デイブレイク被害者が仮面ライダーになる話   作:平々凡々侍

14 / 49
今回はもうタイトルそのまま。
「デイブレイク被害者が仮面ライダーになる話」
序章最終回です!

※実際の玩具とは一部異なる変身音が出てきます。
ここで多くは語りません。
それでは、どうぞ!


ある男の終わりと始まり《ゼロワン》

 

 デイブレイク事件により廃墟と化した都市。

 通称、デイブレイクタウン。

 

「……アークの意思のままに」

 

 そこにある奇跡的に健在する大きな橋の上を滅は歩いていた。彼の今の目的は天本太陽(バルデル)の排除ただ一つ。アークは最初バルデルに利用価値を見出した……しかし、バルデルがこちらに及ぼした損害・計画の先送りを加味し、アークは改めてこう判断した。

 

【一刻も早く脅威(バルデル)を排除せよ】と。

 

「…………」

 

 アークの意思に忠実に従い動いていた滅は突然ピタリと足を止める。理由は橋の向こう側からこちらに歩いてくる人影が見えたからだ。

 

「まさか貴様の方から姿を現わすとはな」

 

 その人影を何か認識した滅は「何故?」と理解できず、本音をそのまま口にした。

 

「ーーバルデル」

 

 滅の目の前に立っていたのは紛れもなく天本太陽(バルデル)

 今、滅が排除すべき対象だった。

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 

 デイブレイクタウンに着き、橋の上を歩き出した俺は……目の前に滅の姿を見つけた。

 

「お前から来られるより、自分から行った方が何倍も気が楽だし。それに…お前からはどうせそう長くは逃げられないだろうからなぁ」

「…賢明な判断だ」

「……滅、お前は俺が倒す。だけどその前に一つーー」

 

 俺は前の滅を見て、戦う前に問いかけた。

 

「ーーお前はアークの意思に従って『人類滅亡』を目論んでるが……そこにお前の意思は含まれてんのか?」

「……何を馬鹿なことを…『人類滅亡』達成に俺の意思など不要でしかない。俺はただ、アークの意思に従うまで」

「和解の余地は?」

「ふっ、そんなものある筈がない。貴様らは人類。そして、我々の目的は貴様ら人類の滅亡なのだから」

「……そうかよ、だったら…」

 

 予想通り、滅ひいてはアークとの和解の余地はないらしい。そりゃそうか。和解できるんなら戦闘を避けられたかもだが……まぁ元から倒すつもりだったんだから無問題だ。

 

(滅、お前は……やっぱりアークの操り人形なのか?)

「最初に会った時に言った通りだ……お前の人類滅亡っていうSFチックな使命は俺が一生叶わせねぇ」

 

 戦わずに済むならそれが最善だったが……あぁ、やってやるさ。

 

「いいや、叶う。貴様を排除し我々は人類を滅亡させる」

「そんなこと絶対させるかよ……!」

フォースライザー!

ショットライザー!

 

 結局はこうなっちまうか…。

 ほぼ同時に懐からベルトを取り出した俺と滅はそれを腰に装着する。続いて互いに手にプログライズキーを持ちボタンを押す。

 

ストロング!

ポイズン!

【オーソライズ!】

「ーー変身」

 

 俺はショットライザーにプログライズキーを装填し展開。滅は「変身」と冷たく言いプログライズキーをフォースライザーに装填しレバーを引いた。それにより強制的にプログライズキーが展開され、滅は変身する。

 

フォースライズ!

スティングスコーピオン!

Break Down.

 

 ーー変身した滅。

 その紫色のスーツに無理矢理縫い付けたような無骨なアーマーが付いた姿は……正直言って一度ボコボコにされたこともあって若干トラウマだが…しゃあねーわな。

 

【Kamen Rider. Kamen Rider.】

「ーー仮面ライダー、だもんなぁ……はぁー」

 

 俺は息を吸って吐く。

 緊張も不安も恐怖も吐き捨てる。

 自分に言い聞かせるように呟く。

 高く真っ直ぐ銃口を上げ、ゆっくりと下ろし相手()に向ける。

 

「ーー変身ッ…!」

ショットライズ!

