『──じゃあ、ほんとに何もないんだな?』
「う、うん。大丈夫だって。怪我もないし」
『そうか。ならよかった。……ところで、お前……そんな声だったか? 昔っから女みたいな声だったけど……』
「あ、あー! ちょっと周囲にヘリウムガスが散布されててー!」
『……大丈夫か? 今どこにいる?』
「だ、大丈夫! 大丈夫だから! 切るぞ!」
返事は待たなかった。通話口の向こうから「ちょ──」なんて聞こえた気がするがスルーだ。それがいい。……この場面を見られたら、困る。なぜなら、今は魔法の練習をしているからだ。
『今のは知り合いかい?』
「おう。高校のときからの付き合いだ」
『ふーん……君にも友達がいたんだねぇ。僕は少し安心したよ。僕がきてからというもの、君は毎日部屋にこもってゲーム三昧……外に出るそぶりすら見せないときた。心配にもなるってもんさ』
「後方保護者面やめない? あ、これで500個同時操作だな」
『ほんとに魔力の扱い上手だね君』
──俺が魔法少女になって、一週間が経った。その期間、細かい動きはなにもない。一向に姿は戻る様子もなく、そしてこのステッキも俺の前から消え失せる様子を見せない。さすがにこの間のように突然の攻撃をもらうのがこわくなって、魔法の練習を始めたのだ。家の中でだけれど。
今やっていることは、魔力を自在にコントロールする練習だ。この間使い果たした魔力は2日も寝ればすぐに復活した。自分がすこし恐ろしくなる。
──俺が天才過ぎて怖いわぁ。いやー怖いわぁー!
『んー……魔力の扱いはもうわかったし、次のステップに進むべきかな。術式の扱いに』
「術式って……そういえば、呪術も魔法も教会術も全部術式を使うんだろ? ひょっとして俺も使える?」
『派閥の専用術式は基本的に秘中の秘だし、呪術と教会術は魔力では発動しないからねぇ。使えるにしても魔法なんだけど……』
「あれ、なんでその2つは使えないんだ?」
『呪術は呪力、教会術は魔力を精錬しないといけないんだ。教会術は複数人で1つの術式を扱うからね。魔力の癖を取り除く必要があるんだよ。呪術に関しては……まぁ、魔力とはまた別なんだよ。呪力は持っている人間が少ない上に、魔力より扱いが危険なんだよ。呪術師が表に姿を出さないのは、敵を作りやすいってこと以上に呪術師自体が少ないからなんだ』
「ほえー……あ、魔法ならいけるんだな」
『魔法少女は魔法少女術式を使えるけど、普通の魔法も使えるには使えるね。魔法少女術式をおすすめするけど』
やだよ。桃色のビーム撃ったり純愛♡十字砲火したりするんだろうし。誰がやるか。
『それと、血族の隷属魔法も使えるよ。彼らは血に含まれる魔力経由で契約を履行するから』
「お前みたいだな」
『はっはっはー、……僕をあの寄生虫共と一緒にしないでくれ』
「……ごめん」
謝っておく。ガチトーンだった。……そんなに嫌なんだろうか? 教会に対してよりももっと重たいものを感じたんだけど。
『……君が血族の魔法を使うのは不本意だけど、一応術式を持ってるから使いたいなら使っても良いよ。君が使いたいならだけど』
「血族魔法って……たしか、人の血をもらって従者になるんだよな? 飼われたい欲ないから別にいいや」
『…………………………ほっ』
クソデカため息だ……。
にしても……術式がどんなものなのか、よくわからない。術式を持ってるって言ったし、ひょっとしたらなにかしらデバイスに保存しておくものなのだろうか。だとしたら、使いたい術式をゾラ経由で引っ張り出す必要があるのかもしれない。
戦闘中にそんな細かい指示を出せる自信はないなぁ……。
『だからこそ、これがあれば万能! っていう、自分の術式を用意するんだ。これは既存のものだと対策されやすいから、オリジナルの術式のほうがいいかな。有名なところだと【勇者】が使う【神代回帰】とかだね。これは結界系の術式なんだけど、引きずりこんだ相手に対して
「なにそのチート……」
そんな効果を付与できるってなんだよ……。
『一応、使わせないもしくは引き分けに持ち込むとかで対策はできるんだけどね。それにしても規格外の術式だよ』
「つーか勇者とかいるんだ」
『うん。魔王もいるね』
いつからこの世界はファンタジーになったんだろう。
