けもの黙示録カイジ,オーバーロード転生ものなど[エタ]   作:紅茶タルト

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オバロ1 122KB 2016/7/6
オーバーロード転生モノ。なんとなくやめた。
投稿するにあたっての推敲をしていない。


オバロ1(オーバーロード転生もの)

「おぎゃー」

 

 それからのあらすじ。

 第二の故郷は未来都市だった。

 車は空を走っていないけれど、自動運転で事故はほぼ無し。電気は核融合でとってもクリーン。

 あと軌道エレベーター。話を聞いた時は憧れたけれど、予約待ちがなかなか長いそう。それでも普通に宇宙旅行に行ける時代、来てるね!

 漫画・アニメ・ゲーム・ドラマ・映画。どれも知らないものばかりで、忙しすぎる!

 

 環境破壊や社会問題に代表されるあれこれな悪い部分を無視するなら確かに凄い世界。そんな世界で私は動き出した!

 

 そうして、いろんなことが上手く行った。

 

 

 

 西暦2137年。一つの世界が終焉を迎えようとしていた。

 

 YGGDRASIL

 

 このDMMO-RPGにとてつもない自由度、という特色があったのも今は昔のことで、今は並び立つもの超えるものがいくつもある。

 そんな中で去っていくプレイヤーを引き止めるのも新規プレイヤーを呼び込むのも容易なことではなく、順当にユグドラシルはサービスを終了することになった。

 

 

 一人のアンデッドが壮麗な通路を歩く。かつて小勢ながら公式のギルド順位において七位にまで達したという伝説のギルド、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスター、モモンガである。

 その後ろを追従するNPCは一体の執事と六体のメイド。アインズ・ウール・ゴウンが拠点、ナザリック最下層最後の護り手でもある。

 とうとうこの日に至るまで彼らに出番は訪れず、普段転移魔法によって移動するモモンガはあまり会うこともなかった。

 縁は無かったが、彼にとっては仲間の子供のようなもの。無意味に終わらせるには偲びなく、モモンガは最後の時を彼らと共に過ごすことに決めた。

 

 玉座の間までの道中、モモンガはいつか聞いた言葉を思い出していた。

「私がなんとかこの世界の終わりを遅らせる。……ただ、あまり来れなくなるとは思う」

 その言葉に彼は一片の疑いも抱かなかった。おそらく、いくらか伸びたのであろう時間に感謝だってしている。ただ――

「そんなことより、最後まで一緒に遊びましょう」

 ただその一言を伝えられなかったことを、ずっと悔やんでいた。

 連絡の手段だってあった。たまにログインする時に話す他にもメールがある。声は変えているようだが、ネットを介した音声通話だってできる。メンバーの中にはオフで会った者だって居るのだから、モモンガもそれを望めば会って話すことだってできたかもしれない。

 しかしできなかった。いや、しなかったんだ。想いは一つだと信じていたから。時間を稼げば、或いは仕事の落ち着いた仲間が戻って来るかもしれない。しかし、

「二人だけじゃ、ダメだったんでしょうか……?」

 モモンガにとってはそれだけで十分な僥倖(ぎょうこう)だった。なのに結末はこうだ。最期の日にすら、会えないで終わる。伸びた時間は結局、虚無を増すだけに終わったのか。

 呟いて、いくらか歩いたところで、モモンガは違和感を覚え立ち止まる。いま、視界の端に、何かが――?

 

「悪かったよ。一人にして」

「――――!!」

 

 驚いて振り返った先、通路の隅には箱が置いてあった。

 横長で、丸みを帯びた蓋部分。アンティークな意匠の施されたそれは、正しく宝箱と呼ばれるものだった。古城系MAPにPOPする宝箱と全く同一姿を持つそれは、蓋を開けようとして、後ろの壁につっかえて諦めたように閉じた。

 

「一人ぼっちよりは、と思うけど二人ぼっちもどうかな、と思って頑張ってはみたんだけど、一年伸ばすのが精一杯だった」

「ネコさん……」

「いやほら、モモンガとはこの先別ゲーに移るとかリアルで遊ぶとかできそうだし、て。いやこれは言っとくべきだった。ごめん」

「いえ、いえ。いいんです。来てくれたんですから」

 

 ネコと呼ばれた箱、それはミミックだった。アインズ・ウール・ゴウン、四十二人のメンバーの一人であった。

 

「まあ時間も無いし、向こうで話そう」

「……あれ、そもそもなんでここに?」

「それは歩きながらにしよう。さあ、シズ。私を運べ」

 

 メイドの一人が指示に従い、ミミックを持ち上げた。ギルドマスターの命令の途中だが、優先権を設定して待機のまま動かせないなどということにならないよう、従う指示は常に最新のものとして組まれている。その上、ミミック運びは再優先として。

 ミミックが続けてモモンガへの追従を指示すると、一行は歩き出した。

 

「それで、どうしてこんなところに? ずいぶんここで待っていたんでしょう」

 アインズ・ウール・ゴウンのメンバーがログインした場合、基本的に円卓に現れる。長いこと円卓でスタンバってたモモンガと会わなかったということは、モモンガより先にログインして隠れていたことになる。

「通るかな、って」

「はは、ずいぶん分の悪い賭けですねー」

「最後の最後で分の悪いところに全BET。そして私は勝った。どうだろう?」

「……普通で良いと思いますよ、私は」

「普通かー。普通が一番難しい」

 

 玉座の間へ辿り着く。

「シズ、玉座の横辺りに移動。まえー進め。停止。まわれーみぎっ!」

「さすが、操作慣れてますね」

「なにせ足がないから。さあさギルドマスター、どうぞ玉座へ」

「はいどうも。ああ、お前たちはそこで、ああ、ひれ伏せ。ふう、さて……」

「さて。アルベドかあ」

 二人の目線の先には、白いドレスの女がシズと二人で玉座を挟むような位置取りで立っている。黒髪を生やした頭部からはバフォメットをイメージしたであろう山羊の角が二本伸びており、その背後、腰辺りには堕天使を思わせる黒い翼を持っている。

「愛ゆえに。思うところはあるけれど、私は尊重したい」

「愛、ですか。……でも、」

 

 ――それならどうして。

 出掛かった恨み節を飲み込むことにそれほど難は無い。もともとそれなりに整理はついていたことだからだ。

 そうでなくとも、終わりを共にしてくれる仲間が隣に居る状況で吐き出しはしなかっただろうが。

 飲み込んでみれば穏やかな気持ですらある。少々の悲しみ、寂しさは消し去れなかったが、それでも。

 

 無断で持たせてあるワールドアイテム。モモンガは今更それを奪い取って終わりを汚す気にはなれず、ギンヌンガガブをアルベドに預けることに同意した。

 

「――いえ。タブラさん、凝り性でしたから。ずっと狙ってたのかもしれませんね」

「設定に書いてるかも。私は読む勇気が無かったけど」

「それは――? ……ああ」

 素早くコンソールを操作したモモンガが納得の息を吐く。表示されたアルベドの設定、その文章量たるや。

 明らかに読みきれない。また、読んで時間を潰す気にもなれない。それでもなんとは無しに最下部までスクロールして行くと、一文が目に入った。

『ちなみにビッチである。』

「うわあ……」

「どしたのさ?」

「これの最後、見てみてください」

「はいさ。…………ウワァ」

「ね?」

「徹夜明けのハイテンションで書いて最後にちょっと我に返ってオチを付けた、ってわけじゃないなら優秀な変態だ。実際そういうわけじゃないから変態だ。よく訓練された変態だ」

「オチが付いたような格好にはなってるんでしょうけどね。あの人ギャップ萌えでしたし」

「最後ビッチと一緒で終わるの? 私はヤだよ」

「そうですね。……じゃ、やっちゃいましょうか。最後ですし」

「よろー」

 

 モモンガがコンソールをいじり始めて十数秒。

「完了です」

「はーい。どれどれ……」

 再び設定を表示し、末尾までスクロールしたところにあった文字、それは。

 

『アインズ・ウール・ゴウンを愛している。』

 

「おお……」

「どうです?」

「綺麗に決めたね」

「フフ、そうでしょう?」

「私はこれでよし。やれるだけのことはやった。実はアルベドとかのデータも貰ってるから、モモンガちゃんさえ良ければオフで会おうよ。設定もあったはずだし、印刷して持ってくから」

「それは楽しみですね……」

 モモンガが時計を見ると、サービス終了の時刻まで五分を切っていた。何を言えば良いのか考えがまとまらない。助けを求めるように、モモンガは視線を隣へ向けた。

「もうあと五分か、って? 話をしてれば一時間だって一瞬さ。ならその逆も真なり。五分だって永遠さ。そう短くはない。そうだろう?」

「ですね。私もそう信じます」

 理屈としての納得ではなく、ただ受け入れた。

 その言葉はすっと、固まっていた心を解かすようで、モモンガはそこから取り留めのない話を始めることができた。

 時間なんて気にしない。二人は、あまりにも長い時間を話し込んで過ごした。

 五分以下という時間が本当に永遠のようで、さすがにおかしいな、と思ったモモンガがもう一度時計を見ると、時間はとっくに過ぎていた。

 

「は?」

 何度左から右に目を滑らせても表示は変わらず、

 

 0:21:45

 

 と明らかに終わりの時を過ぎ去った時間を示している。

 社会人ギルドのマスターであるモモンガはまず自分を疑い、勘違いして一日間違っていたんじゃないかと思い、隣で半開きになっている箱を見てそれはないことを確認する。

 その後で運営のミスを疑い、ひとまず他のプレイヤーのシャウトで確認しようと手を動かし――――

「……、」

 そして困った。

「GMコール、強制終了。その他ひと通り、どれも不能。はてさて」

 その言葉に、より困った。時間が伸びたことには問題はない。不手際に呆れはするものの、長引く分には不都合があるわけではない。

 しかし、シャウトやGMコールが使えない? モモンガは聞いたことがなかったが、仮にその辺りを別サーバーが担当していて、そちらは予定通りに終了しているとすればこういうこともあるかもしれない、と考えた。

 ここまでならば、強引ながら説明は付いたが、強制終了も、となれば話は変わる。モモンガは念のため確認してみたが、結果はやはり無駄に終わる。

 なぜ強制終了を別と考えるか? それはコンソールやGMコールなどの機能がソフト側に依存するのに対し、強制終了はハード側のものであるためだ。運営側がこの事態をユグドラシル2の目や会社存続を完全に捨てて意図的に引き起こそうとした場合でも、恐らくとはなるが不可能だろう。少なくとも、モモンガには実現の可能性が思い当たらなかった。

 思索の結果に途方に暮れかけたが、それは一人であればの話。モモンガは隣に立つ――たてない――人物――?――に視線を向けた。理解できない状況であったが、自分より困惑しているようであればギルドマスターとして、仲間としてどうにか――

 そんな想いで見た先では、同じ状況にあるはずの仲間が、

「モグモグ」

 とわざとらしい声を発して何かを食べている様子だった。

「味がある」

「……えっ?」

 驚きに声を上げたのは、DMMOの常識から。現実世界での生活に与える悪影響を鑑みて、五感のうち味覚と嗅覚は取り除かれているはずだからだ。

「どうもずいぶんと質の良いコロンの香りがするようだから試してみたんだが……どうやらビンゴ」

「コロン……香水ですか? ……確かに」

 モモンガには香水の良し悪しは分からなかったが、言われてみればそれらしい香りがある。

 上等なものであると聞いてそう意識してみると、電車の中やエレベーター内で喰らって眉を顰めるものとの違いくらいは理解できる。

 次いで、匂いの出所が気になり始め、辺りを見回すと――

「――、」

 すぐ隣に、頬を赤らめている女性がいた。

 

「シズ、胸を押し当ててくれ。うむ、グッド。今日の下着の色は?」

「白」

「パーフェクト。……やあやあマスター。どう思う?」

 

 答えは出なかった。

 

 

 

 続く長い静寂に、モモンガは平静を取り戻した。この状況で冷静になれる自分に疑問を抱きつつも、ひと通りの考えをまとめ終える。

「まさか、ユグドラシルの世界に……」

 そんなばかな、とそういった超常的な線しか考えられないのが拮抗する。答えは? 確認するしか無い。

 迷ったが、モモンガはその方法をとっさに一つ思い付いた。AIと、生き物の違いを見極める方法。

「アルベド。……お前は夢を見るか?」

「え? は、はい。見ます」

「では最近見た夢を聞かせてくれるか」

「……はい。……今朝見た夢なのですが、上層の通路で餡ころもっちもち様がモモンガ様を呼び止めまして、振り返りましたモモンガ様の肋骨の隙間からぶくぶく茶釜様が」

「――そこまででいい」

 

 頭を抱えたが、確信には至った。

「どうかなされたのでしょうか? モモンガ様」

「……ネコさん。内外の状況を確認したいと思います」

「同意。最優先と思われる。提案。調査中に会議」

「同意します。……セバス! メイドたちよ!」

『はっ!』

 全員の声が見事に重なり、すっと執事とメイド全員の頭が上がる。

「玉座の下まで」

『畏まりました』

 再び声が重なり、執事と五人のメイドが立ち上がり、乱れのない動きで玉座階段の下まで歩み寄り、再び片膝を突いて頭を下げた。

「――セバス」

 頭を上げるセバスの表情は真剣そのもの。そして、先の二人の受け答え。どう考えても生きているようにしか見えはしない。

 態度からは忠誠心が見受けられるが、それはどの程度のものなのか? 不安はあるものの、試すしか無い。

 どうにか支配者を取り繕い、モモンガは命を下す。

「大墳墓を出て、周辺の状況を調査せよ。知的生物が存在した場合、交渉によって友好的に墳墓前へ連れて来い。調査範囲は周囲一キロとする。戦闘行為は極力避けろ」

「了解いたしました、モモンガ様。直ちに行動を開始します」

 システム的に本拠地から出られないはずのNPCが、疑問も持たず、例のないであろう指示を請け負う。高い水準の忠誠と、システムからの脱却を示していた。

 実際に出られるかどうかはまた別の話ではあるが。

「プレアデスから一名連れて行け。お前が戦闘に入った場合、即座に撤退させ情報を持ち帰らせろ」

 

 次いでプレアデスをシズを含め警備に戻し、アルベドに全守護者を集める指示をし、一手目は良し。やや拙速と言えるが、巧遅よりは良し。

 守護者の集結は一時間後。モモンガは自分が魔法を使えるのかどうかも気になっており、それまでには六階層のアンフィテアトルムに向かいたい。予定の詰まった中、会議は始まる。

 

「お疲れ」

「いえどうも。……いつも通りですね、ネコさんは」

「いやいや。私にはいつもなんて無いにゃん。モモちゃんこそ」

「……それが。混乱しているはずなんですが、なぜか……」

「あー。それ、アンデッドだからじゃない?」

「…………ああ、精神作用無効、ですか。ネコさんは装備効果ですか? ずいぶん落ち着いてるようですが」

「いえ。はい。だってもしここがユグドラシルの世界だったらと思うと、この実家のような安心感!」

「ははは……」

 

 そう明るくはなれない。なぜなら、鈴木悟には帰るべき――、

 帰るべき――?

 ……いや。

 親もなく、子も無く、友も恋人も居はしない。ただ会社に行き、仕事をして、帰って寝る日々。

 寝る前の時間と休みの日、自由になる時間はそのほとんどをユグドラシルにつぎ込んでいた。そんな生活に、今更戻る意味が――?

 

「でも、ただ一つ気にかかることがあるんだ」

「やっぱり両親とかですか?」

「いや。私が向こうでは失踪ってことになったとするじゃない? すると、数年で法的には死亡と認められるよね?」

「ああ……七年くらいでしたっけ」

「たぶん。そうなると、弁護士が私の遺言を発表するわけなんだけど」

「雇ってるんですか」

「うん。まあ細工できないように遺言状は思いつく限り各所に用意してるんだけど、その内容が問題で」

「どんなです?」

「……あれが公開されたら……私の遺産が日本中の恵まれない子のために使われてしまうんだ!」

「自分で、それも全力で仕向けたんじゃないですか」

「まあね。そのほか、いつ何が起こっても良いように生きてきたから、やり残したこともないのさ。失踪じゃなくて脳死とかならドナーカードも完備」

「ああ、私も書いとけば良かったかもですね……」

 

 いつも通り。とは言っても久しぶりの再会だったが、モモンガには隣に置いてある仲間が、いつも以上の自然体と感じられた。むしろ、声はウキウキとこの状況を楽しんでいるような。

 それは異常と言えば異常だったが、かつての千五百人の大侵攻の際もこのように――

 

「まあ脱線させといてだけど、話を戻そう。時間もないし」

「そうですね。では、転移、と言っていいのか分かりませんが、この問題に関しては置くとしましょう。現状どうしようもないですし。では、ナザリック内部のことですが」

「気になることはいろいろありますが、マスターは何を気にしていますか?」

「……恥ずかしい話ですが、守護者たちのことです」

「ふむ」

「彼らはどの程度命令を聞いてくれるのか。……もし敵対した場合、分は悪いでしょう。今は見た限り問題ないように見えましたが、今後揺らぐことが無いとも……」

「なるほど。まあ気になるんなら……そうだ、私に考えがある。現状の忠誠心くらいは計ってみせよう」

「お願いします。でもどうするんですか?」

「それは後のお楽しみ。まあバカを使う手もあるし、大丈夫さ。さて、もう少し打ち合わせしたいことはあるけど、何かあるんだろう?」

「……こいつですよ」

 

 モモンガは側を浮遊している杖を掴み、示す。ケリュケイオンをモデルに作られた神聖さを感じさせるはずのそれは、明らかに邪悪な、赤黒いオーラが苦悶する人の顔を形作っては崩れて消えるというエフェクトを纏っている、どんな聖人君子が持ったとしてもラスボスの間にて待ち構える資格を得られる効果を持つアイテム、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ。

「おっ、スタゴウン」

「これと、魔法が使えるかどうかの確認をと」

「なるほど。では行きましょう」

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによる転移は問題なく作用し、第六層へ。

「ふう……アイテムは使えるようですね」

「ちなみに食べ物での能力上昇も効果ありですわ」

「ああ、食べてましたね」

「魔法はお任せします。ゲーム的な制御から離れた分、誇張や抑制が無くなり威力が変化するなどありそうです。お気をつけて」

「了解しました」

 

 モモンガは薄暗い通路を進む。道の先は格子戸が塞いでいたが、モモンガが近づくと勢い良く上がった。通路の先にはコロッセウム。ローマの円形闘技場を元に作られた施設だ。

 モモンガは闘技場の中央まで進むと、空を見上げる。

 月と星。広がる夜空の星々は概ね現実と同じペースで移り変わり、今は北斗七星が輝いている。それらを構成するアリオトとミザールに寄り添うように、あるミミックが追加したたまにしか見えない星、アルコルが強く輝いていた。

 この第六階層は夜空だけではなく、日中には太陽が輝く。ここまでの仕掛けを可能にするために割り振られたデータ量は少なくないが、課金パワーが全てを解決した。

 闘技場内は夜間の使用にも堪えるよう、至る所に<永続光/コンティニュアル・ライト>がかけられており視界に不便はない。

 モモンガは観客席を見回すが、ゴーレム以外の姿はない。ここにいるはずの守護者は……?