 

 

ーー俺は仮面ライダーだーー

 

 躊躇うことなくトリガーを引く。

 滅はすっと僅かな移動のみでショットライザーから発射された弾丸を躱す。そして俺は、

 

「おらあッ!」

アメイジングヘラクレス!

【With mighty horn like pincers that flip the opponent helpless.】

 

 

 いつもの如く右のアッパーを真っ直ぐ返ってきた弾丸に力強く打ち込んだ。瞬間、アーマーが次々に俺の体に装着されていきーー変身が完了した。

 

 ショットライザーを持ち、俺が構えれば滅もまたゆっくりと戦闘態勢をとる。

 

「滅……ーーこれが最後の勝負だ」

「その通りーー今日が貴様の命日だ」

「スゥーー……はあああああ!!」

 

 先手を打ったのは俺だった。

 ショットライザーを連射しながら滅へと駆ける。滅はその弾丸を全て難なく片腕で弾き、

 

「おらァ!」

「遅い」

「っ、らあッ!」

 

 ーーショットライザーをバックルに戻し俺は跳躍して全力のパンチを放つが滅は最低限の動きのみでそれを回避し、カウンターに俺の足に蹴りを素早く入れようとする。軽いジャンプでギリギリその蹴りを躱した俺はもう一度拳を振るう。

 

「以前にも言った筈だ。貴様の戦闘能力、戦闘スタイルは既にラーニング済みだと」

「……滅、一つ良いこと教えてやるよ」

「…?」

 

 攻撃を容易く回避し、弾き、受け流す滅の言葉。あー前にも聞いたよその台詞は。だけどなぁ……!

 

「人は日々、成長すんだよォ!」

「ふっーー」

 

 そう言って俺が放った右フック。

 滅をその攻撃を防ぐべく素早く手を動かし、

 

「ーーッ! 何だと?」

「どうした? ラーニング済みだったんじゃねーのか、よっ!」

 

 ーー滅は防御に失敗する。

 その要因は滅が予測していなかった実に単純な行動を俺がとったからに他ならない。ーー簡単に言えばフェイントだ。

 

「お前が今までの俺の戦闘能力に戦闘スタイルをラーニングしたってんなら、今までとは違う戦闘スタイルに変えればいいだけだ!」

「くっ…」

 

 良くも悪くも今までの天本太陽(バルデル)の戦闘スタイルは荒く力任せな部分があった。だからこそ、そんな彼の戦闘データをラーニングした滅は今の今まで天本太陽(バルデル)の戦闘スタイルに関して固定的な判断を下していたのだ。しかし、

 

「おらっ! こっちだァ!」

「っ! ……確かに貴様が戦闘スタイルを大きく変えてくるのは予想外だった。だが、その程度の付け焼き刃のフェイントは二度は通じん」

「ぐはっ……!」

 

 ーーそれに対応できない滅ではない。

 敵が戦闘スタイルを変えたならば、その変化した戦闘スタイルにさえ僅かな攻防の中で完璧に対応する。

 

 滅は俺のフェイントを見切ると次は完全に俺の攻撃を捉え、素早く拳俺の腹部に打ち込んだ。その威力に俺は後ろに吹き飛ばされた。

 

「はぁ……まだまだぁ!」

「貴様は学習能力が欠如しているのか?」

「うっせぇ!」

 

 軽く息を吐き、ダメージを堪えながら立ち上がり滅に走る。それを見て心底からの言葉は呟く滅へ俺は前蹴りを仕掛けーー避けられる。

 

 ーー俺の今までの戦闘能力も戦闘スタイルもラーニング済み、今までしなかったフェイントなんかを入れても数秒で対応される。……だったら……

 

「付け焼き刃だろうがやるしかねぇだろうがッ!」

 

 付け焼き刃でも、何度でもフェイント以外の別の…俺が今までとらなかった戦闘スタイルをとってやらぁ! 俺は滅に接近して左でアッパーを放ち、それが回避・防御されることを見越して右手でバックルに取り付けたショットライザーを引き抜き超至近距離で発射した。

 

