「作戦はこうです。
今黒セルリアンはこのあたり、この後海まで誘導します。
明るいものを追いかけるそうなので今は太陽に向かっているんだと思います」
森の中、丸太の上に座り我々は作戦を練った。
かばんは地図の上を指さし皆に説明する。
「なので、日が暮れるまで待ってバスを使って誘導しましょう。
セルリアンが車を見失った時や問題が起きたときは火で誘導します」
なるほど囮か……
しかしバスがあるとはいえ、かばんとサーバルでは戦力的に不安ではないだろうか?
「火ってなんだ?」
ヒグマが尋ねるとカバンはマッチを取り出してつけて見せた。
「えっと、これなんですけど……」
「ひっ」
サーバルとアライさん達が距離をあける。
「あっ、ごめんなさい。火は怖いですよね」
「私はそれ、そんなに怖くないぞ」
「私も問題ない。それよりも……
囮が君達だけでは、いざというときに戦力的にやや少ないだろう。
誰か、戦える者を一人は連れて行った方が良い」
カバンは少し考えてうなずいた。
「じゃあ、ヒグマさんが火を持っていざというときのために待機していてください。
ゲールマンさんは船の方に……」
「ああ、わかった」
「わかった。でもどうやって海に落とす?自分からは海に入らないんだろう」
ヒグマもまた良い狩人らしい。狩りに優れ、冷静だ。
「船に灯りで誘導して足が乗ったところで沈めましょう」
「おー」
「さすがかばんさん聡明なのだ!」
「えっ船?ダメだよかばんちゃんだってかばんちゃんアレに乗って外にヒトを……」
「いいの、サーバルちゃん。そんなことより今はみんなとパークを……!」
皆のために自らの都合を我慢する。やはりかばんは善性を有している。
素晴らしい。
「それに、ゲールマンさんにも会えたし。大丈夫」
「それは光栄だ。水際まで来たら、私がフォローしよう。
これを持ち給え。何かあれば吹くが良い。必ず駆けつける」
私はロッジでの売れ残りのホイッスルを渡した。
「ありがとうございます。頼りにしてます」
「ゲールマンは足が速いのだ!きっとあっという間に来てくれるのだ!」
「お前は戦えるのか?ゲールマン」
ヒグマがうさんくさそうに私を見る。
まあ、ただの老いぼれにしか見れなくとも無理はない。
「ああ、私もかつてはハンターだった。ああいった類いの物は得意なのだよ」
「武器を見せてみろ」
「これがある」
私は夢から葬送の刃の曲刀部分を出した。
「……なるほど、鋭いな。よく使い込まれている……使い込まれすぎたくらいだ」
「ゲールマンは実は強いのだ!あのヘラジカとも互角に戦ったのだ!」
「ヘラジカと……そうか。じゃあ船の方はお前に任せる」
どうやら、ある程度信用を得られたらしい。
武器を見れば狩人がどれほど血を塗り重ねてきたかおのずとわかる。
ヒグマはそれを読み取ったのだろう。
「セルリアンを無事誘導できたら僕とラッキーさんで船を動かします。
アライさんとフェネックさんはフレンズさんが近寄らないように誘導を。
上手くいくか解りませんが……いえ、これで上手く行かせましょう!」
かばんは力強く宣言した。
それは、知恵だけではなく勇気あるフレンズとしての芽生えを感じさせた。
きっと、かばんは成長しつつあるのだろう。
私はそれを見守りたい。
■
月夜に、笛の音が響いた。
バスが横転し炎で誘導しているのが見えていたが、どうやら本格的にまずいらしい。
私は加速を使い彼らの元に急ぐ。
着替えはとうに済ませた。
今の私の姿はマントにトップハット姿だ。
やはり狩りの夜はこれでなくては。
「あっ!ゲールマン!サーバルが取り込まれた。かばんは助けようと、無茶を……!