『まぁ、術式作製から行こうか。君が、どんな場所でも使えると思う、汎用性のある術式を考えてくれ。それを僕が術式に加工する』
「おー」
と、考え始めたところでインターホンが鳴った。
「……うげ」
相手は親友だった。
『家にいるよな?』
『もしもし?』
『ひょっとしてでかけてるのか?』
『返事をくれ』
「ちょっとまって、……と」
ケータイに届いた怒涛のメッセージに、なんとか返す。
……体はもとに戻っていない。どうしようか? たぶん、このままで出たらすっごい警戒される。けど家から逃げるのも難しいだろう。
……どうすればいいんだ。
『じゃあ前の君に誤認させる術式を使おう。たぶん、それで大丈夫だと思う』
「ほ、本当か? よし、頼む」
ゾラを持つ──魔力がゾラへと移る。魔法陣が展開され、術式が発動した。
「これでほんとに大丈夫だな!?」
『うん。一般人相手ならこれで問題ないよ』
よし。
メッセージに今出る、と返して、そのまま玄関へと向かった。すごくどきどきする。……まさか、家に来るとは思ってなかった。あんまり遊ぶこともなくなってたから、来ないものだと思っていた。メッセージのやりとりはずっとしてたが。
深呼吸1つ。
「お、お待たせ。久しぶりだな」
「誰だお前」
ちゃきん。
そんな音がして、俺の額になにかが突きつけられた。ひんやりとした……鉄っぽいものが。
「その程度の幻術で俺を騙せると思ったか? サキはどこだ。返事次第では殺す」
「ふぇぇ……」
変な声が出た。
でも流石に、親友に銃を突きつけられて殺害予告されたらこうなると思う。
てか、なんだこの銃? こんな形状のものは見たことないけれど……なんか、変身ヒーローが使ったりするやつによく似ている気がする。
そんなことを思っていると、ゾラが俺の手から離れて親友に向かって突撃した。ゾラは槍のように尖っているため、当たるといたいはずだ。と思うと、親友は飛び退いて離れた。ゾラが手に戻ってくる。魔法陣が展開された。魔力を注げば、魔法が発動する状態。
『で、なんで君はここに来たのかな──返答によっては、殺す』
「バルガ・ゾラ……
新しいワードがでてきた。災厄の龍王ってなんだ。他にも龍王がおるんか。
『試してみるか?
「──吼えるな。封印された龍王風情が」
親友の腰にベルトが巻き付いた。そして、なにかアクセサリーのようなものを取り出し、
「──変し──」
「みにめてお」
俺は小規模の隕石を落としたのだった。
『なんで僕を介さず魔法を使えるんだこの子……』
「変身中の攻撃は卑怯だろう。怒るぞ」
「まず俺が怒ってんだよ座れ」
とりあえず、地べたに2人を正座させた。ゾラはステッキだから地べたに突き立てた。
「んで……お前はしんゆ……んっ、
「ああ」
親友呼びしてるのが気恥ずかしくなり、セリフの路線変更をする。それに対して普通に返事を返された。やっぱり親友は親友だったらしい。
……あの銃が気になるが。あとゾラを知ってたこと。
「俺を親友と呼んだってことは、お前は俺のソウルメイトことサキちゃんで良いんだな?」
「ちゃん付けやめろ。……そうだよ。てかじゃあなんで銃向けてきたんだよってかあの銃何?」
「そりゃあ、これまでこっちの世界とは無縁だったお前の家に、お前に見せかけるように幻術を使うやつがいたら警戒するだろ。銃は……まぁ、俺の武器だ。にしてもお前が魔法少女か……」
「……なんだよ」
「似合ってるぞ。ステラさんも喜ぶだろうな」
『すてッ……!? 流星の魔法少女!? なんでその名前が……』
「ん? なんだ、知らなかったのか? ステラさんはこいつの母親だぞ」
『あー、どーりでこんなに魔法少女適正が高いのか……魔神の子供だもんなぁ……』
「俺も知らなかった設定が唐突に明かされ始めた件」
流星の魔法少女ってなんだよ。魔神ってなんだよ。
たぶん、魔神は父親だろう。有名人なんだろうか。にしても、身内が恥ずかしい二つ名を持ってるってなると……こう……精神にダメージを負うな。
とりあえず、さっきの緊迫した雰囲気は霧散した。よし。親友と戦いとか、したくないもんな。
『というか、だから君も彼らとつながりがあったんだねぇ……』
「まぁ、そういうことだな。普通の学生で、後ろ盾もなにもなかったからあの2人には本当に世話になった」
「……いつの間にそんな仲良くなってんだよぉ」
キレそう。