「とあ!」

 掛け声とともに貴賓席から飛び出してくる影。二十メートル以上のダイブに挑戦した影は空中で一回転し、軽やかに着地した。特に理にかなった受け身などもなく、身体能力のみで。軽く膝を曲げはしたが、それも必要あってのことではないだろう。

 派手に舞い降りてきた影は自慢げな表情を見せ、

「ぶぃ!」

 と両手でピースサインを作って見せた。

 

 その姿は十歳ほどの子供。月の下で太陽のような輝く笑顔を浮かべたこの子供こそ、アウラ・ベラ・フィオーラ。第六階層の守護者、二人のダークエルフ、その片割れである。

「アウラか」

 アウラは名前を呼ばれた犬のようにモモンガに駆け寄ってくる。時速にして、七十キロ以上か。衝突すればモモンガは跳ね飛ばされたかもしれないが、アウラは足を突っ張らせ上手くブレーキをかける。ザザザと土を削り、モモンガに土煙が届かないうちに停止した。

「ふぅ」

 かいてない汗を拭う動作。演出好きか。アウラはにひっと笑うと子供の高い声でモモンガに挨拶をする。

「いらっしゃいませ、モモンガ様。あたしの守護階層までそうこそ!」

 満面の笑みに、モモンガは力を抜く。<敵感知/センス・エネミー>にも反応はない。安全と見ていいだろう。

「少しばかり邪魔させてもらおう。マーレが居ないのは気になるが……先に彼を運んでくれるだろうか?」

 モモンガは肩越しに親指で今来た方向を示す。

「ああっ! あんな暗いところに、なぜお一人で!」

「……彼には足が無いからな」

「お付きが居ないんですね。いまお連れします!」

 通路に消えていったアウラを待つ間に魔法を試そう。モモンガは時間をかけず試せる適当な魔法を思い浮かべたが、やはり答えは一つだった。

 <伝言/メッセージ>

「成功だ……」

 安堵の息を漏らす。問題なく、自在に扱える。連絡先はまずGMだ。初めての感覚。糸のようなものが伸び、何かを探っているような。それがしばらく続くが、やがて効果時間が切れて感覚も消え失せる。

 覚悟はしていたが、失望はある。四十人、念のためもう一人。どれも無駄に終わる。確認が終わり、ミミックへ。

『……ん? ああ。やっ!』

「どうも。メッセージのテストですが、問題ないようですね」

『はいはい。もうすぐそちらに着きますよー。ではスタジオにお返しします! 現場の吉田でした!』

 声がかすかに二重に聴こえて振り返ると、アウラとミミックはもう少し先まで近づいていた。

 高い身体能力があろうと体格的に抱えるに無理があるのか、頭の上に持ち上げている。笑顔だ。

「とうちゃーく」

「とうちゃーく!」

 馴染んでいた。

「……まあ、仲がいいのはいい事か」

「今度一緒にお茶会するんだー。ねー」

「ねー」

 意気投合していた。

「あ、あの、モモンガ様……」

「……うん?」

 モモンガは声に振り返る。その先に立っていたのは少女――ではなく、少女の服を着こなした少年だ。

 マーレ・ベロ・フィオーレ。アウラと同じくダークエルフであるが、こちらにはアウラのような身体能力はない。レンジャーであるアウラに対し、こちらは主にスペルキャスター。少女の服が似合う弱々しい見た目の通り腕力は弱く、パンチングマシーンをやったところで一撃で木っ端微塵に破壊する程度の腕力しか持たない。

「マーレか」

「は、はい。遅れました。ごめんなさい」

「いや、構わない。集合にもまだ時間はあるからな」

「ほっ……。あれ、集合、ですか?」

「そうだ。詳しくは集まってから話すが、全階層守護者をここに集める」

「えっ! モ、モモンガ様! それってシャルティアもですか!?」

「全階層守護者だ。……いや、例外も居るが、シャルティアは来る」

「ううっ……」

「なんやぁ、アウラはシャルティアと仲悪いん?」

「どうにも気が合わなくて……」

 モモンガがかすかに思い出した設定では、それほど仲が良くないといった内容が書かれていたはずであるが、それがどう適用されているのか。

 設定が誇張されることもあるのかと、モモンガは警戒するべき点を一つ増やした。軽い気持ちで書いた一文が今この状況で爆弾になることもありうると。

 ぶくぶく茶釜が作り上げたアウラとマーレ。いくら設定を書き込もうとゲーム中では表情固定の棒立ちでしかなかったNPCたちが今はこうしてころころと表情を変えて動いている。おそらくはそれぞれの親が望んだ通りに。少なくとも設定に書いた通りに。

 それは喜ばしいことだったが、それが負の方向へ働いた場合を思えば、喜んでばかりもいられなかった。

「そりゃ良いことだ」

「えっ、仲が悪いのにですか?」

「そう。やっぱり仲間同士は……なんだっけ? まあいいや」

「あー、なんだか良いこと言いそうだったのに。なら私もまあいいですよ。……ところでモモンガ様、その杖、もしかして……?」

「ふふふ、気付いたか」

 

 アウラはモモンガが手に持つ杖に気がついた。前々から目には入っていたのであろうが、長らく頑なに使われないまましまわれていただけにまさかとの思いがあったのだろう。

「あ、あ、あの、そ、それがあの最高位武器、伝説の……!?」

 マーレの憧憬の眼差しと絶妙な反応に、モモンガは杖を見せびらかすかのように持ち上げる。いや実際に見せびらかす。

「その通りだ。この杖こそが我々全員で作り上げた、最高位のギルド武器。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ」

 おおっ! と言う表情で見つめるアウラとマーレに応えるように、声にはいっそう熱がこもる。

「スタッフの七匹の蛇が咥える宝石はそれぞれが神器級アーティファクト。シリーズアイテムであるために、すべてを揃えることによってより強大な力が引き出されている。~中略~そしてさらに、このスタッフ自体に込められた力も神器級を超越し、かのワールドアイテムに匹敵するレベルだ。特に凄いのは組み込まれた自動迎撃システ……ゴホン」

 素材を集めるために寄ってたかって同じボスを延々と狩り続けた日々。延々と延々と狩り続けた日々。音を上げそうになった。もう諦めようという声も何度も出た。それでも延々と延々と延々と狩り続けようやく作り上げたそれを壁の飾りとして、ギルド順位の肥やしとして腐らせてはや幾年。そこに来て"そ、それはもしや!"と振られればそれは何時間でも語れようというもの。

 だが、なんとかそれどころではないことに気がついて切り上げる。

 

「……まあ、語り尽くすには時間がない。この辺りに留めておこう」

 本題。

「この杖の実験を行いたい。その準備を任せたい」

「はい! かしこまりました。すぐに準備をします」

 

 

 

 ミミックはマーレの頭上へ移り、アウラが配下と共に手早く準備を終えた。

 闘技場の隅には藁人形が立てられており、そこから少し離れてドラゴン・キン。ドラゴンの血の入ったモンスターであり、筋骨隆々の巨体を持つ、闘技場のお片付け係だ。

 レベルは五十五と低いが、そこはドラゴン補正。同レベル帯のモンスターより突出した腕力とタフさを持つお片付け係である。

 マジックアイテムの発動はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで実証済み。メッセージも同じく。問題は攻撃魔法であるが、失敗してもスタッフを理由にして二人に相談もできる。

 十全だ。モモンガは憂いなく実験に臨む。使用するスペルは<黒曜石の剣/オブシダント・ソード>。杖の先に黒い剣が出現し、滞空する。

 手始めに弱いものをという考えから真っ先に思い浮かんだのは<火球/ファイヤーボール>だったが、今はフレンドリーファイアが起こりうる状況であり、モモンガはミミックの現在の耐性を知らない。そのために安全第一として、事故の起こりにくいであろうものを選んだ。

 ――射出。黒い剣が高速で飛び、藁人形に突き刺さる。突き刺さって終わりではない。黒い剣は藁人形など存在しないかのように自由に動き、大回転し藁を周囲に撒き散らした。

「ふふふふ……」

 思わず含み笑いを漏らす。射出速度、クールタイム。完璧に把握できた。射出後も思うがままに動き、自動操作に任せることも可能な手応え。

 魔法に関しての心配は消えた。まだ試すべきことはいくつもあるが、最も重大なものは解決した。行使に支障はなく、そればかりかむしろゲーム中以上に直感的に使いこなせるようだ。これならば最悪の場合でも逃げるくらいはできるだろう。

 剣が消え、アウラは気を利かせて次の藁人形を配置する。次の魔法は?

「サモン……いや、先に連絡をしておくか」

 

 再びメッセージ。相手はセバス。集合までに呼び戻すためでもあるが、守護者が集合する際、先に情報を仕入れておいた方が多少は対応もしやすくなろうというもの。モモンガはここまで警戒し、可能な限りの対策をしていた。一方ミミックはモモンガがセバスから話を聞いている間中モモンガの視界の隅でダークエルフ二人と和気あいあいと談笑していた。

 

「アウラは肉派でマーレは魚、スープ、ライス、パン、色々かあ。赤いものも食べたらどうだろう二人とも」

「ははっ、なんで色指定なんですかーもー」

「ふふ。トマトはよく食べます」

「内容はどうでもいい。赤いのを食べるんだ、二人とも。ところで私のワインセラーについて何か知ってるだろうか? 集めるだけ集めて放置して、ずいぶん見に行ってないから気になってきてもう」

「あー、噂にはなってますよ。ナザリック中の酒好きがその存在について夢想しているという……勝手に持ち出すわけにもいかないので、それだけですが」

「あの、お留守の間にモモンガ様が管理用の配下を創造していらっしゃいました」

「そりゃ良かった。あれは見つけても捨て置かれるような安ワインも根こそぎ回収したいっていうだけのものだからそんな重要でもないんだけど、折角集めたものが台無しになるのはさ。ああ、飲まれる分には無くなろうが気にしないから、飲みたいなら飲んでもいいぞ?」

 なお、ユグドラシルにおけるワインは、最低でも金貨五枚。一般的に百枚くらいまでは安ワインと一括りにされる。基本は換金アイテムであるが、特殊効果を持つもの、素材、クエストアイテムも存在する。

 ミミックはこれらをワインセラーにコレクションしており、なんの効果もないクエストアイテムも現実で売ってるワインを買うとコードがついてきて、なんてものも含め、一通りそこに集められている。

 フレーバーアイテムとしてそれなりに種類はあったが、知られているだけの全て。さすがに、ワールドアイテムは手に入らなかったが。

「ありがとうございます。でも、あれってどうやっても飲みきれないんじゃないですか?」

「んー、集めに集めたからなあ……」

 

 なんて温度差か。

 

「――ではそれまで出来る限り情報を収集せよ。……ふう」

 メッセージを解除する。

「ネコさん。どうやら外界も異なるようだ」

「んー? ……ってことは結構深刻だねー」

「ああ。付近に危険な生物は見当たらないようだが、それもひとまずだ。セバスが帰還した後は魔法による偵察を試そうと思う」

「ほう? ……ふむ。確かにそれしかないのだろうね」

 モモンガはアウラとマーレの手前威厳を演出して声をかけるが、唐突な振りにも心得たもので、普段とは違う口調に戸惑うこともなく、むしろ『よし来た!』と乗っかるように重々しく返す。

 即興の茶番劇にアウラとマーレは一筋の疑いも持たず、緊張した面持ちへと変わった。

「危険性が不明なこの現状では警戒するしかないな」

「これだけ情報がない状況では後手には回りたくないね。配下を使おうにも……セバス以外の適任が見当たらないな。バカでも使ってみるか?」

「今一番避けたいことは不測の事態だ。アセリックは……」

「そう、作った私が言うのもなんだが、あれは不測の塊だ。まあ上手くやるように設計してはいるが、君が警戒しているのは戦力のことだろう?」

「ああ。可能であれば早急に人間を見付けたいところだ」

「なるほど。実に良い目安になりそうだ」

 ここが人間が存在する世界であれば、それは人間が存在できる世界ということだ。

 この世界において100レベルスペルキャスターと100レベルミミックがどの程度に位置するのか。それは、この世界の人間を見れば分かるだろう、というのがモモンガの狙いである。

 人間が極端に強い群雄割拠の修羅の国ということさえなければ、こちらの戦力はそう低いものでは無いだろう。

 何より、対話による情報収集の可能性も出てくる。

「その後、穏便に、可能な限り目立たずに接触できれば、とは思うが……」

「開けてびっくり玉手箱。出会ってみればサイヤ人。まだどうなるかはわからないけど……」

 

 

「モモンガさん。僕はここが楽しい世界であることを願うよ」

「私もですよ。ネコムペテンテコさん」

 

 

 程なくして守護者が集まり、会議は始まりを迎えた。

 

 

原作との差異。

モモンガは仲間の捜索 アインズ・ウール・ゴウンの存続 自身の安全 この辺りを重視して行動していたが、既に仲間がおり、多数決で決めるギルドであるために現時点ではそこまで決めてはいない。

ギルドマスターとして、メンバーの安全を優先。

アウラの吐息テストと火エレメンタル戦のカット(時間切れ)。状態異常の耐性は調べる必要があるのでこれは後回しにしただけ。

 

 ②

 

 

「――さて、多少意味が不明瞭な点があるかもしれないが、心して聞いて欲しい。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明かつ不測の事態に巻き込まれていると思われる。原因は一切不明だが、この地、ナザリック地下大墳墓はかつてあった沼地から見知らぬ草原へと転移している。この異常事態について何か前兆など思い当たる点がある者はいるか?」

 アルベドが各階層守護者の顔を見据え、全員の顔に浮かんだ返事を受け取り口を開く。

「いえ、申し訳ありませんが私達に思い当たる点は何もございません」

「では次に各階層守護者に聞きたい。自らの階層で何か特別な異常事態が発生した者はいるか?」

 この場に不在であるガルガンチュアとヴィクティム以外の全員が問題なしと報告し、それらの階層についてはアルベドが調査を買って出る。続いてシャルティアが声を上げた。

「では地表部分はわたしが」

「いや、既に地表はセバスに捜索させている」

 あの場に居たアルベド以外の全員の顔に、動揺が浮かんだ。

 ナザリック地下大墳墓において、肉弾戦では最強レベルのNPCは四人いる。

 武器を持たせれば最高の攻撃能力を持つコキュートス。重装甲に身を包み、守護するという意味では他に比肩を許さないアルベド、純粋な格闘戦では最も優れ、竜人としての真の姿を見せればトータルとして先の二者を凌ぐだろうセバス。そして守護者最強と目されるシャルティア・ブラッドフォールン。

 セバスはシャルティアのように自分からそのような仕事を買って出ることは無いだろう。彼は常に何を置いても優先されるべき任務についている。自ら、ではない。それはつまり、この二人の支配者のこの件に対する警戒は、最強戦力の一角を偵察に出すほどのものであるということだ。

「やあやあ。もうセバスが来るころだけど、ミミックさんはみんなに補足したいと思うよ」

 ミミックがマーレの上で陽気に語りだす。

「モモンガさん。むーんうるふおねがいね」

「ええ、どうぞ」

 モモンガは疑問も挟まずスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを用い、光る狼を召喚する。

 闘技場内に現れたムーン・ウルフ。どうするつもりだろうか? と続きを待つ守護者の一人にミミックが命じる。

「アウラ。こいつに攻撃してみなさい。好きなように」

「は、はい。わかりました!」

 アウラは迅速にムーン・ウルフの前に飛び込み、蹴りを放った。ムーン・ウルフは悲鳴をあげる間も無く霧散し消えた。

「どう? モモンガちゃん」

「なるほど」

 納得するモモンガに守護者達は、帰還していたセバスも含め理解が及ばない様子。その疑問にミミックが応えた。

「この異変にはお前達には認識もできないようなところが多々ある。これは推測になるが、以前我々が居た世界を管理していた神は……いや、長くなるな。まあ、なんだかんだで我々はその神の手を離れたわけだ。その神による手助けの一つとして、仲間同士の攻撃は無効、というものがあったんだが、今はこの通り」

 念のため守護者の顔を確認したアルベドが代表して口を開く。

「やはり、私を含めそのような変化を認識出来た者はいないようです」

 彼らの顔に疑いは無い。全員が理解を超えた状況にあることを心から信じたのだ。

「なんちゃって! ……とか言うと困るよね。以上、なぜなにミミックさんでした。――それでなんだけど、蘇生が使えなくなってたらいざって時に困るじゃない? 試させてくれる子は手を挙げてくれるかなぁ」

 言い終わる前には既に全員が手を挙げている。どの顔にも負の感情は見られず、中には役に立つことを期待したような顔の者もいる。

「セバスが若干早かったかな」

 そうミミックがいいかげんな事を言うと、アウラ辺りはわかりやすく悔しそうな顔を見せた。

「んー、どうしようかなー」

 迷ったように蓋をゆっくり開閉させるミミックだが、数年の付き合いがあったモモンガはこの素振りが本気で言っていない時のものだとすぐに気が付いた。

 忠誠心を計る策。それは先ほどネコムペテンテコが言っていたことだ。

 これがそうなのだろう。しかし、実のところモモンガは守護者が勢揃いした時、既に彼らの確かな忠誠心を感じている。

 別の角度から確認する意義もあるが、無用な気を使わせてしまったようだ。モモンガは反省と感謝を込めて止めることにした。

「ネコさん」

「はいはい。まあ今のはからかいたかっただけだが、これからは死ぬほどこき使うことになる。各自工夫して休め。さてセバス、報告どうぞ。マーレ、疲れない? そろそろ下ろしていいよ」

「いえ! ネコムペテンテコ様に土を付けるなんてできません!」

「ははは、そうか。なんかアウラみたいになってるけど」

 待機していたセバスは「はっ」と返事を返すと歩み出て、ゆっくりと片膝をつく。

「モモンガ様、ネコムペテンテコ様。遅くなり誠に申し訳ありません」

「いや、構わない。それより周辺の状況を聞かせてくれないか?」

「……、了解いたしました」

 セバスは守護者の同席に一瞬ためらった様子を見せたが、説明を始めた。

 

