また、改めて感想や誤字報告いつもありがとうございます!とても励みになってます!
それでは、どうぞ!
「十二年と二ヶ月、更に十八日……それが君が意識不明の状態に陥ってから今日。目覚めるまでのトータル時間だ」
「ーーあ、あうで!?」
ーーま、マジで!?
車椅子に乗って美月に押してもらい、着いた診察室でドクターから告げられた事実に俺は驚愕して思わず声にならない音を上げた。
今の俺多分こんな顔してると思う→(°Д°)
いやいや顔の話はどうでもいい。
それよりーー十二年……?
俺の勝手な予想じゃ長くても一、二年ぐらいだと思ってたんだが………。
(そりゃ美月も大人になるわけだ…ドクターも老けるわけだ)
それだけの月日が経ってるのなら、美月の成長も、ドクターの老け(決めつけ)も納得がいく。というか本当によく目覚めたな俺。これ確率的にはどんなもんだ? 天文学的確率ってやつか?
【よくめざめましたねおれ】
「他人事みたいに思ってるよね君? 全然他人事じゃないから。これ君の話だから」
現状、震える手のせいで漢字は上手く書けそうにないので仕方なく全部平仮名で文を書いた俺は、ホワイトボードを見せる。それを見たドクターは席から立ち上がり不機嫌そうな顔で喋り出す。
いやごめんなさい!何か起きたばっかりのせいか頭がまだぼんやりしてるんすよ。
【おれがめざめたのってきせきてきだったり?】
「本当にね…まさに奇跡だよ。しかも意識が回復してすぐにこうして
ドクター曰く……意識が戻った直後にここまで意識がはっきりとしており、更に言葉をしっかりと聞き取り、更に更にボードに平仮名だけとはいえ問題なく文字を書けていること自体異常だという。無論いい意味でだけどな。
【まぁとりあえずいきててよかったっす。じゅうねんいじょうたってるとか、しょうじきじっかんわかないですけども】
「それはそうだろうね。まだ頭も混乱してるだろうし、まずは体をしっかり休めてくれ」
【え おれまだねむくないですよ】
俺がボードに文字を素早く書き見せれば「眠気は関係ないよバカ!」とドクターに怒られた……暫くは絶対安静で、詳しい話とかはまた後日とのことだ。
それにしても………十二年、か。
(……これっぽっちも現実味がないっつうか、まだ夢の中にいるみたいっていうか……)
「はぁー……あーう」
「?
「あーあー」
言葉が喋れないって不便だなぁ…テレパシーとかできないもんかね? …まぁ少なくとも一般人の俺には一生できそうにねぇな、と思いながら俺はペンをボードに走らせ、心配そうにして車椅子を押す手を止めた美月にボードを見せた。
【ちょいとだるいだけ しんぱいむよう】
「心配無用って…今の
うん、ご尤もな意見だなそりゃ。
美月…相変わらず常識的な意見だぁ(謎の上から目線)
十二年経ってるらしいが……俺はマジで安心した。
「あ、言い忘れてた……バカ
「?」
美月の変わらぬ性格を垣間見て若干の感動を覚える俺だったが、車椅子の後ろにいた美月が前に出て来たので俺は首を傾げ──
「──本当に…っ……おかえりっ!」
感情がこれでもかと籠もったその言葉を聞いて、今にも崩れてしまいそうな…無理して作ってるのが見え見えの微笑みを見て、俺は察した。
だから、美月の頭に手を伸ばしポンっと置き頑張って口を開いた。
「た……だぁ、い…まあ」
『ただいま』その言葉だけは伝えなきゃいけない……そう思ったから少し無理して俺は言葉を紡いだ。
そう「十二年」だ。
美月は十二年という途方もない時間…いい子だからな。俺の事を心配していてくれたんだろう。きっと父さんも母さんも、ドクターも…それに……。その間……一体どんな思いで……どれだけの心労かけたことか。俺には想像もできない話だ。だからこそ、
(ありがとうな、美月)
その思いが伝わるように。
俺は優しく、兄らしく妹の頭を優しく撫でた。いつの間にか妹が俺より大人っぽくなってて兄ちゃん複雑な気分だけども……本当に、ありがとうな。