『ああ、ごめんね。有名人と出会ったもので、ちょっと話に集中しちゃった』
「嫉妬か? サキは変わらないな。よしよし」
頭に手を置かれた。子供扱いしやがって、俺はこんなのじゃ喜ばないからな。
『うわぁ……めっちゃ尻尾振ってる幻覚が見える……』
「馬鹿なこと言うなよ!? ほ、ほら、もういいだろ!?」
「あとちょっと、動くな」
「なんでぇ……」
頭から手が離れた。思わず、さっきまで手があった場所を触れる。ちらり、と親友を見上げて、
親友の手が素早く動き、何かを掴んだ。
『狙撃か』
「ああ。場所は──あのビルの上だな」
「え? ……え?」
親友の手にあったのは、溶けた金属のようなもの。それを素手でにぎってて大丈夫なんだろうか? と思ったが、大丈夫なんだろう。ちょっと指を伸ばしてみる。
手を遠ざけられた。
「熱いから触るな。ちょっと行ってくる」
「え、行くって──」
と、言い終わる前に、親友は走り出した。家の壁を蹴り、そのまま屋根へとあがり、屋根伝いで走っていく。
俺も急いでゾラを取り、飛行魔法を発動した。
飛行魔法も、最初のときのものからだいぶ変化させた。翼をあまり大きくせず、最低限の大きさにしたのだ。魔力の消費は、これでだいたい三分の一くらい。
ゾラ曰く、もっと効率的な飛び方があるらしいが、そっちはどうもイメージが付かなかったのでこのとびかたを今でも採用していた。
「──てか、速いなあいつ! 割と本気で飛んでるんだけど!?」
『単純な速度の差だね。人間が出せる最高速を明らかに越している。どれだけ変身して戦ってきたんだろうね、彼。状況判断といい、体の使い方といい、明らかに熟練者の動きだよあれ。君とはまた別の方向での天才──かな。僕を削げるって言ったの、あながちブラフじゃないかもねぇ……ふふ。君と出会ってから驚かされっぱなしだよ』
「そうか……? ってうわ、壁走ってる。なにあいつ……」
昔から運動は得意だったはずだが、あれは完全に人外の動きだ。そう言ったら、銃弾を素手で掴んだりも十分おかしいんだけど。
──目的地にたどり着く。
「……俺を待ち構えたのか、サキを待ち構えたのか。どっちにせよ迷惑な輩だ」
そこには、10人ほどの女性の集団が待っていた。あー、なんならめておを使って先制攻撃してもよかったかもしれない。
『まぁ、結界は張られてるから別にそれでもよかったけどね』
「あ、張られてたんだ? 全然気づかなかった」
『気付けるようにならないとね。結界は基本、戦闘開始の合図だから。自分が狙われてることを察せれるようになったら、心構えができるようになるよ。目指そうね』
はーい。
見ると、親友がさっきも見たベルトを装着していた。そして、
「変身」
──その姿が変化する。見慣れた親友の姿から、変身ヒーロー──まるでそれのような容貌に。
「……さて。一瞬で終わらせよう」
そして、
──気づいたときには、すべて終わっていた。親友は倒れ伏した集団の向こう側にいて、変身を解除している。
なにが起こったのか? 疑問に思い、ゾラへと目を向ける。
『……時を止めたんだ』
なんだそれ。
マジか、そんなことができるのか。変身ヒーローすげぇ。俺も魔法少女じゃなくてそっちがよかった。
『酷いなっ!? 君なら術式さえ組めば時間を止めることくらいできると思うよ』
「そういうもんかなぁ……」
……あれ?
親友が、また変身している。なんだろうか。そう思った瞬間、俺は親友の腕の中にいた。
時間停止でこっちまで来たのだろう。そして、その場から飛び退き──
──そして、先程までいた場所に、雷が落ちた。
衝撃に身をすくませる。目を開くと、雷が落ちた場所にはだれかが立っていた。
『──マジか、嘘だろ!? ラスボスクラスのくせに、急に──』
「──
人影が、呟いた。
「そして、
その手に握る剣の重みなど感じていないかのように、片手で軽々と振るいながら。
「──意思を、計りに来た」
「……
……は?
勇者って、あの?
……えー。
勇者
・相手に絶対負けない能力
・すべての種族に対する特攻能力
・1ターンの間に4回行動できる
・相手よりも高いステータスになる
・すべての攻撃がクリティカルになる
・自身に作用するデバフを全無効化する
・技量も超一流、基本的に攻撃は回避不能
・なにがあろうとも絶対死にたどりつかない
・????