「──不幸がさっちゃんに訪れる兆しが見えたのである!」
さっちゃん言うな。
──我が家に時々遊びに来るフェリアが連れてきた少女が、俺にそういった。それも邂逅一番にである。
「あ、さっちゃん良いね。私も今度からそう呼ばせてもらお……うぐぐぐ、ソアラにセンスで負けるとは……。フェリアちゃんの長い人生における一番の失態だよ」
「お前も隠さなくなったなぁー……」
最初のころなど、年齢について考えると睨んできたくせに。
煉瓦さんと出会った例の一件が終わってから、2週間経った。その期間は何もなく、平和な毎日を過ごしている。とはいえ、この発言……厄ネタのどきついにおいに顔をしかめつつ、俺はコップに注いでいた麦茶を飲んだ。
「……ぐふっ、ごっ!?」
「地味な不幸がっ!?」
「私の占いはよく当たるのだ。その私が不幸を占った……あれ、これこの場にいる私も不幸に巻き込まれるとかあるであるか? 逃げていい?」
「あははー。占った本人が逃げるなんて許さないよ」
「ぬぐっ!? フェリアやめろ首が締まるうぐぐぐぐ!」
「……あー、落ち着いた」
単純にむせただけだ。別に、不幸が訪れたとかそういうわけではないと思う。
「それでフェリア……その子は?」
「む? 何者か、と問うかこの私に! よかろう! ならば刮目してみるがよいである!」
少女はふふん、と腕を組んで、
「──魔王軍元幹部、ソアラ・グレインフォードである!」
椅子の上に立ち、指を高く掲げたのだった。
「行儀が悪いぞ」
「これは失礼なのだ! 日本にはとんと来たことがなくてだな。マナーもよくわかっていないのだ」
「日本じゃなくても椅子の上に立つのは良くないんじゃないのか?」
「む? そうなのか? 魔王様はよく玉座の上に立ってぶっこわしてたけど」
「マジかよ魔王様……」
まぁ、あの戦闘狂勇者と親しいんだからそのくらいぶっとんでいるのが当然と思ったほうがいいか。
俺の中の魔王像がどんどん壊れていく……。
「さっちゃんは魔王様と会ったことはないのであるか?」
「ああ、ないな。……というか、そっちの業界の人間とはあんまり会ったことはない。あとさっちゃん言うな」
仙人になりかけという、一般人と言って良いのかわからない人とは会ったが、あの人は一応一般人である。
あったことがあるといえば親友と両親、ゾラにあとは勇者にフェリア、ソアラと、実は裏の社会の知り合いは少なかったりするのだ。
「それは結構意外であるな。魔法少女と言うと魔王様はいつも会いに行くし、さっちゃんのことも結構気になってたっぽいし。んー……まぁ、そのうちアクションはあるのではないか?」
「それはそれで嫌だけどな。あとさっちゃん言うな」
お茶を一口。
「んごふっ!?」
「またむせた。やっぱり私の占いはよくあたるのだ」
「当たってほしくなかったけどね。あーあ、今日はさっちゃんのお洋服を買いにいく予定だったのに……やめといた方がいいかなぁ」
「さっちゃん言うな」
でも、たしかに2回連続でむせるとはなかなかないことである。ひょっとすると、本当に今日は不幸な日なのかもしれない。
厄ネタだ……。2週間休んで魔力は万全だが、あんまり戦いたくないものである。
いや、でもそう簡単に戦いがほいほい起こることってあるか……?
