何時かの昔、M16と話していた時。
「人形も走馬灯を見るのかしら」
何故か気になって、口に出していた。
「ありえないだろ。あれは原理的に夢と変わらないらしいからな」
「ふーん……、戦術人形だから、仕方ないのかしら」
「ああ」
――私達は人のように振る舞って居ながら、どうしようもなく人でなしなのだ――
「残念ね」
この意識が生まれてから、一体何度そんなことを考えたのだろうか。
「で?急にそんなことを聞くとか一体どうしたんだ」
きっと、思い出とは積み上げた価値に付随するものなのだろうと思っていた。
「いいえ、気になっただけよ」
「と、言うと?」
もし、走馬灯を見るような機会があったのなら……
「もし窮地に陥ったとして、垣間見る思い出なんて私に有るのかってね」
「全く……。今からそんなことを気にしてたらキリが無いぞ?」
私が最後を迎える時、私は、私の今までにどれだけの価値をつけるのだろう。
「死なない限りは続く命よ。浪費するくらい良いじゃない」
「そーかい。考え事をしてるくらいなら旨いもん飲み食いした方が良いと私は思うがなぁ……」
M16A1は、いつもの様に酒を飲む。
何でもないように酒を飲み続けるこいつは、自分にどれだけの価値を認めているのだろうか。
何時かの昔、SOPMODIIと二人にされた時。
「全く、よく飽きもせずそんな鉄くず弄ってられるわね……」
鉄血の量産品どもの亡骸を弄繰り回すSOPMODIIに、何故か苦言を呈していた。
「だって楽しいもーん」
「……はぁ……」
どうにも何故か不快感が止まらなかったのだ。
「ねぇ、あんた。
「楽しいからー……って言って納得する感じじゃなさそうだね?AR-15」
「まぁ、ね。……自分でもわからないけど」
今から振り返ってみたらとっても簡単な事だった。
一握りのハイエンドに嬲り殺され、死体さえも辱められる量産品に、自分を投影してしまったのだ。
「うーん、そうだなぁ……」
「……別に、悩むようなら言わなくてもいいわよ」
だから、心のどこかで恐れていたのだ。
「いや、ちょっと気恥ずかしいというかなんというか……」
「そうなの?」
この、どこまでも無邪気なままに他者を傷つけられる仲間を。
「まぁ、ね。よくも私の仲間を傷つけやがってー!って感じ、かなぁ……」
「……」
「いやぁ……、改めて言葉にすると、結構恥ずかしいよね。こういうの」
「……そうね。本音を言葉にするのって、どうにも難しいもの」
……どこまでも無邪気に、仲間を信じられる人形虐待嗜好者を。
何時かの昔、M4と相席になって。
「……あの、何か機嫌を損ねるようなこと、してしまいましたか?」
「……なんでそう思ったのよ」
こいつは、いつもそうだ。
「その、不機嫌そうな表情だったので……」
「なんでもないわよ」
無駄に他人の表情を伺うことばかりが得意なのだ。
「そ、そうですか」
「ええ、そうよ」
なのにどうしてこいつばかり、指揮官に気に入られて居るのだろうか。
「……」
「……」
どうしてこいつばかり、指揮官に褒められているのだろうか。
どうしてこいつばかり、指揮官に認められているのだろうか。
私もこいつと同じ、AR小隊の一員だ。
こいつと同じ、アサルトライフルを烙印された戦術人形だ。
こいつが指揮も戦闘もできるからなのか?
こいつが気も弱く付き合いやすいからなのか?
……こいつの方が、私よりも躯体が女性らしいからなのか?
……下らない仮定ばかりが浮かぶ。
「ねぇ、貴女……、指揮官からセクハラとか受けていたりしないわよね?」
「な、何を言っているんですかAR-15!指揮官とは別に、そういうのじゃ……?!」
何を言っているのだろうか、うちの隊長様は。
「に、しては妙に顔が真っ赤なようですが」
……揶揄う様に、本音を隠す。
「な、なななななっ」
これでは……
「もう……、あんまり入れ込みすぎない方が良いわよ?」
これではまるで、
「どうせ、何時かは別れることになるんだから」
「……わかっていますよ……」
人の様に焦って、人の様に照れて、人の様に拗ねて、人の様に誰かを思って……
……まるで、人間の様じゃないか。
何時かの昔、指揮官と――。
「……おい、AR-15」
「……何ですか、指揮官」
「いい加減訓練を止めろ」
「……嫌です」
「一体今何時だと思ってる」
「6時、ですよね……あぅっ!」
「ああ、その通りだ。んで、お前いつから訓練始めたよ」
「そ、それは……」
「昨日の12時だぞ。いくら作戦が予定されていないとはいえ、やりすぎだ馬鹿」
「馬鹿ってなんですか馬鹿って」
「馬と鹿と書いてバカとよみ、鹿を馬と呼ぶことが語源だとかなんとか」
「それ、今適当に考えませんでした?」
「いーや、うろ覚えだ」
「猶更質悪いですよ指揮官」
「あっはっは」
「笑ってごまかさないでくださいよ、もう」
「わーりぃわーりぃ」
「……で、指揮官。一体何の用なんです?」
「うーん……、なんだったかなぁ……。すまん、忘れちまった」
「はぁ……。全く、これだからうちの指揮官は」
「嫌いか?」
「いーえ、嫌いじゃありませんよ」
「好き、だとは言ってくれないんだな?」
「言ってほしいのなら、まずはその揶揄い癖を直してからにしてください」
「じゃあ一生無理だな」
「ええ、でしょうね」
「ぷっくく……」
「あはははっ」
「じゃ、とりあえず食堂でも行くか」
「はい、指揮官」
その身が砕けるその刹那、何時かの昔を幻視した。
『別に、戦術人形にだって夢を見る権利が有っても良いでしょ?その方が夢があるじゃない』
『色々思う所は有ったけども、一緒に居て、楽しかった。ずっと一緒に居たかった』
『ずっと貴女が羨ましかった。貴女の様に誰かに必要として貰いたかった』
『ずっとずっと貴方の為に戦い続けたかった。貴方との日常をもっともっと続けたかった』
言いたいことが、まだ沢山有ったのに。
「皆の、あの人の為に私ができる事は、まだ、もっと、他にも有ったんじゃ……」
最後には、後悔だけが口から毀れた。
隠し続けた羨望は、結局、最後だというのに。
最期まで、私は外に出せなかった。