「……変わらない、か」
基地に割り当てられた自分の部屋を見て回る。
「あんなことが有ったのに……」
使い慣れたままの自分の部屋。
「態々前の基地から取って来たのかしら……」
変わっていなければおかしい筈の、自分の部屋。
「……全部って訳では無さそうね」
幾つかの家具は、傷も何もない真っ新に。
「……私みたい」
今の自分を暗示しているようで、笑ってしまう。
『……そうね、その通りよ』
声が、聞こえた。
「……誰かしら?」
『言わなくてもわかるでしょう?』
指揮官にも、他の人形にも何故か避けられている。
「まぁ、ね」
知る限り、暫くはこの部屋に寄り付かないだろう。
「鉄血のウィルスか何かでも残っていたのかしら」
『……思ってもない事を言うのは止めなさい』
振り返る。
「ふふ、ごめんなさいね。私?」
そこには、何時かの私が立っていた。
『何故、貴女はそうやって笑っていられるの?』
「……さぁ?」
『笑ってないで答えなさいよ……!』
彼女は激昂し私に掴み掛ろうとして、
……すり抜ける。
『……ちっ』
私、こんなに短気だったかしら?
「別に貴女と私が変わった所なんてそう多くないのよ」
今の私は、何故か妙に落ち着いている。
『……え?』
ああ、そうか。
「ただ単に、怖がる事を止めただけ」
うん、そうだ。
それだけでしかないんだ。
『それって……どういう事なの?』
「……一人だけ劣っている私は、一人だけ捨てられてもおかしくない」
『ずっと、ずっと私はそう思っていた』
そう、ずっと、ずっと私の心には劣等感が染みついていた。
「でも今になって、ようやく気付いた」
指揮官との出会いを思い出す。
『……何を?』
「劣っているかなんて、あの人には関係なかったんだって」
窮地に陥っていた私が助けられたあの日を。
『……』
「あの人は、とっくに私を認めてた」
指揮官との別れを思い出す。
『……そうね』
「私が私もあの人も認めていなかっただけ」
自分が皆を助けられるのなら。
体が勝手に動いていた。
『……』
「だからあの人に私がどうするべきか、何てこともわかってる」
自分がいなくなって、周りがどう思うか。
『……それは?』
「まず最初にあの日勝手な行動にでたことを謝って……」
きっと傷ついたのだろう。
「私があの人と別れてから一体何があって、どう過ごしてきたか……」
きっと傷ついてきたのだろう。
「思い出話って奴をしようかしら」
きっと、それ以上に色々なことが有ったんだろう。
『……それが一体何になるって言うのよ!』
「別に何にならなくても良いのよ」
『は?』
そう、何でもない事のように、話せばいいのだ。
「ただ、私が自分を認められるようになったって伝えるだけ」
『でも、だって、皆は、あの人は、私を避けてて――』
それは確かにそうだ。でも。
「それも結局、私の勘違いなんじゃないの?」
でも、それは私から見たら、というだけの話。
『――え……』
「ただちょっとタイミングが合わなかっただけよ」
『じゃあどうして……っ!』
少し視点を変えてしまえば、ほら。
「ほら、これ」
ついさっき、ごみ箱の中から拾ってしまったものを広げなおす。
『……さ、ぷらいず……?』
サプライズ!おかえりパーティ……だなんて
いやにファンシーなフォントで書かれたタイトルの企画書。
「案外、真相なんて簡単なものでしょ?」
……詳細なんて今更見なくてもわかる。
『……そう、ね』
予定とか段取りの部分には一切目を通さず、すぐ丸めなおす。
「私もそうよ」
つい微笑んでしまう。
「変わったんじゃない」
ああ、なんだ。
「今まで見なかったことに気が付くようになっただけ」
『……そっか』
「ええ、そうよ」
こんなにも単純な事だったのか。
「そろそろ、呼びに来てくれても良い時間よね」
なんとなく、右手を握りしめる。
「……この感覚だけが、私を安心させられる」
呟き、何時かを思い出す。
嘗ての彼と繋いだ手の温度の感覚を。