けもの黙示録カイジ,オーバーロード転生ものなど[エタ]   作:紅茶タルト

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けもの黙示録カイジ.txt 115KB 作成日時2017/6/17
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けもの黙示録カイジ

 

「へ……?」

「ククク……」

「それは……いったい、どんな……」

「まあま、……それは起きた時のお楽しみ……! でも……」

「…………」

「言葉通り……そのままの意味で……」

 

 

「楽園っ……! 楽な園なんだっ……!」

 

「そこに……カイジくんの借金はほぼ一千万だから……まあ、十五年は行ってもらう計算か」

 

「へ……?」

 

 カイジ、困惑……!

 地獄、地の獄だとでも言われれば拒否、拒絶。子供のように駄々をこね必死に救いを求めただろうが、楽園……!

 無論、言葉通りの意味とは思わない。そんな甘い話があるはずは無く、何かしらの形でキツイ返済手段であることは間違いないからだ。

 例えるなら、地獄の反対。高山における重労働……!

 

 そう考え至ったところで、なにをできるでもない。カイジ、耐えきれず、吸引させられた薬物により昏倒……!

 そして、車は止まること無く動き続け……。

 

 

 

 

 気が付けば……

 オレは楽の園……!

 

 どこかわからぬ……

 見晴らしのいいサバンナ……

 野獣 巣食う

 野生生物の楽園にいたっ……!

 

 

「どこだよ……!」

 

 カイジ、再び困惑……!

 サバンナ。その言葉に思い当たるにも、カイジは長い時間を要した。

 アニメ版だと、小さいとはいえ彼の部屋にはテレビがある。なんかまあまあ広い部屋で、ステレオすらある。

 だからサバンナという情報を仕入れる機会はあるにはあったはずだが……その領域、おおむねNHK。

 見るはずもない。この男が。

 しかし、さすがに目の前にあっては実家ぐらし時代の遠い記憶も揺さぶられ、思い出したその中に見た、世界まる見え。

 まだ無垢だった時代、毎週見ていたまる見え。唐突な"お隣韓国では!"が始まったあたりでなんとなく見なくなったが、あの番組で紹介された海外の番組がカイジを助けた。(この辺たぶん、年代設定ガタガタ)

 

「なんでだよ……!」

 

 気が付いたがばかり、無情にも突き刺さる現在地サバンナ。

 しかし、それは明らかに知ってどうなる情報でもない。この状況を打開する一助にすら。

 何か、何か無いだろうか。カイジは自分の体を探る。何か持っていないか?

 帝愛の仕業であれば、発信機くらい。しかし、手足に時計すらない。埋め込まれでもしていればわからないが……それらしい傷は無い。時代的に、体温で電力を賄う小型の発信機はまだ無い、はずである。

 

 ということは……?

 見も知らぬ地とは言え、逃げようと思えば逃げられそうな状況……。

 監視の目も届かないであろう、人工物の無い場所へ、発信機すら付けず……?

 解放したと言うのか。あの帝愛が……?

 

 瞬間、背筋に走る寒気。猛烈な悪寒。

 それはギャンブラーとしてのカン……! ではなく、

 その洞察力で読み取った、帝愛の悪意……! でもない。

 

 単純に、あり得ない状況に対する、本能的な恐怖である。あの帝愛がその額九百五十万円もの負債者を、過酷な環境とはいえ放免。不可解……! 非現実……! 荒唐無稽……! それは例えるなら、気が付いたらサバンナに居るよりあり得ない。

 ではこの状況が成り立つ条件はいったい何か? 人間が猛獣に喰われる様をショーにしているのか、とまず考えた。鉄骨渡りの時のように、魂の膿んだ外道、人の命を喰らう亡者共……奴らがそれを肴に酒でも飲むというのかと。

 しかし、カメラが見当たらない。カイジはカメラなどに関してほぼ無知であったが、それでもなんとなく、超望遠で撮影というのは難しいのでは無いかと感じた。それに、接写の方が迫力があるはずだ。できれば、カメラなど通さず見たいはず。

 トゥルーマン・ショーなど知らなかったが、空が偽物で上から見ているのではと疑っても、どこまでも透き通った青空が広がっているばかりで、遠くには鳥すら飛んでいる。多少、妙なシルエットだったが……異国の鳥だからということで納得する。

 

「クソッ……!」

 

 何か仕掛けがあって隠れているのでは無いかと四方八方に石を投げてみるも、草に当たってガサガサ鳴るばかり。

 何もない。受け入れがたくとも、カイジの理性はこれが放免であると結論を出す。どちらかと言えば、放逐。島流しに近い形ではあったが……。

 

 わからない。理解できないが仕方ない。

 しかし……開放されたという安堵は、それほど大きいものではなく、不安と恐怖がカイジの心に忍び寄りかけた。

 これが本来送られるはずだった地下王国からの解放であればいざしらず、ここに来る前の状況は逃亡生活ではあれ、それなりに自由だった。本来であれば……僥倖。圧倒的……僥倖っ……!

 しかし、気付けないっ……! ただただ、不安からの逃避のため地面に身を投げ出し、思考を放棄する……。

 

「なんなんだよ……もう……!」

 

 駄々っ子のようにじたばたしていると……指先に何かがひっかかった。

 草むらの中に、何かがある? 恐る恐る引っ張ると、出てきたものは。

 

「なんだこりゃ、かばん……?」

 

 白……いや、グレー? アイボリー、象牙色だろうか。とカイジは思ったがたぶんオフホワイトあたりじゃないかしら。

 

「…………っ!」

 

 ハッとしてかばんのあった辺りを調べる。すると、なにやら帽子が落ちていた。

 鳥の羽根が付いている、穴の空いた帽子。似合わないことこの上ないであろう自覚はあったが、直射日光を遮る必要が有ることはたいしてサバイバルスキルの無いカイジにも思い当たった。こうして帽子が目の前にあるのだから、自然と用途に頭が行く。

 かばんだって、捨て置く理由は無いだろう。かばんを背負い、帽子をかぶり、そんな現在の自分の姿を想像すると明らかにクソダサかったが、選択肢がない。

 なにはともあれ、旅立ちの準備が出来てしまった格好。流れに逆らえずとりあえず歩き出したところ、かばんの中を見ていないことに今更ながら気付く。

 重みがあって、つまり何か入っている。かばんを下ろし、中を覗く。

 

 中に入っていたものは、T字カミソリ。歯磨きセット。ソーイングセット。靴下、シャツとパンツ。

 圧倒的お泊りセットっ……!

 

 その他、水入りペットボトルに、袋が三つ。これは特に、警戒するような見た目ではない。

 白い紙の袋で、第一印象としては……まずコンビニの中華まんを連想する。ということは、食べ物だろうか?

 膨らみ方も、そんなフォルム。唯一の違いとしては、やや大きいことくらいか。

 それを見て自覚したが、確かに腹は減っていた。連れ去られて何時間経過しているのかはわからないが、ここは明らかに海外だ。時差が大きくあるらしくまだ明るく検討も付かなかったが、腹が減るくらいの時間は経過しているようだ。

 いそいそと開けると、期待は裏切られず、ピンク色のまんじゅうか菓子パンか、ともかくそのような物が入っていた。

 カイジ、一瞬迷うがかぶりつく。すると……!

 

「うめえ……! なんだかわからねえが、わるかねえ……!」

 

 次にかばんから500mlペットボトルの水を取り出し、これをグビグビ飲む。愚の骨頂だが、サバイバル知識は無いっ……!

 辛うじて我に返り、キャップを締めた頃にはもう半分になっていた。

 多少反省しつつ、大きく"の"のような模様のある謎の食べ物を一つ食べ終わると、ようやく一息つくことができた。

 とりあえず、帝愛的には餓死は望んでいないようだ。水も……十分とはいえないが、ある。

 相変わらず意図は読めないにしても、消去法が一つ進んだ。ということは、いずれわかる時も来るかもしれない。

 それまで生き延びるべく、アテもないが歩き出すことにした。

 

 

 その時。

 ばさり、舞い降りる音。

 

「な……!?」

 

 現在地、サバンナ。そこで聴こえた音……!

 カイジ、逃走……!

 

「う、うわああああー……!!」

「あはははははっ!」

 

 本来であれば、危険な部類の野生生物から走って逃げるなど不可能。背を向けるより、まだ立ち向かった方が相手が逃げる可能性は十分にある。

 しかし、カイジが唯一知る生存術は、対帝愛。追手をしばらく撒いてはいたが……それも、自分から懐に飛び込んで捕まる程度のものでしかない。

 無知、無謀。無為無策……! ノープランなクズっ……! 喰われて死んじまえ! ばーかばーか! おたんこなす! 言い過ぎ……! 反省。圧倒的反省っ……!

 

「わーい!」

「人……!? なんで追って……!」

「狩りごっこだね? 負けないんだからー!」

 

 みゃー……! みゃー……! 圧倒的みゃーっ……!

 

 走りながら、微かに聴こえた狩りという言葉。明らかに、物騒……!

 確実に刃物くらいは持っている。或いは、銃。そうか、これは……鉄骨の時とは違う……!

 ただ見るだけではない。自分の手で人を殺めたい者のために、丸腰の人間を用意っ……!

 であれば。獲物が食料ナシで、弱っていてはつまらない。その為の配慮があのかばん……! その中身っ……!

 カイジ、確信。

 

「クソ……! クソ、クソ……!」

 

 帝愛め。ここまでするか……!?

 しかし、考えてみれば符合する。ちまちま強制労働でもさせて返済させるよりは、金持ちに売った方が明らかに確実で、早い。

 そう例えば地下王国建築のために土砂を運ぶような労働を強いられたとして、返済前に肺をやられて死なれでもすれば、丸損……!

 そう考えれば、この悪辣、外道なやり方は至極、効率的っ……!

 

「あれ? 隠れちゃった……」

 

 声は、女。それも若い……!

 どういうことなんだっ……!

 

 そして思い描く、想像図……!

 ナイフを持った、少女。その想像、奇跡的にもクリソツ。その顔、あの、坂崎美心っ……!

 

 悪魔……悪魔めっ……!

 きっと、幼い頃から殺人を仕込まれたんだ……あの狂った富豪どもにっ……!

 

 幸いにもカイジはまだ若く、逃亡生活で体力も付いている。

 走って逃げたとしてもそう不利では無いかもしれないが、それは通常であればの話。

 相手は"狩り"のために、走り込んで鍛えるくらいのことをやっていてもおかしくはない。

 自然、カイジが取る行動は潜伏。相手に体力を使わせ、可能ならば撒く。

 かばんという重石が今は邪魔で仕方ないが、下ろせるはずもない。そんな音をたてるわけにはいかない……!

 

「こっちかなー?」

 

 楽しそうに草をかき分ける音。相手が武器を持っていないと知っているからこそ、ああして無警戒に草の中に分け入れるのだろう。

 しかしカイジ、そこに隙を見出す。

 考えればわかる。丸腰の相手に、刃物を持って襲いかかったとして……どちらが死ぬかはわからない。

 無論、刃物を持っている方が有利なのは確か……それは確実……!

 しかし、相手も当然抵抗をする。その時、もつれ合った末……ナイフがぐさり。襲撃者の心臓に、一突き……!

 ゼロではない。ばかりか、一割……二割……あるはずだろう。

 当然起こりうる事故。人を殺そうと思えば、当然そういったリスクが有る。それを理解せず、ただ殺そうなど……愚かしい。

 銃である場合も……こうも接近すれば、同じこと。どう上手くいったとしてもはっきり言って分は悪いが、それでも信じるしかない。

 

 やれる……! やれるんだ……!

 刺せるさ……奴隷は……三度だって刺すっ……!

 

 しかし。

 ……ガサ。

 自分の背中、かばんの中から聞こえる音。

 

「あっ!」

 

 あ、あ、あ……!

 

 ぐにゃあ……!

 

 動かない。それは意外と、難しい。

 加えてこの状況。どうしても、鼓動……震え……起こりうる。

 そしてその微小な動きを、まんじゅうの袋は、そして殺人鬼の耳は許さなかった。

 

「そっこだー!」

 

 確かにあった。ある程度の覚悟……!

 しかし、できればどこか行って欲しい。そんな到底捨てられぬ甘えがカイジの体を縛った。

 そして。

 

「ひっ!?」

 

 どさりとのしかかられ、倒れる。マウントされ、絶体絶命、かに思えた。

 しかし、その手に……刃物の姿は見えない。

 ただ奇妙な服、何らかの動物のような付け耳……。加えて、幼い少女だ。

 その時……! 圧倒的閃きっ……!!

 

 武器があれば取られた時、危険。であれば、無手で殺す。

 その手段。野獣のような付け耳。これらの符合が示すものは一つ。

 

「たっ、食べないで……!」

「た、食べないよぉー!」

 

 

 この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りしました。

 

 提供

 

 帝愛グループ

 

 

 

---2

 

 

 少女はなぜかカイジをマウントから開放した。

 圧倒的な優位を捨て、向かい合う。信じがたいが、すぐさま喉元を噛み千切るという気は無いようだ。

 悪魔め……! 狙いはなんだ……!?

 腰の抜けたカイジの前に座り込んで、真っ直ぐに目を合わせる少女。

 カイジ、背負っていたカバンを前に回し、臨戦態勢。これを顔面にぶつけて逃げれば、数秒は稼げる……はず。

 

「ごめんね! わたし、狩りごっこが大好きで。あなた、狩りごっこあんまり好きじゃないけものなんだね」

 

 …………!?

 カイジ、困惑。この時点で"自分を獣だと思いこんでいる"という発想は困難。

 現代であればそれをくくる言葉すらあったが、変わった思い込みを持つ人種……今では、ある程度一般的な範囲においては、ムーの読者たちくらいしか存在しないだろう。当然、カイジが読んでるはずもない。

 もちろん、今だって……前世からのナニだとかの妄想持ち、探して見つからないものではないが……幸いにも、カイジの人生に彼らと関わる機会は無かった。

 だが、故に、順当な……現実的に有り得る回答。妄想少女という答えは導き出せなかった。

 

 ただ理解できるのは……決定的な、ズレがあること。

 おそらく……解決せずにわかり合うのは不可能なくらい、絶大なる溝、断絶。ディスコネクティング……!

 基本的にはダメ人間たるカイジは、これに太刀打ちできる技術を持たない。

 必然、黙り込む。

 

「うっ、そのー」

 

 しかし……どうにも……。

 危害を加えようという、その気配が無い。

 むしろ逆に、驚かせちゃって、もうしわけないなー、と。そんな雰囲気しか感じ取れない。

 これは、もしかすると……。

 

 勘違い……?

 思い至ってみれば、そうじゃないか。

 殺人狂の少女……。マンハントの獲物……。帝愛であれば、やりかねない。そのくらいのこと。

 しかし言ってみればそれは想像。根拠なき、妄想に過ぎない。

 であれば。

 結局、わけの分からない状況に逆戻り。戻ったに過ぎない今警戒を解くのは間違いであろうが、この男、善人ではないまでも基本的には人が良かった。

 

 ほっ……。

 

「あ、ちょっと元気出たみたいだね!」

「あ……ああ」

 

 とりあえず直ちにという命の危険は無さそうだ。なら……対話。ここはどこか?

 それとこれは本能的にだが、お互いを知ることで殺しにくくする狙いも込めて。気さくに、話しかけよう。

 

「よ、よう! かわいい耳だな! 俺は……いや、まずここって……? それに、お前、……君は……?」

 

 少女はすっと立ち上がって答える。

 

「ありがと! ここはジャパリパークだよ! わたしはサーバル! この辺はわたしの縄張りなの!」

「サーバル、ちゃんか。俺は……」

「あなた……尻尾と耳の無いフレンズ? 珍しいね!」

「……?」

 

 いや耳はあるよ。ちゃんと付けたから。

 

 ジャパリパーク。フレンズ。……尻尾?

 言われて見れば、目の前の少女……サーバルの背後にちらりと見えるもの。確かに尻尾がある。

 まあ、耳があるんだからそのくらい。事情は知らないが、他人の仮装……服装に口出しできるほどカイジは立派な服装をしていなかった。特に帽子。

 

「どこから来たの? なんのフレンズ?」

「あ……いや、憶えてないんだ」

「あっ、昨日のサンドスターで生まれた子かな?」

「サンド……?」

 

 タバコの銘柄……?

 

「そう! 昨日あの山から吹き出したんだよ!」

「山……? あ……!」

 

 山。

 明らかに、変な物体が生えた山。

 人工物……だろうけど、大掛かりすぎる。あれも帝愛の仕業とすると、債務者を集めて長年強制労働でもさせない限りは難しいだろう。

 

「ほら、まだ周りがキラキラしてるでしょ?」

「……なん、っだこりゃ……!?」

 

 虹のような現象……と無意識に思い込んだのか、言われるまで気が付かなかったが……気が付いてみれば、そこらじゅうになにやら変な、湧き出す光が。

 

「そしてー、なんのフレンズか調べるにはー!」

 

 驚きの冷めぬうち、サーバル、隙だらけのカイジに、追撃……!

 

「鳥の子なら、ここに羽根!」

「うっ!?」

「フードがあれば、蛇の子!」

 

 いいえ蛇は利根川。

 

 唐突なボディタッチ……! 密着……! 断っておくが、この男……別にロリコンではない!

 しかし、間違いなく、色の濃い人生は送っていない。それは確か……!

 幼い少女とはいえ、急にこの距離は怯む!

 あわあわ。

 

「あーれー? ……これはー?」

「あ……? か、かばん……」

 

 なので、反射的に答える。

 

「かばん。……かばん!」

「ど……どうした?」

「ううん! わかんないや! ……これは図書館に行かないとわかんないかも」

「あ……?」

 

 ……なにが?

 

「てか、あるの? ……図書館。サバンナに」

「あるよ! さばんなに、じゃないけどね! わかんない時は、しんりんちほーまで行って、図書館で教えてもらうんだ!」

「へー……」

 

 教えてもらう。

 ……ってことは、つまり。他にも人が居る……ということか。

 まあ……それは、当然。

 むしろ居ないはずがない。面倒見る人。

 たぶん、この子はなんらかの病とか、特殊な事情を持つ子で……。それでいて、親が金持ち。こんな広い土地を用意できるくらい。

 ……金持ち?