「っ……うぅ…
私、寂しかったっ……寂しかったよぉ…!」
……伝わってくれたのかどうかはわからない。
ただ、美月は抑えきれずに感情を爆発させ泣き出した。そりゃ十二年だもんなぁ…さっき病室で一回泣いたけど、そんな程度じゃ足りないぐらい美月は寂しかったんだろうな。それに美月はちょっと寂しがり屋だし。
(やっぱりお前は、俺の妹にしちゃ……いい子過ぎるわ)
ーー改めて俺はそう思うのだった。
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×月×日×曜日
とりあえず入院生活が暇で暇でしゃあないから、美月に頼んで家から持ってきてもらったこの日記帳を使って暇つぶしに色々その日あったことを書いていこうと思う。漢字書くのはまだむずいけど頑張ってみることにする。
まず今日、入院生活一日目。
俺が起きたらそこは十二年後の世界だった……。
何なんだ、このSF小説の冒頭にありそうな一文は。
でもこれがマジな話なんだから笑えない。
何だよ十二年って…お前寝過ぎだろ! もうちょい早く起きれなかったのか……いや意識が戻っただけ「奇跡」らしいけども。
あ、それと十二年経ってることもあって美月は大人に、ドクターは老けてた。なのに俺といえば体はかなり痩せ細ってるけど、外見年齢はパッと見20代前半ぐらい…つまり全然変わってないように見える。だから、尚の事まるで「俺だけ」が周りに置いてかれたみたいに感じるのだろうか?
…………十二年も経ってるっつうことは、俺が意識不明になる前に二期放送が決定してたあのアニメは……二期もとっくに放送して終わってるだろうし、もしかしたら三期・四期の放送とか…あ、あの漫画も完結してんのか? ……待ってめちゃくちゃわくわくしてきたッ!!
よし!今日は徹夜でネット三昧と洒落込……あれ? 十二年って…お、俺のスマホどうなりましたー?
※ちなみに美月とドクター二人掛かりでネット三昧計画は強制的に阻止されました……ちくしょう…。
追記.父さんと母さんが早速お見舞いにきた。そんで二人して即泣きそうになってた。父さんは静かに泣いて、母さんは大泣きして、美月もそれにつられてまた泣いて……ここ病院ってわかってんのこの人達!? ………まぁ、みんな元気そうでよかったわ。父さんも母さんも長い間心配かけてごめん。とりあえず、ただいま。
ちょっと、目にゴミが入った。これ以上は上手く文が書けそうにないから今日はここまでにする。
×月×日×曜日
入院してから一週間ちょっと。
今日、記者の人達が病室にちょー殺到してきた。いやもうやばかった。ドクターとその他の人がいなかったらまずかったな。記者の人達の気持ちも分からんでもない…。十二年の時を経て目覚めた人が現れたら俺も「話聞いてみたいなぁ」って絶対思うし、いいネタになりそうだし……。
まぁ何聞かれても、俺まだまともに喋れないんだけどね!HAHAHA!………はぁー……疲れた。
×月×日×曜日
入院してから今日で丁度一ヶ月が経ち、俺は遂にまともに喋れるようになった。まぁまだ本調子とは言えず上手く言葉が出ない瞬間があったり、純粋に体力が落ちてるせいか喋り疲れやすかったりするけども。ドクターには「怖ぁ……」と何故かドン引きされた。いやそこは喜んで?担当医として。
それと明日、天津さんがお見舞いに来てくれるらしい。どっから連絡きたかって? いや病院に直接来たんだよ。俺も聞いてビックリしたわ。それで電話で「もしかしたら、また記者の人来てお見舞いどころじゃなくなるかもです」って言ったら「大丈夫ですよ。既に手は打ちましたから」とか天津さんは言ってた。相変わらず怪しいというか何という…逆に安心したね。
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天津さんと俺の十二年振りとなる最初の会話は電話でだった。まず何を言えばいいのか……上手く思いつかなくて、なんだか気恥ずかしくて、俺が発した第一声は「感動的」要素は皆無だったと自分でも思う。
