昼前には我々は港にたどり着く事ができた。
レンガで舗装された美しい港だ。
「おおー、これが海なのだ!とっても広くて大きいのだ!」
「潮の匂いがするねー。でも、かばんさんいないよー?」
見れば船が一隻だけある。蒸気船のように動力を使って動く船のようだが……
「出港したわけでもないようだが……さて、どうしたものか」
「おーい!かばんさんいないのだー?!」
「いないみたいだねー。どうする?アライさん」
アライさんはふぬぬぬ、としばらく考えて、赤い羽を取り出した。
それをくんくんと嗅ぎ、それから船の上を這いつくばって嗅いだ。
「かばんさんは、確かにここに来ていたのだ!これとおんなじ匂いがするのだ!」
「じゃあこのへん探してみるー?」
「あるいは、山に行ったのかもしれない。
その羽のついた帽子は、山に大切なものがあると示したのだろう?」
とはいえ、ここに来て手がかりを失ってしまった。
やはり近隣のフレンズや周囲を探した方が良いかもしれない。
あるいは、アライさんの嗅覚に頼るのも一つの方法だ。
「じゃあー、山の方に行ってみつつー、アライさんの鼻で追ってみようかー」
「それなのだー!アライさん、頑張るのだ!」
それから、我々は山の方に向かいつつ、かばんの痕跡を探していった。
「やっぱりこっちの方に向かって行ってるみたいなのだ!」
「それにしてもー、この穴は何だろうねー?」
「わからない、だが最近つけられたものだ。警戒はしておくに超したことはないだろう」
山の麓まで行ったとき、私はふとその頂上にあるサンドスター鉱床を見たくなった。
あれほど巨大なサンドスターの塊……当分はフレンズたちの生存は安泰だということだろう。
幸い遠眼鏡がある。どれ……
「あっ!ゲールマンそれは何なのだ?」
「これは遠眼鏡といって、遠くのものがよく見えるものだ。使ってみるかね?」
「ありがとうなのだ!これでかばんさんを見つけるのだ!」
「やー、やっぱりゲールマンはめずらしいのをたくさん持ってるねえ」
しかし、ここからあの壮大な山を見て人一人見つけられるものだろうか。
「あ!見つけたのだーっ!山の右のはじっこにいるのだ!
ちいーさいけど赤いふくを着て帽子をかぶってるのだ!」
「アライさんほんとー?ちょっと貸してみてねー……あー本当だねーいるねー」
アライさんたちの優れた視覚と野生の勘はとうとう、かばんを見つけたらしい。
「そうとなれば急ぐのだ!絶対にこの羽を渡すのだーっ!」
「まってよアライさーん、あ、これありがとうねゲールマン」
「ああ、急ぐとしよう」
アライさんは再び全力で駆けていった。
フェネックも遠眼鏡を私に返してついていく。
かばん、ヒトのフレンズよ。ようやく会うことができる。
人に会うのにこれほど期待と不安が入り交じるのは、どれほど久しいことか。
■
「ここに、何かが……今のうちに見つけた方がいい気がして」
「わかった!」
山頂。
そこにヒトとサーバルのフレンズはいた。
アライさんが走り出す。
「かばんさーん!ようやく会えたのだ!」
「うわーっ!食べないで…食べっ……えっ、ぼくですか?」
アライさんはかばんに抱きついて離れるとぶんぶんと握手した。
「そうなのだ!アライさんはかばんさんにこれを届けるために……
さばんなからずっとずっと追ってきたのだ!」
「えーっ!君、さばんなから追ってきたの?いったいどうして……」
「やー大変だったよー。色々あってねー。ハカセたちから頼まれたのさー」
ここでアライさんは赤い羽を取り出して掲げた。
「これをぼうしにつけるのだ!これはその帽子に元々あったものなのだ!