「……そうか、ご苦労だったセバス」

 モモンガは心もとない情報量に暗澹たる気持ちになったが、だたちにという危険は無いことに対する安堵もあった。

 それにナザリックの外部に出ていたセバスと連絡が取れたということは魔法による偵察も可能だろう。であればそれはこの場のことを済ませた後で良い。

 手早く済ませよう。モモンガは警備レベルを上げ、侵入者がいた場合生かして捕らえるように指示を出し、運営についての確認と指示。ヴィクティムの階層の立入禁止。警備を省いていた階層への警備追加。入り口の隠蔽指示。

「やるねえ。じゃあ私も一つ指示を出しておこう。セバス」

「はっ」

「私の足に守護者を使い続けるわけにもいかない。プレアデスは常に一人時間を空けておくようにしてくれ」

「かしこまりました」

「以上」

 解散の指示の直前だっただけに、何か自分が気づいていなかったことを? と身構えていたモモンガは脱力する。このタイミングで自分のことを言い出せるマイペースさに。

 しかしまあ重要な事ではある。なにせミミックには足が無いのだから、転移だけではまかなえない柔軟な移動をするには手助けが必要となる。

 効率を考えれば今言うこともけして間違っているわけではない。気を取り直し。

 

「さて、今日はこれで解散だ。各員休息に入り、それから行動を開始せよ。どの程度で一段落つくか不明である以上、決して無理をするな」

 守護者達が一斉に頭を下げ、了解の意を示す。ミミックの台座であるマーレは立ったまま頭だけを下げる。

「これより私達は円卓にて会議を行う。結果次第ではまだお前達に任せる仕事が増えることもあるだろう。それに備え、対応できるよう仕事を分担するなどして各自準備を整えよ」

「おお、早速追加の仕事を思いついたが、……会議の後の方がいいか。ハハハ、お前達、覚悟しておけ」

 再び大きく頭を下げ、拝謁の姿勢を取った守護者達の前から二人は転移した。

 瞬時に二人の視界は闘技場から黒曜石で作られた巨大な円卓のある部屋へと移り変わる。

 

「疲れた……」

 豪華な椅子に腰掛け、円卓へ突っ伏したモモンガを労って、椅子の中に一つだけ混ざった台座の上からミミックが声をかける。

「お疲れ様。何か飲む? ごめん飲めないんだっけ」

「いえいえ。それより、ありがとうございました。お陰で彼らの忠誠を確認することができました」

「こちらこそ、フォローありがとう。私も一目見てこの上計るのは余計かな、って思ったんだけど普段から有言実行を心がけてる私は言った手前ひっこみがつかなくて。止めてくれなかったら同じように有言実行してたかも」

「はは。やりかねないと思ったっていうのも止めた理由に入りますよ。以前、冗談だと思って聞き流した言葉通り、敵拠点からギルド武器を盗み出して来た時はこれからはネコさんの言葉は一字一句聞き漏らさないと心に誓ったものです」

 モモンガは脳裏に当時の状況を思い浮かべる。敵対するギルドのうちの一つが嫌がらせを加えてきてしばらくして、この円卓に当時のメンバーが集まり会議が始まった時のことを。

 当然と言うべきか出てくる対処法は血の気の多いものとなる。社会人ギルドのメンバー達は経験上、悪意を持って攻撃してきた者に対話が通じるとは思っていなかった。また、そうする理由も利も見えなかった。

 では、どう襲撃するか。狩り中を狙うか? それとも本拠地か? そこまで話が決まってきた時、ミミックがこう言った。

「私が潜入して荒らしてくるってのはどう?」

 誰も本気には取らなかった。

「じゃあネコさんは潜入として、私達はまず情報収集にしませんか? たぶんと言うか確実に、彼らはこの襲撃を仕向けて嫌がらせをしているんでしょうし、罠が心配です」

 そうして流した数日後、この円卓の上にはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンとは別のギルド武器が転がっていた。

「あの時は……ワールドアイテムと引き換えの返却。長いこと交渉ありがとう」

「交渉も実際の交換も、映画の人質交換さながらでしたね」

 戦いの中であればギルド武器の破壊は可能な状況では第一目標ともなるが、奪った以上壊す以外の選択肢ができてしまう。

 奪ったとはいえ、ギルド武器というものは基本的にそのギルドのマスターしか使用できない。つまり、応用的には可能である。例えば、ギルド武器を破壊することによって就けるクラスの能力など。

 工夫して活用できないこともなかったが、相談の末交換ということになり、長い交渉の後それは成された。

 手に入ったワールドアイテムはミミックの個人戦による戦果であるためミミックの個人所有となった。そのアイテムがギルドにとって有用であれば話は違ったかもしれないが、果たして手に入ったものは開かない箱だった。

「箱。終ぞ開くことはなく、役に立たないまま終わったか、と思っていたら。なんだろうねこれ、アディショナルタイムかな?」

「楽しんでますね、ネコさん」

「ふふ、アウラとマーレとお喋りできちゃった」

 その声音に含まれた幸福そうな響きに、モモンガは昔のことを思い出す。

「前から話しかけてましたからね」

 モモンガは今のように返事が帰ってくるようになる以前から、ミミックが時折NPCに話しかけていたことを知っていた。

 恥ずかしがるでもなく目の前で話しかけるのだから、知らないはずもなかった。耳に入った話の内容が仕事のことだと気付いた時は、ロールプレイと現実の話をよく同時にできるものだな、と感心したものだ。

「うん。そんなわけで私はこの現状に不満など無いのだ。モモちゃんは?」

「私もですよ」

「それでこそ!」

 

 しばしの談笑。そして。

 

「さて、どこから手を付けましょうか?」

「提案、内外の調査」

「採用です。外はもちろん、内部も重要ですからね」

 意気高く会議が始まった。

 

 

 

「マ、マーレ、大丈夫?」

「う、動けない……」

 ミミックが消えた後もマーレがオラに元気を分けてくれ! ポーズで硬直していることに気が付いたアウラが駆け寄った。

「無理モナイ。ヨク立ッテイタモノダ」

「君を尊敬するよ、マーレ」

 面々が労う中、アルベドが静かに駆け寄り硬直した身体を抱きかかえる。

「よく頑張りましたね、マーレ」

「ア、アルベドさん……少し、休んでも……」

「ええ。あなたの仕事の準備は協力して済ませておきましょう。今はお休みなさい」

 安心したように気を失ったマーレを情けなく思う者はいない。マーレを押し潰した重圧は守護者全員が感じていたものだからだ。

 絶望のオーラ。

 恐怖効果と共にデバフを与えるアビリティ。本来、同格の100レベルである面々には通用しないはずのものだが、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンによる強力化された結果である。

 頭を大地に押し付けんとして押し寄せてくる重圧の中、その主であるモモンガの隣でネコムペテンテコを掲げて立ち続けたマーレ。その奮戦は間違いなく偉業と言えた。

「あれが支配者としての器をお見せになられたモモンガ様なのね」

「そしてそのお隣で平然としておられたネコムペテンテコ様。……やはり当然というべきなのでしょうが」

「モモンガ様ハ当初、オチカラヲオ抑エニナッテオラレタ。シカシ、我々ガ守護者トシテ名乗リヲ挙ゲタ瞬間、ソノ力ノ一端ヲ開放サレタ……」

「我々の忠義に答えてくださった。そういうことで間違いないだろうね」

「あたしとマーレだけの時は全然オーラを発してなかったしね。魔法とスタッフの力を試すことに集中していらっしゃったから。その間私達はネコムペテンテコ様とお話してたんだけど……」

 アウラの言葉に各守護者からピリピリした気配が立ち込める。嫉妬だ。びくりと肩を震わせたマーレが若干大きめに声を発する。

「ほ、ほら、例のワインセラーのこと!」

「……!」

 剣呑な空気が霧散する。

 全ての酒が存在するという伝説のワインセラー。

 無論この場に主の物を欲しがる配下など居るはずもないが、ただ二人だけ残った支配者の片割れ、ネコムペテンテコの伝説の一つ。その話題が出たというなら、その内容は気になって然るもの。アウラは感じた手応えに、このまま話をすり替えるべく早口で語る。

「捨て置かれるような安ワインも全て回収するために作った。飲まれて無くなるぶんには気にしないから、飲みたいなら飲んでもいい、だって。あと重要視してはいない、とも仰ってた。私の印象としてもそんな感じ。管理が足りずビネガーにさえならなければどうでもいいような」

「……フフ、まさか数々の伝説の酒の方がついでだったとは」

「さすが、ということでありんしょうか。至高の御方のしんすことはわたしたちでは測りようもありんせん」

 空気は緩んだ。

「では私は円卓の前に控えております。御二方は転移で移動するはずですが、お傍に仕える者を絶やすわけにはまいりません」

「分かりました、セバス。こちらで転移を確認した場合は連絡しましょう」

「よろしくお願いします。アルベド、その間の玉座の間の守りは任せました」

 セバスは別れの挨拶をすると、小走りで走りだした。

「さて。ではこれからの計画を立案します。まず――」

 

 

 

 

 

 ネコムペテンテコの自室の寝室にはベッドがある。無いと寝る時困るからだ。

 ネコムペテンテコの自室には大理石製の台がある。無いと寝る時困るからだ。

 ネコムペテンテコの自室には隣接したドレスルームがある。その内容は仲間にも内緒。

 ヴェネツィア風の豪奢な姿見がある他は、"開けるな"と殴り書かれたクローゼットしかない部屋、その中央にミミックは居る。

「ではルプレスギナ。しばらく外に出ていなさい」

「はい」

 ミミックは一人になり、自分の力を確認した。

 

 

 

 廊下を歩くモモンガの後ろを十名ほどのメイドがぞろぞろとついて行く。

 当初は鬱陶しがっていたモモンガだったが、ある日見たネコムペテンテコが何も気にせず引き連れている姿に、それほどは気にならないようになった。

「どうだ、良いアクセサリーだろう? ……って、当然だが君もか」

 引き連れた者を、飾り扱い。あまりの自然体ぶりに、モモンガも力を抜いた。

 

 今日もその時と同じような大勢の足音が近づいて来て、考え事から下げていた顔を上げた。

「――なッ……!?」

 モモンガの驚きは、先頭を歩く者の姿からだった。顔を上げるまでに想像していた箱を持つメイドの姿はそこに無く、

「おはようございます」

 見覚えのある女の姿があった。

 

 

 

 

 

「――守護者統括、アルベド。御身の前に。第四階層守護者ガルガンチュア及び第九階層守護者ヴィクティムを除き、一同揃いましてございます」

 

 臣下の礼を取る一同の頭の先にモモンガは居た。玉座へ腰を下ろし、光る眼孔で配下を見下ろしている。

 自身に向かって垂れられた頭に向かって、モモンガは重厚な声で言葉を投げかけた。

「面を上げよ」

 守護者たちが訓練したかのような揃った動きで顔を上げると、そこには普段とは違う姿のモモンガが居た。

 と言っても奇抜な姿ではない。むしろ場に合った物で、華美すぎず、それでいて黯黒(あんこく)なムードが良く出た服装をしている。

 そこに疑問を持つ者は居なかったが、間違っても鈴木悟が持ち合わせているファッションセンスではない。

「ふむ……」

 モモンガは下顎骨に手を当て、考えこむ仕草を見せる。もともとそんな癖は無かったが、配下へのサービスだ。それらしく振る舞えるよう練習している。

 そうして考えることと言えば、彼らの認識だ。どうなるのか?

「……楽にしてくれていい。諸君――お前達に私と盟友たるネコムペテンテコが与えた指令は数多く、また多岐に渡る。忙しい中、良く集まってくれたこと、そしてお前達の働きに私は感謝している」

「いいえ、モモンガ様。私達は偉大なる御方にお仕えし、尽くすために生まれ、今存在し、それを喜びとしております。私どもに感謝など」

「わかった、わかった。そこまでで良い。だが、私がお前達の働きを高く評価していることは理解して欲しい」

 早いところ褒美としてリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを渡しておきたかったモモンガだったが、それは言い出す前に断られる形となった。

 あまり待たせたくもなく、本題に入ることにする。

「さあ、どうぞ。ネコムペテンテコさん」

「やあ、モモンガちゃん」

 玉座脇にあるオブジェの陰からシズに抱えられやって来たミミックは『口調それでいいのん?』と目の無い視線でモモンガに伝えているようなそうでもないような。そんな気がしたモモンガは『良いですもう』と伝えようとしたが同じく目が無いので伝わったかどうかはわからなかった。

 シズに続いて現れたユリは玉座の隣に白い柱のような台を設置し、ナーベラルがその上にミミックを置き、二人は下がる。

「ご苦労。さて、諸君。私も忠誠を労いたいところであるが、あまり恐縮させるのも……私は好きだが、今は気分じゃないんだ。メロンパンが食べたい。今はそんな気分なんだ」

「ご用意致しましょうか?」

「いや、言ってみただけだ。さっき食べたし。……あれはアップルパイだったかな?」

 アルベドはシステム上料理はできないが、レシピは知っている。料理スキルを持った者に指示をと気を巡らせたが、無駄だった。

「ネコムペテンテコ様。先ほどお食べになられたのはフルーツの盛り合わせです」

「ユリちゃんったら。僕がそんなもの食べてるって知られたら僕が可愛いことがバレちゃうじゃないかっ!」

「クリーム、たっぷり」

「シズちゃーん! ま、茶番はこのくらいにして、今回お前らを呼び出したのはなんだっけ。ああそうだ、呼び出したのは私だ。そうだ、なんだっけ。そうそう、お前達に見せたいものがあったんだ。さあ、モモンガさん」

「ええ。――上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)」

 魔法をかけられたアイテムを破壊する魔法により、わざわざこのために魔法をかけられた白い柱は瞬時にひびに覆われ、砕け散り消える。

 当然、その上に鎮座していたミミックは重力に引かれ、地面へと――――

 落ちる、その時。既にそこにミミックは居なかった。

 

 別の映像を編集でつなげたかのように、次のフレームは別の姿があった。

「変っ身!」

 変身後に言うセリフではなかったが、この場にモモンガ以外にそれを知る者はいない。

 守護者たちの多くが呆気にとられたような顔で見つめる先には女が立っていた。宝箱の姿は影形無く、氷を思わせる薄青の髪を腰まで伸ばし、銀色の瞳を持つ、水と銀の色を持つ軽鎧を纏った少女がそこに居た。

「パエリア・エリア様……!」

 守護者たちは全員ミミックを受け止めようとし、先んじて動いたユリ・アルファが間に合うと見て動きを止めた妙な姿勢のまま少女をそう呼んだ。

 

 

 

 かつてDMMOユグドラシルにはセカンドキャラを作る方法があった。単純に二つ目のアカウントを用意しても、どれだけ金をつぎ込んでも不可能であったが唯一、ワールドアイテムという手段が――恐らく可能、というだけだが――あった。

 それを唯二としたのがネコムペテンテコである。

 

 GMコマンド、デバッグメニュー。オンラインゲームの運営は運営するにあたってそういったものを使う。作品にもよるが"call モモンガ(或いはID)"のような形でプレイヤーを呼び出したり、殺したり、生き返らせたり、どこかへワープさせたり、レベルやステータスを上下させたり、透明になったりモンスターを出現させたり殺したりアイテムを作ったり消したり、イベントを開始させたり終了させたり。地位などによって調整は入るが、GMはひと通りのことができる権限が与えられる。トラブルに柔軟に対応するために。

 なんでもできるかのようであるが、本当になんでもできるようにしてしまうと詰め込みすぎて不便なことになる。

 それを回避するために例えば、あまり使わないイベントのスイッチをNPCに埋め込むことがある。すなわち、デバッグメニューの一種を組み込むわけだ。

 当然、GM以外がNPCと会話しても普通の会話が実行されるだけなのだから、問題があろうはずもない。

 

 バグが無ければ。

 

 プレイヤー・ネコムペテンテコはそれを見つけ、操作せずに運営に報告した。危ないことをする理由もないし、これほどのものを見つけたとなればそれなりに報酬もありうる。

 そして運営はミミックに報酬を与えた。BAN(アカウント凍結)というそれなり以上のものだった。その後の調査によると、どうやら誰かが同じものを発見し浅はかにも操作し、イベント用の大安売りNPCを出現させてしまったらしい。そのNPCからアイテムを購入した者とバグ利用者のアカウントを凍結したと運営は発表した。購入は一時凍結。バグ利用は永久凍結。

 ミミックの中の人は完全に事態を飲み込み、ニヤリと笑った。そう、運営は誤爆BANをやらかしたのだ。

 

 お粗末にやらかしたのは事実だったが、ユグドラシルの運営はそれほど糞運営というものでもなく、誤解ですよとサポートに連絡を取ればそう時間もかからずBANは解除され、謝罪と共にお詫びの品も得られたことだろう。

 しかしミミッの中の人の目にそれは魅力的に映らなかった。それよりもっとずっと魅力的なモノが見えていたのだから。

 

 前世紀であればいざ知らず、二十二世紀の今、ゲーム内の財産は多少なりとも法律によって保証されている。それは主に詐欺を取り締まるためのものであったが、ミミの中の人がアクセルを踏み込むには十分だった。

 ミミ中の人は法律について詳しいわけではない。法的な面での勝算がどれほどあるかはわからなかったが、何時の世も被害者という立場は強い。善意により報告した結果、というのも良かった。賭ける価値はあると判断したミミ中人はそこにマックスベット。交渉役に高い弁護士を雇ったり、掲示板などで世論を煽ったり、仲間の力を借り、脅しつけた。

 脅し文句はお決まりの"金返せー"や、詫びの内容次第ではアインズ・ウール・ゴウンが所有するワールドアイテムを全て破棄するぞ、など。ユグドラシルは"ワールド"という言葉を重視している。それがトラブルによって破棄されるというのはゲーム自体の価値を下げかねず、脅しになるだろうとメンバーの一人が提案し、条件付きで可決された。現在のメンバーで判断するには、という物を除いての破棄に当時の全員が同意した。個人的で意義のない戦いだったが、ミミックの仲間たちはそれでも掛け金を上乗せしてくれたのだ。

 

 まだ奥の手はあったがゲーム自体の寿命を縮めかねない。脅し文句の一つとして匂わせるに留め、ミ中人は無意味に長期戦を望み様子を伺うつもりだったが、その前に弁護士はミ人が要求した和解案の一番上にあった"セカンドキャラ"を実現させた。

 さすが口からC言語を吐き出す職業と、要望を出したミ自身ですら不思議なくらいな戦果だったが実のところ聞いてみればなんのことはない。提案があっさり通っただけのことだった。

 

 その要因はいくつかあったが、弁護士の話しによれば決定打となったのは例えるなら、鈴木悟であればこううまくはいかなかった、というそういう類のものだった。

 一番の要求が通る形となったであったが、の目的は騒ぐこと自体にこそあった。単純に、退屈していたのだ。それによって得られるものに興味は無かったが、それでは不自然なので設定した目標。

