宇宙すら見える美しい星空の下、3人は歩いた。
「ところで……君たち食べ物はどうしているのかね?」
「ボスがジャパリまんを配ってくれているのだ!
足りないときは虫でも木の実でも何でも食べるのだ」
「ジャパリまん?」
夜の草原は静かだ。風が冷たく心地よい。
しかし夜行性のフレンズは大勢活動しているようでもある。
「こーんな丸くて柔らかいやつだよー。中にお肉とか入ってるよー」
「ふむ……なるほど。獣は狩らないのかね?」
「あんまり狩らないねえ。同じ種類のフレンズがいると気まずいからねー」
どうやらジャパリパークではラッキービーストによる配給制が敷かれているようだ。
それによりフレンズ間はもちろん、獣への食害も無くす……
一見、すばらしい体制に思える。
「あっ、もうすぐボスが集まってるところがあるよー。
あそこでジャパリまんをくばってくれるんだー」
「旅に備えて多めにもらっていくのだ!」
あれは……ガス灯だろうか?色がいささか違うようだが。
街灯の下にラッキービーストが頭の上に皿を載せて歩き回っている。
アライさんはさっそくボスからジャパリまんをもらい、懐にいくつか入れて残りは食べた。
フェネックもそれにならう。
「どれ私ももらおうか」
表面に「の」と書かれた柔らかいパンだ。
食してみれば中に引き肉のようなものの味がする。
わずかに薬臭いが……防腐剤か、精神安定剤だろう。
それだとしても、大した影響のあるものではない。
肉食動物のフレンズが衝動を抑えるためかもしれない。
それを差し引きしたとしても、大変に美味だ。
「ほう、これはなかなか……」
「ジャパリまんはおいしいのだ!ゲールマンは初めて食べるのか?」
「ああ、初めて食べる。悪くない」
「さあ出発なのだ!朝までにゲートまで行くのだ!」
どうやらそのまま行く気らしい。夜行性なのだろうか?
「君たちは、夜は眠らないでも平気なのかね?」
「あーゲールマンは夜行性じゃないフレンズかなー?」
「いや、むしろ夜に活動する。夜行性と言っていいだろう」
「じゃあ大丈夫だねー。私たちも夜行性のフレンズだからねー」
我々は星空の下歩き続けた。
途中で、看板を見つける。脇に小箱があった。
これは……地図だろうか。英語でも案内が書いてある。
「わかるのー?ゲールマン」
「ああ、これは地図だ。正しく用いれば行く道がわかる」
「やったのだ!これで図書館まであっという間なのだ!」
「いや……およそ80マイルはある。歩いて……4日ほどかかるだろう」
およそキロ単位にして100km。
5kmで5時間歩いたとして一日25km。
川も多い。迂回する可能性もある。
そんなものだろう。
「なにーっ!そんなにかかるのか!」
「あきらめるかね?」
「絶対に行くのだー!ボスはあの時言ったのだ!
『フレンズや私たちにとって大切なものが埋設されていることがわかりました』と!
つまりこの謎を解き明かさねばパークの危機なのだ!」
ここでゲールマンはまた驚いた。
てっきりラッキービーストと喋りたいだけだと思っていた。
だがアライさんはアライさんなりに責任感というものが強いようだ。
おそらく勘違いだろうが……それでも、その善意はまぶしいものだ。
「なるほど……だが、埋められているならば今は安全だろう。
むしろ下手に掘り返すほうが危ない。
大切なものは……うかつに触ってはいけないものなのだ」
「何かあったんだねえ、ゲールマン」
「ああ……私は大変なものを掘り出して、それで多くの……大変な迷惑を大勢にかけた。
知るなとは言わないが、ことは慎重に当たるべきではないかね?」
しばらく、静かな時間が流れた。空気が重い。アライさんでさえ、しばらく考え込んだ。
「……でも、ゲールマンは止めないのだ?」
「パークの危機なのだろう?何もしないわけにもいかない。
だが、今は慌てる必要はないということだ。
誰か……そういったパーク全体のことがわかる者がいればいいのだが」
「それならとしょかんにハカセがいるのだ!
