一番星の日常を観測する   作:谷川涼

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恋占いにコーヒーをそえて
【夜明けの晩に】未対応


『占い師』果穂

 今日は学校で性格占いが盛り上がった。

 例えば血液型占い。

 あたしはA型だから、頑固で我慢強い性格だって。確かに合ってます、スゴいです。

 だから、事務所のみなさんの事も占おうと思って、占いの本を借りてきました。

 ランドセルがちょっと重くなったけど、みなさんの驚く顔が楽しみだから平気!

 

 ・ ・ ・

 

 事務所に着いて、さっそく聞いてみた。

 

 灯織さんは「私? 真面目で几帳面なA型だけど?」

 甘奈さんは「甘奈はね、心配性で臆病なA型なんだって。甜花ちゃんに言われちゃった☆」

 

 うん……、血液型占いなんてなかった。

 A型は多重人格なんでしょうか。

 でもチーム一番星が三人ともA型で、なんだか絆レベルが上がった気がします。

 って、もう血液型はいいです。

 

 あたしは占いの本を持って、灯織さんと甘奈さんが座るソファに再び押しかけた。

「星座占い、しませんか!?」

「占い?」

 灯織さんの目が、きらり光った。

 というか、イヤホンで音楽聴いてても聞こえるんですね……。

「この本、とっても当たるんです!」

「へぇ、そうなんだ。果穂が占ってくれるの?」

「はい! おまかせあれ!」

「果穂ちゃん、甘奈もいいの?」

「もちろんです! お二人の未来を示します!」

「やった☆ 久しぶりの果穂ちゃん先生だね」

「では、お二人の星座を――」

 占いを始めようとしたところで、灯織さんがソファから立った。

「灯織ちゃん? どうかした?」

「うん、ちょっとコーヒー作ってくるね」

「え、甘奈たちのも?」

「あれ? いらない?」

「ううん、いただきまーす。お砂糖入れてね」

「うん」

 コーヒー……。

「ひ、灯織さん! あたしは、その……」

「苦いのダメ?」

「た、たぶん……」

「牛乳は飲めるようになった?」

「果物を入れれば、大丈夫です!」

「そう……じゃあ、お菓子みたいに作るから」

「お菓子……!」

 いったいどんな物が出来るのかな。

 あたしがわくわくしていると、甘奈さんが不満そうに言った。

「えー、甘奈もそっちがいいなー」

「……最近の甘奈、アルストロメリアで毎日スイーツ食べてるところをツイスタで見るんだけど?」

 甘奈さんが悲しそうな顔をした。

「新メニューが増える時期だから……。

 甘奈のは甘さ控えめでお願いします」

「はいはい」

 軽く笑った灯織さんは、そのままキッチンに向かっていった。

 甘奈さんは、まだ落ち込んでいる。

 どうして毎日スイーツを食べて落ち込むんでしょうか? ちょこ先輩だったら、涙を流してお仕事に感謝するところなのに。

「ねえ果穂ちゃん」

「なんですか?」

「ダイエット占いとかある?」

「ないです」

「だよね……」

 まさか甘奈さんみたいに綺麗な人にも、ちょこ先輩のような悩みがあるのかな……?

「じゃ、じゃあ果穂ちゃん」

「はい?」

 甘奈さんが、ふと周りをきょろきょろ見た。

 そして、あたしに顔を寄せて小声で言う。

「れ……恋愛占いとかは……?」

「あります! クラスでも人気でした!」

「へ、へー。それなら、甘奈も占ってもらっちゃおうかな。人気だもんね……えへへ」

 本のページをめくって……あった。

「では、占ってしんぜよう」

「お願いします」

「星座は何ですか?」

「山羊座です」

 えーっと山羊座の、A型は……。

 あった!