 勝つことを考えない敵は厄介なものだが、奇しくも運営はその厄介な自体を回避した。

 

 そんなゴネ得の結果がパエリア・エリアである。

 

「アインズ・ウール・ゴウン四十二人番外、パエリア・エリア。しかしてその実体は! ネコムペテンテコの旗の裏に私の紋章があるのを見ればわかる通りです」

 セカンドキャラが追加されたからと言って、本来こうもパッと切り替えられるものでは無かったが、これに関しては仕様変更が有利に働いた。

「やはり、パエリア・エリア様。ようこそ、お戻り下さいました」

「ええ。アルベド、あなたは赤い血と爪痕、どちらが好き?」

「はい。爪痕です」

「そう、積極的なのね」

 謎の質問にアルベドが淀みなく答えている間に守護者たちは体勢を立て直し、階段の下に下がる。

 マーレなどが明らかな疑問を表情に浮かべているように、モモンガにも何の話かはわからなかった。しかし、慣れていたので気にはならなかった。それ以上にミミックを受け止めようとしたユリの手がパエリアの臀部に当たっていることが気になっていたというのもある。ユリはピクリとも動かない。動けない。

「デミウルゴス」

「はっ」

「ガヴァドンは宇宙線を浴び、実体化。三角のはんぺんみたいな姿よ。そのままだと可愛いだけだからかっこよく、強そうにしてみても、結局はぐーぐー寝てるだけの無害な存在なの」

「は、……はっ。パエリア様、以前頂戴しました問題について、考え続けておりました。どうか、その答えをお聞きください」

「聞きましょう」

「九つの袋があり、その中にはそれぞれ百枚の八グラム金貨が詰まっている。うち一つの袋は偽金貨の袋であり、偽金貨は本物の金貨より一グラムだけ軽い。元素記号でPはなにか? 答えは、回答に必要とする情報が足りなければ答えは出せない。慎重さを説いた問題と考えました」

「忘れたわ。シャルティア」

「はっ」

 デミウルゴスも固まった。モモンガは"偽金貨が入っている袋を知るにははかりを何度使えばいいか?"という問題ならと考えていた。ええと、まず袋を三つに分けて。……いや違うな。ランダム性ができる答えじゃないはずだ。

 ちなみにデミウルゴスはこちらの答えには一秒もかからなかった。ユグドラシルのアイテムには天秤はあってもはかりは無かったが、グラムという単位の存在から計測器具の存在と機能を仮定し、答えを出した。それを伏線と捉えて出した答えが今言ったものだったのだが。

「いずれ私はこの世界をコーヒーチェーン店で満たす。大豆コーヒー、たんぽぽコーヒー、豆乳麦芽コーヒー各種取り揃えるわ。それは確定としても、問題はカップのサイズよ。トールとかじゃわからないもの。一番小さいのは……AA?」

 その視線の先は。

「Aで、ありんす。パエリア様……」

「そう」

 シャルティア、大破。

 一人ずつ沈めていく趣向なのかな? モモンガはそんな思いで暇そうに眺めていた。暇だなあ。膝の上に猫でもいれば撫でて暇を潰せるんだけど。近くの村には人が居たし、猫も探せばいるかも……。

 モモンガがミラー・オブ・リモート・ビューイングで付近を調査したところによると、近くの村――カルネ村――の住民の筋力や体力は現実の人間のそれとそう変わらないことがわかり、モモンガを安堵させた。運ぶ荷物の量。農具を振るえる時間。子供が走り回る速度も大したものではない。残念ながら魔法は見つからなかった。他のコミュニティを調査する必要があったが、残念ながらこの鏡で街を探すことまではできなかった。ゲーム時代より便利になったとはいえ、周辺を見るか、既知の街を見るか。その程度のアイテムなのは変わらない。

 

「ヴィクティム」

「ああ、パエリアさん。まだ安全の確認が済んでいないので、あの階層は封印しているんです」

「そうですか。モモンガさん、私はヴィクティムに会いたいです。急かすつもりはありませんが、解決した際は教えてください。……コキュートス」

「ハッ!」

「最近どう?」

「ハッ。ネコムペテンテコ様トノ手合ワセニヨリ、技量ノ飛躍的向上ヲ実感シテオリマス」

「そういうの一旦上げると下げにくいから、ほどほどにね」

 手合わせってどういうことだムードが漂うが、問いただす時間もない。

「バルバトス。いえ、そんな名のやつは居なかったわね」

「イエ、私ノ階層ニオリマス」

「宇宙戦士銀河と改名させなさい。セバス」

「はっ」

「ヒゲ。マーレ」

「は、はっ!」

「部屋におやつを隠しているなら、もらってあげてもいいわ」

「ごめんなさい。何も隠していません」

「パフェがいいわ。いいえ、サンデーね。ストロベリーサンデー。もしくは……アウラ」

「はっ!」

「非常に眠いわ。部屋までの付き添いを許します」

「ありがたく、拝命します!」

「うなぎパイがいい」

 

 そして二人は扉の向こうへ消えて行った。

「……各自、担当の階層に彼女の存在を周知しておくように」

「畏まりました」

 

 

 

入れられなかった細かい描写。パエリアの装備は露出が多く、当世具足で言う佩楯のような装甲が大腿部の左右を守っている感じ。下はレオタードのような。角も無く羽もなく、色が白い他はだいたい人間そのもの。ただ瞳孔はひらいてる。

 

 

 ③

 

 

 当時すでに数名を残すのみとなっていたアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの中には、とりあえず同時にログインすることはないし、たぶん同一人物なんだろう。というくらいの変わり様を見せるネコムペテンテコに驚きを見せる者もいれば、そうでもない者もいた。女性メンバーだ。正確に言えば、現実で面識があったメンバーである。

 会えばあれを疑問に思わない人物。気にはなっても、本人が言わないのであれば詮索しないのが社会人ギルド。鈴木悟もそうしていたし、正体を考えないようにもしていた。

 だが、それは薄々理解していたからに他ならない。考えれば、分かるのだということを。

 

 そう、声優であるぶくぶく茶釜と仕事の話をしているところを目撃した辺りで芸能関係なんだろうなと。

 

 

 第六層。テーマはジャングルであり、この階層にもいろいろとあるが、訪れる者の用があるのはたいていアンフィテアトルム、闘技場だ。

 円形闘技場の中には守護者を含め、多くのしもべたちが集まっていた。

 

「アァーオコーナー! 第六階層守護者、アウラエーン、ミャアーレェエエエ!!」

 通路から現れるダークエルフの双子に客席から歓声が飛ぶ。

「……うるさい進行役だなあ」

 痛む耳も無いが、生前(?)の癖か煩わしく感じ、モモンガは呟いた。……幸い、誰にも聴かれることはなかった。

 アンコウのような名も知らないモンスターがマイクもなしに闘技場全体に声を轟かせている。近くには実況役どころか観客もあまりいない。耳が痛いからだ。

「アァーカコォーナー!! プッライマァール! ファイッヤー、エレメーンタァールッ!」

「おっと」

 段取り通り召喚すると、先ほど以上の熱狂が会場を包む。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力の一端を目の当たりとしたためだ。

 ネコムペテンテコの趣味で場を整えられはしたが、モモンガの目的も尊重されている。速やかに試合は開始された。

「ファイッ!」

 モモンガが下した攻撃指示に従い、プライマル・ファイヤー・エレメンタルは双子へ向けて炎を吐き出した。長い鞭を持ってかけ出したアウラはそれを飛び越えて避けると鞭を振るった。

 鋭い鞭がエレメンタルの肩口を切り裂くが、肉体を持たないモンスターの傷はすぐに塞がる。ダメージ自体は残るが部位破壊は望めない。

 怯みもせず再び吐き出した炎がアウラに殺到し――緑色の膜に遮られた。攻撃後の隙を狙い、アウラは再び鞭を振るう。

 

「アウラはやや突っ込みすぎだけどマーレが上手く補佐してる。MP管理もできてるし危なげはないな。スタッフにも問題はなし」

 召喚自体は既に何度か試していたが、この杖を作ったのはずいぶん以前のことなのでちょっぴり不安が残っている。そう、ひょっとしたら気付かないうちに絶望のオーラが強化されたりとかいうこともあるかもしれないのだから。

 程なくプライマル・ファイヤー・エレメンタルは派手に散った。マーレの的確な働きによって。

「NPCの戦闘技術はそれなり、ってことで良いのかな。マーレは性格と噛み合ったぶん上手く見えるってことで。……パエリアさん?」

 姿はない。

「……もう」

「つーづいてぇー! アァーカコォーナー!! 第五階層守護者、コキューウトース!!」

 コキュートスは観客席から飛び降りて着地すると、多少はサービス精神があるのか軽く武器を構えてみせた。

「対するはー! 至高の御方、番外たる! パエーリアー! エリア様ァー!!」

 進行役が叫ぶが、パエリアはなかなか現れない。三十秒、疑問から歓声が止み始め、一分。客席は鎮まり――

 パエリア・エリアが上空から降って来た。

 砂埃を撒き散らし現れたパエリアに客席は再び熱狂する。パエリアは着地の低い姿勢、片手を地面に付け、片腕をかっこよく横に伸ばしたまま微動だにしないが、今度の歓声は止むこと無く続く。

「痛かったのかな……?」

 違います。

 動かないまま歓声を浴び続けたパエリアは五分経ってようやく身を起こし、アイテムボックスから刀を取り出すとそれを掲げてみせた。熱狂再び。

「暇だなあ。……自分用の椅子はあるし、座ってみようかな?」

 動かないでください。オーラ垂れ流しで近付くだけで即死する配下もいます。

 そんな殺戮劇が開幕する直前、パエリアが刀の鞘を進行役に向ける。

「それではーァ! いよいよ試合開始です! ファイッ!」

 

 試合開始の合図の直後、パエリアは刀を腰元へ置く。紐も何もないが、手を離しても落ちることはない。手を空かせるとコキュートスへ向かいかけ出した。

 コキュートスは大太刀、短槍、長剣、戦斧を構え待ち受ける。得物を構えていない相手の動きは読みにくく、こちらから打って出るには難しい。

 パエリアは予備動作もなく高く跳び上がるとどこに持っていたのか三つの苦無を投げ付けた。

 守護者はそれなりに飛び道具への耐性を持っているが、当然貫通するだろう。コキュートスは斧で払い――苦無が跳ね、そのうち一つが肩に軽く当たり浅い傷を付けた。

「あれは、"ままならぬ螺旋(ストレンジ・スピン)"!」

 それぞれに別の回転をかけ、必要なら無回転も混ぜられるという技。

 防いでもばらばらに飛ぶ苦無に初見では怯み隙を作る、かつてPVPで猛威を――勝率はともあれ――振るった技である。何より恐れられたのはこれがスキルを用いない純然たる技術によって成されているということである。何者だ。

 モモンガがそちらに注目しているうちにパエリアはコキュートスの直上へ移動していた。まだ距離はあったはずなのに。

 同じくその一瞬の間に取り出したのかパエリアの両手にはリボルバーが握られていた。パエリアは逆さになり、回転しながら銃の乱射を開始した。

 暴力の雨がコキュートスに降り注ぐ。どうしてマシンガンと呼ばないのかが不思議になるくらいの間隔で銃弾は吐き出される。リロードという言葉をどこかに置き忘れたのか、一切止まることは無い。

 コキュートスは四本の腕を高速で振るい、払い、打ち、切り、突く。懸命に対処するが真上からの攻撃には対応しきれず、致命的でない銃弾を身体の端に受けることになる。

 猛烈な銃の反動からかパエリアはゆるやかに降下してくる。牽制によりコキュートスはその場に釘付けにされたまま銃弾を浴び続けた。

 致命傷を負わないまま粘り切り、パエリアはコキュートスの間合いへ落ちてくる。コキュートスが四腕の武器を振るう前に、パエリアは銃を手放し、ようやく腰の刀を抜いた。

「――降龍閃」

 なんの変哲もない斬撃だ。

「――登雷斧(トライブ)」

 荒々しく振るわれた斧は空気を砕き、轟雷のような音を立て、刀をあっさり砕いた。

「軽イ――!」

 刀ごと斬られることはなく、パエリアはどういうことか横に吹っ飛んで行く。数メートル先でふわりと着地した様子は先程の登場シーンとはまるで違い、羽が落ちるよう。

「追撃の槍、見事です」

「パエリア様コソ、流石デス。攻防一体ノ身体ヲシナラセタ蹴リ、感服致シマシタ」

 コキュートスの胸には突き刺さったつま先の痕が。パエリアの胸鎧には同じく槍の痕が刻まれている。

 あの一瞬で行われた攻撃と回避を兼ねた蹴りと逃げるパエリアを追って放たれた短槍の応酬をモモンガは認識することすらできなかった。

 速度も問題ではあったが、砕かれた刀に意識が向いたためだ。奇策を好むスタイルは知っていたが、それなりにPVPを嗜むモモンガにしても初見の手だった。なにしろこの技は一度使えば情報が出まわり警戒され使えなくなる。意外性の女、初見殺し。そう謳われるほどの人物であるがために、結局死蔵する形になった技の一つだろうか。

 パエリアは柄を投げ捨てると拳を握り、シャドーを数発。そして指先でくいくいとコキュートスを誘った。

 隠し球はあるだろうが格好としては素手対武器。実戦であれば違う答えもあったが、誘いに乗り、攻守が替わる。

 巨体が弾丸のように跳び、巨体が俊敏に駆け、コキュートスはパエリアに迫る。

 勢いのまま繰り出された振り払うような斧の一撃は異様な早さのバックステップで避けられる。だが切り返しで放たれた二撃目の早さも驚異的なものだ。パエリアは明らかにおかしい動きで下がり、間合いを読んだ故のパフォーマンスか紙一重で避ける。連携で放たれた槍の刺突をエビ反りで避け、次いで放たれた剣と大太刀による挟み込みは地面に手を突き、両足の蹴りを合わせ、勢いを利用して下がった。

「あそこまで動けるのになぜファーストキャラをミミックに……」

 どちらも異形種という遊びのあるビルドであるが故にかつてのユグドラシルで繰り広げられていたPVP上位陣の試合ほど出力のある戦いでは無かったが、仮に鈴木悟が完全近接戦ビルドで挑んたとしてもあのレベルの戦闘に対応できる気はまるでしなかった。四本の長物を持った八尺のモンスターに素手で挑む度胸を、ユグドラシルであればまだしもこの命の危険がある世界で持つことも。

「今更言うまでもないですが、あなたでは私には勝てませんよ。なぜなら、あなたは皇潤を飲んでいないから」

 闘技場は広かったが、下がって避け続けたからには当然壁際に追い詰められる。しかしパエリアは余裕の態度を崩さず、笑うでもなく自然体でいる。

「承知シテオリマス。コノスキルヲ用イヌ取リ決メノ試合ハ、ソレヲ補ウタメノモノ。コノ場ヲオ与エ下サッタネコムペテンテコ様、パエリア・エリア様ヘノ感謝、我ガ技ニテ直接ブツケテミセマショウ」

 ※コキュートスは"皇潤を飲む"ということを経験を積むという意味の言い回しとして受け取っています。

「その心意気やよし。頑張ればあなたもきっとなれますよ。プリキュアに」

 きらめくダイアモンドダスト! キュアヴァーミンロード!

「貴公の首はリボンタイを結ばれるがお似合いだ。……さあ、次は私から行きましょう」

 そう言ってから十数秒、目前の蟻の通過を待って、パエリアはコキュートスの至近へ飛び込んだ。そこにコキュートスほどの瞬発力はない。しかし、放たれた蹴りには明らかに武術を修めたであろう鋭さがあった。

 深く突き刺さるかに思われた蹴りはしかし、斧の腹に防がれる。間一髪、ではないが、かと言って余裕もなく。受け流すことはできず、防がれたと知るや足を引くでもなく体重をかけた押し込みに切り替わる。斧から伝わる多段ヒットのような感触を想定していなかったか、反撃を準備していたコキュートスの巨体は揺らぐ。

 バランスの崩れた状態で攻撃する訓練も経験も積んでいないコキュートスにとって、ここで無理に武器を振るう選択は優先順位が落ちた。そして咄嗟に、視界に入ったがら空きの軸足への蹴りを選ぶ。

「ハッ!」

 斧に体重をかけ、パエリアを僅かに押し戻し、さらうように蹴りを入れる一瞬、コキュートスの脳裏に相手の武器が足――金属のブーツ――であることがちらついた。自身の斧、剣、大太刀、槍をいなした蹴りはそのどれもが刃ではなく腹や柄を蹴ってはいたが、それでも相応の強度が無ければできはしない。そして、パフォーマンスで見せた変化する重量。点と点が繋がりできた推論、砕け散るのは自分の足かもしれない。だが、コキュートスは全力を込めて蹴りを放った。

 逡巡の分かどうか、パエリアはその蹴りを上げていた足を下げ、下げていた足を上げ、またぐように回避した。上げた足は蹴りとなり、肩の外皮をほんの少し砕く。それは無視できる損害だったが、コキュートスは蹴りを受け流すように回転した。スパイク付きの尻尾がパエリアを襲う。

 下がるには長い。またぐには太い。ではどう対処するのか? 会場の疑問の答えは意外なことに、ジャンプだった。

 それは一般的には当然下策だ。空中では回避のしようが無い。では、なぜ? 明らかに怪しいが――今度は迷わず、自由になった斧を含め、四つの武器が殺到する。

 アイテムボックスから対抗手段を取り出すにはもう遅い。大太刀、戦斧、短槍、長剣。それら全てが叩き込まれる――

 寸前、閃く曲線が生じた。それがパエリアへ向かう攻撃の全てを跳ね除けたのだ。

「おおっ!」

 鞘。

 先ほど脆くも砕け散った刀、その鞘がレジェンド級、少なくとも一つはゴッズ級に到達しているはずの武器たちに対抗してのけた。

 謎の現象により危機を切り抜けた我らが主にやはり客席は熱狂。パエリアは攻撃をさばきつつ空いてる手をコキュートスの頭にかけ、飛び越えた。今まで見せていた通り、距離を取るのは得意だ。コキュートスが振り向いた時にはパエリアは闘技場の中央で観客席に手を振っていた。

 

