。

 

「………ーー天本様!」

「……何だ?」

 

 名前を呼ばれ、俺が振り返るとワズは唐突に話を切り出す。

 

「つい先日、旧世代型・プロトタイプである私を基に新世代型の方新たなヒューマギアが開発されました」

「おぉ………ん?」

 

 いや待てワズお前。急にどうしーー、

 

「ーー名前はイズと言い、社長秘書・女性型ヒューマギアです」

「いや、え……な、何で急にそんなこと話し出したのお前?」

「? 話したかったからですが?」

「……は」

 

 ワズの突然のわけわからん言動に俺が聞けば、ワズは当然かのようにそう返した。話したいから話す……何だそりゃ。俺は思わず笑ってしまった。

 

「ははは…! は、話したいから話しましたって……前々から思ってはいたけど…お前随分人間らしくなったなワズ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。普通のヒューマギアなら絶対しない。話したいから話す……合理的に動くヒューマギアとは到底思えない発言だわ」

 

 シンギュラリティに達したヒューマギアってのは……人間よりも人間らしくなるんだな? つうかワズを基にした女性型ヒューマギアって……探偵型ヒューマギアを基にした社長秘書型ヒューマギアってことか? ヒューマギアの事はそんな詳しくないし考えるのはやめとこう(賢明)

 

「お前を基にしたヒューマギアか……って事はお前の妹みたいなもんか」

「…………妹、ですか? 『妹』とは同じ親から生まれた年下の女性のこと。ヒューマギアの我々には当て嵌まらないのでは?」

「そうか? シンギュラリティに達したお前…耳のそれと、ヒューマギア特有の思考音さえ無けりゃ人間とほぼ変わりない気がするけどな?」

「人間と変わりない、ですか……」

 

 俺の言葉にワズは「ピーピー」と思考し始める。そんな俺思考させるような事言ったか今…? ……わからん。さっぱりわからん。

 

「……そうですね。もしそうならイズは私の妹に当たるのかもしれません」

 

 どうやらワズなりに何か納得したらしい。それにしてもワズの妹か……一度でいいから会ってみたい気がするな。

 

「今度、飛電インテリジェンスに行った時。もしよかったら会わせてくれよ? お前の妹がどんなやつなのか興味あるし…まぁ(うち)の妹には敵わんだろうがなぁ〜?」

「それはどうでしょう? イズの容姿は見事な完成度ですよ?」

 

 互いに妹を持つ者同士、その後口論が始まったが……互いに互いの妹と実際に会った時がないから決着はつかなかった。そして、

 

「またなワズ。まぁ何だ……頑張れよ?」

「はい、またお会いましょう天本様。ご武運を」

 

 俺たちをそれぞれの方向に歩き出し別れる。

 

(……さぁ、行くとするか)

 

 俺の目的地はただ一つ。

 もう二度と訪れる事はない…そう思っていた今では廃墟と化した都市ーー【デイブレイクタウン】。

 

 

 

序章の終わりはもうそこまで近付いている。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!

ーー突然ですが「デイブレイク被害者が仮面ライダーになる話」は次回にて序章完結を予定しております……!
皆様、ぜひ最後までこの物語にお付き合い頂けると幸いです!

今後のストーリーについて

  • 次章はよ!
  • ここで綺麗にお終い!
  • 作者のご自由に!

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