 

 もしかして、この子……兵藤の……?

 

 いや! ない。ナイナイナイ!

 欠片も似てない。明らかに、違う。DNA、チンパンジーと人間くらい……!

 

 ……しかし、その線だと決定的に腑に落ちないことがある。

 自分。その存在が持つ意味。

 明らかに、不調和。というか、根本的にあり得なくないか……?

 例えば、この子の面倒見ろとかそういった話なら……説明しない理由がない。少なくとも、デメリットの方が勝つはず。

 だって説明されたら……まあイヤはイヤだけど、受けるしかない。だって、たぶん……マシ。帝愛が用意する返済手段の中では、間違いなくマシな部類であるはず。

 ということは、この……サーバルは、"向こう側"じゃない……?

 さっきの想像で先入観があって気付かなかったけど、あるんじゃないか……? その線。

 

「……っ!」

 

 カイジ、熟考。その間、楽しそうにカイジを眺めるサーバル。放って置かれてる形だが、ころころ変わる表情は見ていて飽きない。

 しかし今、その状況に変化。

 カイジ、泣き出す……!

 

「ど、どうしたの? どこか痛い?」

「クッ……苦労してんだな……!」

「えー? そうかなあ……」

 

 カイジ、結論。

 見れば、金髪なのに日本語じゃないか。この子はどこかで攫われて、連れて来られたんじゃないか。まだ自分の国の言葉も憶えてないくらい、小さい頃に……!

 それは確信ではない。しかし、この考えが違うとしても……まず、明るい答えは無いだろう。その部分に関しては、確信を持つ。

 なら。だったら。

 どうすれば?

 例えば普通のダメ人間が地下で働かされていて、一千万あれば解放されるとする。なら、助けようと思えば簡単な話。

 けど、この場合って?

 日本に連れて行けば助けたことになるか? いいや。まず間違いなく、追われる身。

 身軽な一人ならともかく、コブ付き。コブ付き逃亡生活……!

 間違いなく目立つし……!

 なら警察に任せる。もみ消されるか、そうでなければ大騒ぎになって……どうなる? その先は?

 

 ムリっ……!

 他人の車を傷付けるわりにお人好しなこの男。できれば助けたいとは思うが、どう考えても手に余る。

 まず事情がわからないことには……と、ひとまず先送りにすることにした。

 

「い、いや! それより! ……図書館ってどっち行けば良いかな?」

「うーん。向こうの方だけど……初めてじゃ迷っちゃうよね」

 

 目線の先を追うと、他の方向とたいして変わらない景色。

 ……ムリ!

 

「うん。途中まで案内するよ!」

「……よろしく、お願いします……!」

 

 

 

 

3

 

 

 

「ガーイド! ガーイド! さばんなガーイド! どうしたの? かばんちゃん!」

「ああいや。なんつうか……広いな、って思ってさ」

 

 もし、ガイドが無かったとしたら……。

 その問いから一つの答えしか導き出せない景色に、背筋が凍る。

 カイジは自分の骸の姿を想像してしまうが、それは骨と皮が服を着てるというもの。たぶんサバンナで死んだらいろんな獣に順番で喰われるうち全身バラバラになってくだろうし、腐るからそんなミイラっぽくはならないぞカイジ。

 

「そーかなー。どこもこんな感じだよ? あ、でも図書館は狭いよ! もしかしてかばんちゃん、狭いところがなわばりなのかな?」

「ああ。まあ、たぶん……」

「へー。どんなところなんだろーね。かばんちゃんのなわばり!」

 

 未だ状況がまったくつかめず、とりあえず話を合わせ続けるカイジ。その顔は赤い。

 

「かばんちゃん! かーばんちゃーん!」

「……くっ!」

 

 だって恥ずかしい。

 

 

 

「なんて呼ぼっかー? うーん……かばんちゃんで!」

「へ?」

 

 そう言われて、いや俺には名前が……と言いかけたカイジだったが、そうもいかない。

 危機に瀕して回り始めたカイジの頭脳が、なにがNGかわからないこの状態では見に徹するべきだと訴えた。

 なにせ帝愛のやることだ。説明もしていないルールを理由にペナルティを課す、くらいのことは有り得る。

 この子が知らないことを教えるというのはまさにそれだろう。意図して妙な教育を施しているようであるし。

 違うけど。

 

 

 

「あ、かばんちゃん! ほら、あそこにシマウマちゃんが居るよ!」

「へえ。やっぱ居るんだそういうの」

 

 指さされた方を見ると、確かにしましまの……、

 

「シマ……ウマ?」

「はい?」

「うおっ!?」

 

 がさりと、シマシマの物体が立ち上がる。

 

「どうかしました?」

「あ、あ、あ……」

 

 ざわ……

     ざわ……

 

 その時、カイジの脳裏に二つの思考が過ぎった。

 一つは、犠牲者は一人ではなかったのか、という今までの考えの延長。ある種冷静、理性的なもの。

 二つ目は、混沌とした……纏まらぬ、直感的なもの。

 得体の知れない、原初の恐怖。

 恐る恐る確かめてきたはずの道が、振り返れば足を踏み外さなかったことが信じられないほど穴だらけだったかのような怖気。前を向けば消えている灯り。慌てて辺りを見回して……必死に探しても見つからず、困り果てたところで、少し先に微かに光るもの。目を凝らしてよく見れば……サーバル。「みゃ?」……うーん。頼っていいんだろうか?

 

「この子はね、かばんちゃん! 昨日のサンドスターで生まれたばかりだから、びっくりしやすいのかも」

「おお。それは驚かせてしまいましたね。私はサバンナシマウマです」

「……ああ……よろしく」

 

 自分は何か大きな勘違いをしているんじゃないか? そんな予感が確かなものとしてあるのに、具体的にそれがなんであるかまるで掴めない。

 ただ、奴らの悪意だけでは説明の付かない、もっと超越的ななにか。それがじわじわと包囲を狭めているような感触は、それ自体が恐ろしい未知である。

 混迷。ひりつくような、本能による恐怖。それらが今、カイジに纏わりつき始めた。

 

「なるほど、図書館ですか。でしたら、驚かせてしまったお詫びにサバンナシマウマの背中に乗りませんか? ゲートまでお送りしますよ」

「わー! 私も良い!?」

「いいですよ、二人くらい」

「わーい!」

 

 そして次の瞬間別の困惑が勝った。

 乗れるか!

 

「背中って、乗れるわけ無いだろ……! 明らかに、逆! サイズ的に……!」

「ああ。確かにかばんさん、足が長くて乗りにくそうですが、工夫すればいけますよ」

「いや、重いって! 約七十キロ……支えられるはずがない……!」

「そうですか? いけると思いますよ」

「無理だって。どう見ても」

「まあそう言わず。さあ、どうぞ」

 

 なぜかたくな。

 カイジは無理だろう、とは思ったが、先方は乗るまで満足しそうにない。四つ這いになって待機するサバンナシマウマを見て、まあ乗ってぺちゃっと潰れれば諦めるだろうとまたがって、ゆっくり体重をかけると……微動だにせず、全体重が乗った。

 

「へ……?」

「さあ、サーバルさんもどうぞ」

「わーい!」

 

 そして出発。

 

 

 

 

「今のがアフリカンゴールデンウルフちゃん! あっ! チーターちゃんとインパラちゃんとバーバリライオンちゃんだ! やっほー!」

「おあああああああ!」

「まだまだ行きますよー!」

 

 ジョッキーじみた無理な体勢の内側にサーバルが座り、その状態で高速で走るサバンナシマウマ。

 経験が無くとも想像でわかるとおり、人型での四足歩行は手足の長さの差から平坦な道では通常そう速度を出せない。

 それを無理に出せばどうなるかといえば、乗り心地が死ぬ。

 

「ラーテルちゃんにー、メガネウサギワラビーちゃん! あっちに居るのはブチハイエナちゃんだよ!」

「」

「まだまだ行きますよ! 野性解放ゥー!」

 

 そして。

 必死に背中にしがみつくカイジの視界に、例の虹のような何かが現れたかと思うと……更に加速するサバンナシマウマ。

 

「今のがセルリアンだよー!」

 

 ガイドされても、今のカイジの視界は白黒である。シマという意味でも、走馬灯的な意味でも。

 

 加速した思考の中で、彼は答えに至る。

 あの山。謎の光。獣耳、尻尾。この速度。

 さっきは処理できなかったが、証言によると山から吹き出したものらしい。

 そしてこの耳。このアゴを挟む二つの耳の感触は、明らかに血が通ったものだ。股間に当たってる尻尾も動いてる。

 

 ……"サンドスターで生まれた"。

 

 二度ほど出たこの表現は、それらを結びつけるに足る引力を持っている。

 通常であればそれを常識が邪魔したが……今は、死線。良く考え、閃きを信じ、幾度も切り抜けてきた、懐かしの死線である。

 そこから生まれた結論を、彼は根拠もなく疑いはしない。

 

 

 あの耳や尻尾は本物で、拉致されてきたわけでもない。

 おそらくは、"サンドスターで生まれた"。

 そういうことだろう。

 

 さすがに帝愛がどうにかできることとは思えないため、ただ利用した、しようとしていると考えられる。

 自分が送られたのも、おそらくはその為に……。

 

 思考の間も、体はしっかりとサバンナシマウマの背中を足で挟み、手で遠慮なく力いっぱい掴んでいた。ほとんど自動的に体がバランスを取り、必死に生きながらえようとする。

 落下、死。ひどい既知感のある状況が続き、結果的にこの男はまた生き延びた。今回は単行本二冊になるほど長くもなく済んで、

 

 

 木陰でぐったり。

 

 

「……ッハー、ッハー、ッハー……」

 

 佐原が見えた。

 

「なんだか、ずいぶんお疲れですね」

「暑いからはあはあしてるんだよ」

「うーん。違うと思いますが」

 

 カイジ、死す。

 厳密に言えば少し息はあるが、まあ似たようなものである。なにせ虎の敷き革のように地面に張り付いて、あとはちょっと後ろから心臓を突き刺せばころっと死ぬくらいに弱っているのだから。

 実際サーバルが「休憩しようよ!」と言わなければ落ちて死んでいて、次は遠藤さんの番だった。

 やって来た遠藤さんはまたたく間にフレンズをまとめ上げ、なんだかんだで帰る頃には帝愛に良い感じのポストを与えられ迎え入れられる。ハッピーエンド!

 カイジが死ねば遠藤さんが助かるのに。

 

「っはあ、ふう…………」

 

 息を止める。しばらくこうすれば息切れがおさまるということをカイジは逃亡生活の中で憶えていた。

 少し復活して、顔を上げると緑のベンチが見えたので、のそのそと這い上がり腰掛け、天を仰ぐ。するとぱさりと落ちる帽子。どうやってついて来たのか。

 

「あ……? ベンチ……?」

 

 視線を下げると、木の隣には小さいテーブルがある。木自体にも、なにか看板みたいなのが打ち付けられている。雨のせいか、書かれていたであろう文字は読めなくなっているが。

 コナンくんなら工夫して読んだかもしれないが、カイジくん、あるいはかばんちゃんなのでそれもない。単なる板だ。

 ただ、"の"マークだけは消えず、はっきり残っている。

 

 人工物……あるのか。そうか、図書館あるって言ってたからな……。

 

 少しの安心。

 ぼんやりした頭で、ふと"の"のマークに見覚えがあることに気付く。

 ああ、そうか。あのまんじゅうだ。かばんを背中から下ろし、取り出した袋を開けまんじゅうを見て確認すると、うん、やっぱりな、と納得する。

 

「あ! ジャパリまん! どこにあったの?」

「そう言うのか、これ……かばんだよ」

「かばんちゃん?」

「じゃなくて、ほら」

 

 開いて見せる。

 

「ほら、この中に」

「…………」

 

 硬直。

 

「どうし」

「すっごーい!!」

「ひい」

「へー! へー! へー!! かばんってそう、へー!」

 

 ぐいぐい来るサーバル。

 サバンナシマウマも「おー」と感心してる様子。

 かばんを知らないのに、それが便利だってことは見てわかるらしい。

 しかしカイジ、この時未だ疲労困憊。とうてい付き合える体力はない。

 思わず差し出す、残る食糧。ジャパリまん、二つとも。

 

「……俺は休んでるから、これでも食っててくれ」

「わーい! ありがとう!」

 

 愚策……! 愚策……! 愚策っ……!

 この男、無為に差し出す。このアテのない状況で残りの食糧、その全てを……!

 生き残り、気が抜けての大ポカ。それもあるが……アテられている。その平和ムードに……!

 

 気付いたらぐにゃあ~となるくらいの墓穴……!

 しかし気付かない。

 そればかりか一服しようとポケットからマルボロを取り出す。ぼんやりと、火を点けようとしたところで……気付く! 気付く……! 気付くっ……!

 灰皿が無い。

 べつに、吸っちゃえばいいじゃないと思うかもしれない。現実のモラルや法はどうあれ、カイジはアウトロー。気にすることは無いと。

 実際破戒録作中でも路上で吸っているが……あれはタバコの自販機の近く。まだ近くに灰皿があったという言い訳はつく。

 しかし、ここで吸うと……気まぐれから吸い殻をポケットにねじ込んだとしても、灰は落ちる。

 それはできない。だってカイジはヤングとはいえマガジンの主人公だから。

 

 以上。携帯灰皿持っときゃよかったな、とこの男がただ素直にしまう姿は不自然であるため、このタイミングでタバコを吸わないのはそういった不思議な力が作用してのことという解説でした。

 

 そして仲良くジャパリまんを食べてる二人をみて、ぐにゃあ~。

 

 猛省。

 

 

 

「嫌だ!」

「でも、遠いですよ」

「絶対に嫌だ」

「でも……遠いですよ?」

 

 頑な対頑なの平行線。その原因は、

 

「まだ道は長いですし、やっぱりサバンナシマウマの背中に」

「……いいか、わからないなら言ってやる。命は重要だ……!」

 

 澱み、結構。腐り、結構。例え兵藤がなんと言おうと、アカギでも二度は乗らない。

 

「命、ですか?」

「決まってる……! あの速度、もし振り落とされたら……!」

 

 

 百人に聞きました。あの速度から振り落とされたらどうなる?

「大怪我 or 死(百人)」

 

 フレンズ百名に聞きました。あの速度から振り落とされたらどうなる?

 その他の回答

「ちょ、ちょっと怪我しちゃうかもしれません……(一名)」

 

 

「大丈夫ですよ(九十九名)」

「無理なの……!」

 

 こんなに人とフレンズで意識の差があるとは思わなかったカイジも、ここに来て薄々気付いてくる。

 こいつら、頑丈なんだ……!

 バケモノ……!

 

 パークガイドさんが聞いたらマジギレするような内心だったが、彼を責めてはいけない。

 動物の擬人化のジャンルに慣れ親しんでいれば受容できる素地もあるいはあったかもしれないが、彼女たちは有り体に言って"人に似た何か"。人間の本能はそれを忌避し、排除させる。

 加えて認識面の違いを知って尚対話を避けないだけで彼は上等な人間なのです。

 

「うーん。きっと、かばんちゃんは揺れるのがこわいんじゃないかな?」

「なるほど。そうなんですか?」

「…………んー、まあ……?」

 

 尖ったアゴに手を当てて考える。確かに……そう、なのかな? という具合ではあるが、大筋では間違ってはいないように思えた。

 揺れなければ……振り落とされそうでなければ、人は落ちれば死ぬ速度の乗り物にも平気で乗る。

 もう少し詳しく、人にとっての安全性について説明するには人について説明することになるが、彼女たちの人に対する認識が良くわからないため、それも難しい。

 人であることに気づかれた途端、バリボリムシャムシャ……。

 そんな展開を想像してしまい、とても言い出せない。

 体の弱いフレンズ、という言い訳も考えたが、そもそもそんなのが居るのかどうか。

 

 サーバル、ファインプレイ。

 

「では、こうしましょう。まずサーバルさんには歩いてもらって」

「うん」

「私は立って、かばんさんをおんぶ、と」

「それなら揺れなさそうだね!」

「ん……?」

 

 

 かんせい!

 

 みんなもあたまのなかでくみたててみよう!

 

 ぼうし(ちゃんとひろった)

 カイジ

 かばん

 サバンナシマウマ

 

 じょうずにできたかな?

 上手に組み立てるとアゴや鼻にアホ毛が当たります。

 

 そのような形で、サーバルと共に歩き出した。

 当然、カイジは恥ずかしい。早足とは言えサーバルの速度に合わせてるから、そんなには速くもない。

 けれど、

「いいっ……! 自分で歩く……!」

 と言ったところで、

「まあまあ」

 となだめられてしまう。

 そろそろ怒り出して無理に降りても良い頃。しかし、いまカイジの心境はちょうど宇宙人に連れ去られるような感じ。

 走って逃げても追いつかれるし、そう強気な手段は取れない。

 

 打って変わってゆっくりな旅路。まあ、ひとまず安全にはなった。

 なぜこのシマシマは執拗に乗せようとしてくるのかはわからないが、確かに楽は楽。自分で歩くよりは速いし……。

 そう、諦めた、その時……!

 

「……!? あ、あ、あ……!」

 

 その時……! 圧倒的、閃きっ……!!

 

「どうしたの?」

 

 首をかしげるサーバルの頭部にはピンと立った獣耳が二つ並んでいる。

 そして、その下の方、顔の両サイドには人の耳が一つずつ。

 この符合が意味するものは一つ……!

 

 こいつらの頭蓋骨……! 耳孔が、四つ……!

