老いたフレンズゲールマン≪完結≫   作:照喜名 是空

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げぇむとろっじ

湯あたりしたアライさんとフェネックを看病し、サウナで汗を流す。

バスローブはないが、上着を脱ぎ楽な服装に変える。

とても暖かい。生き返ったようだ。

 

「もう、二人に一体何を飲ませたの?大変だったんだから」

「すまない。私は飲み慣れているものだったのだが、いささか効き過ぎたようだ。

なに、水をよく飲ませ一晩も経てば治る」

「もう……じゃあ、後で修理を手伝ってもらうわ。

少し休んだら来てちょうだいね」

「ああ……」

 

ギンギツネを見送り、ベンチで休んでいるとなにやら楽しげな音楽が聞こえる。

寄ってみればキタキツネがなにやら光る箱の前に腰掛けて操作していた。

これもまた、ジャパリパークの技術という訳か。

 

「あ、ゲールマン。待ってたよー」

「ほう、これは何かね?」

「げーむだよ。この画面に映ってるのをこれでうごかしてー」

「ほう……」

 

絵を光で映し出し、それを動かす……幻灯のようなものなのだろうか?

ある種の、光で絵を描き出す仕掛けなのは解るが……

 

「きいてるー?ゲールマン」

「ああ、物珍しくてね。つい見入ってしまった」

「じゃーお手本みせるからー。後でやろー」

「うむ、私もこれには興味がある」

 

楽しげな音楽と共に、絵の中のキャラクターが動き、戦う。

どうやらフレンズを操作して戦うゲームのようだ。

ある種の決闘のような方式だとわかる。

 

「どう?できるー?」

「ああ、やってみよう」

「じゃー、反対側の席に座ってー」

 

私が反対側の筐体に座るとブゥン……という音がして絵が踊った。

確か始めるには、このボタンか……年甲斐もなく、わくわくするな。

 

「じゃー、ちょっと練習してみてねー」

「ああ、やってみる」

 

キャラクターを選ぶ……アライさんもいるのか。

どれ、アライさんを選んでみよう。

 

<まかせるのだ!>

 

声までついている。

おそらく、ジャパリパークが建設された時の代のアライグマの声なのだろう。

不思議なものだ。

なるほどこれがパンチでこれがキック、こうするとジャンプ、か……

わかりやすい作りだ。しかし、手足を動かすようには慣れが必要だろう。

 

「だいたいわかったー?」

「ああ、だいたいね」

「じゃーやるよー」

「どうぞ、かかってきたまえ」

 

キタキツネが操作すると画面が変り、アライさんとキタキツネのキャラクターが対峙する。

 

<ちからくらべ・スタート!>

 

キタキツネのキャラクターは巧みに私の操るアライさんを追い詰め、あっという間に狩った。

 

<ボクのターン!>

<ボクがんばってみる!>

<そこだーっ!>

<やられたのだーっ!>

 

どうやら、勝負がついたらしい。なるほど上のゲージが体力を意味するのか……

 

<あなたのまけ!>

 

これは、意外に引き込まれるな……

音楽や演出が人を楽しませるように作ってあるのもそうだが、純粋にゲームとして面白い。

これを作った人間は心の機微が解っている。

狩りに酔う感覚とよく似ている。それをこうまで安全な遊びで作り出すとは……

 

「ほう、これは面白い……」

 

素晴らしい。想いを紡ぎ、一つの世界を作り出す。

それは、上位者に因らず夢の世界を作り出すことに他ならない。

ウィレーム先生は正しい。人は人のままで上位者に与する事が出来たのだ。

しかし、それでもなお滅んだ。

やはり思索の次元を高めることよりも、獣性を克する事こそ進化には必要だったのだ。

つまり、しかしなんだ……

 

「もう一戦たのめるかね?」

「いいよー」

 

私はすっかりこのゲームに酔っていたと気づくのは、20回ほど負けてからだった。

 

「もうあきたー」

「いやしかしだな……」

「コラッ二人とも夜更かしはだめよ。ゲールマンは修理のお手伝い、キタキツネは寝る!」

「はーい」

 

そう言われて初めて己が遊技に酔っていたと気づいた。

いかんいかん。狩人狩りのカレルを思い出して気を落ち着ける。

狩人は皆狩りに酔う。かねて血を恐れたまえ。

年甲斐もなく、夢中になってしまった。

ヒトの紡ぎ出した「夢」。おそろしいものだ……

 

