老いたフレンズゲールマン≪完結≫   作:照喜名 是空

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ゆきやま

雪山地方は思ったよりも雪深かった。

かつて、カインハーストの城に忍び込んだ時を思い出す。

ヤーナムでも冬はかなり雪が降るが、しかしここまでとは……

 

「いやー、ゲールマンが『ふく』を持ってて助かったよー」

「あったかいのだ!これで寒さもばっちりなのだ!」

 

フェネックは墓暴き装束一式、アライさんはよれたヤーナム帽に狩人装束だ。

どれも、工房で作られた故、私が持っていた品だが……

やはり、フレンズにはあまり似合わない。

 

「そうかね、気に入ってくれたならば何よりだ。

しかし……足がとられるな。アライさん、フェネック。

すまないが少し枝を取ってきてくれるかね?」

「どんな感じの枝がいいのかなー」

「指ほどの太さのまっすぐな枯れ木が少々。葉のついた細い枝をたくさん。頼めるかね?」

「はーいよー。じゃあアライさんは葉っぱのついた枝を集めようかー」

「わかったのだ!きっとまた何か作ってくれるのだな!」

 

アライさん達を見送り、私は道の脇に壁のように積もった雪を見る。

大鎌である葬送の刃を取り出し、慎重に刃を入れていく。

隕鉄を含むが故にわずかながら神秘の力を有すそれは雪をバターのように切れる。

やがて、雪の壁を四角く切り取ることができた。

 

「取ってきたのだ!」

「おー、隠れる場所ができていいねえー」

「では、少し休みつつ道具を作るとしようか。枝をかしたまえ」

 

私は枝についた雪を振り落とし、床に敷き詰める。

これで少しは寒さがしのげるはずだ。

 

「あったかいのだ!座っても寒くないのだ!」

「それで、ゲールマンは何を作るのかなー」

「今回は、ごく簡単なスノーシューと笛を作ろうと思う」

 

スノーシューとは雪上を歩くための靴につける道具だ。

枝を曲げて楕円にして、靴にしっかりと結びつける。

本来であれば足裏に板なり皮なり張りたい所だが、ないものは仕方ない。

 

「おおーこれはー?」

「靴……足につければ雪に沈まずに歩くことができる。後で、結んであげよう」

「ええー?ほんとなのだー?」

「まー試してみたらわかるよアライさーん」

 

アライさんは疑わしそうに眉を寄せる。

気持ちはわかる。私も最初はそうだった。

こんなもので雪を歩けるわけがないと。だが、先人の教えとは偉大なものだ……

 

「さて、では笛を作ってみるとするかね」

「おおー!楽しみなのだ!」

 

指ほどの太さの枯れ枝にナイフで切り込みを入れて形をなしていく。

穴は実はドリルがなくとも開ける方法はある。

うまく切り込みを入れ、瓶のふたを開けるようにひねれば年輪に沿って表層部分がはがれるのだ。

後は内部に切り込みを掘り、にかわなどでくっつければ良い。

今回は狩り道具の中から蝋燭を使った。

 

「うわっ、火なのだ……」

「まーこわいけど、このくらいの大きさなら大丈夫だよー」

 

今回もまるで熟練の職人のようにあっという間に出来た。

手慰み程度に知っていただけなのだが。

やはりサンドスターの啓蒙を得ているようだ。

 

「さあ、これで出来た。吹いてみたまえ、調整しよう」

「おおー、さっそくやってみるのだ!」

「アライさんの分も作ってくれてありがとうねー」

 

やがて、賑やかな音が響く。

 

「おおー、なかなかいいねえー」

「むむ……ゲールマンみたいに上手く吹けないのだ……練習あるのみなのだ!」

「なあに、直に慣れる。時間はかかるがね。さて、歩きながらするとしよう」

 

雪山とは天候が変りやすい。早めにいくべきだ。

私は床に敷いた枝を回収して夢に取り込む。

この自らの夢の中に装備を回収する業は夢を見なくなった狩人でもできるものだ。

「夢」と「輝き」と「遺志」。それらはとても近い位置にあるのだろう。

人の想い、信仰。そういったものが力を持つ……優しげな神秘ではないか。

 

「おー!ゆきやまたんけんなのだ!」

「このすのーしゅー?ってやつも試したいしねー」

 

我々は目が痛くなるような白い雪原を歩き続けた。

楽しげな笛を聞きながら。

 

「これすごいのだ!本当にすいすい歩けるのだ!」

「おー、悪くないねー」

 

やがて、遠くに温泉施設が見える頃になると雪がちらつき始めた。

息が白く、かなり冷える。

私はスキットルからわずかにブランデーを飲んだ。

血の酒ばかりのヤーナムで、ローレンスが密かに輸入していたものだ。

消毒や麻酔にも用いられたが、血の酔いを打ち消す手段の一つとしても試みられた。

 

「……ふう」

「あれっ、ゲールマンそれは何なのだ?」

「ああ、これか。これは酒と言って……そうだな、一種の薬だ。

わずかに身体を温めるが、あまり多く飲むとめまいや吐き気に襲われる。

フレンズにはあまり美味しいものではないだろう」

 

フェネックとアライさんはくんくんとブランデーの匂いをかぐ。

 

「うへっ、とても飲めそうなものじゃないのだ……」

「これは確かに薬だねー。本当に寒くなったら頼もうかなー」

「ああ、飲むべきものではない」

 

そうこうしているうちに雪はだんだんと吹雪いていき、

宿に着く頃にはかなり危険な寒さになっていた。

とはいえ、なんとか間に合って屋内に来れた。

僥倖だろう。

 

