事務所での待機中は、だいたい雑誌を読んでいる。
ソファに座る甘奈の隣には、宿題をする果穂ちゃんと、音楽を聴いている灯織ちゃん。
灯織ちゃんってば、時々果穂ちゃんに質問されるから、イヤホン付けるの片方だけになっちゃった。
でも灯織ちゃんって教えるの上手だよね。横で聞いてて分かりやすいもん。声も落ち着いててスッと入ってくるし。先生とか向いてるかも。
そういえば勉強の漫画でも、クールな先生が一番人気だし。
そりゃ果穂ちゃんも灯織ちゃんにばっかり聞くよね。
……うぅ、ソファに座ってる並び順のせいだと思いたい。
……気を取り直して、今日の雑誌の特集は……ウサギカフェ?
なになに。
『最近では、鳴き声を出さないのと、ケージで飼うことができるため、犬・猫に次ぐペットとして、一人暮らしの方にも人気があります』
へー。
『ウサギは品種や育つ環境で様々な性格を持ちますが、大まかには三種類に分けられます』
そうなんだ。
『まずは警戒心の強い慎重派。呼んでもすぐに寄ってこず、遠くから様子をうかがうタイプ。ゆっくり親しくなっていきましょう』
これは灯織ちゃんウサギ。
『そして元気で人懐こいタイプ。すぐにじゃれついてきたり、自由に跳ね回ったりします。ただ、成長すると我儘になったり、自分がリーダーになろうとしたりします』
果穂ちゃんはそんな事ないよね。
『後は甘えたがりの寂しがり屋。飼い主が離れると音を立て、飼い主を呼ぶようなタイプ。懐き方は可愛らしいですが、留守番もできなくなる可能性があります』
……甘奈、留守番ぐらい出来るから。
「甘奈?」
「な、なに? 灯織ちゃん」
「その、雑誌見ながらムッとしてたから。何か変なことでも書かれてた?」
灯織ちゃんが心配そうに見てくる。
「ううん……何て言うか、性格診断でちょっとした図星を突かれた感じ?」
「へぇ……見せてもらっていい?」
「え、うん。いいけど」
はい。と雑誌を開いたまま渡すと、灯織ちゃんが不思議そうな顔をした。
「ウサギカフェ?」
何で? といった顔で甘奈を見た灯織ちゃんだけど、その隣にいた果穂ちゃんの反応の方が大きかった。
「ウサギカフェ!? ですか!?」
果穂ちゃんの目がキラキラしてる。
「果穂ちゃんはウサギ好き?」
「はい! ウサギさん、モフモフでかわいいです!」
「だよね☆ 写真だけでもめーっちゃ癒されるよ」
「はい! 特にこの後ろ足だけで立ってる子! とってもかわいいです……!」
「果穂ちゃん。その仕草、警戒中なんだって」
「えぇ!? そう言われると、なんだかキリッとしてるように見えてきました……!」
果穂ちゃんがすっかり雑誌に夢中になっちゃった。宿題の邪魔しちゃったかな……。
「あ」
灯織ちゃんが小さく声をあげた。
「どうかした?」
「うん。このウサギカフェの場所、今プロデューサーがいる現場の近く」
……よく知ってるね、灯織ちゃん。
「それじゃあ、事務所で待ってるのもなんだし、お迎えついでに行っちゃおっか?」
「あ、甘奈さん。ウサギカフェにですか?」
「もち☆ 果穂ちゃんも来る?」
「行きます! 行きたいです!」
果穂ウサギちゃんは、すっごい元気。
「よし、決まりだね。じゃあ行こっか」
「あ、甘奈」
「灯織ちゃん? 行かないの?」
「い、いや行くけど。ウサギカフェのついでに、プロデューサーと合流するだけだから……」
だよね。灯織ちゃんが言い出したんだし。
灯織ウサギちゃんは、あんまり素直じゃない。
・ ・ ・
というわけで、やって来ましたウサギカフェ。
スリッパに履き替え、手を消毒し、エプロンを身につけて、やっと準備完了。ウサギは繊細なんだよね。
隣を見ると、果穂ちゃんが目を輝かせて店内を見渡している。
「……! ウサギさんが、いっぱいいます!」
「果穂。足下、気を付けて。ウサギは骨が弱いから、ちょっと当たっただけでも大変って」
「そ、そうなんですか!? 気を付けます!」
さすが灯織ちゃん、予習はばっちり。
ウサギがウロウロする中を店員さんに案内されて、甘奈たちは一つのテーブルの周りにある座布団に腰を下ろした。
すると早速ウサギたちがやってくる。
いきなり脚に上ってくる子や、鼻先でツンツンしてくる子。もちろん離れたところからジッと見てる子もいる。
果穂ちゃんは、膝の上に四匹も乗せて夢心地に。
「小っちゃくてかわいいです……!」
その様子をジッと見る灯織ちゃんの膝の上は空いていた。一匹も乗っていない。なんとなく悲しそうな顔をしている。
なるほど。類は友を呼ぶとはよく言ったもので、灯織ちゃんの後ろには、灯織ちゃんの様子をジーッとうかがうウサギたちがいた。たぶん、灯織ちゃんに近付きたいんだよね。
でもごめん灯織ちゃん、甘奈は動けない。
ついさっきから甘奈の太ももを占領して、だらしなく寝転がっている子がいるから。
ぽつんと座る灯織ちゃんを見かねたのか、店員さんがドライリーフを灯織ちゃんに渡しに来た。
一瞬、嬉しそうな灯織ちゃんだったけど、すぐにキリッとした顔に戻った。「おやつの数には限りがある、失敗は出来ない」そんな表情だった。
真顔の灯織ちゃんが、四つん這いになってウサギたちに近寄る。
「お、おいで……!」
そう言った灯織ちゃんが差し出したドライリーフは震えていた。ぷるぷると、その緊張はウサギにも伝わりそう。
緊張の一瞬。
案の定、その震えはウサギたちへのラストアピールとなった。
ウサギたちは散り散りに。灯織ちゃんのメンタルはボロボロに。
「どうして……」
大変……! これじゃあ悪徳記者の人にすっぱ抜かれちゃう!?『高嶺の花、風野灯織はウサギにも距離を置かれる悲しいアイドルだった!?』なんて見出しが頭の中をよぎった。そんな事させない……!
