老いたフレンズゲールマン≪完結≫   作:照喜名 是空

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かふぇ

「暑いのだ……さばくちほーは暑すぎたのだ……!」

「どうやら、私も少々この暑さは難しいようだ。移動は、夜にしないかね?」

 

山奥の寒村であったヤーナムの気候に合わせた服装ではやはり無理がある。

アライさんも元々がアライグマだ。砂漠には適していない。

やはり砂漠の移動は夜に限る。

 

「賛成なのだ!あのさばくのなかを走るのはむぼーすぎるのだ!

フェネックは平気なのだ?」

「わたしの大きい耳もねつをにがすのさー。わたしは暑さには強いんだよー」

「夜まで物資を集めよう。砂漠の旅は夜であっても厳しいものになるだろう」

「おー!」

 

ジャングルの川辺だ。集められる食料は豊富にある。

しかし、現地の者に聞くのが一番良い。ジャガーたちの下に戻ろう。

 

「あれー?ゲールマンとしょかんに行ったんじゃなかったの?」

「さばくちほーは過酷だったのだ……」

「我々にはいささか暑すぎるものでね。夜を待って移動しようと思うのだよ」

 

おや、鳥のフレンズがコツメカワウソと何か話している。

 

「それでね、あれを使えばかふぇまで行けるのよ」

「キャハハハなにそれなにそれー!面白そう面白そう!」

「あら、あなたは見かけないフレンズね。ずいぶん背が高いわ」

 

鈴を転がすような声で鳥のフレンズがこちらを向いた。

 

「ああ……私はゲールマン。ヒトのフレンズだ」

「ヒト……変わったフレンズね。じゃあ、自己紹介に一曲……」

「ほう、それは楽しみだ」

 

鳥だけあって良い声のフレンズだ。歌声もまた期待できる。

 

「わたーしはートーキー!あなたをーさがしてるー!

どこにいるのー!わたーしのーなかーまー!」

 

すさまじい声量だ。獣の咆哮に匹敵する。

歌は……いささか調子はずれだが、それでも声が良いものだ。

 

「なるほど、トキか。ありがとう、素敵な歌だ」

「それはアンコールかしら!?」

「いや、それはまたの機会にしておこう」

「あらそう……」

 

ばさばさと頭上で音がした。私はとっさに辺りを見回す。

頭上を取られるのは致命的だからだ。

 

「なんかまた聞こえたんですけど!またよばれたんですけど!」

 

トキと似たフレンズだ。おそらく亜種だろう。

 

「あら、つい自己紹介をしてしまったものだから」

「びっくりしたんですけど!」

「ごめんなさいね」

 

素直に謝れる。やはり獣性を克している。

それもまたサンドスターの導きなのか。

我々が見出すべき青ざめた血とはサンドスターだったのか。

 

「キャハハおもしろいおもしろーい!」

「ゲールマン、フェネック!

これすごいのだ!面白いのだ早く来るのだ!」

「はーいよー。何だろうねゲールマン」

「わからない、だが楽しんでいるならばよいことだ」

 

そこにあったのは自転車によるロープウェイだった。

自転車をこう使うとは……ヤーナムでもごく珍しい最先端の乗り物だった。

それをさらに洗練させたものだとわかる。

 

「これは……!」

「これを使ってかふぇに行けるのよ。

よかったら、あなたたちもどうかしら」

 

カフェ、か……懐かしい。

ロンドンに行ったときは狂ったように紅茶を飲んだものだ。

あれは何か我々英国の民を引き付けてやまないものがある。

 

「紅茶は出るのかね?」

「ええ、かふぇではこうちゃ?を出してるわ。のどにとってもいいの」

「ぜひ行こう」

「キャハハたのしそうたのしそう!」

「なんだかおいしそうな感じなのだ!

気になるのだいくのだフェネック!」

「そーだねー、夜までヒマだしさー」

「わーいわーい!」

 

しかし自転車は1つ。乗れて二人。

ここにいるのは飛べないものは5人……

 

「私たち、一人くらいなら運べるわ」

「私もやるんですけど」

 

ここは年長者として譲るべきだろう。

 

「わたしこれ乗りたーい!」

「楽しそうなのだ!乗ってみるのだ!」

「じゃあ私は運んでもらうねー」

「しかし……一人いけないぞ?」

 

しかし紅茶は飲みたい。さてどうしたものか。

ポケットに一ついいものがあった。

これはあまり使いたくないが……それでもこんな時有効なものだ。

 

「一つ、私にいいものがある。どうか驚かずに見てほしい。

少し姿が変わるが……何、すぐ戻れるものだ」

「ひえっ、どくろなのだ……」

 

私の姿は黒い霧に包まれ、直後。

無数の白く醜い小人……「使者」たちの姿となった。

秘儀「使者の贈り物」だ。

 

「うわーっ!ゲールマンがへんなこびとさんになってしまったのだ!」

「驚いたかね?なあにすぐ戻る……このようにね」

 

わずかに走ると黒い霧とともに「使者」の姿から元の姿に戻った。

悪夢の霧をまとい、姿を変える……

児童幻想の類であり、だからこそフレンズに見せるにふさわしい。

そして幻想とは大きな行動をすれば破れてしまうものだ。

 

「ちょっと、気味が悪いがたしかに大丈夫そうだな!

しかしどうやってるのかぜんぜんわからん……

ゲールマンはまほうが使えたのか!」

「まあ、そのようなものだ。魔法を知っているのかね?」

 

魔法という概念を知っている……?この密林で?どうやって?

いやフレンズも知恵持つものである以上神秘にあこがれる気持ちはあるだろう。

信仰も生まれるかもしれない。

だが、一足飛びに魔法という概念を知りうるものだろうか?