「天津さん…ちゃんと、社長になれたんですね」
俺の言葉を聞いた瞬間、電話の向こうで天津さんは暫く黙った。天津さんは一体何を思っただろうか? とりあえず俺の台詞を聞いて「失礼だなお前」とは思ったんじゃなかろうか。
それとも…もしかして泣きそうになってたり?(冗談)
まぁ流石にそれはないか。天津さんが泣くとことかマジでイメージできないからなぁ。
『……え、えぇ!君が意識を失ってからちょうど二年後に、正式にZAIAエンタープライズジャパンの社長に就任しましたよ』
少し遅れて、返ってきた天津さんの声はどことなく上擦っているように聞こえたけど……きっと俺の気のせいに違いない。
もし気のせいじゃないとしたら、素直に嬉しいっちゃ嬉しい。というか十二年も経ってんのに、天津さん…よく俺のこと覚えてましたね? と口には出さず内心思った。
「そっすか……言うの随分遅くなっちゃいましたけど。『社長就任』おめでとうございます」
『! ふふふ、ありがとうございます…積もる話はありますが、それはまた明日に……何せ、あれから十二年ですからねぇ。直接、君と顔を合わせて話したいことが山ほどありますよ』
「俺もですよ…天津さんに聞きたいことが山ほどある。特に俺が滅と戦ったあの日の…その後のこととか」
そして、俺と天津さんは久々に会話を交わし「また」と電話を切った。
「じゃあ、また──天津さん」
『えぇ、また明日お会いしましょう──太陽君』
明日が楽しみだな……これで天津さんの姿も変わってなかったら最早ホラーだわ。二人揃って十二年経っても変わってないとかさ。
追記.この
とりあえず……ニュースでも見るか。
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天津さんが来ると知って、何故か美月はそれはとてもとても嫌そうな「最悪……」みたいな感じの顔をした。それが気になったので俺はすぐに聞いた。
「美月、お前なんでそんな不機嫌そうなん?」
「……別に不機嫌じゃないし」
絶対嘘だね。さっき天津さんの名前聞いた瞬間、一瞬笑顔が固まったやん。次にため息ついたじゃん? しかも今口尖らせたろ? 兄の目は誤魔化せんぞ妹よ! 観念しろッッ!(謎にハイテンション)
「顔に『不機嫌です』って思いっきり書いてありますけどー? 家族が嫌そうにしてんのぐらい『十二年』経っても顔見りゃすぐわかる」
「……明日、天津さん来るんでしょ?」
「うん………え? 美月、お前天津さんに会ったことあるのか?」
なんて聞いたものの十二年もありゃ会ってても…いやおかしいだろ。美月は確かに超美少女だけど、あの人大企業の社長ぞ? 会う機会なんてそうそう、
「そりゃ一度は会うよ。だってあの人、最低でも一月に一回は
「へー………え、一月に一回…!? え、何それ」
ーーあ、お見舞いの時に会ったのか(合点)
つうか一月に一回ってマジ…? あの人社長だし、多忙な筈なんだが……やっぱ胡散臭いけどいい人だわ社長!
「それで? 天津さんが来たら、何でお前が不機嫌になるんだよ?」
「だって──私あの人嫌いだもん!」
………あ、天津さーん?
あんたーー今の美月は大人だからわからんがーーお淑やかさと落ち着きには欠けてたけど、基本超いい子の美月にここまで嫌われるとか何したの? というか純粋な「嫌いだもん!」威力高いなオイ。俺に向けて言われてたら枕濡らす自信あるわ……。
「確かにあの人のおかげで
「…まさかお前の口から『鼻に付く』ってセリフが出てくるとは思わんかったわ」
「それに! 天津さん最初、家族に一切許可なく
嫌いな理由を美月は言ってくれたが……うん! やっぱ悪いのあんたじゃねーか天津さん! 何やってんのよバカ社長。見舞いに来てくれる気持ちは嬉しいけどもさー。
(というか、天津さんの「おかげ」で俺が生きてるってどゆこと…?)