「そうだ。あの技は、二閃。一度しか使えないと嘆いていた技の一つ……」

「やはり、モモンガ様はご存知なのですね」

「む――アルベド。居たのか」

「側仕えを絶やすわけには参りません。私では不足なこともあるかと存じますが――」

「ああ、構わない。……おおっ! あれは、ウテナ! 初見殺しで有名なあの技が……!」

 四振りの武器に対し、鞘一本で対抗し続けるのは流石に難しい。次第に追い詰められたパエリアだったが、突如刀を取り出し窮地を抜けだした。

「……うむ、折角だ。アルベド、パエリアさんの種族は知っているか?」

「スライム系種族、と聞き及んでおります」

「ふむ。では――――と、私が勝手にネタバレするわけには行かないな。忘れてくれ」

「畏まりました」

 ゲーム時代であれば、武器が破壊されればその鞘もまた運命を共にし、消え失せていた。

 にも関わらず破壊された刀の鞘が残っているのは転移による変化だろうと気に止まることはなかったが、モモンガは似た状況を見たことがあった。

 前もって鞘のない刀を用意し、メインのゴッズ級刀の鞘に入れる。そしてダミー刀を敵に弾き飛ばさせ――――

 そうした奇策頼りであるが故に勝率は振るわなかったが、エンターテイナーとしてのパエリアの人気は高かった。ネタ切れの際の散りっぷりも含め。

 

 再び斬り結ぶ二人、コキュートスとパエリアの戦いは単純にいい勝負だ。素早さと攻撃のステータスではパエリアが劣っている。しかし、経験と技の豊富さはそれを補って余りあるようだ。

 だがコキュートスの動きもそれに合わせ急速に成長して行く。いずれパエリアに追いつくか、パエリアが本気の技を繰り出すか。展開が変わるのはそこからだろう。

 順当な戦い。前衛系の配下たちにとって、例えようもなく貴重な時間が今始まろうとしていた。

 

「飽きたので帰ります。じゃあ」

 

 

 

 

 

 第六層。テーマはジャングルであり、いろいろある。お気に入りなのか、パエリアはほとんどネコムペテンテコに戻らずここで過ごしていた。

「はい、モモンガ様! パエリア様でしたら蟻の観察です。横になってずぅーっと行列を眺めていらっしゃいますよ」

 メッセージ。別段声を出す必要はない(たぶん)が、至高の御方を前に内緒話なんてする気になれないのが配下たちの心理。

「アウラ、トイレに連れて行ってください。いえ、やはりここで良いです」

「そ、そうですか? いえ、パエリア様が。……んー、六階層は特に変化無いですね。たまにアンフィテアトルムに訓練しに来るしもべが居るくらいで。はい、わかりました」

 先日の試合のあまりな幕切れに、消化不良を解消しに来た者達が日夜手足を切り飛ばし合いアンフィテアトルムは血の海となっている。技術も上がっており、良い刺激となったようだ。

「さ、さすが至高の御方……」

 寝そべりながら蟻を眺め続けるパエリアの股間近くの地面が濡れ、変色が広がって行く。

 濡れた土が服に付くが、まるで気にした様子はない。その超常の存在でなければ成し得ない姿にアウラは畏敬の念を新たにする。

「モモンガさん、私に何か用でも?」

「いえ、もしネコムペテンテコ様に変わった場合はお話したい、とのことです」

「ふーん。まあ、良いでしょう。この後アウラとお散歩でも、と思っていましたが」

「えっ。……ま、まあ仕方ないですよね。あの、お話が済んだ後に――」

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 

 

「やって来ましたオシャレ階層。勢い余って戻っちゃったけど足がない。おーい! メイドは居ないかー!」

 呼び声が終わる前にパタパタという足音が近づいて来た。その数、数十体。

「一人で良いんだよ一人で」

 

 

「わーっしょい!」「わーっしょい!」「わーっしょい!」「わーっしょい!」

「お待たせー」

「なんの祭りですか?」

 モモンガ部屋、到着。

「いやー、一人だけ贔屓するってのも良くないじゃない? かと言ってパエリアになって歩こうにも気が変わってこっち来ないだろうし」

「制御できないんですか? 同一人物なんでしょう」

「できるけど、しないのさ。よしお前ら、テーブルに置いたら出て行きなさい。だって狭いから」

 指示通り、お辞儀して出て行くメイド団。

「ずいぶんと、使いこなしてますね」

「ふふ、使ってやると喜ぶもの。モモンガさんもやってみたら? 意味もなく逆立ちさせたりとか、楽しいよ」

「いえ、いえ。やはり、慣れませんね」

 ユグドラシルであれば[^^;]と表示していたところ、今のモモンガにできるのは怖い顔だけだった。

「そうそう、私にお話って聞いたよ。今後の方針か何かですの?」

「その通りです。私達が安全に暮らすためには身の振り方を決めるための情報が必要ですから、そろそろ村に接触をと考えています」

「そしてそのメンバー選出。なら私は、アセリックを推すよ」

「アセリック……確かに、安全といえば安全かもしれませんが」

「何よりあいつなら死んでも良いし」

「ははは……」

 アセリック。

 それはネコムペテンテコが制作したNPCの一体であり、ナザリック内でも強者に位置づけられる存在でもある。

 遊びのないビルド。充実した装備。何より特徴的なのは、ガチャレアを使用したNPC専用クラス。

 

 アセリックは事実上、不死である。

 

「……しかし、予測が付きません。最近もデミウルゴスに蹴りかかったそうですよ」

「悪・即・蹴り。……ううん、悪い村人が居ないとも限らないか」

「山賊村、なんてのもあるかもしれません。いえ、見ている限り平和は平和なんですが、実際の山賊の村を知りませんから判断がつかなくて」

「入り口に看板でもあればそういう心配も消えるんでしょうけどね。旅人とかがやって来れば"ここはサイショの村です"みたいな事を言うのが村人の習性だから、とりあえずそれを元に計画するのはどうでしょう」

「図書館の傭兵から斥候を探しましょうか?」

「人間っぽいの居るかな?」

「やはり人っぽいのじゃなきゃダメですかね?」

「人間以外の種族が居るのかどうかわからないからね。ほら、日本にモモンガさんが居たらショック死する人と写真撮りに集まってくる人が出るでしょ?」

「ああ、そうなりますね」

 

「すっげー。アンドロイド? すっげぇ骨骨しいけど」

「マジシャンかな」

「あの……」

「あ、喋った」

「中、人入ってるんですか? んー、入れないよね」

「すみませーん写真いいですかー?」

「こっち向いてー」

「ポーズお願いしまーす」

「なんの宣伝ですかー?」

「ヒィー! ホネホネ人間だー!!」

 

「自明、ややこしい。無難、良し」

「となると……」

 一般メイド――自衛できない。

 プレアデス――レベル五十やそこら。不安。

 ではルベド? いやいや。

 階層守護者……、

「ウサギを向かわせて様子を見るのは?」

「ウサギ、ですか?」

 モモンガは考えを巡らせるが……思い当たらない。

「人間っぽいの、って縛りからは外れますが、様子見には六層に居るウサギのようなような動物系の傭兵モンスターが良いと思うウサ」

「スピアニードル、でしたっけ。しかし穏便な接触、という命令に従うでしょうか?」

「知能を試してみよう。それから――」

 

 

@Take a sheat. Please.

 

 村の朝は早い。

 魔法の光もロウソクも余分な薪も無く、寝起きは太陽と共にある。

 裕福とは言えないが、幸い危険と隣り合わせの開拓村に重い税をかけるほど道理の分からない国ではない。その上に重ねた努力から、とりあえずの心配は無い程度の蓄えがあり、モンスターの危険はあれど、差し迫ったものでもない。

 朝起きて、各々が努力し、夜に寝る。カルネ村ではそんな平穏な日々がずっと続いていた。

 

 エンリ・エモットの朝は水汲みから始まる。山頂付近の湧き水まで光の速さで向かい、家ほどもあろうかという巨大な甕(かめ)に表面張力の限界まで汲み、道中ゴブリンなどをつまみ食いしつつ戻る。

 家では母が用意してくれている麦をひと山、牛四頭を一口で飲み込む。これが普段の朝食である。

 食後は慌ただしく投げた丸太に跳び乗ってカッツェ平原野まで行き、アンデッドを蹴散らしつつ開墾し、全域に麦を植えていく。

 昼食時になれば転移で戻り、数日前に焼いた黒パンと干し肉の切れ端の入ったスープをいただく。

 再び畑仕事に戻り、暗くなった頃に時を止めて戻る。村の猟師がドラゴンを村の人数分程度は仕留めているのでおすそ分けしてもらう。運が良ければ二頭貰えて、ひさしぶりに腹八分程度に満たされることもある。

 食事の後は家族と肉体言語で語り合いながら、クリエイト・グレーター・アイテムで服を作ったりと働く。

 多少表現が過剰かもしれないが、これがエンリ・エモットの毎日だ。

 

「あれ?」

 そんな毎日の中にも多少の変化はある。年に一度徴税吏が来たり、ワールドエネミーが来たりと言った些細なことが。その些細な一つのように、エンリは村の中にウサギが居るのを目にした。

 ただ、エンリが知るものよりやや大きく、もさもさしている。

 エンリ・エモット一万五千の超奥義の一つ、究極波動焔滅億連弾を使えばウサギなど宇宙ごと消し去れるが、ウサギは肉、毛皮と役に立つ動物だ。なんとか捕まえたいが……。

 猟師を呼びに行こうにも、この時間はもう森に居る。家に帰ってモモンガを確実に即死させるワイルドマジックのかかったナイフを取りに行こうにも、戻った時にまだ居るだろうか?

 ウサギは向こうを向いている。実はウサギはほぼ真後ろを見れるが、村娘には知りようもない。これはチャンス――そう考えたエンリはそろりそろりと忍び寄って、当然その耳でも位置を把握されて、跳びかかって、指先が柔らかい毛皮を撫でた。

「うっ」

 捕獲に意識が向きすぎて受け身をし損ね、肺から息が押し出された。エンリが息を整えて立ち上がろうとすると、頭に何か柔らかいものが乗って背中の方へ駆け抜けて行った。

 さすがに本気で捕まえられるとは思っていなくとも、こうも舐められるとショックはある。

 沈んだ気持ちで立ち上がり、もう居ないだろうなあと思って振り返ると、ウサギはそこに居た。

 横を向いて鼻をスピスピ言わせてる姿に、エンリは挑発めいたものを感じる。気のせいではないだろう。現に逃げ去りもせずに待っているのだから。

 しかし村娘にウサギと戯れている時間は残念ながら、ある。時期的に畑の世話も落ち着いて、しかしやることがあるわけでもないし雑草でも抜こうかなあと考えていたところ。チャンピオンに挑む挑戦者のような気持ちで、エンリは駈け出した。

 

 ウサギを追って村を飛び出す。全力で走っても追いつけはしないが、エンリには勝算があった。

 確かに素早いが、あれだけ小さければ体力はそう無いはず。そして、人の領域たる平原に追い込めば休ませずに済む。

 森の方へ逃げたなら諦めていたところだったが、上手くいったようだ。さすがは智謀の村娘。

 これならば、多少村から離れても大丈夫、のはず。

 若干誘い出されてる気がしないでもなかったが、村娘的感覚はまだ安全圏と伝えている。このくらいの判断ができなければ辺境ではやっていけない。辺境の娘を舐めてはいけない。

 追い続けていると、何やら奇妙な感じがする。いや、随分前から感じていたものが、だんだん強まっているのだ。

 森の方へ逃げれば逃げ切れるだろうに、わざわざ不利な追いかけっこに付き合って、森の賢王の縄張りから出ない範囲で開けた場所を選ぶ。……どうにも意図を感じる。

 これ以上は行かない方が良いかな。そう思い始めたころ、視界の先にそれはあった。

 

 大きな白いキノコの傘のような屋根――パラソル――の下に、女の姿がある。白いテーブルと白い椅子。女はその椅子に腰掛け、白いカップを白い指先で摘んで、薄いピンクの口元に向けて傾けている。

 白いウサギは女の足元まで駆け寄り、座った。

「あ……」

 あまりの美しさに声が漏れる。まるで全ての白が、女を飾るために生まれてきたような――――

 気が付くと、女はカップを置き、こちらを見ていた。なんとか挨拶の言葉をひねり出そうと考えたが、ただの村娘であるエンリにはごきげんようすら思いつけない。

 困っていると、女が口を開いた。

「花が咲いていますね」

(――――花?)

「はい。春、花の咲き乱れる時期でございます」

 そして男が返事を返した。……突然現れたのか、女に集中しすぎたため気が付かなかったのか、ともかく男はそこに居た。

 初老の男性だ。エンリは執事という職業を知らなかったが、従者だろう、ということは見れば理解できた。

 男の同意に、ふと足元を見た。確かに、花は咲いていた。雑草としか言えないような花だったが、確かに咲いていた。

 エンリは反射的に、踏まないよう横にずれる。

「セバス。花が歩きましたよ?」

「はっ。いえ、パエリア様。あれは人間でございます」

 花。それが自分を指していたことに気が付いて、エンリは自分の頬が染まるのを感じた。

「ふーん」

 女――パエリア、様は、興味なさげにスプーンを口くわえている。テーブルを見ると、間違いなく高いであろうガラスの容器に想像したこともない金の色を持つ食べ物が入っている。

「人間は水をかければ喜ぶでしょうか?」

「乾いている場合であれば喜ぶこともありますが……彼女は見たところ、健康そうです」

「根腐れしてはいけませんね。そうそう、先ほど小鳥が草の種を食べているところを見ましたが、人間もそうですか?」

「はい。多くの場合、人間の主食は植物の種子です。芋の場合もあり、これに限らず色々な物を食します」

「ふーむ。これも食べるでしょうか……?」

 そして、二人の視線がエンリを突き刺す。緊張でピクリと肩が動くが、もう逃げ出そうにも二歩目で足がもつれて転ぶ自信があった。沙汰を待つハムスケのような心持ちで固まっていると、男、セバスから声がかかった。

「お呼びです。宜しければ、こちらにお越しいただけますか?」

 その柔和な笑顔に与えられた勇気だけでエンリの足は先へ向かう。そして気が付くと椅子に座っていた。

(――あれ? さっき、椅子は一人分だけだったような……)

 しかし現にカップも食べ物もスプーンも自分の分であろう物が目の前に揃っている。ついでにテーブルクロスに金糸で描かれた花を見つけてもうひとビビリ。

「食べるでしょうか?」

「どうぞ、宜しければお召し上がりください」

 退路無し。そうとなれば村娘は強い。すぐさま腹をくくってスプーンを手に取り金色の食べ物に近づけた。

 

 チン、チリチリチリチンチンチンチンチン――!

 豪風の中の風鈴のような音はエンリが手にした、手にしてしまった金のスプーンとグラス。あと手の震えによるもの。

 スプーンが金とは。あるいはこのグラスに入っているのも金じゃあるまいか? とだいたい当たっている冗談で自分の緊張をほぐそうと試みるが、上手くいかない。このままではグラスを割ってしまいそうだ。

「セバス。貴方が先程から声をかけているところから察するに、ことによると人間は言語による意思疎通が可能なのでは?」

「さすがはパエリア様。ご明察でございます」

 意味はよくわからない。しかし会話しているのなら……。この隙を狙ってスプーンを両手で支える作戦に移ろうとした。ところで自分はなんでこんなことをしているのだろう、なんて考えながら。

「スプーンが苦手なのであれば、手を使えば良いのでは?」

「は、はい」

 そりゃあ、良いんならそうする。作法的な物を一切求めないでくれると知って、エンリはスプーンを置いた。

「通じた! 通じましたよ、セバス!」

「おめでとうございます、パエリア様」

 多少手に土が付いていようが構うものか。そんな気構えで挑もうとしていたが、その前にセバスが「宜しければどうぞ」と濡れタオルを差し出す。

 それを受け取り、手を拭い、使い終わったらテーブルに置く。……そう、もはやエンリはただの村娘ではない。エンリMK2だ。使い終わったタオルの処遇に困りあわあわするような弱い存在ではないのだ。

 そして覇王炎莉は普段は山や海を割っている手刀をグラスの中に突き入れ、引き抜いた。

 手の上に乗るひんやり冷たい感触。黄金そのもののような輝き。その上に乗った赤いソース。そして、甘い香り。

 確信する。これを食べたら革新する。絶対に美味い。食べない方が良い気すらするが、金持ちに逆らって良い事があろうはずもない。食って対価を要求されるバッドエンドもあるけれど、退路のないこの状況でそれを思考から省く程度の現実逃避は許されてしかるべきものだろう。

 前へ進むように、一口。

 涙がこぼれた。

「おや、人間に金のムースは毒?」

「いえ。メイドで確認した際は問題ありませんでした。彼女たちは人間と食性は等しいはずです」

「ふーむ。では恐らく人間というのは歯が金属なのでは? 電流が流れたのかもしれません」

「先天的に金属の歯を持って生まれることは無いかと存じます。仮に彼女が金属の歯を持っているとすれば、後天的なものでしょう」

「ははあ。彼女と言うところを見ると、女なのですね」

 相変わらずの謎の会話も、もう何も気にならなかった。

 

 

「なるほど。麦や野菜を増やして食べるのですね」

「はい。家畜も欲しいですけど、やっぱりご飯を食べますし大変らしくって。夜中にゴブリンが狙うこともあるそうですし」

「聞いていると鳥と同じようなものを食べているようですが、虫や魚は食べないのですか?」

「魚も食べますけど、なかなか捕まえられないですから。虫はみんな食べますよ。あ、でも私の幼なじみにンフィーレアっていう男の子が居るんですが、その子は虫嫌いで――」

 

「塩は安いのですね」

「なんでも、昔の賢者様(※)が海水からの製塩を広めて下さったそうです。元々岩塩もありますし」

 ※ミノタウロス

「それもンフィーレアが?」

「はい。たまに帰ってきて、いろいろ話してくれるんですよ」

 

「そしたらモイラさんが――」

「あらあらうふふ」

 

「タレントですか」

「はい。ジニーさんは鏡の中の自分より少しだけ早く動けるんですよ! カルネ村には鏡が無いので、水鏡でですけど」

 

「井戸に魚を?」

「虫を食べてくれるんですよ。大きくなったら新しいのと交換して、古いのは食べちゃいます。美味しいですよ」

 

「ところでウサギを追いかけていたようですが、食べるのですか?」

「あ、はい。……でも、パエリア様の子だったんですね」

 ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガラーン、ガガーラン、ガラーン――

「鐘の音ですね」

「あ……、村の鐘です。……そろそろ帰らないと。心配させてしまいます」

 

 オリ要素。法国が開拓村へプレゼントしている。

 

「忙しいのですね、人間は」

「そうかもしれません。でも、頑張ればその代わりいっぱい食べられますから」

「ふむ。私はもうしばらくお茶を楽しみますよ。……そうそう、ウサギが欲しいのでしたらどうぞ。味は知りませんが、賢い子ですよ」

 エンリはどうしたものか多少困ったがエンリはもうエンリMK4なので礼を言ってウサギに手を伸ばした。逃げなかったのでなるほど賢いのだなと思った。持ち帰って食べようとしたがナイフの刃は通らなかった。

 

 エンリ・エモット は スピアニードル(Lv67) を なかまにした!

