老いたフレンズゲールマン≪完結≫   作:星野谷 月光

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さばく

フェネックとアライさんはしばらく昼寝した後真夜中に目を覚ました。

コツメカワウソとジャガーは泊まっていくらしい。

帰りはトキに任せるそうだ。

 

「だいぶ寒いねーゲールマン」

「君にはこれをあげよう、フェネック。古いものだが……汚れはないはずだ」

 

狩人装束のマントとコート部分のみのものだ。

中のチョッキはいささか窮屈だろう。

 

「ちょっと大きいけどー、たためばなんとかなりそうだねー。

ありがとうねーゲールマン」

「もとより、私が暑さに負けたためだ。かまわないともフェネック」

 

フェネックは器用にコートを畳んで狩人装束を着た。

ふむ、なかなか似合っている。

 

「おおっ、アライさんの帽子になんだか似た感じのけがわなのだ!

ありがとうなのだゲールマン」

「君も着るかねアライさん」

「アライさんは自前のけがわがあるから大丈夫なのだ!」

 

なるほど彼女らは服をけがわと認識しているのか……それとも言葉の綾なのか。

 

「そうかね、では行くとしよう」

「しゅっぱーつ!なのだ!」

 

夜空を見上げながら行く空中散歩もまた良いものだった。

 

 

夜の砂漠は静かなものだ。

青々とした月光に照らされながら壮大な砂山の上を行く。

やや足を取られるが、問題ない範囲だろう。

 

「砂ばっかりなのだ!くべつがまるでつかないのだ!

二人とも道がわかるのだ?」

「星や月の方角でわかるのさー。ゲールマンは?」

「月の方角でなんとかわかる。とはいえ、迷えばこれを使うがね」

 

幸い古いコンパスがポケットにあった。

そういえばかの優秀な狩人には渡し忘れていたな。

てっきり市街地内だけで狩りを済ませられると思っていたのだが。

 

「それはなんなのだ?」

「コンパスという。この赤い矢印が北を示すのだよ」

「不思議なものなのだ……

ゲールマンはまほう?をいっぱい知っているのだな!」

 

知らぬものが見れば、まあそう思うのも無理はない。

 

「これは科学……つまり、経験と検証からくるものだよ」

「かがく?」

「いろいろと試して、わかったことを記録していけばいずれたどり着けるという事だ。

これもそう難しいものではない。

このくらいの金属片を100回ほど同じ方向に布でこする。

後はそれを葉に乗せて水に浮かべればよい」

 

アライさんは不思議そうな顔で、フェネックは興味深そうに聞いていた。

 

「ほえー?」

「ふーん……」

「とはいえ、ここでは葉も水もない。

金属片も手に入れるのは難しいだろう……

月と太陽の動きを覚えておくやり方は実に賢い。フェネックに教わるとよい」

 

そう言うとアライさんはぱあっと顔が明るくなりフェネックの顔を見る。

 

「フェネックー!」

「はーいよー。歩きながら教えようかー」

 

我々は月の砂漠を歩き続けた。

そうして、はるか遠くに灯の光を見つけた。

灯か……フレンズに炎が扱えるだろうか?

あれもまた人の手による施設の残骸だろうか?

 

「あー!なんか光ってるのだ!何かあるのだ!」

「そのようだ。何か施設の名残があるのかもしれない。

あと1ヤードもない。次はあそこで休もう」

「そーだねー。そろそろおなかも減ってきたしねー」

 

 

「ここは……」

「不思議なばしょなのだ!なんだかきれいなのだ!」

「たしかに、パークのしせつ?みたいだねー」

 

一見、遺跡のように見えるがどうも「らしく」ない。

灯りのある壁を見てみる。

ふむ、経年劣化した傷と、傷に見えるように塗料を塗った場所がある。

ここが博物館というならば……これは遺跡の模造品なのだろうか?

 

「ワーッ!誰だおまえらー!勝手に貴重な遺跡に触るなーッ!」

 

青く目を光らせたフードを被ったフレンズが奥から出てきて威嚇する。

 

「ああ、すまない。遺跡を暴くつもりはなかったのだ。

ただ……少しばかり休ませてもらえないだろうか?」

「ダメだっ!」

「なわばりに勝手に入ったのはあやまるよー。

すぐ出てくからさー、いっしょにお茶でもどうかなー」

「お茶!?お前ら、お茶を持っているのかっ!?」

 

青い目のフレンズはぎょっとした様子で興味深そうに身を乗り出してくる。

 

「ああ、よければ一杯いかがかね?じゃぱりまんもある」

 

我々はジャパリカフェでアルパカから水筒をもらっていた。

1リットル弱入るそれは問題なく私のポケットに収まっている。

どういう仕掛けか、茶が冷めることがない。

砂漠に備えてたっぷりとミルクティーを入れてもらった。

 

「んんんー……!わかった!少しだけだぞっ!」

「ふいー!疲れたのだー!」

「やっと一休みできるねーあらいさーん」

 

私はさっそく金属カップと水筒を使ってお茶の用意を始めた。

 

「おおっ、これが……!」

「紅茶だ。その中でもミルクティーと呼ばれる。冷めないうちに飲みたまえ」

 

ずずっと青い目のフレンズがお茶を飲む。

 

「うーん……わるくないなっ!」

「そうだろうそうだろう。

ところで君は何のフレンズかね?私はヒトのフレンズ、ゲールマンだ」

「アライさんなのだ!」

「フェネックだよー」

 

またもや青い目のフレンズは驚いた。

 

「なにーっ!ヒトのフレンズだと!?