美月、その話ちょっと詳しく教えてくれ。
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「! ……本当に、元気そうで何よりです」
私は辿り着いた病室の前で小声でそう呟くと、そっと目頭を押さえた後に中へと入った。見舞いに来る中で随分と見慣れたそのベッドの上……友は、あの日から何ら変わらぬ姿でそこにいた。
意識不明の間、彼を死なせないため「延命措置」の為に付けられた人工呼吸器も、痛々しいほどの量が繋がれていた細い管も今はもうない。設置された心電図もピッピッと安定したリズムで鳴り、そこに居る彼が「生きている」事を教えてくれる。
「──失礼」
私の第一声は奇しくも初めて出会った時と同じものでーーゆっくりと病室の中に入った。その声に反応して顔を動かした彼は、
「! ……相も変わらず、真っ白コーデとか…草しか生えないんですけど。つうか変わってなさすぎでしょ?」
ーー可笑しそうに、嬉しそうに、微笑んだ。
「私は、この服装が気に入っているだけですよ。容姿については……お互い様でしょう?」
「あはは、そりゃそうだ」
十二年も経つというのに互いに容姿に目立った変化はない。彼は元々「若く見える」体質だったりするのか? それとも意識不明の間に体で何か突然変異でも起こしたのか? 何てことを見舞いで彼の顔を見る度に考えていた私だが明確な理由は今になってもわかっていない。
でも、私は嬉しくてたまらなかった。
あの時から変わらないその姿に……まるで、あの日の続きがまた始まったような気がしてならなかったから。
「十年振り……って事になるんですかね? お久しぶりです天津さん」
そう言って手を差し出して来る「天本太陽」。
「またこうして会えて……本当に嬉しいですよ太陽君」
切望していた友との「再会」に。
私はきっともう誰にも見せることはない、そう思っていた心からの穏やかな笑みを浮かべその手を握った。
……少し泣きそうになったのは彼には内緒である。
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×月×日×曜日
入院生活が始まって早二ヶ月。
流石にデイブレイクの時や滅にやられた一回目の時のように「はい退院」とはいかなかった。まぁ、まだ松葉杖なしじゃ移動できないし、そりゃそうだ……まぁそれでもドクターには「いや十二年以上意識不明だったのに何の後遺症もなく、たったの一ヶ月である程度自由に喋れて、二ヶ月でもう車椅子要らずとかおかしいってレベルじゃないからね? そこんところわかってる?」って言われたけど。ほんと、俺を丈夫な体で産んでくれた母さんには感謝の極みだなー……。
そうそう。
それと松葉杖で動けるようになってからは、リハビリもスタートした。予定よりもかなり早いらしいけどまぁ回復が早いに越したことはないだろう。まだ上手く手足に力が入んないけどとりま頑張ってる。
あともう一つ。つい二週間前ぐらい。
ここの病院に重傷の人が一人緊急搬送されてきてさ……運ばれていくとこ病院のエントラスで偶然見たんだよ。その人もドクター曰く「回復力が異常」らしい。しかも最近、リハビリの時間が俺と一緒でその人とほぼほぼ毎日会うんだよな。名前は確か「不破諌」。
追記.……病院に緊急搬送されて、少し前から気になってたんだが一体何したらあんなボロボロになるんだろうか? ただの喧嘩とかじゃ、まずあんな風には何ないだろうし……まるで俺が滅に負けて病院送りになった時みたいな……いや、ありえない話だけどな?(笑)
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滅に敗れた俺「不破諌」は病院に搬送され、現在入院生活を送っていた。回復力が高いこともあり、体は順調に回復し今ではリハビリもしている……そんなある日のことだった。
『どうやら俺には二つの記憶ができちまったようだ』
『ヒューマギアに襲われた記憶と……救われた記憶だ』
俺は入院している間、あの日のように病院の屋上に来てはそこから見えるデイブレイクタウンの景色を見渡していて、その日もまた例の如く屋上に来ていた。だがその日は一点だけいつもと違っていた。
「……あ、ども」
「………」
ーー屋上には俺より先にとある青年が訪れていた。
それを見た俺は車椅子に乗ったまま無言で踵を返そうとした。だけど何故だか車椅子を動かそうとする手は自然と止まり……口を開いていた。
「あんたは、リハビリの時の……」
(いや、それだけじゃない。俺はこの男を知っている……)
松葉杖で身体を支えている青年を俺はこの病院でリハビリをする際に何度か見た時があった。また、それだけじゃなく自分は「彼」を知っている……そう直感的に思うと同時に、軽い頭痛を感じて頭を押さえる。
今、何で俺はこの男を知ってるなんて思ったんだ?