その帽子をアライさんに貸すのだ!つけてあげるのだ!」
「あ、はい。どうぞ」
アライさんが白い帽子に羽を刺し、かばんにそれを返す。
「はい、返すのだ!」
「ありがとうございます!」
アライさんの両手とかばんさんの両手の間で帽子が渡る。
そのとき、ラッキービーストがピピピ、と奇妙な音を上げた。
私には、何かそれがとても神聖な瞬間に思えた。
「あっ!これなのだ!これが聞きたかったのだ!」
「ミライさんのお話を?じゃあ、一緒に聞きましょう」
ラッキービーストの目が緑に光り、聞き覚えのない女性の声で話始めた。
「……その場所は火口の中心から東西南北、
えっとパンフレットで言うと『うの3』が中心点ですね。
この像が東の青龍なのであと3つ埋まっていると考えられます。
本当にサンドスターローの粒子をここでフィルタリングしているとしたら……
まさにこの島にとっての宝ですね」
かばんはラッキービーストの頭に帽子を乗せると、地図を取り出した。
やはり、ハカセの話と図書館での調査通りだ。
セルリアンの源となるサンドスターローをサンドスターに変える濾過装置。
これを修復する事も、目的の一つだった。
ようやくハカセからの使命を果たせる。
「えっと、うの3っていうのは……これとこれがひっつくところなのかな……
東西南北っていうのはなんだろう?」
「太陽が昇るのが東、沈むのが西でー。
確かこの印が北だからー。ゲールマン、コンパス持ってる-?」
「ああ、使い給えフェネック」
私はフェネックにコンパスを渡した。
「これで東西南北がわかるのさー」
「すごいですねフェネックさん、ゲールマンさん!
ということは、こことここ……それからこっちに何か……」
フェネックとかばんはあっという間に四神の位置を地図から割り出した。
ほんの少しの時間だが、かばんが聡明な人間であるとわかる。
邪な気配はみじんもない。
「何の話かさっぱりわからないよー」
「フェネックもかばんさんもやっぱりすごいのだ!」
「ふっふーん、かばんちゃんはすっごいんだよ!」
サーバルはごく善良なフレンズに見える。
そのサーバルがあれほど信頼しているのだ。
かばんもまた、やはり聞いたとおりの人物ということなのだろう。
「すいません、みなさん探すのを手伝ってくれますか?」
我々はうなずき、アライさん達は探し始めた。
■
「ところで、かばん。君に伝えなければいけないことがいくつかある。
作業の前に話しをさせて貰って良いかね?」
「あ、はい。いいですよ!何でしょう?」
穢れのない、良い瞳をしている。
ならばこそ、伝えねばならない。
「君はヒトの住処を探しているという。私はそれを知っている。
なぜなら、私もまたヒトのフレンズだからだ」
「ヒトのフレンズ……あなたもですか!?」
サーバルが怪しげに私を見る。
「えー?確かに羽も耳も尾もなくって帽子があるけど……でもなんだかぜんぜんちがうよ!」
ああ、そうだろうとも。
かばんがヒトのフレンズならば、私は人でなしのフレンズだ。
「ああ、だからこそ一人一種の枷を超えてフレンズ化できたのだろう。
見ての通り私はヒトから外れすぎた。いわばヒトから枝分かれした出来損ないの種族だ。
私は……狩人、ハンターだ。私はその最初の一人だったのだよ……」
霊長目ヒト科ヒト属ハンター
位置づけるならばそうだろう。
「へー、違う動物になることもできるんだね!それで、ヒトってどこに住むの?
ハンターって事はセルリアンも狩れるの?」
サーバルは明るくこちらに尋ねる。まるで太陽のようなフレンズだ。
良い意味で空気を読まず、ヤーナムの闇を照らしてくれる。
こんなフレンズに好かれるかばんもまた、悪い人間ではないのだと、確信できた。
「ヒトはおおよそどこにでも住む。森林でも、寒冷地でも、砂漠でも、どこでも。
しかし、その起源はサバンナにあるとされる。ヒトは元々サバンナに住んでいたのだよ……
そこから、どこまでも旅をして増えていった。
しかし、やはり雪山や砂漠はさすがに住む民は少ない。
サバンナはもちろん、森林や平原、湖畔などが良いだろう」
サーバルの顔が明るくなる。
まるで太陽が昇るように、花が開くように。
「じゃあかばんちゃんのなわばりはさばんながいいよ!
かばんちゃん、一緒に暮らそうよ!きっと楽しいよ!」
「……そうだね、サーバルちゃん。
フィルターを直して、このセルリアンを倒したら、きっと……」
その顔には、どこか心残りがあった。
ああ、解るともかばん。知りたいのだろう?