 

 

 

 バオバブの木。

 

「おー」

「おっきいよねー。葉っぱが落ちるとね、枝が根っこみたいに見えて、木が逆さになったみたいになるんだー」

「ほー」

 

 わりと慣れて観光ムード。

 

「たまに実も成ってるんだー」

「ふーん……。味は?」

「あんまり美味しくはないけどー、たまに食べたくなる感じかなあ」

「へえ」

 

 ちゃんとガイドするサーバル。そしてサバンナシマウマはと言えば、カイジを乗せたまま急な坂道もすいすい上っていく。

 これは楽。ただ普通にありがたい。

 景色を見る余裕すらあり、気が付けば……観光っ……!

 カイジ、ついにこれを楽しみ始める。

 現実逃避。

 

 坂道を上り終えると、そこには大きな水場が広がっていた。

 底こそ見えないが、それなりに澄んで見える水の中には水草や、水上に突き出した木がある。木には葉が無く、一見して枯れている。その様子が死んだふりでないのであれば、ここが水場になる前の先住者だったのだろう。

 

「かばんちゃん! 水だよ!」

「ん、ああ……」

 

 水辺に飛び付いて行くサーバル。カイジが降りると、サバンナシマウマも水に寄って行く。

 カイジは水を胡散臭そうに観察しながら歩み寄る。

 生まれは昭和。しかし時は平成。当然ある……! 多少の衛生観念……!

 野生の二人は美味しそうに飲んでいるが、カイジが見たところ……それは沼。

 平成九年の沼は現在の価値に換算するとドブである。

 未だにいまいち理解しがたいが、この二人は野生動物であるらしいから丈夫なのだろうとして……自分はどうなのだろうか?

 

 人。

 

 どうなの?

 疑問、と言うよりは危機感がカイジに囁きかける。いけるの? まずいの?

 とはいえ、カイジは知らないだろうが健康な人間なら泥水くらい、意外と飲めるものだ。問題は菌とか、虫、重金属汚染。

 二人がこうして飲んでいる以上、大丈夫だとは思いたいが……彼女たちの丈夫の度合いによるからあんまり参考にもならない。

 が、カイジはそもそもそこまでは知らない。知らないがゆえに、進める。

 

 ペットボトルを取り出し、中の水を飲み干す。空になったそれをゆっくりと沈めると、こぽこぽと小さな音をたて、ペットボトルは水を飲み込んだ。

 蓋をしてよく見ると……うっすら濁って、底に少し塵。

 カイジ、少し悩むが良しとする。まあ、死にはしないだろうと。

 楽観。希望的観測。何かあったらその時はその時。典型的ダメギャンブラーの思考っ……かに思えるだろうが、別に今飲むわけではない。この先水が手に入らなければ諦めて飲む、という作戦。可能な範囲でバッファを持たせ、生きようとしている。

 頑張れ。生き抜け、カイジ。きっとお腹は壊すけど。

 

 軽く水を振り払って、水の入ったペットボトルをかばんに戻そうとしたカイジだったが、気付く。

 圧倒的、視線。

 物理的に押されるような、圧力すら感じる眼力。

 見開いた四つの目の持ち主は口も半開きにして、カイジの持つペットボトルを凝視し、全ての思考をそれに割いているようだ。

 こわい。

 

 カイジにとって、彼女たちはよくわからない生き物だ。理性的なように見えるが、いつ豹変して襲い掛かってきてもおかしくはない。

 人であれば……どういう時に裏切るか、それを理や利によってある程度、予測できる。少なくとも、そう安心できる。

 だが彼女たちは?

 

 今まで人を噛まなかった犬が、今日初めて噛みました。

 

 温厚な猿が突然ひっかき、飼育員の顔を削りました。

 

 ショーでお客を楽しませていた、溺れてる人を助けるくらい優しいシャチですが、なーんか今日はやっちゃいました。

 

 きっと彼らなりに理由はあるのだろうが、人の感覚においてはあまり論理的でないのが動物というもの。

 カイジはフレンズを正確に理解しているわけではなかったが、けものと人、二つの要素が合わさっていることは感じていた。

 人っぽいけど、けものな生き物が、唐突に押し黙り、凝視してくる。

 本能的にそりゃこわい。

 

 しばらく蛇に睨まれた蛙のように固まっていたが……そこに。

 

「だーれー?」

 

 ばしゃーん。

 水しぶきをあげて、救世主が現れた!

 

「うグッ」

「あら、失礼。水浴びをしてましたの」

「あ、カバ!」

「お久しぶりですね」

「珍しいわね、サーバル。それにサバンナシマウマまで」

 

 確実に変わった……! 流れっ……!

 しかしカイジ、静かに失禁……!

 

「今日はゲートまで行くんだ。かばんちゃんを案内しようと思って」

「かばんちゃん、ですの?」

「ほら、そこの子……あれ? かばんちゃんも水浴び?」

「……。」

 

 暑かったからかなあ。って思っていてくれるさ。

 なぜか半身浴だけど、かばんが濡れないようにしてるだけだよ。

 

「かばんちゃん、って名前はさっき付けたんだけど、この子なんの動物かわからないんだって。それで、図書館に行けばわかるかなーって。あ、カバはこの子がなんの動物かわかったりしない?」

「うーん……」

 

 特徴。尖った鼻、アゴ、顔の傷。

 ちょっと馬っぽいけど……、

 

「あなた、頭の上のそれはなんですの?」

「あ……? これ、か?」

 

 ひょい、と取る。

 

「帽子、ってんだけど……」

「取れるんですのね……」

 

 帽子の下からはわさわさと毛が出てきた。……が、たてがみらしきものはない。

 

「馬でもなさそうですし……」

 

 とりあえず、一つ除外。しかし、消去法は時間がかかりそうだ。

 しかし、カバに電流走る――!

 

「あら、あなた……もしかして尻尾がありませんの?」

「……っ」

 

 ついに人だと気取られたか……? ど、どうなる……!?

 

「けど、コアラ……でもないですわね」

 

 尻尾なしアニマルシリーズ、コアラ。アプリ版ではチュートリアルで手に入るスカトロヒーラー。漫画にも登場している。特徴はエプロンのポケット。

 かばんを有袋類の特徴とみなすことも無理では無いだろうが、カンガルーもエプロンのポケット。たぶん統一されている。(のちに法則は破られた)

 

「あとは……インドリにチンパンジー……は尻尾が無いって聞きますわね」

「あの」

「あら、サバンナシマウマ。なにか知ってますの?」

「会ったことがありますが、二人とも違いますよ」

「ということは……」

 

 二人の視線がカイジへ。ついに正体が……!

 

「「ゴリラ?」」

 

 ……ほっ。

 としたのもつかの間。

 

「違うよー。ゴリラは腕がふさふさしてたから!」

 

 伏兵サーバル。

 

「ということは……」

 

 ついに!(三度目)

 

「これは……図書館ですわね」

「ですね」

「でしょー!」

 

 大丈夫だった。

 というよりも、こうまで気付かないのであればそもそも彼女たちは人という存在を知らないのではないか。

 ということは……杞憂。

 知らないのなら、知ったらどう、ということもあるはずがない。

 杞憂……!

 

 ほっ……と、今度こそ、ふかーく息を吐く。

 いろんな緊張が解けた。確定ではないが、たぶん、考え過ぎ……!

 

 陸に上がって、座り込む。

 見られている自覚はあるが、不思議なほどに棘を感じないので堂々としたものだ。

 とりあえず、さしあたっては、ただちに危険はない。

 帝愛に連れて来られた結果としては、不自然なほどに悪くない状況。

 最悪を想像するしかなく、"明らかに地雷原。しかし動かざるを得ない……!"と警戒していたのに、勇んで地雷除去車を出動させるも、まさかの肩透かし……! 終わってみれば、単なるドライブ……!

 今、そんな心境。

 

 とはいえまあ、当然……何かしらの悪意はあるのだろうが、どうも今のところそれは出てきていないような。

 彼女たちは未知の生物のようだが、それが人に対して敵対的だったとしても……あまり、それが帝愛の利益につながるとは。

 どちらかと言うとむしろ、友好的。騙すなり捕まえるなりして売るだけでも、得られる利益は億を下らない。だろう。おそらく。

 しかし、この状況はそれとは明らかに関係がない。

 

 いったい、奴らの目的は……。

 

 

 数分座り込んでいたが、三人には特に不満がある様子もなく楽しそうにきゃっきゃしている。

 いまのうちにこっそり抜け出す……という理由も無くなった。普通に声をかけると、了解の声。

 そうして一行は次のちほーへ向け、旅を再開したのだった!

 

「――だから、気をつけるんですのよー!」

「はーい!」

 

 約一名、わりと重要な忠告を聞き流して!

 

 

 

┌─────┐

| 現  沼 平 |

| 在 は 成 |

| の   9 |

| ド    年 |

| ブ    の |

└─────┘

---

 

 

 

 

 

「……思ったんだが」

「なにー?」

「なんでしょうか」

「シマウマ……お前って、なんで俺を乗せたがるんだ?」

 

 わりと、当然の疑問。だって違うじゃん、シマウマって。

 

「うーん……?」

「あ……? なんだよ。わからないっての……?」

「なんだか、いつだったか誰かを乗せていたような気がするのですが……どうにもはっきりとは」

「はあ……?」

 

 わりと意味がわからない。

 記憶喪失……という雰囲気でもない。

 帝愛になにかされて、という線も薄くなってきたところ。

 なにか特殊な――たとえば、彼女たち……フレンズ特有の事情があるのだろうか。

 

「それって、フレンズになる前の記憶なんじゃないかなあ?」

「え」

 

 ざわ……

 

     ざわ……

 

「フレンズに、なる前……?」

「うーん。ハカセが言ってたんだけど、動物がサンドスターでヒト化したのがわたしたちフレンズなんだって。それでね、理由は私には難しいからって教えてくれなかったけど、フレンズになる前の記憶があったりなかったりするんだってさ」

「は……」

 

 こいつら……自覚がある……!?

 

「わたしもあんまり憶えてないなー。かばんちゃんは?」

「……、」

 

 もちろん、"知らない"と答えるのが正しい。つつかれたら困るからだ。

 しかし、その場合は……。

 

 嘘を、つくことになる。

 

「?」

 

 小首をかしげて、なにやら楽しそうに返事を待っているこの無垢な少女に。

 

「す、少し……」

「すっごーい! ねえねえ、どんなだった? どこに居たの? なわばりは?」

 

 クズにだって良心はあるのだ。

 

 

 

「へー! じゃあ、かばんちゃんは建物がいっぱいあるところに居たんだね!」

「はい……」

 

 くたくた。

 

「それで、どんなフレンズが――――あ! もうちょっとでゲートだよ。ほら、そこに平たいのがあるでしょ? あれが目印!」

「へえ。……案内看板か」

「かんばんってなに?」

「なにって、ほら。次のエリアはこの先って……ん?」

 

 へー、と興味深そうに見ているサーバルの脇で、そしてなんか黙ってるサバンナシマウマの上で(居ます)、カイジは看板の端についている透明な容器、そしてその内部に見えるものを凝視する。

 あれって、地図じゃ……?

 

「ちょ、ちょっと下ろしてくれ」

「はい?」

 

 この時サバンナシマウマ、意外に素直。下ろしてくれる。

 カイジが伸ばした指先にそっと力を入れると、軽い感触で蓋は押し上がった。

 やはり見た目通り、ご自由にお取りくださいというあれのようだ。

 手を差し込んで一枚引っ張り出して広げると、そこにはやはり地図がプリントされていた。

 

「なにそれ? どこにあったの?」

「ん、ああ。ほら……」

「このへんなのに入ってるようですよ」

 

 サバンナシマウマが同じように取り出す。サーバルも、ちょっと蓋をかりかりしたあとそれを真似て取り出した。

 こうして三人の手元に、三枚の地図が揃ったのだ!

 しかし一枚で十分である。

 

「わあ! これって本? ハカセの所にあるのに似てるよ!」

「でも、薄いですね?」

 

 カイジが折りたたまれたそれを開いて見せると、「おおー」と声を揃え、それに習って広げてみる。

 

「なにこれ? もしかして、ちほーの場所がわかるの?」

「おおー。ということは、今はこのあたりですね」

 

 本当に地図を知らなかったのかというこの物分りの良さ。についてはちょっと手におえないので解析班にでも任せるとして、こうして一行は地図を手に入れた。

 次のちほーに移って二人と別れても、これさえあればカイジはどうにかやっていけるだろう。

 たぶん……。

 

「これで次のちほーでも大丈夫だね、かばんちゃん!」

「ああ。なあ、サーバル……ここまで、その……ありがとな」

「えへへー。でも、じゃんぐるちほーはちょっと迷いやすいかもだから、フレンズの子に頼んだ方が良いと思うよ!」

「ああ。サバンナシマウマも、ありがとな……」

「いえいえ。さばんなちほーに戻ることがあったら、またサバンナシマウマの背中に乗ってください」

「あ、いや。それは……考えとく!」

「ゲートまでお見送りしますよ?」

「わたしも!」

「いや、ここまででいい! 世話になったな……お前ら……!」

 

 カイジ逃げるようには駆け出した。その人情、暖かみに……避けようもなく想起する、自らの行い……!

 こいつらは俺みたいなのに関わってちゃいけない。あと、優しくされるの久しぶりだからどうしていいかわからない……!

 そんな感じでゲートの方へ走って、

 

「ウワー!」

 

 ゲートにへばりつく青い一つ目怪物と目が合って腰を抜かした。

 

 

 

 あ、あ、あ、あ、あ……!

 

 そんなっ……!

 バカなっ バカなっ……!

 なんでこんなことがっ……!

 こんなバカな……

 

 あってはならないことがっ……!

 

♪BGM セルリアン

 

 どうして……?

 なんで……こんな……

 こんな…………

 

 こんな理不尽なことがオレの身ばかりにっ……!

 

 ぐにゃあ……!

 

 

 居るのかよっ、怪物……!

 

 その威容は、さながらフレンズという光に対する影のようだと、カイジはだいたい合ってることをぼんやりと考えていた。

 すなわちそれは、諦め。ショックによる、気力の枯渇。

 せめて前もって怪物について聞いていれば逃げ出す程度の行動は取れたことだろうが、事前情報無しに現れた怪物に頭をガツーンと殴られるような衝撃を受けたカイジの心は逃避を選び、ストレスが乱高下。そんな衝撃で、今立てなくなってる次第。

 

 ※セルリアンの人間に対する反応は明らかになってはいないが、避難するくらいだしたぶん危険なんだろう。ということで攻撃してくる設定で。

 無情!

 

 青い怪物と目が合ったカイジは、こいつにこの見た目通りの強さがあれば自分は死ぬな。と予測を立てていた。しかし、その未来がほんの少しだけ遠ざかる兆しを彼は目にした。

 怪物の目線が、自分と少しずれた。この隙に逃げるという発想が浮かぶ前に、ただつられてそちらに目をやると……。

 

「あ、あ……」

 

 シマウマ――に似た、白黒模様のフレンズが自分と同じように座り込んで、しかし自分とは違い、その顔に恐怖を浮かべた姿が。

 

「きゃああああああー!!」

 

 叫び声が呼び水になったのかどうか、青い怪物はその触腕らしきものを張り付いていたゲートから一つ外し、明らかな攻撃態勢を取った。

 

 普段であれば、どうだっただろうか。例えば、車に轢かれそうな女の子。

 いろいろ自分に言い訳をして、見捨てたかもしれない。クズだから。考える間もなく、つい助けたかもしれない。お人好しだから。

 どうだっただろう?

 

「あっ、」

 

 どん。

 

 反射的に、突き飛ばした。

 カイジは全てを諦め、仮初めにも死を受け入れていた。

 何も希望を持たないからこそ、命を捨て、他者を助けるという選択を。

 

 しかし今、頭の上を通り過ぎる何かの気配ににじみ出る涙と鼻水と脂汗。

 そして訪れる生の実感。もう、同じことはできないだろう。

 

「ひいっ」

 

 今更恐ろしくなって、横ローリングで距離を取る。

 

「かばんちゃん!」

「かばんさん!」

 

 援軍。

 なぜだか頼もしい……!

 

「あ、あれ、あれ……!」

「ああ! アードウルフ!」

「……! セルリアン。それも大きい……!」

 

 セルリアン。カイジはその名に、なぜだか聞き覚えがあった。

 別段伏線があるでもなく、馬上で聞き流しただけだったが。

 しかしどこで聞いたんだったかと思い出す間も無く、青の怪物――セルリアンは次の行動へと移る。

 距離のある三人になど目をくれることはなく、すなわち、目標アードウルフ。

 構えられた触腕がアードウルフへ向けられ、撃ち出されるようにへたり込んだ小さな体へと向かう。

 

「ひ――――」

 

 サーバルは走った。しかし、自分ではこの触腕を止めることはできない。こう速くては、横から爪で斬ることもできない。

 かわす。ふせぐ。こうげきする。

 サーバルにとって、戦いとはそういうものだ。けものですもの。

 野生が与えた選択肢はそんなもので、いまのサーバルには取れる手段が無かった。

 この男のように、可能な限り無様にといった体で、無為無策、ただ身を捨てるように飛び込むことはできなかった。

 

 どん、と。もう一度音が鳴る。

 先ほどと少しだけ違っていたのは、今度はそれほど距離を稼げなかったこと。

 うまくいかず、カイジがアードウルフを押し倒すような形になったこと。

 そして、稼いだほんの少しの距離は、セルリアンが攻撃の軌道を修正できる範囲だったこと。

 

「かばんちゃん!」

「あ……」

 

 カイジは確かに二度刺した。しかし、助けることはできなかった。

 二人は仲良く貫かれ、これにて終了お疲れ様でした。彼に期待されていた仕事はまあ、次の誰かがやってくれることでしょう。

 けもの黙示録カイジ、完。次章、けもの管理録トネガワ、お楽しみに!