「あ、ああ……すまなかった。今、手伝うとも」

「もう、それじゃああっちから行きましょうか。あの高いところが……」

 

屋内の修理はそれから2時間ほどで終わり、我々は一泊することとした。

我々はかばんがここでも立ち寄ったことを聞き、アライさんはまた感心していた。

セルリアンの襲撃をソリで上手く切り抜けたらしい。

闇雲に戦うだけではなく、機転も利くようだ。

 

「この峠を越えれば雪山を抜け、温帯に入るか……途中、このロッジで物資を集めていこう」

「きっとそこにもフレンズがいるねー。何と交換しようかー」

「日中に集めた木々を使い何か作ってみよう」

「おーいいねー」

 

次の出会いを楽しみにしながら、私は木を削っていた。

 

 

昨日のように吹雪に吹かれることもなく、小一時間ほどで峠は越えられた。

雪山を抜けると、今度も森林地帯だ。

道に沿って歩けばロッジが見えてきた。

 

「次はどんなフレンズがいるか楽しみなのだ!」

「そーだねー、いろんなフレンズと会えて私もたのしいねー」

 

出会いを喜べるという素晴らしさ!

久しく忘れていた人間性をこの自然の中で取り戻せるとは皮肉なそして幸福なことだ。

大木の樹上に建てられたロッジ。なんとも風光明媚だ。

私は木の橋を歩き、ドアをノックをして尋ねた。

 

「失礼、どなたかおられるかね?少し休みたいのだが……」

「どうぞ、お入り下さい。開いてますよ」

「ありがとう」

 

ドアの軋みすら優雅なものだ。

中に入るとカウンターに鳥系のフレンズとテーブルに獣系のフレンズが二人いた。

 

「ロッジ・アリヅカにようこそ!今日はお泊まりでよろしいですか?」

「いや、少し休ませてほしい。それから、できれば交易がしたいのだが……

道具や施設の修理と引き替えに、ジャパリまんでどうかね?」

「おおっ、歓迎です!ぜひ道具を見せて下さい!」

 

私は夢から道具をいくらか取り出す。

コマや笛、知恵の輪にボール。実用品でスプーンや皿、コップなど。

 

「おおー!良い感じですね!これはどうやって使うんですか?」

「ああ、これは笛と言って……」

 

気を遣ったのか、アライさん達はオオカミのフレンズと話をしている。

 

「……それで夢でそのセルリアンに出会うと二度と夢から覚められなくなるのさ……!」

「ひえーっ!こわいのだ!」

「わー……おっかないねえ」

 

どうやら、ほら話をして脅かしているらしい。

あまり良い趣味ではないが、しかし物語を想像できるというのは極めて高度な知能だ。

絵すら描いている。あるいは、フレンズもまた「夢」に至るのだろうか?

 

「先生!新作のアイデアですかっ!」

「こらこら、アミメキリンくんネタばらしはまだ早いよ」

 

黄色に茶色い斑点のフレンズがオオカミににじりよる。

なるほど、絵本を書いているのか。

彼女はオオカミのファンらしい。

オオカミはアライさんの驚いた顔を見てクスクスと笑うとそれをスケッチする。

 

「プッ……ウフフ、うそうそ!いい顔いただきました。

冗談だよ。私は職業柄、いろんな表情を見るのが好きなのさ。

ほんの冗談だよ」

 

オオカミは妖艶に笑う。その美しさはどこかカインハーストの貴族を思わせる。

 

「ひっひどいのだーっ!騙されたのだー……」

「まーまー、冗談で良かったじゃないさー」

 

アリヅカは私との商談を終えてその様子を見て苦笑していた。

どうやら、いつものことらしい。営業妨害ではなかろうか。

 

「もう、あんまりお客さんを驚かせちゃいけませんよタイリクオオカミさん。

ロッジに変な噂がついたら困ります」

「おっと、すまなかったね。じゃあ……そこの背の高いフレンズ。

君は何かそういう話を知ってるかい?」

 

ほう、怪奇と噂話に充ち満ちたヤーナム人の私にそれを尋ねるか。

 

「ああ、いくつもね」

「ぜひとも聞かせてくれないかい?私もお代にジャパリまんを一個交換しよう」

「さて……どれが良いかな。禁じられた獣喰らいの鉄仮面か。

それとも、死を告げる鴉がよいか……ああ、これがいい」

 

