一番星の日常を観測する   作:谷川涼

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第一回 一番星会議。です!


「「一番可愛いのはだあれ?」」

 チーム一番星。

 まだまだ子供なあたしの仲間になってくれたのは、二人の頼もしいお姉さんでした。お二人とも長い髪がサラサラのツヤツヤで、スゴく大人な感じです……!

 アルストロメリアから、とっても優しい甘奈さん☆

 イルミネーションスターズから、とっても賢い灯織さん。

 強力な仲間と共に、あたし小宮果穂はナンバーワンを目指したはずだったのに……。

 

 まずは他のチームを分析する。そして、他チームでは出来ないことを見つける。

 灯織さんの提案で、あたし達三人は事務所で作戦会議をすることに。

 もう賢いです。この用意しゅうとうさは、あたしを含めた放クラの皆さんには難しいと思います。

 ……でも、なかなか思うようにはいかないみたい。

 事務所のソファに並んで座ってチームピーちゃんについて話していたら、分析どころじゃなくなっちゃって……。

 

 ぼふ! っと、甘奈さんは自分が抱えたクッションを叩いた。

 その顔は、いつものニコニコじゃありません。

「いい? 灯織ちゃん。

 いーっちばん可愛いのは、甜花ちゃんだからね!」

「そう? どう考えても真乃だと思うけど」

 あぅ、二人ともスゴいムッとした顔でにらみ合ってる……。

 特に灯織さんの真顔は、あたしまで怒られてるみたいで。

「甘奈が甜花さんを可愛いと思うのは、ただの身内びいきだから」

「それは灯織ちゃんもでしょ!?」

「違う、私は冷静に見て真乃だと思ってる。

 前にパーティーで挨拶を任されたのも真乃だったし、甜花さんに出来る?」

 灯織さんの強い言葉に甘奈さんがウッとした。

「で、できるよ!? ていうかそれは可愛いとはまた違う話!」

「それだけじゃない」

「な、なに……?」

「合同ライブの時も真乃が皆の中心だった。

 これはもうプロデューサーが真乃に一番魅力があるのを認めてるって事。違う?」

 た、大変です……! 甘奈さんがぐうの音も出ないほど打ちのめされちゃいました。大きなクッションに顔を埋めてうなってる。……ちょっとマメ丸みたいで可愛いかも。

 そのままの姿勢で、甘奈さんがボソボソ言う。

「で、でも甜花ちゃんは甘え上手だから……可愛がられる才能なら、一番だもん」

「……確かに、真乃はそういうところ控えめすぎるかも」

「でしょ!?」

 あ、甘奈さんが復活しました。

「て事はやっぱり甜花ちゃんが一番可愛いよねー☆」

「ち、違う。真乃の控えめさはこっちをもっと気にかけさせる高等技術だから!

 それを素でやっちゃう真乃が一番可愛いことに変わりは無いの!」

 ……どうしたらいいのかな。樹里ちゃんと夏葉さんみたいに言い合いが続いてて、凛世さんが平行線って笑って、ちょこ先輩が……。

「まあまあ二人とも、落ち着いて」って言えば収まるんだけど。

 思わず口に出しちゃったら、なんだか二人にスゴく見られてます。

 ちょっと図々しかったかな……?

「こういうときは第三者の意見を聞くのがいいと思う」

「だね☆ もっと早く果穂ちゃんに聞けば良かったよ」

 えっと、つまり……?

「果穂ちゃんも、甜花ちゃんが一番可愛いと思うよね?」

「まさか。果穂も真乃が一番可愛いと思うでしょ?」

 ……二人の視線がスゴくいたいです。

「えっと……」

「果穂?」

「果穂ちゃん?」

 仲間からこんな目を向けられるなんて、ヒーローでも中々ないピンチ……!

「たっ」

 たすけてー、ジャスティスファイブー。

「た……? たちつ甜花ちゃん?」

「なっ、なにぬね真乃!」

「灯織ちゃん……それはちょっと」

「自分でもどうかと思ったけど、甘奈に言われたくない……」

 お二人の視線があたしから外れてホッとしました。

 二人とも目力が強いので少し怖かったです……。

「あ、あの、灯織さん、甘奈さん」

「どうかした? 果穂」

「その、真乃さんも甜花さんもスッゴく可愛いっていうんじゃ……ダメ、ですか?」

 あたしの言葉に、二人が静かにお互いの顔を見て、うなずいた。

「そうだね、果穂ちゃんの言うとおりかも」

「うん、私達はすっごく可愛いチームピーちゃんを越えられる手段を考えないと」

「は、はい! 目指すは一番星です!」

 良かった。分かってくれました……。

 そうして少し落ち着いてきたところ、部屋のドアがガチャリと開いてプロデューサーさんが入ってきた。

「お、新しく組んだチームで親睦を深めてたりするのか?」

 感心感心。と、カバンを机の上に置いたプロデューサーさんは、そのままコーヒーを入れに向かった。

 ……。

 やっぱりブラック! さすが大人です……!