それに、この間買った服では足りないし。そして自分のセンスは自信がないから、せめて頼れる女子が一緒にいる時に行きたいものだ。
「……よし、こうなったら」
俺はスマホを取り出した。そしてラインを開き、あるグループに投下する。
ステラ:『お母さんに任せなさい』
パパン:『お父さんもついてっていい?』
パパン:『すまない、俺の力が足りないばっかりに……!』
ステラ:『じゃあ私は行きますね』
パパン:『一応何かあったら連絡しろよー』
パパン:『お父さん国1つ更地にくらいできるから』
「……父さんには絶対協力をお願いしないでおこう」
とはいえ、母親になにかあったら飛んでくるんだろうなぁとは思う。
空間を。
「どーしたの?」
「ん、いや、せっかく来てくれたし今日服買いにいこう」
「でも危ないよ?」
「だから母さんを呼んだ」
と言うと、フェリアが虚をつかれたような顔になった。
「母さんって、あの?」
「俺の母さんが他にいると思うか? ……っと、もう来たのか」
インターホンが鳴って、扉が開く。そこに立っていたのは予想通り母さんだ。
「久しぶり、サキちゃん」
「久しぶり、母さん」
この体になってからは初めて会う。母さんは、こちらの姿を見て、
「サキちゃんったらかわいくなったんだから。それで……ソアラちゃん来てるんだっけ?」
「うん。あとフェリア」
「中々のビックネームね……お母さん、息子の人脈にびっくりなのですよ……」
「なんだよそれ。というか、母さんも有名人のくせになに言ってんだ」
母さんを連れて、リビングに戻る。
「久しぶりですー!」
「久しぶりなのだ!」
「あれ、面識あったんだ」
「サキちゃんの中の子を封印するときにね。そういえば、始まりの術式はどうなの? あの子は合意でサキちゃんの中に入ったらしいし、あんまり心配はしてないけど……」
「ああ、メルは、──出てこい」
『──ぉん』
呼び出すと、俺の胸の中から小さなサイズのメルが飛び出した。手に乗せてやると、そのまま腕を登って頭に座り込んだ。俺の頭はちっちゃいから、少し重い。
「こんな感じで。……まぁ、仲良くやってるよ」
『──おん!』
「猫乗りさっちゃん……幼女……ぐっ……これがkawaiiってやつですか……!」
「落ち着くのだフェリア。頭に乗せてるのはメルゴノアークである。あのメルゴノアークである」
「ふ……ふふふ……知ってる? ソアラ」
フェリアはこちらを指差し、
「かわいいに!! そんなことはどうでもよいのだぁ──!!」
「ふふ、わかってるじゃないフェリア!」
「ステラさん……! わかってくれるんですか……!」
「ええ。そういえば知ってる? あの子が零時くんのことずーっと親友って呼んでる理由。あれ、名前呼びが恥ずかしいからなのよ。絶対親友のほうが恥ずかしいのにねぇ」
「──んなっ……!」
なんで知ってるんだ!?
一応、これは親友にしか言ったことがない。でも親友は俺の味方のはずだ。あのとき、ちゃんと口止めしたから言うわけがない!
「ふふふ、そもそも私の前でもずっと親友呼びしてる時点で悟られるのは当然なのよね……」
「す、ステラさん! 他にはなにかないんですか!?」
「だぁ──!? やめろ馬鹿!? 母さんは絶対長々と騙るから……!」
「たっくさんあるわよ!!」
「母さ──ん!?」
そうだ、メルなら俺の恥ずかしい話を秘匿してくれるはずだ。視線を持ち上げ、こちらを覗き込んでくるメルにお願いする。体は離れていても、一心同体の身である。言わんとすることはわかったはずだ。
メルはこくりと頷いて、フェリアの肩に乗った。
『──ぉん』
「メルぅ!?」
そして続きを促したのだった。
まずい。ひょっとすると、俺のあれもバラされるかもしれない。ていうかたぶんバラされる……! なんとか母さんの口を止めないと……!