そうか……やっぱり絶滅してなかったんだな!?

ヒトは亜種があるのか?ジャパリパークについてどこまで知っている!?

あっ……わ、私はツチノコ。蛇のフレンズだ……なっ、なんだコノヤロー!」

 

随分と情緒不安定なフレンズだ。わずかに、かつてのヤーナムを思い出す。

だが、ヤーナムの本気の悪意はこんなものではない。

 

「あ、ああ……肌の色によって3種類の亜種がある。

私はその中でも、少し特殊でね。いろいろあってヒトから外れてしまったのだよ」

「そ、そうか……ジャパリパークの外はどうなってる?どこから来たんだ?」

「私も知っていることは少ない。

ヤーナムという地で倒れ、気が付けばここにいた。

外の様子は私もわからない。

だが、おそらくヒトは逃げたのだろう。

セルリアンか、または別の脅威かはわからないが……」

 

おそらくセルリアンの脅威に人は逃げだしたのだろう。フレンズを残して。

酷なことだ。だが、フレンズにとってはきっとその方が良かったのだ。

ここで私は声を潜めて尋ねた。

 

「君はここを遺跡だと言った。

君は正しく、そして幸運だ。

君のほうこそ、どこまで知ってるのかね?」

 

ツチノコは少し考えて話した。その真剣な様子はかつての学徒を思わせる。

 

「ここは……ここは多分、人を楽しませるために作られたんだ。

でもあの異変でセルリアンが勝って、ここは捨てられた。お前はどう思う?」

「君の推測は間違いなく正しい。だが……いや、やめておこう。

一つだけ言えるのは、あまり過去を知りすぎるものではない。

かねて知を恐れたまえ」

「私は知りたいんだッ!

ここで何が起きたのか!

私たちはどこから来たのか!

ジャパリパークとは何なのか!」

 

ちらりとアライさんとフェネックを見る。どうやら寝入ってしまったようだ。

朝早く出発すればあるいは湖畔へ抜けられるかもしれない。

寝かせておこう。

そして、秘密の話をするには丁度いいのではないかね?

 

「聞いても後悔しないかね?」

「やっぱり知ってるんだなーっ!おしえろ!」

「ジャパリパークとは……博物館であり動物園だ。

要するに、ここはヒトが君たちフレンズを見るために作られた場所なのだよ」

 

啓蒙を振り絞れゲールマン。

ヒトとフレンズに何があったのか、私ならばわかるだろう。

そして、できる限り傷つけず、しかしヒトへの恐れを教授するのだ。

 

「フレンズを見るため?」

「……ヒトというけものはあまり良いけものではない。

物珍しいものがあれば、奪い食い散らかす生き物だ。

故に、フレンズとヒトはそのまま接するわけにはいかない。

だからヒトからフレンズを守り、隔てるためにこのような場所を作った

……それが私の見解だ」

「つまり……ヒトとフレンズが離れて暮らすための場所だったのか……

見るだけで狩ってはいけない。そういう掟をお互いに守るための……

そうか!ここはヒトとフレンズがおたがいのなわばりを守るための場所なのか!」

 

このツチノコというフレンズはかなり啓蒙が高い。

相当にもはやこの遺跡となってしまったジャパリパークを調べたのだろう。

私はため息をついて話題を変えた。

 

「私も、かつて遺跡によく潜ったものだ。

君のように真実を求めてね。

だが、その遺跡は神の墓だった。

余所者を歓迎するいわれなどなく、故に我々は罠や敵対者に苦しめられた……

ここは良い。少なくとも人を楽しませるために作られたのだから……」

「その遺跡からは何がわかったんだっ?」

 

さて、どこまで言うべきか。私は慎重に言葉を選んで話した。

 

「……サンドスターのまがい物のようなものを我々は見つけた。

だが、結局はそれでヤーナムは滅んだ。我々の手には余るものだったのだ。

ちょうど、サンドスターを手に入れつつも

セルリアンという災厄を見つけてしまったヒトのようにね」

「おまえのいたやーなむってちほーも滅んだのか……

やっぱり、ヒトは絶滅したのか?」

「それはない。

ヒトは世界中に散らばって生きている。

一つの街が滅んでも、影響はないだろう」

「そうか……」

 

アライさんたちの静かな寝息が聞こえる。そっとしておこう。

 

「お前は、まだまだ隠してることが多そうだ。そのうち聞きだしてやるからな!

だ、だから……朝まではゆっくりしていけ」

「うむ、ありがとう。そうだ、一つ聞いてもいいかね?」

「なんだっ?」

「君から見て、かばんというフレンズはどう写ったかね?」

「かしこいやつだったな!なかなか気も利くし……いいやつだった。

お前も同じヒトのフレンズが気になるか?フレンズは基本一人一種だからな!」

「ああ、聞かせてくれたまえ」

 

ツチノコの講義は朝まで続き……

夜明け前に私たちは湖畔へと向かった。


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