パークの外がどうなっているか。そこにいる人々はどうなったか。
だがそれは愚かな好奇というものだよ……
「さて、では私は四神を探してくるとしよう。
ああ、それから最後にもう一つ、私は愚かな老いたフレンズだが……
それ故に、若い君に伝えておこう。
今ある幸福を手放さないことだ。君にはサーバルという友がいる。
君が守るのだ……私はそれができなかった」
かばんはこちらの目をしっかりと見てうなずいた。
「……はい!ありがとうございます、ゲールマンさん」
「礼を言うのは、こちらの方だ」
君のおかげで、獣性を克服したヒトというものを見ることができた。
それこそ、我々ヤーナム人の悲願だった。
それが決して間違ったものではないのだと知れた。
「ありがとう、かばん。君がヒトのフレンズであった事がとてもうれしい」
私は帽子を深く被りなおして、探索の手に加わった。
■
「ぜんぶあったのだー!」
「掘り出すよー」
それは黒い石版だった。細い線で神秘的な獣の姿が描かれている。
ほのかに、暖かい。これはきっとフレンズで作られているのだろう。
おそらく、自ら人柱となったのだ。パークを守るために。
「わかりました!それじゃあそれを、ここに……」
ラッキービーストは尋常ではない警告音を発していた。
目と耳が赤く光り、危険を知らせている。
「大量ノサンドスター・ローガ放出サレマシタ。
超大型セルリアンノ出現ガ予想サレマス。
パークノ非常事態ニツキ、お客様ハタダチニ避難シテクダサイ!」
超大型セルリアン……
セルリアンハンターをしているフレンズたちが追っているという話をサーバルから聞いた。
火口からのサンドスター・ローの噴出が激しい。
この黒い煤がそれなのだろう。
「ココカラノ最短避難経路ハ日の出港ニナリマス。
非常事態ニツキお客様ハ直チニ避難シテクダサイ」
「ラッキーさん、今はそんな場合じゃあ……」
かばんが困ったようにラッキービーストに近寄る。
ラッキービーストはまるで感情があるかのように飛び跳ねて必死に危険を知らせる。
「ダメデス。お客様ノ安全ヲマモルノガパークガイドロボットノ僕ノ勤メデス!
直チニ避難シテクダサイ!」
獣ではなく、人ではなく、フレンズでもなく、生き物ですらない。
しかし、そんな機械ですら、自らの使命のために無いはずの命を賭ける。
私は、何か熱いものを感じた。
「ラッキーさん……!」
かばんは帽子の上から優しくラッキービーストの耳を押さえる。
そして諭すように、宣言するように言った。
「僕はお客さんじゃないよ」
それは、何かとても尊いものに私には見えた。
「ここまでみんなにすごくすごく助けて貰ったんです。
パークに何か起きているなら、みんなのために何か出来ることを、したい!」
夕暮れの山頂、パークの管理者である機械から、管理者の象徴である帽子を受け取る。
皆のために出来ることをしたい。
それは、まるで……かつてヒトが霊長の長として獣の上に君臨したように。
しかしそれとは違って、慈悲を持って知恵ある者として皆を導く意志に満ちている。
「ワカッタヨ、カバン。危ナクナッタラ必ズ逃ゲテネ」
ラッキービーストが静まり……
「カバンヲ暫定パークガイドニ設定。権限ヲ付与」
認められたのだ。私はとても尊いモノを見た。
そして、私もまた認めざるを得ない。
かばんという人物は、ヒトの善性と叡智を象徴した存在なのだと。
そう、これは戴冠の儀なのだと私は理解した。
ヒトが善性を持って獣たちの王となったのだ。
「おめでとう、かばん。君が皆を導くのだ。君はパークの導きとなったのだよ……」
私は『賞賛』の拍手をしていた。
頬を熱いものが伝う。
『拝謁』をしなかっただけ理性があると思って欲しい。
「僕は、そんな立派なものじゃないです。でも、今は出来ることをしたい。それだけです」
「ああ、そうだな。そうだろうとも」
フレンズ達が集まってきた。
ああ、そうだ。かばんが善性を有しているからこそ、それは支配ではないのだ。
私は自らを恥じた。
「どうしたのボス?早く進めよ?」
「もってきたのだ!」
「これをどうするのー?」
我々は石版を定められた位置に置いた。
「どうしたの?場所が間違ってる?」
「カバン、高サダヨ」
「あっ、そうか!」
「ならばこれを使い給え。私の高さで思いきり掲げれば大丈夫だろう」
私は葬送の刃の柄を取り出した。
「ありがとうございます!ちょっと、借りますね」
「ああ、好きに使うと良い」
石版を柄にくくりつけ……『交信』のポーズでそれを掲げる。
石版が光ると地鳴りと共にフィルターが火口を覆い尽くした。
これで、修理は完了したのだろう。
「これで、大丈夫かな!?」
「うん、たぶんこれで……ヒグマさんたちの所にいそごう!」
「わかったよ!」
我々は、急ぎ下山した。
「何やってるのだゲールマン?」
「ああ、少しね……」
私は、こっそり一抱えほどのサンドスター結晶を夢に入れていた。
きっとこれは狩りの役に立つ。そうなるだろうとも……