私もヤーナム野郎だ。怪談は嫌いではない。むしろ好きすぎたのだ。

 

「君が言った醒めない夢に閉じ込められる怪異だが……

私はそれを本当に味わったことがあるのだよ」

「へえ……」

 

タイリクオオカミの目が妖しく細められ、前のめりに聞いてくる。

 

「私は愚かな男だった。

君のように怪奇や神秘にのめり込み、そういったモノと出会うためになんでもした。

そう、なんでもね……

師が止めたにもかかわらず、禁じられたおぞましい儀式の末、私はそれと出会ってしまった」

 

タイリクオオカミは魅入られたようにじっと聞いている。

誰も声を発さない。

 

「それは血のように赤い長い髪をうねらせ、身体はまるで樹木のようにねじくれていた。

顔は木のうろのように穴が一つあるだけの……

満月の夜にだけ現われるそれは、月の魔物と呼ばれた。

それは私の身体を抱き上げ、血をすすった。

そうして、私は愚かな好奇の代償を何年。何十年、何百年も支払うこととなった。

覚めない悪夢にうなされながら、私はそれの召使いにさせられたのだ。

そのとき初めて、師の言葉の意味を思い知ったのだ。恐れたまえ、という言葉の意味を……」

 

なんとも、間抜けで、愚かで、後味の悪い話だ。

 

「それで……君はどうやってその夢から覚めたんだい?」

「その夢から覚める方法はたった一つ。夢の中で誰かに殺されることだ。

長く私は、その夢に迷い込んだ者を夢から覚ましていた。

それが私の贖罪だった。

だが……最後に現われたのだ。黒い鳥のような狩人が。

それは私の介錯を拒否し、私を解放してくれた。

私の犯した罪を全て破壊することでね。

そして……私はサバンナで目覚めたのだよ」

 

タイリクオオカミは真剣な顔でこちらを見ていた。

しばらく、考え込んでペンを置いた。

 

「……とても、いい顔を見れたよ。でも今の私じゃそれを描けないや。

ジャパリまんに付け加えて何かお礼をしたいな」

「では、かばんさんというフレンズがここに来なかったかね?

もし来たのであれば行き先と、ここで何をしたのか聞きたい」

 

タイリクオオカミはホッとしたような顔でうなずいた。

 

「それならお安い御用さ。かばんは確かに来たよ。つい今日の朝に港に出かけていったんだ。

ここでかばんはね……」

 

ここでもかばんは活躍したらしい。

ラッキービーストの映し出した幻影を自分のせいだとかばって。

かばん、君もまた非を認められるフレンズなのだな……

 

「……と、こんな所さ。かばんもサーバルも面白いフレンズだったなあ」

「やっぱりかばんさんはすごいのだ!今度は名推理なのだ!」

「港かー。そろそろ追いつけそうだねー」

 

タイリクオオカミは何か決意に満ちた目で立ち上がった。

 

「ありがとう、新作のアイデアが浮かびそうだよ!

さっそくメモしよう。しばらく私はカンヅメになるよ」

「おおっ!今回は新機軸ですね!」

「ご利用、ありがとうございました!今度はぜひ泊まりに来てくださいね!」

 

ロッジのフレンズたちに見送られて我々は港へ急いだ。

森の小道だ。楽に追いつけるだろう。

アライさんが私を見上げ、尋ねてきた。

 

「ゲールマン、あれはほんとうのはなしなのだ……?」

「さてね、あれは長い夜の……悪い夢のようなものだ。そう、ただの夢なのだよ」

「なーんだ!ほっとしたのだ!」

「ねー。ゲールマンがあんまり悲しそうな顔をしてたから心配したよー」

 

ようやく、アライさんに笑顔が戻った。フェネックにも。

 

「……すまない。少し脅かしすぎたようだ」

「もし次ゲールマンがこわいゆめを見たらアライさんがひっ叩いて起こしてあげるのだ!」

「私たち、やこうせいだからねー」

 

ぺちんぺちんと私の背中を叩く小さな手が、どれほど心強かったことか。

大の男が、情けないことだが……それでも、その手は温かかった。

 

「……ありがとう。そのときは大急ぎで起きるとしよう」

「さーみなとにいそぐのだー!」

「あらいさーん、走ったらあぶないよー」

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