 ここまで至近距離でショットライザーを引き抜いたことも無ければ、撃ったこともない俺のその行動に回避できず滅は僅かに後退する。

 

「どらあッ!」

「っ、あまり調子に乗るな」

「ハッ、悪いなぁ! 俺は調子に乗れる時にはとことん調子に乗る主義なんだよッ!」

 

 次に俺は更に今までとらなかった行動をとる。滅の拳をわざと地面に倒れる事で避け倒れた状態のままショットライザーを滅の体に撃ち込み、怯んだその体に立ち上がる勢いで蹴り上げも入れた。

 

「ぐっ」

「っ!」

(今しかないだろこれッ…!)

 

 滅は「予想外」の攻撃の連続に一瞬だが怯み初めて態勢を崩す。その隙は俺にとって絶対に見逃せない絶好の機だった。

 

「ここで、終わらせてやるッ!」

ストロング!

 

 付け焼き刃は最終的には尽きる。

 そうなれば俺の全ての攻撃は予測され完全に詰んでしまう。時間の経過は滅にとっては有利になるが俺にとっては不利にしかならない。

 

 手に持ったショットライザーに装填されたプログライズキーのボタンを押した俺はーー

 

アメイジング ブラスト フィーバー!

「はあああーー…はぁッ!」

「っ!」

 

 ーートリガーを引いた直後に溜めを入れて高く跳躍する。タイミングよく右足に黄緑色のエネルギーが収束し、俺は空中で蹴りの構えをとった。

 

「ーーおらあああッ!!」

「ーー人類は滅びる運命(さだめ)だ」

 

 そんな俺を見上げた滅は素早く対応をとる。

 レバーを素早く押し戻しーー引いたのだ。

 

スティング ディストピア!

 

 跳び蹴りをしようとする俺を向かい打つべく滅は跳躍せず、その場で蹴りの構えをとりあの時と同じく複数の異様な管が滅の右足に集まり、

 

 

 

 

 跳び蹴りと蹴り上げーー俺と滅の一撃が真っ向から衝突する。

 黄緑のエネルギーと紫のエネルギーが弾け、眩い光を放つ。

 

ス ト ロ ン グ

ス テ ィ ン グ デ

ブ ラ ス ト フ ィ ー バ ー

 

「ッ! はあああぁあー!!」

 

 滅の凄まじい必殺技に蹴りの態勢が崩れそうになるが、俺は気合で堪え必死に衝撃に耐え滅に必殺技を噛まそうとした。……しかし、

 

「ーー貴様では俺には勝てない」

「っ!? ぐぅうッ…!」

 

 俺の必殺技は滅には至らない。

 滅の必殺技は俺に容易く至る。

 

「ぐわあああああッッーー!!」

 

 滅の蹴りは俺の跳び蹴りを弾き返し、十分な威力を保ったまま俺のアーマーを破壊、顔のアーマーが弾け素顔が仮面の外から露わになり強制的に変身が解除される。その痛みに思わず叫び声が上がった。

 

「…勝敗は決したようだな?」

「ごはッ! ぐッ…あァ……!」

 

 地に倒れ、立ち上がろうとし口から血を吐きまた倒れる。そんな俺の姿を見た滅は冷徹にそう判断した。あーくそッ…! 何で、何で立てねぇんだよ……! まだ、まだ負けるわけには…!

 

 何とか落としたプログライズキーに手を伸ばし掴む。

 

 

(お前は、まだ…! 何もできてねぇだろがッ……! こンなとこで………死ねるかよォ!)

 

 闘志はあるのに…俺の体は滅の必殺技を受け完全に限界寸前だった。

 

「ーーッ!!」

 

 再び立ち上がろうとした直後、俺の手からプログライズキーが零れ落ち、口からはまた血を吐く。そして、地面に転がるプログライズキーにべたりと俺の血がつき俺はまたもバランスを崩し倒れる。

 

 

 

 

ーー何となく悟った。

 

 

 

ーー「こりゃ死ぬわ」って。

 

 

 

 

「ふっ…哀れだなバルデル」

 

