一番星の日常を観測する   作:谷川涼

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・前回のあらすじ
Pがキモかっただけ。
まるでシャニPじゃないみたいだ……。


『16才のママ』第3話「スタンバイレディ」

 事務所でのデスクワークが一段落して時計を見ると、昼を回っていた。

(霧子はViレッスンに向かったかな)

 ということは、霧子と話していた果穂もそろそろ戻ってくるだろう。

 そう考えたところでドアが開いた。

 振り向くと、そこには灯織と甘奈。

「おはようございます。プロデューサー」

「おはよー☆ もうお昼だけど」

 今日はオフなはずの二人が入ってきた。

「おはよう。何かあったか?」と二人を見ると、灯織がもじもじと答える。

「はい。えっと……果穂は来てませんか?」

「もー。違うでしょ、灯織ちゃん?」

「えぇ、今日はいいよ……」

 話が読めない。

「えーっと?」

 どうしたものかと思っていたら、甘奈が灯織のカバンから何かを取り出した。

「じゃーん! 愛妻弁当!」

 灯織がたまに差し入れてくれる弁当箱だった。

「……愛妻?」

「そう! 灯織ちゃんがプロデューサーさんの健康を考えて作ったの!」

「あの、甘奈が勝手に言ってるだけですから。

 私は、いつも通りに作っただけなので」

 勘違いしないでください。と、言外に言われている気がした。

「そもそもプロデューサーが私達のことばかりじゃなくて、ご自身の体のことも気遣っていれば、私がプロデューサーの食生活に口を出すこともないんです」

「え、栄養ならちゃんと取ってるし」

「……ゼリー飲料とか言いませんよね?」

 お見通しだった。

 返す言葉もない俺の様子は、甘奈まで刺激したらしい。

「プロデューサーさん……」

「な、なんだ……?」

 一気にしおらしくなった甘奈が、心配したような目で見てくる

「また、無理してお仕事してるの?」

「いや、そこまでは……」

 だからそんな泣きそうな目で見ないでくれ。

「朝もちゃんと食べたし」

「なに、食べたの?」

「カツドリアだ」

 ボリューム満点だった。千雪の旦那さんになる人は大食いだな。

 

「「かつどりあ?」」

 二人して頭の上に『?』を浮かべている。

「ああ、カツ丼の残りをグラタンに入れた感じの」

 その説明に灯織が食いついた。

「プロデューサー……? 料理、できるようになったんですか?」

「ん? いや――」

「え? プロデューサーさん、誰かに作ってもらったの?

 まさか、彼女さん……?」

 甘奈の見たこともないような不安な表情。

「ははっ、千雪だよ」

 つとめて明るく言ったが、あまり意味はなかったらしい。

 甘奈だけでなく、灯織も考え込むような素振り。そしてボソッと言った。

「朝食を用意してもらう状況……?」

 甘奈もそれに続くようにつぶやく。

「しかも、残り物のカツ丼で……?」

 だんだん二人の視線が、俺を責めるようなものに変わっていく。

「プロデューサーさん? 昨夜はどこにいたの?」

「プロデューサー。いくら成人同士とはいえ、さすがにそれはどうかと」

「いやいや完全に勘違いだから。

 カツドリアは果穂に届けてもらったんだよ」

 はっきり言った俺の言葉を聞いても、二人はまだ疑わしげだった。

「証拠は」と、甘奈が言いかけたところで、ドアが開いて果穂が入ってきた。

 

「あ! 甘奈さんに灯織さんも! おはようございます!」

 これが救世主と言う名のヒーロー。

 少女は今日もまた、意図せず一人の人間を救ったのだった。

 

