ハカセとかばんの指揮により集められたフレンズはまだしばらくは港近郊にいるようだ。
なわばりが遠く、鳥のフレンズによる運送を待つ者。
せっかくだから港を観光していく者。
そして、1ヶ月後の戦勝会のために残る者。
港はしばらく賑わいそうだ。
「やー、今回はだいぶたいへんな冒険だったねー」
「でも楽しかったのだ!かばんさんは素敵だったし、
ゲールマンやフェネックといっぱい冒険できてアライさんは満足なのだ!」
アライさん、フェネック、サーバル、そしてかばんの4人は特に消耗が激しい。
しばらくは港での休養をハカセたちに勧められた。
実際、それは間違いではないのだろう。
「しかし、我々は島を円を描くように1周したわけか……
これならば帰りはサバンナにごく近い。楽な道のりになるだろう」
「やー、それでもしばらくは休まなきゃダメかなー。サンドスターの残りが少ないよー」
「ゲールマンは大丈夫なのだ?」
私は夢の中からサンドスター塊を削って作ったサンドスターの欠片を取り出した。
「ああ、私はサンドスターの量には問題ないのだよ。
これをこうして……身体に取り込む業を知っている」
私は手の中のサンドスターを握りつぶし体内に取り込む。
皆、たいそう驚いていた。
私も最初にローレンスが死血の塊で同じ事をやったときは、一体何をやっているのかと思ったが。
「ず、ずるいのだー!そんな方法があったのだ……?」
「すごいですね!どうやってやってるんですか?」
実を言えば正確にはわからない。
トゥメル人の血を輸血したときに感覚的に出来ることに気づいたからだ。
それからは、この啓蒙を得た者の血を輸血しあう事でヤーナム人は皆これができるようになった。
「実は、私も感覚的なものでうまく説明できないのだよ……
ただ、おそらくは口に入れて飲んでも同じ事だろう。
サンドスターを混ぜた紅茶を淹れた。試してみるかね?」
一応、あらかじめ自らの身体では試し、問題が無いのは確認している。
しかし、まるで血の医療のようで気は進まないが。
「ありがとうございます。じゃあ、少しだけ」
「すっごーい!ありがとうゲールマン!」
皆、紅茶を飲んで一息ついた。
「あー、やっぱりゲールマンのミルクティーはかくべつなのだ!」
「んー、これは確かにサンドスターがみなぎる感じがするねー」
港近くの公園。しゃれたベンチで飲むには丁度良い。
日もほがらかで、まるでピクニックだ。
「ところでかばん。君はどうするのかね?
サバンナでサーバルと暮らすのか?
それとも、外にヒトを探しに行くのかね?」
かばんはしばらく考えて、春の日差しのような笑顔で言った。
「……今、しばらくはいいかなって思います。
さばんなでサーバルちゃんとゆっくりして、たまに図書館に行ったりして」
その顔はごく穏やかだ。
しかし、目の奥には愚かな好奇ではなく、静かな強い意志が見えた。
「それで、またそのうちしっかり準備を整えて、島の外を見てみたいです」
「かばんちゃん……うん、そうだね!」
サーバルはさみしそうだが、それでも何か確かな意志を決めたようだ。
「きっと、お土産を一杯もって帰ってきます。
島の外に何があるか解らないから……皆さんは、巻き込めないけど」
アライさんがここですかさず答えた。
「アライさんはついていくのだ!島の外になにがあっても……
きっと、みんなでなら乗り越えられるとアライさんは信じているのだ!」
「じゃー、私もついて行こうかなーアライさんだけだと心配だしねー」
フェネックがサーバルに目線を送った。それは精一杯の応援なのだろう。
ここで、サーバルも意を決して立ち上がった。
「かばんちゃん!そのときは私もいっしょに行くよ!
私、かばんちゃんともっといろんな所に行ってみたい!」
皆の視線が私に集まる。
「私は……サバンナに残ろう。
誰か一人は家を守らねばならない。
私は、君達が帰る場所を守りたい。
きっと心地の良い家を作ろう。私は、そこで待っている」
アライさんが露骨に眉をしかめる。
「うええー?ゲールマンもいっしょに行くのだー!」
「アライさーん、無理に誘っちゃだめだよー」
ここで私はあるものを取り出した。
それは、かつてローレンスとマリアだけが持っていた特別な鐘。
『古人呼びの鐘』のオリジナル。
そのうち、マリアから返されたものだ。
これは呼び出される側、すなわち私の啓蒙を消費して呼び出せる。
何、『狂人の知恵』ならばストックがいくつもある。
「しかし、何かあったときはこれを使い給え。
どれほど距離が離れていようが、私を呼び出せる。
きっと、君達の元に駆けつけるとも」
おお……と皆が注目するそれを私はかばんに渡した。
「ありがとうございます、ゲールマンさん!」
「つまり、ゲールマンも心はいっしょなのだ!