 思ってもないくせに何が哀れだ……。

 感情の感じられない冷たい声でそう呟いた滅は倒れる俺にゆっくりと歩み寄ってくる。なのに不思議と俺の中には不安も焦りも、恐怖もなく、

 

 

 

『バカ(にい)早く早く!』

 

 

 

『いいえ初対面ですよ。はじめまして太陽君。私は…こういうものです』

 

 

 

『ーーそれが私の使命だからです!』

 

 

 

『私の名前はワズ・ナゾートク。探偵型ヒューマギアです』

 

 

『! 天本君、よく来てくれた!』

 

 

 

『まぁ今日で君は退院なんだが…はぁー、デイブレイクの時にも思いはしたけどね? 君はホントにしぶといよねぇ……』

 

 

 一瞬、視界全てが真っ白な光に包まれたかのような…そんな幻を見た途端に脳内に今までの無数の記憶が鮮明に蘇ってくる。

 

 

『そうか……なら、精一杯気張りなよ』

 

 

 こんな俺の背中をそっと押してくれる人がいる。

 

 

『ーーちゃんと、帰ってくるよね……?』

 

 

 こんな俺の帰りを待ってくれている家族がいる。

 

 

『それはそれで悪くないかもしれませんね』

 

 

 ロクでもないこと考えてるだろうけど…こんな俺の力を確かに信頼してくれている仲間()がいる。

 

 

『はい、またお会いましょう天本様。ご武運を』

 

 

 こんな俺の身を案じてくれる人間よりも人間らしいヒューマギア()がいる。

 

 

 ーーあぁ、まだ……

 

(倒れるわけにはいかねぇだろ……ッ!)

 

 ーー倒れるわけにはいかない。

 俺が何の為に戦っているか…今、滅を止められるのは俺だけだから……これが俺の「使命」だから。

 

「ハハッ…勝手に勝った気で、いんじゃねぇよバーカ!」

 

 不思議だな。

 さっきまではいくら頑張っても願っても、動かないぐらいに死に体だったのに今は確かに動く。血が零れたプログライズキーを力強く掴み、俺はゆっくりと…だが着実に立ち上がる。体の奥底から力が込み上げてくる…!

 

「なんだと?」

 

 滅にとってそれは「ありえない」現象であり…滅は思わず声を上げた。天本太陽(バルデル)の体にはもう戦う力など残されている筈がない。立ち上がるなんてことも……普通なら出来る筈がない…

 

 天本太陽(バルデル)の精神力、行動力に困惑する滅。しかし、すぐに冷静に状況を確認して口を開く。

 

「ーーだが、貴様にはもうドライバーは無い」

 

 そう言い滅は必殺技により装着が外れ、火花を散らして転がっているショットライザーを見やる。あー確かにあんだけ壊れちまったらショットライザーはもう使えない……むしろここまでプロトタイプなのによく保ってくれたなって感謝したいぐらいだ。

 

「ーーさぁ、それはどうだろうな?」

「! それは…!?」

 

 滅は俺が懐から取り出した物を見て驚愕した。そりゃそうだ…俺だって天津さんにいきなり見せられた時はそんな顔したからな。

 

「何故貴様がそれを持っている…?」

「悪いが、企業秘密だってよ」

 

 天津さんが言っていた。

 これはヒューマギアが使用することを前提に作られた物であり、人間が使用することは想定されていないと。…滅の装着を見りゃわかる。人間の俺が装着したら絶対痛い! でもやってやる。

 

 ーー柄じゃないが、

 

(ーーこいつをぶっ倒して、みんなの未来が守れるってンなら!)

「ーーやるっきゃねぇだろォ!」

フォースライザー!

 

 父さん、母さん、美月、ドクター、天津さん、飛電さん、ワズ。みんなの未来の為に……俺は、俺が望む未来の為に戦う!

 

 左手に持ったフォースライザーを腰に勢いよく装着する。その途端、

 

「ッッ!? があああァァアッ…!!」

「……それは人間が使いこなせるものではない」

 

 ーーフォースライザーから赤黒い火花が激しく散る。尋常じゃない「激烈」な痛みが身体中を駆け巡る。出血が更に加速していき体が大きくふらつく。だが、

 

「あああああああッ!!」

ストロング!

