メンタルアップグレードに関する各種記録   作:由祐

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「この感覚だけが、私を安心させられる」


AR-15MOD3:変わらない自分

「……変わらない、か」

 

基地に割り当てられた自分の部屋を見て回る。

 

「あんなことが有ったのに……」

 

使い慣れたままの自分の部屋。

 

「態々前の基地から取って来たのかしら……」

 

変わっていなければおかしい筈の、自分の部屋。

 

「……全部って訳では無さそうね」

 

幾つかの家具は、傷も何もない真っ新に。

 

「……私みたい」

 

今の自分を暗示しているようで、笑ってしまう。

 

『……そうね、その通りよ』

 

声が、聞こえた。

 

「……誰かしら?」

 

『言わなくてもわかるでしょう?』

 

指揮官にも、他の人形にも何故か避けられている。

 

「まぁ、ね」

 

知る限り、暫くはこの部屋に寄り付かないだろう。

 

「鉄血のウィルスか何かでも残っていたのかしら」

 

『……思ってもない事を言うのは止めなさい』

 

振り返る。

 

「ふふ、ごめんなさいね。私?」

 

そこには、何時かの私が立っていた。

 

『何故、貴女はそうやって笑っていられるの?』

 

「……さぁ?」

 

『笑ってないで答えなさいよ……!』

 

彼女は激昂し私に掴み掛ろうとして、

 

……すり抜ける。

 

『……ちっ』

 

私、こんなに短気だったかしら?

 

「別に貴女と私が変わった所なんてそう多くないのよ」

 

今の私は、何故か妙に落ち着いている。

 

『……え?』

 

ああ、そうか。

 

「ただ単に、怖がる事を止めただけ」

 

うん、そうだ。

 

それだけでしかないんだ。

 

『それって……どういう事なの?』

 

「……一人だけ劣っている私は、一人だけ捨てられてもおかしくない」

 

『ずっと、ずっと私はそう思っていた』

 

そう、ずっと、ずっと私の心には劣等感が染みついていた。

 

「でも今になって、ようやく気付いた」

 

指揮官との出会いを思い出す。

 

『……何を?』

 

「劣っているかなんて、あの人には関係なかったんだって」

 

窮地に陥っていた私が助けられたあの日を。

 

『……』

 

「あの人は、とっくに私を認めてた」

 

指揮官との別れを思い出す。

 

『……そうね』

 

「私が私もあの人も認めていなかっただけ」

 

自分が皆を助けられるのなら。

 

体が勝手に動いていた。

 

『……』

 

「だからあの人に私がどうするべきか、何てこともわかってる」

 

自分がいなくなって、周りがどう思うか。

 

『……それは?』

 

「まず最初にあの日勝手な行動にでたことを謝って……」

 

きっと傷ついたのだろう。

 

「私があの人と別れてから一体何があって、どう過ごしてきたか……」

 

きっと傷ついてきたのだろう。

 

「思い出話って奴をしようかしら」

 

きっと、それ以上に色々なことが有ったんだろう。

 

『……それが一体何になるって言うのよ!』

 

「別に何にならなくても良いのよ」

 

『は?』

 

そう、何でもない事のように、話せばいいのだ。

 

「ただ、私が自分を認められるようになったって伝えるだけ」

 

『でも、だって、皆は、あの人は、私を避けてて――』

 

それは確かにそうだ。でも。

 

「それも結局、私の勘違いなんじゃないの?」

 

でも、それは私から見たら、というだけの話。

 

『――え……』

 

「ただちょっとタイミングが合わなかっただけよ」

 

『じゃあどうして……っ!』

 

少し視点を変えてしまえば、ほら。

 

「ほら、これ」

 

ついさっき、ごみ箱の中から拾ってしまったものを広げなおす。

 

『……さ、ぷらいず……?』

 

サプライズ!おかえりパーティ……だなんて

いやにファンシーなフォントで書かれたタイトルの企画書。

 

「案外、真相なんて簡単なものでしょ?」

 

……詳細なんて今更見なくてもわかる。

 

『……そう、ね』

 

予定とか段取りの部分には一切目を通さず、すぐ丸めなおす。

 

「私もそうよ」

 

つい微笑んでしまう。

 

「変わったんじゃない」

 

ああ、なんだ。

 

「今まで見なかったことに気が付くようになっただけ」

 

『……そっか』

 

「ええ、そうよ」

 

こんなにも単純な事だったのか。

 

「そろそろ、呼びに来てくれても良い時間よね」

 

なんとなく、右手を握りしめる。

 

「……この感覚だけが、私を安心させられる」

 

呟き、何時かを思い出す。

 

嘗ての彼と繋いだ手の温度の感覚を。

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