静かな湖畔、街の灯りもとどかない辺境にあるキャンプ場にきた。時節は冬、雪が降り積もったキャンプ場はとても綺麗だ。
流石にテントを張るのは辛かったので今回はキャンピングカーを乗り入れてのキャンプである。
テントを張る手間が無い分、晩御飯は腕によりをかけて豪華なのを作ってみた。
「リンの手料理か」
そう言ったのは今回一緒にキャンプをする私の恋人だ、口にすると恥ずかしいな。キャンピングカーも彼の物。
出会いはなんて事ない、たまたまキャンプ場で一緒になる事が多く、何となく顔を知ってる状態で話してみたら意外と話が合った。それだけだ。
告白もしていない、いつの間にか一緒に居て、いつの間にか恋人になってた。
「見ておるがいい、三ツ星シェフリンの腕前を」
私は慣れた手つきでお湯を沸かし、慣れたてつきでレトルトパウチを投入し、慣れたてつきで持ってきたご飯に盛り付けた。
カレーを。
「三ツ星シェフの腕前はどうした」
「フッフッフ、まだまだ甘いな。そのレトルトの袋を見るがいい」
彼は言われた通りにレトルトの袋を見る。そこには大きく「三ツ星シェフが選ぶカレー」と書かれていた。
「ここにいたのか三ツ星シェフ」
「更に愛も込めた」
「辛いな、リンの愛」
カレーだからな。
それにしても雪の湖畔は綺麗だ。冷たく澄んだ空気は喉に痛いが、どこか清涼で夜空を明るく見せてくれている。湖は淀みがなく夜空を映し幻想的な風景を醸し出していた。
「これは凄い」
私はスマホで撮れるだけ湖畔の風景を撮っていく、ここは電波が通らないから後で皆に見せてあげよう。
夢中になって写真を撮っていると、不意に彼がコートを被せてくれた。
「もう少し厚着しとけ」
「うん、ありがと」
こういうのをさらっとやってのけるのは卑怯だと思う。
普段は無愛想で口数も少ない彼だが、根っこはとても優しくて気遣いの上手い男性だ。料理がてんでダメなのが欠点だが、そこが可愛いとも思う。
口が裂けても絶対言わないけどね。
一通り撮れたら焚き火へ戻る。焚き火の熱が冷えた私の心を暖めてくれる。
「ほぉぉ、やはり焚き火はいいものですな」
「そうだな」
肌が乾燥してしまうのはいただけないが。
「なぁリン、俺達っていつの間にか付き合ってたよな」
「うん、いつからって聞かれたら困るぐらい」
「これからもいつの間にかが続くのだろうな」
「そうかもね」
でもそれはとても素敵な事だと思う。彼が何を言いたいのかはわからないが、きっとこれからもいつの間にか彼と進展しているのだろう。
「あのさ、いつの間にかプロポーズしてたら、受けてくれるか?」
「は?」
何を言っている。
いやいや待て待て、それはどういう意味……今取り出したその箱は何だ。指輪じゃないか。
えっ、待ってもしかしてもしかしなくてもそういう事なのか?
「えっ……あっ、えと。うん」
戸惑い、頭が混乱していたけど。でもこうやって頷く事だけははっきり知覚していた。
私は冷めた人間かと思っていたが、こうやって好きな人からプロポーズされたら嬉しさで我を失うくらいに情愛を持っていたらしい。
「よかった、断られたらどうしようかと思ってた」
「自分でもビックリするぐらい嬉しい」
「そうか、じゃあ早速リンのお父さんに報告しないと」
「え? もう?」
「ああ、既にリンのお父さんにはプロポーズをするって伝えてあるからな」
聞いてないぞ。