老いたフレンズゲールマン≪完結≫   作:照喜名 是空

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こはん

「ほう、これは見事な物だ」

「きれーな湖だねえ」

「やっとついたのだ!水場にいくのだ!」

 

湖畔は美しい針葉樹林に囲まれた湖だ。

どうもダムの一種に見える。

森の中の湖か……ビルゲンワースを思い出す。

あそこも、元は美しい湖畔だった。そう、元は。

 

「小屋があるのだ!誰か住んでそうなのだ!」

「あいさつに行った方がいいかもねーアライさーん」

 

水辺には高床式のログハウスがある。

奇妙だが、入り口は湖の前にあり、小屋本体は島にある。

どうやら、つながっているらしい。

 

「ログハウスか……懐かしい。かつて、友と作ったこともあったな」

「ログハウスも作れるんだねー」

「ああ、ごく若い頃総出で作り上げた物だ。

本を読んで、木を切り倒してね。

最初はみすぼらしい物だったが……いくつも作れば慣れる物だ」

 

いつしかあれは新入生の恒例行事となったのだったか。

それで最後は村ができてしまった。

そのままその森に居着いた者もそれなりにいた。

ウィレーム師の二人の従者になった学友。

一人は森の門番に。一人は森に埋めた上位者の死骸の墓守に。

あまりにも多くの墓石が並んだ。我々の好奇心のせいで。

そして、森は呪われねじくれてしまった。

 

「ゲールマンに友達がいたのか!?」

「ああ、ローレンスという。やや夢見がちで怪しい男だったが……

いいやつだった。誰よりも大きな夢を夢見ていた」

 

それが、悪夢になったのはいつからだったか。

やはり本当にかなえてしまえるような物を見つけたからだろう。

人の進化、獣の愚かを克服する。愚かだったのは私たちだった。

それが、ここに来てその実現を見てしまうとは。

もう、あの轍は踏まない。

 

「どんな夢を見ていたのだ?!」

「彼も、私も愚かな獣だった。

我々はフレンズのようになりたかったのだよ……

強く、優しく、善い獣になりたかった」

「なら、それは叶ったのだ!よかったのだゲールマン!」

「私は……フレンズらしく見えるかね?アライさん」

 

私はそんな者ではない。

私は、私たちはあまりにも罪を重ねすぎた。

だから、呪われた。街の皆まで巻き込んで。

だが、あの狩人のおかげで呪いは解けた。

彼のノコギリ鉈で私の罪も流されたのだろうか?

 

「ちょっと顔がよぼよぼで背が高いけど、ゲールマンもまたフレンズなのだ!」

「……ありがとう、アライさん」

 

フェネックがトントン、と扉をノックした。

 

「誰でありますか!?」

「私たちさばくちほーから歩いてきたんだけどさー。

ちょっと水が飲みたいのさ―。

少し休ませてもらってもいいかなー?」

 

茶色い学生服を思わせる服装のフレンズだ。

尾が生えていて耳が小さい、爪が長くだらんと垂らした感じ……

リス科のフレンズだろうか?

 

「わずかだが、じゃぱりまんもある。いくらかの珍しい物も。

どうだろう、砂漠から歩いてきて少し疲れてしまってね。

宿代というわけではないが……」

「いいでありますよ!」

 

即答だった。ヤーナムではここから30分はかかる。

やはりフレンズは善性を有している。

 

「では、さっそくプレーリー式の挨拶であります!」

 

飛びかかって来た!パリィ……いかんそれはいかん。

バックステップ!からの「狩人の一礼」

 

「それは何でありますか?」

「私の故郷……ヤーナム式の挨拶だ。

ハグはいささかこの老骨には刺激が強すぎる」

「そうでありますか!ではこちらの方にプレーリー式の挨拶であります!」

「まあまあ、それは私が代わりに受けるよー」

 

ハグからのキスか……

そういえば北米大陸のある種のリスはそんな行動をすると聞いたことがある。

しかしやはり刺激が強い。

 

「アライさんもするのだー!」

「アライさんはゲールマンの挨拶やってみたらどうかなー?」

 

自然とフェネックが誘導する。アライさんを守りいたわる行動は美しいものだ。

それは偏執に似てほのかに暖かい……つまり愛とはそういうものだ。

私もささやかながら手伝いをさせてもらおう。

 

「お手本を見せよう。このように左足を引き手をこうする」

「こ、こうなのだ?」

「良い感じだよアライさーん」

 

奥からもう一人フレンズが出てくる。アメリカ人のような服装だ。

やや狩り装束に似た意匠でもある。

 

「あれ?誰か来たっすか?」

「お客さんがきたであります!

じゃぱりまんやお土産をくれるので泊まっていくそうであります!

ビーバー殿はかまいませぬか?」

「えー、えっと……いいっすよ!俺っちはビーバーっす。お三方は?」

「私はゲールマン。ヒト科のフレンズだ」

「フェネックだよー」

「アライさんなのだー!」

 

ビーバーはこくりとうなずくと奥へと我々を案内した。

トンネルの中は薄暗く、聖杯ダンジョンを思わせる。

 

「じゃあ、立ち話も何だし、奥へどうぞっす!」

「ありがとう」

 

しかしこの土の匂い……真新しいものだ。

木材もつい先日切り出されたように見える。

我々ははしごを登り、ログハウスの内部に来た。

天井にランタンがない。やはりこれはこのフレンズ達が建てた物なのか。

 

「ところでこの家は君たちが建てたのかね?」

「そうっす!俺っちとプレーリーさんと、かばんさんとサーバルで建てました!」

「ほう、道具はかばんさんから借りたのかね?」

 

これだけの物が道具なしに出来るとは考えにくい。

ヒトのフレンズであるかばんが道具を持ち込んだと考えるのが自然だ。

 

「道具は……ばすを借りたっす。でも後は俺っちとプレーリーさんで……」

「かばんさんもビーバーさんもすごいでありますよ!