 

 

 ――――がし、と。音が鳴った。

 それは何かを受け止める音。それかページを追加する音だったかもしれない。

 

「言い忘れてましたわ。ジャパリパークの掟は、自分の力で生きること」

 

 カバ。

 

「でも、……群れはっ、助け合うもの、ですわ!」

 

 カバはその両手で牙の生えた触腕を受け止め、弾き返す。

 サーバルが飛び込んで来て、カイジとアードウルフを掴んで飛び退き、距離を取ると二人を置いてカバの加勢へ向かう。

 

「カバンさん!」

 

 サバンナシマウマ。カイジは反射的にアードウルフを引き起こし、サバンナシマウマの背中に飛び乗る。

 速やかに避難する三人の後ろでは、カバとサーバルが戦っている。

 十分に離れたところでカイジがアードウルフと一緒にくずおれるころ、カバが作った隙を突き、サーバルがセルリアンの後方にあった石を見つけ破壊した。

 無理をしたせいでいろいろ痛めたカイジには、それを見る余裕など無かったが。

 

 

 

「かばんちゃん! 大丈夫!? どうしたの? どこか怪我した?」

「とても疲れてるみたいですね。以前ナマケモノと追いかけっこしたら似た感じになりました」

 

 アードウルフは相変わらず押し倒されたままで、ぜえ、はあ、とカイジの荒い息遣いを耳に受けていた。

 カイジの顔は涙や鼻水に溢れ、外の女性が見ればだいたいドン引きするような汚いものだったが、ジャパリパークでは関係ない。

 特に助けられた身とあっては、勲章にすら映ろうというもの。

 

 アードウルフは見ていた。

 自分を助ける男の姿を。

 覚悟もなにも無く、ただ助けた。

 顔に恐怖を浮かべながら、また助けた。助けようとした。

 

 ああ――――この人は、こんなに怖がってるのに……。力もないのに……それでも、助けようとしてくれるんだ。

 

 残念だな、これでおしまいかあ。できれば、お話ししてみたかったな。

 でも……あったかいな。最後の最後……あったかい……。

 

 

 でも生還。

 

 

 ただ、今はその喜びよりも、胸がきゅんとして、耳に当たる荒い息にすらドキドキするこの感覚に戸惑っている状態。

 なんだろう、この気持ち。初めてだけど、イヤじゃない。なんでだろう、すごくワクワクする……!

 

 恋を知ったアードウルフ。しかし、そんな書きにくいものを同道させられないので、なんとかしてお別れしていただくことになる。喜べアードウルフ。君は恋の切なさも知ることができるぞ。

 

 

(……?)

 

 目が覚めると、カイジは自分が柔らかいものを枕に寝ていたことに気付く。

 布団の上? 違う。空気的に、屋外。薄く開けた視界に夕焼け色が飛び込んで、少し気絶していたことを自覚する。

 その理由にぼんやりと頭を巡らせると、思い出すにつれ戻ってくる体の痛みが急速に意識を戻した。

 

「せるっ……!」

「きゃっ」

 

 慌てて身を起こすと、すぐ近くで小さな悲鳴が聞こえた。

 後ろから――? 振り向くと、そこにはさっき見た顔が。

 アードウルフ。サーバルがそう言っていた。

 カイジもウルフの意味はわかる。サバンナシマウマに負けず劣らずシマシマだが、どうやらシマウマではないようだ。

 そんなノーゼブラな彼女だが、なぜだかカイジの顔をじっと見ている。

 それは逃亡生活の中で数限りなく向けられてきた視線とはまるで違う。どう被害妄想を膨らませたところで……そこに悪感情は見て取れなかった。

 

(……? ……???)

 

 いやむしろ、好意的。カイジは経験値的に、けしてそっち方面に察しのいい方ではなかったが……そっち方面に希望を持ってはいなかったが……頬を染めて、なにか尊いものを見るような目を自分に向けている少女を見た第一印象が『ひょっとして自分に好意を持っている?』となるくらいの自惚れが欠片も残っていないわけでもなかった。

 でもでも、まさかまさか、そんなそんな。

 枯れているわけではない。意外と、世の中に絶望しているわけでもない。

 だが……カイジはわりと、自分に一般的な価値観における男性的魅力がないことを自覚していた。

 学、なし。金、なし。将来性……一山当てるつもりではあるが、まあ一般的にはなし。そこは誤魔化さない。

 そんな自分に好意を持つ女性。

 

 詐欺?

 いやいや、こんな金のない俺を騙しても、というまさに騙されやすい人の考えを一旦経由してから、カイジはもう一度アードウルフを見る。

 子供じゃん。

 それも、条件反射とはいえ一瞬でも疑った自分を恥じるほど、見て取れる雰囲気は純真無垢なもの。

 

 そんな純真無垢な少女が、頬を染めて、自分を見ている。

 そんな純真無垢で可愛い少女が、頬を染めて、自分を見ている。

 その理由に心当たりがあっては、誤解のしようもなく……これは、間違いなく。

 ……ぽっ。

 

(いやいやいや。なんのぽっ、だっ……!)

 

 帰ったところで、ではあるが、いちおう囚われの身……と言えないこともないこの状況。とりあえず人間の端くれとして、脱出を試みなければならない。

 そんな状況で、色恋沙汰に付き合うわけには……!

 しかし。

 

(なんだ……? この温もりは……!)

 

 なんとなく、体に残る感触。まるで、気を失っている間中、膝枕をして、そっと肩を抱いてくれていたような……!

 

 きゅん。

 

 もう一度、アードウルフに目を向ける。

 その表情。

 初めての自分の気持ちに戸惑い、もし嫌われたら……と不安を抱きつつも、頑張って笑顔を作っているその表情を、カイジにどれだけ読み解けたかは不明だが、結果としては今。

 

 気恥ずかしさにお互い顔をそらし、もう一度向け合って、はにかむ。

 

 

「あっ、かばんちゃん! 良かった、起きたんだね。大丈夫?」

「かばんさん。怪我はありませんか? サバンナシマウマたちはボスを探していましたが、見当たりませんでした」

 

 なんとなく、バッと離れる。

 

「どうしたの?」

「ん、あ、いや。別に……」

「あ、あの。かばんさん、と言うんですね……?」

「あ、ああ……ハイ」

「あ、あ、……アードウルフです。わ、わたしっ……! いえ、あの。か、かばんさん。……助けてくれて、ありがとうございました!」

「い、いや。俺は……」

 

 自殺も同様に飛び込んだだけで、と言いかけて、しかし一度目は時間を稼いだのも確か。

 謙遜も決まらず口ごもり、……照れる。

 

 照れ、照れ。

 

 思えば……これまでの人生に、こうも真正面から感謝を告げられたことがあっただろうか。

 いや、なくもない。なくもないが……真っ先に思いつくのが、連帯保証人の一件。

 忘れられない苦い過去。しかし、彼女の感謝、想いはそれを洗い流すようにカイジの心に深く染み渡った。

 

「……っく、うぅ……」

「……え……?」

「ど、どうしたのかばんちゃん。やっぱり痛い?」

「ち、違うんだ。ただ……助けられて、良かったなって……」

「うんうん! 良かったよね!」

「よ、良かっ……うっ……」

 

 ぽろり、と涙。

 恋する少女が、精一杯の勇気を振り絞ってお礼を言ったら、想い人に泣かれた。

 その絶望感から、急速に開放された涙。

 

「わ、わ、たし…………わたしっ、」

 

 それを理解したわけではなかったが、同じ脅威から生き延びた仲間が、自分と同じように今泣いている。こいつも恐かったんだなという勘違いからだったが、起こした行動は正解だった。

 

「あっ……」

 

 ぎゅっ。

 

 助かって良かったな。生き延びられて良かったな。そんな想いを込めて抱きしめる。生還を喜び合おうとするが、アードウルフはぴくんと動いて硬直。ただ頑張ってどうにか、弱々しくも抱き返した。

 背中にそえるようにまわされた手の感触を、カイジは確かに感じ取った。もちろん、言わずもがな、それは、そうウレシイ!

 抱擁にも熱が入ろうというもので、二人はまあ、けっこう長いこと抱きしめ合っていた。

 

「みゃー! 二人とも仲良しだね!」

「楽しそうですね。それに、元気そうで良かったです」

「あれ? 行っちゃうの?」

「はい。別れは済ませましたから」

「そうだねー」

 

 そんなわけで、二人は静かに去って行った。

 別れなんてものは一緒に遊べば必ず来るもので、それがちょっと長くなりそうでも広いジャパリパークではたまにしか会わない友達はたくさんいる。

 みなさんからはドライに見えるかもしれませんが、野生の世界では普通のことなんですね。

 

 夕焼けの中で抱き合って、気付けば二人きり。これはもう、これからどうなるかなどわかりきったようなものですが、困ったことにこの辺にジャパリホテルはありません。

 ええっ? これからズッコンバッコン大騒ぎで十月十日後に人狼が産まれるってそういう話だろ? と察していた皆さん。申し訳ありません。展開的にそれ以外無いはずなのですが、場所が悪いのです。

 残念です。

 

「す、すまん……」

「い、いえ……」

 

 目の前には、自分に好意を持っている少女。抱き締めても嫌がらない。

 改めてそう気付いたカイジの内心は――――

 

 さながら、破戒録十三巻の表紙っ……!

 

 まあ若い。だいぶ若いが、構わない。オッケー。実にオッケー。

 相思相愛です。愛の前になんの障害があろうか。

 

 障害?

 

「あっ……」

「……ど、どうかしました……?」

「帰らなきゃ……」

「えっ……?」

 

 カイジは自分がここに、拉致られて来たことを今更ながらに思い出す。

 ここは……たぶん、良い場所だ。彼女たちに苦労している様子が見えない以上、ここで暮らすことに大きな問題はきっと無いだろう。

 しかし。……そうなったとして。

 二人で仲良く幸せに暮らしたとして。

 仮に、なんの問題もなく寿命まで過ぎたとして。

 

 ……その幸せな日々の中も、カイジの頭上には常に帝愛の影がちらつくのだろう。

 

 幸せな日々が続けば、あるだろう。その日々の中で、自分をここに送り込んだ帝愛に感謝することすら。しかし、それが自分で選んだ道ではないということに、きっとカイジの自我は死ぬまで納得しない。

 納得のない、幸せな日々。

 籠の鳥。やや善良な蔵前の檻の中。それでも良い、と言う者は多いだろう。

 しかしカイジは我慢できない。幸せであろうと、それは自分で勝ち取ったものではない。

 理由あって得たものでなく、ただ与えられたものならば、それが与えた側の都合によって突然奪われる可能性はけして薄くない。

 押入れに押し込んで見ないふりをするには、その疑い、恐れ、起きた時の問題は大きすぎる。ある日、また拉致されて、戻りたければ人を殺せとでも言われたら……?

 

 現実的にはなにか意図があってここに送られたのだ。

 それがなにかわからないうちは、カイジにとって不都合に働くと考えるのが正しい。

 その時、アードウルフが自分の弱みと見られたら。

 

 なにかあっても、なにもなくても、とても一緒にはいられない。

 

「すまねえ……」

「あ、あの!」

 

 背中を見せ、謝罪するカイジ。直感でその意味を察したアードウルフは、彼の服の裾を掴んで言った。

 

「わたしも、一緒に連れて行ってください!」

「……っ、それは……できない……!」

 

 それができたら、どれだけ楽しいだろう。それが想像できるだけに、拒絶の声は絞り出すよう。

 

「俺と居たら……巻き込んじまう……!」

「構いません! あなたと一緒に居られるなら、なにがあったって!」

「う、うう…………ぐっ!」

 

 胸の中が愛で満たされていくようだ。心の荒野に降り注いで、見る間に花が咲き乱れてゆく。

 でも、お花厳禁……! 今の自分にはとてもとてもお相手できません。なので泣きながら頑張って摘むが……咲くペースの方が速い!

 必死になって掻き毟るが……気付けば一面、花、花、花っ……! あたり一面、花畑っ……!

 

 ……嘘だろ? こんな気持ちのまま別れないといけないのか。

 

「くううぅ……!」

 

 苦しい。

   苦しい!(立木)

 苦しい……!

   苦しい!(立木)

 苦しいっ……!

   苦しい!(立木)

 

「すまないっ……!」

「あっ……かばんさん!」

 

 だが、これでいいっ!(立木)

 

 胸の痛みを抱えて、カイジは走る。ゲートを抜けて、平常なら"ウッ!"と尻込みするような暗い森の中へ全速力で駆けて行く。

 走って走って、脇腹の鈍痛が胸の痛みを誤魔化してくれるまで走ると、カイジは膝から崩れ……、

 

「うおおおぉぉぉん……」

 

 ジタ……

  ジタ……

   ジタ……

 

 カイジ、号泣っ……!

 

 子供のように泣きわめいて、泣き疲れて眠りに落ち。目が覚めると……そこは深夜の森の中だった。

 

「…………ッ!!」

 

 ゾワッと、悪寒が走り肌が粟立つ。

 月明かりすら遮る木々に。見知らぬ虫や鳥の声に。ヒトの本能が叫んでいる。ここはまずいと。

 やばいですって。ぼくら森、あんま適応してません……!

 冷たい汗がにじみ出て、反射的に取った行動は光を探すことだ。夜の森の中で光。無さそうなものだが……あった。

 カイジは走り出した。視界の悪い中慌てて走ったせいで枝や葉で細かい傷を負いつつも、どうにか光へとたどり着いた。

 

「看板?」

 

 何を示しているのかよくわからない看板がライトで照らされている。

 なにか文字も書かれていたようだが、かすれている上に英語で読み取れない。

 

「それに、バス……?」

 

 の、停留所。

 

「電気が……来てるのか」

 

 ほっと、気が抜けた。

 相変わらずここは森の中だが、さっきなんてサバンナに居て無事だったのだ。反射的に危ないと思ったが、今更身構えても仕方ない。

 バス停のベンチで横になる。ここは暖かいし、屋根もあるから雨が降っても死にはしないだろう。

 光源を何も持たない今のカイジに夜の森の中でできることはない。体中の痛みと空腹感から一時的にでも逃れるために、カイジは頑張って意識を手放した。

 

 

「う……」

 

 まぶたを焼く陽射しに、カイジは目覚める。

 うーん。ここはどこだ? ……ベンチか。ああ、また公園のベンチで――――

 

「……ッ!」

 

 寝ぼけてる余裕はない。

 飛び起きて、辺りを見回すと森の中。

 死ぬる?

 そこそこ慣れたはずだったが、寝起きでその辺も忘れててけっこう焦る。大丈夫。猛獣とかはたぶん居ない。

 

 ふーっ、と安堵の息を吐く。

 そしてセルリアンのことを思い出してもう一度身構える。

 あるじゃん危険。

 あわわと取り乱しながらもう一度辺りを見回すも、とりあえず付近にそんな姿は見当たらない。落ち着きを取り戻しベンチに腰掛け、もう一度ほーっと息を吐いて。

 

 漫画的表現かもしれないが、安堵の息を吐く時、顔はやや下を向く。

 その下がった視線の先に、それは居た。

 

『ハジメマシテ。ボクハ、ラッキービーストダヨ。ヨロシクネ』

「ううわあああああああああ!」

 

 青い怪物。セルリアンが!

 

 

 

 

 走り去るカイジの背を、アードウルフは追わない。アードウルフにカイジの言葉を疑う理由はない。彼女は一点の曇りもなく信じた。彼は自分を心配してるからこそ、ここに置いて行くのだと。

 それは理解したし、受け入れる。

 しかし。だからと言って、それは諦める理由には全くならない。

 

 ほんの少し前までのアードウルフは、

 

あ、あ、……アードウルフです。が、が、……頑張ります。

た、戦わなきゃ……だめですか?

や……やってみます!

か、勝てました?

良かった……!

つ、強くなれたでしょうか?

少しですけど、もっと前向きになれそうです。

あ、ありがとう、です。

 

 こんな感じだった。アプリ版のボイス。

 しかしもはや見る影もなく変わり果てたアードウルフ。

 恋や愛など聞いたことすら無く、今自分の内に湧き上がる想い、求めがなんなのかも理解してはいなかったが、それに突き動かされることに迷いは無かった。

 

 心臓が燃えるようで、無限の勇気が湧き出てくるよう。不安を消すのではなく、乗り越えさせてくれる勇気だ。

 一緒にいたい。肌に触れたい。吐息を感じたい。鼓動を聞きたい。

 一緒にいて欲しい。肌に触れて欲しい。吐息を感じて欲しい。鼓動を聞いてもらいたい。

 一緒に笑って、言葉を交わして、ぎゅっと抱きしめて――――

 

 ……違う。

 わたしは、ただ……あの人の望むようにしたい。

 あの人の望むようにしてほしい。

 

 

 フレンズの純粋さは凄い。

 恋の渇望が消えたわけではないが、それはそれとして愛が上回った。

 恋だけでは、歩き出せなかっただろう。迷惑をかけないように、ただ我慢して……一人で、苦しみ続けた。

 しかし今、アードウルフは別の道を見出した。一緒にいられないなら、ついて行けば困らせるなら。

 せめて、かばんさんの旅の足跡を追おう。そうすれば……寂しくないから。遠くても一緒だ。

 

 本当はそれでも苦しいだろうが、それだけで我慢できるように自分を誤魔化す。

 そうしていればいつか、かばんさんの抱えている問題が解決するかもしれない。

 

 しなかったら?

 

 アードウルフは無意識に考えないようにして、数日遅れて旅立った。

 

 

 

アードウルフはネコ目、ハイエナ科に分類されてるから、ジャパリホテルがあっても人狼ができたかどうかは微妙だよ。

---

 

 

 カイジ、走る!

 明らかにあのセルリアンは二つの耳が伸びてパカっと開いて口になって挟み込むように襲い掛かってくるやつだ。

 無理……!

 なんかモノがあっても防げるのは片方。あと生理的にそれは無理っ……!

 

 かなり凄惨な死に様を想像してしまい、体力の限界のその先に挑むように走り続けるしか無いカイジ。

 すなわち全力疾走。ものの五分、訪れる疲労、困憊っ……!