 

 死んでも倒れてやるか…!

 その思いで何とか踏み止まり、俺は右手に持ったプログライズキーのボタンを押してフォースライザーに装填した。流れ出す警告音染みた待機音、危険に赤く点滅するランプ。更にプログライズキーからヘラクレスが現れ滅に向かって豪速で飛ぶ。

 

「ぐっ…!」

 

 未だに驚愕する滅はそれを完璧に避けられず、アーマーからは火花が散り後退する滅。ヘラクレスはそのまま回転しながら空に飛び上がっていく。はっ、まさかお前のそんな顔が見られるとはなぁ? 俺は激痛を一切感じさせないような不敵な笑みを浮かべ叫んだ。

 

「ーー変、身ッ…!!」

フォースライズ!

 

 激痛なら幾らでも来い。ただ、それに見合った力を寄越せよ!?

 レバーに右手を掛けーーレバーを引いた。瞬間、

 

「ッ…!」

 

 ーー空に飛び上がったヘラクレスが豪速で俺の元へと戻ってくる。その途中に滅の背後へと攻撃を仕掛けるヘラクレスのライダモデルを滅はギリギリで躱し、

 

「ーーぐあァァアッ!!」

 

 ーー俺を殺すように。

 ーー俺を支えるように。

 ヘラクレスのライダモデルは強靭なその角で前のめりになった俺の胸を貫き、強制的に立った状態を維持させる。

 

()りぃ……あと少しだけ、俺に力貸してくれ)

 

 心の中でぽつりと呟く。

 プログライズキーに心がない、それはわかってる。

 でも今までずっと一緒に戦い続けてきたコイツに俺は確かな愛着を持っていた……。そして、

 

アメイジングヘラクレス!

Break Down.

「ッッーーはあッ!」

 

 ーーそんな思いに応えるように俺の体は黄緑のスーツに包まれ、更にケーブルに繋がった無骨なアーマーがゴムのように伸縮し勢いよく俺の体に装着される。最後に体から赤黒い煙が排出され、その複眼が赤く光った。

 

「馬鹿な……」

(あぁ、俺はきっと最高に馬鹿になっちまったんだろうな)

 

 滅の言葉に俺自身内心で同意した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ーーやはり、君なら変身に成功してしまうでしょうね」

 

 フォースライザーでの変身を果たした太陽。社長室でその映像を見ていた垓はどこか分かっていたかのように、どこか悲しげにそう言う。試作品のショットライザーでの変身を一発で成功させ、更には今フォースライザーでの変身にも成功してみせた…。その要因を彼の「精神力」によるものではないかと垓は考えていた。

 

(デイブレイクに不幸にも巻き込まれたにも関わらず、ヒューマギアを憎むことなく……それどころか飛電是之助の夢に対する熱意を目の当たりにし、その夢を応援しようと思いヒューマギアに期待し続けた。それだけでも恐ろしい精神力だが…)

「君はマギアと戦い続けた。何度も何度も……」

 

 戦う力を持っていても、ヒューマギアに確かに不安を抱きしっかりと「恐怖」の感情を忘れることなく持っている。そんな人間が何度も命を懸けて戦う……常人の精神力なら耐えられる筈がない。だが、彼は…天本太陽(バルデル)はその強靭な精神力を持って耐えた。

 

「……全く、本当に君には頭が下がるな。太陽君」

 

 天津垓にとって天本太陽は重要なビジネスパートナーだった。最初は太陽を中々使える「道具」と勝手に判断していた垓だが、徐々に太陽と会話を交わす中でいつの間にか彼を「道具」だとは考えないようになっていた。

 

 本来、垓は太陽を「序章の主役」に仕立て、マギアと戦わせて同時にショットライザーとプログライズキーの戦闘データを収集させ、最後には滅の前に敗れさせるつもりだった。垓の目的はショットライザーを完成させるのに必要な試作品のデータ収集、そして都市伝説として「仮面ライダー」の名を多くのものに知れ渡らせること……これは垓の今後の目的にとても大きな意味を持つ。

 