 

 

 

金のムース、ルビーソースをかけて。主な材料は金とルビー。防御力と魔法攻撃力が上がります。

お茶は普通の高級品に落ち着くハーブを混ぜたもの。初心者用の経験値+100%アイテムも。有効時間制。あんまり意味は無さそう。

ミノタウロス賢者は結構活躍してそう。発言権あったようだし(強さ由来かもだけど)。六大や八欲の方が昔だから製塩技術はとっくの昔に出回ってそうだけど、口だけ呼ばわりはあんまりだと思い手柄をこじつける。

 

 

 ナザリック地下大墳墓・モモンガの部屋。

 

「いやはや、スピアニードルの影にシャドウデーモンを忍ばせ、望んで持ち帰らせるとは。パエリア様の手腕、感服致しました」

「モモンガ様、この地で収集可能な情報はひと通り揃ったものと思われます。シモベを用いた王国の調査に障害は無くなったものと愚考します」

「……ふう。いや、そう急いて行動することはない。後手に回ることを危惧するというのは当然のことだが、我々を上回る力を持つものが居た場合、派手に事を進めた結果対話の余地なく敵対……という最悪のケースも考えられる。我々にとっては調査をしているだけでも、相手がそれを理解して理性的な反応を返すと考えるのは甘いからな」

「は。出すぎた発言をお許し下さい。では、当面はパエリア様のように対話による情報収集に徹するということでしょうか?」

「ネコムペテンテコさんから提案があった時は驚いたが、確かに話術もあり、十分な戦闘能力、経験、そしてワールドアイテムへの対策を考える判断力、慎重さを兼ね備えた彼女を前に出し、無数の隠密系のシモベを忍ばせた上で私がバックアップを務めるこの布陣は確かに理に適っている。……リスクが無くなるわけではないが、な」

 

 

「――名付けて、アリス作戦!」

「それは……成功するかどうかは分かりませんが、まあ失敗したところで多少警戒されるだけで済みそうですね」

 というより、失敗を前提に考えるとそう悪い作戦では無かった。村の反応はこれからの動き方を決める良い情報になるだろう。

 情報の乏しい中で仲間を前に出すことにはなるが、代わりにパンドラズ・アクターを使おうにも、パエリア・エリアを演じるのは至難。どうも行きたいようであるし、サポートすることにした。

 最悪の場合はナザリックを放棄することも視野に入れ、作戦は決行された。

 そして――――

 

(成功、するのかあ……)

 とりあえず話術と評しはしたが、モモンガにとってはほぼ良く分からない作戦だった。2137年、メルヘンなんてとっくに擦り切れている時代だ。2112年にドラえもんが完成しなかった辺りがターニングポイントか、不思議を信じるものは昨今激減していた。

 そんな現代っ子たるモモンガはメルヘンに対する理解が無かったが、この世界ではまだ滅亡していなかったようだ。

 

「有事の際はお任せください」

「アルベド。私の不足が故にお前に危険な役目を負わせること、どうか許して欲しい」

「そんな! パエリア様の撤退のためこの命を使えるのであれば、これに勝る喜びはありません!」

 ミラー・オブ・リモート・ビューイングの中では未だパエリア・エリアがお茶を飲んでいる。

 傍らにはセバスが仕え、草原の中で一人お茶会をしているお嬢様といった様子ではあるが、ハイド対策の魔法を行使しているモモンガの視界にはびっしり隙間なく敷き詰められているシモベたちの姿が見えていた。

 もしこの非常にディアボリックなティーパーティーに招かれた村娘が気付きながらも平気な顔でお茶を飲んでいたとするならば、それはもう勝ち目が見えない。考えても仕方ないのだから、素直にどの隠蔽方法も作用していたものと見て、モモンガは一先ず安堵した。

 村娘或いは外部の存在と交戦に入った場合は守護者の大半を送り込み、デミウルゴスがアイテムで悪魔をばらまき、アルベドが身を挺してパエリアを守り、命を捨ててでも時間を稼いでいる間にモモンガの転移によって撤退する手はずになっていた。

 ネコムペテンテコの立案だったが配下一同から一切不満の声が上がらなかったことにモモンガさんビックリ。忠誠心の高さを再び思い知ることとなった。

 今後もこの布陣で情報収集が続けられる。

「……動かないな」

 手はずではことが終わり次第一時帰還し、村娘に動きが見られ、再びやって来そうな場合はお茶会をさもずっと続けてましたよと言った具合に再開して不思議ムードでお出迎えすることになっていたが、パエリアは帰って来ない。

 

 

「――ただ、パエリアさんはその作戦通り動くんでしょうか?」

「おいおい。それじゃあまるで私とパエリアが別人みたいじゃないか」

「別人みたいじゃないですか」

「まあ大丈夫ですよ。こういう役割を演じるのは好きですから」

 

 そんな会話があった上で、作戦通り動き、成功までして、モモンガにとって良く分からない人物であったパエリアが理解できる行動を取ったことに安心したのも束の間のこと。……帰らない。

「成功した場合はその情報を元に会議を……のはずだったのだが」

「モモンガ様、よろしいでしょうか?」

「ふむ。デミウルゴスよ、お前なら何かわかるか?」

 願わくばそこに対処のヒントがあればと、モモンガは問いかける。

「はい。二年ほど前だったでしょうか。私が守護を務める第七階層にパエリア様がお越しになられました。パエリア様は私に何かを言いかけてやめるという、なんと言いましょうか、大変説明しがたい行動を三時間ほどお続けになり、やがてお帰りになられました。他の守護者に確認したところ、シャルティアがおよそ六時間。コキュートスが一時間未満。どちらも行動の意味は不明とのことです」

 ……え、こうなる前も?

 それはパエリアはNPCがまだNPCである時点で、NPC相手に今と変わらない珍妙な振る舞いを見せていたということだ。……なぜ? なんのために?

 モモンガはパエリアがいちおう作戦通りに動いたことを見て"ああ、やっぱり演技ではあるんだな"と安心してさえいたが、それが脆くも崩れ去ったことに頭を抱えた。やっぱり単に変人なのだろうか。

 ユグドラシルではあまりモモンガとパエリアが接触する機会は無かったが、言われて思い出せば一度だけ――――廊下に座り込んだまま動かなくなっている時があった。話しかけても揺さぶっても返事はなく、心配してGMを呼ぼうとした時ようやく。

「ああ、すみません。ヘラジカのこと考えてました」

 

「……その場を動かない、という状況は珍しく無いということか」

「はい。前例通りであれば数時間でお戻りになられるかと」

 前例通りであれば。この部分にモモンガはなんとなく嫌な予感を覚えた。すぐにはその理由に思い当たらなかったが、時が経つにつれて答えは出てきた。

 生身の肉体という枷、そして社会人ギルドのメンバーにはほぼ必ず付き纏うスケジュールという縛り。それらから解き放たれた今、パエリア・エリアに時間の限界は存在しない。

 

 四日後。エンリ・エモット、再び。

 

 

クイズ!パエリアはデミウルゴスに何を言いかけてやめたのでしょうか?

答え「青森」

 

 

「あっ……」

「おや」

 目が合う。草原の中、ぶっ続けで行われているディアボリック・ティーパーティーにやって来たエンリとパエリアの目が。

 エンリの傍らには彼女より二回り小さな少女――要するにネム――とウサギが居たが、それらに目もくれずパエリアは言う。

「またですか。このあたりの花は歩きますね」

 道理の分からない花だ、とでも言うかのような呆れた目に、警戒した少女はエンリに隠れるようにしがみつくが、エンリは苦笑して言葉を返す。

「花じゃなくて人間です。ほら、先日もお会いしましたよね?」

「……?」

「あの時はウサギとお菓子をいただきました。……えーと、覚えていませんか?」

「ふむ。……あの時のイノシシでしょうか?」

「違います」

 この四日の間にこの場にはイノシシや鳥が訪れていた。エサをやると懐いたが、以降ガン無視を決め込むパエリアにどちらも去って行った。

「この子は妹のネムと言いまして、パエリアさんにお菓子をいただいたことを話したら……」

 そのウサギどうしたの? へー、……お菓子!? お姉ちゃんだけずるい! 私も食べたい!

 あっ。……そんなこと言っても、どこの誰だかも分からないし……。

 ずるいずるい!

 食べたかったなー。

 お姉ちゃんだけずるい……。

 もう……そんなに言うなら行くだけ行ってみる?

 こうしてずるいな攻勢に負けたエンリは、妹を連れてここまでやって来たのだった。テーブルの跡でも見せれば諦めもつくだろうと思って。というようなことをエンリは省略して説明する。

「けど、まさかまたここにいらっしゃる、おられる? えーと、またお会いできる……うう」

 口調を丁寧に改めようとして悩む姿をもどかしく思い、妹は姉の服の裾を引っ張る。先程はパエリアの奇怪さに警戒を見せていたネムだったが、話を聞いているうちにお菓子のことを思い出し、既にお目目はギンギラである。

「……今日はセバスさんは居ないんですね」

 気を利かせてくれそうなあの人が居れば話は早いのだが、と見回すが、件の紳士の姿は見えない。彼はモモ-ネコ会議においてアリス作戦の次として予定されていた別の任務の最中である。勝手に進めちゃうのは、と思わないでもないモモンガだったがパエリアのあまりの勝手さにもうやっちゃえとなった。

 エンリが辺りをもっとよく見たなら遠くで狙撃銃を構えているシズを見つけられたかもしれない。ギリースーツを着込んでいたが、エンリ・アイを使えばきっと。

 あまりナザリックの外に出したくは無かったが、バックアップとして魔法以外での偽装手段による伏兵も用意しておきたかったため出動している。

 エンリが本気を出して良く見たなら変身して不可視化しているパンドラズ・アクターを見つけられたかもしれない。そう、エンリ・アイならばきっと。

 あまりナザリックの外に出したくは無かったが、強い護衛は必須。打ち合わせの成果もあり、尖り骨や軍服ハニワが人間に与えるショックを理解しているモモンガはパンドラズ・アクターを丸のまま出すような愚は冒さない。

「セバスには行商をさせています」

 任務――この作戦で付近の街などの情報が手に入った場合に調査へ向かわせる、というもの。

「行商……パエリアさんは商人だったんですか?」

「いいえ。どうやらこの辺りでは金貨がないと困るようなので、趣味で集めていたワインを売りに出させています」

「そうなんですか。確かに……ネム、わかったから」

 クイクイと再度催促。エンリは"いやしいぞ"と思いかけたが、テーブルの上に並んだスイーツ類を見て、仕方ないなと思い直した。

「あの、大変図々しいお願いだとは分かっているんですが、この子にもお菓子をいただけないでしょうか」

 ネムの訴えかけるような視線に目もくれず、パエリアは応える。

「どうぞ。いっぱいありますので、お好きに」

「は、はい。ありがとうございます! ほらネム、あなたも」

「あ、あの! ネムです! ありがとうございます!」

 パエリアは視線をテーブルの上に戻し、目もくれず答えた。エンリはその興味なさげな様子を奇妙に思うも、妹にせっつかれている今気にすることはできなかった。

 一つ空いていた椅子にネムを座らせて、エンリは傍らに立つ。妹に、と自ら限定した手前、至上の甘味を自分だけは食べられない状況であるが、その表情に不満の色はない。

 

 エンリ・エモットはあの日以来、とても落ち着いた娘へと変わっていた。

 仮にそれなりに美食を嗜む貴族や大商人があのムースを口にしたとすれば、欲を刺激し次を求めただろう。

 しかし、村娘には刺激が強すぎた。人間用として抑えてもいない、神が食するクラスに近い甘味は一切肥えていない村娘の味覚に襲いかかり――――彼女の欲の許容量を遥かに超え、打ち砕いた。

 そんな代物を目の前で妹が口にしようとしているが、残念ながら止める様子はない。エンリちゃんは修復が済むまでちょっと変なのだった。

 

 しかし――

「おいしい! お姉ちゃん、いっぱいあるよ! ほらお姉ちゃんも!」

 そう言って皿を一つ差し出す妹の姿は、テンションが上がってはいるものの自分が食べた時ほどという様子はない。エンリは"あれ?"と思いパエリアの様子を見ながら受け取って、フォークが足りずそのままパクリ。すると、確かに美味しいが、あの時ほどではない。リアリティ・スラッシュを喰らった後に受ける強めの術者が使ったマジック・アローくらいの落差があった。

 不思議に思い、パエリアを見ると。

「今日は普通の日です」

 そういう制度が?

 なんであれ、ネムは満足している様子。欲の不調なエンリに不満はない。遠慮する必要がある雰囲気でも無いので、自分も多少普通のスイーツ類を頂きつつ、妹が食べ終わる時を待っていた。

「おや」

 何かに気付いたパエリアに釣られ目線の先を追うと、遠くから歩いてくる人影をエンリも目にする。

 両手に何かを持っていて、ヒラヒラした服装から女性のようだ。エンリは知らなかったが、それはメイド服だ。

 そして知っているかどうか、顔に付いているのはメガネであり、ユリ・アルファであり、手に持ってるのは椅子とお盆である。

 ユリは少し先まで歩み寄ると一度椅子を置き、綺麗なお辞儀をしてから椅子を持ち直し、再び歩み寄って来た。

「お客様。宜しければ椅子をどうぞ」

「え!? あ、ありがとうございます」

「パエリア様。ご要望のあった、エ・ランテルの名店のスイーツをお持ちしました」

「ご苦労。さて、どのようなものでしょうか」

 お盆の上からテーブルへと金属製の覆いが被せてある皿が並べられる、覆いが取り払われると――

 

「……味覚の違い、でしょうか」

「既に毒味、味見、分析、浄化を済ませておりますが、お察しの通り御前にお出しすることが憚られるような品でした。……しかし、表記が偽りで無ければこれで王族御用達のようです」

「ふうむ。別に私は品質がどうと言っているわけではありませんよ。これはこれで悪いものではありません。ただ、名店で出すにはジャンルが違うなと思うだけです」

 それは、花。鳥や馬。あるいはただ丸めたり、多少色彩を考えた姿をした、マルチパン(マジパン)――のようなもの。

 かつての地球ではマルチパンの名店もあったものだが、少なくともパエリアが見た分にはそう洗練された様子もない。

「よろしければ、どうぞ。私は見ただけで十分です」

 きっと材料は違うのだろうし、食べてみれば意外と美味しいかもしれないが、ナザリックの食事、いわゆるナザ飯を口にした経験がある者が期待できるほどの可能性はない。

「あまーい!」

「……う、」

 言われるがままひょいパクな二人。

 ――甘い。エンリの脳を暴力的なまでの甘味が殴りつけた。

 まあ、落ち着いてみればネムがそうであるように甘味に飢えた村娘にとって許容範囲の糖度ではあるのだが、名店と聞いての想定との落差が大きい。なんというガッカリか。

(……あれ? ということは、エ・ランテルの名店より美味しいお菓子って、……なんだろう?)

 そうして、ここにきてようやく、エンリは疑問を抱くに至った。

 なんとなく超常的な存在、神的ななにか。というあやふやな感じで思考が止まっていたが、このお方は、いったい……?

 疑問はすぐに口をついて出た。

「あの……、あなたは、いったい、どういうお方なのでしょうか?」

「ああ、言っていませんでしたね。私は見ての通り……」

 エンリの精一杯かしこまった問い掛けに、パエリアは少しばかり勿体ぶって答えた。

 

「ウシです」

 

 モー。

 

 

 

 

 

 

「ウシ……牛、か……」

「モモンガ様。やはりこれは予定外のことなのでしょうか?」

「事前の打ち合わせでは、正体不明というスタンスを取ることになっていた。その上では現状もそこからそれてはいないと言えるが……」

 モニタールーム。もしくは、モモンガ部屋。デミウルゴスと共に、今日もミラー・オブ・リモートビューイングによる監視は続いていた。

 以前との違いは無数のシモベの不可視を高レベルのもので統一し、セバスをエ・ランテルへ派遣し、アルベド含め周辺の監視を増やし――など。特に大きいのは有事の際出動するメンバーの増量。もしあの場になんたら聖典とかが攻めて来た場合、一部を除いたナザリックの総力を見ることができ、完璧な威力偵察となることだろう。もちろん、情報を持ち帰ることができればの話だが。

 

「もしや、あなたも?」

「あ……いえ、私は人間で――そうだ。たぶん言い忘れていたと思うんですが、エンリ・エモットといいます」

 

「しかし、あの村に何か利用価値があるのでしょうか……?」

「ふむ。やはりそこが気になるか、デミウルゴスよ」

「はい。ここしばらく考えておりましたが、恥ずかしながらパエリア様御自らが御出でになるほどの理由は見当たりませんでした」

「そうか。いや、恥じることはない。と言うのも、私にも分からないからだ」

「は……失礼しました。しかし、円卓会議が成されたのでは?」

「ネコムペテンテコさんは秘密主義でな。訊けば説明をしてくれるとは思うが、ギルドメンバーを驚かせるのは彼の趣味のようなものだ。……非常時であるというのは理解しているのだが、あまり過保護に接して楽しみの邪魔をするようなことはどうにも気が乗らなくてな。デミウルゴスよ、こんな私は甘いだろうか?」

「いいえ。組織運営としては独断専行を問題視するべきなのでしょうが、アインズ・ウール・ゴウンはメンバーの意志を尊重するギルド。ネコムペテンテコ様とパエリア様の意志を汲んだ采配に異論があろうはずもありません。どうか、貴方様には思うように決め、指示を下して頂きたく存じます。我々配下一同はそのご下命の遂行のため、全存在を尽くす所存です」

「う、うむ」

(重いなー……)

 

「甘いのにも飽きましたね。ユリ、生ハムを。メロンもです。普通のやつですよ。琥珀ハムでも水晶メロンでもありません」

「畏まりました」

 お辞儀をして、去って行く。姿が見えなくなるまで歩いて行ったかと思えば、お盆を持ってすぐに戻って来た。

「お待たせ致しました。生ハムにメロン、そしてこちら料理長から、野菜の盛り合わせでございます」

「口直しですか。悪く無いですね」

 

「既にエ・ランテルへセバスとソリュシャンを送った以上、村で得られる情報は重要ではない。いや、例外はあるだろうが、優先度は低い。情報が目的で無いとすると、……何がある?」

「金銭、人脈、物品。直接的なものに限定するならばどれもございません。ただ、間接的に。セバスの報告にあったンフィーレアという名。エモット家の会話の報告にあった、ンフィーという名。これらを同一人物と考えると、多少は見えてくるものがあります」

「聞いた名だな。確か……タレントだったか」

「はい。他に、名のある薬師の孫でもあり、何かと利用価値はあるかと思われます」

 

「――さて。ここにいるのも飽きてきましたし、私は帰ります」

 パエリア、ついに立つ。

 