「あら、いらっしゃーい」

「なんかまた来た……」

「ああ……見ての通り、雪に降られてしまった。少し休ませてくれないかね?」

「ええ、お湯に入っていくといいわ」

「ありがとう」

 

二人の狐のフレンズが出迎えてくれたが、アライさんたちは返す言葉もなく。

我々は雪を落とし寒さに震え。

玄関先のベンチでスノーシューを外し、そのまま絨毯の上にへたり込んだ。

 

「さささ寒い!寒かったのだゲールマン!そのサケ?とやらをよこすのだ!」

「私もちょっと欲しいかなー外は寒すぎるよー」

 

玄関先ではあるが、宿の中は暖かい。

つまり、少々飲んでも危険は少ないだろう。

だが、人間とはその悪食さから解毒機能が他の動物と比べて極めて優れている。

故に元々動物であるフレンズの解毒機能は人よりずっと弱いだろう。

 

「ああ、では一杯だけ飲み給え」

 

ごく少量、ショットグラスに半分だけ。

夢からグラスを取り出し二人に渡す。

 

「か、辛い!火を噴きそうなのだ!」

「苦いお薬だねー。おみずちょうだーい」

「とりあえず、中に入ったら?少しは暖かいし休めるところもあるわよ。お湯も飲めるわ」

 

お湯か……こんな寒さだ。紅茶にブランデーを垂らしたいところだ。

あるいはもう少し豪勢にティー・ロワイヤルも良い。

内部に入るとだいぶ寒さも和らぐ。

どうやってか、温めた空気を天井から流しているらしい。

しかし変った建築様式だ……これは、かつて絵で見た極東の建築様式だろうか?

緋色の絨毯にタタミという草であったマット。

なんとも神秘的で優雅ではないかね?

 

「とりあえず、ここで休むと良いわ。疲れが取れたらお湯で暖まっていって」

「はいお湯。飲むとあったかいよ」

 

黄色の狐のフレンズがコップに入ったお湯を3人分出してくれた。

ありがたい……

 

「ありがたくいただこう」

「やー助かるよー。思ったより苦い薬でさー」

「ぷはぁー!生き返ったのだ!」

 

我々はタタミに座り込み、足の低いテーブルについた。

ぐったりとアライさんとフェネックがテーブルの上に上半身をあずける。

 

「あー……ここはあったかいのだー……」

「おさけ?が効いてきたみたいだねー」

「ふくをぬぐのだ。おもったよりあっついのだ……ぬへー……」

「ここはあったかいし、これはかえすよー」

 

アライさんたちは狩り装束を脱いで私に返した。

頬がほのかに赤く、目が潤んでいる。

立派な酔っ払いだ。少し飲ませすぎただろうか?

 

「ぬへ、ぬへへへ……なんだかとってもたのしいのだ……あっかくてしあわせなのだ……」

「やー、なんだかわたしもへんな気分になってきちゃったかなー。おふろいこっかアライさん」

「ぬへー……それはもっとあったかいのだ?」

「きっとあったかいよー」

 

銀色の狐のフレンズが心配そうにこちらを見ている。

 

「すまないが、風呂まで案内してやってくれるかね?

それから、水を用意してくれるとありがたいのだが」

「え、ええ……なんだか私も心配だわ。キタキツネと二人で様子を見るわね」

「えー、めんどくさいよ-」

「すまないね。私も何か手伝えることがあれば手伝おう。手先は器用なんだ」

「それじゃあ、後で調子の悪くなった装置の手入れを頼もうかしら」

「じゃー、ゲームの相手してー」

「ああ、任せたまえ」

 

ふらふらと歩き出すアライさんたちに狐のフレンズたちがついていく。

湯あたりせねば良いのだが……

 

 

お湯を使い紅茶を入れる。

お湯は備え付けてあったポットから取った。

これも何らかの仕掛けがあるらしく、ずっと暖かい。

濃く入れた紅茶をコップに入れ、スプーンの中にブランデーに浸した砂糖を作る。

そして、砂糖に火をつけてゆっくりととろかす。

少し焦げ目がつけば紅茶の中に入れれば良いのだが……

 

「いかんな、一人になるとどうも感傷的になっていかん」

 

火の中に、思い出を見いだしてしまう。

かつてあの庭でマリアと愛を語らったこと。

彼女を泣かせ、そして失ったこと。

火だるまになり獣と化したローレンス。

私は葬送の刃で彼の首を切り飛ばした。

長い長い償いの夜。

あの優秀な狩人。

そして……ジャパリパーク。

 

「私は……罪を償えたのだろうか?結局は、すべてあの狩人のおかげだった。

なあ、ローレンス。君はどう思う……」

 

焦げた砂糖がどろりと紅茶に入る。

追憶の味は、甘く苦かった。

 

「あははアライさーん、洗ってるねー無意識にあらってるねー。

洗い上戸ってやつだねー」

「ぬへへへ、フェネックがどんどんきれいになっていくのだー……

うれしいのだ、たのしいのだー……ぬへ、ぬへへへ」

「わ、そんなところまで……あーストップしてもらったほーがいいかなアライさーん……

あはは……ふへっ……」

 

私は笑いをこらえきれなかった。

まるで天啓のようにタイミングが良かった。

 

「クックック……ああ、若いと言うことは素晴らしいことじゃないかね。

時があるうちに楽しみ給えよ……

そのためにならば、私は……」

 

これ以上はやめておこう。私が聞くべき事ではない。

アンティークのオルゴールを取り出し、ねじを回して奏でる。

なつかしい、メルゴーの子守歌だ。

これは遙か古代トゥメル人の時代から歌い継がれ……

かつてヤーナムでは縁起物として流行ったものだ。

悲しげな音色は、しかしどこか優しい。

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