「……やぎ座A型の女性は慎重派。そして物事に自分で取り組まねば気が済まないので、すでに自立・完成した人を好みません」

「えっ?」

「手がかかっても伸びしろのある人に好感を抱きます」

「そう、かな……?」

「とにかく自分でやりたがるので、パートナーさえも自分で育てようとします」

「あ、でも……、自分の事は結構だらしないかもだから……」

 甘奈さんがさっきから何かブツブツ言ってる。

「プロデューサーさんがどうかしたんですか?」

「う、ううん? 続けて?」

「はい。えー、なので、尽くしすぎでダメ男に引っかからないように注意が必要です」

「ダメ男じゃないよ!?」

「!? な、何がですか?」

 急に大きな声を出されてビックリしました。

「あっ、な、何でもない……ごめんね?」

「い、いえ……あ、まだ注意点があります。

 しっかり自信を付けてから行動したい性格なため、出遅れがち――」

「ぅえぇっ!? 恋鐘ちゃんとかもっと進んでるの!?」

「え? 恋鐘さん? どこにですか?」

 

「落ち着いて甘奈、恋鐘さんは『あ~ん』までしかしてないから」

 キッチンから戻ってきた灯織さんが、コーヒーカップを三つ乗せたお盆をテーブルに置いて、カップをあたし達の前に配ってくれた。

 コーヒーの濃い匂いがスゴいです。苦そう。

「あーん? あーんって、あの、食べさせるやつ!?」

「他に何があるの……」

「そんなぁ! 甘奈だってまだ一回しかした事ないのに!?」

「……え、したの?」

「…………」

「え、した事あるの?」

 甘奈さんが灯織さんから思いっきり目をそらした。

 目をそらした先は、熱々のコーヒー。

「い、いただきまーす……」

 ふーふーして、一口すする。

「んー、おいしー。何か普通のコーヒーと違う味。さっすが灯織ちゃん」

 本当においしそうです。

 でも、あたしの前に置かれたコーヒーだけ色が違う。何でかな。

 カップと睨めっこしてると、灯織さんが説明してくれた。

「果穂のは牛乳と練乳で煮込んであるから」

 牛乳! そういえば、お菓子みたいに作ってくれるって。

 どんな味なのかな……。

「い、いただきます」

 カップにちょんと口を付けると……、甘くてあったかい!

「どう? 飲める?」

「んー! おいしーですー!」

 大人の匂いに包まれながらコーヒーと牛乳を楽しむ!

 これが成長。だんだん進化してますー!

「灯織さん!」

「何?」

「灯織さんは何の占いがいいですか!?」

 今ならスペシャルです!

「ちなみに、甘奈さんは恋愛占いでした!」

「果穂ちゃん!? い、言わないでー……」

 甘奈さんの声がだんだん小さくなった。なんだか恥ずかしそうです。

 そんな甘奈さんを見た灯織さんは、クスッと笑った。

「じゃあ、私も恋愛占いで」

「りょーかいです!」

 あたしが本を取り出すと、甘奈さんが灯織さんをからかうように言う。

「普段は興味なさそうにしてる灯織ちゃんも、お年頃の女の子だもんね」

 うんうんと深くうなずく甘奈さん。

 でも灯織さんは、そんな甘奈さんを白い目で見た。

「仕事はプロデューサーとなら大丈夫だから。私がアイドルをしていくための不安要素は、悪い虫を見極めて払えるかどうか」

 一緒にしないで。という無言の圧を感じます……。

「え、えーっと! 灯織さんの星座を教えてください!」

「魚座のA型」

「はい!」

 ぺらぺらと、魚座のページを開く。

「えー、A型の慎重さと、魚座の自己犠牲精神が合わさり、非常に奥手です」

「うん……」

「好意があることを悟られるのも恥じらうため、意中の相手が気付かず交際には発展しにくいでしょう」

「……うん」

「そして、相手のことを考えてしまい『NO』と言えない性格から、気のない相手の熱烈なアプローチに流されてしまう事もあるので注意が必要です」

「気を付けます……」

 灯織さんが落ち込んじゃった。

 甘奈さんも、灯織さんの肩をポンポンしてドンマイです。

 もうちょっと読んだらいいこと書いてないかな……。

「魚座の女性と付き合えば、離れられなくなる男性は多い」

「えっ?」

 灯織さんの声が生き返った。

「完璧主義のA型、リアリストとロマンチストの二面性を持つ魚座なので、付き合う男性はまるで夢のようなラブストーリーを現実で体験して、ハマります」

「そ、そうなんだ……!」

 灯織さんの声が喜んで弾んでる。

 いい感じです! このまま気分良く終わらせましょう!