おおっ!ちょうどいいのだ!としょかんにいそぐのだーっ!」
アライさんはまた走り出した。まさに猪突猛進といったところか。
なるほど、行くべき目標が定まっていれば周囲を引っ張れるのだな。
それは、間違いなく善性だろう。だが、誰かが見ていなければ危ない。
それがフェネックというわけか……
「ありがとね、ゲールマン。アライさん思い込んだら止まんないからさー。
めずらしいよー。アライさんがあんなに真剣に考えるなんて」
「年の功というやつだよ……成功もあれば、間違いも多くした。
それが君たちの糧になってくれるならばこれほどうれしいことはない」
「よくわかんないけど、いろいろあったんだねー」
「ああ、いろいろあったのだよ」
そして、朝日が昇った。
夜明けだ……あの悪夢にとらわれている間、あるいは獣狩りの夜の間。
どれだけ待ち望んだものか……やはり、何度見ても美しい。
「しかしハカセ、か……」
メンシスの彼を思い出した。あんなものがこんなところにいてはならない。
場合によっては……
■
やがて、午前を迎えて我々は水場についた。
しかし池か……できれば川の水のほうがいいのだが。
池の水はよどみ、いずれ腐る。しかし贅沢は言えない。
我々は池のふちにかがみ、水を飲んだ。
私は血の酒の空瓶を使い水をためておく。なおよく洗った。
捨てる水も魚に影響を及ばさないように地面に捨て置いた。
「だぁーれぇー?」
突然に巨大な水柱!
「うわーっ!」
水から出てきたのは黒い体の線が出るぴっちりした服を着た女性だった。
あれもフレンズなのだろうか。
「あーびっくりしたー」
「カバさんなのだ!お水をもらっていくのだ!」
カバ……のフレンズか。かつてビルゲンワースの博物誌で絵を見たことがある。
あれがこうなるのか……
「いいですわよー。サーバルと言い珍しいですわね。何かあるの?」
「ちょっととしょかんに調べに行くことがあるのさー」
「ところで……そちらの背の高いフレンズは?」
「ヒトのフレンズ、ゲールマンなのだ!かけっこが速いし、物知りなのだ!」
ほう、アライさんはそのように私を評価していたのか。
暗い一面を見せていないとはいえ、そういわれると面はゆいものがある。
昨日アライさんの意見を否定したというのに、それでも評価をしてくれる様はまさに獣性を克した姿だ。
「ヒト……聞いたことない動物ですわね」
「そうかね。ヒトはこのあたりで見ないのかね?」
「ええ……あなた、この辺りは初めて?」
「ああ、これほど美しい場所は初めて見る」
カバはしばらく考え込んでこう尋ねた。
「あなた、泳げまして?」
「この足ではね」
「空は飛べるんですの?」
「跳び上がることならば」
「じゃあ……狩りごっこは?」
「得意中の得意だ」
「あなた……けっこうなんでもできるフレンズなんですわね。
それならアライさんやフェネックを守ってやってくださいましね」
「ああ、わたしもそう願っているよ」
カバは一拍置いて真剣な顔で切り出した。
「ただ、ジャパリパークの掟は自分の力で生きること。自分の身は自分で守ること。
あなたばかりが戦ってはだめよ。
セルリアンと戦うときはちゃんと石を狙いなさいね」
自分の力で……か。しかしジャパリパークの食料はボスによって維持されている。
まあそれとは別の話だろうが。
だが、貴重な忠告だ。フレンズとは、誰もこう親切なのだろうか?
彼女たちの輝きがこの薄汚れた身に染みる。
「ああ、覚えておこう。親切にありがとう」
「じゃあ、アライさんたちはもう行くのだ!」
「おねーさんありがとー」
次はジャングル地方か。ジャングルは禁域の森で慣れてはいるが、ああまでおぞましくはないだろう。