「灯織ちゃん! この子をどうぞ!」
甘奈の太ももでダラダラしてた甜花ちゃんウサギは、甘奈にされるがまま灯織ちゃんに差し出された。
「えっ、甘奈?」
「抱っこ、してあげて?」
「で、できるかな……」
灯織ちゃんは、そう言っておずおずとウサギに手を伸ばす。
「大丈夫だって。甜花ちゃんみたいに優しいから」
「甜花さん?」と、つぶやいた灯織ちゃんは、両手にウサギを乗せた。
「……」
目と目が逢う~♪
「……」
ウサギと見つめ合った灯織ちゃんは、意思疎通が出来たのか、無事にその子を胸に抱いた。心なしか誇らしそうな顔をしている。
「甘奈、ありがとう」
「どう致しまして。でも、お礼はその子に言ってあげて」
「うん。甜花さんウサギも、ありがとう」
灯織ちゃんの胸に抱かれたウサギは、その言葉が聞こえているのかいないのか、目をつぶりながら、灯織ちゃんの胸にフワフワのあごをスリスリ。
「ふふ、可愛い……」
灯織ちゃんが優しい笑顔でウサギを見る。よし、これなら悪徳記者さんも悔しがるよね。
「いいなぁ……」とは、果穂ちゃんのつぶやき。
「どうしたの? 果穂ちゃん」
「あ、甘奈さん……。あたしも、ウサギさんを抱っこしたかったんですけど」
下を見る果穂ちゃん。そこには、元気にはしゃぐウサギさんが四匹もいた。クッションに座る果穂ちゃんは障害物。まるで、追いかけっこでもしているみたいにウサギ達はじゃれていた。
「ウサギさん達、つかめる隙がありません……」
「果穂ちゃん……」
どうしよう。甘奈の甜花ちゃんウサギは灯織ちゃんに渡しちゃったし……。
「果穂」
灯織ちゃんが、元気のない果穂ちゃんに声をかけた。
「灯織さん……」
「この子、抱っこしてみる? 大人しいから」
「い、いいんですか!?」
灯織ちゃんは胸に抱いているウサギを差し出そうとしている。でも動じない、甜花ちゃんウサギは大物だから。
「ほら、果穂」
「は、はい!」
「ウサギの両手の下に片手を入れて、反対の手でお尻をすくうように抱き上げて」
果穂ちゃんは、灯織ちゃんが言ったことを復唱しながらウサギを抱いた。
そして見つめ合う二人(?)
「……ウサギさん。か、かわいい……!」
盛り上がる果穂ちゃんにも、甜花ちゃんウサギは動じない。将来が楽しみ、もしかしたら共演する事があったりして。
カシャ!
カメラのシャッター音に振り返ると、そこにはプロデューサーさんがいた。
「プロデューサー、お疲れ様です」
「おつかれさま~」「お疲れさまです!」
「ああ、お疲れ。今、三人の写真撮ったけど、これ使っていいか?」
甘奈たちのオッケーを聞いたプロデューサーさんが、そのまま携帯を操作する。
「はづきさんに送っておくぞ。
……いや中々いい写真だなこれ」
低いテーブルの前で、ウサギを抱っこする果穂ちゃんが中心の写真。カメラを意識してない、甘奈たちのウサギカフェでのワンシーン。
あとで甜花ちゃんにも見せてあげようと思う。
プロデューサーが携帯をしまって、甘奈たちを見た。
「それじゃあ、そろそろ次の場所に移動していいか?」
「はい」「りょーかいです!」
……そういえば、甘奈だけウサギさん抱っこしてない。
「甘奈?」
「え、あっ、うん。お仕事だもんね」
後ろ髪を引かれるような、なんとなく悶々とした気分で、甘奈たちはウサギカフェを後にした。
・ ・ ・
あの後、ちょっとしたお仕事を終え帰宅した甘奈は、もう寝る準備万端でパジャマの甜花ちゃんにおみやげを付けた。
「な、なーちゃん……? これ……?」
「ウサ耳だよ☆ 甜花ちゃん可愛い~」
「なんで、いきなり……?」
「んー、なんとなく☆」
ぎゅー! と、甜花ちゃんを抱きしめると、お風呂上がりの温かさと良い匂いが全身で感じられた。
「やっぱり、甜花ちゃんが一番だね!」
「ぇと、良く分かんないけど……嬉しそうで何よりです……」
甘奈にされるがままの甜花ちゃんは、しばらく身動きが取れなかった。
「甜花ちゃん。甘奈も寝る準備してくるから、先寝てていいよ」
「え……?」
「今日は一緒に寝ようね、甜花ちゃん」
「ぅ、うん……?」
甜花ちゃんの戸惑いがちな返事を背に、自分の部屋に着替えを取りに行く。
今夜は、ウサギカフェの話をしよう。
そして、今度は甜花ちゃんも連れて行こう。
あ……、アルストのイメージカラーとウサギって相性いいかも。子供向け番組いけそう。
これは千雪さんとプロデューサーさんにも話してみなきゃ。
でもその前に、ウサギ甜花ちゃんを堪能かな☆