それでは、どうぞ。
リムジンが目的地に到着し停車する。
俺は車から降りようとドアに手を伸ばしたーーがその前に外からガチャリとドアが開けられ、
「おぉう…?」
「天本太陽様でございますね? ようこそ、ZAIAエンタープライズジャパンへ。早速、社長室までご案内させていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい。お願いします」
なになに?と思っていた俺の前にはスーツ姿のピシッとした印象を受ける男性の姿があり、男性の言葉に吃りつつ俺は返答する。
「それでは私に着いてきてください」と言い歩き出す男性の後ろをアタッシュケース片手に着いていく中、「車のドア外から開けてもらうとかリアルで初めてされた!」と俺は自分自身でもよくわからんぐらいちっちゃいことに感動していた。
つうかこの会社でっか…!? テレビでしか見た時なかったけど、実物は迫力がすげぇな。
ちなみに社長室に向かう途中で社内で働く社員さんの姿を見かけたんだけど…みんなテキパキ動いて、しっかり尚且つ楽しそうに働いてた……くそっ就活中の俺が来るにはキツい場だここ!(今更)
楽しく働けるって理想だよなぁ…。
…俺も早く就職しなきゃ。
そんなことを考えながら社長室に案内してもらい始めてから大体三、四分後。
「着きました。ここが社長室になります。天津社長は既に中にいらっしゃいますのでこのまますぐに入室してください。それでは、私はこれで…」
「はい、ありがとうございました……ふー、はぁー」
(うしっ! 行くかぁ!)
出来る限り短縮した気合い入れをして、俺は社長室をノックする。なんか学生の頃した面接練習を思い出すなぁ(どうでもいい)
入室の際のノックは三回、と。
「ーーどうぞ」
「失礼します…えっと、天本太陽……です」
うん、何自己紹介してんだろね俺?(混乱)
自己紹介しちゃったらいよいよ面接みたいだわ。
「存じ上げておりますよ。…私も自己紹介した方が?」
「あ、いえ、大丈夫。大丈夫です。はい」
もうね、気使わせちゃってすいませんほんと…!
天津さん苦笑してんじゃねーか!
くっ、天津さんと社長室の雰囲気に緊張して俺混乱しちまってますねこれ。早く直さねば(義務感)
「それで用件は…」
「私の用件をお話しする前に一旦お掛けください。それとそこまで私に畏まる必要はありませんよ」
「……」
座るよう促された椅子に俺はゆっくり腰掛ける。
社長室の様子は大きなデスクが一つあり、デスク近くに置いてある膝掛けのついた黒い椅子に天津さんは座っていた。
……なんかプレッシャーを感じるのは俺の気のせいでしょうか? 部屋に入った瞬間からもうビシバシ感じる…プレッシャー放ってんのは間違いなく天津さんですよね? いや怖い怖い!?
昨夜の件知ってたり、俺ん家の場所を把握してたり……すいません! やっぱあんた怪しいよ社長ぉ!?
「それでは…私からの用件をお話しします。太陽君、単刀直入ですがーー」
思わず俺は固唾を呑む。
何だ、何を言うつもりだ?
昨夜の件を出して俺を脅す気か?
でも、それだったらここまで俺を丁寧に迎えなくても電話で一言「来なかったら警察に通報する」とだけ言えばいい話だ。一体何で、
「ーー君にはこれからも『仮面ライダー』として戦って貰いたい。そして、是非ともZAIAの研究開発に協力してほしい」
「……? ………………えッ!?」
ごめん天津さん。
もう一回言ってもらってもいいすか?
「勿論ただでとは言いません。研究開発に協力していただければこちらも相応の金額をお支払いしましょう。また、出現したマギア…暴走したヒューマギアの情報もこちらから君に提供させて貰います」
「……あの、質問いいです?」
ちょこっと手を挙げて聞けば、天津さんは手で「どうぞ」と返してくる。なら、遠慮なく質問させて貰おうか!(謎の強気)
「何で俺なんですか…?」
「理由は簡単ですよ。君がショットライザーを用いて無事変身に成功したからです」
「…それだけですか?」
「えぇ。……いや、まだいくつかありました。それは君が最も、私のこの提案に乗ってくれる可能性が高いから。そしてーー君は確かな正義感を持っている人物だと理解したからですよ」
「あ、スゥー……」
(いや、ちょっ、はっ?)
あの、俺今日ショットライザーもプログライズキーも全部返しに来たんだけど……正義感を持ってる? いや人違いでしょ?