 でも、そんな苦いものを飲んでても……ふっふっふ。

「甘いですねぇ、プロデューサーさん!」

「ん、何がだ果穂?」

「あたし達は今! 作戦会議をしてるんです!」

「作戦?」

「そうです! 他のチームに差を付けて、一番になる会議です!」

「なるほど、いい向上心だ。果穂は偉いな」

 プロデューサーさんはそう言って、あたしの頭をなでなでしました。

「えっへへー」

 こーじょーしんです!

「しかし、そういう事なら俺が口を挟むのはフェアじゃないな」

「そ、それは、そうかもしれません……」

 残念です……。

「そんな事ないよプロデューサーさん☆」

「そうですね、プロデューサーに教えてもらいたい情報があります」

「お、どうした二人とも。真面目な顔して」

 ……まさか、お二人はあの事を聞いちゃうんでしょうか。

「プロデューサーさんは、甜花ちゃんが一番可愛いと思うよね?」

「なに?」

「プロデューサー。正しくは、チームピーちゃんで一番可愛いのは真乃ですね?」

 やっぱり……。もうその話は済んだはずだったのに。

 

「プロデューサー?」

「プロデューサーさん?」

 

 でも、これで決着が付くならプロデューサーさんの意見を聞くのはいいのかも。

 プロデューサーさんは、何て言うのかな。

 

「き、霧子」

 

「え?」

「は?」

「ここは、霧子が一番と言う事でどうだろう?」

 

「「……」」

 

 うわぁ。甘奈さんも灯織さんも、スゴく冷たい目でプロデューサーさんを見てる……。

「プロデューサー、気遣いは入りません」

「そうだよ? はっきり決めてくれた方が甘奈たちも納得できるから」

 プロデューサーさん、今の答えはもしかして逃げの一手だったんでしょうか?

 ……いえ! あたし達のプロデューサーさんがそんな臆病な選択をするわけがありません!

 そうですよね!? プロデューサーさん!

 

「そうだ。二人に配慮はしていない」

「……では、本気で霧子さんが一番可愛いと?」

「プロデューサーさん……だから、お正月の特番もアンティーカに?」

「いや、それは色々と都合が重なってだな」

 皆さんの晴れ着、スッゴく綺麗でした。

「ともかく。二人は『可愛い』の語源を知ってるか?」

 灯織さんも甘奈さんも知らないみたいで首を傾げてる。

「元は平安時代の『顔映ゆし』という言葉だ。

 これは『顔を向けていられない』『気恥ずかしい』といった意味合いを持つ。どうだ?」

「え? どうって言われても……」

「あれ? 霧子を見ているとそんな感じにならないか? こう、神聖な光に目を覆われるような」

「……ならないかな」

「なりませんね」

「ならないです。あたしも……」

 静かになった部屋の中「そうか」とつぶやくプロデューサーさんがコーヒーを飲んだ。

「つまり、チームピーちゃんでは霧子が一番可愛いんだ」

 そう言い切ったプロデューサーさんは「よし、楽しく話せたな」とカバンから書類を出すと、お仕事を始めた。

 甘奈さんと灯織さんは、きょとんと顔を見合わせる。

「灯織ちゃん、どうしよっか?」

 と、隣に座る甘奈さんがあたしの左手をにぎった。

「うん……まさか同票なんて」

 と、隣に座る灯織さんがあたしの右手をにぎった。

「ぁ、あの……なん、でしょうか」

 二人のすべすべの手が、まるで悪の女幹部の鎖みたいにあたしの手をとらえる。

「果穂ちゃん、ちょーっとだけ教えて欲しいんだけど☆」

「怖がらないで果穂。簡単なアンケートに答えるだけで離してあげるから」

 答えるまで離さない。そんな強い意思を二人から感じます……。

 

「甜花ちゃんが一番、可愛いよね?」

「真乃が一番、可愛いでしょ?」

 

「あぅ……」

 

 あたしの体から力が抜けていくのを感じる。

 チーム一番星。一番にこだわるあたし達はいったいどこに向かうのかな。

 願わくば、空に輝く星のように、高みを目指して……いけたらいいな。

 

 こーじょーしん、です!

 

 

 だから……放クラの皆さん。

 

 はやく来て下さい~!!


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