私はボスを船に運ぶ。お前はかばんを助けにいってやれ!」
ヒグマはすれ違い様にこちらに言う。
「わかった、君も気をつけたまえ」
「ああ!」
わずか一瞬の会話だが十分だ。
もうかばんたちの姿が遠くに見える。
そして、私は信じられない物を見た。
「かばん、君は……」
ロープを身体に巻き付け大木を何度も落ちながらも登り、枝の上を走り、跳んで。
セルリアンの体内を泳いでサーバルを救出した。
勇敢だ。それ以上に知恵があった。
「一人でも生きていける強さを身につけたのだな……だが、しかし……!」
いかん、セルリアンがかばんたちに振り向いた。
間に合え!間に合ってくれ!
「サーバルちゃん、見るからに駄目で……
なんで産まれたかもわかんなかった僕を受け入れてくれて……
ここまで見守ってくれて……」
かばんは覚悟を決めて、サーバルの方を見る。
「ありがとう、元気で」
しかし、セルリアンの一撃はこなかった。
私が『眷属の死血』を握りつぶして『輝き』を発したからだ。
死血とは血の遺志を有し、握りつぶす際に輝きを発する。
『輝き』が生物が有する思い出ならば、血の遺志もまた輝きには違いあるまい。
「お前が欲しいのは、この『輝き』だろう、セルリアン」
セルリアンは異様な高ぶりを見せて私の方を見る。
光を追うというのは、つまり輝く物を追っていたというわけだ。
かばんはセルリアンの視界から外れた。
「ゲールマンさん!」
かばんがこちらを見る。私はゆっくりと離れてセルリアンとの間合いを計る。
「……行きたまえ、かばん。サーバルをつれて逃げるが良い」
「ゲールマンさんは……?」
心配そうにかばんはこちらを見る。
「このようなものを始末するのが狩人の役割というものだ」
「でも!」
「君には守るべき友がいる。違うかね?
まだ道具はいくつもある。心配はいらないとも」
「……わかりました!」
かばんはりりしく決意を固め、サーバルを背負って歩き出した。
「さて、生まれるべきではなかった哀れなものよ。
……ゲールマンの狩りを知るがいい」
葬送の刃を伸ばし、大鎌とする。
甲高い金属音が鳴り、変形が完了した。
さあ、セルリアン狩りの夜だ。
■
戦闘は淡々としたものだった。
アメンドーズを狩るように、相手の攻撃をひたすら避けて隙をうかがって一発二発あてて下がる。
その繰り返しだ。
あの最後の獣狩りの夜のようにこちらの強みを押しつけて一方的に攻めるのも考えた。
輸血液もなくそしてまだ死にたくないという状況では慎重に、淡々と攻めた方がいいだろう。
「ハァッ!」
セルリアンがじれて大振りの攻撃を繰り出す。
前足で思い切り上から叩きつぶすモーション……いいぞ!
私は避けて、セルリアンが身体を起こす前に前足を切りつける。
やや固いが、問題なく刃は通った。
「部位破壊を狙いたいが……さて、どうしたものか」
後退する前に目に大鎌を振り下ろして下がる。
腕を伸ばす攻撃が来るが、下がり続け、あるいは横に避ける。
その繰り返しだ。淡々と、ペースを乱さずリズムに乗るように狩る。
やがて、セルリアンの足は攻撃に耐えきれずに破裂するように折れた。
「ヤーナムの狩りを知るが良い」
倒れたセルリアンの目玉に右手を突き入れる。
中身を引っかき回し、引きずり出す。
さらに大鎌から曲刀に変形させて3連撃からの射撃。
「Feuer!」
セルリアンが泡のように変形して手足を再生させた!
いかん素早い。欲張りすぎたか!