自分の頭に浮かんだ思考に首を傾げる俺だったがそんなこっちの様子を見た青年もまた同じ様に首を傾げていた。
「? あの、どうかしました? もしかしてどこか怪我でも?」
「……いいや、何でもない」
「あ、そうですか……あー、俺邪魔ですかね? 邪魔だったらすぐ出て行きますけど」
「ここは別に俺の場所って訳じゃない。邪魔だなんて思わねぇよ」
自分の様子を伺うように(怒らせないように)という見え見えの腰の低い態度をとる青年に俺はそう答えて車椅子を動かし、青年から少し離れた位置で止まり、そこからデイブレイクタウンを見た。青年は暫くこちらを心配するように横目で見た後に俺が来る前にそうしていた様にデイブレイクタウンに目を向けた。
「……あんたは」
「? はい?」
「何でここからの景色を……デイブレイクタウンを見てたんだ?」
こんな風に他人に声を掛けるなんて我ながら珍しいことだったが俺はデイブレイクタウンを感慨深そうに見つめる青年の様子が気になって気付けばそう聞いていた。
「何で、何でかぁ………まぁそんな深い理由はないんですけど」
「………」
「懐かしいなぁ…って思いまして」
「? 懐かしい? あんたもしかしてーー」
「はい、俺『デイブレイク被害者』ってやつなんですよ」
青年の言葉に俺は少なからず動揺した。側から見て一般人そのものにしか見えない青年が…デイブレイク事件の被害者であるという事実に。そして、その事実をあっけらかんと明かす青年に。
「あんたは……何とも思ってないのか?」
「え?」
「あの事件に巻き込まれて……あんたの人生は滅茶苦茶にされたんじゃないのか? 少なくとも俺の人生は滅茶苦茶にされた」
「! あなたもデイブレイクに?」
「あぁ……そうだ」
次は青年が動揺する番だった。
こっちの言葉に多少驚いたらしい青年の問いに俺は頷く。
「……まぁそりゃ、思うところはありますよ? あの日、いつもと変わらず家を出たら急に爆風に襲われるわ、赤い目したヒューマギアが大量に追ってくるわ……あの事件のせいで俺の人生設計は滅茶苦茶になりましたし。主に就活とか就活とか就活とか就活とか……!」
少し考えた後に、青年はゆっくり当時を思い出すように喋り始めた。それは正しく愚痴だった。
「じゃあ怒りは? あんたは怒りは抱かなかったのか?」
「は? いや抱かない訳ないでしょ」
「……は?」
喋る青年の様子からは「怒り」は微塵も感じられず、俺が不思議に思って聞けばーー思わぬ返答が即来る。
「そりゃ当時は抱きましたよ。俺の就活滅茶苦茶にしやがってぜってぇ許さねぇ! とか。何がヒューマギアだ滅んじまえ! とか。結構キレてましたよ」
「……でも、今のあんたから怒りは感じねえ」
「年月も結構経ちますし……何より、夢を聞きましたからね」
「? 夢?」
諌にとって青年の言動はその一つ一つが思いもよらぬものだった。
「飛電インテリジェンスの社長さん……あの人がデイブレイク事件の被害者に謝罪に来た時に……あの人超熱く『夢』を語ったんですよ。宣伝かな?って最初は思いましたけど。あんな熱く自分の夢を語る人…俺初めて見たんですよね。しかも本気の本気で……今思い出してもすげぇ熱意だったなぁ」
「……それで?」
「そんな飛電さんが言ってたんですよね『ヒューマギアは人間の最高のパートナーになり得る』って。……だからこんな熱い本気な人が追う夢なら、もうちょい期待してもいいかなって」
「……あんたはその言葉を信じたのか?」