 気がつくと、カイジは天を仰いでいた。

 

 暫くの間、カイジは何も出来ない体を無防備に晒していたが、何も起こらない。逃げ切った……。

 安堵。そして、気付く。自分が背中を預けている地面が、土っぽくも草っぽくもないということに。

 これは……木? 板状に加工されていて――――

 

「あ……? 橋……?」

 

 と言うよりは、道だろうか。手すりに手をかけて身を起こして辺りを見やると、下は川どころか水もなく、地面から浮いてもいない。

 少しの間なんなのかと考えたが、思い当たる。手すりの向こう側はその全てが暴力的なまでに木々に満ち満ちて、まさしく密林といった具合。

 これがなかったら足場が悪くて怪我をするし、なにより迷うだろう。何もなく、ただ身一つでここに居たならと想像しただけでカイジの尿道は緩んだ。

 恐ろしくなって、反射的にフレンズを探す。セルリアンも迷うことも、自分ではとても対処できない。このジャパリパークとかいう魔境に一人という状況は、もはや耐えられない……!

 

 しかし、目を凝らして探すも……カイジの目では見つけられない。

 近くの樹上でオセロットがお昼寝しているが、そういうところを探すべきという情報が無ければ、木まみれのこの環境の中で見つけることは難しい。

 当然のようにマレーバクも見逃して、途方に暮れ。仕方なくカイジは歩き出した。

 

 と。

 

 トン、と静かに手すりに飛び乗った女の子。カイジは「ぅっ」と小さく驚いた。

 

「あれ? 驚かしちゃったかな」

「い、いや……」

 

 驚いた。が、まあ。今までのあれこれほどでは。

 

「私はフォッサ! 君は……じゃんぐるちほーは初めてだね! どこから来たんだい?」

「俺は……サバンナから」

「ふうん? 見慣れない感じだけど、なんて動物なのかな?」

「ヒトだ……」

「ヒト? へー。……はかせたちが何か言ってたなあ」

「博士?」

 

 博士。

 物事に詳しい人。

 あるいは、いい感じの論文書いて偉い人にイイジャンって言われるともらえる博士(はくし)という学位を持ってる人。

 辞書的にはそんな意味だったが、気がつけばこんな所に居て意味の分からないものを見続けているカイジにしてみれば、真っ先に思いつくのは別のものだ。

 

 こいつらを研究している学者。

 なんならマッドサイエンティストがなんかやった結果がこいつらかも。

 

 ある。それは大いにある。帝愛が関与してる。

 

 おのれ帝愛。

 しかし、会うしか無い。会って、話を聞かなければ。

 

「その博士って、どこに居るんだ?」

「図書館だよ」

 

 結局行くことになるようだった。

 

「えーと……図書館って、あっちで合ってるか?」

「そうだね。うーん、あなたなんだかひ弱そうだし、一緒に行こうか?」

「いや、いいさ。なんとかなるだろ、たぶん……」

 

 助けは切実に必要だったが、カイジにはフォッサが強いようには見えず、つい遠慮してしまった。

 けどマダガスカルの百獣の王だぞそいつ。

 

 アプリ版では"俺より強いやつに会いに行く"みたいな感じの子。

 たぶんこっちでも強キャラ。

 

 

 礼を言って手を振りあい、フォッサと別れる。

 進む先にあるのは図書館である。

 今までは目的地もなく、とりあえず行ってみるか程度だったが、どうやら行く理由が出来たようだ。

 

 それから数分。

 カイジはフォッサの助力を遠慮したのを既に後悔していたが、アフターフェスティバル。後の祭りである。

 真剣に生存を望むなら、断る選択肢は無かったはずだったが……、しかしカイジ。この男、その本能! 未だに……寝ていた!

 

 どうにかこの奇妙な場所を脱出しなければならない。その意識、認識はあるが……どこか、希薄。

 土壇場を覆すその力は眠りこけ、片鱗すら伺えない。

 覚醒の切っ掛けとなりうるだけの、危機もあるにはあったが……彼にできる知恵や工夫でどうにかできるジャンルでは無い上に、基本的には他人、フレンズが解決してしまった。

 最初に見たのが今からひのきのぼうを持ってレベルを上げる気にならないほど強いあれでは、むしろ闘争心なんて引っ込むでしょう。

 

 カイジはまあまあクレイジーだったが、ファンタジーな状況に順応して対応できる種類のクレイジーさにはどうやら欠けていた。

 故にこそ彼は今、このけものの楽園、ジャングルの中を一人で彷徨っている。

 

 グルルルルゥ……。

 

「!?」

 

 キョロキョロと辺りを見回し、それから身を低くする。

 隠れようたってこんな木まみれの場所の猛獣って目より鼻を頼りにしてそうだし、身を低くして体を小さくしたら襲われやすくなるんじゃないか?

 ところで今カイジの脳内にうっすらと浮かんでいる疑問に答えたいと思う。うん、それはそれであるよ。

 

 すなわち――――えっ!? フレンズ以外もあるの!?

 

 あるよ。狼も熊も、あるんだよ。

 

 フォッサ……!

 脳裏に浮かぶ四文字。そして後悔……!

 だがカイジ、流石というべきか、辛うじて咄嗟に息を潜め、じっとしている。

 それがプラスになるというわけではなく、これ以上のマイナスを避けるだけの理性を残してる、ということ……!

 

「あら? あなた、うずくまってどうしたの?」

「っ……!」

 

 ピクリ。

 一瞬驚いたが……喋れるということはフレンズ。救いかもしれない。

 ゆっくりと目を向けると、そこには今までとは違い、けっこう大きめのフレンズが立っていた。

 大きい=強い

 それは自然界の基本。だが……フレンズ的にもそうなのかどうか、カイジは掴みかねていた。だって見た目弱そうなサーバルですらけっこう強かったし。

 とは言え確実に自分よりは強い。お願いして、付き添ってもらおう。

 この時カイジは、なんとなく……断られないような気がしていた。

 

「い、いや。ちょっと腹が減って」

「あら。だったら、キングコブラちゃんにお願いしたら譲ってくれるわよ」

 

 そう言って、こっちよーと歩き出した。

 親切が早い。

 

「わたし、インドゾウ。あなたは?」

「あ、俺は……?」

 

 かばん。カイジ。

 かばんの方は勝手に呼ばれてただけだったが、別にそっちで通しても問題はない。

 だが名乗っても問題はない。たぶん、おそらくは。あとあと"えっ、カイジ? かばんちゃんじゃ?"みたいなことになり得るけど。

 

 ……まあ、それはそれ。なんとかなるだろう。

 

「カイジ。伊藤カイジ」

「へー、不思議な名前ね」

 

 少し進むと、フレンズが居た。

 露出した土を掘って何かしているようだ。

 

「あら、アクシスジカじゃない」

「あ、インドゾウ。それと……?」

 

 名乗る。

 

「へえ。お前、ここら辺の子じゃないね」

「ああ、まあ。……あー、お前は何をしているんだ……?」

 

 説明できないこともないが、面倒なので話を逸らす。

 

「ここの土、しょっぱいんだ。お前らもどう?」

 

 土が、しょっぱい。どう?

 そう言われて思い返してみると、さっきのアクシスジカの何かをしている背中。なんというか、何かを口にしているような動きに思えてきた。

 ここでカイジ君の思考はしばし停止した。あまりのカルチャーショックに耐えきれなかったのだ。

 土が、しょっぱいから、食べる。お前らもどう?

 ありえない。

 ありえない。

 

 ありえない。

 

「そうねー。私も舐めていこうかしら」

 

 硬直するカイジの前で、それは確かに起こった。

 少女二人がしゃがみこんで、土を舐めるという異常事態。

 

 カイジは考えるのをやめた。

 

 

 野生の草食動物は不足しがちな塩分を土や岩から補給してるよ。

 パークのフレンズなら必要なミネラルはジャパリまんから得られるけど、この行動は本能として残ってるんだ。

 

 

 気付けば手を引かれて歩いていたカイジ。

 気を取り直して程なく、二人はそのフレンズと出くわした。

 

「インドゾウか。それに……知らないフレンズだな。なんだ、何か頼みごとか?」

「キングコブラちゃん。この子お腹が空いてるんですって。ジャパリまんを分けてあげて」

「お安い御用だ」

 

 親切が早い。

 キングコブラは一瞬の迷いもなく森の中へ消えて行き、すぐに戻って来た。

 

「三個もあれば足りるだろう。それと非常用だ。一つ持っておくといい」

 

 そして手厚い。

 抱えてきたジャパリまんの一つは、袋に入っていた。どこで入手するんだその袋入りは。

 

「くっ……ありがとう……!」

「なぜ泣く」

 

 今まで会ったフレンズたちも思えば間違いなく親切だったが、この食べ物をくれるというシンプルな親切が、なぜだか身にしみた。

 その後、「この辺に水場って」「こっちだ」というやり取りがあり、ちょっと森の中に入って食事休憩。こんこんと湧き出る水はとても綺麗で、カイジは気分的にもリフレッシュするのでした。

 

 

 ジャパリまんって言うのか、これ。

 カイジはようやくその名を知ったが、しかしようするになんなのだろうかと新たな疑問が湧く。

 どうやらここでは一般的なものらしいが……。

 

 色とりどりのまんじゅうは色ごとに味も違い、甘かったり滋味豊かだったり多様だが総じてどれも食べやすい。

 カイジは一気に食べ終えると、袋入りのをありがたくかばんにしまう。その姿を興味深げに見つめるキングコブラだったが、やがて何やら納得したように頷く。いえ、有袋類ではありません。

 

「ありがとな……キングコブラ。それにインドゾウ」

「お安い御用だ」

「いいのよー」

「それで……」

「ん……?」

「他には無いのか?」

 

 キングコブラは、何かを要求しているよう。

 カイジとしては、金でも欲しいのか? とほんのちょっとだけ思ったがそんなはずもない。そういう世界観じゃないことはさすがにカイジも気付いてます。

 なので、通じるかはわかりませんが、視線で問いかけます。なんのこと? と。

 

「お前は見かけないフレンズだが、腹をすかせていたということは準備をしてここに来たわけではない。……何か困っているんじゃないか?」

「ああ、……?」

 

 洞察力に優れたフレンズ。しかし、その点ではカイジだって捨てたものではありません。彼は気付きます。キングコブラは何かを要求している。そして、困りごとが無いか、との質問。なんかニコニコしてるインドゾウ。

 一つ抜かしてこの二つの符号が意味するものはひとつ……!

 

 頼られたい……?

 

「……図書館まで行きたいんだが、俺、戦えなくてさ、ハハ。…………手伝ってくれるか?」

「ああ。お安い御用だ」

「うん。任せてー」

 

 二つ返事×二つ。

 なんかインドゾウまで仲間になったゾウ。

 一行は先へ向かい、歩き出しました。

 

 

「な、なんだよう」

 

 ミナミコアリクイがあらわれた!

 威嚇している!

 

「久しぶりだな、ミナミコアリクイ」

「あ、キングコブラ。インドゾウも」

「こんにちはー」

「……通っていいか?」

「あ、うん」

 

 こんな小さくて、しかもアリクイ。カイジはほとんど興味を持たず、スルーしました。

 しかし、アリクイは蟻ばっか食って無害なイメージを持つ人は多いでしょうが、それなりに爪は強いのです。オオアリクイなら人くらい殺せるほど。コアリクイとはいえ、けっしてカイジが軽視できるものではないでしょう。

 関係ないけどアードウルフは一日に二十万匹ほどの白蟻を食べるそうだよ。空になった蟻塚は住処にするんだ。

 オオアリクイは一日に三万匹。アリクイなのに、というギャップもあってか、並べてしまうと少なく感じますね。

 

「クジャクです」

 

 クジャクは神経毒耐性を持っていて、よくサソリや毒蛇を食べるんだ。だから人からは敬われたりするんだって。

 キングコブラにとっては天敵だよ。

 にゃんにゃん鳴くけど、にゃんにゃんファミリーには入れてもらえなかったみたい。

 軽く挨拶して通り過ぎます。

 

「タスマニアデビルだぞーお!」

 

 威嚇というよりは、ちょっとびっくりさせたい感じでしょうか。

 タスマニアデビルは絶滅危惧種だよ。タスマニア島の入植者たちに害獣扱いを受けて、懸賞金までかけられたんだ。同じような扱いを受けたフクロオオカミが絶滅してようやく保護することになったけど、それまでに百年以上もかかったんだ。

 アニメでは見えにくいけどポッケのついたエプロンを着ていて、つまりは有袋類だよ。

 生まれたばかりのタスマニアデビルは米粒みたいな大きさだけど、頑張って自力で袋の中に入るんだ。

 一度に最大四十匹も生まれるけど、乳首は四つしかないから残りは飢えて死ぬよ。

 運良く育ったタスマニアデビルを待っているのは伝染性の癌だよ。

 タスマニアデビルは気性が荒くて、餌の取り合いとかでたびたび争うんだ。交尾のときもオスはメスを噛んでおうちに連れ込むし、そのまま監禁しようとするオスから逃げるためにメスも暴れるよ。

 こんな感じで噛み傷から癌細胞が移植されちゃうんだ。

 こうなっちゃうと癌腫瘍が顔の周りに発生して、どんどん膨らんでやがてご飯が食べられなくなって死ぬんだ。

 顔がボコボコになるから、耐性のないフレンズは調べないほうがいいよ。

 でもそれなりに健康な個体の繁殖やワクチンの開発が進んでるし、タスマニアデビル側でも適応しつつあるようだからたぶん大丈夫だよ。

 

「うわぁー! びっくりしたー!」

 

 エリマキトカゲは首元の襟巻を広げて威嚇したり、二本足で走ったりするトカゲだね。

 なにかの番組で現地ガイドさんに撮影スタッフが『走ってるとこ撮りたいよ』と言ったら『そんなことしたら衰弱して死んでしまうぞ!』と怒られてるシーンがあったけど、さすがにそんなスペランカーみたいな生態はしてないんじゃないかな。でも何度もやるとダメみたいだからその事を言ってたのかな。だとしたら説明が足りないよね。編集や翻訳がダメなだけで、本当は運悪く弱ってるエリマキトカゲだったら死んじゃう、ってな感じに言ってたのかな。

 

「オカピだぞー!」

 

 シマウマのなり損ないみたいな見た目だけど、実はキリンの仲間なんだ。世界三大珍獣だよ。

 でも環境破壊や密猟の影響で絶滅危惧種なんだ。

 保護活動も行われているけど、生息域の国が問題なんだ。内戦の影響で教育を受けられなかった人も多く識字率も低いし、大統領の退陣デモの鎮圧で四十人以上の死傷者が出る修羅の国だからなかなか理解が得られず上手くいかないんだ。

 ゾウの密猟の妨害に対する報復で保護施設のオカピと人が射殺されたりしたこともあるんだ。痛ましいね。

 

 悲しいね。

 

 

 ここはここで暑いな……。

 ここに来てカイジは痛感する。帽子のありがたみを。

 日光の大部分は木々に遮られており、暑さの種類としては高い湿度と組んでムシムシと責めてくる感じだが、それでも圧倒的にマシ。

 すぐに鬱蒼としたエリアに入りその気休めも効かなくなるが、なんとか森を抜けるまで耐えられた。

 

「ここで休憩しよう」

「……っふうー! ……はー」

 

 川。

 ここまで来るとさすがに涼しい。それなりに無理していたカイジは、休憩の言葉が出ると即座に座り込んで大きく息を吐いた。

 

「……出なかったな、セルリアン」

「ああ、この辺りは出現してもすぐ狩り尽くされるんだ」

「なっ、誰に?」

「いろいろ居るが、フォッサが熱心だな」

 

 あいつ強かったのかよ!

 頼んどけば良かったと少し後悔するカイジだったが、キングコブラとインドゾウが加わった時点でパーティーの戦力は一カイジから五万一カイジくらいまで膨れ上がっている。しかし、当人はそれに気付くことができず、安心することはできなかった。

 だってフレンズの強さ、見た目じゃわからないもの。

 

「わーい! あはははっ、たーのしー!」

「ん?」

 

 やたらテンションの高い声に目を向けると、川の中に何か木製の建造物のようなものがあり、それを滑り台にして遊んでいるフレンズが。

 カイジは思った。放っておこう。あれを相手にすると疲れる。

 しかし……あの滑り台はいったいなんだ?

 辺りを見回してみると、その答えはすぐにわかった。どうやら、ここには橋があったようだ。昨日今日壊れた様子ではないが、散乱した木材からはまだはっきりとその痕跡が見て取れる。あの滑り台は、その一部なんだろう。

 

 これから向こう岸に渡るんだろうか? だとしたらどうやって……。

 気にならないではなかったが、その辺は後にしよう。不慣れな自分が悩むより、ガイドに任せてしまえばいい。

 

「ねえねえ何してるの!?」

 

 疲れた。

 

 

「それでジャガーちゃんがねー。川の上で寝ちゃった私を運んで来てくれたんだー」

「ああ。そりゃ、良かったな」

 

 コツメカワウソと名乗ったフレンズは、何を気に入ったのかカイジにいろいろと質問してきて彼の休憩の邪魔をしたが、今ようやっと回避方法を見つけた。膝に乗せて話を聞く。こうすると大人しくなります。まあそのかわり生乾きだったジーンズは再びびちゃびちゃですが。

 ジャガーについての説明もしてくれたよ。

 

「カイジちゃんはどこから」

「よーしよしよしよし」

「んんー♪」

 

 扱いを覚えました。

 

 

「わー! カイジちゃんすごいね!」

「ほう。やるもんだな……」

 

 カイジはそれなりにお手玉ができた。苦い記憶ではあるが、繋げた指のリハビリで多少経験があったためだ。

 石でというのは人間にとってやや乱暴だったが、軍手のおかげでなんとか手も痛めない。

 素人なりに上手いという程度なので石は三つだが、三人をそれなりに楽しませている。

 気を良くしたカイジは右で投げて左で受けるだけの従来のやり方、コツメスタイルを一新。右手で投げて左手でキャッチするカイジスタイルをここに打ち立てた。これにインスパイアされたコツメカワウソは早速この奥義を会得しようと頑張るが、カイジが飽きてなんとなく始めた水切り(石切り)に目を奪われるのでした。

 

「わああー! なんで!? なんで跳ぶの!?」

 

 ちょっと墓穴感。

 理由を訊かれても、理解させるのはおそらく難しいし、そもそもその答えが合ってるかどうかもそんなに自信はない。

 なので。

 

「よーしよしよしよし」

「んんー♪」

 

 ちょろすぎるけど大丈夫かこいつ。

 

「なるべく平べったい石を選んで、横に回転させて投げるんだ。そうすると水を弾いて跳ぶから……」

「そうなんだ! 探してくる!」

 

 そう言って、森の中へ消えて行く。この辺って石、あんまりないから。

 

「不思議なことを知っているんだな」

「ん、ああ……」

「ああ、深く訊くつもりはない。ただ、凄いなと思っただけだ」

 

 その言葉は、少し嬉しかった。褒められたことよりも、訊かれたくないということを理解してくれて、気遣ってくれることが。

 カイジの好感度が1上がった。5ポイントで"抱いて!"と言います。

 

「あったよー!」

「多いな……!」

 

 腕いっぱい。

 

 

「よっ! たっ!」

「ふんっ」

「えいっ!」

「っ……!」

 

 カイジ、三回。キングコブラ、一回。コツメちゃん、二回。ゾウ、一回。だいたいそのくらい。

 楽しそうに投げ続けるコツメちゃんはどんどん上達していき、たまーに三回跳ねることもあるようです。

 コツメちゃんはこれから毎日やるので、約二年で中洲ができます。

 

 ほんとはその前にジャガーが座礁したあたりでみんなで撤去工事。取り除いた石を、また投げるのです。

 

 今水切り大会が終わるのをじっと待っているジャガーは、眼の前で行われている行為が自分を"うおっ"と驚かせることに繋がるとはまったく気付かなかった。

 

 

 感謝っ……! 圧倒的感謝っ……!