つかみ攻撃は不味い……
「だから言ったのです。命あってのものだと」
「デカいだけでなく硬い。よくこんな面倒な相手と1時間も戦ったのです」
私の前で、セルリアンの生えつつあった手が落ちる。
ハカセたちだ。
頭の羽を動かして悠々と月夜を飛んでいる。
「ありがとう、しかしなぜここに?」
私はステップで下がって息を整えた。
「かばんがラッキービーストを通じて通信してきたのです」
「パークにヒトがいる状況ならではですね」
「我々、やることはやるですよ。この島の長なので」
「野生部分の解放です。この島の長なので」
ヒュガッスパッと風切り音が鳴り、セルリアンの身体が切り裂かれる。
なるほど、獣の膂力か。
フレンズもまた、野生の知恵と力を持っているのだな。
「これならば……!」
ターゲットを取ってくれる協力者が二人もいる。
このタイプの敵にはいささか相性が悪いが……しかし、負ける要素がない。
「全く、夜目が効かないだの、地図が読めないのだの」
「ぽんこつだらけなのです、まったく」
おや……?この、気配は。
「さあ、とっとと野生解放するのです」
「我々の群れとしての強さを見せるのです!」
ハカセ達の後ろからいくつもの、いくつもの獣の眼光が光る。
その中に、松明をもったかばんもいた。
唖然とする私をよそに、瞬く間にフレンズ達がセルリアンに飛びかかる。
アライさんが笛を鳴らした。
その音楽は……ああ、練習でやった「ようこそジャパリパークへ」ではないか。
「行きましょう!みなさん!」
かばんが松明をかかげ、セルリアンに突きつける。
「ゲールマン、一人なら怖くても……」
「みんなでやれば怖くないってね」
ジャガーとタイリクオオカミが爪の一撃を浴びせる。
セルリアンが反撃の蹴りをしようとすれば、マーゲイが声まねをして気を惹く。
セルリアンが足をつくと、大穴が開いてセルリアンの身体全体が沈んだ。
「今です!海の水を引き込んで下さい!
戦えるフレンズさんは、セルリアンへ攻撃を!」
かばんが松明で合図を送ると港の方で松明が揺れた。
もがき脱出しようとするセルリアンにヘラジカとライオンが向かっていく。
「やっぱりお前は強かったなゲールマン!」
「かばんもいい指揮してるねー」
ヘラジカの角をつけた武器と、ライオンの爪が重い一撃を加える。
重打だ。セルリアンは再びダウンした。
そこに海の水が引き込まれ、セルリアンのいる穴に満ちた。
セルリアンの身体がたちまち石化し、弱点の石が露出する。
「行くぞ、ゲールマン。事の始末はハンターでつけるんだ」
「……ああ、行こうかヒグマ」
飛び上がり、私は葬送の刃を大鎌にして風の刃を放つ。
壊れかけた石に、ヒグマの一撃が刺さった。
「うおおおお!」
「Schneiden!」
セルリアンの身体が爆発するように消滅した。
狩りは成就した。
セルリアン狩りの夜はこれで終わったのだ。
「わーいやったー!」
コツメカワウソやビーバーたちが手を上げて喜ぶ。
その中にかばんやサーバルもいた。
「やったねかばんちゃん!」
「うん、みなさんのおかげです!」
私は狩り装束からいつもの黒い服に着替え直し、葬送の刃もしまう。
「ゲールマン!やったのだ!よくがんばったのだ!」
「やー無茶しすぎだよー。パークの危機は群れのみんなで分け合うんだよー」
「……ありがとう、アライさん、フェネック」
アライさんが背中を軽く叩いてくれた。
その小さな手は私を狩りの夢から覚ましてくれるに丁度良く。
「……そういえば、船はどうなったのかね?」
「あー!火の始末をしてないのだ!消しに行くのだ!」
港の方でツチノコが慌てている声が聞こえた。
「ウワーッ!みんな水をかけろーっ!早く消せ-!」
「ボスは救出したわよ!」
「いやー、これ消えるかにぇ……」
ああ、こんな騒がしい夜も悪くない。
結局、船は半焼してなんとか修理可能ではあったそうだ。