何て反応すればいいか分かんなくて変な呼吸しちゃったわ。
「……あの、天津さん」
「はい、何でしょう?」
「少し……いやかなり言いにくいんですけども……」
「?」
「俺も実は今日、天津さんに用件がありまして…」
ぎこちなくそう切り出した俺は、アタッシュケースをデスクの上に置き、思い切って告げた。
「このアタッシュケースは……?」
「全部、お、お返ししまーす……」
「すいません、よく聞こえなかったのでもう一度ーー」
「全部、お返しします!」
「……はっ?」
「全部天津さんにお返ししますっ! はいどうぞっ!」
「ぇ、は、はぁ!?」
最早ハイテンション過ぎて自分でも何言ってるかわかんなくなってきたわ。その影響で天津さんのキャラ崩壊が始まってしまった。
……まぁええか(超絶無責任)
その後、天津さんが急に必死になって俺を説得し始めて…失礼だけども草生えました(無礼者)
「この提案に乗ってさえいただければ、ZAIAエンタープライズジャパンは君を全力で支援しましょう! それに太陽君、君は今就活中だと聞いている。就活中の君からすればこれはまたとないチャンスだと思わないかい?」
天津さんはメリットを口早に次々と挙げた後、そんなことを口にする。何で俺が就活中のことまで知ってんだコイツっ!?
というか、さっきまで意味深な笑みを浮かべていた人と同一人物とはとてもじゃないが思えないなぁ……焦らせたみたいですんません。でも、
「…すいません。天津さん。俺怖いんです」
「……」
「臆病者だって笑ってくれても結構です……俺、あの化け物と戦った時……全能感を感じながら何とかやり切って…すげぇホッとしました。あーやっと終わった、死ななくてよかったって」
「…笑いませんよ。それは人として当然の反応でしょう」
「ですかね? それと天津さんは俺が確かな正義感を持ってるって言ってましたけど……全然そんなことないんですよ」
あの日の事を思い出す。
赤の他人だから、死にたくないから、助けを求めてきたあの女性を見捨てようとした事。それは人としてきっと最低な行いだったんだろう。
「俺は誰かを、それも赤の他人を守るなんてことができるほどヒーロー気質じゃない。だから天津さんの提案にはーー」
「ーーそれはおかしいですね?」
「……?」
「君はあの日、確かに彼女を助けた筈だ」
「っ、そ、それは…」
「赤の他人だから、死にたくないから。そんな思考をしていた君が何故にあの場面でいきなりマギアに向かうという自殺行為に等しい、自己犠牲的な行動をとれたのか……それは君の中には確かな正義感があったからではありませんか?」
天津さんの言葉に俺は俯く。
何故あそこで赤の他人を助けようとしたのか……それは俺自身よくわかっていなかった。気付いたら体が勝手に動いていた、そんな感覚だったんだ。
「……すぐに答えを出せなくても構いません。ですが、このアタッシュケースは受け取れません。既にコレは君の物ですから」
「俺は……っ」
「思い悩ませたようで申し訳ありません……もし、答えが出ましたら私にご連絡を。ーー良い返事をお待ちしていますよ」
こうして俺は来た時と変わらずアタッシュケース片手にZAIAエンタープライズジャパンを後にした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想や批評などありましたら遠慮なくお願いします。
以下オリキャラ説明になります。
(↓興味ある人だけ見ていってどうぞ〜)
・天本太陽(20)
短大卒、就活中の所謂雰囲気イケメンの青年。(断じてイケメンではない)
本人曰く「一般人」だが、デイブレイク被害者の時点で一般人とは言い難いかもしれない。特に身体能力が秀でている訳でも、頭脳が優れている訳でもなく、丈夫さだけが取り柄。また、基本敬語で会話するが内心では騒がしく色々な事を思っていたりする。ちなみにこれは家族以外には現状バレていない。性格は控え目で小心者。
天津垓曰く、仮面ライダーとしてのポテンシャルは高いらしいが本人は「仮面ライダーに向いてない」と思っており、早速ショットライザーとプログライズキーを返そうとして天津垓を驚愕させた。
地味に既に飛電インテリジェンス社長とZAIAエンタープライズジャパン社長と顔見知りである。
・天本美月(15)
高一女子高生、兄とは違い雰囲気だけじゃなくしっかりルックスが良い美少女。兄の太陽曰く「落ち着きというかお淑やかさが足りない」らしくその言葉通り、兄とは真逆で元気な性格。
兄がデイブレイクの被害に遭い入院していた際、実は一番お見舞いに来ていた家族思いのいい子である。兄の太陽が何かを隠していることには既に勘付いているが「余計なお節介かな?」と思いはっきり本人に聞けてはいない。元気なだけじゃなくしっかり配慮できるいい子である(ニ度目)
時々、辛辣な発言(本音)を吐き無自覚で他人の心をへし折ったりしてしまう。
序章のストーリーについて
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エンディングまでダイジェストで突っ走る
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出来る限り丁寧にエンディングまで歩く
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作者の好きなようにどうぞー