頭が良くってなんでも知ってるであります!」

「いやあ、俺っちだけじゃ悩んで何もできないっすよ。

ビーバーさんがすぐになんでもやってくれて……

かばんさんが俺っちたちの役割を決めてくれたからこの家ができたんっす」

 

ビーバーとプレーリーは見つめ合って仲むつまじくしている。

そうか、君たちも何かに呑まれたか。

 

「素手でこの木材を加工したのかね……?」

「俺っちは歯が強くって」

「私は爪が強いであります!」

 

ビーバーは机の上にあった枝をカリカリと噛む。

そしてあっという間に削り切ってしまった。

その木材をプレーリーが組み立ててあっという間にイスが出来た。

信じられないが、フレンズの力とはそういうものなのだろう。

サンドスターとはやはり神秘だ。

 

「すごいのだ!それでかばんさんは何をしたのだ?」

「俺っちが計画して、ビーバーさんが作るっていう役割を決めてくれたっす。

他にもいろいろ考えてくれたっすよ!」

 

役割、か……

かばん、君を見極めねばならない。

君がどういう人間なのか。どういうフレンズなのか。

 

「ほう、かばんさんは君たちにはどういうフレンズに見えたかね?」

「優しくて親切なフレンズだったっす!

見ず知らずの俺っちたちに協力してくれて……」

「穏やかで、頭の良いフレンズだったであります!」

 

どうも、かばんと会ったフレンズは皆口を揃えて親切で協力的だったと言う。

そして実際に道すがら立ち寄った者に協力している。

私の中であるいくつかの仮説が立ち上がった。

 

「かばんさんは知恵があるフレンズなのだな!すごいのだ!」

「かんがえるのが得意なフレンズか-。

ゲールマンは手先が器用だし、ヒトって変わったけものだねー」

 

私は仮説の一つを検証してみたくなった。

おそらく、これくらいならば害はないだろう。

 

「ああ、手先が器用で考えるのが得意なのがヒトという獣だ。

それで……こういう道具も作ることができる。

気に入ったものがあれば、どれでも使ってよい。ただ、刃物には気をつけたまえ」

 

並べたのは不要になった工房道具の試作品だ。

それでも、ナイフくらいは役に立つだろう。

 

「これはどうやって使うっすか?」

 

ビーバーは慣れない手つきで釘やナイフ、

ノコギリ鉈になりそこなったノコギリを触る。

いかにも危なっかしい。

なるほど……道具は使えない、か。

 

「そうだな……こう使うのが良いだろう。いらない枝をいただけるかね?」

「いらない枝……」

「これであります!」

「ありがとう」

 

久々にウッドカービングで彫刻でも彫ってみるか……

たしか、ビーバーとプレーリードッグの姿は……こうだったな。

 

「おおっ!俺っちたちのけものの頃の姿っす!」

「手先が器用でありますね……」

「昔手習い程度にね……よければ、受け取ってくれたまえ」

 

しかし、異様な速さで彫れてしまった。

まるで狩人の業で一瞬にして物を取り出したり、

物を握りつぶして体内に取り込むかのように。

たった数動作で完成し、工程が省かれている……

やはり夢に関連した力なのだろうか。サンドスターとは。

そして、私もやはりフレンズになったのか。私などが、いいのだろうか?

 

「君たちはこれらの道具が使えそうかね?」

「いやあー歯でやれば出来ると思うっすけど、手先はそんなに器用じゃなくって……」

「爪でやった方が早いであります!お返しに何か作るであります!」

「じゃあ、お三方の姿をこの板に!」

「はいであります!」

 

ビーバーが板に軽く絵を描き、プレーリーが爪であっと今に作り上げてしまう。

なるほど、やはり元の動物の特徴が著しく増強、いや改善されている。ヒトの形のままに。

それがサンドスターの加護ということか……

 

「おおーこれはー」

「アライさんとフェネックとゲールマンなのだ!

ありがとうなのだ!大切にするのだ!」

 

そこには我々三人が掘られた小さな木版があった。

こんなにも、私は穏やかな表情をしていただろうか?

わからない、わからないが暖かさを感じる。

 

「ああ、これは……とても良い物をもらった。ありがとう」

 

今は科学は忘れよう。こんなものを出されては思索など無粋というものだ。

 

「何かお礼をしたいのだが……」

「じゃあ、アライさんがこれまで聞いたかばんさんの話を伝えるのだ!」

「おおっ、かばんさんの話っすか!」

 

アライさんたちは仲良く話し始めた。

私は、長椅子に座っている。

邪魔をすべきではない、真にフレンズたる善性を備えたものでなければ。

それに……少し眠くなってしまった。

 

 

「ほんとにいいおうちだねー」

「続きを早く聞かせてであります!」

「それで!さばんなでその帽子を見つけたとき……」

 

ふぐぐ、と帽子を目深にかぶったゲールマンからかすかにいびきが聞こえた。

 

「ん……ああ、ローレンス……ひどく遅くなってしまったね……

……君も、早くこちらに座り給え……ウィレーム先生が待っている……」

 

アライさんたちがゲールマンを見た。

そしてまた穏やかな寝息が続く。

 

「ゲールマン、寝ちゃったみたいだねー」

「だいぶ疲れてたみたいなのだ。ゆっくり寝るのだ!それでー」

「うんうん!」

 

フェネックはかすかにゲールマンに微笑むと話の輪の中に戻っていった。

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