 

「そこまでありがたがられるとやって来た甲斐があるねぇ」

 

 四方八方どこを見ても善意が転がっている。

 押し潰されそうだ……!

 

 カイジの涙腺から涙を絞り出そうとするかのように、善意でぎゅうぎゅうに挟んで来る。しみるっ……!

 

「それより、この辺りは面白いだろう?」

 

 気づけば、圧倒的ジャングルクルーズ……!

 

 ざわ……

   ざわ……

 

 みんな楽しそう。

 

 この時 カイジは意外に観光気分…

 適度に緊張もほぐれ、馴染んでいたっ……!

 

 どっちかと言うとインドア派なイメージのあるカイジが見て楽しいものか、と思われるかもしれないがそこはそれ。いつまでも仏頂面のままではちょっとあれというもの。ご理解いただきたい。

 

「大きい河に出るよー!」

 

 一行を乗せた船……っぽいものは大河に出た。心の準備ができていなかったカイジ、これにはびっくり。二つずつ減っていくチョキを見て膝から崩れ落ちた時くらいびっくり。

 この壮大さ、あまりに想定外。

 

「図書館ってことは、あっちだねー」

 

 到着、易々と。

 キングコブラの案内により、カイジたちは先程と似た、橋があったであろう場所から上陸する。これは悪くない兆候である。つまるところ、この先に道があるということ。脇には場所を記していたであろう木の看板があったが、やはりかすれて文字は読めない。

 彼女たちは藪くらいは平気で突っ切る。けものですもの。現代人がついていくのは大変だったが、まあなんとかかんとか。

 

 ジャガウソも当たり前のようについてきていたが、暇なのだろうし、拒む理由もない。というか助かる。

 まあまあ、見た目キングコブラはサーバルより強そうな感じだが、合ってるのかどうかはわからない。これだけ居れば、最悪でも一人でなんとか逃げられるそうだ。

 ところでこの黄色いのは?

 

「こ、こいつ! バスじゃねえか……!」

「ん? この黄色いのか。なんだろうとは思ってたけど、全然わからなかったからなー」

「おー! やっははは! おもしろーい!」

 

 しかし、よく見るとタイヤは二つ。バランスを取れずに前に倒れており、かつてそこに別のパーツがあったことを窺わせた。

 一瞬楽できるかもと思ったが、乗客席だけでは動くはずもない。仮に前の部分があったところで、これだけボロボロでは動くかもなどという楽観は浮かばなかった。

 

「それで、これはなんなんだ?」

「乗り物だ。けどこれ……運転席が無い、のか?」

「うんてんせき……壊れているのか?」

「あ、これと似たの、向こう岸で見たことあるけど……」

 

 そんなわけで向こう岸に辿り着いた。

 Congratulation! Congratulation!

 

「わあー! すごい黄色いよ! へんなのへんなのー!」

「これがうんてんせきか」

「ああ……しかし、こいつ……!」

 

 なんでこんな綺麗なんだ……! なんだこの、子供の目を奪う鮮やかな黄色は。

 乗客席のあの寂れようからは到底想定し得ない無事っぷり。見た目には問題なく動きそうなほどだ。

 とは言え、バッテリーは確実に死んでいることだろう。まあ、そこは押しがけでなんとかなるかもしれないが……これだけで走るというのは些か乱暴な話。

 

「これこれ。なんだと思ってたけど、うんてんせきって言うのかー。それで、なんなのこれ?」

「これがさっきのバスとくっつくのか」

「おー! そーなんだー! やってみよう!」

「けど、どうやって運ぶ? 今、水多いよー」

 

 話が進んでしまっているが……頑張ってあそこまで持っていってどうにか繋げたところで、果たしてガソリン、あるいは軽油は入っているのか。そもそも鍵の問題はどうなのか。動かず、がっかりさせることになるかもしれない。

 入っていたとして、どの程度走行が可能なのか。行った先で補給はできるのか。

 カイジががっかりすることになるかもしれない。

 とどのつまり……まず確認が必要……ってこと!

 

 運転席を見てみると鍵穴は無く、どうやらキーイグニッションではないようだ。まあ業務用ならそういうこともあるだろうとそこはスルー。しかし……スイッチらしきものは見当たらない。

 ところで連載開始の時期=時代設定とした場合、まだプッシュスターター式とかは無い。しかし、そこはカイジ。なんとかその嗅覚で喰らいつく……!

 

 "ブルルルルン……!"

 

「おー!」

 

 奴隷は二度刺す!(関係ない)

 たまたまクラクション部分の長押したらなんかついたよ。やったね!

 しかし。

 

 "プスッ、キューン"

 

「えっ、死んじゃった? うんてんせき、死んじゃった!?」

「ね、寝ただけじゃないか……?」

 

 ざわ……

   ざわ……

 

 カイジ、点検……!

 

 工具などは無いが、とりあえず開けるだけ開けてみようと前に回るが……開かない。

 しかしその時、カイジに電流走る。眼前、掟破りの取っ手の存在っ……!

 恐る恐る引き抜くと、そこには――

 

 理外の電池……!

 

「それは……?」

「電池だ……!」

 

 ざわ……

   ざわ……

 

 電池って? ざわめきの大半はそれが占めていたが、それが原因で動かないことは伝わった様子。

 ただそれで盛り下がる感じでもなく、どーしよーかー? というムードが漂っている。

 

「それは、どうにかできるのか?」

 

 キングコブラも興味があるようです。カイジはほとんど諦めていましたが、言われてよく考えてみると……。

 まず言えるのが、これは明らかに独自規格。仮に単マイナス十電池とかがあったとしても、この取っ手のついた三角柱という形にはならないだろう。

 独自規格。それが意味するものは一つ。

 

「……たぶん、パーク内のどこかで充電できるはずだ」

 

 おー! と感心するみんな。

 

「ただ、場所がわからない……」

 

 しゅんとなるみんな。

 バスが何かなんて誰一人わかってないのに。

 

「ねえねえ、カイジちゃん。うんてんせき、くっつかないの?」

「いや。つくにはつくが……繋げても動かないんじゃな……はぁ」

 

 不景気なツラです。しかし、コツメちゃんは何かを期待するような顔です。

 

「……え、なに? つけたいの……?」

「うん!」

 

 

 

 他の面々に意見を求めた。それは"面倒だ"という返答を求めてのことだったが、しかし誰からも反対意見が出ないという異常事態によって、カイジは為す術もなく河岸に導かれる。

 そして途方に暮れた。

 

「やっぱ水多いよねー」

 

 ――――フレンズたちとカイジの感覚は違う。

 特にあの鉄の塊。みんなで頑張ったとして、この河を越えられますか?

 

 カイジの場合。

 無理……たぶん無理……っていうか不可能……。

 おそらく無理……

 いや……絶対に無理だな……

 無理無理……無理…………

 無理……

 

 フレンズの場合。

 おもそう。

 たいへんそう。

 よーし! がんばろー!

 

 

 

 渡れた。

 

 みんなで持ち上げて泳いでぶくぶく。となっていたけれど、「じゃあ私もー」とインドゾウが加わったところでいとも容易く浮いた。というか試しに一人にしてみても大丈夫だった。

 ずっといましたインドゾウ。会話に加わらず、くるくる踊ってたけど。

 

「浮力……!」

 

 アルキメデスが青ざめた顔で"マジかよ……"とか言ってるコマがここに。心の目で見ればここに。

 カイジは納得がいかず、膝をついて地面を殴ります。

 

 

「せーの!」

 

 二つのパーツはかちゃん、と気持ち良く繋がりました。葉っぱで拭いたりしてそれなりに汚れも落として綺麗なもんです。

 原作ではどうやったんだろう。

 

 さて。

 

「問題はこれか……」

 

 電池。

 フレンズたちは一通り乗ったりして遊んだので、バスが動かないことに不満は無いようだったが、カイジとしてはそうでもない。

 一番の問題、渡河。これがどう考えても困難だったため、カイジはバスに乗ることを諦めていた。というより、選択肢にも乗せなかった。

 しかし余裕で解決してしまった今、どうにも諦めにくい。これからどの程度先に図書館があって、更にそこからどこに行くかわからないこの状況では、徒歩というのはやはりきついのだ。他に手がないならともかく、可能性がちらついてしまっては飛びつきたい。どうしても無理なら大人しくインドゾウライダーになるけど。

 

「じゅうでん、だったか」

「ああ……」

 

 例の地図にも、充電スポットなどというそんな業務上のことは載っていない。

 近くの山にはカフェがあるようだが、果たしてそんな所で充電できるだろうか。もうちょっとこう、管理用の施設みたいなのじゃないと無いだろう。しかし、そうしたものは近くに見当たらず、どうしたものかなと悩んでいると。

 

「そうか。ではボスを探してくる」

 

 そう言って、ジャングルの中へ消えてゆくキングコブラ。

 カイジの頭は"?"でいっぱいである。

 

「?」

「あー、ボスか。確かにボスならなんとかしてくれそうだね」

「? ?」

「ボスー、ボスー。ジャパリまんが食べれるー♪ ジャパリまーん。ジャパリまーん!」

「? ??」

 

 知らぬはカイジばかりなり。

 

 

 

 しばらくして。

 

「会ってきた」

 

 キングコブラが戻って来た。

 その腕の中には、例のまんじゅうがたくさん抱えられている。

 

「おー。ボスはなんて?」

「山の方を示した。後で行ってみよう」

 

 どうもここでは当たり前のものらしく、質問しないと解決しない様子。

 それぞれがまんじゅう、ジャパリまんを受け取って食べ始める中、カイジはまた自分の脚の上に座るコツメカワウソに訊いてみる。

 

「おい、……コツメ。ボスって、なんだ?」

「んー」

 

 口にくわえたジャパリまんを差し出してきます。大人しく一口齧ると、コツメちゃんは説明をしてくれました。

 

「ボスはねー。困ってると助けてくれるんだよー」

 

 情報ゼロ。

 気にはなり、接触もしたいが……フレンズにとっては安全なようでも、自分にとってそうとは限らない。

 現実として、ここには自分以外の人間がいないのだから、慎重にならなくてはならない。

 というような理屈を付けて、カイジは保留を選んだ。

 

「んー」

「はいはい……」

 

 ……疲れた。

 肉体的にはともかく、わからないことばかりで精神的に疲れたカイジはコツメちゃんに体重を預けます。後ろから抱きしめるような形で、負けじとコツメちゃんももたれかかるようにして体を擦り付けてきます。

 たのしそう。

 

 カイジももぐもぐです。ペットボトルの水をごくごくです。

 みんなは河の水をふつーに飲んでますが、カイジにはちょっとハードル高い。とってもアウトドアな人ならアマゾン川の水だって飲めるけど(寄生虫とか、安全性はともあれ)、一般的な現代人にとっては河の水、それも増水して濁ったものはちょっと厳しい。

 ペットボトルはこうした問題に対する主催者側の配慮。

 

「ふう……」

 

 休憩が終わり次第、山に登るらしい。理由はよくわからない。

 なんとか食事が済み次第、から少し伸ばしてもらったが、唐突に登山しようぜはどうあっても覚悟が間に合わない。

 そもそも安全なんだろうか……。

 

 そんな心配は実際に山を見た途端に吹き飛びました。

 

「登れるかっ……!」

 

 断崖絶壁。明らかに登山というより、クライミングの領域。

 安全云々以前に、まず不可能。フレンズたちですら、あーちょっと厳しいかなー的な感じ。それでも無理ってほどではないのがさすがフレンズ。

 コツメちゃんが登ってみようとしてキングコブラに止められました。やめとけ。

 

「まあ……本当に充電設備があるなら、道くらいあるだろ」

 

 問題はその道をどう見つけるか。

 

「近くで詳しそうなやつを探すか……?」

 

 だいぶ慣れてきたカイジ。ここでは他力本願こそが正義。キョロキョロと辺りを見回していると。

 

 

「――困っているようだな」

 

 その静かな声に振り向けば、そこに居たのは黒い少女。なんだか、ジャガーに似ているような。

 

「姉さん!」

「!?」

 

 唐突に明らかになる姉の存在。いてもおかしくはないけれど、なんとなく驚くもの。

 

「オレはブラックジャガー。フ……非力な妹では手が届かないところがあるようだ。どれ、私に話してみるがいい」

「あのね、この山に登れるところ探してるんだ!」

「ふむ。向こうに変わったところがあるが、その他はどこも同じようなものだ。そこから登れなければ……鳥のフレンズにでも頼むんだな」

「ありがとう! ブラックジャガーちゃん!」

 

 ブラックジャガーは颯爽と去っていった。

 

「なんだったんだ……?」

「姉さん変わってるからなあ……」

 

 ブラックジャガーはジャガーの黒変種(メラニズム)だよ。アルビノの逆で、つまり黒いだけの同種なんだ。

 手数で攻めるジャガーに対し、一撃の重みを追い求めたフレンズだよ。

 きっとぽんこつだよ。

 

 

 言われた通り、変わったところへ行ってみると……確かに、それらしきものがあった。

 カイジは、なんとかそれがロープウェイ乗り場であることに思い当たった。つまり、そこにロープウェイ自体は見当たらなかった。

 さて、どうするかな。

 と、考えていると、ふと先程の黒じゃがの言葉を思い出した。

 

 鳥のフレンズ。

 

 ……ん? 飛べるのか?

 ちらっとパーティーメンバーを見ると、まあまあ子供っぽいサイズとはいえ、中学生くらいと言えなくもないくらいの身長はある。

 40kgくらい……?

 

 カイジは動物知識なんて無いので自信を持った結論を出すことは出来なかったが、飛べる鳥で一番重いのが約18kgのアフリカオオノガン。

 例えば人間の腕の部分が翼だとして、それで飛ぼうと思った挑戦者は鍛えに鍛え、やがてとんでもないハト胸になることでしょう。

 そうまでしても、恐らくは飛べない。飛べる鳥はみんな、骨をすかすかにしたり体重を減らしてどうにかしているのだ。人間では……滑空が限度。

 

 データは無くとも、どうにも飛べそうなイメージは湧かない。

 あるいは、また物理法則を無視するのだろうか。

 

「へんなのーへんなのー!」

 

 どうやって登ったのか、高い所にあるロープにぶら下がってぶらんぶらんなコツメカワウソ。まあ落ちても大丈夫なんでしょうが、なんともおっかない。

 ロープ。その結構太いスチールロープに、思い出してしまうことはあるが……同じことをしようとは、露程にも思わない。

 長過ぎる。

 滑るとか風とかそういったこと以前に、まずどこまで続いているのか。

 電流無いけど、休めるほど太くもない。不可能ではないだろうが、結構な地獄だろう。

 

 解なし。

 カイジには、方法が見つけられなかった。

 しかし……登らないことには、バスが動かない。

 バスが動かなくたって、インドゾウに乗れば良いし、砂漠ならラクダを探したって良い。

 ただ登らなければアルパカの登場が無くなるだけで。

 

 頑張れ、カイジ。ご褒美用意しておくから。

 

 

 とん、と。小さな音に、なんとなく目を向けると……ロープウェイの柱の上に、また知らない奴が居た。

 それは全体的に赤っぽくて、頭に羽根が生えており、カイジは、

 ――こいつ、トキのフレンズか……? と、見事にその正体を見定めていた。

 ……てことは、鳥?

 

「わたーしはー とーきー! なかまーをさがしてるー どこにいるのーなかまたち わたあぁしのなかまー さがしーてくださーいー……あーあ、なかま」

 

 なんだあのジャイアンは。

 突然のウェルカムリサイタルに、一同は……これといって大きなリアクションもなく、トキを見ていた。

 

「こんにちは」

 

 すうっと、宙を滑るように降りてきたトキを見た時、カイジの脳は一瞬で多くのことを思考した。その足が再び地について、挨拶をする頃にはだいたいのことを理解していた。

 セルリアン。フレンズとあれは、表と裏のような存在なんだろう。

 

 セルリアン。あの、ばけもの。その同類であるからこそ、彼女たちは異様な、特異な力を持つのだろう。

 

 それは理解であり、深い納得でもある。

 こうして、ようやくカイジは、おおよそ過たず、彼女たちとの接し方を考えるに足るパーツを得ることができた。

 アカギだったら五分ほど会話して"ふーん……"てな感じで掴んでいたであろうが、カイジってスロースターターだから仕方ないんです。やれば出来る子。

 

「はじめまして。私はトキ。私の歌、どうだった?」

「ああ、うるさかった」

「うっぐ%@&#っは」

 

 がーん。

 トキはショックで白目を剥くが、カイジは慌てた様子もない。感想を訊かれて、素直に答えた。こんなことでこいつは怒らないだろうという、"印象"を信じた。間違っていても、その時は謝ってしまえばいい、それだけ。何のリスクも無い話。

 今はただ、この勘を確かめたい。おそらくこのわけのわからない地で最も重要なのは、彼女たちフレンズとの付き合い方だ。

 対若い女の子と接した経験に乏しいカイジは、割と真剣にそこを掴みたかった。はやいとこ。

 

 とどのつまり、焦りからの暴挙……!