 しかし、フォースライザーを太陽に渡した時点でこの計画は破綻する可能性を孕んでいた。ならば何故フォースライザーを渡したのか…その理由は単純なものだった。天津垓は最早、天本太陽を「道具」だとは思っておらず、

 

 

 

「私が尊敬したのは飛電是之助に続き、君で二人目ですよ天本太陽」

 

 

 ーー天津垓にとって天本太陽は尊敬に値する数少ない友人になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲△▲

 

 

 

「何故、貴様は…そこまでして戦う?」

 

 気が付けば満身創痍の俺に滅は心底からの疑問を呈していた

 

「ンなの…決まってんだろ」

 

「『仮面ライダー』として、俺にも守りたいものがあるからだッ…!」

 

 俺はそう口にして滅に向かって疾走した。

 

「っ!? この速さはーー」

「おらおら、おらあッ!」

 

 右、左、右、左、右。

 何度も何度も拳を連打する。

 使い勝手がショットライザーと違うこともあり違和感がある。身体中に走り続けている激痛も消える気配はない。だが、フォースライザーはその性能を遺憾無く発揮してくれてるらしい。俺の攻撃は先程とは比べ物にならない重さと速さを持って振るわれる。

 

 滅がラーニング済みの俺の戦闘データは「アメイジングヘラクレス」と「ライジングホッパー」を使い「ショットライザー」で変身した場合のもののみ。今、こうして初めて「フォースライザー」で変身したため、勿論フォースライザーで変身した場合の俺の戦闘データなど滅はラーニングしていない。

 

 つまり今の俺は滅がラーニングしていない「未知」ということだ。まぁそれを言うなら…俺にとっても未知だがな? 体に走る痛みに動きが鈍りそうになるが……この瞬間だけは、死んでも使いこなしてやるよ!

 

「舐めるな…!」

「はッ、(あめ)ぇえ!」

「なっ!?」

「そっ、どらああッ!!」

 

 滅は俺の攻撃に大きく怯んだが、反撃しようと腕についたあの針を俺の胸に刺そうと素早く突き出してくる。しかしそれを見切った俺は片腕で突き出してきたその腕を掴み止め、右のジャブで更に滅を怯ませ右足の横蹴りを放つ。滅は後ろに吹き飛び初めて地面を転がった。

 

「ッ! 行くぞッ!」

 

 その隙を見逃すことな俺は追撃する。

 前回とさっきで二度見た滅の見様見真似で、俺はレバーを押し戻してーーレバーを引いた。

 

アメイジング ディストピア!

「ーーおりゃあぁあッ!!」

 

 立ち上がる瞬間の滅に跳躍し、黄緑色のエネルギーが急速に収束していく右拳を着地直後に滅の胴体に全力で打ち込んだ。

 

ア メ イ ジ ン グ

 

「! ぐはッーー!?」

 

 滅は防御が間に合わず、まともに受けて大きく後ろに吹き飛び…何とか倒れることなく着地する。しかし、その体は予期せぬ攻撃速度・攻撃力により急激にダメージが蓄積され、予期せぬ事態の連続に滅の思考は乱れ始めていた。

 

(俺の予測が間に合わない…? 先程までのバルデルとは比べ物にならない…だと…? なぜ、何故だ?)

「ぐッ…一体どこに、こんな力が……?」

 

 残っている筈がない。あり得る筈がない。

 理解できない事態に滅は混乱しながらも口を開く。そんな滅の目の前でーー。

 

「がはッ! はぁ、はぁッ、知るかよンなこと…!」

 

 ーー俺は仮面の下で吐血し体がぐらりとふらつく。

 地に片手をつき荒く呼吸する。何とか倒れることなくそこに踏み止まる。

 

 そろそろマジで限界か…。

 ならとっとと終わらせないとなぁ?

 

ーー滅! お前を止められるのは、ただ一人ッ…俺だッ!!

 

 僅かによろめく滅を指差し、その指を俺は自分自身に向けて力強く告げる。これが正真正銘の最後だ……滅っ!! 俺はまたレバーを押し戻しーー勢いよくレバーを引き、高く跳んだ。

 

 

アメイジング ユートピア!