「おはよう果穂」

「おはよー☆」

 灯織と甘奈が俺から離れて果穂のそばに寄っていった。

 二人の視線から解放されてホッとする。

「ねえ果穂ちゃん、ちょっと教えてほしいんだけど」

「はい?」

「今朝、プロデューサーさんに千雪さんが作った朝食を届けたって本当?」

「はい! お届けにまいりました……!」

 元気な店員スマイルで答えた果穂だが、何かを思い出したように声をあげた。

「あっ」

「果穂?」

「あの、千雪さんから『私が用意したって言わないように』って言われてたんでした」

 申し訳なさそうな果穂だが、女子特有の詮索癖はそんなの気にしない。甘奈も例に漏れず。

「どうしてだろ……?」

「さぁ?」

 三人は悩んでいるが、乙女心を忘れない千雪のことだ。おおかた、ちゃんとした弁当箱じゃなくてタッパーだったのを気にしてるんだろう。

(美味しかったら、それでいいのにな)

 

「さて、それで二人は弁当の他に何の用事があったんだ? 果穂を捜してたみたいだが」

 聞くと、甘奈が思い出したように返事をする。

「そうそう。甘奈たち、果穂ちゃんのレッスンを手伝いに来たんだよ」

「レッスン?」

 果穂というか放クラは、ゴールデンウィーク中は一応オフだ。自主練の夏葉以外。

 最近は567プロが業界を席巻していて、ウチに来るはずの仕事も奪われる始末。

 プロデューサーとして腕の見せ所だとは思うが、どうにも相手の方が上手らしい。

 

「お母さんの演技のレッスン☆」

「ああ、それか。どうやって果穂に教えるか悩んでたところなんだ」

 午前中、果穂は霧子に若い妊婦の話を聞いたが、それだけでいい演技ができるとは思えない。

「甘奈と灯織がコーチしてくれるのか?」

「そうだよー」

「助かる。ちょうど二人と同じ歳ぐらいの主人公だしな、適役かも」

 二人を見ると、灯織は自信がなさそうだ。

「その、私達も未知の領域なので、あまり期待されても困るんですが……」

「いいさ。主人公もそんな感じだろうし。

 果穂も、この二人から16才の心情を学ぶんだぞ」

「はい! 勉強させてもらいます!」

 果穂もやる気十分だ。

 ……放クラのメンバーをコーチにとも少し考えたが、ホームコメディになりそうだから却下。このドラマは完全シリアスの予定になっている。

 

「で、どんなレッスンを考えてきてくれたんだ?」

 灯織なら過去のドラマを研究してきた資料とか?

 甘奈なら実体験に基づいた保育の講義とか?

 

「おままごとをします」

 甘奈が何か言った。

「うん?」なんだって?

 

「おままごとを、します」

「……ほう」

 ドヤ顔の甘奈の隣。灯織に説明を求めようと顔を見たら、サッと目をそらされた。

 

「……ああ、エチュードのレッスンか」

 即興劇は確かに演技力アップの効果があるだろう。

 おままごとなんてごっこ遊び、アルストじゃないんだから……。

 

「おままごと、です」

 ……甘奈はアルストロメリアだったな。

 何も言わない灯織は、何か弱みでも握られてるのか? 普段なら絶対やりたがらないだろう。

 

 果穂を見たら、わくわくしていた。おままごとが楽しみなんだろう。

(じゃあ……、いいかな)

 一応オフの日に出てきてもらってるんだし。何より、楽しみながらの方が物事は上達する。これは真理だ。

(なるほど、甘奈はここまで見越して……)

 さすが甜花を人気アイドルにと勧めただけの事はある。将来はプロデューサー側への転向もありか?

(いや、この仕事を譲る気はないぞ)

 

 若き才能に嫉妬するほど老いてはいない。

 だが甘奈プロデューサーのやり方、とくと拝見させてもらおう。

「そうだ、特典用のメイキングムービーのために撮影していいか?」

「はい!」

「オッケー☆」

「えぇ……」

 灯織が戸惑っているが、すまない。

 心の中で謝ってカメラをセット。

 常に見られていると意識するのもアイドルの仕事だ。

 

 おままごとの準備が済んだのか、甘奈が音頭を取るように言う。

「準備はいいですか?」

「はい!」

「うん……」

 

「それでは、今から甘奈たちは家族です!」

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