 

「そう……。どうすれば良いのかしら……?」

「そんな力いっぱい声を出す必要ねえだろ……?」

「でも、遠くまで声を出さないと聴いてくれる子が……あ」

 

 空中で、誰も居ないけど大声なら誰かに届くだろう。そんな思いで声を張り上げているうちに癖がついてしまったが、目の前に居るんならその必要ないじゃないか。

 この話ではそんな設定で行く。

 

「そうだったのね……」

 

 やっと気づいたわー。そんな感じだろうか?

 

「そうだったのね……」

 

 今更気づいてしまった、かもしれない。

 

「ま、まあ。なんかわからねえが、頑張れって。やり直したっていいだろ、お前は若いんだから」

「そう……そうね」

「……ところでよ、その……この山の上に用があるんだが、お前、何か方法知らないか?」

「……師匠」

「は……?」

 

 カイジの手を取り、目を見つめるトキ。当然、カイジは混乱の極地である。

 ――――師匠って、なんですのん?

 

「ちゃんと教えてもらったの、初めてだわ……」

「……!!」

 

 こ、こいつ……!

 す、吸い取る気だ……! 俺から、歌の知識、意見、その全てを……!

 

 

 というほどではないが、自分から教えてもらうということがこいつにとってもはや決定事項となっていることをカイジは悟った。

 もちろん、そんなにない……! 引き出し……!

 

「なあ、山に……」

「ええ。それは大丈夫よ。私が連れてってあげる……」

 

 

 

 

「うーん。……あなた、重いのね」

「……。」

 

 カイジは今、トキに腰を掴まれ、飛んでいる。

 足はついたりつかなかったりだが、まあおおむねついている。

 飛んでないかもしれない。

 

 順当……!

 まあそうだよな、という結果だったが、カイジも人である。思わなくも無かった……! 自分を抱えて、悠々と空を飛ぶトキ。空の散歩……!

 そうだよな……!

 

「ごめんなさい……。私だけじゃ、あなたを連れてくのは難しいみたい」

「……そうか」

 

 カイジは、それなら仕方ないなと納得した。

 やれるだけのことはやったのだから、と。

 

 しかし、カイジはその納得が故に、聞き逃した。

 私だけじゃ、という部分を。

 

 

---

 

 

 もう日が暮れるから、というキングコブラの提案により、今日の活動はこの辺りにすることに。

 異存は無く、カイジはその提案に乗った。しかし、カイジの脳裏に一抹の不安がよぎる。こいつらどうやって寝ているんだろう?

 ま、まあ。こいつらはどーぶつっぽいが、ヒトっぽくもある。たぶんそれなりに工夫して寝床を拵えていることだろう。

 ジャガウソトキと別れ、カイジはキングコブラとインドゾウについてジャングルの中へと進んでいく。

 二人が普段寝床としている場所はどちらも三人で寝る程度の広さはあるとのこと。そのうちインドゾウの方が近いとのことで、カイジはそちらを選んだ。キングコブラは当然のようについて来る。

 その時、カイジ隊員の見たものとは!?

 

「…………っ!!」

 

 理外の草……っ!

 そこには、柔らかい枯れ草が敷き詰められていた。

 

 

 

 食えば眠れる。そう信じることでなんとか寝入ったカイジだったが、やはりと言うか朝にはひどい虫刺され。

 熱帯とはいえここジャパリパークのジャングルは手加減ナシの気温ではなく、寝ている間は体が冷える程度のゆとりを持っていた。そのため、カイジは気がつけばインドゾウに抱きついていたが、離れようともせずすんすん泣くほどつらい。

 よしよしと撫でてもらっているうち、足音が近づいてきた。どうも、この音は一人では無いような。目を向けると、そこにはキングコブラともう一人。なにやら、エプロンをした子がそこに居た。

 

「コアラを連れて来たぞ」

 

 虫刺されは治った。

 

 

 

「どうしたー? なんか良い香りだけど」

「あははははっ! コアラコアラー!」

 

 集結! リバーサイド軍団!

 ジャガーはユーカリの香りを疑問に思っているようだが、コツメは知っているらしい。

 

「コアラの薬を塗ってもらった」

「ふーん。じゃ、行こうか」

「あ……?」

 

 説明もないまま、トキが待ってるから、となんとなく連れてこられた高山前では、トキの他にもう一人が待っていた。

 

「はわああー! あなたがお客さんなのぉ? 良かったよおー! だーれも来てくれないんだもの。そだよねー。登れない子も居るよねぇー」

「この子、この山の上に住んでるみたい」

「降りてきたところを見つけて、話つけといたんだ」

「アルパカって言うんだってー」

 

 

 数分後。

 

 カイジは……いや、カイジたちは合体していた。

 すなわち。上にトキ。下にアルパカ。そして、中にカイジ。

 完全形態……!

 

 カイジの体は下から押し上げられ、上から引き上げられ、断崖を上がっていく。

 助けを求めるように振り向いたカイジが見たものは、手を振る元仲間たちの姿だった。

 

 

 

「無理……! 無理無理無理……! 避けろって!」

「だーいじょうぶだってーえ」

 

 多少壁でもすいすい登ってしまうアルパカ。それは良いのだが、どかんと出っ張っているところも避けて通らない。

 ボルダリングで言うところの、オーバーハングやルーフ(天井)。また何か不思議な力が働いているのか落ちはしないが、カイジは当然恐ろしい。

 トキはなぜか阿吽の呼吸でこの動きに合わせ、アルパカと一緒に押し上げる側に回る。

 

 トキもあちら側……!

 

 

 

「ゴール……ゴールだ……!」

 

 Congratulation!

 ついに頂上へ辿り着いた。

 二人に降ろしてもらったカイジは横ローリングで崖から離れると、仰向けになってぐったりぜーはー。

 少し休んで、完全に元気なアルパカに肩を借り近くにあった建物へと連れて行ってもらう。

 椅子に座ってなんとか落ち着くと、ようやく周りが目に入るだけの余裕が戻って来た。

 

 これは……? そういやさっき、ちりんちりんって……ドアベル?

 そして、目が合う。何かを期待するように、目をきらきら輝かせるアルパカ。

 これらの符号が意味するものは。

 カイジは大人である。

 

「……コーヒー一つ」

 

 アルパカの顔が、ぱああーっと輝いた。

 

 

 ああ、お店屋さんごっこがしたいわけね。

 カイジのその認識はおおむね間違ってはいないが、こんな辺鄙なところで、いつ来るかもわからない客のために茶葉や豆などを用意し続けるというのはごっこの熱意ではできないことだろう。

 このコーヒーもちゃんとできている。まあかなり濃いが、カイジ的には濃いぶんには構わない。味も良い。

 

「不思議な味ね……」

「それはねぇ、紅茶って言うんだってーぇ!」

「温かい。それに、紅いのね……」

「うんうん! やー、良かったよーぉ。ずーっと待ってるのに、だぁーれも来てくんないんだもん」

「ま、そうだろうな……」

 

 ただどれだけ熱意があっても、立地が究極的に絶望的に完全無欠に悪い。特にアクセス面。一言で言うなら、断絶。あるいは孤島。

 駐車場が無いとかそんなレベルではない。

 

「ふもとでいろんな子にやってるよって伝えてるんだけどねぇー、そっかー。登れないんだねー。そっかあー……」

「見たところ山も多いし、見分けもつかないだろうな……」

「この辺はよく飛んでたけど、気付かなかったわ」

「ずっとこうなのかなー。やだなー。古くなった豆処分するの、もー、やだなー」

「他に場所はないのかよ? こんな所にあるんだから、どっか探せばもう一つくらい」

「そだよねー。そうなるよねー。でも……お客さん来ないのは寂しいけど、私まで居なくなったらこの店もきっと寂しいよねって」

「ふーん……」

 

 なーんでこんな所に建てるかね、人間よ。店なんかあっても、誰も来ないじゃないか。

 ま、何か登る手段でもあれば別、だけ、ど……?

 

「ん……?」

「どしたの?」

「いや……」

 

 ふと、ひっかかる。

 そうだ、確か頂上に辿り着いて、ほんの少し辺りを見回した。

 その時、店が目に入ってそちらに意識を向けたけど、その前に一瞬、

 

「あ……」

 

 カイジは気がついた。手繰った記憶の中に含まれるコンクリートに。そして、恐らくそれと対になるであろうものに。

 

「もしかして……」

 

 

「あった……!」

 

 それは思っていたものとは少し違ったが、用途は同じ物であろう。

 

「はえー。こんなのあったんだねー。なんだろーねこれ。不思議だにぇえ」

「喜べアルパカ……! こいつが動けば、とりあえず登れる……!」

「ほえ?」

 

 

 

「はわああー! すっごいにぇこれえ! どんどん降りてくよぉ!」

 

 口で言ってもあんまり理解した様子は無かったが、実演してみせると動かし方はわかったようで、物凄い勢いでこぎ始めた。

 凄いぞアルパカエンジン。揺れるぞアルパカ号。しっかり掴まってろカイジ。トキは上部に乗ってそちらでゆったりしている。柱にさしかかると飛ぶ必要があるから本当は忙しいのかもしれないが、とりあえず雰囲気はゆったりしている。

 ただ四つ目の柱を越えたあたりで降りてきた。

 

「師匠って、不思議なことを知っているのね……」

「師匠? へーえ。なんの師匠なの? 私にもいろいろ教えてほしいな。だってコーヒー知ってたもの。私もね、はかせに教えてはもらったけどにぇ、合ってるか不安なんだあ。淹れ方とかさー、特に温度っていうの? 私わかんねーからあ」

 

 弟子が増えた。

 

 

「着いたー! あー、ここだったんだね。そっかー、なんだろって思ってたけど、これのためにあったんだね」

「ロープウェイな」

「そうそう! ロープウェイ! ……それでー、どうするのぉ?」

 

 ガクッ。

 

「こいつをこうして降ろしておけば、自力で登れないやつでもお前の店に来れるだろ……?」

「あっ、そっかぁ! ……でも、それだと私はどう戻ればいいのかなあ?」

「……今までどおり登れば良いだろっ!」

「ああ! そっかあー!」

 

 このぼんやりした奴に、教えを求められているという現状。しかも、同様なのがもう一人。

 バックレてしまおうかしら。そんな誘惑が浮かんだカイジだったが、そうするとトキが旅について来るルートに入るぞ。

 

「――困っているようだな」

 

 そこに現れた黒い影。

 

「オレはブラックジャガー。言わずともわかるさ。この力が必要なのだろう。……フ、これが宿命(さだめ)というヤツか……」

「困ってないから……!」

 

 もう変な奴はいいから……!

 そんな思いを込めて突き放すと、「そうか」と一言返し去ろうとする背中を、アルパカが引き止めた。

 

「ああっ、待ってぇ!」

「む、やはり私の助けが」

「そじゃなくてね、ブラックジャガーちゃんにも、私のカフェに来てほしいんだぁ。登り方も覚えてもらいたいし」

「ほう。よくはわからないが……頼まれたからには応えよう。それこそが……力を持つ者としての、責務……!」

 

 エンジンが黒ジャガになりました。

 

「いやーあ、よかったよぉ。これならお客さん連れて来れるよぉ」

「む、どうした。そんなにふらふらして。……うむうむ、私が肩を貸してやろう」

 

 永遠にジェットコースターには乗らない。カイジはそう堅く、心に誓った。なんなんだ、この足漕ぎロープウェイは!

 

 帰り、大丈夫だろうか?

 

 

 

「はい、師匠ちゃん。ブラックジャガーちゃんもコーヒーでいーい? もう淹れちゃったけど」

「フ……っ」

「あ、苦かったらこのミルクとお砂糖入れてにぇ。熱かったらね、ほら氷もあるよ」

 

 どぽどぽざざざ。

 

「……フ」

 

 白くなっていく黒じゃがのコーヒー。カイジは、ほとんど無意識で、ついでに練乳もぶちこんでやろうと冷蔵庫を開いた。

 そんなカイジの目に飛び込んだ物は。

 

「な、な……!」

 

 文字だけ伝えよう。

 

 

  Japari

 

 Super Dry

 

 

---

 

 

 

「キンッキンに冷えてやがる……!」

 

 あーそれね。なんっか入ってたんだけどさ、何なのかはよくわから"プシュッグビグビグビ"

 話など聞かず、酸素よりも重要だとばかりに、息を止め一気にひと缶ぐいっと飲み干したカイジの目尻には、涙さえ浮かんでいた。

 直後の感想は言葉にもならないようだから、こちらで言葉にしてあげよう。しみる……!

 

「へえー! それも飲み物だったんだあ! おいしい? おいしい? 開け方教えてくれる?」

「お前はダーメ」

「ええー!?」

「これはな、大人用なの。お前は……何歳かはわからねえけど、子供だろ?」

「おとな? こども?」

「……あー」

 

 そういう概念がないのか……?

 

「あーっと……」

 

 考えてみれば、なかなかに説明の難しいことである。

 人間であれば、はっきりとした説明無く、そのうちなんとなーく理解することだ。なるほどね、こーいうのが大人ね。と。

 酒についての話なのだから二十歳以上が大人とでも言ってしまえば良いのだが、なんというか、それは不誠実だ。酔ったカイジはそう感じたのだ。実際、親でもその程度にしか説明しないだろうに。

 しかし、ちゃんと説明しようたってじゃあ年齢とかそういうのはあるのかという引っかかりがあって、なら年齢を説明するには?

 

「お前みたいな小さい奴には毒ってことだよ。俺は大きいだろ?」

 

 結論。大人は質問に答えたりしない。

 

 

「……なあアルパカ。これって、ここにあるの全部飲んだら終わりか?」

「さあー? ボスにお願いすればくれるかもしれないけど、それなんてんだっけー」

「ビールな」

「今度訊いとくよー。まーカフェっぽくはないけどさ、カイジちゃんはそれが好きなんだよね」

 

 自分のこだわりよりも、お客さんが本当に求めている物を。

 そんな店。

 

 ところでボスってなんだ。

 訊きたかったが、口を挟む物がいた。

 

「そうか。……お前がアルパカか」

「ん? そだよー」

「そしてここが、カフェ」

「うん」

「そうか……ここだったのか……」

 

 ブラックジャガーである。

 

「あれは……一昨日だったか。私はその日も困っている者を探し歩き、ちょうど一人、このふもと辺りで見つけた」

 

 そういう活動の自覚はあったらしい。

 

「話を聞いてみると、アルパカから聞いて、カフェを探しているそうだ。しかし、私もそいつも、どの山かは分からなかった。……そういうことが、以前にも何度かあったんだ」

 

 聞いて、アルパカの体は震えます。

 

「だが、これからは案内できる」

「……みんな、来てくれてたんだ」

 

 涙が滲んで、

 

「ごめんにぇえ……みんなあ、気付かなくってえ……」

 

 こぼれました。

 

「クッ……!」

 

 カイジもつられました。

 

「賑やかになりそうね」

「うんっ……ぐす」

「ここに居れば私の仲間も見つかるかも。ねえ、アルパカ。紅茶、もう一杯ちょうだい。これ、とっても美味しいわ」

「うん……う゛ん゛っ……!」

 

 アルパカは泣きながら紅茶を淹れました。

 拙い手先がもっと乱れていましたが、出来上がった紅茶はさっきより美味しかったそうです。

 

 

 

「……あっ、そうだ電池」

 

 なんだかんだでかばんに詰め込まれていた電池を取り出すカイジ。

 意外にもビールは程々にとどめましたが、ちょっと酔ってます。

 

「師匠、それは……?」

「そうだった。俺、充電のために来たんだ……。アルパカぁ、これ知らないか……?」

「うーん。……あ、もしかして」

 

 

「これじゃないかなあ?」

「あ、これだ」

 

 電池を充電ケース的なところに入れる。しかし、これで合っているんだろうか?

 辺りを見ると……ソーラーパネル。

 カイジの認識から言うと、胡乱な技術である。未発達で、まだ導入によるコストと釣り合うかどうか微妙なまま、業者は売る。

 まあそうだとしてもこの僻地であれば有用ではあるが、その実力への不信感からカイジは、太陽光発電でこのバスを動かそうという電池の充電はどれだけ時間がかかるのかと、頼りないものを感じていた。

 そんな疑いの目でよく見るとソーラーパネルの配線が充電装置につながっていないのがわかった。

 

「アルパカ、しばらく電気借りるが、良いか?」

「でんき?」

「んー、つまり……たぶんその間下が暗くなって、お湯も作れなくなる」

「あー。いいよいいよぉ。まだ新しいお客さんなんて来ないから」

「ありがとよ」

 

 

 階下は予想通り少し暗くなっていた。

 当然お湯も沸かせないが、カイジが置いてあった魔法瓶の使い方を教えたため、多少ではあるが温かい紅茶のストックはある。

 場所をテラスにかえて、引き続きのティータイム。

 

「紅茶って、ジャパリまんと一緒に食べるともっと美味しいのね」

 

 ジャパリまんってすごいよね。お茶請けにもなるし。

 カイジも先日からジャパリまんオンリーの食生活になっているが、栄養面での不足は感じていない。

 まあ、まだギリ若いから、そのせいというセンもあるが。

 

 上手く栄養を調整して作っているなら良いのだけれど、そこもおまかせサンドスターだったら……大丈夫だろうか? 向こうに戻ってしばらくして、血となり肉となっていたサンドスターが解け始め……。そんなよもつへぐいチックな問題があったりして。

 ……へーきへーき。

 

「いやあ、いっぱい教えてくれて助かるよぉ」

「……あ」

 

 トキが何かを思い出したような顔で、カイジを見ます。

 

「そうだわ。師匠、私にも教えてくれるかしら」

「ぐっ……!」

 

 なんと厄介な。

 

「トキ……この際だから言っておくが……俺はそんな知らない……! 歌とか……!」

「大丈夫。きっと私より上手いわ。さあ、歌ってみて」

 

 無茶ぶりである。しかし、逃げ切れる雰囲気ではない。

 何を歌うべきか? カイジが悩み抜いて出した結論とは!