俺は青年の横顔を真っ直ぐに見て問いかけた。
「流石に、不安もある程度あるっちゃありますけどね? 信じてますよ俺は。というか一般人の俺には信じることしかできませんから」
そう言って青年はデイブレイクタウンから視線を外して俺に笑い掛けた。
俺には青年の思いが、考えがまるでわからなかった。
どうしてあれだけの事件に巻き込まれ、人生を滅茶苦茶にされたにも関わらず……そんな風に穏やかに笑えるのか……しかし、
「あんた……名前は?」
「? 天本。天本太陽です」
「……そうか。あんたはすげぇな」
「……へ?」
誰かの語る夢を心から信じ、過去に囚われることなく前に進んでいける……それができる人間が凄いということは俺にもわかる。
「俺は不破……不破諌だ」
「不破諌……それじゃ、不破さんって呼ばせてもらいます」
「あぁ、好きに呼んでくれ」
この日から俺と天本太陽はちょくちょく屋上で会っては話す仲となった。
それから、ある日のこと。
「そういや、聞く必要もねぇから聞いてなかったが……太陽。あんた年いくつだ? 見た目からして20代前半だろうが…」
「…あーー……やっぱそう見えます?」
「? なんだ違うのか? もしかして10代後半か?」
「いやないない! つうか下がってる下がってる」
俺は思わず「は?」と声を出す。
下がってる? もっと年齢は上ってことか?
確かに普通に考えてデイブレイクが起こったのが今から十二年前……なら、今自分と同じく若い容姿の太陽も自分と同じぐらいの年齢だと予想はつくのだが………。
「えーヒントを言いますと………不破さんより俺の方が絶対に年上ですね」
「はぁ? 俺は28だが……もしかして29ってことか!?」
太陽の見た目からどれだけ年齢は高く考えても29辺りが限界、そう俺は考えたが太陽の口にした「答え」は俺にとって思いも寄らぬものだった。
「32」
「……悪いよく聞こえなかった……なんつった?」
「32!」
己の耳を俺は疑った。疑いに疑った結果。
「意外だな。あんたもそんな冗談言うんだな?」
これは太陽なりの冗談なのだと解釈して俺は笑った。
「え、いや違うからね? これ冗談じゃなくて」
「まぁこんな話はどうでもいいとして」
「……あんたこれっぽっちも信じてねぇな?! 32! 32だからね俺!」
未だに冗談を続ける太陽を完全にスルーして俺は話を切り替えることにした。話し相手ができたことにより俺にとってこの入院生活は決して退屈なものにはならなかった。
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×月×日×曜日
入院生活が始まっていよいよ三ヶ月。
スマホも機種変し、色々最近のニュースについて調べてたんだが………やばい。いや十二年って時間の長さを実感したね。
まず、飛電インテリジェンスの社長が「飛電是之助」のお孫さんの「飛電或人」になってるってこと。そして、マギアの存在…更には「滅亡迅雷.net」の存在が世間に公表されているということだ。
つうかニュースを見る感じ…滅亡迅雷.netは未だ健在らしい。……どうやら俺は滅を完全に倒しきれていなかったようだ…悔しいことにな。さぁてと、どうしたもんかね……って俺はただの一般人だからどうしたもこうしたもねぇんだけども。それにしても「仮面ライダーゼロワン」か。ニュースで映ってたけど…あのプログライズキーってバッタのやつだよな?
