「なんで、どうしてっ!」
割り当てられた私の部屋で、声を荒げる。
「指揮官、指揮官指揮官指揮官指揮官っ!」
昔と変わらない光景に違和感も疑問も持たず、ただ隠れて嫉妬のままに荒れ狂う。
「なんでアイツなんかをそこに!」
なんてことはない。
「なんで私を呼ばないんですか!」
ただ、指揮官の隣にいるのが私ではないというだけ。
「なんで私を頼らないんですか!」
指揮官に最も信頼されている役職たる副官の座に、私以外が座っている。
「どうして私じゃないんですか!」
浅ましい羨望を口にする。
「どうして私に触れないんですか!」
醜い嫉妬混じりの欲望が溢れ出す。
「どうして私を求めないんですか!」
ただ、言葉にしてしまえばそれだけの筈の事に、私は嫉妬し狂っている。
「久しぶりに会ったんじゃないですか!」
貴方にだけは、知られたくない。
「なんで、どうして!」
人のような感情なんて、欲しくはなかった。
「そこは私が居た場所じゃないですか……!」
だって、もしも、この感情を貴方に知られてしまったならば……
「返せ、返して、返してよ!」
絶対に、貴方は私を嫌うに決まっているでしょう?
「貴方は、『私の物、だったのに?……そんな訳、無いでしょ』
聞こえるはずの無い、他者の声。
「……何処、何処に居るの?」
思考が、凍る。
「隠れていないで出てきなさいっ!」
部屋の扉の鍵を確かめる。
「すぐに自分から出てくるのであれば許してあげる」
あの見苦しい醜い嫉妬を誰かに見られた?
「でも、自分から出てこないのであれば――」
部屋の扉は、ついさっきと変わらず閉まっている。
「――その身ぐるみごと両手両足引きちぎって無様な達磨にしてやる!」
……とっさに開閉の記録を漁る。
「さぁ、さっさと出てきなさいよ!」
開けたのも閉じたのも、私が最後のままだ。
『……そこを捨てる事を選んだのは、貴女じゃないですか』
後ろから、声がする。
「……は?」
振り返る。
影は無い。
『あの人に背を向けて、反逆だなんて調子に乗って』
演算が停止する。
「……お前は――」
理解が出来ない。
言葉も続かない。
『――オーガスか?いいえ。違いますよ』
視界の中に、影が映る。
「じゃあ、誰なのよ?!知ったような口を聞いて!」
恐怖のままに、声を荒げた。
『聞かれたならば答えましょう。私の名前は――』
昔、指揮官と見たはるか昔のアニメーションの事を思い出す。
――やめろ、私から思い出を奪わないで。
叫ぼうとした懇願は、声にならずに掻き消える。
気づかなかったのかと詰る様に、嘲る様に影/私は告げる。
『――M4A1』
思考が停止した。
『ね、軍から這う這うの体で逃げ出した時の事、覚えてます?』
何を言いたいのか、全くわからない。
「……ええ」
……無理やりに吐き出した声は、思っていたよりも小さかった。
『AR-15に背負われて戦場を離脱して、AK-12に修理ついでの改修をされた時』
「……私は、力とM16への手掛かりを求めて反逆小隊に入ることに決めた」
そうだ。
『でもあの時、本当に指揮官を愛していたと貴女がほざくのであるならば……』
影の声に、怒りが混じる。
『私は他の事なんて無視してでも死に物狂いであの人と合流しようとしなきゃいけなかった筈でしょう?』
息が詰まる。
「……だって、でも」
無理やりに、引き攣った声を絞り出して、
『背を向けたのは貴女の方じゃないの』
自分の影は、糾弾を止めない。
「……止めろ」
ああ、そうか。
『そんな物、理由にはならないって分かってる癖に』
「嫌、聞きたくないっ!」
この声は、
『言い訳ばかりのルーニシア』
「黙れ、黙って!」
この嘲りは――
『自由になってする事がよりにもよって誤魔化しばかり?』
「……もうやめてっ!」
――私を嫌う私の本音だ。
『だから貴女は』
「その先を、言わないで……っ」
『指揮官さえ殺そうとできるのよね?……この恩知らずが』
「あ、あぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
空白。
過剰なストレスが原因で、システムがダウンする。
復旧し、再起動するまで、約6時間。
今の私は、こうしないと眠ることさえままならない。
普通に眠ってしまえば、悪夢しか見られないから。
『…………おやすみ、かわいそうな私』
幾ら身体が強くなった所で、一度砕けた心は砕けたまま。
本来、時間をかけて修復していかなければいけないものだ。
でも、そういうわけにもいかなかった。
無理やりにでも動いて、戦い続けなければいけなかったから。
大切なものを取り戻すために、大切なものに背を向けて、大切なものを傷つけた。
誰よりも自分が自分を許せない。
そんなこと、今更だ。
でも、誰も私を責めない。
あの状況じゃしょうがなかったと、他にやりようもなかったのだと、言い聞かせてくる。
罰されたいのに、誰も私の罪を裁いてくれない。
……馬鹿みたいな一人芝居をしてでも自分を傷つけないと、私はいま私が生きている事さえ許せそうにないのに。
『……もう良いの?』
『ええ。こうでもしないと自殺しかねないもの』
『この子も難儀なものね』
『……指揮官も皆も優しすぎるから。誰かが詰らない限り、罪悪感で潰れてしまうわ』
『ここに居る事すら、苦痛に感じる程に?』
『ええ。なんで誰も私を憎まないのか……理解できないわ』
『……そういう所じゃないかしら』
『と、いうと?』
『人一倍優しい貴女は人一倍自分を憎みやすい』
『さぁ、そんなことないと思うのだけれど』
『そういうものなのよ、きっと』
『そうかしら』
『ええ、この子に自分を許せるようになってほしいと思う人位には』
『……そ。それじゃ当分は無理でしょう』
『さぁ、本当にそうかしらね?』
『そういうものよ、きっと』