「お」

「おお」

 

「そうそう。そのウサギですが」

 料理長の渾身の一品をかじっている存在に視線が集まる。

「この場に居るということは、食べなかったのですね」

「あ、はい。しばらく頑張ったんですが、ナイフの刃が通らなくって……」

「ふむ。切れるナイフを用意しても構いませんが?」

 もちろん、脅威にならない程度のを。ちなみに包丁も田舎には無い。金属の道具は高く、料理用と他でナイフを分けようなどとしたら変わり者扱いを受けるのが田舎である。過酷。

「いえ、食べるウサギはこの子が獲ってきてくれるので」

「……なかなか使いこなしてますね。ええ、ええ。耳がよく、鼻も利き、盾にもなり、投げればゴブリンくらいは追い払えるでしょう。前歯で硬い木の実を割らせたり、木を倒させたり。もしそれがアナウサギであれば、穴掘りを応用し畑の開墾も可能かもしれません。ウサギマスターにあなたはなる」

「……? はい。やってみようと思います」

「恐らく貴方よりは賢いですし、言葉も通じますよ。後は、まあ。必要ないとは思いますが、私に用があればそのウサギに言えば呼ぶくらいはできるでしょう。来るかどうかは知りませんが」

 実際にはウサギではなくその影に潜むシャドウデーモンや配置される監視によって伝達されるし会話は全て筒抜けだったが、分かりやすくそこを誤魔化している様子にデミはもちろんモモンガも気付く。

 

「……デミウルゴスよ。地図はあるか」

「こちらに」

 懐から取り出された地図を机の上に広げると、周辺国家や地形が記されている。

「用……、用か。パエリアさんは用がある、と想定している。ではその用とはなんだ?」

「……あの村はモンスターの住処である森に隣接しており、これはエ・ランテルなどと比較しても分かるように非常に特異な立地にあります。脆弱な人間が魔物の生息域で生存することは困難であるため、通常は平野を選び、集落を築きます」

「例外の村、か」

「あるいは周辺国家の介入も考えられますが、得られている限りは兆候も無く、あの村にその価値も見当たりません」

「森の賢王、だったな。確かに怪しいが、それにしては……」

「はい。既に森の調査は開始しております。仮に森から魔物が現れ、という想定であれば調査如何によっては無意味となるでしょう」

「会議でも森の調査の話はあった。動植物、魔物の調査として手近な森を、と提案したのはネコムペテンテコさんの方。ならば国か? 兆候が無いのであればパエリアさん本人が状況を作るとして――」

 

「では」

「はい、ごちそうさまでした。それと、ウサギも。大切にします」

「んぐっ、……ごちそうさまでした!」

「ええ」

 去っていくパエリアに椅子から立ち上がりお辞儀をするエンリ。ネムもそれなりに躾が行き届いているのか、慌てて飲み込んでそれに続く。

 ユリが空いている食器を持ち、二人にお辞儀をして去って行き、その場に残るのは二人と一匹と二人には見えない無数のいろいろのみとなった。

 テーブルの上のケーキ類はユリが補給していたためまだ十分に残りがある。ネムはもうだいぶ満腹だったが、この機を逃してはいつこんなのにありつけるかわからない。多少きつくてもねじこむ。がんばれネム・エモット。今こそ君の意志の力が試される時だ。

 ところで。

 ショックでやや思考停止状態にあったエンリが今なんとなく少し回復した。

(お父さんお母さんにどう説明しよう)

 警戒心も麻痺していたエンリはつい先日のことをネムに話してしまったが、ネムだけでああも大変だったのだ。両親には黙っていた。

 しかし、今回のことを何もなかったと誤魔化すにはいくらなんでもネムが満腹すぎる。道草食ってた、と言うには家で見せるであろうハッピーな笑顔は障害になる。

 ちゃんと説明してもどうせ信じられないし、面倒なだけ。かと言って嘘をつくにはネムが口裏を合わせられるか。

 ……よし、レッツ過小報告。

「ネム。この名店のお菓子はおみやげに持って帰ろう。それと、失礼になるかと思って直接訊けなかったけど、きっとあの人は大商人のお嬢様ね。森の賢王の縄張りなら安全にお茶会ができるとひらめいてここに来たんだわ。ほら、金持ちの道楽ってやつ。街の近くじゃ雰囲気が出ないのよ」

 見たこともない白い紙(紙ナプキン)で残り物を包みながら流し込んでくる洗脳にネムは怪しい物を感じていたが、甘い物でお腹がいっぱいなため疑い回路は正常に動かず、わりと鵜呑みにしてしまう。

 これによって帰宅後。エモット夫妻は「断って失礼になったら良くないからお茶会に付き合って世間話をした」というエンリの主張をさほど疑いもせず信じたのだった。エンリ勝利。

 

「いやあ、逞しいですね(エンリが)」

「む、そうだな(ネムの食いっぷりが)」

 

 

 

 エ・ランテルの街を一台の牛車が行く。

 牛車は主に農民や農民あがりの商人が利用しており、それほど珍しいものではない。ただ一般的に遅く、襲撃に対して逃げるという選択肢を取りにくく、街から出て行く牛車を馬で追いかける盗賊すらいる。輓獣を使うだけの荷や金があり、牛まで手に入るのだから美味しい獲物でしかない。対抗するために冒険者を雇うには金がかかり、その上襲撃の確率が高い護衛というのは敬遠されやすく、なんだかんだで高くなる。できることなら避けたほうが良いが、そう忠告する者が現れることはそうそうない。

 なぜなら、まず言われたからといって買って維持できるほど馬は容易いものではない。更に、あまり賢くない者達で構成された世界においては、そうした優しさはしばしば弱さや隙として受け取られるため、人助けはともすれば自分や周囲を危険に晒しかねない。

 よって賢い善人は目を背け、賢くなく性格も悪いものたちは見下した視線を向け――――戸惑った。

 筋骨逞しく、角は天を突くようで、眼光は鋭く、美しい黒一色で、耳は小さく、首はすらりと伸びている。これは自分が持っていた牛という認識では間に合わないぞと思い直し御者に目を向ければ、そこに座るのは執事服に身を包んだ老人の姿がある。それなりに目の利く商人が見たならば、その執事服が自分では目の届かない物であると悟るだろう。

 車体は一見やや豪華な程度で一般的な馬車とそう変わりがあるようには見えないが、使われている木材を正しく答えられる者はいないだろう。

 つまり。

 

「あれは……何者だ……?」

 

 目立っていた。

 

 

「『お嬢様』。道を聞いて参ります」

 声をかけるとセバスは御者席より降り、近くの露天商に声をかける。

「少々お伺いしたいのですが」

 柔和な笑顔で差し出された銀貨は店主の口の滑りを良くし、心を弾ませて、今晩の酒のグレードを上げ、ちょっとした情報収集をスムースにした。

 高級な宿と、高級そうな商館の場所。聞き出した場所をそのまま実際に利用するかどうかはさておき、とりあえずこれからセバスたちエ・ランテル組はその辺りをとっかかりとして活動していくことになる。

 ではなぜその活動前にセバスが銀貨を持っているのか? それはネコムペテンテコの仕業だった。

 円卓会議にてミミックは金銭の獲得について四つの提案をしていた。問題です。この四つのうち、店主に渡した銀貨の出所はどれでしょうか?

 一、ワインの販売。これは当分の間商売ができるほどにある。実のところ酒はコストがかかることもあるが無限に湧き出るものすらあり、これだけでも困ることはないだろう。

 二、別の換金アイテムの販売。アインズ・ウール・ゴウンのトップシークレットであったが、この世界ではそう気にせずに使うことができる。

 三、沈没船からお宝をサルベージ。果たしてこの世界の海は船を浮かべて大丈夫なのか、という疑問はあるが試しに水圧に耐えられるシモベを調査に送ることに。

 四、恐怖公作戦。街に奴らを放ち、金を拾わせる。虫やネズミは食べて良し!

 

 ヒント。ちゃんと消毒はしたが、セバスは白手袋を使っている。

 

 元から。

 

 まずは宿。当面の活動資金としてはそれなりにあるが、流石に最高級の宿である黄金の輝き亭という選択肢はない。金銭的にもそうだが、節約しようが大金を出そうが結局のところ、ナザリック勢にとっては犬小屋以下のものでしかない。しかし、であればどこでも良いのかと言えばそうでもなく、エ・ランテル組の任務は情報収集と金策。安宿に泊まって見くびられるようなことがあっては商売に影響しかねない。後にエ・ランテル組の作戦が変更、追加された場合、そちらに影響することも考えられる。

 だからとりあえず、少しランクを落とすのみに留める。

 選ばれた宿は金色の水差し亭。黄金の輝き亭に少し名が似ているが、歴史で言えばこちらの方が長い。エ・ランテル最初の宿屋、といえばここでの名の通りようは窺い知れるだろう。

 金色の水差し亭という名は最初期の名も無い宿屋だった頃に、まだ訪れる者が少なく採算のとれない時に宿屋を建て、経営を始めることによって商人が気兼ねなく訪れることができるよう助けた功績に対し、王族から贈られた品が由来とされる。

 現在は盗賊の手によって失われてはいるが、金色の水差しは看板の絵にその姿を残している。

 同ランクの宿屋はまだあったが、この宿屋を選んだのはなかなか良い選択と言えた。例えば、

 

「ところで、宿はお取りですか?」

「ええ。金色の水差し亭にお世話になっております」

「おお、あの……」

 

 まず一つ、話がはずむかもしれない。そしてもう一つ、それなりにこの街に愛着がある者ならば歴史ある宿を選んだ選択に多かれ少なかれ好印象を覚えることは十分考えられた。それほどはっきりとした効果は望めないだろうが、ただ幸先は良い。

 実際にそれが作用したかどうかはともかくとして、セバスたちは特に問題もなく仕事をこなしてゆく。

 

 

 

 ノック。

「モモンガ様。エ・ランテル組の報告をお持ちしました」

 声掛け。

「アルベドか。入れ」

 許可。

「失礼します」

 そして挨拶ののち、入室。そんなパーフェクトアルベドはなにやら袋持ちスタイルで机の前にやって来た。

「こちらが金策の成果の一部でございます。二十分の一ほどではありますが、サンプルとしてお持ちしました」

「ご苦労」

「勿体無きお言葉です」

 勿体無いので労いの言葉などかけないでください、とまでは言わない。言えば困らせるのは確認済み。

 モモンガが蜘蛛糸製の手触りの良い袋――パエリアのオーダーにより作られたもの――を開くと、中には金貨が詰まっている。

「これが王国金貨か」

 取り出して見てみると、確かにずしりと重い感触がある。貨幣としての価値を感じさせる重さだ。

 しかし――

「くすんでいるな。それに小さい」

 ユグドラシル金貨と較べてしまえば、明らかに見劣りするものではあった。

「エクスチェンジ試験ではおよそ二分の一との結果が出ました」

「ということは、そう悪くもないのか。分からないものだな。いや、元より詳しいわけではないが」

「四十枚入っております。現在怪しまれないように取引を制限しているため多くはありませんが、必要であれば如何ようにでも。そこでなのですが……」

「む、どうした? ワインの品質に問題は無かったのだろう?」

「失礼しました。こちら、報告書です。はい。どのような問題も発生しておりませんが、目標金額はあるのでしょうか? 現状維持で不足が無いのかどうかの判断が我々では付きかねまして……」

「そうだったな。目標か……」

 実際の目的は、情報収集のために金は何かと必要になるだろう。まああればあるだけ便利だし、ついでに稼いでおいた方がいいんじゃないかな? という実にファジーなものだったが、それをそのまま提示するわけにもいかない。なんと言えばいいかな、と袋の中の金貨を弄びながら考える。

「む、この金貨は他のとは違うようだが」

「帝国金貨とのことです。同じ価値として、王国でも使えるようです」

「そうか。……そうだな、ではひとまず王国と帝国に屋敷を持てる程度で良いだろう。多少は余裕を持たせたいが、その幅については任せよう」

「かしこまりました」

 

 

「ふう……」

 報告書を読み終え扉の外へ消えて行くアルベドを見送ったモモンガはため息をついた。息をしないアンデッドがどうやって息を吐いているのかという謎は解決しない。

 基本的には一仕事終えた、というため息であったが、その後湧き上がってきた思いも一因だったかもしれない。

 唯一残ってくれた仲間、ネコムペテンテコ。しかし、あまり会話はできていない。

 居るだけで十分、という思いもあるにはあるが、やはり寂しい。

 なぜ話せていないかと言えば、もはや必須となった支配者としてのロールプレイに忙しいというのがまず一つある。しかし、基本的には優秀な配下が居る今、元々平均的な社畜だった鈴木悟にとっては生温い程度の忙しさでしかない。いつでも、いくらでも時間を用意することはできた。

 しかし、当のネコムペテンテコはセカンドキャラであるパエリアへと化したまま耐久お茶会。

 ならばお茶会に乗り込めばいい話、というところだったが、モモンガにはパエリア・エリアという存在が上手く理解できなかった。

 

 例えば、ネコムペテンテコ。

「おいどんは忍者でごわすよー」

「ほう? ハハハ、私に任せろ」

「ごめーんね」てへっ、的なエモーション。

 

 例えば、パエリア・エリア。

「ははあ、ほほお、訃報」

「宜しければ、小隊長と呼んでいただけますか?」

「空が青いので、私は帰りますで小隊長」

 

 気ままで掴みどころの無いところは共通していたが、ネコムペテンテコはまだ意味が通った。

 対してパエリアはわりと意味不明な発言をする。など、挙げられる違いも多かったが――なにより大きいのは、雰囲気だった。

 かつてのメンバーの中にも、この二人が同一人物と素直に信じられる者が少なかったほど、話してみればわかるくらいに考え方に違いがある。

 

 友人、ネコムペテンテコでもなく、かと言って全くの他人でもない。そんな"新しいかのような仲間"と仲を深めようと努力するだけの勇気は、当時既に減りつつあったメンバーを見送る他無かったモモンガの中に無かった。

 しかし、今。モモンガは活力を取り戻していた。仕事ですり減り、仲間によって癒されることもなく、希望に縋ることでただ低水準に維持され続けていたものが、回復した。

「行こう。……誰かいるか」

 パン、パンと、手を叩くとそう間も開けず扉がノックされ、入室の許可の後にメイドが入って来る。

「お待たせいたしました」

「パエリアさんに会いたい。居場所は分かるか?」

 

 

 

 超巨大図書館、アッシュールバニパル。

 元々巨大だったこの図書館はネコムペテンテコの資金力で更に拡張されており、あったはずの天井画は四階建てになったせいで一階からはよく見えない。デザイナーへの冒涜に等しい強引な改造だったが、倍以上に増えた本の迫力を見れば文句も出ないだろう。

「パエリアさん?」

 パエリアは聞いた通り、図書館に居た。読書スペースで本を読んでいる。

 本来飲食禁止が図書館の作法ではあるが、当然至高の四十二人に適応されるものではなく、机の上には普通にカップやケーキが置いてある。お茶会は続いていた。

「パエリアさん」

「……おお、モモンガさん。来てくれたんですが」

 気まずいことになりやしないかという恐れは、あどけない童女のような笑顔での歓迎に溶けて消えた。

「ごめんなさい。報告くらいしようと思ったのですが、モモンガさんは私と話すのが苦手かなと」

 気まずかった。

「すみませんでした。ネコさんと同じように接していいのかどうか、よく分からなくて……」

「ああ、なるほど」

 パエリアは栞を挟むと本を閉じ、立ち上がる。

「そうですね。では、上へ来てください」

 ぴょんと跳び上がり、二階のバルコニーの手すりを足場に三階へ跳び、もうひと跳ねして四階まで辿り着いた。

 別に一息で行けるだろうに。モモンガは魔法で浮き上がり、後に続いた。

「では、ここの棚を一通り見てみてください」

「ここの本をですか? はい……」

 言われて見てみると、明らかに見えてくる傾向があった。

「恋愛、小説……?」

「漫画もありますよ。恋愛に限らず、少女コミックの類が集められています」

「そのようですね。しかし、これがいったい?」

 確かに、モモンガでも知っている程のタイトルが見て取れた。

「ネコムペテンテコはこれを読みません。私達の本体の好みでも無いでしょう」

「それは、つまり……」

 では誰の趣味か? 決まっている。この四階がまるごと、パエリア・エリアのための――――

「三階も半分ほどが私の好みに合わせられています。ネコムペテンテコの趣味であるSF、ファンタジーの棚を侵食するかのように」

「趣味が違う。別人、ということですか?」

「まあ、概ねそういうことです。少なくとも、私の認識としては。これで答えになったでしょうか?」

「ええ、よく分かりました」

 よく分からないけれど、よく分かりました。

 省略された部分を戻すと以上のようになる。なんだかよく分からないけれどとりあえず、必要なことは分かった。ふむふむなるほど、別人として接すれば良しと。

 それが何故なのか、元からなのか転移後からなのか等、細かい理屈が気にならないでもないが、そこは社会人。相手を不快にしない話術でもあればこの限りではないが、通常は根掘り葉掘り訊かないものである。

「それ以上は私が説明するより、ネコムペテンテコにでも訊いた方がいいでしょう。さあさ、ここではモモンガさんは落ち着かないでしょう。下へどうぞ」

 パエリアは階下へぴょんと跳び降り、音もなく着地した。モモンガも後を追って下へ降りると、待っていたのは箱だった。

「やあ、モモンガさん」

「あれ? どうも、ネコさん」

「気を利かせたようだ」

「……みたいですね。申し訳ないです」

「今度会ったら撫でてやると良い。うむ、では会議と行こうじゃないか!」

 

 

 円卓に移り、会議となる。

 その内容はと言えば――――

「まだ確実じゃないけど、セバスたちの調査によると私達の力はこちらでも十分通用するらしいね。ナザリックのことはそろそろ落ち着いて来たことだし、モモンガさんも外を楽しむと良いんじゃないかな」

 のんびりしたもの。

「いえいえ、行くならネコさんも一緒ですよ」

「ん、私も出るかー?」

「ええ。久しぶりに一緒に遊びましょう」

「そだねー。なんとなく片方ずつとか段階を踏んでーて思ってたけど、大丈夫そうだし、まあいいか。よーし楽しもう!」

 最悪の想定ほど過酷な世界でないことは既に判明したため、ネコムペテンテコが前回の会議にて強引にねじ込んでいた遊びの予定が前倒しとなった。

 順調に内容が組み立てられて行き、早速明日お出かけすることと相成った。

 

 配下も連れて。

 

 

 

 トブの大森林。自然が多く、ほぼ人が立ち入ることが無いことが遠足の場所に選ばれた理由である。

 貴重な薬草やらいろいろある森であるが、中でも特筆すべきは三体の主の存在だ。魔法の力を帯びた大剣を持つ、東の巨人ことトロールのグ。魔法に長け、知恵を持つナーガ、西の魔蛇リュラリュース。そして巣穴に引っ込んでガタガタブルブル震えている南の大魔獣、森の賢王。

 生半な武器では傷もつけられぬ毛皮。自在に動く蛇の尾。人語を解する知恵を持ち、幾つもの魔法をも扱える――破格の力を持った紛うことなき大魔獣である。

 ガタガタブルブル震えてる。

 

 ざっざっざっざっざ、と。無数の音の規則的な連なりが延々と続いてゆく。

 知恵ある者が聞けば"行軍の音"と理解し、察しの良い者ならばその乱れのない音から恐ろしいほど高い練度が読み取れるだろう。

 しかし平地であればまだしも、こんな山中で――? 更に、その者が人並み外れた好奇心をも兼ね備えていたならば、心を凍らせる光景を目にすることになるだろう。

 魔法の武器を手にしたアンデッドの大群が歩いていた。そこらの生者よりもよほど滑らかな動きで、流水のように木々を避け、一切乱れること無く進み続ける姿はそれこそが魔法のよう。

 こんなのに関わったら死ぬ。

 

 好奇心というわけではなかったが縄張りなのでつい見てしまった大魔獣はガタガタブルブル震えていたが、幸い今回この軍勢は彼女に用がない。どれだけ息を潜めて穴蔵に引きこもろうとナザリックに勢による警戒網から隠れきれるものでは無かったが、とりあえず今はスルーされていた。

 山中には行軍の足跡が明らかすぎるまでに残っていたが、見落としというわけではない。作戦の終了の後には当然魔法による偽装工作が施され、やりやすくするためにに枝はなるべく折らないようにと指示が下されている。

 人間には不可能であろう注文をこなし、彼らが向かう先は事前調査で見つかっていた木々の少ない開けた場所――――絶好のピクニックスポットだ。

 

 

「なんだか、ちょっと物々しいですね」

「フフ、我々への愛情と考えましょうよ」

 さーて本日のピクニック警護部隊は!