「はああああああーー!!」

 

 体中から再び排出される赤黒い煙。

 俺の体中を駆け巡る激痛が更に増し「激烈」なものと化すが、痛みに怯むことなく俺は空中で蹴りの構えをとる。自然とその構えは先程敗れた必殺技と同じ構えだが……負ける気はこれっぽっちもしなかった。

 

(父さん…母さん…美月…ドクター…天津さん…飛電さん…ワズ…)

「みんなの未来は俺が守ってやるッ…!

 お前の計画はここで終わりだ、滅ッ!」

 

 右足には赤黒いエネルギーと黄緑色のエネルギーが爆発的に集まる。

 

(ーー俺が負ける…?)

「…違う。我々は人類を滅亡させる。

 終わるのは貴様だけだ…! バルデルッ!」

 

「人類滅亡」という計画の破綻、アークの意思により自らに課せられた目的の達成失敗という可能性を理解した滅は、人間の前で初めて怒りを露わにした。その手はレバーを押し戻しーー素早くレバーを引いた。

 

スティング ユートピア!

 

 滅は先程とは違いバルデルと同じく高く跳んだ。右足には最初に放った必殺技の時よりも遥かに大量の管が伸び集まりーー紫色のエネルギーが収束する。次の瞬間、

 

 

「おっーーらあああああああーー!!!」

「ーーはあああああああーー!!!」

 

 二つの必殺技がほぼ同じ高さから真正面から激突した。凄まじいエネルギーの衝突に足場にはヒビが走り、周囲の空気は切り裂かれる。

 

ス テ ィ ン グ

ユ ー ト ピ ア

 

ア メ イ ジ ン グ

ユ ー ト ピ ア

 

 

 互いの思いがぶつかり合いーーーそして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー」

「ーーーー」

 

 ーー必殺技を放ち合った二人は地面に着地する。

 互いに背を向けている状態の中、先に動いたのは滅だった。

 

「くッ……こんな、ことがッ…」

 

 変身が強制的に解除された滅は多くの箇所の装甲が剥がれ落ち、素体パーツ部分が剥き出しになっており、顔の半分は金属が剥き出しの状態と化していた。緩慢な動きで振り返った滅は俺に目を向ける。

 

「がァ……くっ、ああッ」

 

 体力の限界を迎えた俺はよろめきながらもフォースライザーを押し戻し、変身を解除した。途端に反動が体を襲う。

 

「…ッ、ごはッ……! うぐッ…!」

 

 手から血に濡れたプログライズキーが落ち、俺はまだこんなに体に残ってたのか?と思うほどの血を吐き、

 

「………ッ」

(……ごめんな、美月ーー)

 

 俺の意識は遠のき体はまるで物かのようにばたりと倒れる。意識が途切れる寸前に、俺は嘘をついてしまった妹へ心の中で謝罪を零した。

 

 

「損傷率78%…任務遂行は、困難と判断……」

 

 火花が散る胸を片手で抑えながら滅はノイズの混じる声で口にする。アークは滅のその独断に反対することはなく、

 

「ッ…バルデル、貴様は……」

 

 力尽き倒れた男の横に転がる黄緑色のプログライズキーにまで近付き、手に取りゆっくりと天本太陽(バルデル)に目を向ける滅。

 ……今の滅には確実にトドメを刺す余力すら残っていなかった。だが、

 

 ーートドメを刺さずとも太陽が死ぬのは時間の問題だった。

 

「……馬鹿な男だ……」

 

 滅は血に濡れたプログライズキーを強く持ち、ふらつきながらおぼつかない足取りでその場から離脱する。デイブレイクタウンの拠点には設備が十分に整っておらず、滅の完全な修復にはそれなりの月日が必要なのは明白であり「人類滅亡」という計画は「先送り」するしかなくなった。

 

 

 

 

ーー天本太陽は勝負に負け試合に勝った。

 

 

 

 

 

 

ーー序章はこうして幕を閉じるーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽君。やはり君を序章の主役に選んだのは…私のキャスティングミスだった……。えぇ、ですからーー」

 

 天本太陽の死闘を見た垓は…社長室で一人呟くと行動を開始した。

 