「恋人には甲斐甲斐しく尽くし、親身に寄り添うタイプ」

「うんうん」

 灯織さん、ご満悦。

「そして恋愛にのめり込み、仕事をおろそかにし、恋人を束縛し始めます。つまり重い女」

「…………」

 灯織さんがうつむいて、クッションで顔を隠しちゃいました。

 どうしてこんな事に……。

 灯織さんを励まさなきゃと思ったら、甘奈さんと目が合い、うなずきあう。こくり。

「灯織ちゃーん、このコーヒーどうやって作ったの? お店のエスプレッソみたいに濃厚だよ」

「灯織さん! あたしに作ってくれたのは何ですか!? ホットスイーツ……?」

 スゴい話のそらし方だけど、占いの事はちょっと忘れてもらおう。

 その方が絶対いいです! ねっ、灯織さん?

「……トルココーヒー」

 灯織さんがボソッと言った。

「トルココーヒー?

 甘奈さん、知ってますか?」

「ううん。トルコのコーヒーかな?」

「トルコ……名前は聞いた事ありますけど」

 甘奈さんと二人で首を傾げてると、灯織さんが顔を上げてくれた。クッションをぎゅってして、まだ何となく悲しそう。

「トルココーヒーの粉と水を、小鍋で煮て作るの」

「なるほど。手間をかけた分、美味しくなるわけだ」

 コーヒーの粉……。

 さすが粉ものマスター灯織さんです! こんな、お店で出てくるようなのを作れるなんて。

「あ、もしかして灯織ちゃん……?」

 甘奈さんがニヤニヤして聞く。

「プロデューサーさんに作ってあげるため?」

「べ、別に……いつも、同じので飽きないかと思っただけで……」

 灯織さんの頬がちょっと赤くなってます。

「あ~あ。プロデューサーさん、こんな美味しいコーヒー知っちゃたら、もう灯織ちゃんが入れるコーヒーしか飲めなくなっちゃうなー」

「はい! 一家に一人、灯織さんです!」

「そ、そんなことは……」

 灯織さんがニヤつくのを我慢してます。マメ丸ならもう尻尾ぶんぶん丸です。

「あ」

 甘奈さんが、触っていたスマホを見て声をあげた。

「なんですか?」

「トルココーヒーで検索してたんだけど……」

 甘奈さんがフフッと笑う。

「トルコではコーヒーを上手に入れるのが花嫁修業の一つ、なんだって」

 ニコニコの甘奈さんに見られた灯織さんは、あわてて首を振った。

「ち、違うから! これは占いをするためで!」

「「占い?」」

「そう! カップの底に残ったコーヒーの粉の模様で、占いをするの!」

 模様? そういえば苦い粉が下に沈んでた。

 灯織さんは、あたしと甘奈さんが飲み終わった後のカップに受け皿でフタをした。そして、そのままひっくり返す。

 少しして受け皿に液体が移ったのか、灯織さんはカップをあたし達の前に戻した。

「粉の模様、何に見える?」

 のぞいてみると、なんとなくマメ丸に見えるような……。

「甘奈は花に見えるかな」

「花か……」

「あれ? なーんか良くなかったり?」

「うーん。花の模様は、癒しと穏やかな時間を求めてるときに見えるから……。

 ストレス、たまってる?」

「え? そんな事……ないと思うけど」

「今度、買い物でも行く?」

「行く! 一番星ショッピング☆」

 ……そういえばこの間、事務所で甘奈さんに会っても元気なさそうだった。

 聞いた話だと、千雪さんと何かの賞をめぐって争ってたらしい。

 もし、あたしがそんな事になったら……。

「果穂のカップは何の模様に見える?」

「あっ、はい……。

 灯織さん、これ、マメ丸ですか?」

「うん、果穂にはマメ丸に見えたんだ」

「あんまり、はっきりとじゃないんですけど」

「いいよ。犬の模様はね、信頼できるパートナーの予兆」

「よちょう?」

「今、素敵なパートナーがいるのなら、それは生涯大切な存在になるかもしれない」

「パートナー……」

 放クラの……一番星の……283プロの……だと多すぎるから、パートナーっていうとやっぱり、プロデューサーさんになるのかな?

 でもプロデューサーさんは、みんなのプロデューサーさんだから……。

 あたし――獅子座A型――は、意外と独占欲が強くて尽くされたいタイプらしいし、プロデューサーさんを独り占めしちゃったら、みなさんに迷惑が……。

 でもでも、獅子座A型と相性が抜群なのは『優しい父親のような男性』って書いてあるし、これってプロデューサーさんの事、だよね……。

 

 あたしの、一生のパートナー……。

 

 

どうすれば大切な存在か分かるのかな……?

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