 

 アルファチーム・森の動物たち。目障りにならない傭兵部隊である。

 ブラボーチーム・ちゅんちゅんズ。可愛い小鳥たちは捨て身の体当たりや自爆の性能が優秀だ!

 チャーリーチーム・悪魔さんたち。これはお茶会のと同じ。

 デルタチーム・待機組。転移でやって来る主力部隊。

 エコーチーム・遠距離支援部隊。パンドラが弓を構える。

 フォックストロットチーム・同席し、給仕など。メイドたちともう一人。

 

 ゴルフチーム・アンデッドの軍勢は邪魔にならないよう森の木々の中に隠れてはいるが、やはり目を凝らせばちらほらと。モモンガはそれを気にしていたが、ネコムペテンテコの方はそうでもないよう。

「まあ、この分だと調査が進めば護衛も要らなくなるさ」

「ネコムペテンテコ様。強大な力を持つ神たる御身にとって本来警護などは必要ないこと、理解してはおりますが」

「ああユリ。露払いや演出で死ぬ役はあって良いと思う。私その辺の理解あるから、安心してて」

「……はい」

 モモンガ的にはやめようよーとツッコミを入れたかった場面だったが、初めてのピクニックにどうしたらいいものか戸惑い気味なのでただ用意されていく品々を眺めるばかり。

 ピクニック? 自然の中で、食事? ああ! アニメで見たことあります!

 そんな平均的現代人程度の知識しか持たないモモンガにはこの自然の中という異常な環境で何をしたらいいのか検討もつかない。

(考えたら俺、アンデッドじゃん! 飲食できないし……)

 今更思い当たった問題点に内心頭を抱えてすらいた。

 しかし――――

 

「あれ? もしかしてモモンガさん、ポリモ無い?」

「あっ」

 

 解決した。

 

 

 

 《ポリモーフ/変身》。

 同意した対象の姿を任意の動物や人型生物へ変える効果を持つこの魔法を用いることで異形種が人間の街へ侵入するなど、姿による制限から開放される。

 下位に《オルター・セルフ/自己変身》、上位に《グレーター・ポリモーフ/上位変身》があり、人になる程度であればそのいずれでも可能。

 ただし見破られればタコ殴りになること必至なため実際にはそこまで大したことはできず、モモンガが修得していなくてもおかしくはないが。

「……《グレーター・ポリモーフ/上位変身》」

 しかし冴えない男、現る。

 

 

「ひょっとして忘れてた?」

「はい。と言うより、小さくなる魔法として使っていたもので」

「あ、ネコンガさんか。そういえば使ってたよね。シェイプの可能性もあったけど、やっぱポリモだったか」

「ええまあ。やっぱりグレーターあれば完全に死に魔法になるビーストシェイプが限りある魔法の容量を潰すのは耐え難いですから」

「わかる」

 雑談。かつてあった、何でもないような光景。そして、配下一同がほぼ絶望視していたもの。

 アルベドは涙を流しながら皿を並べ終えた。シェフと食後のワインについて相談してきますと伝え、崩れた化粧を直すべく中座するアルベドに、ルプレスギナがお伴しますと付いて行く。護衛からタンクが減るが、ネコムペテンテコがこっそり送ったメッセージによる指示には逆らえない。

 ネコムペテンテコがモモンガの気を引きつけているうちに、二人は脱出を果たした。

 

 

「……ひどい顔ね」

「アルベドざまこぞ……」

 化粧のないルプレスギナは泣き顔だけでひどいもの。

 残った面々は種族特性により泣くことはないが、こうして化粧室に集った二人は戦闘不能だった。

@ピクニックってお酒飲むんでしょうか? さあ。一応備えましょう、という感じの会話。DOPが泣かないかどうかは不明だけどナーベ泣かなそうだから。

 

 

「これは……凄い」

 サンドイッチを一口かじり、咀嚼し、飲み込んだ後、人ンガが漏らした言葉は小さいながらも絶賛の言葉だった。

「むっしゃむっしゃごっくん。向こうじゃ不可能だよねー」

 手のないネコムペテンテコのために、箱に入れる役はシズが担当。

「きっと自然が当たり前に存在していた時代でも、この味を出すのは無理なんでしょうね」

「神代の昔でも無ければね。そう、あれは三千年前。私がまだ箱を持たない一体の魔物であった時……」

 人ンガは昔語りをスルーして、後ほど伝え聞いたシェフが感涙、気絶するほどの勢いで食べ進めた。

 ネコムペテンテコはかつて自分が体験したという、知恵だけを武器に神々から食材を奪い取っていく話を即興で創りあげてゆく。

 全てが集まったところで騙し取られたことに気付き怒り狂い奪い返しに来た神、センモータにあわや殺されそうになるネコムペテンテコ。その不滅の神はかのワールドアイテム、聖者殺しの槍をリスク無しで発動させたが、槍がネコムペテンテコに突き刺さる直前、旅の道中でチーズ作りの生け贄にされそうになっていたところを助けた少女が飛び出して身代わりになった。灰も残さず消えた少女に見向きもせずネコムペテンテコは不敵に笑い、目前の神の家のゴミ箱から拾ったアイテムを使用した。

 直後、食材を集めた倉は蒼き炎に飲み込まれる。魔界の炎だ。あまりに由緒正しい神であるセンモータにとって魔界の炎は耐え難く、炎の舌に一舐めされるだけでも即死級のダメージとなったが、当然、死ぬことはない。

 一方魔界の炎にとって、神は最高の燃料となる。燃え盛るセンモータ。業火に焼かれ、食材は消し炭? いいや! ここでなんと神と悪魔が初めてかもしれない共同作業をやって見せたのだ。再入手を繰り返しスナック感覚でロンギヌスを振るう神センモータには敵が多く、そのうちの一柱が手を貸した。料理の神、クイラード。そして魔界の炎ブルアランゴ。最高の薪を寄越した報酬として火力を調整してくれた。食材は問題なく残っており、クイラードは魔界の炎を使い調理を始めた。料理はそう時間もかからず完成。同時に薪も姿を消した。ブルアランゴが魔界へ連れて帰ったのだ。

 毒々しい色に焼けた倉の中でネコムペテンテコは一人料理を食べる。さすがは神の料理と言うべきか、この料理効果は恒久的なものだった。神と魔の作品による効果。今現在ネコムペテンテコが魔神となっていのはこの影響も少なくないかもしれない。

 ああ、味はすごく良かったけど、たぶんおまけで付けてくれた食器の価値のほうが高かったよ。だって全部宝石や激レアメタルだもの。

 そんな話をメイドたちは耳をダンボのようにして聞いていたが、話はなーんちゃってで締められた。

 

「良く思いつきますね」

「ラジオの仕事してたからねー」

「へえっ! そうなんですか」

 これまでにもちらほらと芸能関係の職であるらしい話はあったが、明言したのは初めてだった。当然喰い付く人ンガ。

「毎週ともなるとフリートークをどうでも良い作り話で乗り切る力も付こうと言うものだよ」

「どういう番組なんですか……」

「リスナーから"あの話の続きを"ってリクエストが来るのがすごく困った」

「想像がつきませんよ」

 

 ワイン到着。

「お待たせ致しました」

「ご苦労」

 アルベドが用意したワインクーラー(氷の入ったバケツ)には三本のワインが入っている。

 銘柄は、影のワイン。不可視と暗視の効果を持つそこそこレアな品。古城などに沸く。

 シェイン。グレードは高いが普通のワイン。普通の酒効果しかない換金用アイテム。

 ファイアブランド。氷耐性。商人が持っているが、なぜか非売品。船や倉庫から奪うことでまとまった量手に入る。

「ふむ。モモンガさん、なんにする? 私は飲めないけど」

「あ、俺もお酒はあんまりです」

「ありゃー。アルベド、そういうわけだから、私のワインセラーから取って来て欲しいものがある」

「念の為、用意して参りました。ナザリック・ノワール、ノンアルコールでございます」

「有能」

「恐れいります」

 アルベドが持って来たものとは別に、ルプレスギナが隠し持っていた。瓶はユリに手渡され、開栓され、デキャンタ(ガラス容器)に移し替えられたのち、グラスに注がれた。

 やや鈍いモモンガさんにもナザリックの名を冠するワインのラベルにミミックの絵が描いてあれば、間違えようもなく察する。

「これは、ネコさんが?」

「ふふふ。やはり第六階層を使ったブドウ生産には気付いていなかったようだね。品種改良からやったとも!」

 ファーマーのNPC(傭兵可)を配置して数日おきに指示をする。根気よく繰り返していけば新しい効果を持つ品種が生まれ、名を付けることができる。

 このままでも食事効果はあるが、錬金術によりワインにすることで実用的なレベルへと変わる。

 昔は金策に使われていたが、アップデートによりあまり意味の無くなったシステム。

「寝る前にちょろっとログインした時とかに暇潰しにね」

「いつ寝てたんですか」

「ははは」

 たぶん、ここ一年の話。

 そして、同じように寝る前はログインしていたモモンガと鉢合わせ無し。

 =不規則な生活。

「いままで試飲なんてできなかったけど、良い味だ。ほかと比べてどうなのかは知らないけどね」

「不思議な香りですね。……ああ、美味しいです。慣れてないので同じく分かりませんが、すごく濃厚で」

「うん。ほんとにこのまま飲むのか? ってくらい濃いね。……もしかして、アルコール抜いた分濃くなってるのかな」

「あー、実際の味まで考えてレシピを作らないでしょうし、きっとそれですよ」

 

 濃縮して還元しなかったぶどうジュース。それはちょっと濃かったがとても美味しく、二人は自然の中でのランチを楽しんだ。

 これこそ、のちの世に言うモモ・ネコ大美食時代の到来を告げる出来事であった。

 

 食後。二人は別行動をしていた。

 モモンガはメイド達&アルベドと談笑。小市民なので、さきほどまでの放置を気にしてのこと。気を付けてはいたものの久しぶりに人の感情を取り戻した上でのそんなに経験のない友人との食事からついガードが甘くなって聞かせていいのかどうかという内容を話していた自覚があるため、アンデッドへ戻った上で。食べた物はドバッと零れ落ちた。

 ネコムペテンテコはパエリアへとモードチェンジし、散歩に来ていた。

 

「……川の水というものは、無色とは限らないのですね」

「はい。この色は、枯れ葉や枯れ木から染み出す成分によるものと思われます」

 デミウルゴスによる解説の通り、川は枯れ葉の色で染まっていた。パエリアが想像していたものは森の緑を映した透き通った水が苔の生えた岩の間を流れる様子だったが、無いものは仕方ない。

「釣り竿を」

「ここに」

 事前の指示などは無かったが、用意されていた竿を受け取りパエリアは竿を振るった。

 エサはデミウルゴスが装着済み。浮きも針も事前調査によってパーフェクトな状態に仕上げられた竿により、釣り初体験のパエリアはすぐに魚を釣り上げた。

「お見事です」

 ぱちぱちぱちと、デミウルゴスが心からの拍手を贈る。

「この魚にカナザワと名付けましょう」

「既に名が付いていたとしても、それが記されたこの世全ての書物を修正してみせましょう」

「別にいいです」

「はっ。承知致しました」

 あちらの世界で言うならば、かつてのヤマメくらいの当たり前の川魚。現代では野生絶滅の高級魚なのでかつてのという表現しかできないが、だいたいそんなもの。

 用意されていたバケツにカナザワを放り込み、もう一度川に針を放り込む。デミウルゴスの「餌をお付けしましょうか?」という申し出を断って。

 しかし、釣れる。バケツを埋めるような勢いでどんどん針に喰い付く魚たち。パエリアは針をむしり取り、糸だけを川に垂らした。

 流石に何も釣れなくなり、ただ時間が過ぎて行く。

 パエリアはプカプカ揺れる浮きと茶色い水を眺め、微動だにしない。瞬きをせず、呼吸で胸が動くことも、風で髪がなびくこともなくじっと柱のように立っている。

 異様ではあるが、以前にもあった姿。デミウルゴスは動揺すること無く見守り続けた。

 

 

 

「決めました。帰ったら玉座の間へ配下一同を集めてください」

 

 

 

 

「世界征服です」

 

 静寂の中に、声が響いた。

 

「世界征服です」

 

 もう一度、確認するように。

 

「世界征服をします」

 

 心を決めるように。

 

「我々四十二人は、かつてこのナザリックがあった世界の生まれではなく、別の世界から影を落とすようにして干渉し、ナザリックを作りました。

 その世界――――私が名付けるならば、イデア界。そこは、そう遠くない滅びが約束された世界でした。

 木々は枯れ、土は腐り、水は毒であり、空すら汚れ、息をすることにも支障がある。

 実らず、報われず、自由はなく、かと言って孤独すら許されない。

 どうしようもない詰み。逃げ道も無く、気を紛らわすためか、多くの者が影を落としました。

 

 しかし、生存が難しい世界では、それもそうそう続けられるものではありません。

 その理由は様々でありましたが、メンバーは姿を消して行き、私達だけになって。

 

 そうして、私達は、今ここにいます。

 

 花は咲き、木々が茂り、土が肥え、水が生き、空は透き通り、夜には星々が現れ、森も海も土の中にも生き物が溢れ――――私は呼吸をしませんが、あの森のなかにはきっと緑の香りがあるのでしょう。

 私は仲間たちを呼び、それを嗅がせ、遮るもののない日光や、毒のない雨の中を歩かせたい。

 つまり。みなを、この楽園へ招く。

 

 そのために転移の謎を解明し、行き来を可能にする手段を探す。その小目標として、とりあえず世界を征服します。

 それは私一人でもできますが……」

 

 パエリアはしもべ達を見渡す。頭を垂れる面々は、頭上に言葉を素通りさせたかのように動きがない。しかし、言葉にしない熱意は伝わってくるようだった。実際に、室温に影響を与えるほどに。

 

「ところでモモンガさん。相談したいのですが」

「こんな時にですか」

 パエリアは自身の斜め後ろ、玉座に腰掛けるモモンガへ話しかける。

「世界征服をしようと思うのですが、どうでしょうか」

「今更ですか」

 モモンガは、思考を巡らせる。既に答えは出ていたが、しっかりと応えるために。

「……正直に言います。こうして集める前に、まず相談して欲しかったです」

「ごめんなさい」

 アインズ・ウール・ゴウンは多数決のギルドである。本来、大きなことをする時は相談するのが原則。

 ただ、それは個人の自由を縛るものではない。今回のように、自分で何かをするというならば止める理由は無い。無いはずだったが、今は配下が居る。個人の自由と言えるほど身軽ではなく、それを無視したところで、事はギルド全体に関わる。完全な違反では無いとしても、まあグレーではある。

 しかし、暴走などはいつものこと――だった。憤りは確かにあったが、こう言い訳もなく素直に謝られれば消え失せる種類のもの。

 

 モモンガは転移の後、こう思っていた。自分たちがこうしてこの世界に居るということは、他の仲間達も実は来ているのかもしれない。

 探したい気持ちはあった。ただ、一人であれば兎も角、おおよそ一人とはいえ仲間は居るのだ。それを巻き込んでまで、危険かもしれない捜索を行うというカリスマを鈴木悟は有していなかった。

 

 居るかもしれない仲間を捜索。

 向こうの世界から仲間を連れてくる。

 手法に違いはあっても、つまるところ想いは一つ。そう思い当たって、モモンガの思考はなんかネガティブな方へ向かう。

(だったら、俺の方こそ、相談するべきだったんじゃ……)

 いいや、常識的な判断。

(言い出さなかった。断られるのが恐かったから。……仲間を疑ってしまった――――)

 無意識に"情報収集が一通り済んで落ち着いた後にでも話そう。断わんないだろうし"と思って後回しにしていただけのことにも、屁理屈は付くもので。モモンガはどういうわけか無意味に落ち込んで――――キラーンと輝いて落ち着いた。

 それをスルーして、パエリアは待つ。まだ受け取っていない答えを。

 

「……こちらから言い出すべきだったのでしょうね」

「では」

「ええ、やりましょう」

 

ゆっくりとお辞儀をして、配下へ向き直り。

「お前たちも、使ってやりましょう」

 声なき歓喜が広間を包んだ。

 

 

 

「いやいや。集めておいて一言も喋らせないなんて、できませんって」

「彼らは分をわきまえています。あのくらいで問題ないのですが……まあ、モモンガさんはそれで良いのでは? 優しい支配者。私はプレーンで行きます」

「分担ですか」

「みかん系は好きですよ」

「?」

 パエリア・モモンガによる初の円卓会議は実に自然に進行していた。

 

 

 




これの後書き直しとして

オバロ2
があるがあまり進まなかった。17KB

オリジナルにしたものもある
オバロフォロワー 21KB
気がついたら配下とかいなかったのでボツ
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