 

「まあ……なんとなく?ハカセに教えてもらったんだ!」

「ほう、そうかね。だが気を付けると良い。

神秘にまみえることは、必ずしも幸福ではない」

 

神秘に見えるのは人の幸福。そう嘯いた者たちの末路がヤーナムだ。

フレンズには心配はないだろうが、しかし警句は必要だろう。

そしてまたもやハカセ、か……特別な知恵を独占しているようだな。

 

「うーん、ぜんぜんわからん」

「まあ、魔法のようなものを追いかけて

すべてを失った愚かな老人がいたとだけ覚えておきたまえ。

かねて神秘を恐れたまえ。恐れたまえよジャガー……」

「わ、わかった。気を付ける」

 

おっと、場が静まり返ってしまった。私は努めて明るくふるまう。

 

「まあ良い。さあ行こうじゃないかね。

紅茶とはすばらしいものだ。ぜひみなにも味わってほしい」

「そーだねー。その乗り物も楽しそうじゃないかー」

 

フェネックは何かを察して話題を変えてくれた。

 

「わーいうごくぞー!」

「フェネックー!どっちが速くつくか競争なのだ!

ゲールマンも早く乗るのだ!」

「おお、すまない……ありがとう、フェネック」

「いーってことさー」

 

かくして我々はしばしの空中散歩を楽しんだ。

 

 

「おわー!一気にお客さんがきたねえ!よかったねえ!よかったねえ!」

 

奇妙な訛りを話すアルパカのフレンズはうれしそうに給仕する。

さすがにこのような高山では客も少ないのだろう。

 

「紅茶か……懐かしく、そして楽しみだ」

「おおっ、お客さんこうちゃ?飲んだ事あるのぉ?」

「ああ、私の故郷では皆よく飲んでいたよ……私も大好きだ」

「じゃあじゃあ、さっそく一杯!」

「さっそく一曲どうかしら!」

「ああ、頼むよ」

 

トキの歌を背景に一口飲む。

葉はやや古いが良い。入れ方はつたなく素朴な味だ。

だがそれでも、なぜだろうとても懐かしい。

 

「かふぇって……」

「いいーねえー」

 

どうやら、二人もお気に召したようだ。

紅茶を好む同志が増えたのは喜ばしい。

 

「ああ……とても、すばらしいものだ。そうだろう?」

「そーだねー。ゲールマンも満足?」

「ああ、満足だ……とても懐かしい味だ」

「おおっ、合格!」

「だが砂糖とミルクを入れるともっと良い。

もう少し長く濃く味を出すとよいだろう」

「くわしいねぇーお客さんー」

 

ここがカフェならば砂糖はあるはずだ。しかし貴重なものだろう。

 

「どれ、少し探してみよう。白く細かな粉だ。わかるかね?」

「あーそれならー」

 

店内ではジャガーとコツメカワウソが紅茶を飲み終えて調度品を調べている。

 

「ゲールマン!これなにこれなにー?おもしろいぞー!」

 

コツメカワウソの手にあったのは笛だ。

それもティンホイッスルと呼ばれる類の。

ああ、これもまた懐かしい。

かつてヤーナムがにぎわったころ、酒場でよく演奏されたものだ。

私も手慰みに少しだけ吹いたことがある。

 

「ああ、それはこう吹くのだよ。そうだな……トキに倣って私も一曲。

何が良いかな……メルゴーの子守歌、いやあれはいかん。

ああ、そうだ……ジョン・ライアンのポルカ。これでいこう」

 

にぎやかで、明るく、およそヤーナムには似合わない。

だが狂騒的なリズムは時に酒場で血の酒とともにふるまわれた。

カツ、カツと右足でリズムを取り、のびやかに笛を吹く。

 

「わーいたのしいぞー!」

「あら、ゲールマンもお歌うたえたのね」

「楽しい曲だねーあらいさーん」

「とっても明るい曲なのだ!踊りたくなるのだ!」

 

カッカッと右足でリズムを刻み、ドン、ドンと失われた左足でビートを刻む。

 

「キャハハッたーのしー!」

「こ、こうか?こうなのか?」

 

フェネックがちらりと私を見ると、リズムに乗って手をたたく。

 

「こうじゃないかなーあらーいさーん」

「おおっ!それなのだ!」

「すてきな曲ね……私も歌うわ!」

 

アライさんとフェネックは輪になって踊り。

トキたちは歌い、ジャガーとカワウソは跳ねるように踊る。

演奏は5分ほどで終わるだろう。しかしまるでこの時が永遠のように思えた。

とても楽しいのに、なぜだろうな。涙が止まらない。

私は帽子を深く被りなおしてそれを見せぬように演奏し続けた。

せめて、この曲が終わるまでは。

 

「らっらららっらら、らららー♪」

「らっららっららららっらーい♪」

「キャハハッキャハハハハッ」

「なんだかとってもたのしいのだ!フェネックもたのしいのだ?」

「そうだねーとってもすてきだねーあらーいさーん」

 

そして曲は狂熱のように速くなり、やがて終わる。

私は涙を見せぬように「狩人の一礼」で頭を下げてすぐに窓辺から外を見る。

その間に涙はぬぐった。

 

「いやあーとってもよかったよーぅ。もう一曲!もう一曲吹いてみてぇ」

「いや、少しこの老体には疲れてしまったよ。紅茶でもいただいて休んだ後にまたしよう」

「早くいれてくるよぅ!」

「わーいもう一曲!」

 

そして、窓から外を見た私は凍り付いた。

絵文字が描かれている……矢印まで。

草の抜いた後は真新しい、つまりこれは先ほど来たフレンズがやったということだ。

かばん……やはり君もまた、ヒトのフレンズというわけだ。

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