ゆるキャン イチャラブ   作:芳川見浪

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千明の場合

 あたしの名前は大垣千明、天下御免の……えっと、何か凄い女だ。いずれはキャンパーとして世界を征服してみせる!

 その時を楽しみにしてるがいい! フーハッハッハ。

「あの、大垣先輩? そこで変なポーズ取ってたら棚卸し出来ないんですが」

 あたしの偉大なポーズに見惚れたあまり、つい照れ隠しでそのような事を言うとは可愛いヤツめ。

 この男はあたしのバイト先の後輩だ、先輩であるあたしが何かとお世話してやっている可愛い可愛い後輩なのだ。

「店長〜、大垣先輩がまたサボってます」

「わあ〜! 待て待て! 棚卸しな! あたしが替りにやるから!」

「あ、はい。お願いします」

 あたしは後輩から棚卸しのシートを奪うように取り上げ、キョロキョロと周りを見渡して店長を探す。こないだ店長に怒られたのがトラウマになってて。

「あれ? 店長は?」

「いませんよ」

「…………たばかったな貴様ァ!」

 

 

 別の日。

「何で僕が荷物持ちを」

「こないだあたしを騙した罰だって、それにこんな美少女とお買い物デートなんて役得だろう?」

「確かに先輩は可愛いですし、美少女と言っても過言じゃないですけど。だからといってこの荷物は多すぎですって」

 後輩の両手には食材がパンパンに詰まったお買い物籠があり、更にリュックサックには新調したキャンプ道具も詰まっている。

 あたしは勿論手ブラだ。エッチな方の意味じゃないぞ。

 ただその時のあたしは荷物よりも後輩の言葉で動揺してしまった。さらっと言ってのけたが、こいつはさっきあたしの事を美少女だと言ったのだ。あまりの不意打ちで顔が逆上せそうな程熱くなってるし、胸もめっちゃくちゃドキドキしてる。

 少なくとも今は後輩の方を向くことはできないな。

「お、おう。まあこれもほら、あれだ……男の子の特権てやつだ」

「はいはい」

 

 

 またまた別の日。

 あれ以来妙に意識してしまって後輩の顔をまともに見れない日が続いたが、まあ何とか最近は持ち直した。

「おっしゃ! 今日はバイトだ」

 今日は後輩と同じシフトだったな。

 いつもと同じ道を通って酒屋に向かってる所、思いがけない場面に出会った。

「あおいと後輩?」

 通り過ぎた喫茶店、そこに大親友的ムーブのあおいと後輩がいたのだ。向かい合って楽しげに談笑している。いつの間に知り合ったんだよと思ったが、心当たりが多すぎたのでとりあえず割愛。

 問題は二人がめちゃくちゃ笑顔ってところで、ぐぬぬ、あおいめ、あたし以外の男の前であんなに笑うなんて。

 とても不愉快なので颯爽と駆け抜けてやった。

 その時のあたしはあおいにむけて冗談混じりに嫉妬心を向けたが、後になってどこか違和感をおぼえるようになってしまった、ほんとにあたしはあおいに嫉妬していたのか?

 

 

 更に別の日。

 あの日を境に後輩の顔をみると何故かイライラするようになってしまった。

 だってそうだろ、こいつこんな間抜けな顔して裏ではあおいと密会してるんだぞ、許せるか? いや許せないね、ほんと……なんで許せないんだろうな。

 とまあそんな感じでモンモンとしてたんだが、どうも解決しそうにない。そうしたら早くもバイトが終わって一日が終わりそうになってる。

「おつかれーす」

 早々に帰ろう。

 この辺は明かりが少ないから少し怖いんだよな。

「あの! 先輩、待って」

 はてさて、何やらあたしを呼ぶ声がするぞ。振り返ると思わず「ゲッ」と言ってしまった。

 後輩だったのだ。

 まいったな、今はあまり会いたくないのだが。しかもそんなあたしの気持ちには気付かずのうのうと話しかけてきて、腹たってきたな。

「なんだー後輩?」

 少し棘があるのは致し方ない。

「あの、大垣先輩って明日誕生日ですよね?」

「おう」

「まだ早いですけど、これ誕生日プレゼントです」

 後輩は照れ臭そうに大きな紙袋を差し出した。

 差し出されるまま受け取り、中を見ると、そこにはコンパクトチェアと火吹き竹が入っていた。

 どちらもキャンプ道具としてはあると嬉しい物で、そしてどちらも欲しかった物だ。

「大垣先輩が喜びそうなのわかんなくて、犬山先輩に聞いたんですけど、えと、気に入らなければ捨ててもらっても」

 あたしがぼおと見てるからか、後輩が突然自信無さげに話し始めた。

 はっきり言うとめちゃくちゃ嬉しい、この場で叫びたくなるぐらいだ。それにあの日あおいと出会っていたのはこのためと知ってあたしは心の底から安心したんだ。

「いや、すっげぇ嬉しい。ありがとな」

 自然と口許が緩んでいた。後輩もそれを聞いて安堵したのか、柔らかく微笑んだ。

 その笑顔を見た途端あたしの心臓は跳ねるように脈打ち始め、奥底に秘めていた感情を呼び起こした。

 なんて事ない、あたしは後輩に恋をしていたんだ。いつからかはわかんねぇけどそういう事だ。

「あのさ後輩」

「はい」

 この気持ちを伝えたい。あたしは心の勢いに身を任せるまま舌と唇を動かし、そして……。

 

 

 

  

 

 

 

 


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