 

「なんとかなーれー!」

 

 古井戸『なんとかなれ』

 

「すてき……こういう歌もあるのね」

「はわー。すごいねぇー」

「歌にも力があるのだな……」

「……。」

 

 はずか死。

 ちなみになんとかなれは古い曲なのでカイジが知っていてもおかしくはありません。このカイジ、アカギ見たの? という誤解が生じないように注釈であります。

 大雑把ですが、これでノルマ達成ということでいかがでしょうか。

 

「なにか上手く歌う工夫とかあるのかしら?」

「って言われてもな。腹で呼吸する、とかは聞くが……」

「なるほど、お腹ね……」

「あと、声の練習とかするんじゃないか? あーあーあーあーあー、みたいな」

「練習……!」

 

 ハイライトないなりに工夫して瞳を輝かせるトキ。

 練習しようにも、やり方がわからなかったのでしょうね。

 カイジも発声練習についてやり方やその意義まで知っているということはないため、この師匠の言うことを聞いて実のある練習ができるかは不明だが、本人が納得してるならまあいいじゃないか。

 

「私も……師匠みたいに歌えるようになれるかしら」

「ん、ああ……」

「そう……そうね。私、今とっても心が熱いの。師匠の歌を聴いたせいかしら。……今なら、きっと今までより上手く歌えると思うの。みんな、聴いてくれる?」

 

 当然ながら否やはありません。

 

「わたーしはー トーキー 仲間を探してるー どこにいるーのー わたしのー なかーまー! あーぁ、なかま……」

 

 それは聞き苦しくない歌でした。音程はちょっとあれでしたが、そこは今後の努力でなんとかなるでしょう。その時は曲つけてDL販売しよう。

 どのへんを評価したのか、フレンズ勢は拍手を贈ります。

 

「師匠……!」

 

 トキはカイジの手を取り、目を見つめました。

 実際は大部分パカ茶効果でしょうが、アルパカは自分が淹れた喉に良いお茶の効果がカイジの手柄になっていることに不満を持つような子ではありません。わざわざ言いもしません。

 しかしカイジにとってはたまったものではありません。

 

「いやいやいや、ほら、喉がお茶で温まってたんだって……!」

「なるほど。温めると良いのね、師匠……!」

 

 なんとか擦り付けようとしますが、タゲは移りませんでした。

 口ほどに物を言う目は、カイジに純粋な敬意を叫んでいます。

 

 いたたまれない。

 

「電池見てくりゅ……!」

「ああ、師匠……」

 

 

 逃げるように屋根に上がって確認すると、電池は見るからに半分たまっていました。

 見てくるとは言ったものの、こんなもん見てもわかんないよな、と思っていたカイジは電池本体に組み込まれたインジケーターの存在に衝撃を受けます。この部分はわかりやすく電池だと示しているだけのものだと思っていました。

 この事実を噛み砕くと、つまりバスを動かすであろう電池が数十分で半分充電されたというわけのわからないものが見えてきます。

 バスの電力消費が異様に小さいのか。そもそもそんなに長く走れないのか。それともこのソーラーパネルが異常なパワーを持つのか。

 普通に考えれば二つ目ですが、そんな普通が通じる感じでもありません。

 

「はあ……」

 

 慣れた、と思いたいところ。

 しかし、実際にはむしろどんどんわからなくなってきます。

 わかる時が来るのでしょうか。

 

 酔い覚ましに夜風に当たりたい気分なカイジでしたが、ソーラーパネルが動くだけあってとても明るいです。昼間から酒を呑むものではないですね。

 屋根に腰掛け、カイジはタバコを取り出します。灰皿の問題はビール缶を手に入れたことで解決しました。火を点けて、すぱすぱやり始めます。

 

「はあ……」

 

 タバコ。ビール。とりあえず、はたから見てカイジに必要そうなものの大部分は揃いました。タバコの供給さえあれば永住でいいんじゃないの? って感じです。焼き鳥とかはたぶん無理ですが、脱出を諦めればそこそこ幸せに暮らしていけるでしょう。

 きっとそうはしませんが。

 

 

 二本吸う間に充電が終わりました。電池を取り出し、配線を戻して下へ降ります。

 

「あ、師匠」

「師匠じゃねえよ」

 

 エネルギー充填により、強気になったのかぽろっと言ってしまいました。まあ、もう後には引けません。

 

「お前がどう思ってるか知らないが……俺は、教えられるほど詳しくねえんだよ」

「もう、とっても教えてもらったわ?」

「……わかった。好きに呼べ」

 

 用事は済みました。カイジは撤収の準備を始めます。ビール缶はどうするか訊けば、ボスによるゴミの回収がたまにあるそうで、たぶん大丈夫なようです。……ボスってなんだ……っ!

 

「……ま、いくわ。ごちそうさん。ビール、ちょっと貰ってくぜ」

 

 返事も聞かずひょいひょいとかばんにビールを入れます。ぬるくなっても、無いよりは圧倒的マシ……!

 カイジ、そろそろスイッチは入っているようで、理性をもって量を加減します。荷を重くしすぎてさばくちほーで行き倒れ、みたいな古典的なミスは決してないと思っていただこう。まあ重けりゃオトモフレンズに任せりゃ問題ないんですが。

 

「ありがとね。師匠ちゃんのおかげでカフェ、やっていけそうだよ」

「お前が頑張ってたからだろ。つか師匠ちゃんって……」

 

 さっきも一旦スルーしましたが、去り際です。

 

「カイジ。俺の名は伊藤開司だ」

 

 かっこよく名乗りました。

 

「……行くぞ、ブラックジャガー」

「ああ。ではな、アルパカ」

 

 かっこよく去ります。

 かっこよく振り返らず扉へと向かう背中に、アルパカが声をかけます。

 

「カイジちゃん。またお茶飲みに来てよ。コーヒーもはかせたちに聞いて勉強しとくよー」

「……ま、近くに寄ったら、な」

 

 アルパカは、その時が楽しみだという顔で笑いました。

 背を向けたカイジの目にそれは映らず、そのつもりもありませんでしたが。

 ところでなにか忘れていませんか?

 

「師匠」

 

 流そうとしたのかもしれませんが、残念ながらあなたは貴重な師匠です。

 逃がすはずがありません。

 

「私、わかるわ。師匠にはやるべきことがあるのね」

 

 ?

 

「だから私、しばらくここで練習するわ。それで、上手に歌えるようになったら師匠に会いに行くの」

「トキ……」

「その時は、またアドバイスが貰えると嬉しいわ」

 

 残念でしたね。気遣える子でした。

 

 

 

「私がやろう」

「いいって! 座ってろ!」

「私に任せろ。私の脚に敵うものはそうはいない」

「だからおとなしくしてて欲しいんだって……!」

 

 説得に成功しました。

 

「っはー、っはー、っはー……」

 

 その代わりくたびれを儲けました。

 くたびれ切ったカイジを見た黒ジャガーは彼をおんぶし、

 

「たぶんこっちだろう」

 

 と、勘だけで歩き出しました。

 

 

 

「う……」

「あ、カイジちゃん起きた! ねーみんなー! カイジちゃん起きたよー!」

 

 カイジは目を覚ます。

 

 

 

 

@ここまでで終了。以下、メモやボツ

 

 

 

 

アニメじゃアルパカはサーバルやかばんの名を呼んだりしてないけど、とりあえずちゃん付け。

充電のシーン、ボスはどうやって電池を持ち上げていたのだろうか

 

ジャパリまーん!

ジャパリまーん!

ジャパリまーん!

ジャパリまーん!

 

Lovely ジャパリまん!(Lovely ジャパリまん!)

Lovely ジャパリまん!(Lovely ジャパリまん!)

Lovely ジャパリまん!

 

ジャパリまーん! ジャパリまーん! ジャパリまーん! ジャパリまーーん!

 

 

キングコブラはアプリ版では命令されると断らない。アニメ版では何か頼み事か?と向こうから迎えに来る。これらを合体。

「大人は質問に答えたりしないっ……!」なでなで

 

生物がフレンズ。非生物がセルリアンになるわけか。

あの子はHAW-206ちゃんだよ。しこうせんしゃなんだってー。

理外のコラボっ……!

 

 

「たぶんそろそろボスが持って来てくれるんじゃないかな。あ、ほら。噂をすれば――――」

「ひいっ!」

 

 

 

サーバルちゃんが追いついて来て

「身を捨ててアードウルフを助けたかばんさんマジリスペクトっす」的な感じで、

私にはそれができなかった。的に落ち込んで

いやいやあんなのほぼ自殺だし。一回目はさておき、サーバルたちが見ていた二回目はほんと無意味だったし。

真似しないようにどう釘を刺すべきか……というシーンがありましたがごちゃごちゃしてきて上手く書けなかったのでカット。

まるでカイジの勝負が進まない回。

 

---

「うーん。……ちょっと、羨ましいんだ」

「は? なに、俺が? ……なんで?」

「ほら、セルリアンがアードウルフを襲おうとした時、わたし……ああ、わたしじゃ助けられないな、って思って、なにもできなかったんだ。でも、かばんちゃんは……わたしよりずっと、足も遅いのに、力だってないのに、助けちゃった。だから、すごいな、って」

「あ……?」

 

 呑み込むのに、しばし時間がかかり。

 

「はぁ~~……!!」

 

 脱力する。

 

「なんでそんな勘違いするかな……!」

「?」

 

 サーバルの、物凄い勘違いに。

 勘違いとはいえ尊敬されているのに、それを自分で思いっきりぶち壊さなければならないという、至近に迫った未来に。

 

「……あー、……サーバル。それは、違う。なんというか……それ……むしろ、逆だろ」

「逆?」

「身を投げだして、助ける。……それはまあ、傍から見ればかっこいいかもしれない。けど、そんなもん見た目ほど良いことじゃないだろ」

「え……? なんで? どうして? だって、そのおかげでアードウルフは……」

「見てたかどうか知らないが、俺はアードウルフを二度突き飛ばした。一度目はまあ、確かに時間を稼げた。結果的にそれで助かったのはそうだろうけど、そんなもん、たまたま……結果的にそうなったというだけ……真似したいと少しでも思ってるなら、絶対にやめろっ……!」

「で、でも!」

「助けるなんてつもりじゃ無かった」

 

 理解が及ばない。そんな硬直した、不安そうな顔。

 ……今からでも、今のナシと誤魔化したほうが平和だろう。そう思っても、カイジは自分がダメな奴であるかの説明をやめなかった。

 

「お前たちが来るかもしれない。そう思って時間を稼いだんなら、俺だって偉そうに威張るさ……!」

 

 カイジはあの時の心境を思い起こす。

 サーバルが勘違いした、自己犠牲による救出。それはそれで、尊い。

 少しでも時間を稼げば、誰かが来るかもしれない。そんな計算があれば、それはあまりにも美しい。

 しかし、その心の隅から隅までを探しても、そんな綺麗なものは欠片として見当たらなかった。

 

「けどな……」

 

 あれは。どう考えても……、

 

「けど……」

 

 今思えば、それは。

 

「はあ……」

 

 

 例えば目の前に、事故で死にそうな人が居るとして。

 そこに飛び込んで、助けて、自分も助かる。

 それが無理筋でなければ、実行する人はそれなりに居るだろう。善意も打算も、背中を押してくれる。

 では助けることはできるが、自分は助からなそうな場合。

 打算は消える。そして生存本能が足を止めさせる。

 それでも進めるのは、概ね……善意に満ちている者。

 

 では。何をしようと助けることができず、自分すら助からない場合は?

 

「はあ……」

 

 それは、今思えば、単なる身投げだった。

 目の前には怪物。それも自分の生還を信じられないほどの。

 これは無理だ。どうせ死ぬなら、せめて、善人のように……。

 そんな弱気が、たまたま成ったが……それは本来、実らないはずのもの。

 万一真似をされたらと思うと、なんとしても釘を刺しておきたいところだが――――

 

 こいつにそんな諦め、言わば自殺のような……そんな概念を知らせていいものなのか?

 

 どうやんわり、オブラートの塊をこしらえるか頭を悩ませていると。

 

「ごめんね、かばんちゃん。わたし、変なこと訊いちゃったのかな……」

 

 サーバルは、悲しそうな顔でそう謝ってきた。

 ふう、と。なんだか力が抜ける。

 ああ、もう。……こんな純真無垢な奴に、自分はなにをごちゃごちゃ言おうと思っていたのか。

 そうじゃないだろ。

 

「……俺には、できることが無かった。手詰まりだから、無理をしたんだ」

 

 直球勝負。

 

「鋭い爪とか、早い足とかが無いから、無理をした。だが、お前には爪がある。お前はその爪を振るうべき時を間違えなかった……!」

 

 ただ熱意で押す……!

 

「……まあつまり。お前は無理をしなかった。それが正しいんだ。間違いなく、最高のファインプレー……!」

 

 押し切るっ……!

 

 ど、どうだ?

 反応が予想できずカイジの胸中には不安感がじわじわと広がってゆく。

 そんな気持ちのまま、なかなか返事は無く、仕方なく見つめ合って待つ。

 と。

 

「かばんちゃん……」

 

 ぽろ、と涙。

 

「うっ……!」

 

 うろたえる、が。

 

「かばんちゃん……!」

「うおっ……!」

 

 ぎゅっ。

 

 唐突な熱いハグ。この時カイジの脳内に、ある確信が過ぎった。

 ノリが違う……! 完全にっ……!

 若いから、とかじゃない。根本的に……ためらいが無い……!

 社交的か、内向的か。本来ならばそこにあるはずの振り幅が、片一方に振り切れているっ……!

 

「よくわかんないけど……よくわかんないけど……!」

「お、おう……」

「アードウルフっ! 助けられて……よかっ、……よがったぁあ……!」

 

 い、今?

 なんで今……。

 

 よくわからなかったがまあとにかく、

---

 しばらくして。

 

「連れて来たぞ」

 

 キングコブラが戻って来た。

 ……連れて来た。その言葉に、緊張しつつその背後に目を向けていると――――

 

 ピコピコピコピコと、異様な音を立ててこちらにやって来る青い……、

 

「ひいっ!」

 

 咄嗟にコツメちゃんの後ろに隠れる。しかしその背中のなんと頼りないことか! これは得点高し。頼れない背中グランプリ狙えるやも。

 せめてジャガー。しかし、ジャガーは何の警戒も無い様子でセルリアンに歩み寄っている。

 

「や、ボス。一つもらうよ」

「わたしもわたしもー!」

「あっ、」

「ありがとうー」

 

 頼れない背中が去ってしまった。失ってから初めて気づく。頼れなくとも、無いよりはマシだったんだって。

 

 しかしカイジ、さすがにこの辺で自分の認識に疑問を持ちました。キングコツメジャガゾウはあんまりにも普通に対応しています。

 

「じゃぱりまーん! じゃぱりまーん!」

 

 そればかりか頭の上のかごから、例のまんじゅうを取ってぱくぱくやってるではないですか。

 

「カイジちゃんもはい!」

「……、」

 

 受け取り、もそもそと食べながらセル――ボスの動きを窺う。

 するとこちらに歩み寄って来たが、カイジの膝の上には既にカワウソが乗っていた。これでは動くことができない!

 

「んー♪」

 

 咥えたまんじゅうを差し出してきて、カイジは大人しくぱくっとかじります。

 撫でてやると、とても嬉しそうです。

 

 幸せ。

 

 しかしそんな幸せな時を邪魔する者がいました。

 ボスである。

 

『はじめまして。ぼくはラッキービーストだよ。よろしくね』

 

 その時の衝撃の度合いは、それぞれだったが……、

 ジーンズを濡らす液体に若干のコツメ汁が追加された他は、そう大きな反応はありませんでした。

 びっくりしたんですね。

 

 

 

『ジャパリパークは気候を元にして、幾つかの地方に分かれているよ。それぞれに動物、植物が展示されているんだ~』

 

 長い説明と挨拶は何の問題もなく終わりました。ここまで引っ張ってあっさりなのは、"ひぃっ! セルリアン!"とカイジがビビって一悶着という用意していた展開がわちゃわちゃして書くのがめんどくさい上に読む側にとってもそんな面白くないからです。

 

「ボス! ボス! わたしコツメカワウソ!」

『……。』

「あれー?」

 

 

 この時、カイジは突然舞い込んだ情報に、真面目モードになっていた。

 ついに明らかになった……と言うには、実のところ真新しい情報はそう無かった。

 正確に言うならこれまでの状況から予想できる範囲でしかなく、そう感じなかったということだが……ともあれ、カイジが望む情報は、外のこと。自分がなぜここに来たか。どうやって出るのか。

 ……しかし、相手は明らかにロボット。そんな質問をしたところで、答えは期待できないだろう。

 ある程度順応してきたカイジだったが、まだAIBOも無い時代の人間には十分な対話が可能なAIなど想像の埒外なのだった。

---

 

かばんマン対セルリアンマン

 

サバンナシマウマは元々乗馬クラブに居たことにして、乗せた経験あり

チラ裏なので回収しない設定もぶち込む

 

一日ジャパリパーク券 500万 ペリカ

 

じゃぱりこ

カロリーフレンズ

たべっこフレンズ

キャラメルコーン アライグマの罠用エサ




かばんの中に労働手帳が入っていて、ボスに判を捺してもらう展開にしようとしてそれはあんまりだと思ってやめた。
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