帰ってきたときに、きっと冒険のお話をするのだ!」
私は深くうなずいた。
やはりアライさんは短慮なのではない。彼女なりによく考えているのだ。
「ああ、そうとも。心は常にそばにいる。君達の帰りを信じているよ」
「そうと決まればさっそく準備なのだー!」
アライさんはさっそく立ち上がって、どこかへと全力疾走していった。
フェネックもそれを追いかける。
「待ってよアライさーん。まずはよく休んで準備してからだよー」
かばんとサーバルが笑う。
ああ、素晴らしい。暖かい場所がここにある。
私は、心から笑顔になれた。
■
その夜、ハカセたちに料理を振る舞った後。
かばんと私はたまたま二人になる状況が訪れた。
片付けは終わり、あとは火を消すだけだが……
「少し、話をしないかね?」
「あっ、はい。いいですよ」
「マシュマロでも焼きながら話すとしよう。
ヒトという種族は、古来からこうして火を囲んで話し合ったものだ」
「へえー、たのしそうですね!」
私は小枝にマシュマロをいくつか刺し、火にくべた。
この数日で私はハカセにさんざんお菓子を作ることとなった。
もう慣れたものだ。
その代わり、多くの有利な条件を引き出せたが。
「……でも、意外でした。ゲールマンさんはてっきり反対するものかと思ってました」
「ああ、ヒトとの接触はパークに不幸をもたらすだろう。その考えに変わりは無い」
マシュマロが焼き上がった。私は枝を分けて半分をかばんに渡す。
「じゃあ、どうして……」
「年寄りがいくら心配しようが、若者の冒険心とは止められない。
そして、老い先短い者が止める権利などないのだよ。
世界は今を生きる者のためにあるのだから」
かばんはマシュマロを持ったまま、静かに私の言うことを聞いている。
「私も、あれから図書館で記録を調べた。
この島、キョウシュウの外には6つの島があり……
その全てがジャパリパークの中となる」
「この島の、外もジャパリパーク……」
私は図書館から書き写した地図を見せる。
「その中でも、ジャパリパークの機能の中心は『パーク・セントラル』にあるとされる。
ヒトの記録もおそらくそこに集約されているだろう。
あるいは、通信施設がまだ生きている場所があるかもしれない。
そして、君がこれからもこのキョウシュウを守って行くには必要なものもここにあるだろう」
かばんは、静かに考え始めた。
「たとえば、ラッキービーストの生産施設とかね……
彼らなしでは、パークの維持はできないのだから。
いずれにせよ、パークの外に出る前にこの島の外のパークの様子を調べるべきだろう」
かばんの目に静かな光が宿る。
そうだ、君もまた、気づいてしまったのだろう?
安らぎよりも、素晴らしい物に。
「セントラル……パークの、外……!」
「パークの外で最も近い陸地はパークの北西、ニホンという国だそうだ。
とはいえ、わずかな記録だがフレンズはパークの外では生存が難しいとの情報もある。
詳細な記録も、やはり他の地方にあるだろう。
外へ行く前にまずはパークの中だけでも調べ尽くすことを強く勧める」
私はここで言葉を切って、マシュマロを食べた。
世界地図も、実は図書館で手に入れてある。
ここは極東だったのだな……
「君もまあ、食べ給えよ」
「あっ、はい……」
しばらく、我々は無言でマシュマロを食べ、炎を見つめた。
そして、かばんは口を開く。
「なんだか、途方もない事ばっかりで……
この島の外にもパークがあって、さらに外もあるなんて。
正直、気が遠くなりそうです」
私はうなずき、枝を火かき棒にして篝火を手入れする。
「僕は、一人で生きていけるようになったと思ったけど、
外の世界に行くにはまだまだなんだなって」
「しかし、諦める気はさらさらないのだろう?」
「はい、でもサーバルちゃんたちを連れて行くのはあまりにも危ない、ような……」
かばんは目線を落とし、少し考える。
「ゲールマンさん、ぼくもゲールマンさんみたいに強くなれますか?」
「肉体的には難しいだろう。方法がなくはないが、お勧めしない。
あの忌まわしい血の医療は……もう二度とあってはならないのだ」
「そう、ですよね……」
かばんが目を落とす。
「だが、技に限って言えば、私よりもずっと強くなることもできるだろう。
事実、私を倒した者は君とさほど変わりない力しかなかった」
かばんは力強い、決して折れる事の無い決意を目に宿らせて私に言った。
「ゲールマンさん、ぼくにそれを教えて下さい!」
私は手を差し出し、微笑んだ。
かばんは少し不思議そうにしていたが、やがて察して握手をしてくれた。
「私に出来る事であれば、喜んで。君に狩人のすべてを教えよう」
さて、忙しくなるな。
まずはビーバーたちに頼んで工房を作らねば。
仕掛け武器も必要だ。斧と鉈と杖を作ろう。
短銃と散弾銃も。
小さくなった火が、ぱちんと弾けた。