追記.今日、昼に病院の中庭に出たら、ベンチに座ってめっちゃ俯いてる人がいた。いや顔暗っ、怖って思って無視しようと思ったんだが、何故だか柄にもなく無性に放って置けなくて気付いてたら声を掛けてた。その人の名前は「刃唯阿」。如何にも有能そうな女性で、最近「仲間」と「上司」によってストレスが絶えないんだとか。
何でも仲間は命令を聞かず突っ込み、上司は胡散臭く何を考えてるのはさっぱり理解できないんだとか(説明する気もないらしい)
いや、辞めちまえそんな会社!?
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『……あのー』
『? はい…?』
『だ、大丈夫です…? なんかあまりにも雰囲気暗いですけど……』
『あーいえ、気にしないでください。全く全然……大したことはありませんから』
『そんな今にも死にそうな顔で何言ってんだこいつ…』
私、刃唯阿は滅により病院送りにされた不破諌の見舞いに一度行った際、とある青年に出会った。最初にあった時、青年はお茶の入ったペットボトルを片手に心配と怪訝が半々といった感じの表情で私を見ており………
「上司が…白い服しか着ないんです」
「純粋にその人のセンスが心配になってきたぞ俺。もしかして替えの服も全部……?」
「私が知っている範囲では全て……」
「とんでもねぇ上司だなオイ」
それからあっという間に時間が経ち、気付けば私は病院の中庭で日頃の不満や愚痴を青年に聞いてもらっていた。
「それに前にも話していた仲間なんですが、また私の命令を無視した挙句、血を吐いて倒れたんです……」
「え、大丈夫なんすかその人……!?」
「はい、幸い命に別状はありませんでした」
「! そうか、それならよかった」
私は一般人であろう青年に、事件の話について全ては語らずに喋れる範囲で喋っていた。一般市民に「滅亡迅雷.net」と「A.I.M.S.」の戦闘について詳しく語ることは禁止されているため当然だが。
「……ん、そろそろ診察の時間だわ。悪い刃さん、ちょっと行ってくる」
「いえいえ気にしないでください。それより、いつも話を聞いていただきありがとうございます」
「気にしないで。俺も入院生活が暇で暇でしょうがなくて、話し相手がいてくれて正直すげぇ嬉しいし」
スマホを見た青年はそう言うと、ベンチから立ち上がりベンチに座る私に軽く手を振ると中庭から去っていった。その背に私も手を軽く振り……今更なことに気付いた。
「……そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」
青年に名前を聞くのを今の今まで完全に忘れていたのである。
(今度会った時にでも聞くとしよう)
「ドクター、退院まであとどれくらいですかね?」
「君それ診察の度に聞いてくるよね……まぁ君のその回復力ならあと二ヶ月もすれば退院できそうだねー。私としては、念のためにプラス一ヶ月ほど入院してほしいけど」
太陽はこうして、知らず知らずのうちに「仮面ライダー」との出会いを果たすのだった。
仮面ライダーゼロワン!
「何? レイダーが現れただと!?」
「俺は最強だァ! ほらかかってこいよぉ!」
「人間が、マギアに…!?」
「患者を守るのが医者の務めだ!」
「最っ高に頭に来たぜ──クソガキッ!」
第3話 トンデモナイ時代!はじめてのレイダー!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想や批評、アドバイスなどありましたら遠慮なくお願いします!
(キャラ紹介あります↓)
・天本太陽(32)
序章から十二年以上もの年月が経った未来で、意識不明の重体から奇跡的に回復したデイブレイク被害者の男。今は完全回復を目指してリハビリしている…またネットニュースなどで色々と情報収集しておりその度に「十二年」という時の長さを実感し驚愕している。
外見年齢は意識を失う以前、20歳の頃と何ら変わらない。
・天本美月(27)
十二年以上もの間、兄である太陽の見舞いに毎日訪れていたやっぱりいい子の少女…じゃなく淑女。容姿は十二年前から更にレベルアップしており、太陽曰く「ランウェイ歩くモデル並み」とのこと。兄が目覚めたことをきっと誰よりも喜んだ人物である。
新章でのバルデルの立ち位置について
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鎧武の初期の主任のような感じ
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オーズの初期の伊達さんみたいな感じ
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ビルドの仲間加入前のカシラっぽい感じ
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どれも良さそう(作者にお任せの意)