そして、一月が経った。
この間私もただ狩りの修練をしていたわけではない。
ハカセの要請でヒグマに料理を教えたり、遊園地や他の施設を直したり……
正直ハカセたちを見直した。
彼女らはイベントがある度にこうして施設を直しているらしい。
賢く、そして勤勉だ。長としての責任感はちゃんとあったのだ。
「き、緊張しますねゲールマン」
「だいじょうぶなのだイエイヌ!一杯練習したアライさん達を信じるのだ!」
「まあ、こういったものは慣れだよ。気負わないことだ」
そして、私たちはペパプと共演するという約束を今果たそうとしている。
「さー!トキ二人組に続いては!セルリアン退治で大活躍したあの人!
ゲールマンたちもバンドに加わるわよ!」
司会のプリンセスがこちらに目線を送る。
「さーて出番だねー。
だいじょーぶ、イエイヌもたくさん練習してたじゃないさー」
「は、はい!」
舞台袖にいた我々は楽器を持って舞台へと出た。
「セルリアン退治では大活躍だったんだって?」
プリンセスがマイクをこちらに向ける。
「私はほんの少し手助けをしたに過ぎないよ。
すべてはかばんやハカセの適切な指示と、戦いに加わってくれた皆のおかげだ。
そして、普段からセルリアン退治をしているハンターたちにも。
どうか拍手をしてくれたまえ」
わあ、と歓声が上がり料理をしていたヒグマたちの方に目線が集まる。
そして拍手が巻き起こった。
「うぇっ!?アタシ?」
「て、照れますね……」
「でも、悪い気はしないっす!セルリアン退治、がんばるっすよ!」
ヒグマたちは照れながら手を振ってくれた。
「かばんにもなわばりを教えてくれたとか!」
「ああ、そのためにパークを一周する長い旅をした。
道中で出会ったすべてのフレンズに感謝を。
どこが彼女のなわばりかは……本人の口から聞いて欲しい」
話が長くないだろうか。私は年寄りだ。どうしても話が長くなる。
プリンセスに目線を送ったが、もう少ししゃべれという様子だ。
「イエイヌとコンビを組んだんですって?おめでとう!」
「そうだ。ヒトとイエイヌは遙か昔から友であった。
互いに支え合い、共に生きる……それがきっと必要なのだよ。
私にも、イエイヌにも」
「そうです。私はヒトと共に生きるフレンズですから!
いつか、パークにヒトが帰ってきた時のために……
でも今は、ゲールマンといっしょで毎日楽しいです!」
ウフフ……と皆が笑う。
そろそろだろう。プリンセスに目で合図を送った。
「さーて準備が整ったみたい!みんなお待たせしたわね!
この曲はみんなで手を叩いていっしょに参加してちょうだい!」
「すべて、フレンズのおかげだった。
では、一曲『ジョン・ライアンのポルカ』」
アライさんに目配せする。
私とアライさんが笛を吹き、曲が始まった。
続いてフェネックのドラムとイエイヌのカスタネットが。
ペパプがタップを刻んで踊り、トキたちがコーラスをする。
「ららっららららら、ららっらららららーいらい♪」
「ららっららららら、ららっらららららーいらい♪」
「さあみんなも手を叩いてー!」
曲は長くも短かった。フレンズ達も手を叩き、ペパプが巧みなタップでそれを盛り上げる。
だが、やがて楽しい喧噪も終わる。夕暮れのように、夜明けのように。
「みんなー!盛り上がってきたわね-!」
わああ、と歓声が上がり、多くのフレンズたちが手を振った。
「じゃあ引き続いては、『乗ってけ!ジャパリビート』」
アライさんが笛からホイッスルに持ち替えて賑やかな曲が始まった。
これは元から録音されていた伴奏があるので気が楽だ。
まあ、つまりは。
かばんがやってくるまではこうしてバックバンドとして出番があるわけだが……
気が重くも、楽しい時間だ。
しかし、これも貴重な体験であり、やがては楽しく優しい思い出として残るだろう。
■
「おっ!主役が来たな!」
「みんな待ってますわよ」
人垣が分かれ、花道をかばんとサーバルが歩いてくる。
「あれから1ヶ月!遅くなったけど……
無事セルリアン倒せた記念と、
かばん何の動物か分かっておめでとうの会をするわよ!
いただきますもかねて、まずはご挨拶から!」
サーバルは舞台下からかばんを見守っている。
かばんは舞台の中心に登壇してプリンセスからインタビューを受ける。
「色々おめでとう!大活躍だったじゃない!」
「ええと……いえ、皆さんのおかげです!ありがとうございます!」
やはりかばんは頭の回転がかなり速い。
すらすらと立派に答えている。
「そして道中、なんの動物か分かったって!?」
「あっ!はい……ぼく、ヒトでした!
なわばりは、さばんなにしようと思います!
ゲールマンさんがビーバーさんたちに家を頼んでくれました!
ありがとうございます!きっと、そこに帰ってきます!」
おお……とサバンナやジャングルに住むフレンズからうれしそうな声が上がる。
私も帽子を軽く上げてかばんに敬意を表した。
「他のちほーを見に船出するんですって?」
「はい!おいしいものや、たのしいものをきっとたくさん持って帰ります!
