一番星の日常を観測する   作:谷川涼

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・前回のあらすじ
仕事に励んでいたシャニPは気付く。昼を回っていたことに。
そこへ手作りの弁当を持った灯織と甘奈が現れる。
もちろん弁当はついで。
二人は果穂のために演技のレッスンを考えてきたのであった。


『16才のママ』第4話「おしゃぶりに息をひそめて」

 甘奈・灯織・果穂の三人は、事務所のリビングでおままごとを始めようとしていた。

 俺は灯織に弁当を渡された一人の観客。

 いや、客はもう一台。特典用の撮影をするカメラが、三人を無機質な目で見守っていた。

 そんな中、甘奈が始まりの声をあげる。

 

「それでは、今から甘奈たちは家族です!」

 

 配役すら決めてなかったが……。

 ノリノリの甘奈にワクワクの果穂。

 灯織はそんな二人の出方をうかがっている。

 

 はじめに甘奈が動いた。

「うっ……」

「甘奈さん!? どうしたんですか!?」

「なんだか最近体調がよくなくて……」

 妊娠初期のつわりと言う症状だろう。甘奈が主人公の役をするようだ。

「えぇっ!? あ、あの、何か病気になっちゃったとか……?」

「これはね、大切な人との新しい絆が生まれた、って事を教えてくれてるの」

「は、はい……? お薬とか、いりますか?」

「ううん。お薬よりも、お父さんの愛情が大事だから」

 そう言った甘奈は灯織の方を見た。

 目で「入ってこい」と言われた灯織がおままごとに参加する。

「お、おーい。今帰ったぞー?」

 完全に棒読みだった。台本がないとダメなタイプなのは間違いない。

(俺は台本あってもダメだが……)

 

 甘奈ママが灯織パパを出迎える。果穂も後をついていった。

 いや待て、果穂は何の役だ?

 俺の疑問を余所におままごとは進んでいく。

「お帰りなさい、あなた。お仕事お疲れ様」

「うん……プロデューサーの仕事は大変」

 そういえば、主人公とデキた相手はプロデューサーって設定だったな。

「あなた、ごめんなさい。今日はまだご飯できてないの」

「そうなんだ……。

 えっと、何かあった?」

「うん……あのね、できちゃった。みたい」

「え? さっきご飯できてないって……」

 灯織が真顔で言ってのけた。

 甘奈はそれを見て、がっくりと肩を落とす。

 

「あの、灯織さん。子供ができたって意味だと思います……!」

「あ、そっか……」

 灯織は果穂に教えられて理解したようだ。

 いやだから果穂は何役なんだ?

 

 甘奈が気を取り直して話を続ける。

「ねえ……甘奈、どうしたら……」

 主人公は将来有望な若手女優。

 産むか産まないか。ドラマではここの葛藤をメインに描くことになる。

 葛藤する意味を果穂が理解できればいいんだが……。

「適度な運動がいいって」

「えっ?」

「あと水分補給とカロリーの確保。

 でも、つわりの症状が重いときは入院も考えた方がいいと思う」

「あなた……」

 灯織のアドバイスに、甘奈も二の句が継げないようだ。

 しかし灯織は止まらない。

「色んな栄養も大事。葉酸とかカルシウムに鉄分――」

「灯織さん! そ、そうじゃなくて……!」

「え?」

「その、お母さんはお父さんに寄りそってほしい。んだと思います」

 甘奈がうんうんと頷いている。

 少し灯織の将来が心配になった。

 ウチの他の所属アイドルは皆、いつ嫁に行ってもおかしくないほど良い子揃いだが、灯織とは長い付き合いになりそうだ。

(差し入れてくれる弁当は美味しいんだが)

 この煮物とかも、煮てあれば何でも美味しいだろって言っただけなのに、どんどん俺好みに調整してきている。

 このまま行けば、俺の胃袋のW.I.N.G.をTrueするのも時間の問題だ。

 

 そうして灯織の弁当を味わっていると、背後に凛世の気配。

「煮物なら、凛世も……」

 振り返ると、凛世が弁当を見ていた。心なしか悲しそうな。

(お腹でもすいてるのか?)

「おはよう。凛世も果穂を見に来てくれたのか?」

「はい。おはよう、ございます……プロデューサーさま」

「果穂は見ての通りレッスン中だぞ。あれに何の意味があるかは分からんが」

「ふふ……賑やかなのは、良いことかと」

 そう言った凛世は、おままごとを鑑賞するために近くのイスを隣に持ってきて座った。

「凛世、飴なめるか?」

 少しなら空腹を満たせるはず。

「はい、いただきます……」

 

 そうして新たな観客を迎え、おままごとに視線を移すと、灯織が赤ちゃんになっていた。

 小道具のおしゃぶり装備で。

「ば、ばぶー……」

 やはり棒読みだった。

(父親役を降ろされたのか……)

「ばぶー……」

 目と目がばぶー。灯織が途方に暮れている。

 そんな灯織を気にも留めず、甘奈と果穂はおままごとを続けていた。

「甘奈は……あなたの子を、産むから」

「そ、そんな! 仕事は!?」

「やめる。女優の賞なんかより、この子の方が大切なの」

「でも! 新人賞を逃したら、女優人生が!」

「いいの! 甘奈は、プロデューサーさんと幸せな家庭を築くんだから!」

 甘奈の熱演に心臓が変な動き。

 同時に隣から「ガリッ!」と何かが割れるような、心臓に悪い低音。

 隣を見ると、凛世が無表情で口を動かしていた。

(飴を噛んだ音か……)

 それにしては怖い音だった。まるで、奥歯でも欠けたような。

 

 その音が果穂にも届いたのか、果穂は凛世が来ていることに気付いた。

「凛世さん!」

 甘奈も「え?」とこっちを見た。

「り、凛世ちゃん!? これはお芝居だから!」

 何やら慌てているが、対照的に凛世は落ち着いている。

「承知、しております……」

「そ、そう? ならいいんだけど……」

「ですが……その役に相応しいのは、この凛世かと」

 挑発するような凛世の言葉に甘奈がムッとする。

「どういう意味?」

「甘奈さんは17歳、ですが……凛世は、16歳……!」

 どやあぁぁと目を閉じ涼しい顔をする凛世。

(いったいどう違うんだ……)

 その疑問を抱いたのは俺だけだったらしい。

 甘奈はがっくり膝から崩れ落ち、果穂と灯織は、真打ちの登場に目を輝かせている。

 

「16歳の少女。この凛世が……演じきって、みせましょう」

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