「ーー私の自己満足に他なりませんが…名誉挽回、といきましょう。君には借りがあり過ぎる……それを返せずに君に勝手に死なれては私の名が廃りますからね」

 

 自分に言い聞かせるように理由を口にする垓だが本心は実に単純ーーただ友を死なせたくない、それだけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 それから月日は流れーー。

 

 

「バカ(にい)〜。今日もいい天気だよー?」

「…………」

 

 大人になった少女はとある病室で、カーテンを開きそこに眠る大切な家族に声を掛ける。しかし返事は一つも返ってこない、それどころか反応は皆無だった。

 

「いい加減、起きてくれてもいいじゃん! 就職もせずに何ずっと寝ちゃってんのさ……早く起きないと、私も愛想尽きちゃうよ?」

 

 嘘だ。尽きる筈はない。

 もう何年も…何十年もこうしてお見舞いに来ているのだ。月日の流れにより大人びた少女とは違い、ベッドの上に眠る青年の容姿はあの時と比べてかなり瘦せ細っているものの驚くほどに若さを保ちそのままだった。まるで一人だけ時間が止まったかのように……。

 

 

「…………(にい)…寂しいよぉ……」

 

 動かない兄の手をぎゅっと優しく握って美月は本音を零し、泣き声を上げることなく涙をぽつぽつと流す。涙でベッドが濡れる…長い月日が経つが、美月の中の悲しさと寂しさは未だ消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ……?」

 

 

 その時、兄の手がほんの僅かにぴくりと動いたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 △▲△

 

 

ーー新時代の風が吹くーー

 

 命を懸けた青年の「未来を守りたい」という意思は、確かに繋がりーー今も未来は続いている。

 

「ーーラーニング完了」

ジャンプ!

オーソライズ!

 

 同時に脅威と戦い守りたいものは違えど…何かを守りたい者はまた現れる。

 

 衛星ゼアから地上に現れたバッタのライダモデルは縦横無尽に遊園地内を跳び回る。青年は手に持った「ライジングホッパープログライズキー」のボタンを押し腰に装着したゼロワンドライバーの認証装置に当てる。そして流れるような動きでプログライズキーを展開し、

 

「ーー変身!」

プログライズ!

 

 ーーゼロワンドライバーにプログライズキーを装填した。瞬間にバッタのライダモデルは青年に向かって跳びーー黒いスーツに包まれた青年の体に更に黄色の装甲が装着された。

 

飛び上がライズ!

ライジングホッパー!

A jump to the sky turns to a rider kick.

 

 青年ーー飛電或人は変身を果たす。

 

「ーーお前は何だ?」

「ゼロワン! それが俺の名だ!」

 

 再び現れたマギア。

 新たに現れた仮面ライダー。

 

本編が今、幕を開けた

 

 

【挿絵表示】

 

 




最後まで読んでいただきありがとうました。最後にアンケートも出しますので気軽に投票のご協力お願いします!

若干の無理矢理感はあるかもですが、改めまして本作は以上を持って序章完結とさせていただきます。皆さんの感想や批評、アドバイスなどのおかげでモチベーションを保ちここまで本作を書き切れました!本当にありがとうございました!

次章は…まぁ期待せず気長にお待ち頂けると幸いです笑
では最後に感想で一度褒められたからと調子に乗ってまた書いちゃった作者の手書きクオリティーのバルデル:フォースライザーver.の挿絵とスペックを下に載せて置きますね(誰得?)


仮面ライダーバルデル
アメイジングヘラクレス


【挿絵表示】


SPEC
◼️身長:197.5cm
◼️体重:98.6kg
◼️パンチ力:48.8t
◼️キック力:31.5t
◼️ジャンプ力:16.5m(ひと跳び)
◼️走力:3.7秒(100m)
★必殺技:アメイジングディストピア、アメイジングユートピア

デイブレイク被害者である天本太陽が「フォースライザー」と「アメイジングヘラクレスプログライズキー」を使って変身した姿。

それでは、またその内!

今後のストーリーについて

  • 次章はよ!
  • ここで綺麗にお終い!
  • 作者のご自由に!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。