船の修理にもみなさんに協力していただいて……
ぜんぶ、ぜんぶみなさんのおかげです!」
かばんは少し涙ぐむ。
ハカセは待ちきれずにカレーを食べていた。
「あーっ!」
「ヒトは話が長ったらしいのです」
「早く食わせろなのです」
「食べてるじゃなーい!」
プリンセスたちが目配せしあってうなずく。
「じゃあ、いただきまーす!」
夕暮れの空に、いくつものカップとジャパリまんが上がる。
『いただきまーす!』
本来は乾杯の歌とビア樽ポルカもあったのだが、まあいい。
ようやくお役御免だ。
私も夕飯にあずかるとしよう。
■
夕食と楽しい会話の後、皆はそれぞれに施設の好きなところに座ったり休んだりしている。
かばんとサーバルは観覧車に乗った。
あれの整備は大変だったが、そのままでは落下しかねない籠がいくつかあった。
うごかすならば、修理は必要だろう。
「それで、雪山に行ってからゲールマンは山に登って、あのセルリアン狩りがあったんですね。
いいなー私も狩りをしてみたかったです!」
「セルリアン狩りはいずれ必要になる。いつか、共にでかけよう」
「はい!」
私とイエイヌは修理された船が見える場所で、海を眺めていた。
あの罪の原点、漁村からここまで……とても長い旅をしてきた。
悪夢に囚われていた時間からすればパークでの時間は短い。
しかし得たものはこちらの方がずっと多かった。
「ゲールマン!せっかくですから私たちも観覧車乗りましょう!」
「ああ、構わないとも」
「そうですよ!ゲールマンが修理したんですから!」
籠がゆっくりと上昇し、夕暮れのジャパリパークが遠くまで見渡せる。
「……美しいな。このジャパリパークは美しい」
「そうですね……本当にきれいです」
私たちの旅の思い出が蘇る。
どれも美しく、大切なものだ。
イエイヌとも、そうした記憶を共にすることができるだろうか?
「あの、ゲールマン」
「何かね?」
「私は飼い主をずっと待ってました。
でも、どこかで分かってたんです。きっともう来ることはないって」
「……そうか」
私は、何を言うべきか言葉が見つからない。
故にイエイヌの話を静かに聞いた。
「ゲールマンは私の待っていたヒトとは違います。
でも……なんていうか……
ごしゅじんではなくって、でもいっしょにいれるヒトです。
私たちは、コンビになれると思うんです」
主従ではなく、相棒か。
そうだな、そうだった。その視点が欠けていた。
犬に啓蒙を授かることになろうとは……私はやはり愚かなのだろう。
それを忘れてはならない。
「ああ、主従ではなく相棒、と言うことだろう?
君の言うことは正しい。私からも喜んで、これからもよろしく頼む」
「はい!これからもどうぞよろしくお願いします!」
照れくさく、長い時間が過ぎた。
しかし悪くない。
「ゲールマン……今日のライブ、楽しかったですね」
こうやってパークの全部を見るのも……
きっと、良い思い出になりますよね」
「ああ、これも良い思い出になるとも」
そうだ、こうやって一つ一つ積み重ねていけばいいのだ。
アライさん、フェネック。私はフレンズとしての生き方を学べただろうか?
■
観覧車から降りると、何か新しい決意を目に抱いたかばんと、サーバル、そして皆が居た。
「ゲールマンさん、プレゼントがあるんです」
観覧車の前には大きな布のかかった何かが置いてあった。
フレンズ達が一斉に布を引っ張り幕が開けた。
そこにあったのはジャパリバスだ。
「アライさんたちが部品を見つけたのだ!」
「それをかばんさんたちがくっつけてー」
「私もきょうりょくしたよ!」
私は言葉も出ない。
これほど、これほど多くのものを与えて貰って、どう恩を返せばいいのだろう?
「バスはヒトでしか動かせないのです」
「セルリアンが出たときに素早く動ける足が必要なのです」
「これできりきり働くのですよ」
「きりきり働くのです。我々はお前の力に期待しているのです」
私は帽子を深く被りなおし、深く一礼した。
「……ありがとう。君達には感謝してもしきれない。
これで恩が返せるというのならば、喜んで働こう」
そうだ、実はこちらからも、かばんにはプレゼントがあったのだ。
私は夢から二枚の工房の狩人装束を取り出す。
マントのないもっともシンプルなものだ。そのコート部分だけを取り出した。
「私からも、君にこれをあげよう。かばん、君ならばきっと困難を乗り越えていける。
これがその役に立つことを祈るよ」
「サーバルさんにもおなじものがありますよ!寒いちほーに行ったときに使って下さい!」
さらにアライさんとフェネックにもこの間貸したものと同じものを渡す。
墓暴き装束と短いマントつきの狩人装束だ。
「アライさん、フェネック。この間貸したものを渡そう。
少々、手を入れたが……気に入ってくれるとうれしい」
アライさんはさっそく袖を通す。
「おおー、サイズがちょうどよくなっているのだ!」
「アライさーん、なんか模様がついてるよー?」
そう、全員の狩人装束の胸や肩に「の」という文字に似たジャパリパークのマークを入れておいた。
かばんのものには「Japari Park Guide」の刺繍も入れた。
「ジャパリまんに書いてある文字だー!ねえゲールマンこれどういう意味なの?」
「それは、かつてジャパリパークそのものを象徴するマークとして作られたもので……
それをつけている者は、ジャパリパークの者であることを意味する。
島の外に出たときに役立つだろう」
かばんもコートに裾を通し、ぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございます!ゲールマンさん!」
「結局プレゼント交換会になっちゃったねー!
でもこれがあればさむいちほーでもへっちゃらだよ!
ありがと!ゲールマン」
あはは、と皆が笑う。
ああ、暖かい。フレンズとは暖かいものだなあ……