「実はねぇ……サキちゃん、昔から体が細くてね。始まりの術式を封印した影響なんだろうけど、──はっきり言うと、女の子みたいな見た目だったの」
「男の娘ってやつですか。たしかに、始まりの術式って基本的に女性面が強いですよね」
『──ぉん』
「……かわいかった、って、褒め言葉じゃないんだよメル……! 俺の中にいたならわかるだろ!? 俺がどんだけ嫌だったか!」
『──ぉん』
封印されててよくわからなかった、と。
「いや待てお前裏のほうの情報秘匿してたって聞いたぞ」
『……ぉん?』
そんなこともあったなぁ……って白々しいぞお前。
「まあ、そんなだったからね。ずっと、ずーっとね」
「ばッ……やめろって母さん! わりとマジで!」
「あの子──男の子にばっかり告白されてたの」
秘匿は破られた。
「だから普通に接してくれた零時くんの事を親友って言ってるのよねー」
「なるほど……それはなんとかわいらしい……」
「いっそ殺せぇ……」
「まぁ、親としては零時くんみたいな子が友達でよかったと思ってるけど」
信じられる? と言って、
「あの子ね、サキちゃんのためにこっちに足を踏み入れたのよ」
「……え?」
なんだ、それ。
初耳の事実に、びっくりした。
「ほら、サキちゃんって、この子……メルちゃんを封印してたからね。隠そうとしても、事実は変わらないし。だから、結構狙われてたの。メルちゃんがいくら秘匿していたって言っても、術をかける前からバレてたら意味ないし……それに、封印されてたから本来の力を発揮できなかっただろうし」
「……ああ、狙われてたっていうのは、零時さんが有名になったあの一件ですね。……ひょっとして、あのときまでは一般人だったんですか?」
「そうね。正真正銘、ただの一般人だったわ」
「才能の差を感じるのだ……」
混じってんじゃねぇよ占い師。
と、言いたいがこの話は自分も気になるため、言わないでおく。
「零時くんのすごいところってね、サキちゃんみたいに血統とかみたいな事情がない、真正の一般人が、神話の時代から生きてた最初の血族を倒しちゃったところなのよね。あれを倒すのは、私達も厳しいのに」
「私なんかが戦ったら絶対負けますね。さっちゃんとか、フレンとかはたぶん倒せると思うけど……そっか。そう言われるとたしかに……それに零時くんの武器って、不完全なベルトですよね。すごいなぁ」
「私もびっくりである。まあフェリアと違って私は勝てるが。フェリアとは違って」
「喧嘩売ってるの? へそ出しメガネ」
「私にいつも勝てないくせにやる気と自尊心だけは一丁前であるな!」
「喧嘩すんなよ……。で、それってどれだけすごいの?」
最初の血族、と言われてもよくわからない。でも最初の──と言うからには、俺の先祖だったりするのかな。
神話の時代とか言われても、ピンとこないものだ
「えーっとね、ぶっちゃけると格としてはフレン級。神代回帰がないかわりに触られたら死ぬフレンって言ったらわかりやすいかな」
「死ぬわ!?」
こちとら神代回帰をぶんどっても本気を出した勇者に手も足も出なかったんだし。メルに力を借りれば一応なんとか……と言ったところだし。でも万全の勇者だったら絶対負けている。
むしろ勝てないとは言わないソアラとか、母さんとかのほうが恐ろしい。多分戦ったら完敗する。
というか、俺のためにそんなやつとまで戦ってたのか……。
「……うふふ」
「べ、別になにもないからぁ!? ありがたいなーって思ったくらいなんだからな!?」
「何も言ってないわよ」
「すごく……すごく青春エネルギーを感じます……自分がおばさんになったような……うっ」
「フェリアがおばさんなら私もおばさんになるのであるが。やめろよそういうの……やめろよ」
──このあと、俺が無理やり話を中断するまで、俺の過去暴露は続いたのだった。
ソアラ
元魔王軍幹部。戦闘能力で言えば低いが殺傷能力で言えば勇者の次に優秀。
若干ロリ。
最初の血族
神話の時代から生きる一番最初の血族。
その戦闘力は高く、同時に逃げに躊躇をしない性格から勇者ですら討伐はできなかった。
メルゴノアークを手に入れ、術式の成り立ちに触れることで自らが神になりかわろうとしていた。
だが彼の企みはただの人間であった零時の手により、彼そのものごと滅ぼされたのであった。
零時のベルト
彼の扱う変身ベルトは不完全なものであり、他のベルトよりも力の劣る、変身にだって制限時間のあるベルトだった。
だがいくつもの修羅場を超え、零時が成長していくにつれ、ベルトはどんどん力を増していった。まるで使用者に応えようとするかのように。